大分地方裁判所 平成20年(わ)234号 判決 2009年3月27日
主文
被告人を懲役10月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金20万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成19年1月1日から平成20年3月31日までの間,大分県教育庁教育審議監として,同庁事務職員である同庁義務教育課参事の任用に関し,任命権者である同県教育委員会に対して推薦を行う同委員会教育長を補佐し,同年4月1日付けの同委員会事務局幹部職員定期人事異動における同庁義務教育課義務教育指導班参事(総括)兼学力向上支援班参事(総括)等の人事異動案の作成等の職務に従事していたものであるが,同年3月25日ころ,大分市内の被告人方において,同県佐伯市立Z小学校校長兼同中学校校長であったAから,同人が前記定期人事異動において前記義務教育指導班参事(総括)兼学力向上支援班参事(総括)に任用されることが確定し,同月22日,同県教育委員会教育長から,その旨の内示を受けたことにつき有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼として供与されるものであることを知りながら,百貨店商品券2000円券100枚(合計20万円相当)の供与を受け,もって自己の職務に関し賄賂を収受した。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1 争点
被告人は,Aから20万円相当の百貨店商品券(以下「商品券」という。)を受け取ったが,Aの参事任用について有利かつ便宜な取り計らいをしたことはなく,謝礼としてもらったものではないと供述し,これを受けて弁護人は,Aが被告人に贈った商品券はそもそも賄賂の趣旨によるものではなく,仮に賄賂の趣旨によるものであったとしても,被告人には賄賂性の認識がなかったとして,被告人の無罪を主張している。
したがって,本件の争点は,Aが商品券を贈った趣旨及び被告人の賄賂性の認識の有無である。
2 前提事実
関係各証拠によれば以下の事実を認めることができる。
・※ 当事者の地位
被告人は,平成19年1月から大分県教育庁教育審議監の地位にある者である。
Aは,同年4月1日から平成20年3月31日まで,同県佐伯市立Z小学校校長兼同中学校校長の地位にあり,同年4月1日付けで,同県教育庁事務職員に任命され,義務教育課義務教育指導班参事(総括)兼学力向上支援班参事(総括)に補された者である。
・※ 被告人の権限について
大分県教育庁義務教育課参事を含め教育委員会の事務局に置かれた事務職員人事に関しては,教育長の推薦により,教育委員会が任命することとされており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律19条7項),教育審議監は,教育長を補佐し,教育長が別に定めるところにより教育庁の事務を処理するとされている(大分県教育委員会行政組織規則17条2項)。
教育庁職員の人事に関する事務は,総務課の分掌事務となっていたが,実務上,教育庁各課の教員等の専門職種に関する人事は,担当課長,又はその課を担当する教育審議監等が人選を行い,教育長,教育審議監2名及び総務課長が協議を行った上で,教育長が推薦する者を決定するのが通例となっていた。
・※ 参事選任に至るまでの事実経過
ア 平成19年9月ころ,B教育長は,平成20年度の人事異動に関し,教員出身者が着任する幹部職員のポストのうち,所属長以外については,義務教育分野は被告人に,高校教育分野はC審議監に候補者の人選を一任するので人事異動案を作成するよう指示し,義務教育課指導班参事の候補者の人選については,義務教育課等を担当する教育審議監である被告人に一任されることとなった。
なお,B教育長は,被告人に対し,義務教育課指導班参事の人選について,教育庁内部からではなく,各学校の校長又は教頭から人選するよう指示していた。
イ 被告人は,若手の校長を参事とするのが望ましいと思い,当時最年少校長であったA外1名を候補者として考え,当時義務教育課人事班課長補佐であったDに対し,Aを参事の候補者として考えている旨伝えて,人物評価を尋ねたところ,Dは,Aは指導班の参事には適任であるが,強引なところもあるなどと答えた。
ウ 同年10月14日,Aが,妻であるEらと一緒にDの自宅を訪れた際,Dは,Aに対し,若手の校長から義務教育課指導班の参事を選考するとの話が出ており,Aの名前が候補者として挙がっていることを告げた。
エ 同月中旬ころ,平成19年度初めに全国の小中学生の学力定着状況を調査するために実施された「全国学力・学習状況調査」という試験の結果が発表され,大分県の成績が悪かったことから,指導班を強化することが内部で検討されるようになった。
オ 同年11月初旬ころ,被告人は,Aの地元の教育委員会である佐伯市教育委員会を訪問し,F教育長に対し,Aを義務教育課の参事に考えていることを伝えるとともに同人の人物評価を聞いた。F教育長は他の人物を推薦しつつも反対はしなかったので,被告人は,Aを教育庁に異動させることについて一応の了解が得られたものと考えた。
カ 同月21日,Aは,「道の駅かまえ」において,ひ扇貝とサザエ(推定3000円相当)を購入して被告人方に配送を依頼し,同月22日ころ,被告人方に配送された。
キ 同月22日,被告人は,佐伯市で行われた校長会に来賓として出席した。被告人の付き添いとして同行していたDは,校長会の会場において,Aに対し,被告人がAを参事とすることをF教育長に打診しに行ったことを伝えた。
ク 数日後,Dは,Aに対し,被告人がAを参事にすることに関し,意思確認と人物評価のために佐伯に行くので,ホテルを手配しておくよう連絡した。また,Dは,自分がAに人事のことを教えたことが分かると被告人を不快にさせるおそれがあると考え,Aに対し,参事の候補者となっていると聞いたことは言わないように伝えた。
ケ 同月26日,Aは,料亭Yに1人7000円のコース料理の予約を3名分入れるとともに,被告人及びDの宿泊先としてホテルXに予約を入れた。同月29日,Aは,同ホテルの2人分の宿泊代金1万7510円を支払った。
コ 同月30日,被告人及びDは,仕事が終了してからDの自動車で佐伯市に向かい,午後7時ころ,ホテルXでAと合流し,タクシーで料亭Yに向かった。タクシー代はAが支払った。
サ 料亭Yにおいて,被告人は,Aに対し,同人を義務教育課指導班の参事とすることを考えていると伝え,意向を確認した。3名分の飲食代金2万4700円は,Aがすべて支払った。
シ 同年12月上旬ころ,学力向上のための対策を行う班を新設することとなり,学力向上支援班の参事は指導班参事が兼務することとなった。
なお,遅くともこのころまでには,B教育長は,被告人に対し,義務教育課指導班参事には「マネージメント能力のあるリーダーシップのとれる人,熱意のあるバイタリティーのある人,若い人,積極的に誰に対してもものを言える人」などの条件を満たした人を選ぶことなどを指示していた。
ス 同月10日ころ,Aは,被告人に対し,5000円程度のサーモンや数の子の詰め合わせをお歳暮として贈った。
セ 平成20年2月上旬から3月中旬にかけて,B教育長,被告人,C審議監及び総務課長の4者で,数回にわたり人事異動案についての内部協議が行われた。義務教育課指導班参事兼学力向上支援班参事については,同年2月上旬ころ,被告人の異動案のとおり,Aとすることが了承された。
ソ 同年2月中旬ころ,被告人は,佐伯市教育委員会の教育長室を訪れ,F教育長に対し,Aを教育庁本庁に異動させることについて了承を得た。
タ 同月11日ころ,被告人は,Aに電話をし,「ほぼ参事で決まりだから,学校内の引継ぎをきちんとしておくように」などと伝えた。
チ 同年3月19日,大分県教育委員会3月定例会が開催され,B教育長が,前記内部協議等を経て作成された平成20年4月1日付け「大分県教育委員会事務局 幹部職員人事異動案」に基づいて行政職課長級以上の人事を教育委員会に推薦し,承認を受けた。
・※ 内示から商品券授受に至るまでの経緯
ア 同年3月22日,Aは,教育庁本庁でB教育長から義務教育課指導班参事兼学力向上支援班参事に補するとの内示を受けた。その後,Aは,Dから,被告人のところにお礼のあいさつに行ったかと尋ねられ,失念していたので,審議監室に行ったが,既に被告人は帰宅していた。
イ 同月23日,Aは,ホテルWでDらと食事をした際,Dに対し,被告人宅を訪問したいので,被告人との調整をお願いしたいと依頼し,翌24日,Dは,被告人に対し,Aの意向を伝えた。被告人はこれを了承し,AとDが同月25日夕方に被告人宅を訪問することとなった。
ウ 同月25日,Aは,百貨店V本店で,お菓子と20万円相当の商品券を購入した。商品券は,2000円券が50枚綴られた10万円綴り2冊で,桐箱に入れられており,「御礼 A」と記載された熨斗で包装されていた。
エ 同日午後7時ころ,Aは,Dの案内で被告人宅を訪問した。親戚の不幸があったDは,玄関先で同席できないことを断って辞去した。被告人は,Aと2人で,仏壇のある部屋で,被告人が用意しておいた寿司を食べながら,義務教育課の仕事のことなどを話した。Aは,話が終わって部屋を出るときに,被告人に対し,お菓子と商品券が入った百貨店Vの紙袋を渡した。
オ 被告人は,Aが帰宅してから,Aから受け取った紙袋をリビングに持って行き,妻と一緒に中身を確認したところ,お菓子と20万円分の商品券が入っていた。
カ 同月26日ころ,被告人は,Aに対し,商品券等をもらったことのお礼の電話をした。
キ 同月末又は同年4月上旬ころ,Aは,G義務教育課課長の自宅に1万円相当の車エビを送った。
3 商品券を贈った趣旨について
・※ Aの供述
平成19年10月14日,Dから大分県の学力が低いので新しい部署を作ることになり,そこの部署の中に私の名前も挙がっているという話を聞いた。親が80歳を過ぎているのでどうかなという気持ちもあったが,ありがたいことだ,なれるのであればなりたいと思った。同年11月20日ころ,Dから被告人が佐伯のF教育長と自分の人事の話をしてくれているとの話を聞いた。被告人が私のことで尽力してくれているので,同月21日ころ,被告人宅宛てに,三,四千円程度のひ扇貝の詰め合わせを贈った。同月22日,佐伯での校長会に被告人とDが出席したが,そのときにもDから被告人がF教育長に打診しているという話を聞いた。
その後,被告人が意思確認のために佐伯市を訪れるとの連絡がDからあり,同月30日,被告人及びDと私の3人で,佐伯市にある料亭Yという店で食事をした。被告人から「義務教育課の参事に考えているんだがどうかな」と尋ねられた。被告人の前では人事の話は何も聞いていないふりをするようにとDから注意されていたので,「教育事務所の次長の話かなと思いました」,「参事ではちょっと荷が重すぎる。自分で務まるか自信がない」などと話したが,最終的には自信がありませんが頑張ってみますと答えた。実際にも,高齢の親を残して単身赴任することになるし,本庁に勤務するのは初めてなので,不安があったことは事実であるが,頑張ってやってみたいという気持ちもあり,その気持ちは表現したし,自分の意思は被告人にも伝わっていると思う。引き受けることができるかどうか分からないというような,中途半端な答え方はしていない。被告人は,Dにいろいろ教えてもらって頑張ればいいと言っていた。私のためにわざわざ佐伯まで来ていただいたのに支払ってもらうのは失礼だし,もてなす気持ちもあったので,料亭Yでの食事代,被告人とDのホテル代,タクシー代は,すべて私が支払った。
被告人に対しては,定期的にお中元やお歳暮等を贈っていたわけではなかったが,Dを通じていろんな話があったのを知ったので,同年12月,四,五千円程度のお歳暮を贈ったところ,被告人からお礼の葉書が来た。
平成20年2月11日ころ,被告人から電話があり,参事という方向で決まりつつあるので学校の引継ぎ等を考えておくようにと言われたが,最後まで分からないという気持ちもあった。同年3月20日ころに,内示をするから来るようにとの連絡があったとき,これでもう決まったと思い,被告人とDにはお礼をしようと思った。被告人に対しては,田舎から県の中枢に引き上げてもらい大変お世話になったという気持ちと,初めて県の本部に勤めるので今後の指導をお願いしたいという気持ちから,失礼のないように自宅を訪問してきちんとごあいさつをして,10万円か20万円の商品券を贈ろうと思った。
内示を受けた同月22日に被告人のところにあいさつをするのを失念したので,同月23日ころ,Dに対し,被告人の自宅に訪問する日程の調整を依頼した。私のために佐伯まで来るなどしてもらっていたので,自宅を訪問して丁寧にごあいさつをしようと思っていた。
同月25日の昼ころ,百貨店V本店へ商品券を買いに行った。これまで,異動先の上司や同僚に対して,1万円から2万円程度の品物を送ったことはあるが,被告人に対しては,私のことを引き上げるために尽力してもらったという感謝の気持ちがあったので,その程度のものでは足りないと思い,出せる範囲の金額で20万円の商品券を贈ることに決めた。
同日,被告人宅を訪問し,被告人に対し,「この度はお世話になりました。よろしくお願いします」とあいさつをした。被告人は,「そんなに緊張しなくていい。分からないところがあったらDに聞いて一緒に頑張ってくれ」と言い,その後,義務教育課内の職員の様子や仕事について詳しく話をしてくれた。帰り際に,もう一度,「本当にお世話になりました。よろしくご指導ください」と訪問したときと同じことを繰り返し言い,仏様の隣に置いていたお菓子と商品券の入った紙袋について,「お菓子です。食べてください」と言って置いて帰った。被告人に対して商品券を贈ったのは,佐伯のへき地の離島の小中学校長であった自分を県の中枢に引き上げてくれたことに対するお礼の気持ちと,義務教育課内の人のつながりや仕事の内容を教えてもらいたい,今後私が進めることになる施策を後押ししてほしいという気持ちからである。
訪問した次の日かその次の日に,被告人から電話で,わざわざ遠いところ,遅くまですまなかったなというお礼があり,そのことを妻にメールで連絡した。
・※ 検討
ア Aは,他の者に対する贈賄でも起訴され,公判係属中であるところ,前記証言をしたのは検察官の論告前であり,観念的には,重い求刑を恐れて検察官に迎合し,その意に添う供述をするおそれがないとはいえないが,被告人に対する贈賄でも起訴されているところ,自らの罪を増やすまでして敢えて虚偽の事実を述べ被告人を罪に陥れようとするとは到底考え難い。Aは,公判廷において,被告人に対する気持ちを「私の軽率な行為から,恩をあだで返すようになってから大変申し訳ないと思っています。本当に申し訳ありません」などと述べているが,それがAの偽らざる心境であることは,その供述態度などからも十分にうかがうことができる。
そして,単なる異動のあいさつだけではなく,お礼の趣旨も含まれているとの点は,商品券を入れた桐箱に「御礼 A」と記載された熨斗がかけられていること(甲11),Aの平成20年のスケジュール帳に「3/25(火)審議官宅に御礼へ」との記載がなされていること(甲27),Eの日記の3月25日の欄にも「A大分へ,Dさんに会い,夕方~審議官宅お礼訪問」と記載されていること(甲26・資料9)などの事実によって裏付けられている。異動先の上司や同僚に対して,1万円から2万円程度の品物を贈ったことはあるが,被告人に対しては,私のことを引き上げるために尽力してもらったという感謝の気持ちがあったので,その程度のものでは足りないと思ったとの説明も,被告人と同じくAの上司となるG課長には1万円程度の車エビを贈っているのに,被告人に対しては20万円相当の商品券とはるかに高額なものを贈った理由として合理的である。
また,参事となることを希望していたとの点については,Aは,「指導主事をしていたこともあり,行政職の方が自分に向いていると思っていました」,「子どもたちの学力を向上させるための施策を行っている本庁の義務教育課指導班の実質的な責任者である参事になれば,私が目指していた学力向上のための教育行政を思いっきり行うことができると思いました」などと述べており,その内容は十分合理的である。しかも,実際にAが参事となることを強く希望していたことは,Dが,Aが喜ぶだろうと思って参事としてAの名前が挙がっていることを告げると,Aは興奮が抑えられない感じで,満面の笑みを浮かべていたと述べていること,Eも,Dから候補として名前が挙がっていると聞いて,異例の人事の話にAと盛り上がったと述べ,平成19年10月14日の日記に「A本庁参事の話が出て,あまりのことにたまがる。帰宅してもその話で二人盛り上がる」と書き記していること,同年11月22日,Aは,Eに対し,「Dさんが審議官と一緒に来ました。Fさんに私の件は話したと。」,「かなりヤバイが,審議官には今日サザエとひ扇貝が届くようにしてます。マッライバルは多いが」などと記載したメールを送っていること,同月30日に被告人とDが佐伯市までAの意思確認に訪れた際に,被告人とDの宿泊代,食事代及びタクシー代をAが支払っていることなどの事実からも十分に推認できるところである。
被告人が参事任用のために尽力してくれたと思っていたという点についても,Dが,Aには,参事になる件に関しては被告人の気持ち一つだということを再三言っていたと述べていること,被告人が審議監という教育長に次ぐ地位にあり,参事に関する人事を実質的に決定する権限を有していたこと,Aは,Dから被告人がF教育長のところにAを参事にすることを打診に行ったと聞いていたこと,Aの意思確認に佐伯まで来たのも被告人であること,被告人がAを参事とすることがほぼ内定したと電話で連絡してきたことなどの事情に照らし,極めて自然である。
さらに,時期的にもAが被告人に商品券を供与したのがAが参事任用の内示を受けた直後であること,他にAが被告人に対して20万円もの商品券を供与する理由もうかがわれないことからすると,Aが,被告人に対し,参事となるために尽力してくれたことに対するお礼の趣旨で商品券を供与したことが十分推認できる。
以上に加え,Aの供述は,Dから参事の候補者として名前が挙がっていることを告げられてから被告人に対して商品券を供与するまでの経緯につき,心情を交えつつ,前記前提事実やD及びEの供述等とも特段矛盾することなく,具体的かつ合理的に説明しているのであるから,その信用性は高いというべきである。
イ そして,被告人は,佐伯市のF教育長を訪問してAを教育庁に異動させることを打診し,自ら佐伯市を訪れてAに対して意思確認をした上で,Aを義務教育課参事として推薦するなどしており,Aは希望していた参事の地位に就くことができたのであるから,Aが参事の内示を受けるために被告人が尽力したことは明らかであり,かつ,Aは,このような被告人の尽力に対するお礼として商品券を供与したのであるから,本件商品券は,Aが参事の内示を受けたことにつき有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼として被告人に供与されたものと認めることができる。
ウ これに対し,弁護人は,①Aは,他の者に贈賄を行った事案と異なり,商品券を渡すことについて妻と相談していない一方で,メールや日記に被告人宅を訪問したことを記載しているが,これは賄賂の趣旨で商品券を贈ったのではないからである,②Aは参事となることについて不安を持っており,参事になりたいという強い希望も持っていなかったのであるから,参事推薦のお礼を渡すというのは不自然である,③被告人は,Aの意向とは関係なく,B教育長の方針に従い,通常の手続に従って人事を決定しているので,被告人がAに便宜を供与したことはないから,Aが被告人にお礼をする理由がない,④Aは,捜査段階では,今後お願いしますという趣旨で商品券を贈ったと供述しており,供述が変遷しているなどとして,Aの供述は信用できないと主張している。
しかしながら,①の点については,商品券を渡すことを妻と相談するかどうかは贈与が賄賂の趣旨でなされたかどうかとは直接関連性がない。Aは,被告人の自宅にお礼に行くことをスケジュール帳に記載し,「審議官から過分のお礼をありがとうございました。と電話がありました。」とのメールを妻に送るなどしているが,いずれも他人に見せることを予定しているものではない。しかも,Aは,本件商品券の贈与につき,お礼の趣旨であることを認めつつ,こちらから参事としてもらうようにお願いしたのではないので,良くないことだとは思っていたが,贈賄罪に当たるとまでは思っていなかったと述べているのであるから,スケジュール帳等にこの程度の記載があったとしても,特段不自然というわけではない。
②の点については,新しい職場での仕事に対して不安を抱くということは,希望する職場への異動であるかどうかにかかわらず通常あり得ることであるから,Aが参事となることについて不安を持っていたということも,参事となることを希望していたことと矛盾する事実ではない上,Aが参事となることを強く希望していたことは,前述のとおり,優に推認できるところである。
③の点については,被告人は,Aが望む方向で人事を進めており,Aも,そのことを認識し,そのお礼として被告人に商品券を贈ったのであるから,被告人から有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼であったことは明らかである。AがB教育長の方針に沿う適任者であったか否かは,便宜供与の有無とは直接関連がなく,弁護人の主張は失当である。
④の点についても,Aは,一番はじめの事情聴取の際には,自分を引き上げてくれたことに対するお礼の趣旨である旨述べ,その後,一旦はお礼の趣旨であることを否定し,今後お願いしますという趣旨であったと述べていたことがうかがわれるが,Aは,この点につき,これ以上自分の罪が増えることに対する恐怖と自分の軽率な行為で被告人を巻き込んでしまっては申し訳ないと思ったのでそのように供述したと合理的に説明しているのであるから,一旦はお礼の趣旨であることを否定していたとの事情は,Aの供述の信用性を左右するものではない。
弁護人の主張はいずれも採用することができない。
4 賄賂性の認識の有無について
・※ Aが被告人に商品券を渡したのは,Aが参事に任用される旨の内示を受けた直後であるから,そのことに対するお礼の趣旨を含むものと考えるのが自然である。商品券の額を考慮しなければ,異動後,被告人が上司となる上,初めての職場であることから,被告人の指導や支援を期待して,あいさつの趣旨で贈ってきたと受け止める余地もあろうが,そのようなあいさつだけの品としては20万円相当の商品券は明らかに高額にすぎる。
しかも,Aは,被告人の自宅を訪問した際に「この度はお世話になりました」と感謝の念を述べ,被告人宅から辞去する際にも「本当にお世話になりました」などと述べて商品券等の入った紙袋を渡しており,商品券の入った桐箱にかけられた熨斗には「御礼 A」と記載されていたのであるから,商品券贈与の趣旨が被告人に対するお礼の趣旨であることは,被告人も容易に認識し得る状況にあったといえる。
また,被告人は,料亭YでAと直接面談して,Aを参事とすることを考えている旨伝えて参事になるかどうかの意思確認をし,参事としてほぼ内定した旨の電話をAにしている上,審議監という教育長に次ぐナンバー2の地位にあって,実質的に参事となる者を決定する権限を有し,一般の教育関係者からみても,人事異動について強い影響力を有していると考えられる立場にあったのであるから,Aが参事になることができたのは被告人の尽力のお陰であると考えるであろうことは,被告人も容易に想像できることである。Aは,料亭Yにおいて不安であるとは述べてはいるが,話を持ち帰って家族等と相談することもなく,結局は食事をしている間に参事となることについて承諾し,被告人及びDの分も含めて料亭Yでの食事代を支払い,前払いしていた被告人とDの宿泊代の支払いも請求せず,その後,被告人に対して,必ずしも毎年贈っているわけではないのにお歳暮を贈ったというのであるから,被告人が参事の候補者として自分のことを考えてくれたことに対して,Aが感謝し,参事の職に対して意欲を示していることは,被告人としても十分うかがい知ることができた状況にあったといえる。仮に被告人がAを参事の候補者としたいとの話が同人の意に添わない話であると思っていたのであれば,その後,Aの意向を再確認することもなく,同人を参事とする方向で話を進めたことにもそぐわない。
これらの事情からすると,被告人は,本件商品券贈与の趣旨が,Aを参事にするために被告人が尽力してくれたことに対するお礼の意味を含むものと認識していたものと推認することができ,賄賂性の認識を未必的にも有していなかったとは到底考え難い。
・※ もっとも,Aは,料亭Yで被告人と会った際に,「参事ではちょっと荷が重すぎる。自分で務まるか自信がない」などと参事となることについて不安な気持ちもある旨述べているところ,このような発言は,Aが参事になることに積極的ではないと捉えることも可能ではある。しかしながら,Aがその後も参事となることを躊躇し続けたというのであればともかく,前述のとおり,Aはその場で参事となることを内諾しているところ,Aは,やる気は被告人に伝わっていると思うと述べ,Dも,Aが謙遜しすぎるので話の方向を変えると,Aが「力の限り頑張ります」などと言っていた旨述べていること,被告人とDの食事代や宿泊代をAが負担し,その後,被告人は,Aの意向を再確認することなくAを参事とする方向で手続を進めるなど,A及び被告人の行動は,むしろAは参事となることを意欲し,被告人もその意欲を認識していたと考えるのが自然であることからすると,料亭Yでの会合が終了した時点でも,被告人がAの意欲を認識していなかったとは考えにくい。しかも,前述のとおり,時期や額を考慮すれば,Aが商品券を贈ってきた趣旨には参事の内示を受けたことについてのお礼の趣旨を含むものと考えるのが自然であるから,料亭Yにおける意向確認の際や被告人の自宅を訪れた際にAが参事となることについて不安である旨の発言をしていたからといって,参事の内示を受けたことに対するお礼であることに思いが至らなかったとは到底考え難い。
弁護人は,校長から参事への異動は,給料が下がるなど昇進とはいえないことも,Aが参事になることを希望していると被告人が認識できなかったことの根拠の一つとして指摘している。確かに,義務教育課指導班参事は校長又は教頭の人がなるポストではあるが,従前は教頭からなるのが通例であったことは関係者の供述が一致しているところであるし,C審議監も,校長から参事になると基本給が下がるので抜擢人事とは思えない,現場の校長を迎え入れる場合は課長クラスの所属長の役職に就けるのが妥当だと供述している。
しかしながら,校長と参事では格としては同格であるし,基本給が下がるのも行政職給料表が適用されることになることによるものであって,同じ表の中でランクが下がるというわけではない。教育庁の参事は,県内の教育行政全体を担当し,各学校を指導する立場になること,義務教育課指導班参事は,大分県内の学校の学力向上が課題となっていた状況において要となる役職であること,Aが参事というポストは県下に一つしかないので田舎の校長よりも下になることはないと思う旨述べているところも十分合理的であることからすると,昇進と呼ぶかどうかは別にして,参事となることを栄転と捉えることは十分あり得るところである。そして,Dは,Aが喜ぶだろうと思って参事の候補者に挙がっていることを教えたと述べていること,Eは,Dから参事の候補者として名前が挙がっていることを聞いたとき,妻としてAが参事に昇任できるということは大変嬉しく思いましたと述べ,さらにその場にいた教員も「すごいじゃないですか」と言っていたと述べていることなどからすると,むしろ,栄転として受け取るのが一般的であると認められる。
被告人に関しても,C審議監から「よく,校長から参事に持ってきましたねえ」などと尋ねられると,「高校も持ってきてるじゃないか」と答え,これに対しC審議監が「うちは課長ですよ」と応じると,被告人は「学力向上という大事なところだから,学校現場の校長を持ってきたんですよ」と答えていたというのであるから,C審議監と認識を共通にしていた節はうかがわれない。また,被告人が,Aの人事を栄転でないと考えているのであれば,料亭Yでの食事代や当日の宿泊代をAに支払わせたままにしておくとも考えにくい。
また,弁護人は,Aが参事に内定したことに対するお礼であると明言していないので,被告人がAと会うために時間をとってくれたことや新しい職場の様子等について話をしてくれたこと,寿司をごちそうしてくれたことなどに対するお礼と考え得る状況であったとも主張しているが,いずれも20万円相当の商品券を贈る理由として想定し得るものではない。
その他,弁護人は,①被告人はB教育長の方針に従い,通常の手続に乗っ取って適任者を選任しただけなので,自分のところに人事異動のお礼を持ってくるとは考えられなかった,②被告人は,人事に関する最終決定権者ではないので,自分に対して人事異動のお礼を持ってくると想定することはできない,③金品の授受が秘匿的になされたものではなく,普通に手土産を受け取る場合と同様の態様で行われていることは賄賂性の認識の不存在を認定する根拠となるなどと主張している。
しかしながら,①の点については,Aを参事として採用することがB教育長の方針に従っているかどうか,通常の手続に従っているかどうかは,そもそもAの知るところではない上,既に述べた事実経過にかんがみれば,Aを参事にするために被告人が尽力したことをAが認識していたであろうことは被告人にも十分認識し得る状況にあったのであるから,Aがお礼を持ってくるとは考えられなかったというのは強弁にすぎるというべきである。また,②の点については,最終の決定権者でないことが人事について影響力がないことを意味するものではなく,実際にも,被告人は,義務教育課の参事を誰にするかの人選を教育長から任されていたのであるから,弁護人の主張は失当である。③の点については,周囲に人がいる状況であれば,普通に手土産を渡すような態様で金品を渡したことが賄賂性の認識を否定する方向に働くことはあり得るが,本件では,Aは,わざわざ被告人の自宅を訪ねて商品券を渡しているのであるから,金銭の授受が秘匿的な態様ではないとの弁護人の主張は前提を欠くというべきである。
・※ 被告人の供述
ア 被告人は,公判廷において,概ね以下のとおり供述している。
B教育長から,義務教育課指導班参事については,現場をよく知っている校長又は教頭であること,教職員を取りまとめるマネージメント能力があること,自分の考えを貫くことのできるリーダーシップがあること,意欲と情熱,バイタリティーがあることが選任の条件であるとの方針が示されていた。若くてバイタリティーのある校長経験者から選ぶのがいいと考えたが,平成17年度か平成18年度に佐伯のU小学校の研究会を視察したときに,Aがリーダーとして中心的な役割を果たし,意欲や情熱もすばらしいという印象があったので,候補者として考えた。Aと同世代の校長がもう一名いたが,行政経験が乏しいのでAの方が適任であるとも考えていた。DにAの人物評価について聞くと,教職員を指導する力はあるが,やや強引なところがあるので評価は分かれるということであったが,そのくらい強引な者の方がいいと考えた。
直接会って,教職員をまとめるマネージメント能力や自分の思いを貫き通すリーダーシップなどが本当にあるのかどうかということを確認したかったので,平成19年11月30日,Dと一緒に佐伯市に行き,飲食店でAに会って話をした。その際,Aは,「教育事務所の次長とか,本庁でも主幹クラスのところかと思いました」,「参事は不安で荷が重い」などと消極的で煮え切らない態度だった。本庁の勤務経験がないので不安なのかなと思ったが,U小学校での実績からすると,周りの指導を受けながらやっていけば何とかなるだろうと思い,Aの不安を取り除くために「一人でやるんではないから」などと説得した。Aは,はいやりますというような積極的な返事はしなかったが,最終的には「よろしくお願いします」と言ったので,参事として本庁に異動することについて,一応は了解してくれたと思った。食事代については,支払おうとすると,Aから,先ほどトイレに行ったときにもう払いましたからと言われ,ホテルの代金も支払おうとすると,ホテルの人から前日に支払いを受けておりますと言われたので,甘えてしまった。
平成20年3月24日,Dから,Aが自宅にお伺いしたいと言っているとの話があり,内示があった当日に審議監室にあいさつに来なかったのであいさつに来たいのかなと思い,同月25日に自宅で会うことを了承した。
同月25日午後7時ころ,Aが自宅に来た。玄関先で,Aが「先日審議監室にあいさつに行けなくて失礼しました」とあいさつしたので,そんなことはどうでもいいからと言って,座敷に上がってもらい,用意していた寿司を食べながら話をした。Aから,参事になりましたのでよろしくお願いしますというようなあいさつはあったと思うが,参事になったことに対するお礼や感謝の気持ちととれるような発言はなかった。Aは,料亭Yのときと同じように,不安だとか,自信がないというような話をしていたので,G課長やH主幹と相談しながら問題を解決していけばいいといったような話をした。Aは,帰るときに,持ってきた紙袋を仏壇の前に置きながら,「つまらないものですけども,よろしく」などと言って部屋を出た。Aは,あいさつに来たので,儀礼的にお菓子を持ってきたのかなと思った。帰るときに,4月からお世話になりますのでよろしくお願いしますとかいうようなことは言っていたが,お世話になりましたというような発言は記憶にない。
Aが帰って5分から10分くらい経ってから,紙袋の中身を確認すると,20万円の商品券が入っていた。高額だったので,新しい職場に対する不安の大きさとか,自信のなさが現れているものなんだろうな,私に対して強力なバックアップをしてくださいよというような意味があるんだろうなと思った。教育庁には人事異動の際に商品券を贈るという慣例があるとも聞き及んでいたので異動のあいさつの品だと思った。参事になるに当たって,私にお世話になったことに対するお礼の気持ちが含まれているとは思わなかった。
イ 被告人は,Aが商品券を贈ってきた趣旨について,あいさつの品であり,高額であるのは不安な気持ちの表れであると思ったなどと述べているが,異動先の上司に対するあいさつの品として20万円の商品券を贈るというのは明らかに常識的ではなく,少なくともそのような趣旨であるとしか思い浮かばなかったというのはそのこと自体不自然である。被告人は,教育庁では,人事異動がなされるごとにあいさつとして商品券等を異動先に贈る慣例があるとも聞き及んでいたと述べているが,具体性のある話ではない上,仮にそのような慣例があったとしても,経緯や額に照らし,お礼の趣旨に思い至らなかったということが不自然であることに変わりはない。弁護人は,Aが頻繁に贈り物をする人物だったことを異動のあいさつであると受け取ったとしても不自然でないことの理由として指摘している。しかしながら,DはAの金銭感覚が通常とは違うという話を被告人にしたことはないと述べており,その他Aであれば異動のあいさつとしてこのくらいの金品を贈ってくるだろうとの認識を被告人が持っていたことをうかがわせる事情はない。
また,商品券の入った桐箱に「御礼 A」と記載された熨斗がかけられているが,相当大きな文字で「御礼」と記載されているので,これに気付かなかったとは到底考えられず,このような熨斗がかけられているのに,何らかのお礼の趣旨が含まれているとは全く考えなかったというのも不自然である。
さらに,被告人は,Aが被告人の自宅を訪れた際,Aからお世話になりましたというような発言を聞いた記憶がないと述べているが,先に認定した事実経過に照らすと,Aが全くお礼を述べずに帰宅したとは到底考えられない。
料亭Yでのやりとりについても,被告人の供述を前提とすれば,Aは最後まで消極的な発言に終始していたということになるが,意欲と情熱,バイタリティーのある人などというB教育長の方針に叶った人物かどうかを見極めるために,料亭YでAと会ったと述べているのに,消極的な発言に終始するAを,そのまま参事の候補として推薦したというのも不自然である。被告人は,U小学校での研究会を視察した際に,Aには意欲や情熱があるとの印象を持っていたからなどと説明しているが,捜査段階では,管理職の一覧表を見て,当時最年少校長であったAともう一名の校長を候補にどうかと考えたが,2人の能力や人間性等は全く分からない状態だったと述べていることと明らかに矛盾しているし,その他に,料亭YでのAの言動からなぜAが参事の候補者として相応しいと判断したのか納得のいく説明もない。
以上に加え,平成20年7月17日に実施された被告人宅の捜索の際に押収されたメモには,「Aからの金券対応について」との記載に続けて,「①認める」「②認めない」との二つの選択肢が記載され,更に認める場合として「換金」又は「家に置いていた」との二つの選択肢が記載されている。認めない場合についても「もらっていない」と「返却した」との選択肢が記載されている。また,「自分自身の立件について」との記載に続けて,「×入るための工作」「課に入ってから以後よろしく」「×何とか入るために」「異動後の謝礼挨拶」などと記載され,「異動後の謝礼挨拶」との記載のうち「謝礼」の2文字は2本線で抹消されている。このメモが,Aの逮捕後,対応を検討するために被告人自身が書いたメモであることは被告人も認めているところ,被告人が本当にAからもらった商品券は異動のあいさつの品であると思っていたのであれば,いろいろな弁解を考えて取捨選択を検討するというのは不自然である。
したがって,被告人の供述を信用することはできない。
5 結論
以上によれば,Aが被告人に商品券を贈った趣旨には,参事の内示を受けたことについて被告人から有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の意味が含まれており,被告人は,その趣旨を認識しつつ商品券を受け取ったものと優に認定することができ,商品券の賄賂性及び被告人の賄賂性の認識に欠けるところはない。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,大分県教育庁審議監である被告人が,同県内の小中学校の校長であったAから,同人が同教育庁の参事に任用される旨の内示を受けることができたことの謝礼として20万円相当の商品券の供与を受けたという収賄の事案である。
当該商品券は,被告人方を訪ねたAが,菓子も一緒に入った百貨店の紙袋を「お菓子です。食べてください」と言って置いていったものであるが,既に詳しく述べたとおり,被告人は,賄賂性を認識しながら,返却を申し出ることもなくそのまま収めており,規範意識の鈍麻は否定し難い。しかも,被告人は,大分県教育庁において教育長に次ぐ審議監という地位にあり,そのような者が同庁幹部職員の人事に関して賄賂を収受したというのであるから,社会が受けた衝撃は大きく,県の教育行政に対する信頼を著しく失墜させたといわざるを得ない。にもかかわらず,被告人は,公判廷においても縷々不合理な弁解を述べ,自己保身に終始しているのであって,反省の態度は全くうかがわれない。
以上に照らすと,被告人の刑事責任は重い。
もっとも,20万円相当という商品券の額は,社会的にみると決して少額ではないものの,収賄額としては高額とまではいえず,被告人が,積極的に賄賂の供与を要求したものでもないなど,犯情において酌むべき点も認められるので,被告人に対しては,主文の刑を科した上,その執行を猶予することとするが,被告人にはその刑事責任の重さを真しに受け止めていただきたい。なお,収受した賄賂については,その価額を追徴する。
(求刑 懲役10月及び追徴20万円)
(裁判長裁判官 宮本孝文 裁判官 中島崇 裁判官 大黒淳子)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>