大分地方裁判所 平成21年(行ウ)15号 判決 2011年1月17日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
a県税事務所長が原告に対して平成21年5月13日付けで行った別紙物件目録記載の土地について課税標準額を530万1000円,税額を15万9000円とする平成21年度不動産取得税賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告の養親であった亡Aが,原告の養子であるB及びその妻であり原告の長女であるCに対してした遺贈に関し,原告が遺留分減殺請求権を行使した上でB及びCを被告として提起した訴訟について,原告とB及びCとの間で,Bが原告に対し,上記減殺請求に係る価額弁償として,その弁済に代えてB所有の土地を代物弁済することなどを内容とする和解が成立し,原告が上記土地を取得したところ,この土地取得について,a県税事務所長(以下「処分行政庁」という。)が原告に対して不動産取得税の賦課決定処分をしたため,原告が,同処分の取消しを求めた事案である。
1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる。
(1) 原告は亡Aの養子であり,Bは原告の養子である。Cは,原告の長女であり,Bの配偶者である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告は,亡Aがその所有する不動産(以下「本件遺贈不動産」という。)をB及びCに遺贈したことから,平成12年11月23日,遺留分減殺請求権を行使し,その後,上記両名を被告として,本件遺贈不動産についての原告の持分につき所有権一部移転登記手続をすることを求めて訴えを提起した(熊本地方裁判所阿蘇支部平成16年(ワ)第4号事件)(甲4,弁論の全趣旨)。
(3) 上記訴訟において,平成20年3月17日,原告とB及びCとの間で,Bが原告に対し,遺留分減殺請求に係る価額弁償として,その弁済に代えてB所有の山林(以下「本件価額弁償不動産」という。)等を譲り渡し,同譲渡につき代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をすることなどを内容とする和解が成立し,同日,原告に対する所有権移転登記手続がなされた(甲4,弁論の全趣旨)。
(4) 処分行政庁は,a県税条例36条の2第1項に基づき,原告に対して,平成21年5月13日付けで,本件価額弁償不動産のうち,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について,課税標準額を530万1000円,平成21年度不動産取得税の税額を15万9000円とする賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。
(5) 原告は,平成21年6月29日,上記不動産取得税15万9000円を納付した。
(6) 原告は,本件処分を不服として,平成21年7月10日付けでa県知事に対して審査請求をしたが,同年10月26日,a県知事は,本件土地は,原告がBから代物弁済により取得したものであって,亡Aの相続財産ではなく,本件土地の取得は地方税法73条の7第1号に規定する相続による不動産の取得として非課税となるものではないとして,同審査請求を棄却した。
(7) 原告は,平成21年12月23日,本件訴えを提起した。
2 争点及びこれに対する当事者の主たる主張
本件土地の取得が地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」に当たり,非課税となるか。
(原告の主張)
(1) 本件土地は亡Aの相続財産ではないが,原告は,本件遺贈不動産の持分を遺留分減殺請求権の目的として,本件遺贈不動産の受贈者であるB及びCに対して同不動産の所有権一部移転登記手続を求めたものであり,Bは,同不動産の現物返還に代わる価額弁償として本件土地を含む本件価額弁償不動産の代物弁済をしたものであって,本件土地の取得の実体は相続なのであるから,地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」に当たり,非課税となる。
(2) 不動産取得税は,不動産を取得したものはこれを取得するに至った原資を取得していることから課しているものであり,相続のように原資が純増していないものについては,実質課税の原則から,法は非課税としている。そうすると,価額弁償の代物弁済として取得した不動産も原資に純増があったとはいえないから,相続による取得として非課税とされるべきである。
(3) 本件の実体は,価額弁償という形で,いわば第二の遺産分割協議をしたものであるから,最高裁昭和62年1月22日第一小法廷判決・集民150号65頁に従って,非課税とされるべきである。
(被告の主張)
遺留分権利者が遺留分減殺請求をすることにより,減殺請求の対象不動産は当然に遺留分権利者に帰属することになるが,受遺者が価額弁償を行った場合には,遺贈の効力は遡及的に復活し,上記不動産が受遺者に譲渡されたという事実には何ら変動がないこととなる(最高裁平成4年11月16日第一小法廷判決)。本件で,原告は,遺留分減殺請求をすることによりいったんは本件遺贈不動産を取得したが,Bが原告に対して価額弁償として本件価額弁償不動産を譲渡したことにより,本件遺贈不動産はBに遺贈されたことになり,他方で,原告は,価額弁償に代わる代物弁済によって本件土地を取得したものであるから,本件土地の取得は地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」に当たらず,非課税とはならない。
第3当裁判所の判断
1 地方税法73条の2第1項は,「不動産取得税は,不動産の取得に対し,当該不動産所在の道府県において,当該不動産の取得者に課する。」と規定するところ,不動産取得税は,いわゆる流通税に属し,不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであって,不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することにより得られるであろう利益に着目して課せられるものではないことに照らすと,同項にいう課税対象たる「不動産の取得」とは,所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものと解するのが相当である(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1333頁参照)。
したがって,原告は,前提事実(3)のとおり,遺留分減殺請求に係る価額弁償として,代物弁済という所有権移転の形式により本件土地を取得したのであるから,本件土地の取得は地方税法73条の2第1項の「不動産の取得」に当たる。
2 もっとも,地方税法73条の7第1号は,「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」を非課税としているところ,同号は,相続による所有権の移転は単に形式的に行われるに過ぎず,所有権の主体は実質的には変更がないものと解されることから,これを非課税にしたものと解される。
これを本件についてみると,原告による本件土地の取得は,原告とBとの間の代物弁済の合意により本件土地所有権の主体を実質的に変更するものであり,非課税とされるべき所有権主体の実質的な変更を伴わない形式的な所有権の移転とはいえないから,本件土地の取得は,地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」には当たらない。
3 これに対して,原告は,価額弁償の代物弁済による不動産の取得の実体は相続であるし,不動産取得税の課税根拠は不動産取得の原資増加にあり,地方税法73条の7第1号が相続による不動産の取得を非課税としているのは,そこに原資の増加が認められないからであるところ,価額弁償の代物弁済による不動産の取得も原資の増加が認められないから,本件土地の取得は地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」に当たると主張する。
しかし,地方税法73条の2第1項及び同法73条の7第1号の立法趣旨は前判示のとおりであって,本件土地の取得が同号の非課税対象となるか否かは,本件土地が相続財産に属するか否かによって決せられることになるから,原告の上記主張は採用できない。
その他,原告は,本件土地の取得が地方税法73条の7第1号の「相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)による不動産の取得」に当たる旨るる主張するが,いずれも独自の見解に基づくものであり,また,原告が引用する判例(最高裁昭和62年1月22日第一小法廷判決・集民150号65頁)は,当該取得不動産が相続財産である点において事案を異にするものであって,原告の主張はいずれも採用できない。
4 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 児玉禎治 裁判官 佐藤智彦)
※別紙「物件目録」添付省略