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大分地方裁判所 平成2年(ワ)351号 判決 1993年4月22日

原告

秦雅晴

被告

高木末義

主文

一  被告は、原告に対し、一二二万七五〇〇円及びうち一一一万七五〇〇円に対する昭和六三年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一〇分し、その九を原告の、その一を被告の負担とする。

四  第一項は、仮に執行することができる。ただし、被告が三〇万円の担保を供するときは、同仮執行を免れることができる。

事実

一  原告の請求

被告は、原告に対し、九三四万九七九三円及びうち八四九万九七九三円に対する昭和六三年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  事案の概要

本件は、後記交通事故のため受傷した原告が、加害者である被告に対し、原告が被つた損害の賠償を請求する事案である。

三  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

日時 昭和六三年八月二五日午後七時一五分ごろ

場所 大分市古国府七組南大分分団消防ポンプ格納庫先

加害車両 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 被告

被害車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告

事故態様 右場所において、被告車が原告車に追突した。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車を保有していた(自賠法三条)。

四  争点(因果関係と損害)に関する原告の主張

1  治療期間と因果関係

原告は、本件事故により、頸椎捻挫、頸肩腕症候群、右下胸部打撲傷及び根性坐骨神経痛の傷害を受け、その治療のため、次のとおり入通院した。

昭和六三年八月二六日~二八日 日野医院に通院

同年同月二九日~平成元年三月三一日 同病院入院

平成元年四月一日~同月二七日 同医院通院

同年八月二日 大分整形外科医院通院

同年同月一七日 同医院入院

2  治療費 一〇五万九三七〇円

ただし、被告からてん補を受けた治療費八四万一一七〇円を除く。

3  入院雑費 二一万六〇〇〇円

原告の入院二一六日分の雑費は、一日当たり一〇〇〇円の二一万六〇〇〇円である。

4  入通院慰謝料 二〇〇万円

原告は、本件事故により、入院二一六日、実日数の二九日の通院をし、自宅療養を含めた全治療期間は、昭和六三年八月二五日から平成二年一月一八日までの五一二日間であり、その慰謝料は二〇〇万円が相当である。

5  休業損害 六五二万四四二三円

本件事故当時の原告の月収は三八万七六〇〇円相当であり、原告が就労できなかつた五一二日間の損害は六五二万四四二三円である。

6  てん補分 一三〇万円(前記治療費てん補分を除く。)

7  弁護士費用 八五万円

8  よつて、原告は、被告に対し、弁護士費用を除く未てん補損害額九三四万九七九三円及びこれから弁護士費用を引いた八四九万九七九三円に対する本件事故日の昭和六三年八月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  争点に関する被告の主張

原告の長期入通院は、左記理由により、その全部が本件事故と相当因果関係があるわけではない。

1  因果関係

原告は、昭和六〇年九月一七日、高さ約五メートルの所から転落し(以下「本件労災」という。)、腰部痛(外傷性腰痛症)、頸部痛等の傷病名の治療のため、同日から同年九月二四日まで小倉大手町病院に入院し、翌二五日から昭和六一年二月二八日まで日野医院に入院した既住症があり、右外傷性腰痛の症状は、原告が本件事故による傷害と主張している根性座骨神経痛の症状と同じで、右既住症は、原告本件事故による傷害と主張している頸肩腕症候群の原因ともなつており、また、本件事故態様から、原告が頸椎捻挫と右下胸部打撲傷を受傷することはありえないこと等を考慮すれば、本件事故による傷害と本件事故との因果関係はない。

2  治療日数について

仮にそうでないとしても、原告の症状は最大限七か月内には治癒すべきものであり、長期入院の原因は本件事故と無関係の腰椎椎間板ヘルニアに起因し、同ヘルニアが本件事故と因果関係があるとしても、本件事故の寄与率は二〇パーセントである。

3  したがつて、原告の損害は、治療費七五万四八〇三円、入院雑費三万円(一日当たり一〇〇〇円の三〇日分)、入通院慰謝料一〇〇万円、休業損害一〇〇万六二〇〇円、以下合計二七九万一〇〇三円に、本件事故の寄与率二〇パーセントを乗じた五五万八二〇〇円となるところ、原告は、被告から合計二一四万一一七〇円のてん補を受けているから、過払の状況にある。

六  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録目録記載のとおり。

理由

一  事故態様

証拠(乙一の1ないし5、11、原告)によれば、以下のとおり認められる。

1  原告車の動き

原告は、原告車を運転して時速約三五ないし四〇キロメートルで進行中、先行車が横断歩道の手前で横断歩行者を横断させるべく停止したのに応じ、ゆつくりブレーキをかけて、本件事故現場付近に原告車を停止させた直後、自車後部に被告車前部が追突する本件事故が発生し、原告車は二・六メートル前方まで押し出された。

2  被告車の動き

被告は、被告車を運転して、原告車の後方を時速三五キロメートルで追従していたが、原告車の後方一二・一メートルの地点で、考えごとのため脇見し、時速約三〇キロメートルに減速して漫然と進行したため、被告の五・七メートル前方に原告車が停止していたのに気付き、危険を感じて急ブレーキをかけたが及ばず、被告車前部を原告車後部に追突させる本件事故を発生させた。

二  本件受傷による治療期間と因果関係について

1  証拠(甲一~四、乙一の6ないし8、五の5・9・10、日野出、原告)によれば、以下のとおり認められる。

原告(昭和二四年一二月二三日生)は、本件事故により、頸椎捻挫、頸肩腕症候群、右下胸部打撲傷の傷害(以下「本件受傷」という。)を受け、その治療のため、次のとおり入通院した。

昭和六三年八月二六日~二八日 日野医院に通院(実日数三日)

同年同月二九日~平成元年三月三一日 同医院に入院(日数二一六日)

同年四月一日~同年同月二七日 同医院に通院(実日数一六日)

原告は、根性坐骨神経痛も本件事故による傷病であり、かつ、同神経痛による平成元年八月二日の大分整形外科医院への通院及び同月一七日の同医院での入院(乙六の1ないし6)も本件事故と因果関係があると主張するが、証人日野出及び鑑定人松本悟の証言に照らし採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  争点に関する被告の主張1について

証拠(乙五の1・4・7・8、九の1ないし5、原告)によれば、原告は、昭和六〇年九月一七日、工事中、高さ約五メートルの所から転落した本件労災にあい、外傷性頸部症候群、腰部打撲症の傷病名で、小倉大手町病院に同日から同月二四日まで入院し(乙九の1ないし5)、前記日野医院に同月二五日から昭和六一年二月二八日まで外傷性腰痛症の傷病名で入院、同年三月三日から治癒とされた同年五月三一日まで通院したこと(乙五の1・4・8)が認められるが、鑑定人松本悟の鑑定結果によれば、本件労災による傷害は治癒したものと認められ、また、乙四(技術士林洋の平成元年七月一七日付け東京海上火災保険株式会社あて「鑑定書」)には、本件受傷は本件事故からは起こりえない旨記載されているが、右1掲記の証拠並びに鑑定人松本悟の鑑定結果及び同人の証言に照らし採用できず、争点に関する被告の主張1は失当である。

3  争点に関する被告の主張2について

鑑定人松本悟の鑑定結果及び同人の証言によれば、同人は、原告の日野医院における入院治療は不要であり、右入院の原因は、座骨神経痛及び腰痛によるものであり、同症状は本件事故と無関係の腰椎椎間板ヘルニアによる可能性が否定できず、右ヘルニアの発現に対する本件事故の寄与率は二〇パーセント(ただし、前後一〇パーセントの誤差はありうる。)であること、右ヘルニアが合併して本件事故による治療が必要であつたとしても、せいぜい一か月の入院とそれに引き続く三ないし六か月の通院で十分であつたと判断しているが、同人は、同時に、日野医院での二一六日間の入院中の原告の症状は、本件受傷による症状と必ずしも矛盾しない旨、証人日野出も、原告には右入院中、右ヘルニアの治療もしているが、この治療のためだけの入院ではなかつた旨各証言していることをも合わせ考慮すれば、原告の日野医院への前記入通院は、五〇パーセントの限度で本件事故と相当因果関係があると認めるのが相当である。

三  損害額

1  治療費 一九〇万〇五四〇円

被告の主張を総合すれば、被告からてん補を受けた治療費分八四万一一七〇円を含め、原告が日野医院における治療費として計一九〇万〇五四〇円を負担したことは、被告も争わない趣旨と認められる。

2  入院雑費 二一万六〇〇〇円

前記認定のとおり、原告の入院期間は二一六日であり、一日当たり雑費は一〇〇〇円が相当であるから、小計二一万六〇〇〇円となる。

3  入通院慰謝料 一三〇万円

本件受傷の内容、入通院期間等の慰謝料としては一三〇万円が相当である。

4  休業損害 三一〇万〇八〇〇円

前記認定の事実及び証拠(原告)によれば、原告は本件事故当時(昭和六三年八月二五日)、大工をしていたが、本件事故日から日野医院への退院日の平成元年三月三一日までの全部と通院最終日の同年四月二七日までのうち、ほとんどは就業できなかつたと認められるから、原告は、本件事故日から八か月間の範囲で休業損害を請求できるものというべきである。

さらに、甲五を合わせれば、原告は、昭和六三年一月一日から同年八月二五日まで四一七万七二三九円の所得を得ていたことが認められるから、原告の昭和六三年分の年収は、原告主張の月収三八万七六〇〇円(年収は四六五万一二〇〇円)を下らなかつたものと推認される。以上をもとに、原告の八か月分の休業損害を算定すると、三一〇万〇八〇〇円となる。

(計算は、4,651,200円÷12×8=3,100,800円)

5  割合的認定とてん補

前記二、3に説示のとおり、原告の本件事故による日野医院への入通院で本件事故と相当因果関係が認められる割合は五〇パーセントであるから、右2ないし4の損害額合計六五一万七三四〇円に〇・五を乗ずると三二五万八六七〇円となり、これから、当事者間に争いがないてん補額二一四万一一七〇円を差し引くと、弁護士費用を除く未てん補損害額は、一一一万七五〇〇円となる。

6  弁護士費用 一一万円

以上認定の事実によれば、弁護士費用としては一一万円が相当である。

7  よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、一二二万七五〇〇円及びこれから弁護士費用を引いた一一一万七五〇〇円に対する本件事故日の昭和六三年八月二五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を命じる限度で理由がある。

(裁判官 簑田孝行)

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