大分地方裁判所 平成8年(わ)300号 判決 1997年6月23日
主文
被告人を罰金五万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、酒気を帯び、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、平成八年八月一〇日午前一時四分ころ、大分市城崎町一丁目五番六号付近道路において、普通乗用自動車を運転した。
(証拠)《略》
(適用法令)
罰条 道路交通法一一九条一項七号の二、六五条一項、同法施行令四四条の三
刑種の選択 罰金刑
労役場留置 刑法一八条
(量刑事情)
本件は、被告人が、犯行前日の午後五時三〇分ころから犯行当日の午前零時三〇分ころまでの間、居酒屋において、ビール中ジョッキ一杯と焼酎をロックでコップ二杯、友人宅で、ビール大瓶二本と三五〇ミリリットル入り缶ビール一本を飲んだ後、酔いざましのため大分川の川岸に向かう際、深夜であり警察官に見つかることはないだろうとの安易な考えから、酒気帯び運転に及んだという事案であり、被告人には飲酒運転をせざるを得ないような緊急の必要性は存在せず、運転動機に酌量すべき点は全くない。また、被告人は平成七年五月と同年一一月に酒気帯び運転の罪により二度罰金刑に処せられ、前回、今後飲酒運転をした場合には職を失うことになる旨、職場の上司からも厳重に注意されていたにもかかわらず、そのわずか九か月後、前記のとおりの安易な考えから本件犯行に及んだものであって、被告人には交通法規に対する遵法精神が欠如していると評せざるを得ない。さらに、日出町では、折から交通安全宣言を出すなどして交通安全に積極的に取り組んでいる最中であり、被告人も教育行政にかかわる公務員として、その模範ともなるべき地位にあるにもかかわらず、故意犯である本件犯行に出たことの社会的影響も無視できない。
他方、本件における呼気一リットル中のアルコール濃度は〇・二五ミリグラムと、特に高濃度とまではいえないこと、被告人は平成七年一一月に罰金刑に処せられた後、本件以外に酒気帯び運転をしていたとは認められないこと、被告人は、今回初めて公判請求され、その審理を通じて、これまでの交通法規に対する自分の安易な態度の原因が、社会人としての自覚に欠けていたことにあると気付き、本件後は上司に対する態度も従前と違って責任あるものに変わってきていること、反省の気持ちを込めて法律扶助協会に合計二〇〇万円の贖罪寄付をしていること、被告人は今後二度と道路交通法違反をしないようにするため、本件犯行に使用した車両を既に処分しているほか、今後、車を持つことも運転免許を再取得することもない旨誓っていること、被告人は日出町教育委員会社会教育課において、庶務及び社会教育全般の仕事に就いているところ、文化財の発掘・保存にかかわる仕事については、同教育委員会において右仕事をできるのは被告人しかおらず、今後も各種開発に伴ってその需要が増大することが見込まれ、職場が被告人を必要としていること、本件公判廷において、被告人の任命権者である同町教育委員会教育長が、上司としてはもちろん、私的な面においても今後被告人の父親代わりとして指導、監督してゆく旨誓約していること、被告人は、本件によって既に停職六か月の懲戒処分を受け、現在も休職処分を受けたままであるなど、公務員として相当重い処分を受けていること、これまで被告人には罰金前科があるのみで懲役前科はないこと等、被告人のために酌むべき事情が認められる。
被告人の量刑につき、検察官は、酒気帯び運転で検挙されたのが三度目であること、被告人は地方公務員であり、現在公務員の廉潔性の保持が国民的な関心事になっていることなどから、特に懲役刑を選択すべきである旨主張する。
しかし、仮に懲役刑を選択した場合には、執行猶予を付したとしても被告人は公務員の身分を失うことになるが、右に指摘したような被告人のために酌むべき諸事情を考慮すると、これ以上、公務員としての身分まで失わせることになる刑を科すことは、本件における刑事処分としては酷にすぎ、被告人の改善更生にとって有効であるともいえない。そこで、前記のような諸事情を総合考慮の上、被告人に対しては、罰金刑をもって臨むのが相当と考えた次第である。
(求刑--懲役三月)
(検察官 水口博信、私選弁護人 中山敬三 各出席)
(裁判官 中牟田博章)