大判例

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大分地方裁判所 平成6年(行ウ)4号 判決 1997年12月16日

原告

島田雅美

(ほか一一名)

原告兼右原告一二名訟代理人弁護士

河野聡

右原告一三名訴訟代理人弁護士

瀬戸久夫

被告(大分県知事)

平松守彦

同(大分県土木建築部長)

永石晏嗣

被告ら補助参加人

大分県

右代表者知事

平松守彦

右被告ら及び補助参加人訴訟代理人弁護士

内田健

岩崎哲朗

右補助参加人指定代理人

下郡政治

小松大輔

野中信孝

長浜昭憲

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは補助参加人に対し、連帯して金三億円及びこれに対する平成六年一〇月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告平松守彦は補助参加人に対し、金二一万二七七〇円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  事案の概要

本件は、補助参加人(以下「県」という。)の住民である原告らが、県の「一村一品クラフト公園」(以下「本件クラフト公園」という。)内に県が「皇太子御成婚記念庭園」(以下「本件記念庭園」という。)を建設したことにつき、これが憲法一条、一九条に違反し、また、本件記念庭園の設置によって、本件クラフト公園内にある営利企業の株式会社ハーモニーランド(以下「ハーモニーランド」という。)に不当な便宜供与をしたもので、地方財政法四条一項等に違反する等と主張して、本件記念庭園建設費用に関する支出命令の最終決裁権者である県知事と、右建設決定に関与した県土木建築部長に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、県に代位して、損害賠償(右建設費用として支出された三億円)の連帯支払を求め、さらに、本件記念庭園の開園式典及び皇太子の右庭園の視察に県知事を含む県職員が公費(旅費等)で出席したことにつき、これが憲法の定める天皇と国民との関係を破壊する行為で違憲であり、右式典において行われた神事に複数の県職員が参列したことが政教分離の原則に違反する行為であると主張して、右公費に関する支出命令の最終決裁権者である県知事に対し、県に代位して、損害賠償(右公費として支出された二一万二七七〇円)を請求したものである。

一  争いのない事実

1  原告らはいずれも県の住民である。被告平松守彦(以下「被告平松」という。)は後記本件各支出行為の当時県知事であり、被告永石晏嗣(以下「被告永石」という。)は、本件記念庭園建設決定の当時、県土木建築部長であった者である。

2(一)  県は、建設省が「皇太子殿下の御成婚を記念して国民の祝賀の意を表すとともに、自然と人間が調和した快適な都市環境の創造に資するため」、「皇太子御成婚記念公園事業」を実施する地方公共団体に対して支援することを目的とする「皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱」を定めたことを受けて、大分県速見郡日出町大字藤原所在の本件クラフト公園内に本件記念庭園を建設することとした。そして、県は、建設省から事業費三億円の内示を受けて、三億円を補正予算として計上し、平成五年九月県議会で議決を得て、同年一一月八日、建設大臣から国庫補助金一億五〇〇〇万円の交付決定通知を受けた。

(二)  本件記念庭園の庭園様式は、ヨーロッパ宮殿風で、噴水、花壇、体憩所、エスカレーター等が設置されている。

(三)  本件記念庭園の建築工事費は、事務費も含めて合計三億円であり、工事は平成五年一二月二九日に着工し、平成六年六月三〇日に完成し、この過程で三億円が支出された。

3  本件記念庭園の開園式が平成六年七月一一日に行われ、被告平松を含む県職員七九名が出席し、県から合計一二万一四九〇円の旅費等が支給された。

4  同年八月四日には、皇太子の本件記念庭園視察が実施され、被告平松を含む県職員一九名が出席し、県から合計九万一二八〇円の旅費等が支給された。

5  被告永石は、県の土木建築部長として本件記念庭園建設の決定に関与し、被告平松は、県の最終的決裁権者として右2ないし4の各支出(以下「本件各支出」という。)に関する支出命令に関与した。

6  原告らは、平成六年一〇月三日、本件各支出について、地方自治法二四二条一項に基づき、右支出によって県が被った損害の補填をするのに必要な措置を講じるよう請求した。これに対して、県監査委員は、請求人の主張は理由がないものと判断し、右監査結果は、同年一二月一日、監査請求人代表者であった原告河野聡に通知された。

二  争点

1  本件記念庭園の建設が憲法一条及び一九条に違反するか否か。

2  本件記念庭園の開園式典及び皇太子の同庭園視察に、県職員が公費で出席したことが、憲法の定める天皇と国民との関係を破壊し、憲法に違反するか否か。

3  右開園式典に際して行われた神事に県職員が出席したことが、政教分離原則に違反するか否か。

4  本件記念庭園の建設が、地方財政法四条一項等(地方財政法全般)に違反するか否か。

5  仮に本件各支出について右1ないし4の違法性が認められる場合、被告らに故意、過失が存在するか否か。仮に被告らに損害賠償責任が認められるとして、その賠償額はいくらか。

(原告らの主張)

(一) 憲法違反

(1) 憲法一条では、天皇は、日本国の象徴に過ぎず、その他位は主権者たる日本国民の総意に基づくと規定されているところ、未だ右象徴にもなっていない皇太子について、通常の結婚祝いの範囲内とは到底認められないような極めて多額の県費を用いて、本来私的な事柄である婚姻を記念する庭園を建設することは、憲法が定める国民主権と天皇の地位に反するものである。また、県費によって皇太子の結婚についての「祝賀の意」を表す施設を建設することは、特定の思想の表明を公費をもって誘導、奨励するものであるから、県民の思想、良心の自由を侵害し、憲法一九条に違反する。そして、このような庭園の開園式典や皇太子の庭園視察について、公費を用いて出席することも、同様に憲法の定める天皇と国民との関係を破壊する行為であって違憲である。さらに、天皇の地位に関しては、主権者である国民が自由に意思決定をなしうる環境を国家が保障しなければならないというのが憲法の規範的命題であり、天皇を尊敬すべきであるとか、尊重すべきであるとの一方的な観念を国家が流布することは、民主主義に反し、「国家思想」の樹立に該当するもので、許されない。本件記念庭園の建設は、県民の多額の税金を用いて皇太子の婚姻を記念する施設を作ることにより、天皇のみならず皇太子ひいては皇族一般を尊重し、その繁栄を祈念すべきであるとする特定の思想を流布し、そのような内容の「国民思想」を樹立しようとする企みであって、後記(2)で詳しく述べるように、憲法一九条の思想、良心の自由の現代的保障の内容である国家思想樹立の禁止、国家による特定の思想、価値観流布の禁止に抵触するものというべきである。

なお、被告は、「皇太子殿下御成婚の儀式(結婚の儀、朝見の儀及び宮中饗宴の儀)」は、単なる私的な行事ではなく、憲法七条一〇号に規定する儀式であると主張するが、皇太子の結婚式の一部が国事行為として行われた事実は、本件支出の違法性の判断に何ら関係のない事実である。皇太子の結婚はあくまで私的な事柄であり、ただ、皇太子の結婚式に伴って行われる一連の儀式の一部が、天皇が主催して行うという形式において憲法七条一〇号に当てはまることから、国事行為として扱われたに過ぎない。この点、本件記念庭園は「皇太子殿下御成婚の儀式」を記念して造られたわけではなく、「皇太子殿下の御成婚」を記念して造られたものであるから、「皇太子殿下御成婚の儀式」の公的性質の有無は本件に関係がない。

(2) 被告らによる思想、良心の自由の侵害について

<1> 日本国憲法の思想、良心の自由保障規定の意義

西欧諸国においては、思想、良心の自由は言論、出版の自由として、また、特に良心の自由は、宗教の自由の内容もしくはそれと不可分一体のものとして主張されてきた。思想、良心という人の内心領域について、一般的にその自由を直接保障する例は、比較憲法的にそれほど多くない。日本国憲法があえて思想、良心の自由を精神的自由権の冒頭に規定したのは、明治憲法の時代には、天皇の絶対的権威の前に国民の内心における思想、良心は自由であり得ず、天皇が精神的、道徳的領域においても絶対の権威として人々の内心に強い影響力を持ち、また、実際にも、思想そのものに対する厳しい弾圧、干渉が行われたという歴史を背景に、とりわけ天皇の道徳的権威から国民が解放されるべきことを示すためであった。このような日本国憲法制定の経緯に照らせば、本件のような天皇の権威や天皇に対する崇敬の念を国民に流布しようとする国家の行為については、特別に厳格な解釈が行われなければならない。

<2> 特定の思想や価値観の流布の禁止

日本国憲法は、二〇条及び八九条前段において、極めて厳格な政教分離規定を設けており、特に二〇条三項では、国家による宗教活動が絶対的に禁止されている。このように宗教との関係で特別に厳格な分離規定が設けられているのは、戦前の国家神道体制が宗教弾圧と悲惨な戦争への国民動員を招いたことに対する反省に基づくことは疑う余地もないところである。しかし、宗教と、宗教とは言えない思想、人生観、価値観、道徳といったものを完全に区別することは困難であるし、戦前の教育勅語や皇民化教育の反省に立てば、国家が宗教とさえ関わらなければ良いとはいえない。国家が特定の思想や人生観、価値観、道徳といったものをいくらでも保護し、国民に教化、宣伝してよいということになれば、思想、良心の自由は実質的に保障されているとはいえなくなる。信教の自由を実質ならしめるために、政教分離、特に国家による宗教活動の禁止が不可欠の制度として規定されているのと同様に、思想、良心の自由を実質ならしめるためには、特定の思想、価値観と国家との分離、特に国家による特定の思想、価値観の流布の禁止が不可欠の制度として要請される。そして、これは、前述の思想、良心の自由保障規定の制定経緯から必然的に要請される制度的保障というべきである。すなわち、憲法一九条には、思想、良心の自由を実質的に保障するための制度的保障として、国家思想樹立の禁止、国家による特定の思想、価値観流布の禁止を含んでいると解釈すべきである。

<3> 国家による特定の思想、価値観流布の禁止の基準

国家による思想、価値観流布の禁止の判断基準については、国家思想樹立の禁止、国家による特定の思想、価値観流布の禁止制度が政教分離制度と同様の構造を持っていると考える立場からすると、現在の最高裁判所の判断基準を参考に、「目的、効果基準」及び「過度の関わりの基準」が用いられるべきであるということになろう。すなわち、国家による行為の意図、目的が国民の特定の思想や価値観を広めようとするものだったか否か、国家の行為が、国民の自由な思想、価値観の形成を阻害し、一定方向に誘導する効果を有するものだったか否かという点が、客観的に一般人の基準から検討されなければならないし、これに加えて、国家が特定の思想や価値観と過度に結びついたといえないかどうかという点が検討されなければならない。ただ、政教分離原則との違いは、国家が関与し、流布しようとしている思想、価値観の中身の問題も険討しなければならないという点である。すなわち、「人権を尊重しましょう。」とか「差別をやめましょう。」といった思想を国家が広めることは、憲法の価値の実現のための行為として、憲法がむしろ要請するところであるし、「いじめ、体罰はやめましよう。」といった思想を宣伝することは、子供の権利条約によって国家に義務づけられているところである。他方、「親孝行をしましょう。」とか「老人を敬いましょう。」といった思想の流布は、戦前の「家制度」や「家族国家観」との関係で慎重にとらえられるべきである。また「北方領土は日本固有の領土です。」とか「日本のエネルギー政策に原子力は不可欠です。」といった思想の流布は、国民の自由な討議によって内心形成がされるべき問題に国家が関与するものとして許されないというべきである。結局、国家が関与し、流布しようとしている思想、価値観が、憲法や国際的な人権の基準からみて普遍的に承認されているものか否か、国民の自由な討議に任されるべきものか否かといった基準も付け加えられなければならないのである。

(4) 本件における判断

右判断基準を前提に本件を検討してみるに、まず、前述のように、本件が天皇に関する思想や価値観に関わる問題であることを重視する必要がある。憲法一九条の前記立法趣旨に照らせば、天皇に関する思想や価値観については、特に国家は慎重になるべきである。また、憲法一条が天皇の地位について、「主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定していることを重視しなければならない。すなわち、天皇の地位に関する思想、価値観については、特別に国民の内心の意思形成の自由を確保し、国民の自由な討議に委ねるべきことが憲法の要請なのであり、国家は天皇の地位に関する思想、価値観とは距離を置かねばならないという結論が導かれる。皇太子の結婚を祝うかどうか、つまり「皇族の繁栄を喜ぶか否か」という問題は、国民の自由な討議による内心形成に委ねるべき問題であり、国家が関与すべき問題ではないのである。次に、本件記念庭園の建設の目的及び効果であるが、まず、目的については、「皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱」において、「皇太子殿下、雅子妃の御成婚を記念して国民の祝賀の意を表すとともに自然と人間が調和した快適な都市環境の創造に資するため」とされており、「公言された目的」でも「皇太子の結婚に対して国民の祝賀の意を表す」という、皇室の繁栄を喜ぶ思想、価値観の流布が目的となっていることが明らかにされている。効果の面では、本件が国家によって全国的に行われた公園事業に呼応してされたものであること、県の支出金額が一億五〇〇〇万円という極めて多額のものだったこと、ハーモニーランドという子供から大人まで多数の利用者のある施設の真ん中に建設されたことなどからすると、「皇室の繁栄を喜ぶ思想、価値観」を国民の内心に形成させる効果は絶大なものがある。そして、県が多額の公費を用いて本件記念庭園を建設し、大々的に開園記念式典を行ったことから、「皇室の繁栄を喜ぶ思想、価値観」に過度に関わったものと認めることができる。

以上の理由により、本件における県の関与は憲法一九条に違反する行為だったというべきである。

<5> 本件における政教分離違反

本件記念庭園の開園式典においては「神事」が行われ、これに都市計画課長佐藤辰生の他、土木建築部長、土木事務所長等が参列していたが、右開園式典が「皇太子殿下御成婚記念」という皇室との関係で行われた儀式であったことも考え合わせると、特に「神事」の持つ意味は大きいというべきである。儀式が神道という特定宗教の方式によるもので、神官の主催するものであったこと、佐藤辰生らが儀式に一貫して参列して式次第に従った所作(柏手、玉串奉奠まで)を行ったこと、複数の県職員が組織的に出席して神道との象徴的な結び付きを生じさせたこと等からすると、政教分離に違反する行為というべきである。被告平松自身は参列していなかったというが、近くに待機して、県職員が参列していることを放置、容認していたのであるから、このような神事への参列を前提とした開園式典への参列に要した旅費、日当分について、決裁権者として損害賠償義務を負うというべきである。

(二) 地方財政法違反

(1) ハーモニーランドの営業敷地範囲と本件記念庭園の関係

本件記念庭園は、本件クラフト公園のうち、ハーモニーランド(第三セクターであるが、県の出資比率は資本金二七億一二〇〇万円のうち四億二〇〇〇万円であり、一五・四九パーセントに過ぎない。)に営業を許可している敷地の範囲のほぼ中央に位置する部分に建築されている。すなわち、平面図(乙一)に表われているように、ハーモニーランドに対する設置許可区域及び管理許可区域は、本件記念庭園を取り囲むように存在している。本件記念庭園の西側に隣接して、ぬいぐるみ人形による出し物が行われるフェスティバルステージが設けられ、北側には、ボートランド等が設けられており、さらに周囲を取り囲んでハーモニートレインが運行し、機能的にも本件記念庭園は、ハーモニーランドの区域内のハーモニービレッジとハーモニースクエアーを結び、三〇メートルもの高低差のある両施設間の往来を便利にする役割を果たし、ハーモニーランドの遊園地としての一体性を高める効果を有していることは明らかである。ところで、ハーモニーランドは営利企業であって、その経営は基本的に入場料と施設利用料で成り立っており、別紙図面1のとおり、青線で囲んだ範囲を柵で囲い、A点に入場口を設けて大人一五〇〇円の入場料を徴収して経営している。そして、ハーモニーランドの区域内には無料で利用できる施設もあり、ぬいぐるみ人形によるパレードなど、入場者なら誰でも見ることのできるサービスもある。このような施設では、無料で施設内に入場されては経営が成り立たないので、当然に有料入場口を設け、施設の敷地と外部とを柵その他の構造物で隔てている。もし、有料入場口以外に無料で入場できる入口があることを大々的に知らせれば、有料入場口から入場する者はいなくなって、経営に大きな影響を及ぼすことになる。ハーモニーランドがそのような愚を犯すはずはなく、一般の来場者には正面の有料入場口しか入口がないと認識させるように工夫している。その施設の真ん中に本件記念庭園を作るというのは、明らかに都市公園の目的を逸脱して、営利企業に対する便宜供与をなすものである。県は、その違法を糊塗するために、別紙図面1のB点に本件記念庭園への無料入場口を作っているか、無料入場口はハーモニーランドの施設を訪れる者には全く分からないような奥まった箇所に設けられ、その入場口ヘの案内表示も無いに等しい。もし、本件記念庭園への無料入場口の存在を大々的に案内表示すれば、ハーモニーランドの有料入場口から入場する者はいなくなり、ハーモニーランドの経営は破綻するだろう。そのため、ハーモニーランドでは、これら施設を包括した地域全体が有料地域であるという実態で経営しているのである。ハーモニーランドが作成しているパンフレットや園内案内図でも、これらの地域全体をハーモニーランドの区域であるかのような表示をしている。そして、本件記念庭園もハーモニーランドの区域内の施設として表示されているのである。すなわち、ハーモニーランド作成のガイドマップ(〔証拠略〕)では、裏面上部の「ハーモニーランドマップ」において、本件記念庭園は完全にハーモニーランド内の施設として表示されており、裏面下端では、本件記念庭園が「ハーモニーガーデン」との表示で紹介されている。しかも、本件記念庭園とハーモニーランドの他の施設との間には柵や塀はなく、外形的にハーモニーランドと一体をなしている。ハーモニーランドの施設に有料で入場した者は自由に本件記念庭園に出入りできることから、ハーモニーランドの施設を訪れる者の一〇人のうち一〇人は、本件記念庭園がハーモニーランドの一施設と認識するのであって、原告らが問題としているのは、まさにこの実態である。被告は、形式的にハーモニーランドに対する設置許可、管理許可の区域に本件記念庭園が存在しないと主張するが、問題はそのような形式的な許可区域の問題ではなく、実質的に本件記念庭園が営利企業であるハーモニーランドの一施設としての役割を果たし、ハーモニーランドの有料営業区域内に存在するのと同然に扱われているという事実なのである。そして、そのことが、本件記念庭園の建設が専らハーモニーランドの利益のためにのみされたことを如実に示しているのである。

(2) 地方財政法との関係

地方財政法四条一項にいう「目的」とは、都市公園としての目的を指し、同条項の「必要且つ最少の限度をこえて」とは、主として右目的を越えて営利企業に不当な便宜供与をしたことを指すところ、本件記念庭園は、営利企業であるハーモニーランドが営業している敷地の中心部に、県費をもって新たな目玉施設を提供したものであり、都市公園の目的を逸脱して営利企業に不当な便宜供与をなすものであって、同法四条一項等(地方財政法全般)に反し違法である。さらに、平成四年度及び平成五年度の二か年にわたり、県の農政企画課長が土木建築部参事の肩書でハーモニーランドに出向し、副社長を務めていたのであるが、本件記念庭園の建設がその期間に決定されている事実からも、本件記念庭園の建設がハーモニーランドに対する便宜供与の目的でされていることが推認される。そして、ハーモニーランドが本件記念庭園を自らの営業の対象施設であるかのように宣伝している事実、ハーモニーランドの施設と本件記念庭園との間の通路が解放されて料金徴収などが行われていない事実などを総合すれば、本件記念庭園はハーモニーランドという特定企業のみを利する施設であることは明白である。原告らは、本件訴訟の過程で「ハーモニーランドに無料で入れる。」ことを強調してきたが、これは、本件記念庭園がハーモニーランドの施設とは別個にたまたま隣接して作られた入場無料の都市公園に過ぎないとすれば、ハーモニーランドが相互に往来自由にしておくことは営業上あり得ないのであり、これを往来自由にしているのは、本件記念庭園の無料入場口が実態をなしておらず、多くの県民に本件記念庭園がハーモニーランドの施設の一部だと誤信させるトリックが成功しているからだという事実を明らかにするためであった。部市計画課長として本件記念庭園の建設に携わった佐藤辰生証人も、会社として経営が成り立つために、有料ゾーンという区域を設け、入園料も取っていることを普通の客は大体知っていると思う旨証言し、県が設置、管理を許可した区域とか建物の範囲とは別に、「普通の客」が「入園料」によって「有料ゾーン」として画されている範囲を大体知っているものだという認識を示している。このような「普通の客」の認識を前提とすれば、本件記念庭園は、まさにハーモニーランドの有料ゾーンの真ん中に存在するのである。また、右証人の証言によると、国が定めた記念公園事業要綱では、事業費は概ね一億円ないし二億円と定められていたが、本件記念庭園を急傾斜地である現在地に作ったため、事業費が三億円も要したとのことである。しかし、本件クラフト公園内には、本件記念庭園を作るスペースは他にもあったのであるから、急傾斜地である現在地に無理に作ったのは、ハーモニーランドの経営に利する意図があったためといわなければならない。さらに、本件記念庭園の建設が、ハーモニーランドの経営状態が苦しいことを踏まえて計画された事実を重視する必要がある。すなわち、ハーモニーランドは、県も出資する第三セクター方式の私企業であるが、バブル期に甘い集客見積もりに基づき計画を立てたことや、テーマの設定の安易さなどから、当初より経営は悪かった。当期損失も、累積赤字も、全国の第三セクター方式のテーマパークの中で、特に大きくなっている。このような状態の中で本件記念庭園が建設され、平成六年八月に開園したのを境に、当期損失が減少に転じたことはまさに象徴的なことであり、本件記念庭園の建設がハーモニーランドにいかに大きな経済的効果をもたらしたかということを如実に示している。

(三) 被告らの故意又は過失

被告永石は土木建築部長として本件記念庭園建設の決定に関与し、被告平松は大分県の最終的決裁権者として、本件各支出の支出命令に関与した。被告らは本件記念庭園建設及び本件各支出行為が明らかに違法であるにもかかわらず、故意又は重大な過失により、これに対応する違法な建設決定や支出命令に関与し、県をして前記金額の支出をさせて損害を被らせたものである。したがって、被告らは本件記念庭園建設のために支出された三億円につき、連帯して県に対して損害賠償をする義務があり、さらに、被告平松は開園式典及び本件記念庭園視察にあたって支出された旅費等合計二一万二七七〇円につき、県に対して損害賠償をする義務がある。

(被告ら及び補助参加人の主張)

(一) 本件クラフト公園建設の経緯

県は、昭和六〇年一一月二九日、大分県速見郡日出町大字藤原地区の面積四一・三ヘクタール(現在四四ヘクタール)を日出都市計画公園(名称は一村一品クラフト公園)とする旨の都市計画決定を行い、同年一二月二日、一期計画として二〇・八ヘクタール(現在二三・五ヘクタール)について、建設省の施策事業であるクラフトパーク事業として事業認可を受け、昭和六〇年度から建設を進め、平成三年四月二六日に開園した。なお、平成五年度から、二期計画として八・三ヘクタールの事業区域を追加し、平成六年度まで事業を進めている。右地区は、日出町から大分県速見郡山香町にかけての国道一〇号線沿いの丘陵地を対象とする地域であり、大分空港道路及び北大道路の整備の進捗により、今後、域外との交通のアクセスの向上が期待される地域である。県は、この地域を遊びと体験、学習活動が一体となって行えるエリアとして整備する方針で都市計画決定をしたものである。

(二) 本件クラフト公園の建設目的

本件クラフト公園は、単なる公園の枠を超えて、「一村一品運動」と県の伝統工芸の素材である「竹」の二大テーマを公園施設と結びつけ、「体験する」、「参加する」、「学ぶ」、「遊ぶ」、「発見する」といった行為を通じて、人と人との心のふれあいを調和(ハーモニー)として表現する参加学習型の公園として建設したものである。

(三) 第三セクター(ハーモニーランド)の設立の経緯

本件クラフト公園の建設にあたり、魅力のある施設を揃え、より多くの人が本件クラフト公園に集い、地域文化に触れながら楽しい一日を過ごせるような公園施設を整備するには、公園事業のみでは限界がある。このため、県は民間の有する資金力、企画力、運営ノウハウが不可欠であると判断し、民間活力の導入の推進を図る母体として、第三セクター方式での法人設立を行うことが最上であると考えた。県は、昭和六二年以降、本件クラフト公園の特性を発揮し、新しい観光資源ともなりうる都市公園としていくため、こうした分野においてノウハウを持っている株式会社サンリオを第三セクターの核として誘致することに努め、昭和六三年四月、一村一品クラフト公園事業に同社が参画し、第三セクターとして新会社(ハーモニーランド)を設立することが決定し、同年一〇月二二日、県、日出町、株式会社サンリオの他、金融機関等二三社が出資して第三セクターのハーモニーランドが設立された。

(四) 本件クラフト公園の整備

本件クラフト公園の建設目的を実現するため、県は、ハーモニーランドとともに施設整備を行った。県とハーモニーランドの整備分担の内訳については、基本的には敷地造成、園路築造等の一般的な公園施設は県が事業を実施し、極めて演出性の高い有料施設部分については、(県が昭和六三年一一月二四日、ハーモニーランドに対して都市公園法五条二項に基づく公園管理者以外の者の公園施設の設置許可を行った上で)ハーモニーランドが事業を実施した。このうち、県施工事業は昭和六〇年度から平成六年度に、ハーモニーランド施工事業は昭和六二年度から平成五年度にかけて実施した。

(五) 本件クラフト公園の管理者とその区域

本件クラフト公園として都市計画された区域は四四ヘクタール(乙一の色付けされた部分)であり、そのうち、都市計画事業認可を受け供用を開始している区域は三一・四ヘクタールである。ハーモニーランドが県から許可(設置許可と管理許可)を得て管理している区域(有料区域)は六・一五ヘクタール(乙一の赤色部分と青色部分)であり、財団法人大分県公園協会が県との委託契約に基づいて管理している区域は一七・三五ヘクタールであり、財団法人大分県緑化センターが県との委託契約に基づいて管理している区域は七・九ヘクタール(乙一の茶色部分)である。

(六) 本件記念庭園建設の経緯

(1) 本件記念庭園の建設目的

平成六年六月三日付建設省都公緑発第六一号建設省都市局長通知の皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱は、「皇太子殿下の御成婚を記念して国民の祝賀の意を表するとともに、自然と人間が調和した快適な都市環境の創造に資するため」に皇太子殿下御成婚記念公園の整備事業を行うこととした。県は、右要綱の趣旨に則り、皇太子殿下の御成婚を記念した憩いの場としての快適な環境を創出することにより、県民の慶祝の意を表すとともに、本件クラフト公園への愛着と広い利用の増進を図ることを目的として、本件記念庭園の整備を行うこととした。

(2) 本件記念庭園を本件クラフト公園内に設置するに至った経緯

本件記念庭園は、皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱などの目的に沿う施設として整備されたものである。その場所の選定については、右要綱に定めている事業中の県の都市公園について、自然と人間の調和、道路体系をはじめ諸般の条件について総合的に検討し、本件クラフト公園のグレードアップを図るという見地からも効果的であり、三億円を投下して行う皇太子殿下の御成婚を祝する庭園整備場所としても最適であるとして、本件クラフト公園を選定した。なお、本件記念庭園の設置場所は、本件クラフト公園の供用開始区域のほぼ中央に位置しているが、急斜面のためにその利用方法に苦慮していたところであり、当該国庫補助事業を有効活用して、特に本件クラフト公園内の(もう一つの)核となる都市公園施設と位置づけ、整備を行ったものである。

(3) 本件記念庭園の内容

本件記念庭園は、平成五年一二月に工事着手し、平成六年六月三〇日に竣工し、同年七月一一日に開園式を挙行した。本件記念庭園の規模は約四八六〇平方メートルで、事業費は三億円(国が二分の一、県が二分の一を各負担。)である。本件記念庭園に整備した施設は、カスケード(階段状の水流れ)二列、薔薇の宮殿一基、薔薇のアーチ二基、時計台一基、エスカレーター二基、休憩所二棟、噴水五六本及び植栽である。

(七) 本件クラフト公園内の(固有の)入口とハーモニーランド施設の入口との関係について

ハーモニーランドは有料入口を設け、県は本件クラフト公園内の無料ゾーンへの入口を北側に設けている。県が、本件クラフト公園内の固有の入口を右の位置に設けたのは、<1>当該入口が県管理の駐車場に近接していること、<2>本件クラフト公園の県管理区域に最も近い位置にあること、<3>この入口から入ることにより本件クラフト公園の県管理区域に設けられた散歩道や実証展示林等に起伏が少ない道路を通って入ることができること、等の理由に基づくものであり、利用者の利便に供するため右無料入口への案内板の整備など十分な配慮を施している。

(八) 本件記念庭園とハーモニーランドの営業敷地範囲との関係について

本件クラフト公園は、県管理区域、ハーモニーランドの営業敷地等からなるが、本件記念庭園は県管理区域内に設置されており、ハーモニーランドの設置許可区域及び管理許可区域には含まれていないものである。また、本件記念庭園が存する県管理区域とハーモニーランドの営業敷地範囲とは、柵等によって外形的に区分されている。いわゆる無料区域(県管理区域)とハーモニーランドの敷地間の往来は、ハーモニーランド側が出入口を設けてチェックできるようにしているが、これをどのように運用するかはハーモニーランドの経営上の扱いの問題である。ちなみに、本件記念庭園は、無料区域における利用困難な場所に、極めて明るいイメージの大型施設として国庫補助を受けて設けたものであって、このことにより本件クラフト公園全体のグレードが格段に向上した。この結果、本件クラフト公園内にあるハーモニーランドの営業敷地に対しても、反射的にグレードアップの効果があることは自明のことであり、これをもって、県が本件記念庭園を建設したことがハーモニーランドのために不当な便宜供与を行ったものということはできない。

(九) 本件記念庭園の開園式典出席及び皇太子の本件記念庭園視察への出席に係る旅費等について

本件記念庭園の開園式典出席のための旅費等には、平成六年七月一一日午後に大分県杵築市で開催された「知事と語ろうふるさと懇談会」に出席した旅費等も含まれており、右開園式典に出席するためだけに支給されたものではない。また、皇太子殿下の本件記念庭園視察に伴う旅費等には、皇太子殿下の日本ジャンボリー出席と殿下の地方事情視察案内を兼ねた用務の旅費等も含まれており、本件記念庭園視察に出席するためだけに支給されたものではなく、他の用務に係る旅費等と本件記念庭園の開園式典や視察についての旅費等とを区別することはできないものである。

(一〇) 本件記念庭園のための公費支出が憲法違反であるとの主張について

(1) 皇太子殿下は、憲法及び皇室典範の定めにより世襲による皇位継承の第一順位者と定められている。国や国民統合の象徴である天皇の地位につかれる立場にある皇太子殿下の御結婚は、当然国民的慶賀の対象である。このため、皇太子殿下の御結婚の一連の諸儀式、諸行事の中で、特に根幹をなすような結婚の儀、朝見の儀、宮中饗宴の儀については、憲法七条一〇号に定める国事行為とされており、また、「皇太子徳仁親王の結婚の儀の行われる日を休日とする法律」が平成五年四月三〇日に施行され、皇太子殿下の結婚の日が国民こぞって祝意を表す休日とされた。県は、「皇太子殿下の御結婚」を国民的慶賀の対象として記念し、これに県民の祝意を表すために本件記念庭園の整備事業を行ったものであり、「皇太子殿下御成婚の儀式」を記念してこれを行ったものでないことは当然である。

(2) 本件記念庭園の整備は、皇太子殿下の御結婚を記念するものであり、その祝意を強制するものではなく、憲法一九条が規定する思想、良心の自由を侵すものでないことは明らかである。原告らは、県費によって皇太子の結婚についての「祝賀の意」を表す施設を建設することは、特定の思想の表明を公費をもって誘導、奨励するものであるから、県民の思想、良心の自由を侵す旨主張する。しかしながら、本件記念庭園の建設は、特定の思想の表明を強制するものではない。憲法一九条が保障している内容は、<1>ある思想及び良心を持つことを強制したり禁止したりすることが許されないこと、<2>ある思想又は良心を持っていること、又は持っていないことを理由として不利益を加えてはならないこと、<3>思想及び良心を告白することを強制してはならないこと、であり、原告らの主張はそれ自体失当である。

(一一) 地方財政法四条一項等に違反するとの主張について

原告らは、県知事らのした本件記念庭園の工事費の支出及び開園式典等へ出席するための旅費等の支出が違法であることの根拠として、地方財政法四条一項及びその全体の趣旨に反すると主張する。右主張の根拠は必ずしも明確ではないが、第三セクターであるハーモニーランドに対する不当な便宜供与をしているということをその根拠とするものと思われる。ところで、前記(一)ないし(八)のとおり、本件記念庭園は、皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱に従い、皇太子殿下の御結婚を記念するにふさわしいカスケード、薔薇の宮殿等の諸施設を、地域の創意工夫に基づき、都市の緑と環境の創造に寄与する施設として、多くの住民が容易に利用できる立地条件を備えた本件クラフト公園の供用開始区域のほぼ中央部に位置していた急斜面に設置したものである。本件クラフト公園は、都市公園法に基づく都市公園であり、四四・〇ヘクタールの区域について都市計画決定がされ、現在まで、その内三一・四ヘクタールについて供用開始をしている現在建設途中の公園である。右供用開始区域の内、ハーモニーランドに設置並びに管理許可を与えた区域は六・一五ヘクタールに過ぎない。県は、本件クラフト公園を魅力あるものとし、多くの人々が集い、地域文化に触れながら楽しい一日を過ごせるようにするために、本件クラフト公園の重要な施設として民間事業者であるハーモニーランドに設置並びに管理許可を与えたのであって、原告ら主張の如くハーモニーランドに対する便宜供与のためにこれを与えたものではない。県は、本件クラフト公園内に、ハーモニーランドを誘致し、本件記念庭園を建設し、その他諸施設を設置しているが、これらはいずれも魅力ある都市公園を整備しようとする目的によるものである。本件記念庭園は、県管理区域内に存し、ハーモニーランドの設置並びに管理許可区域内に存しないことは明らかである。本件クラフト公園内に、ハーモニーランドの設置並びに管理許可区域が併存することから、有料ゾーンと無料ゾーンの二つの区域が発生するが、この管理をどのようにするかということと、本件記念庭園を本件クラフト公園内に建設することが違法かどうかという問題は、全く無関係である。したがって、本件クラフト公園内に本件記念庭園を建設することが、地方財政法四条一項等に違反するという原告の主張は理由がない。

(一二) 政教分離違反の主張について

いわゆる「津地鎮祭事件」及び「箕面忠魂碑事件」についての最高裁判所の判断に照らせば、本件において違憲の問題は生じないものである。

第三  争点に対する判断

一  前記争いがない事実に、〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  本件記念庭園建設の経緯

(一) 本件記念庭園の建設目的

建設省は、平成五年六月九日の皇太子の結婚を記念して、国民の祝賀の意を表わすとともに、自然と人間が調和した快適な都市環境の創造に資するため、地方公共団体の記念公園事業の実施及び支援に関し必要な事項を定めることを目的とした「皇太子殿下御成婚記念公園事業要綱」を作成し、右要綱を同月三日付けで、各都道府県知事及び政令指定都市市長に対して通知した。これを受けて、県は、皇太子殿下の結婚を記念した憩いの場としての快適な環境を創出することにより、県民の慶賀の意を表すとともに本件クラフト公園への愛着と広い利用の増進を図ることを目的として、本件記念庭園の整備事業の実施を決定した。なお、右要綱に基づく記念事業については、全国から要望のあった五八箇所の都市公園及び一〇箇所の国営公園において、記念施設を設置する方法で実施された。

(二) 本件記念庭園を本件クラフト公園内に設置するに至った経緯

前記要綱においては、建設省が記念公園事業として支援する記念公園の要件を次のとおり定めている。

(1) <1>皇太子殿下の御成婚を記念するにふさわしいものであること、<2>地域の創意工夫に基づいたものであること、<3>都市の緑と環境の創造に寄与するものであること、の三要件に該当し、かつ公園全体を記念公園として位置づけるにふさわしいものであること。

(2) 多くの住民が容易に利用できる立地条件を備えていること。

(3) 原則として事業中の公園であること。

なお、右要綱には、記念公園事業費は概ね一億円ないし二億円であることと定められていた。

ところで、右記念公園事業を実施する場所の選定については、その当時、大分県内で県ないしは市町村によって整備中の都市公園は一六程度存在したが、県から右市町村に対して照会したところでは、右記念公園事業を実施しようとするところはなく、また、当時、県営で事業中の公園としては、本件クラフト公園だけであったことから、同公園内において右記念公園事業を実施することになった。

本件クラフト公園は、一の市町村の区域を超え、広域にわたる住民の利用を目的とする大分県速見郡日出町大字藤原所在の広域公園であり、県が「一村一品運動」と県の伝統工芸の素材である「竹」をテーマに、「体験する」、「参加する」等の行為を通じて、人と人との心のふれあいを表現する参加学習型の公園として建設したもので、都市計画決定を受けた四四ヘクタールのうち、一二・六ヘクタールが今なお未整備の状況にある。そして、より多くの人々が公園に集い、地域文化に触れながら楽しい一日を過ごせるような公園施設の整備を行うために、民間活力を導入する第三セクター方式を採用し、第三セクターであるハーモニーランドを設立し、同会社に対し、本件クラフト公園内における施設の設置許可と管理許可を与えている。そして、本件記念庭園の設置場所は、別紙図面2のとおり、本件公園の供用開始区域のほぼ中央に位置する県管理区域内であり、本件記念庭園の周囲にはハーモニーランドが設置許可を受けた施設が設置されている。

(三) 本件記念庭園の建設概要

本件記念庭園は、平成五年一二月に工事着手し、平成六年六月三〇日に竣工し、同年七月一一日に開園式が挙行された。本件記念庭園の広さは約四八六〇平方メートルであり、その設置場所が急斜面であったことから、公園利用者の利便に供するために、エスカレーターを設置し、そのための費用として約八〇〇〇万円を要したことなどから、全体の事業費は三億円となった。建設省は、本件記念庭園建設を前記要綱に定める要件に該当するものとして採択し、右事業費の内、一億五〇〇〇万円を国庫補助金として県に交付し、その余の一億五〇〇〇万円の内一五〇〇万円を大分県日出町が、残り一億三五〇〇万円を県がそれぞれ負担した。本件記念庭園に整備した施設は、カスケード(階段状の水流れ)二列、薔薇の宮殿一基、薔薇のアーチ二基、時計台一基、エスカレーター二基、休憩所二棟、噴水五六本及び植栽等である。

(四) 本件記念庭園の開園式について

本件記念庭園の開園式は、平成六年七月一一日に本件公園内において、神事、鋏入れ式、庭園巡園(エスカレーター上り初め)、記念植樹、式典、アトラクション、レセプションの順に挙行された。このうちの神事は、本件記念庭園の建設を請負った施工業者が主催し、神主によって挙行され、鋏入れ式以降の行事は、県が主催した。そして、右神事には、右開園式に出席するために本件公園に来ていた被告永石らの県職員が参列し、儀式の例にならって、礼及び柏手をした。

(五) 本件記念庭園の開園式出席のための旅費等の支出について

右(四)の開園式には、被告平松を含む七九各の県職員が出席し、旅費等として合計金一二万一四九〇円が支給された。なお、右県職員の内一〇名は、同日行われた「知事と語ろうふるさと懇談会」や「特用林産実証展示林調査」の用務を兼ねて出張をしており、右一〇名については、開園式に出席するためだけに右旅費等が支給されたものではない。

(六) 皇太子の本件記念庭園視察のための旅費等の支出について

平成六年八月四日に皇太子の本件記念庭園視察が実施され、被告平松を含む県職員一九名が出席して合計金九万一二八〇円の旅費等が支給された。なお、皇太子は、「日本ジャンボリー」に臨席するために来県したもので、その際、地方事情視察の一環として本件記念庭園を視察したが、その案内のために右県職員の内の一部も同行したものであって、右一部の県職員については、本件記念庭園視察のためだけに右旅費等が支給されたものではない。

二  本件記念庭園の建設が憲法一条及び一九条に違反するか否かについて(争点1)

国あるいは地方公共団体が個人に対して、皇太子の結婚に祝意を表すことを法律上あるいは事実上強制した場合には、思想、良心の自由の侵害になると解されるが、前記一で認定した本件記念庭園の建設の経緯に照らせば、県費による本件記念庭園の建設が、原告らに対して、皇太子の結婚に祝意を表することを法律上あるいは事実上強制したものとは評価できないから、これをもって原告らの思想、良心の自由が侵害されたものとは解されない。また、憲法一条に違反する旨の原告らの主張は独自の見解であり、採用できない。

三  本件記念庭園の開園式典及び皇太子の同庭園視察に、県職員が公費で出席したことが、憲法の定める天皇と国民との関係を破壊し、憲法に違反するか否かについて(争点2)

前記一で認定した本件記念庭園の建設の経緯及び県職員の右各出席状況に照らせば、県職員の右各出席行為が憲法違反であるとは解されず、この点に関する原告らの主張は独自の見解であり、採用できない。

四  開園式典に際して行われた神事に県職員が出席したことが、政教分離原則に違反するか否かについて(争点3)

前記一の認定事実に照らせば、右神事は、本件記念庭園の建設を請負った施工業者が主催したもので、被告永石らの県職員による神事への参列は、本件記念庭園建設の事業者である県の関係者としての社会的儀礼として行われたものであり、右参列時における県職員らの行為態様も神道に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるようなものであったとは解されない。したがって、被告永石ら県職員の神事への参列は、憲法上の政教分離原則に違反しないというべきである。

五  地方財政法四条一項等に違反するか否かについて(争点4)

地方財政法四条一項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と規定しているが、右規定は、予算の執行は、個々の具体的な事情に基づいて、最も少ない額で目的を達成するように務めるべき執行機関に課された当然の義務を示したものであって、地方公共団体の支出について、具体的規制をするものではないというべきである。そして、公園をどの場所に、どの程度の規模及び内容で設置するかは、地域全体のバランスや公園設置の目的などの要因に基づき、多様な選択があり得るのであり、この点については、地方公共団体の長に広範な裁量権があるものと解されるところ、前記一で認定した本件記念庭園の建設の経緯、規模及び内容に照らせば、本件記念庭園の建設について右裁量権の行使に逸税ないし濫用があったとは解されない。さらに、原告らは、地方財政法四条一項にいう「目的」とは、都市公園としての目的を指し、「必要且つ最少の限度をこえて」とは、主として右目的を越えて営利企業に不当な便宜供与をしたことを指す旨主張し、不当な便宜供与であることの根拠としてハーモニーランドの諸施設と本件記念庭園の位置関係等につき指摘する。しかし、前述のとおり、地方財政法の趣旨は、予算の執行に際して合理的な理由のない不必要な支出を禁止するものであり、仮に、本件記念庭園の設置位置を現在の場所に選定したことが、結果的にハーモニーランドに対して何らかの便宜を供与することになったとしても、そのことをもって、ただちに本件記念庭園の建設についての出費が不必要な支出であることにはならないと解されるから、原告らの右主張はそれ自体失当であるといわなければならない。したがって、本件記念庭園の建設が地方財政法に違反する旨の原告らの主張は理由がない。

六  以上によれば、本件各支出行為については違法な点があるとは解されない。

第四  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告ら本訴各請求は、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 高橋亮介 秋信治也)

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