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大分地方裁判所 平成3年(ワ)668号 判決 1997年12月22日

原告

岡田美好

ほか三名

被告

大分県

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  被告は原告岡田美好に対し、金二四〇三万一四二八円及びこれに対する平成三年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

(二)  被告は原告岡田清子に対し、金一五五一万五七四三円及び内金一四三一万五七四三円に対する平成三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告は、原告江川榮に対し金一二一〇万円、原告江川孝子に対し一一〇〇万円及びこれらに対する平成三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告岡田美好、同岡田清子は、亡岡田竜三の両親であり、原告江川榮、同江川孝子は、亡江川卓也の両親である。

2  本件事故の発生

亡卓也は、平成三年一月一日午前〇時五分ころ、別府市餅ケ浜町四番三三号、国道一〇号九州電力株式会社別府営業所(九電営業所)前路上を、亡竜三を後部座席に乗せて、自動二輪車(本件事故車)を運転していたところ、バランスを崩して転倒し、自らは即死するとともに、間もなく亡竜三を死亡させるに至った。

3  被告(別府警察署警察官)の責任

本件事故は、暴走族の取締りのために、現場に配置されていた別府警察署の警察官らが、本件事故車又はその前方を走行していた車両(運転者)に対し、停止棒等を投げつけたため、右停止棒等が本件事故車又は亡卓也に当たったか、本件事故車が右停止棒に乗り上げたか、亡卓也が右停止棒を避けようとしたか、いずれかの原因により生じたものである。

右警察官は、いずれも被告の公権力の行使に当たる公務員であり、その職務を行うについて、道路を通行する亡卓也らの安全を保持すべき注意義務を怠り、本件事故を生じさせたものであるから、被告は国家賠償法一条一項に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

4  損害

(一) 原告美好、同清子

(1) 亡竜三の逸失利益

亡竜三は、本件事故当時、満一五歳の健康な男子で、株式会社広瀬総合プラント工業に勤務し、月収二一万九八七五円を得ていたところ、同人が本件事故によって死亡しなければ、満六七歳まで、五二年間就労が可能であったというべきであるから、右収入を基礎に、生活費を控除した上、新ホフマン係数により中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、次のとおりとなる。なお原告美好、同清子は、法定相続分(各二分の一)に従い、亡竜三の損害賠償請求権を相続により取得した。

<1> 原告美好 二三三二万七九〇一円

生活費として三〇パーセントを控除する。

(算定式) (219,875×12×0.7×25.261)/2=23,327,901

<2> 原告清子 一六六六万二七八七円

生活費として五〇パーセントを控除する。

(算定式) (219,875×12×0.5×25.261)/2=16,662,787

(2) 原告美好の交通費・宿泊代 一七万六五四〇円

原告美好は、本件事故に関して、住所地である名古屋と、本件事故現場である別府との間を三往復し、その交通費・宿泊代として、標記金額を支出した。

(3) 治療費等 各三万五六二五円

原告美好、同清子は、亡竜三のために、治療費、診断書料として別府中央病院に対し、合計七万一二五〇円を支払った。

(4) 葬儀関係費用 原告美好 一七六万七三五四円

原告清子 一五万九六四六円

原告美好、同清子は、亡竜三の葬儀を行い、墓地、灯籠代を含め、それぞれ標記金額を支払った。

(5) 慰謝料 各一〇〇〇万円

原告らが亡竜三の死亡により被った精神的苦痛に対する慰謝料として標記金額が相当である。

(6) 損害の填補

原告美好、同清子は本件事故による損害の填補として、自動車損害賠償責任保険から、二五〇八万四六三〇円の支払を受けたので、これを右両名各二分の一の割合で前記損害に充当した。

(7) 弁護士費用 原告美好 二一五万円

原告清子 一二〇万円

右原告らは本件訴訟を弁護士に委任しており、その費用として右各金額が相当である。

(二) 原告榮、同孝子

(1) 原告榮につき葬祭費 一〇〇万円

(2) 慰謝料 各一〇〇〇万円

原告らが亡卓也の死亡により被った精神的苦痛を慰謝するには標記金額が相当である。

(3) 弁護士費用 原告榮 一一〇万円

原告孝子 一〇〇万円

5  よって、原告らは被告に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償として、原告美好につき前記損害額の内金二四〇三万一四二八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成三年六月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告清子につき金一五五一万五七四三円及び内金一四三一万五七四三円に対する不法行為の日である平成三年一月一日から支払済みまで右年五分の割合による遅延損害金の、原告榮につき金一二一〇万円、原告孝子につき金一一〇〇万円及びこれらに対する右平成三年一月一日から支払済みまで右年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3は争う。

亡卓也及び亡竜三は、暴走族「鬼娘」グループの構成員であり、本件事故当時、他の構成員とともに、集団で暴走行為を行っていたものであるが、別府警察署前で実施されていた検問取締りを、時速六〇から七〇キロメートル位の速度で突破するに当たり、亡卓也において、上半身を前に倒し顔を燃料タンクにつけるような姿勢をとっていたため、道路前方が右方に緩やかに湾曲していることに気付かず、そのままの速度で直進した結果、九電営業所前付近の歩道の縁石に衝突して、歩道上に乗り上げて転倒し、ともども死亡したものである。

したがって、本件事故は、専ら亡卓也の前方不注視等の過失によって生じたものであり、別府警察署の警察官による交通取締りとの因果関係はない。

3  同4の事実は知らない。

三  抗弁(原告清子につき、消滅時効)

1  原告清子は、遅くとも平成三年三月七日までには本件事故による損害及び加害者を知っていた。

2  右同日から三年後の平成六年三月七日が経過し、原告清子の本件損害賠償請求権の消滅時効が完成した。

3  被告は、原告清子に対し、平成六年七月七日の本件口頭弁論期日において、右時効を援用する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は否認し、同2の主張は争う。原告清子は、平成三年四月二六日、調査会社からの報告により、本件事故の原因が被告の違法な交通取締りにあることを知ったものであり、原告清子が被告に対し、平成六年三月八日に本件訴訟を提起した時点では、未だ三年の消滅時効期間は経過していない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  請求原因1(当事者)、2(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の発生経過

争いのない事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  大分県警察本部は、同県下一八の警察署及び同県警察本部交通部・警備部機動隊に対し、平成二年一二月三一日深夜から平成三年一月一日の未明にかけて、暴走族が蝟集して行う爆音走行、暴走行為等(いわゆる「走り納め」、「走り初め」)を検挙し、右暴走行為に伴う交通事故を防止するよう指示を発し、取締要員五六四名、出動車両一五四台という全県規模の交通取締りを実施した(証人城井雅伸、弁論の全趣旨)。

2  別府警察署においては、右指示に応じて、前半の三一日午後一一時から一日午前三時二〇分までの要員と、後半の同日午前三時から午前七時までの要員とに分け、暴走族が走行すると思われる国道一〇号に沿って位置する別府警察署付近と、その他三箇所での検問取締り及び「遊撃取締り」を実施することとし、城井雅伸交通課長らが、視察班、規制取締班などを編成したが、別府警察署付近の検問取締りにおいては、池口悦司警部補を班長とする一三名の警察官を、前半の検問班員として配置することとした(証人城井、同池口悦司、弁論の全趣旨)。

3  そして、前半の要員は、三一日午後一一時ころ、別府警察署の会議室に集められ、副署長や城井課長から、同署付近での検問取締りの方法については、暴走族ないし暴走行為を行っている車両が接近してきた場合には、同署前交差点の信号を四方向とも手動で赤色に切り換えるとともに、停止棒、停止旗及び懐中電灯等を使用して停止の合図をし、停止した車両の中から暴走族を見つけ、暴走車両の乗員の検挙、補導、違法改造車両の押収を行い、また停止せずに逃走した車両については、車両等の特徴を記憶したり、写真撮影をするなどして、事後捜査のための証拠保全に務めることが指示された(証人城井、同池口、同下原健治、同河野洋一)。

4  検問班員は、右指示を受けたのち、直ちに別府警察署付近に赴き、与えられた任務に従って検問を開始した(同署付近の道路の状況は別紙図面のとおりである。)。なお、同班員は、走行車両から検問取締りを視認できるように、夜光チョッキや蛍光塗料の付いた腕章を身につけ、更に、当日は小雨が降っていたため、白色の雨合羽を着用した(証人城井、同池口、同下原、同河野)。また、右検問班員らのうちの多くの者は、走行車両に対する停止合図に使用するため、各自の判断で、停止棒(赤色及び白色の反射テープを交互に貼り付けた直径約二・二センチメートル、長さ約一メートルの塩化ビニール製の棒)を同署一階に用意されていた箱から取り出して携行した。さらに、同班員のうちには、赤色停止合図灯(懐中電灯の先端部分を赤色灯に変えることができるもの)や家庭用の懐中電灯を携行する者もおり、のちに応援に出た安藤巡査部長は、停止旗(長さ約二メートルの旗竿の先端に縦横各約八〇センチメートルの赤色ビニール製の旗を付けたもの)一本を携行した(乙一、二、証人城井、同池口、同下原、同河野)。そのほか、石川重厚巡査が証拠保全のためにカメラを携帯していた(証人城井、同池口)。

5  同班員は、検問を始めて間もなく、暴走族が数台ごとのグループに分かれて、国道一〇号を、日出町方面から大分市方面に向けて走行しているとの無線連絡を受けたので、同班員の中から、信号係を命じられていた河野洋一巡査及び岡田巡査が、別紙図面のD、E付近に赴いて、信号機を操作し、別府警察署前交差点の信号を四方向とも赤色に切り換えるとともに、他の班員が、同署前及び九電営業所向かい側の歩道上に待機していたところ、間もなく、日出町方面から大分市方面に向かう下り車線を集団で走行して来た暴走車両を認めたことから、各自が歩道の端から車道に向かって停止棒、懐中電灯などを上下に大きく振り、停止の合図をしたが、暴走車両はいずれもこれに応じず、赤信号を無視して通過した。なお、国道一〇号は、日出方面から大分方面に向かって、同警察署前で左にカーブしていることから、暴走車両が誤って直進する危険性を考え、検問班員は、日出方面からの暴走車両に対しては、右国道の中央分離帯には位置しなかった(証人城井、同池口、同下原、同河野)。

なお、この時、検問班員のうち、同警察署前又は九電営業所の向かい側歩道上から、赤信号又は停止合図を無視して通過した暴走車両に対し、停止棒を投げつけた者がいたが、停止棒は直ちに拾い上げられた(甲一〇、証人浜崎和美、同森永英二)。

6  一方、佐賀関町を拠点とし、同町及び大分市鶴崎に居住する少年で構成される暴走族グループ「鬼娘」の構成員及び元構成員らが、初日の出の見物や、宇佐神宮への参拝のためと称し、背中に鬼の刺しゅうを入れた「特攻服」を着用して、三一日午後一一時ころ、同町内のバスターミナルに集合し、自動二輪車六台、普通乗用自動車七台に分乗して、同所を出発し、国東半島方向に向かって国道一〇号を走行し始め、大分市鶴崎で、同グループの構成員数名と合流した後、同日午後一一時四五分ころ、大分中央警察署管内の昭和通り交差点付近において、取締中の警察官らの停止合図及び赤信号を無視して検問を突破し、西大分から右国道を北上し、大分市高崎山の入口手前付近で休憩をとった。そして、この時、運転手の交替や車両の乗換えが行われたが、亡卓也は、リーダー格の紀野克典に代って本件事故車を運転することとなり、亡竜三が後部座席に座ることとなり、その後、右構成員らの車両は、再び右国道を北上し、別府市内に進入した(甲二〇、証人城井、同石原秀一、同上野仁士)。

7  なお、本件事故車(カワサキゼファー・車台番号ZR四〇〇C―〇〇〇〇三一)は、前照灯ブラケットに規格外のステーが取り付けられ、これによって前照灯が正規の位置(地上から九七〇ミリメートル)よりも約三〇センチメートル高い位置(同じく一二七〇ミリメートル)に装着されていたため、運転中の視界が妨げられる構造にあったほか、両側のハンドルが、内側に直角に曲げられているため、ハンドルを切ると、ホークが燃料タンクにすぐさまつかえて、ハンドル操作が制約されるようになっていた(甲二一、検証の結果、証人城井、同石原、弁論の全趣旨)

8  別府警察署では、同日午後一一時四五分ころ、大分中央警察署から、「鬼娘」グループが同警察署管内の検問を突破したとの無線連絡を受け、さらに東別府に配置した視察班員から、一月一日午前〇時ころ、同グループの車両が同所を通過して、別府警察署方面に進行したとの報告を受けた(証人城井、同池口、弁論の全趣旨)。

そこで、城井交通課長は、同警察署前で検問に当たっていた班員らに対し、無線で下り車線から上り車線に移動するよう指示するとともに、同警察署で待機していた規制取調班員の警察官ら五名に対し、応援をするように指示したので、同班員らは、別紙図面のAないしM、<1>ないし<5>の各地点に移動して、待機した(証人城井、同池口、同青山、同下原、同河野、同村上厚夫)。

なお、この時、河野巡査は、九電営業所前に移動して日出町方面から進行してくる暴走車両を早期に発見して無線連絡するよう池口班長から指示を受けたので、信号係を木本巡査に替わり、同図面Fの地点に移動した(証人河野)。

9  「鬼娘」グループの暴走車両は、東別府を通過した後、さらに国道一〇号を北上し、ほぼ一団となって、爆音を轟かせながら、別府警察署前交差点から約一五〇メートル南寄りにある餅ケ浜交差点を、赤色信号を無視して通過した(証人城井、同池口、同青山、同下原、同河野、弁論の全趣旨)。

10  そして、「鬼娘」グループの先頭車両である白色の普通乗用自動車が、一日午前〇時五分ころ、右国道の上り第二車線を、時速六〇から七〇キロメートルで走行し、検問場所に接近してきたので、岡田巡査らは、別府警察署前交差点の信号機を四方向とも赤色に切り替えるとともに、別紙図面の<1>地点にいた安藤巡査部長が、第三車線に一、二歩踏み出し、停止旗を差し出すようにして停止の合図をし、その他の警察官らが停止棒を上下に振って停止を求めたが、右先頭車両は赤色信号も無視して右交差点を通過した(証人池口、同青山、同下原、同河野、弁論の全趣旨)。

この時、同図面F地点にいた河野巡査は、先頭車両に対し、やはり停止棒を振って停止合図をしたが、右車両がこれを無視して同所を通過することに憤り、右地点から、右車両に向かって停止棒を投げつけたところ、停止棒は、先頭車両の助手席のドア付近に当たり、第一車線の外側線の外側(歩道寄り)に転がった(甲一〇、証人河野、同浜崎、同森永)。

11  亡卓也が運転する本件事故車は、先頭車両と二〇から三〇メートルの車間距離をおいて、「鬼娘」グループの二番目の車両として、上り第二車線の右寄りを、時速約六〇キロメートルで走行していたが、やはり警察官らの停止合図に応じて停止することなく進行を続けた。そして、亡卓也においては、別府警察署前の交差点の南側にある停止線の手前に至るや、複数の警察官から顔を隠すように、上半身を前に倒して、顔を本件事故車の燃料タンクに付けるような姿勢をとり、ほぼ同時に後部座席の亡竜三においても、上半身を前に倒して、亡卓也の背中に顔を付け、そのままの状態で、本件事故車は、右交差点の赤色信号を無視して進行したところ、右交差点の北側の横断歩道と河野巡査との中間地点に差しかかった際、突然、後輪が振れて、バランスを崩し、九電営業所の駐車場前の歩道の植込み付近で、歩道の縁石に乗り上げ、同所の起点標識をなぎ倒しながら、同営業所の方向に滑り込んで行き、停止棒を拾って歩道に戻ろうとしていた河野巡査の両足を払うように、同人と衝突した後、右縁石から約三五メートルの地点まで滑走して停止した(甲七ないし一〇、証人城井、同青山、同下原、同村上、同河野、同森永、検証の結果。なお、証人下原、同青山の供述中には、「本件事故車は、車道上でふらつくことなく、歩道上に乗り上げた。」との部分が存するが、本件事故現場における縁石、歩道、パイプ型フェンスに残された痕跡、河野巡査、亡卓也、亡竜三の傷害部位等によれば、本件事故車が転倒寸前にかなり傾いた状態で歩道に進入してきたことが明らかであるから、右各供述部分は採用することができない。)。

12  本件事故によって、亡卓也と亡竜三は、ともに頭部を強打し、それぞれ救急車で病院に搬送されたが、亡卓也は即死であり、亡竜三も間もなく死亡した(争いのない事実、甲二ないし四、五の1、2、六の1ないし8、七、乙六の1ないし3)。

また、本件事故によって、河野巡査も、右下腿開放性骨折、左大腿骨顆粉砕骨折、左膝外側側副靭帯損傷、左中足骨骨折等の傷害を負った(証人河野)。

三  本件事故の原因及び被告の責任

1  右事実によれば、本件事故は、亡卓也が、改造により運転操作が困難となった本件事故車を、二人乗りで前方を注視しないまま、小雨により湿潤したゆるやかなカーブを直進するように運転したため、バランスを崩したことによるものというべきである。

2  原告らは、検問に当たる警察官が投げ付けた停止棒が、亡卓也又は本件事故車に命中したことが原因で、本件事故が発生したと主張するが、河野巡査は、「鬼娘」グループの先頭車両に向かって停止棒を投げつけているのであり、本件事故車に向かって投げ付けているのではなく、またその他の警察官は、いずれも前記交差点の南に位置していて、本件事故車がバランスを崩した地点とはかなりの距離を置いて検問にあたっていたのであり、本件事故車に後続する車両に対して、停止棒を投げたというのならともかく、右地点の本件事故車に向けて、これを投擲することはあり得ないというべきである(警察官らが、亡卓也に対し、右交差点に至るまでに、停止棒などによって、殴打するなどの暴行を加え、あるいは停止棒を投げ付けていたとしても、本件事故と因果関係がないことは明らかであるし、本件事故車のオイルタンク(右側)の傷も、右地点で停止棒によって生じたということはできない。)

3  また、原告らは、本件事故は、本件事故車が路上にあった停止棒に乗り上げたか、亡卓也が停止棒を避けようとして運転を誤ったことによるものであるとも主張するが、本件事故車がバランスを崩した地点に、停止棒が存在していたと考えるのは不自然である。すなわち、日出方面からの暴走車両に対して投擲された停止棒が、勢い余って右地点に転がり、これが放置されたまま回収されず、警察官がこれを所持せずに、引き続き「鬼娘」グループの検問に当たったとは考えにくく、また同グループに対処するために、その配置を変えた警察官らが、その位置から距離のある右地点に向けて、停止棒を投げるというのも理解しえないというべきである(前輪が停止棒に乗り上げないというのも不自然である。)。

4  証人石原秀一は、「鬼娘」グループの先頭車両に乗車していたところ、別府警察署付近から、五〇センチメートルほどの棒のようなものが、一〇本ほど飛んでいたと証言するが(同人の供述録取書も同旨)、付近の中央分離帯に警察官がいるにもかかわらず、同警察署前の警察官が、下り車線に向けて停止棒を投擲するというのも不自然であり、右証言は措信することができない(先頭車両が白色の普通乗用車であると認められるのに、同人の乗車していたのは茶系の模様入りのオープンカーであるという点も、同人の供述の信用性を疑わしめる事情である。)。

5  証人上野仁士は、「鬼娘」グループの中間あたりを走行していたというところ、停止棒で車両を叩かれたことを述べるものの、停止棒が投げられていたり、道路に落ちていたことは目撃していない(同人の供述録取書も同じ)

6  柏孔明は、供述録取書及び回答書により、同人が普通自動車に乗り、右交差点で信号が黄色になって停止する際、本件事故車がその脇を通過したが、その時に、右交差点にいた三名の警察官が、二〇数本の停止棒を上り車線に投げ、間もなくこれを拾い集めていたと述べるところ、右供述は前認定の事実に反する部分が多く(本件事故車が右交差点を黄色信号の際に時速約四〇キロメートルで通過したと述べるのは信じがたい。)、右供述の内容は到底措信することができない。

7  本件事故の直後に行われた実況見分の結果を記載した調書(河野巡査立会い)には、河野巡査が投げて拾い上げたという停止棒について記載がないが、右実況見分では、証拠物については、九電営業所の前面歩道にしか着目しておらず、周辺が探索されたかどうか疑わしく、したがって同所に停止棒が存在しなかったとしても格別不自然とはいえず、また同調書には、目撃者である浜崎が、河野巡査において停止棒を投げたことを指示説明した記載がないが、当時、そのことが本件事故と関係がないと作成者において即断したとしてその記載を落としたとしても無理からぬといえるところであり、右実況見分調書の記載から、本件事故車が停止棒に当たるか、接触するかして、転倒したことを警察官がことさらに隠蔽しようとしたと推論することはできない(本件事故車がバランスを崩した点について、実況見分時に浜崎が指示説明したか否かは明らかでない。)。

さらに、右当日の実況見分調書(三宮徹立会い)の同人の指示説明が正しいとすれば、本件事故車は、本件事故の現場に至るまでに、減速をしていたことになるが、これをもって、本件事故車が停止棒と接触して減速したということはできない。

8  なお、本件事故の現場には、本件事故車が障害物と接触したことを窺わせる痕跡はなく、路上にも本件事故車によるタイヤ痕は存在しなかった(甲七)。

四  右の次第で、本件事故の原因は、本件事故車の運転者であった亡卓也の前方不注視や、車両操作の過誤という過失によるものであったというべきであり、事故原因についての原告らの主張はいずれも理由がない。

五  結論

以上の事実によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池徹 山口信恭 大西達夫)

検問要員配置見取図

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