大判例

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大分地方裁判所 平成5年(ワ)477号 判決 1994年8月31日

原告

児玉文子

ほか三名

被告

石政志

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、

1  原告児玉文子に対し金三七七万一五九〇円及び内金三二七万一五九〇円に対する平成四年一〇月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員、

2  原告児玉豊、同児玉輝彦及び同宮脇寿賀子に対し各金七九万〇五三〇円及び各内金六九万〇五三〇円に対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員、を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告児玉文子に対し金一三八四万九〇八四円及びうち金一二六四万九〇八四円に対する平成四年一〇月七日から、原告児玉豊、同児玉輝彦及び同宮脇寿賀子に対しそれぞれ金四二一万六三六一円及びうち各金三八一万六三六一円に対する平成四年一〇月七日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という)の発生

(一) 日時 平成四年一〇月七日

午前一一時二五分ころ

(二) 場所 大分県南海部郡弥生町大字大坂本一四五二番地の一先路上

(三) 加害者 被告石政志

(四) 加害車輌 筑豊一一さ九〇五輌

(五) 保有者 被告毛利忠

(六) 被害者 児玉賢

(七) 態様 前記路上(国道一〇号線)を被告石政志が加害車輌を運転して進行中、前方注視を怠り、道路左側をコンバインを運転して徐行していた被害者に追突し、本件事故発生日同日午後一時三〇分ころ、大分県佐伯市内の病院で胸腹部内臓破裂により死亡させたものである。

2  責任原因

(一) 被告石政志は、被告毛利忠の従業員として、加害車輌の運転業務に従事していたところ、前記のように前方注視義務を怠つた過失により本件事故を惹起させたものであるので、民法七〇九条の不法行為責任を負う。

(二) 被告毛利忠は、加害車輌の保有者であり、かつ、同車輌を自己のために運行の用に供していたものであり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負う。

3  損害

(一) 児玉賢の損害

(1) 逸失利益 合計金二九八九万八一六九円

児玉賢(以下、単に「賢」という)は昭和四年八月二四日生まれであり、本件事故当時六三歳であつたところ、妻の原告児玉文子(以下、単に「原告文子」という)、二男の原告児玉豊(以下、単に「原告豊」という)夫婦、三男の原告児玉輝彦(以下、単に「原告輝彦」という)が同居して手広く農林業を営んでいた。

そして、賢の就労可能年数は、簡易生命表の平均余命年数の二分の一の九年間であるところ、平成三年賃金センサス第一巻第一表中、産業計・企業規模計・男子労働者の学歴計による年収は五八六万八六〇〇円(計算式326,200×12+1,154,200)であるから、生活費割合を三割とし、中間利息を新ホフマン方式によつて控除すると、その逸失利益は金二九八九万八一六九円(計算式5,868,600×(1-0.3)×7.278)となる。

(2) 慰謝料 金二三〇〇万円

賢は、農林業を営み、健康状態も良好であり、自らコンバイン等の農機器具を使つて稼働し、家庭の中心であつたところ、本件事故により死亡するに至つたものであり、その苦痛を慰謝するには金二三〇〇万円が相当である。

(二) 賢の損害賠償請求権の相続

賢は前記のとおり、平成四年一〇月六日死亡し、配偶者である原告文子が二分の一、その余の原告らが子として、各六分の一宛の割合で、被告らに対する右損害賠償請求権を相続取得した。

(三) 原告文子固有の損害(葬儀費用) 金一二〇万円

原告文子は、賢の葬儀を執り行つたが、その費用として金一二〇万円を請求する。

(四) 損害の填補 金三〇〇〇万円

原告らは、自賠責保険より、賢の死亡保険金として金三〇〇〇万円を受領した。

(五) 弁護士費用 合計金一八〇万円

原告らは、本件訴訟の遂行にあたり、これを弁護士に委任せざるをえなかつたもので、本件事故と相当因果関係ある損害として、各原告が被つた損害の一割相当の金員を被告らに負担させることが相当である。

よつて、原告文子については、金一二〇万円、その余の原告については各四〇万円となる。

四  よつて、原告らは被告らに対し、損害賠償請求権に基づき、原告文子は金一三八四万九〇八四円、原告豊、原告輝彦及び原告宮脇寿賀子はそれぞれ金四二一万六三六一円並びに右各金員から前記各弁護士費用を控除した各金員に対する本件事故日である平成四年一〇月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める。

二 請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実は認める。

3  同第3項の事実のうち、(四)の事実は認め、(一)ないし(三)及び(五)の事実は知らない。

第三証拠

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるからここに引用する。

理由

一  請求原因第1、2項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告らの賠償すべき本件事故による損害の額について判断する。

1  賢の損害 合計金三四一四万三一八〇円

(一)  逸失利益 金一八一四万三一八〇円

成立に争いのない甲第1号証の1、2、第2、第3号証の1ないし4、乙第1号証及び原告文子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、賢は昭和四年八月二四日生まれであり、本件事故当時は六三歳であつたところ、健康状態も良好であり、生業として林業を営むかたわら、自らコンバイン等の農機器具を使つて主として自家用の農作物を栽培する(そのため食費への現金支出は多くなかつたようである)などほぼ一人で稼働し、今後も労働の意思も能力もあつた者であり、地域の役職にも幾つかついているなど通常以上の交際範囲があることが窺われること、二男、三男二人の息子は独立しているものの食住関係についてはある程度の依存関係が窺われるようであり、妻の原告文子以外に、右二男夫婦、三男が同居していること、その生活費は、金額自体は判然としないが、賢が必要に応じて原告文子に手渡していたこと(月額平均三〇万円くらい必要で貰っていた旨原告文子は供述しているが、後記所得額及び前記のように実質は二人住まいであり食費も多額に上ることはないなどという生活実態などからすればやや多額ではないかと思われるが、同居の二男の原告豊夫婦、三男の原告輝彦の食住費や、賢の交際範囲から考えられる地域社会における交際費等も考慮すれば、その程度必要な時期もあつたことは推認するに難くないといいうる)、林業収入自体の所得額は明らかでないが、賢の現金所得として判然としているものは、平成三年度が金四二万四千余円、平成四年度が一三万七千余円という程度のものであり、現金収入がないときは所有土地を売つたりして生活費に充てていたこともあること、賢は農業者年金を受給しており、その裁定年額は平成元年九月から平成六月八日までは金八一万八五〇〇円、平成六年九月からは金八万一八〇〇円であること、賢が六五歳になつたときに請求した場合に受給予定の国民年金は、年額七三万七三〇〇円の裁定予定額となつていること(ただし、国民年金の老齢年金を六五歳から受給した場合には、農業者年金は約三分の一に減額されるようである)などの事実を認めることができる。

ところで、本件においては、その判明している賢の現実所得は相当程度低額であるけれども、「死亡」による逸失利益の算定は長期に亘る将来の損害であること、また、就労可能な稼働能力それ自体を喪失したことも明らかであることから、平均賃金にも達しない程度の過去一、二年の現実所得や、低賃金であるなどの地域的特殊性を一応捨象して、一律に全国的な平均賃金で算定することには合理性があるというべきであるところ、前記認定事実を総合考慮すれば、本件においては、賢は本件事故に遭遇しなければ、少なくとも本件事故後就労可能な九年間に亘つて自賠責保険別表Ⅳの六三歳の男子の平均給与額である金三一万九六〇〇円(年額金三八三万五二〇〇円)の収入をあげうることができたものというべきであるから、その逸失利益につき、生活費控除として右収入の三割五分相当額を減じ、新ホフマン方式により、年五分の割合による中間利息を控除して(九年間の係数は七・二七八)本件事故当時の現価額を算出することが相当であると認める。

右により、賢の逸失利益を算出すると(一円未満の端数切捨て)、金一八一四万三一八〇円(計算式3,835,200×(1-0.35)×7.278)となる。

(二)  慰謝料 金一六〇〇万円

前認定のとおり、賢は農林業を営み、健康状態も良好であり、自らコンバイン等の農機器具を使って稼働し、家庭生活の中心であったものであり、前認定の態様の本件事故により、死亡させられるに至ったものであり、その痛恨の思いは甚大というべく、本件事故の態様、被害者の年齢等、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮するならば、これに対する慰謝料は一六〇〇万円をもって相当とする。

(三)  前掲原告文子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、配偶者である原告文子が二分の一、その余の原告らが子として、各六分の一宛の割合で、被告らに対する賢の右損害賠償請求権を相続取得したことが認められる。

2  原告文子固有の損害(葬儀費用) 金一二〇万円

弁論の全趣旨によると、原告文子は、賢の葬儀を執り行い、その費用として金一二〇万円を出捐したことが窺われるところ、同額を原告文子固有の損害として認めるのが相当である。

3  損害の補填 合計金三〇〇〇万円

原告らが自賠責保険より、賢の死亡保険金として、金三〇〇〇万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

そうすると、原告らの各損害額は、前記1、2掲記の各損害額から右自賠責保険から受領した右死亡保険金を法定相続分の割合に按分して各控除した額となる。

よって、原告文子の損害額は、金三二七万一五九〇円となり、その余の原告らの損害額は、それぞれ金六九万〇五三〇円となる。

4  弁護士費用 合計金八〇万円

原告らが、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任したことは、記録上明らかであるところ、本件請求額、認容額、事案の内容、訴訟の難易等の状況によれば、原告文子の分は金五〇万円、その余の原告らの分は各金一〇万円(合計金三〇万円)を、本件事故と相当因果関係ある損害として被告らが賠償すべきものと認められる。

五  結論

以上の次第で、被告らは各自、原告文子に対し金三七七万一五九〇円及びうち金三二七万一五九〇円に対する本件事故発生の日である平成四年一〇月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、原告豊、原告輝彦及び原告宮脇寿賀子に対しそれぞれ金七九万〇五三〇円及びうち金六九万〇五三〇円に対する本件事故発生の日である前同日から支払ずみまで同じく年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴各請求はいずれも右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上亮二)

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