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大分地方裁判所 平成3年(ワ)16号 判決 1992年2月26日

原告

福田洋一

ほか二名

被告

田島龍美

主文

一  被告は原告福田洋一に対し、金一八七万二二六一円及びこれに対する平成二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告福田千惠子に対し、金一六万七八〇七円及びこれに対する平成二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は原告福田千惠子に対し、金一万五〇七〇円及びこれに対する平成二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告福田洋一及び同福田千惠子のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告福田洋一と被告との間に生じたものはこれを一〇分し、その三を原告福田洋一の負担としその余を被告の負担とする。原告福田千惠子と被告との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告福田千惠子の負担とし、その余を被告の負担とする。原告福田千惠子と被告との間に生じたものは被告の負担とする。

六  この判決は、原告らの勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告福田洋一(以下「原告洋一」という。)に対し、金二六三万七四四七円及びこれに対する平成二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告福田千惠子(以下「原告千惠子」という。)に対し、金一八万六六六五円及びこれに対する平成二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  主文第三項同旨

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成二年四月一日午後九時三分頃

(二) 場所 大分県津久見市中町六番三三号小野勝巳方前交差点

(三) 態様 被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が、折から前記交差点において信号機の信号(赤色点滅)に従い一時停止中の、原告洋一運転の普通乗用自動車(以下「洋一車」という。)に追突した。洋一車には、原告千惠子及び同惠子が同乗していた。

2  責任

被告は、被告車を自己のため運行の用に供していたものであるから人的損害につき自賠法三条に基づく責任があり、被告には前方を注意しなかつた過失があるから物的損害につき民法七〇九条に基づく責任がある。

3  受傷とその治療

(一) 原告洋一

原告洋一は、本件自事故により約七か月の治療を要する頸椎捻挫の傷害を負い、次のとおり通院加療を行つた。

<1> 津久見中央病院に、平成二年四月一日から同年七月三日まで

<2> 永富脳神経外科病院に、平成二年四月六日

<3> 小田外科病院に、平成二年七月四日から同年一〇月三日まで

(二) 原告千惠子

原告千惠子は、本件事故により約二週間の治療を要する頸椎捻挫の傷害を負い、津久見中央病院に平成二年四月一日から同月二〇日まで、永富脳神経外科病院に同年四月六日通院した。

(三) 原告惠子

原告惠子は本件事故により傷害を負つた可能性があつたので、津久見中央病院において検査を受けた。

4  原告らの損害

(一) 原告洋一 合計金二三八万七四四七円

(1) 治療費 計金二一万三七〇〇円

(内訳)

津久見中央病院 金五万九九四〇円

永富脳神経外科病院 金四万八三四〇円

小田外科医院 金一〇万五四二〇円

(2) 診断書代 金二五〇〇円

(3) タクシー代 金二万九七九〇円

(4) レンタカー代 金二六万七八〇〇円

本件事故により原告洋一は新車を購入することにしたが、それまでの間、平成二年四月一二日から同年六月二五日までの間レンタカーを借りた。

(5) 燃料費 金五〇〇〇円

所要で大分市に赴く際、同僚に車で送つてもらつたお礼として右出損をした。

(6) 休業損害 金四万八六五七円

原告洋一は、大分県津久見警察署勤務の警察官であり年収金五九二万円(日額金一万六二一九円)の収入を得ていたところ、本件事故により三日間休業した。

(7) 通院慰謝料 金一〇七万円

(8) 修理代 金五三万三一四〇円

本件事故により原告洋一所有の洋一車は大破した。

(9) 格落ち損 金二一万六八六〇円

原告洋一は、洋一車が大破したため、これを金二五万円で下取りに出して車を買い替えたが、洋一車の時価価格は金一〇〇万円であるから、金七五万円の損害が生じたこととなる。内金五三万三一四〇円は前記(8)で計上しているから、差額の金二一万六八六〇円を格落ち損として請求する。

(二) 原告千惠子 合計金一八万六六六五円

(1) 治療費 金四万六四五〇円

(2) 診断書代 金二五〇〇円

(3) 休業損害 金三万七七一五円

原告千惠子は家庭の主婦であるから、昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計学歴計(四〇歳から四四歳)平均賃金(年収二七五万三四〇〇円・日額金七五四三円)の収入があつたところ、通院のために五日間休業した。

(4) 通院慰謝料 金一〇万円

(三) 原告惠子 金一万五〇七〇円

原告惠子は前記3(三)の検査のために検査代として右同額を支払つた。

(四) 弁護士費用

以上原告らの損害は金二五八万九一八二円であり、原告洋一は、本訴訴訟の提起を弁護士に委任したが、その費用は金二五万円が相当である。

5  よつて、被告に対し自賠法三条及び民法七〇九条に基づき

(一) 原告洋一は、金二六三万七四四七円及びこれに対する不法行為の日である平成二年四月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、

(二) 原告千惠子は、金一八万六六六五円及びこれに対する前同様の割合による遅延損害金、

(三) 原告惠子は金一万五〇七〇円及びこれに対する前同様の割合による遅延損害金

の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

3  同3の事実のうち、

(一) 3(一)の事実のうち津久見中央病院及び永富脳神経外科病院への通院は認め、その余は知らない。

(二) 3(二)のうち通院の事実は認めるがその余は知らない。

(三) 3(三)の事実は認める。

4  同4の事実のうち、

(一) 4(一)(1)(治療費)のうち津久見中央病院分及び永富脳神経外科病院分は認め、その余は争う。

原告洋一の傷害は、平成二年五月一一日治癒しており、その後の治療は本件事故とは因果関係がない。

(二) 4(一)(2)ないし(5)は争う。

仮にレンタカー代を認めるとしても、使用期間は通常の修理期間である約二週間が相当である。

(三) 4(一)(6)は争う。

原告洋一の収入は日額金一万四四三〇円であり、同原告の休業は二日であるから、休業損害は金二万八八六〇円に限り認められるべきである。

(四) 4(一)(7)は争う。

(五) 4(一)(8)、(9)は争う。

修理代相当額は金四二万三〇〇〇円である。洋一車の登録年度及び走行距離からすれば格落ち損は生じない。

(六) 4(二)のうち、(1)の事実は認め、その余は争う。

(七) 4(三)は認める。

(八) 4(四)は争う。

第三証拠

本件記録中、証拠目録記載のところを引用する。

理由

一  請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙第六号証の一ないし五、七によれば、被告が被告車を所有して自己の運行の用に供していたこと、被告は時速約五〇キロメートルで走行中、遠方の信号に気を取られて前方に対する注意を怠つた前方注意義務違反の過失により、折から一時停止中の洋一車に追突したことが認められるから、被告には、原告らの人的損害を自賠法三条に基づき、物的損害を民法七〇九条に基づきそれぞれ賠償する責任がある。

三  原告らの受傷と通院

1  原告洋一について

成立に争いのない甲第四、第六ないし第八、第一一、第一三号証、乙第一、第二号証、原告洋一本人尋問の結果により成立の認められる甲第三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第七、第八号証及び原告洋一本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告洋一は本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、津久見中央病院に、平成二年四月一日から同年七月三日まで(実通院日数九日)、永富脳神経外科病院に同年四月六日、小田外科医院に同年七月四日から同年一〇月三日まで(実通院日数三五日)それぞれ通院し、治療・検査を受けたことが認められる(津久見中央病院及び永富脳神経外科病院への通院については当事者間に争いがない。)。

被告は、前掲乙第二号証に「平成二年五月一一日治癒」と記載されていることから、原告洋一の頸椎捻挫は右同日をもつて治癒したものと主張するが、前掲乙第七号証によれば、原告洋一は、平成二年七月四日以降、小田外科医院において、頭痛、首痛等を訴え、同医院医師は、右症状に対して頸部捻挫(頸性頭痛)との診断を下していることが認められ、また前掲乙第六号証の一ないし五、七により認められる事故態様(被告車は時速約五〇キロメートルでブレーキをかけるいとまもなく、停止中の洋一車に追突したもの)から推測される衝撃からすれば、原告洋一が前記の痛みを訴えて、小田外科医院に通院していることに特段不自然な点はないというべきである。右事情からすれば、原告洋一は、本件事故により平成二年一〇月三日までの通院を要する頸椎捻挫の傷害を負つたものと認めるのが相当であり、これに反する乙第二号証の記載は採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

2  原告千惠子について

成立に争いのない甲第五、第九号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告千惠子は本件事故により頸椎捻挫の傷害を負い、平成二年四月一日から同月二〇日まで津久見中央病院において、同月四月六日に永富脳神経外科病院において、それぞれ通院治療及び検査を受けたこと(実通院日数五日)が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。(津久見中央病院に対する通院については当事者間に争いがない。)。

3  原告惠子について

原告惠子が、本件事故後津久見中央病院において検査を受けたことは当事者間に争いがない。

四  原告らの損害

1  原告洋一について

(一)  治療費 金二一万三七〇〇円

前掲甲第六ないし第八、第一一、第一三号証によれば、前記三1記載の通院治療検査に、金二一万三七〇〇円の費用を要したことが認められる(金一〇万八二八〇円の範囲で当事者間に争いがない。)。

(二)  診断書代 金二五〇〇円

前掲甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、診断書代として金二五〇〇円を要したことが認められる。

(三)  休業損害 金二万八八六〇円

成立に争いのない甲第一九号証によれば、原告洋一が本件事故のために、平成二年四月六日から同月八日まで休業したことが認められるが、原告洋一は公務員であるところ、弁論の全趣旨によれば四月八日は日曜日であることが認められるので、損害算定の基礎となる休業日は二日間と認められる。

そして、前掲甲第一九号証によれば、原告洋一の平成二年一月から同年三月末日まで(九〇日間)の収入(本給及び付加給)は計一二九万八六七五円(日額金一万四四三〇円)と認められる。したがつて、二日分の損害は金二万八八六〇円である。

(四)  通院慰謝料 金八〇万円

原告洋一が三1記載の傷害及び通院により被つた精神的肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料額は金八〇万円が相当と認められる。

(五)  修理代 金五三万三一四〇円

前掲甲第三号証及び原告洋一本人尋問の結果によれば、本件事故により洋一車の後部バンパー、トランク等が破損し、衝撃でその他の車体部分にも変形が生じたこと及び原告洋一は、洋一車を修理することなく、これを売却したことが認められる。そして、洋一車を修理するとした場合の修理費用は、原告洋一本人尋問の結果により成立の認められる甲第二二号証によれば金五三万三一四〇円と認められる。これに対して、被告提出の乙第四号証(弁論の全趣旨により成立を認める。)では修理費用は金四二万三八五〇円と見積もられているが、原告洋一本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らせば、甲第二二号証の見積りの方が乙第四号証のそれに比して現状回復のための費用に近いことが認められるので、甲第二二号証の見積りをもつて相当であると解する。

(六)  格落ち損

前記のように原告洋一は、洋一車を修理することなく売却し、同原告は、右売却額と事故時の洋一車の時価との差額をもつて損害であると主張する。

ところで、右差額をもつて損害と認定できるのは、修理が不能であるか、フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められ、車両の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときに限られると解するべきである。

そして、この点、原告洋一は本人尋問の結果中や甲第三号証中において、修理をしても直らない損傷、歪みが残るので買い替えざるを得なかつた旨供述するが、本件においては、本件全証拠によるも、車両の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことを認めるに足りる客観的な証拠がないから、右本人供述等のみから右事実を認定することはできない。したがつて、原告洋一の右主張には理由がない。

その他、本件全証拠によるもいわゆる格落ち損を認めるに足りる証拠はない。

(七)  タクシー代 金二万九七九〇円

原告洋一本人尋問の結果により成立の認められる甲第一四ないし第一七号証及び同尋問の結果によれば、原告らは、平成二年四月一日から同月一二日までの間に原告らの通院、通勤等の用にタクシーを使用し、その費用として金二万九七九〇円を要したことが認められる。

そして、前記のような洋一車の破損状況及び原告洋一本人尋問の結果により認められる原告らの居住地の交通事情(公共交通機関は一日二便のバスしかない。)からすれば、右のようなタクシーの使用状態も社会通念上相当と解され、右交通費は本件事故により生じた損害と認められる。

(八)  レンタカー代 金六万四二七一円

原告洋一本人尋問の結果により成立の認められる甲第一八号証及び同尋問の結果によれば、原告洋一は、平成二年四月一二日から同年六月二五日まで(七五日間)レンタカーを使用し、その費用として金二六万七八〇〇円を支出したことが認められる。

そして、弁論の全趣旨によれば、代車を使用する場合の使用相当期間は、事故時から一か月間(平成二年四月中)をもつて最大限のところと解するのが相当であるところ、前記のとおり事故時から四月一二日まではタクシーを使用しているのであるから、代車使用が相当と解されるのは、同月一三日から同月三〇日までの一八日間である。

そこで、前記のレンタカー代金のうち一八日分に相当する料金を算出すれば、金六万四二七一円となる。

267,800÷75×18≒64,271

(九)  燃料費

右燃料費は、原告洋一本人尋問の結果によれば、知人の車に同乗させてもらつた礼金というのであるが、本件事故との間の相当因果関係は認め難い。

(一〇)  以上合計金一六七万二二六一円

2  原告千惠子について

(一)  治療費 金四万六四五〇円

原告千惠子の治療費が金四万六四五〇円であることは当事者間に争いがない。

(二)  診断書代 金二五〇〇円

前掲甲第五号証及び弁論の全趣旨により、金二五〇〇円と認める。

(三)  休業損害 金一万八八五七円

前掲甲第五号証及び原告洋一本人尋問の結果によれば、原告千惠子は事故時四二歳の家庭の主婦であることが認められるので、その収入は、当該年齢の賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子労働者学歴計(原告千惠子主張の昭和六三年度のものによる。)により、年収金二七五万三四〇〇円(日額七五四三円)であることが認められる。

前記三2のとおり、原告千惠子は、実通院日数五日を要する通院を行つたことが認められるが、本件全証拠によるも全一日の休業を行つたことを認めるに足らないから、逸失利益は日額の半額に限りこれを認めるのを相当とする。

したがつて、原告千惠子の休業損害は金一万八八五七円である。

7,543×5÷2≒18,857

(四)  通院慰謝料 金一〇万円

原告千惠子が三2記載の傷害及び通院により被つた精神的肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料額は金一〇万円が相当と認められる。

(五)  合計 金一六万七八〇七円

3  原告惠子について

原告惠子が前記三3の検査のため金一万五〇七〇円を支出したことは当事者間に争いがない。

右支出と本件事故との間に因果関係があることは明らかである。

4  弁護士費用

以上原告らの損害の合計は、金一八五万五一三八円である。原告洋一は、本訴の提起及び遂行を原告ら代理人に依頼したところ、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、金二〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、原告らの請求は、原告洋一において金一八七万二二六一円、原告千惠子において金一六万七八〇七円及び右各金員に対する本件事故日である平成二年四月一日から各支払済みまで民法所定の各年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからいずれもこれを認容することとし、右原告らのその余の請求には理由がないからいずれもこれを棄却することとし、原告惠子の請求には理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野憲一)

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