大分地方裁判所 平成24年(ワ)69号 判決 2013年9月26日
主文
1 本件訴えのうち,原告Aと被告らとの間で,原告Aが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えを却下する。
2 本件訴えのうち,原告Bと被告らとの間で,原告Bが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えを却下する。
3 本件訴えのうち,原告Cと被告らとの間で,原告Cが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えを却下する。
4 本件訴えのうち,原告Dと被告らとの間で,原告Dが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えを却下する。
5 本件訴えのうち,原告Eと被告らとの間で,原告Eが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えを却下する。
6 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(1) 原告Aと被告らとの間で,原告Aが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める。
(2) 原告Bと被告らとの間で,原告Bが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める。
(3) 原告Cと被告らとの間で,原告Cが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める。
(4) 原告Dと被告らとの間で,原告Dが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める。
(5) 原告Eと被告らとの間で,原告Eが大分市有害鳥獣捕獲班員の地位にあることの確認を求める。
2(1) 被告らは,原告Aに対し,連帯して100万円を支払え。
(2) 被告らは,原告Bに対し,連帯して100万円を支払え。
(3) 被告らは,原告Cに対し,連帯して100万円を支払え。
(4) 被告らは,原告Dに対し,連帯して100万円を支払え。
(5) 被告らは,原告Eに対し,連帯して100万円を支払え。
第2事案の概要
本件は,大分市有害鳥獣捕獲班員(以下「捕獲班員」という。)の認定を受けていた原告らが,その捕獲班員の認定を取り消されたことから(以下「本件取消し」という。),被告らに対して,捕獲班員の地位にあることの確認を求め(前記第1,1),さらに,本件取消しに関わった被告大分市(以下「被告市」という。)及び被告大分市猟友会に対しては,本件取消しが同被告らの債務不履行及び不法行為に当たるとして,被告一般社団法人大分県猟友会(以下「被告大分県猟友会」という。)に対しては,被告大分市猟友会が被告大分県猟友会傘下の支部組織であることなどから,被告大分市猟友会の上記債務不履行責任及び不法行為責任についても連帯して責任を負うものとして,被告らに対し,本件取消しによって被った精神的損害相当額100万円を連帯して賠償するよう求めた(前記1,2)事案である。
1 前提事実
(1) 当事者等
ア 被告大分県猟友会及び被告大分市猟友会
被告大分県猟友会は,狩猟知識の普及,狩猟道徳の向上を通じて,有益鳥獣の保護,鳥獣資源の確保及び狩猟の発達を図ることを目的とする一般社団法人である(甲1及び弁論の全趣旨)。
被告大分市猟友会は,被告大分県猟友会の支部組織であり,権利能力なき社団である(当事者間に争いのない事実)。
イ 被告市
(ア) 被告市は,地方自治法252条の17の2第1項及び大分県事務処理の特例に関する条例2条1項,同別表第1・項目25・1に基づいて,平成12年4月1日以降,鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護法」という。)9条1項に定める鳥獣の捕獲に関する許可及び同法10条に定める前記許可の取消し等の権限を有し,事務を処理するものである(乙1)(別紙「法令等」記載1参照)。
(イ) 被告市の代表者である大分市長(以下「市長」という。)は,大分市有害鳥獣捕獲等許可事務取扱要領(以下「本件事務取扱要領」という。)に基づき,大分県事務処理の特例に関する条例に係る鳥獣保護法9条1項の規定に係る事務を行っている(乙2。なお,本件事務取扱要領については,後記(2)記載のとおりである。)。
ウ 原告ら
原告らは,いずれも被告大分県猟友会及び被告大分市猟友会の会員であり,平成19年当時,原告Aが班長を務めていた大分市猟友会F支部駆除班G班(以下「本件駆除班」という。)に所属し,被告市によって捕獲班員と認定されていたものである(当事者間に争いのない事実)。
(2) 本件事務取扱要領(乙2)
本件事務取扱要領は,鳥獣保護法9条1項に基づく鳥獣の捕獲等に係る許可に関して必要な事項を定めた大分市有害鳥獣捕獲等規則(乙4。以下「捕獲規則」という。)の制定に合わせ,事務処理を円滑に行うために作成されたものである。
本件事務取扱要領には,平成19年当時,次の内容が定められていた。
ア 同要領第3
毎年同一種類の鳥獣による被害が発生している地域において,被害の発生を未然に防止するため,計画捕獲等を実施できるものとされており,市長においては,過去の被害の状況に基づき翌年度を対象とした有害鳥獣被害発生予察表を作成し,これに基づき年間の有害鳥獣捕獲等計画を作成するものとされ,その際,捕獲等の従事者を定めておくものとする。
イ 同要領第4第3項
有害鳥獣捕獲の許可申請者は,捕獲規則(乙4)に定める書類(同規則第3条(3)には,有害鳥獣捕獲等従事者名簿の提出が定められている。)を市長に提出しなければならない。
ウ 同要領第6
1 鳥獣の捕獲等の実施は,原則として捕獲班によって行うものとし,捕獲班の編制は,被告市,被告大分市猟友会及び財団法人大分市高崎山管理公社が協議して行うこととし,市長は適正な捕獲班編制について留意するものとする。
2 捕獲班の従事者の資格要件は,次のとおりとする。
(1) 捕獲規則第4条に規定する者であって,鳥獣保護について良識を有する者。
(2) 狩猟災害共済事業の被共済者,又は狩猟事故に関する損害保険契約の被保険者であること。
(3) 要請に応じて,随時捕獲等に従事することができる者。
(4) 狩猟免許の取消し若しくは効力の停止をされていない者,又は違反事実のない者。
(5) 他の捕獲班に所属していない者
3 捕獲班の人数は15名以内とする。
4 捕獲班には,班員のうちから1名の班長を選任する。
5 捕獲従事者は,市長の貸付ける腕章を着用するものとする。
(3) 本件協議書の成立
被告市と被告大分市猟友会は,前記(2)記載の本件事務取扱要領に定められている捕獲班によって実施される捕獲等の実施につき,平成13年6月25日に大分市有害鳥獣駆除協議書を交わし,平成17年4月1日に同協議書の一部を改訂した大分市有害鳥獣捕獲協議書を交わした(甲3,乙5。以下,これらの協議書を,改訂前後を通じて「本件協議書」という。)。
なお,本件協議書の成立について定めた法令等は存在しない。
(4) 本件協議書の内容等(甲3,乙5及び弁論の全趣旨)
本件協議書の内容は,次のとおりである。
ア 第1(捕獲区域及び捕獲班)
捕獲区域の設定及び捕獲班の編成(判決注・原文ママ),または,これらを変更する場合については被告市と被告大分市猟友会が協議して被告市が決めるものとする。
イ 第2(捕獲従事者)
(ア) 捕獲従事者は,被告大分市猟友会が被告に推薦し,被告市が認定した捕獲班員をもってあてるものとする(第2(1))。
(イ) 被告大分市猟友会は,捕獲班員を被告市に推薦し,被告市は,審査のうえ適当と認める場合は認定し,被告大分市猟友会及び捕獲班員に通知する(第2(2))。
(ウ) 被告大分市猟友会は,捕獲班員が脱退しようとする場合は,班員からの届出を受けた後,被告市に認定の取消しを請求するものとし,被告市は,これを受理し認定の取消しを行ったときは被告大分市猟友会及び捕獲班員に通知するものとする(第2(4))。
ウ 第3(捕獲の実施)
被告市は,有害鳥獣捕獲を実施しようとするときは,捕獲従事者(前記イ(イ)により認定された捕獲班員)に直接指示するものとする。
エ 第9(その他)
その他必要な事項については,被告市と被告大分市猟友会とでその都度協議するものとする。
(5) 被告大分市猟友会の推薦と捕獲班員の認定
被告市が捕獲班員に認定した者は,本件協議書に基づいて,被告大分市猟友会から推薦された者に限定され,他の者を認定することはなかった(当事者間に争いのない事実)。
(6) 報償金
被告市は,平成13年4月1日以降,有害鳥獣駆除報償金交付要領(甲4。
以下「本件報償金交付要領」という。)に基づいて,捕獲従事者が有害鳥獣駆除許可期間中に出動して1日連続5時間以上の業務を行った場合に出動報償金を交付し,猪を捕獲した場合に捕獲報償金を交付していた(当事者間に争いのない事実)。
(7) 原告らの捕獲班員認定の取消し
ア 平成19年5月22日,被告大分市猟友会は,市長に対して,原告らが所属していた本件駆除班の全員について捕獲班員としての推薦を取り消したことを通知した(甲5)。
イ 平成19年6月28日,被告市は,本件取消しを行った。その頃,市長は,原告らの捕獲班員認定を取り消した旨を被告大分市猟友会及び原告らに通知した(甲6,乙7及び弁論の全趣旨)。
2 主要な争点
(1) 本案前の争点
ア 原告らの地位確認の訴えの適法性
イ 本件取消し後新たに捕獲班員に認定された原告C及び原告Eの地位確認の訴えの適法性
(2) 本案の争点
ア 原告らの捕獲班員の地位の有無
イ 被告らの債務不履行責任及び不法行為責任の有無
ウ 原告らの損害額
3 当事者の主張
(1) 原告らの地位確認の訴えの適法性(争点(1)ア)
ア 原告らの主張
捕獲班員の地位は,捕獲班員の認定が被告市による公的な認定であり,認定を受けた捕獲班員は有害鳥獣捕獲を通じて社会参加ないし公益実現活動を行い,さらに,本件報償金交付要領に基づく報償金の交付によって経済的な利益を得ることができ,法的地位及び法的保護に値する利益を有するから,原告らの地位確認の訴えは適法である。
被告らが本件取消しの根拠とする本件協議書の「第9(その他)」(前記第,(4)エ)は,一般的抽象的な定めであるところ,捕獲班員という法的地位を捕獲班員の意思にかかわらず一方的に奪う捕獲班員の認定取消しには,法律上の根拠法規やこれに準じる一義的に明確な根拠が必要であるから,本件協議書の「第9(その他)」は,本件取消しの根拠となり得ない。
イ 被告らの主張
捕獲班員の認定及び取消しは,本件協議書に基づいて,被告大分市猟友会と被告市の協議によって行われるものであり,原告らの権利関係を直接規律するものではなく,また,本件報償金交付要領に基づく捕獲従事者への報償金の交付は,政策的考慮によってなされているものにすぎない。
したがって,原告らの地位確認の訴えは,不適法である。
(2) 本件取消し後新たに捕獲班員に認定された原告C及び原告Eの地位確認の訴えの適法性(争点(1)イ)
ア 原告C及び原告Eの主張
原告C及び原告Eは,本件取消し後,本件駆除班とは別の班捕獲班に所属するようになり,被告市は,平成20年3月5日,原告C及び原告Eを捕獲班員に認定した。しかし,これはあくまで取消し後の事後的事情にすぎず,本件取消しの瑕疵が事後的な事情によって治癒されるものではない。
さらに,原告C及び原告Eは,本件取消しによって,従前の本件駆除班の捕獲班員としての活動ができなくなったものであり,事後的にH班への加入が認められて,捕獲班員の認定を受けたとしても,それは従前の捕獲班員の身分とは全く異なるものである。
以上から,原告C及び原告Eの地位確認の訴えは,適法であり,認められるべきものである。
イ 被告らの主張
原告C及び原告Eは,本件取消し後,被告大分市猟友会H班への加入が認められ,被告大分市猟友会から推薦があったため,被告市は,平成20年3月5日に原告C及び原告Eを捕獲班員に認定した。
したがって,原告C及び原告Eの地位確認の訴えは,不適法である。
(3) 原告らの捕獲班員の地位の有無(争点(2)ア)
ア 原告らの主張
(ア) 捕獲班員の認定を取り消すためには,捕獲班員自身が脱会の届出をすることが必要であるところ,原告らは,その届出をしていない。また,捕獲班員の認定を取り消すための取消事由もない。
さらに,形式的な捕獲班員の取消しの要件を満たしたとしても,捕獲班員の認定を取り消すためには,前記(1)ア記載の捕獲班員の法的地位及び法的保護に値する利益のため,適正な取消理由が必要であるところ,本件では何らの取消理由がない。
加えて,捕獲班員の認定の取消しに際しては,取消事由の存否を調査し,対象者に弁明の機会を与える必要があるが,本件取消しでは,原告らに弁明の機会は与えられていない。
(イ) 被告らの主張(後記イ)に対する反論は,次のとおりである。
被告らが本件取消しの根拠とする本件協議書の「第9(その他)」(前記第2,1(4)エ)は,前記(1)ア記載のとおり,本件取消しの根拠となりえない。
被告らが指摘する本件駆除班内の紛争に関して,平成18年10月頃に原告Aが定めたF支部駆除班G班内規約(乙8。以下「本件内規」という。)と同じ内容の内規は平成11年頃から作成されており,また,原告Aが本件内規を独断で作成したものではないから,本件内規に問題はなく,本件内規に端を発した紛争というものは,そもそも存在しない。
さらに,本件駆除班内の班員に,アマチュア無線を無免許で使用していたり,猟犬に狂犬病のワクチンを接種した証明書を提出しなかったりする法令違反行為があったため,原告Aがこれらについて指導したところ,本件駆除班の班員の中に,原告Aを班長から下ろそうとしたり,本件駆除班からの離脱意思を表明したりする者が生じ,本件駆除班の班員間に軋轢が生じた。しかし,これらについても,平成19年4月4日に本件駆除班の班員が和解文書を作成し,結束を確認したから,本件駆除班の班員間の問題も,平成19年5月22日以前に収束していた。
(ウ) したがって,本件取消しは,違法であり,無効である。
(エ) 以上によれば,原告らはいずれも平成19年当時捕獲班員の地位にあり,本件取消しは無効であるから,原告らは,捕獲班員の地位を有する。
イ 被告らの主張
(ア) 本件取消しは,捕獲班員の脱退に基づく認定の取消しとは別個のものとして,本件協議書に基づく被告市と被告大分市猟友会との協議において,適正な捕獲班の編制や変更を中心に検討した結果として,捕獲班員の認定の取消しを行ったものである。
すなわち,本件駆除班の班員間においては,平成18年10月頃に原告Aが定めた本件内規に端を発した紛争が生じており,平成19年4月には被告大分市猟友会代表者が仲裁に入って話し合いをした結果,原告Aが本件駆除班を退会することになったにもかかわらず,平成19年5月の時点においても未だその問題が収束していなかった。そして,被告大分市猟友会は,本件駆除班の全員について,捕獲班員としての推薦を取り消し,平成19年5月22日,そのことを市長に通知した(前記第2,1(7)ア)。被告市は,このような事態を踏まえ,有害鳥獣の捕獲活動に支障を生ずるだけでなく,事故の発生が危惧される状態にあると判断して,被告大分市猟友会との協議を経て本件取消しを行ったものである。
本件取消しは,上記経緯によるものであるから,各班員について個別の取消事由を要するというものではない。
なお,被告市が本件報償金交付要領に基づいて捕獲従事者に報償金を交付しているとしても,政策的考慮によってなされるものにすぎず,捕獲班員の資格に経済的利益が伴うものとはいえない。
(イ) したがって,本件取消しは,何の違法性もなく,適法である。
(ウ) 以上によれば,原告らは,本件取消しによって,捕獲班員の地位を失ったものであるから,捕獲班員の地位を有しない。
(4) 被告らの債務不履行責任及び不法行為責任の有無(争点(2)イ)
ア 原告らの主張
前記(3)ア記載のとおり,本件取消しは,違法無効であることから,これに関して,各被告は,次のとおり,連帯して,不法行為責任及び債務不履行責任を負う。
(ア) 被告市について
a 原告らとの関係について
本件協議書(乙5)は,被告市と被告大分市猟友会との関係を規律するのみならず,捕獲班員による脱退届の提出(本件協議書第2(4))や有害鳥獣捕獲実施の際に被告市が捕獲班員に対して直接指示すること(本件協議書第3)を定めており,被告市と捕獲班員である原告らとの契約関係も直接規律している。
加えて,本件事務取扱要領(乙2)も,捕獲班の編制(同要領第6第1項),捕獲従事者の資格要件(同要領第6第2項),捕獲従事者は市長の貸し付ける腕章を着用するものとすること(同要領第6第5項)などを定めており,被告市と捕獲班員である原告らとの関係を直接規律する。
これらによれば,被告市と個々の捕獲班員とは,遅くとも被告市が捕獲班員の認定をした時点までに,①被告大分市猟友会という団体を契約の代理人又は代行権限者として,委任契約,準委任契約及び請負契約の混合契約あるいは無名契約を締結しており,又は②(捕獲班員である)捕獲従事希望者と被告大分市猟友会と被告市とが三者契約を締結しているものにほかならない。仮に直接の契約を締結しているとまではいえないとしても,市長と被告大分市猟友会が捕獲班員という第三者のために契約を締結し,捕獲班員が契約を援用して,その効果が捕獲班員に帰属しているというべきである。
仮に,被告市と原告ら捕獲班員との間において,上記のような契約関係が認められないとしても,緊密な社会的な接触関係が認められるのであるから,被告市は,信義則上,個々の捕獲班員が有害鳥獣捕獲を実施する環境を整備する義務を負うというべきである。
b 前記aを前提とする捕獲班員認定の取消しについて
捕獲班員の認定取消しは上記契約又は信義則上の関係を解消する行為である。
捕獲班員の推薦を受ける者は,公募され選考委員会によって公平な人選の結果として選ばれ,さらに捕獲班員となることで前記(1)ア記載の法的地位及び利益を享受することになるから,被告市は,前記a記載の捕獲班員との契約又は信義則に基づいて,一旦成立した捕獲班員の地位をみだりに奪うことは許されない。
したがって,被告市の裁量権は,捕獲班員の認定取消しの場面では大きく制約される。
c 被告市の契約違反又は信義則上の義務違反による不法行為
前記a,bの事情にかかわらず,被告市が前記(3)ア記載のとおり違法無効な本件取消しを行った上,被告大分市猟友会が被告市に対して捕獲班員の推薦取消しをしたことは,被告市の契約違反又は信義則上の義務違反を構成するから,被告市は,原告に対して,債務不履行責任及び不法行為責任を負う。
(イ) 被告大分市猟友会について
a 原告らとの関係について
被告大分市猟友会は,有害鳥獣捕獲申請手続を事業として行っており,原告らを含む会員は,有害鳥獣捕獲に従事する目的で被告大分市猟友会に加入している。原告ら会員は,これらの会に加入するに際して,会費等の経済的な負担を負い,加入期間中は各会の規約を遵守することによって組織的な拘束を受けることとなる。これらから,被告大分市猟友会は,どの会員を捕獲事業に従事させるかの選定について自由裁量を有するものではなく,会費納入の対価として,有害鳥獣捕獲事業に従事させる義務及びこれらの事業への従事を妨げてはならない義務を,契約上負うというべきである。
また,有害鳥獣捕獲に従事するためには,本件協議書に基づいて,被告大分市猟友会から推薦を受けた上で,被告市から捕獲班員認定を受けなければならないから,原告ら会員が有害鳥獣捕獲へ従事するためには,被告大分市猟友会の推薦が不可欠である。そのため,被告大分市猟友会は,信義則上においても,各会員に対し,有害鳥獣捕獲事業への従事を妨げてはならない義務を負う。
b 前記aを前提とする捕獲班員認定の取消しについて
捕獲班員認定の取消しは,前記(1)ア記載の捕獲班員の地位及び利益を失わせるものなので,被告大分市猟友会は,各会員に対する有害鳥獣捕獲事業への従事を妨げてはならないとの義務の一環として,捕獲班員認定の取消しの前提となる捕獲班員認定のための推薦の取消しについても,一旦選任された捕獲班員の地位をみだりに奪う捕獲班員認定のための推薦の取消しをしてはならない義務を負う。
c 被告大分市猟友会の契約違反又は信義則上の義務違反による不法行為
被告大分市猟友会は,前記(3)ア記載のとおり,原告らから脱会届出もなく,また,原告らに取消事由も取り消すべき適正な理由もないにもかかわらず,被告市に対して,原告らの捕獲班員認定のための推薦の取消しを通知し,それによって違法無効な本件取消しが行われたものであるから,前記b記載の義務に対する違反があったというべきで,本件取消しについて,被告市と連帯して,不法行為責任及び債務不履行責任を負う。
なお,平成19年5月22日に行われた被告大分市猟友会の理事会では,被告大分市猟友会代表者が強引に本件駆除班の解散について決議をさせたものであり,原告Dは解散に同意していなかった。
(ウ) 被告大分県猟友会について
a 原告らとの関係について
原告らは,いずれも被告大分県猟友会の会員であり,被告大分県猟友会の主要な事業として有害鳥獣捕獲事業があり,原告ら会員は,これらの事業に従事する目的で会費を負担して入会する。そのため,被告大分県猟友会は,原告らに対して,有害鳥獣捕獲という入会の目的が達せられるように環境を整備する義務を負い,傘下組織である被告大分市猟友会が原告らの捕獲班員としての地位をみだりに奪うことがないように被告大分市猟友会を監督・指導する義務を負う。
b 前記aの義務違反について
本件取消しは,前記(3)ア記載のとおり,違法無効であるから,被告大分県猟友会は,被告大分市猟友会の上部組織として,前記a記載の義務に従って,被告大分市猟友会の債務不履行又は不法行為について,これらをやめるように監督・指導する義務があるにもかかわらず,これらを怠ったものであるから,被告大分県猟友会は,被告大分市猟友会と連帯して,債務不履行責任及び不法行為責任を負う。
イ 被告市の主張
(ア) 原告ら主張に係る被告市と個々の捕獲班員との間における契約上又は信義則上の義務の存在は,争う。
本件協議書は,被告市と被告大分市猟友会との間で締結されたものにすぎず,捕獲班員の認定や取消しについて,各個別の捕獲班員の事情を考慮する必要はない。
また,市長が捕獲班の編制に関与するのは,有害鳥獣による生活環境や農産物の被害を防止する目的で有害鳥獣の捕獲計画を策定し実施することからして当然のことであり,捕獲班の編制に関与したとしても,捕獲班員との間で個別の契約関係や信義則上の関係が成立するものではない。
さらに,被告市が捕獲の実施について捕獲従事者に直接指示することなどが定められているのは,被告市が有害鳥獣の捕獲を許可条件に従って実施するためであり,捕獲従事者に直接指示することが定められていたとしても,その故に個別の契約関係や信義則上の関係が成立するものではない。
(イ) 本件取消しは,前記(3)イ記載のとおり,本件駆除班内の問題を契機として,被告大分市猟友会により捕獲班員の推薦の取消しがなされたため,被告市が被告大分市猟友会との協議の上で行ったものであり,その経過に照らしても,被告市には,何ら不法行為及び債務不履行は成立しない。
ウ 被告大分市猟友会の主張
(ア) 債務不履行責任について
捕獲班員認定の取消しに関して,被告大分市猟友会は,被告市との間では本件協議書を締結しているものの,原告らとの間では何ら約束を取り交わしておらず,原告らとの間で,いかなる債務も負担していない。
(イ) 不法行為責任について
平成19年5月22日の被告大分市猟友会の理事会において,本件駆除班内の問題及び同月当時の状況を考慮して,本件駆除班全員の捕獲班員推薦の取消しが提案され,決議された。その際には,原告Dを含め,出席者中に反対する者がおらず,決議が行われた。被告大分市猟友会は,上記決議に基づいて原告らの捕獲班員の認定の推薦を取り消したにすぎず,これによって不法行為が成立することはない。
エ 被告大分県猟友会の主張
被告大分市猟友会は,被告大分県猟友会の定款上の傘下組織ではなく,被告大分市猟友会の会員が被告大分県猟友会の会員であるというにすぎない。
また,被告大分県猟友会は,被告市が実施している有害鳥獣の捕獲に関係したことはなく,本件協議書や捕獲報償金等はもとより,捕獲班員の認定手続にも全く関与したことはない。
以上のとおりであるから,被告大分県猟友会は,原告らの捕獲班員の推薦や認定の取消しに関して何ら関係のない第三者であり,原告らの被告大分県猟友会に対する不法行為又は債務不履行に基づく請求は,全く根拠がない。
(5) 原告らの損害額(争点(2)ウ)
ア 原告らの主張
(ア) 本件取消しは,一方的に原告らの捕獲班員としての地位を侵害する違法行為であり,その結果,原告らは,捕獲班員資格を取り消され,多大な財産的,精神的損害を被ったものであり,その精神的損害額は,少なく見積もっても,各原告とも100万円を下らない。
(イ) 原告C及び原告Eにおいても,本件取消しによって,従前の本件駆除班の捕獲班員としての活動ができなくなったものであり,事後的にH班への加入が認められたとしても,何ら原告C及び原告Eの損害を軽減するものではない。
イ 被告らの主張
争う。
特に,原告Cと原告Eは,本件取消し後,捕獲班員の認定を受けており,経済的,精神的損害を被ったとする前提を欠くというべきである。
第3当裁判所の判断
1 原告らの地位確認の訴えの適法性(争点(1)ア)について
(1) 原告らの地位確認の訴えは,原告らが捕獲班員の地位にあることの確認を求める確認訴訟である。
およそ確認の訴えにおけるいわゆる確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁)。
そこで,捕獲班員の地位の確認を求める確認の訴えに,確認の利益が認められるか否かを検討する。
(2) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,法令上,被告市が有害鳥獣捕獲の許可(鳥獣保護法9条1項に基づく許可)等の権限を有しているから,被告市が有害鳥獣の捕獲を実施するためには,許可権限者である被告市の許可を得る必要がある。そして,被告市は,有害鳥獣捕獲の許可を受け,実際に捕獲に従事する捕獲従事者を選定し,捕獲を捕獲従事者に委託することとなる。
ところが,鳥獣保護法は,同法9条1項に基づいて許可を受けた捕獲等に従事する捕獲従事者に関して,従事者証の交付(同法9条8項),従事者証の携帯・提示(同法9条10項)について定めているものの(別紙「法令等」2参照),鳥獣保護法及び同規則には,捕獲従事者の選定について定めた規定はない。また,その他の形式的意味の法律,及び条例等法律に準ずるものにも,捕獲従事者の選定について定めたものはない。
そうすると,形式的意味の法律,及び条例等法律に準ずるものには,捕獲従事者の選定に関する規定はなく,行政庁の規則,取扱要領等において捕獲従事者の選定について,行政庁による認定等の行為を定めたとしても,それは,形式的意味の法律,条例等法律に準ずるもの,及び法律又は条例の委任を受けた行政庁の規則等に基づくものということはできないと解される。
(3) 本件事務取扱要領は,第6第1項において,鳥獣の捕獲等の実施は,原則として捕獲班によって行うものとし,捕獲班の編制は,被告市,被告大分市猟友会及び財団法人大分市高崎山管理公社が協議して行うこととし,市長は適正な捕獲班編制について留意するものとする旨定めており(前記第2,1(2)ウ),これを受けて,本件協議書第2(1)は,捕獲従事者は,大分市猟友会が被告市に推薦し,被告市が認定した捕獲班員をもって充てるものとする旨定め,捕獲班員の認定について定めている。
しかし,前記(2)のとおり,形式的意味の法律,及び条例等法律に準ずるものには,捕獲従事者の選定に関する規定はないから,本件事務取扱要領第6第1項とこれを受けた本件協議書第2(1)により定められた捕獲班員の認定は,形式的意味の法律,条例等法律に準ずるもの,及び法律又は条例の委任を受けた行政庁の規則等に基づくものということはできず,捕獲班員の地位に関して,これらの法的根拠は存しない。
そうすると,形式的意味の法律,条例等法律に準ずるもの,及び法律又は条例の委任を受けた行政庁の規則等には,捕獲班員の地位に係る法律上の権利関係を定めた法的根拠は存しないこととなる。
(4) ところで,鳥獣保護法は,狩猟の適正化の観点から,狩猟免許(同法第四章,第二節),狩猟者登録(同法第四章,第三節)等について定めており,同法55条は狩猟者登録について定める(別紙「法令等」3参照)。
そして,捕獲規則4条は,有害鳥獣捕獲等に従事する者は,(1)鳥獣保護法55条2項に規定する登録の有効期間にあっては同条1項の登録(狩猟者登録)を受けている者,(2)登録の有効期間外にあっては,直前の登録の有効期間において狩猟者登録を受けていた者,(3)その他特別な事由により市長が特に認める者に該当する者でなければならないと定め(別紙「法令等」4参照),本件取扱要領は,第6第2項において,捕獲班の従事者の資格要件について,捕獲規則4条に規定する者であって,鳥獣保護について良識を有する者であること等を定めている(前記第2,1(2)ウ)。
そうすると,捕獲規則4条,本件取扱要領第6第2項の規定は,鳥獣保護法55条に基づく規定ということができる。
しかし,鳥獣保護法55条は,その趣旨,内容に照らして,狩猟の適正化という観点から,一般的に狩猟をしようとする者について狩猟者登録を定めた規定であり,同法9条1項に基づいて許可を受けた捕獲等に従事する捕獲従事者の選定に関して定めた規定ではない(鳥獣保護法55条1項ただし書は,同法9条1項の許可を受けてする場合には狩猟者登録を要しない旨定める。)。したがって,捕獲規則4条,本件取扱要領第6第2項が,捕獲班の従事者の資格要件として,狩猟登録を受けていること等を定めていたとしても,それは,捕獲従事者の選定について定めた法律の規定に基づくものということはできず,前記(2)の判断を左右することはない。
(5) 捕獲規則3条は,有害鳥獣捕獲等の許可を申請しようとする者は,鳥獣捕獲等許可申請書に有害鳥獣捕獲等従事者名簿を添えて提出しなければならない旨定め(別紙「法令等」5参照),本件事務取扱要領第4第3項も同様に定める(前記第2,1(2)イ)。そのため,被告市は,有害鳥獣捕獲の許可申請をするに当たって有害鳥獣捕獲等従事者名簿を作成するために,被告大分市猟友会の推薦を受けて被告市による審査の上適当と認める者を捕獲班員と認定し(前記第2,1(4)イ),捕獲班員をもって有害鳥獣捕獲等従事者名簿を作成するものである。
そして,本件事務取扱要領は,その内容に照らし,鳥獣保護法9条1項の規定に係る許可の事務処理の手順等を定めた被告の内部における取決めであり,本件協議書は,その内容に照らし,被告市と被告大分市猟友会との協議の結果による合意を定めたものである。
そうすると,捕獲班員の認定は,被告市と被告大分市猟友会との間の合意である本件協議書に基づいて,有害鳥獣捕獲を実施する捕獲従事者を確保するために行われるものであり,それは,鳥獣保護法9条1項の規定に係る許可の事実上の準備的行為としての性質を有するにとどまる。捕獲班員として認定されることによって,鳥獣保護法9条1項の許可に係る有害鳥獣の捕獲等に従事し得る可能性が実際上生ずるとしても,そのことから直ちに,捕獲班員の認定が,法律上の権利関係を生ぜしめるものとはいえない。
また,本件報償金交付要領によって,捕獲従事者には,出動,捕獲を行った場合に報償金が支払われることとなっており(前記第2,1(6)),捕獲班員の認定が取り消されて捕獲班員の地位を失った場合には,報償金を受領する可能性もなくなることとなる。しかし,報償金は,捕獲従事者となったことのみによって当然に支給されるものではなく,実際に出動,捕獲があった場合に支給されるものであり,実際に行った出動,捕獲に対する報償としての意味を有するものと認められる。そうすると,報償金の受領は,捕獲班員の地位に伴う経済的利益とはいえず,捕獲班員の地位にある者が受ける可能性のある事実上の効果にとどまるというべきである。
(6) 以上によれば,捕獲班員の認定は,形式的意味の法律,条例等法律に準ずるもの,及び法律又は条例の委任を受けた行政庁の規則等という法的根拠が認められず,捕獲班員の認定により生ずる法律上の権利関係を定めたそれらの法的根拠もない。そして,被告市は,捕獲従事者に対して有害鳥獣捕獲事業を委託するために,捕獲従事者を確保する事実上の準備的行為として,被告大分市猟友会との間の合意である本件協議書によって,捕獲班員を認定しているものにすぎず,捕獲班員の認定によって被告市と原告らとの間で法律上の権利関係を生ぜしめるものとはいえない上,捕獲班員に認定されることによって得られる効果も事実上の効果にとどまるものである。
さらに,原告らが,捕獲班員に認定されることによって享受する利益として挙げる社会参加,公益実現活動や報償金の受領は,捕獲班員に認定されたことによって当然に得られるものではなく,捕獲班員に認定された後に捕獲従事者に充てられ,実際に出動,捕獲があった場合に得られるものであるから,捕獲班員の地位の確認を行ったとしても,それによって,前記の利益に係る紛争の抜本的解決がもたらされるとはいえない。
そうすると,捕獲班員の地位は,何ら法律上の権利関係を生ぜしめるものではなく,その地位の確認を求める訴えは,確認の対象となる法律関係に関する法律上の紛争を解決するものとはいえない。
(7) これに加えて,捕獲班員の認定は,捕獲従事者を確保するための事実上の準備的行為にすぎず,捕獲班員の認定によって,直ちに捕獲従事者としての地位を得ることとなったり,その結果,捕獲従事者として,有害鳥獣捕獲事業に従事したり,報償金の受領がなされたりするものとは認められないから,その地位の確認によって当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切である場合に該当するとも認められない。
(8) したがって,原告らの捕獲班員の地位の確認を求める訴えは,確認の対象が訴えの適法要件を満たすものではなく,さらに,即時確定の現実的必要性が認められないから,確認の利益を欠くといわざるを得ず,いずれも不適法であり,却下を免れない。
2 前記1のとおり,原告らの捕獲班員の地位の確認を求める訴えは,いずれも不適法で却下を免れないから,原告C及び原告Eの捕獲班員の地位の確認を求める訴えの適法性(争点(1)イ),及び原告らの捕獲班員の地位の有無(争点(2)ア)については,判断するまでもない。
3 被告らの債務不履行責任及び不法行為責任の有無(争点(2)イ)について
(1) 原告らは,被告らがそれぞれ本件取消しをしてはならないという契約上又は信義則上の義務を負っていたにもかかわらず,違法無効な本件取消しを行ったことから,これらの義務を怠ったものとして,被告らに債務不履行責任及び不法行為責任がある旨を主張する。
(2) 前記1記載のとおり,捕獲班員の認定には法的根拠が認められず,捕獲班員の法律上の権利関係を定めた法的根拠もない上,被告市が,捕獲従事者に対して有害鳥獣捕獲事業を委託するために,捕獲従事者を確保する事実上の準備的行為として,被告大分市猟友会との間で,本件協議書によって,捕獲班員を認定しているものにすぎず,報償金の受領も捕獲班員の地位に伴う経済的利益とはいえない。本件取消しは,このような捕獲班員の認定の性質を前提として,被告大分市猟友会が原告らの推薦を取り消し(前記第2,1(7)ア),原告らについて,被告大分市猟友会が推薦して被告市が認定した捕獲班員をもって捕獲従事者に充てるという本件協議書の定め(前記第2,1(4)イ(ア))を充足しなくなったことから,被告市が原告らの捕獲班員の認定を取り消したものである。
そうすると,捕獲班員の認定又は取消しから,被告らに直ちに何らかの契約上又は信義則上の義務が生じるものとはいえない。
以下では,契約上又は信義則上の義務の有無及びその違反の有無に関する原告らの主張を,被告ごとに検討する。
(3) 原告ら主張の契約上又は信義則上の義務違反について
ア 被告市について
(ア) 原告らは,本件協議書や本件事務取扱要領において,被告市との関係を直接規律されているから,遅くとも捕獲班員の認定までに,被告市は,原告らとの間において,契約上又は信義則上の義務を負うものと主張する。
(イ) しかしながら,前記1(2)のとおり,形式的意味の法律,及び条例等法律に準ずるものには,捕獲従事者の選定に関する規定はなく,行政庁の規則,取扱要領等において捕獲従事者の選定について,行政庁による認定等の行為を定めたとしても,それは,形式的意味の法律,条例等法律に準ずるもの,及び法律又は条例の委任を受けた行政庁の規則等に基づくものということはできないと解される。そして,前記1(5)記載のとおり,本件事務取扱要領は,鳥獣保護法9条1項の規定に係る許可の事務処理の手順等を定めた被告市の内部における取決めであり,本件協議書は,被告市と被告大分市猟友会との協議の結果による合意を定めたもので,いずれも鳥獣保護法9条1項の許可に係る有害鳥獣捕獲事業を円滑かつ安全に実施する趣旨から定められた規定であるものと解される。そうすると,本件事務取扱要領や本件協議書において捕獲班員や捕獲従事者の行為等について定める規律があったとしても,それは,上記趣旨の実現のために定められているものであって,その規律の故に被告らが捕獲班員や捕獲従事者に対して何らかの契約上の義務を負うものではない。その他本件協議書や本件事務取扱要領において,被告市が捕獲班員や捕獲従事者に対して契約上の義務を負うことを前提とした規定は見当たらない。
(ウ) また,本件協議書や本件事務取扱要領において捕獲班員や捕獲従事者に対する規律があったとしても,鳥獣保護法9条1項の許可に係る有害鳥獣捕獲事業を円滑かつ安全に実施するために規律されたものであるから,当該趣旨に係る範囲において,捕獲班員や捕獲従事者は被告市との間に社会的な接触関係があるということはできる。
しかし,原告が主張する,個々の捕獲班員が有害鳥獣捕獲を実施する環境を整備する義務としての,一旦成立した捕獲班員の地位をみだりに奪うことは許されない義務は,当該趣旨に該当するとはいえない。そして,鳥獣保護法9条1項の許可に係る鳥獣捕獲事業の被許可者である被告市においては,その捕獲事業に従事する者に鳥獣保護法等に違反した事実があった場合には,捕獲等の許可の取消し(鳥獣保護法10条2項)といった行政上の責任を問われることはもとより,事案によっては,民事上,刑事上の責任を問われる可能性もあるから,捕獲従事者の選定及び取りやめについては,これら捕獲従事者に対する監督を実効あらしめる観点からも被告市の広範な裁量に委ねられているというべきであり,その事実上の準備的行為である捕獲班員の認定及び取消しにもより広範な裁量が認められる。これらに加えて,前記(2)記載の捕獲班員の認定の性質に照らすと,被告市と原告らとの間に,被告市が不法行為責任を負う前提として原告ら主張の義務を信義則上負う根拠となるような社会的な接触関係があるものとは認められない。
(エ) 以上によれば,本件協議書や本件事務取扱要領において,捕獲班員や捕獲従事者を規律する規定があったとしても,被告市が,捕獲班員や捕獲従事者との間において,契約上,又は信義則上,原告が主張する一旦成立した捕獲班員の地位をみだりに奪うことは許されないという義務を負うものとは認められない。
(オ) したがって,被告市が本件取消しに関して債務不履行責任及び不法行為責任を負うとする原告らの主張は,その前提を欠く。
イ 被告大分市猟友会について
(ア) 原告らは,被告大分市猟友会の会員であり,会費等の経済的な負担を負い,加入期間中は被告大分市猟友会の規約を遵守するなどの組織的な拘束を受けることとなるため,被告大分市猟友会は,会費納入の対価として有害鳥獣捕獲事業に従事させる義務及びこれらの事業への従事を妨げてはならない契約上の義務を負うと主張し,また,本件協議書によれば捕獲従事者になるためには被告大分市猟友会からの推薦が不可欠であるため各会員に対する有害鳥獣捕獲事業への従事を妨げてはならない義務を負うと主張して,一旦選任された捕獲班員の地位をみだりに奪う捕獲班員認定のための推薦の取消しをしてはならない信義則上の義務を負うと主張する。そして,捕獲班員の認定取消しである本件取消しに至ったことは,これらの義務を怠るものであると主張する。
(イ) しかしながら,原告らが被告大分市猟友会の会員であり,被告大分市猟友会に会費を納入し,その規約を遵守しなくてはならないとしても,これらは捕獲班員の認定のみを目的としているものということはできず,原告が本件において被告大分市猟友会との関係について主張する事情を前提にしても,原告らが主張する会費の対価として,被告大分市猟友会が原告らを有害鳥獣捕獲事業に従事させる契約上の義務を負うとする根拠があるとは認められない。
(ウ) また,本件協議書によって,捕獲従事者として有害鳥獣捕獲を実施するために被告大分市猟友会の推薦が不可欠であるとしても,前記アのとおり,本件協議書は,被告市と被告大分市猟友会との間で,鳥獣保護法9条の許可に係る有害鳥獣捕獲事業の円滑かつ安全な実施を趣旨として,協議の上で定められたものであって,これに基づく捕獲班員の認定及びその取消しについても,上記趣旨に照らして行われるものにすぎない。これに加えて,前記(2)記載の捕獲班員の認定の性質に照らすと,被告大分市猟友会が,捕獲班員の認定及び取消しに関して,捕獲班員及び捕獲従事者との間で,一旦選任された捕獲班員の地位をみだりに奪う捕獲班員認定のための推薦の取消しをしてはならない信義則上の義務を負うものとは認められない。
(エ) したがって,被告大分市猟友会が本件取消しに関して債務不履行責任及び不法行為責任を負うとする原告らの主張は,その前提を欠く。
ウ 被告大分県猟友会について
(ア) 原告らは,原告らがいずれも被告大分県猟友会の会員であり,被告大分県猟友会は有害鳥獣捕獲事業を行っていることから,その会員は有害鳥獣捕獲事業に従事する目的で被告大分県猟友会に会費を負担しているため,契約上,又は信義則上,被告大分県猟友会は,会員の目的を達せられるように環境を整備する義務として,被告大分市猟友会が捕獲班員としての地位をみだりに奪うことがないように 監督,指導する義務を負うと主張する。
(イ) しかしながら,原告らの主張を前提としても,被告大分県猟友会が捕獲班員に対して原告ら主張の義務を負う根拠となる契約を締結した事実や,信義則上それらの義務を負うことを裏付ける事情は,認められない。さらに,前記イ記載のとおり,被告大分市猟友会は,捕獲班員認定の取消しについて契約上,又は信義則上の義務を負わないから,被告大分県猟友会に,原告ら主張の債務不履行責任又は不法行為責任が成立する余地はない。
(ウ) したがって,被告大分県猟友会は,本件取消しに関して,原告らに対して,債務不履行責任又は不法行為責任を負うものとは認められない。
(4) 以上の検討によれば,被告らに本件取消しについて債務不履行又は不行為責任があるとする原告らの主張は,いずれも理由がない。
4 前記3のとおり,本件取消しについて,被告らに原告ら主張の不法行為及び債務不履行は認められないから,原告らの損害額(争点(2)ウ)を検討するまでもなく,原告らの損害賠償請求は,理由がない。
5 原告らの訴えの当否及び請求の成否
本件訴えのうち,原告らと被告らとの間で原告らが捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えは,前記1記載のとおり,不適法であるから却下すべきであり,原告らの被告らに対する本件取消しに係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,前記3記載のとおり,理由がないから棄却すべきである。
6 結論
よって,原告らの本件訴えのうち,原告らと被告らとの間で原告らが捕獲班員の地位にあることの確認を求める訴えは,いずれも不適法であるからこれを却下することとし,原告らの被告らに対する本件取消しに係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中平健 裁判官 一藤哲志 裁判官 石本慧)