大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山簡易裁判所 昭和27年(ハ)68号 判決 1962年7月16日

原告 秋山宗一

被告 貴志美広

主文

被告は原告に対し別紙第一目録記載の土地上にある建物、板塀等の工作物を収去して同土地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金八万円の担保を供するときは仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告は、昭和二六年一一月二一日訴外滝波艶、同茂樹、同正樹等から同人所有の、和歌山市吉田一七七番地の一〇、宅地三四坪(仮換地三九坪一合二勺)他一筆の土地を買受けた。右土地の範囲は別紙図面イホヘニイ点を結ぶ部分である。しかるに右土地の隣地(同所同番地の一一)所有者である被告は、原告の買受けた土地の一部(別紙目録記載の土地、以下本件係争部分という)に建物板塀等の工作物を設置し、同部分を不法に占有している。よつて被告に対し右工作物の収去並に同土地の明渡を求める、とのべた。

<立証省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告請求原因事実中、原告がその主張の土地を買受たこと、被告がその隣地の所有者であること、及び原告主張の部分に被告が工作物を設置し、同所を占有している事実はいずれも認める。しかし原告が右係争部分をも買受けたとの主張事実はこれを否認する。原告が右土地を買受けた際は、すでに被告所有の右板塀は設置されていたものであつて、原告は右板塀より西側部分(別紙ロホヘハロ点を結ぶ部分)を買受けたに過ぎない。なお被告は昭和二七年一月一一日訴外滝波艶等から右板塀より東側即ち本件係争部分を買受けたから現在同部分は被告の所有である。従つて原告の本訴請求は理由がない、とのべた。<立証省略>

理由

一、原告が、昭和二六年一一月二一日訴外滝波艶外二名から、和歌山市吉田一七七番地の一〇宅地三四坪(仮換地三九坪一合二勺)を買受け所有していること、右同所同番地の一一宅地二三八坪(仮換地一三九坪八合)が被告の所有であること、及び原告主張の本件係争部分(別紙図面イロハニイ点を結び部分)に被告が建物、板塀等の工作物を設置し、同部分を占有していることは当事者間に争いがない。

二、被告は右係争部分は原告において買受けたものでないと主張するのでこの点につき判断する。

成立に争いのない甲第一乃至第三号証、第四号証の一及び二、第五及び第六号証、第一〇号証の一乃至六、並びに証人日下部禎二(第一回)同秋山長一(第一乃至第三回)同田中良一(第一及び第二回)及び同吉見春雄の証言を綜合すると、つぎの事実を認定することができる。和歌山市吉田一七七番地の一、畑一反三畝二七歩(現況宅地)は訴外滝波艶ほか二名の所有であつたが、和歌山特別都市計画復興土地区劃整理事業に基き、右土地に対し一括して同所七七ブロツク三八九坪三合が換地予定地として指定された。そして右土地はその後昭和二四年五月頃分筆され、同所一七七番地の一、六、七、八、九及び同一〇宅地三四坪、同一一宅地二三八坪の七筆となつた。そして被告はその頃右分筆された同番地の一一宅地二三八坪を前記訴外人から買受け、当時右分筆された他の土地を買受けた訴外東繁児、同橋尾由二並びに残地所有者訴外滝波艶等と協議して、前記一括指定された換地予定地上における各自の使用部分を協定した。そして原告は、昭和二六年一一月二一日訴外滝波艶他二名から当時同人等が所有していた右分筆にかゝる同所同番地の一〇宅地三四坪を買受けた。そして右分筆されたその余の土地もその後更に分筆譲渡され、昭和三一年二月、当時の所有者であつた原告、被告、その他四名の者等によつて、前記分筆を理由とし、土地区劃整理事業施行者に対し換地予定地分割願が提出された。右分割願は、原、被告関係部分についてみると、前記使用部分についての協定の内容にほゞ一致するものであるところ、昭和三三年一月二一日施行者から右各所有者に対し右申請どおりの換地予定地指定変更決定がなされた。以上認定に反する証拠はない。

そして、一筆の土地について土地区劃整理事業による換地予定地が一括指定された後、右土地が分筆されそれぞれ他に譲渡されたときは、同分筆にかゝる土地所有権とゝもに右換地予定地上の使用収益権も移転し、特に右分筆を理由とする換地予定地指定変更決定がなされなくても、右所有者の協議によつて同予定地上の使用部分を定めることができ、又このようにして各自の使用部分が定められた以上、当該権利者は、同部分を専用することができると共に、右分筆にかゝる所有権を更に他に譲渡すれば、右協議により定められた部分の使用収益権も共に譲渡される関係にあるものと解すべきところ、本件に於ては、前記認定のように、分筆後の所有者である被告及び訴外滝波艶等によつて、右換地予定地上の使用部分に関する協議が成立し、その後原告が右滝波艶等から、右分筆にかゝる土地の譲渡を受けたというのであるから、原告は、前記協議により定められた換地予定地上の使用収益権をも取得したものというべきであり、被告は前記協議に加わつた当事者としてその効果を否認することはできないものといわねばならない。しかも、本件に於ては原、被告の土地についてみれば、右協議の内容とほぼ一致する換地予定地指定変更決定がなされていることは前記認定のとおりである。そして右変更決定の基礎となつた前記換地予定地指定分割願には被告の氏名は記載されているが、捺印のないものであるが、被告は同書面の成立を認めている上、その申請内容はほゞ前記協議の結果と一致するものであつて、同申請が被告の意思に基かないものとみることはできない。すると右変更決定は有効であつて原告及び被告は、同決定によつて定められた各自の換地予定地を排他的に使用収益することができるものといわねばならない。

そして成立に争いのない甲第一〇号証の一乃至三及び証人吉見春雄の証言を綜合すると、右換地予定地指定変更決定は、新な換地予定地として原告の土地(同所同番地の一〇)に対しては別紙図面イホヘニイ点を結ぶ部分三九坪一合二勺の土地を、被告の土地(同所同番地の一一)に対しては別紙図面イトチリニイ点を結ぶ部分の土地をそれぞれ指定していることが明らかであつて、従つて本件係争部分は、原告の前記土地に対する換地予定地として指定された部分の一部であることが明らかである。

三、被告は、原告が前記土地を買受けた際、右係争部分を除外して買受けたものであると主張するが、右主張に沿う証人大堀信一、同長岡秀一(第一及び第三回)、同西谷元一郎、同滝波正樹(第一及び第二回)及び被告本人尋問の結果は、いずれも措信できずその他右事実を認定するに足る証拠はない。むしろ成立に争いのない甲第一及び第二号証並びに証人日下部禎二(第一回)同秋山長一(第一乃至第三回)、同田中良一(第一及び第二回)の証言を綜合すると、右売買は、被告、訴外滝波艶等間で成立した前記換地予定地上の使用部分に関する協議の結果を記載した書面を示し、売買の目的となつている所有権について、換地予定地上の如何なる部分に使用収益権があるかを指示し、しかも右使用部分について隣地所有者の承認があることを明らかにしてなされたものであつて、その際、右売買にかかる所有権についての換地予定地上の使用部分を一部売主において留保したり或は隣地所有者との間に従前の協議を変更し、新に協定された使用部分について取引が行われたものでないことが明らかである。すると右売買は、前記分筆にかゝる和歌山市吉田一七七番地の一〇宅地三四坪全部及び同土地に対する換地予定地上の使用収益権全部を対象として締結されたものと解するのが相当である。この際、右協議により定められた使用部分の一部に右売買当時被告所有の建物、板塀等が設置されていたことは前記認定のとおりであるが、売買の目的となるべき土地の一部を当時第三者が何等の権原なく占有していたからといつて、直ちに同契約の目的物の範囲から除外されたもの即ち同部分は売買契約の対象にならなかつたものと解すべきでなく、特に同部分を除外する意思が明らかでない以上、同部分も含めて契約が締結されたものとみるのが相当である。そして本件に於ては、特に右被告が占有していた部分を除外して契約が締結されたものと認めるに足る事実の立証のないことは前記のとおりである。

四、被告はまた、右係争部分を昭和二七年一月一一日訴外滝波艶等から買受けたから現在被告の所有であると主張するが、前記認定のように原告は訴外滝波艶等から前記一七七番地の一〇の土地全部、従つて同土地についての換地予定地上の使用収益部分全部を買受けたことが明らかであり、しかも右売買契約が成立した昭和二六年末までには右土地についての所有権移転登記手続が完了していることが証人秋山長一の証言(第三回)によつて明らかであるから、たとえその後被告が訴外滝波艶等から前記係争部分を買受ける旨の契約をしてもすでに無権利者となつたものとの売買契約であつて、これによつて同部分の所有権が被告に移転するいわれはない。

五、すると被告の右三及び四記載の主張はいずれも理由がなく、その他前記換地指定地変更決定の効力を覆すに足る主張立証はない。

すると原告所有の土地に対する換地予定地として指定された部分の一部である本件係争部分に建物、板塀等を設置している被告はこれを収去し、同部分を原告に明渡す義務あるものといわねばならない。

すると原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上孝一)

別紙

目録

一、和歌山市吉田一七七番地の一〇

宅地 三四坪(仮換地三九坪一合二勺)

右土地のうち東部 約八坪七合五勺

(但し別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、イ点を結ぶ部分)

別紙

和歌山市吉田一七七番地(仮換地大新地区七七ブロツク)

図<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例