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大分地方裁判所 平成8年(ワ)606号 判決 1999年10月25日

原告

右法定代理人親権者父

同母

右訴訟代理人弁護士

德田靖之

工藤隆

被告

A

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

富川盛郎

千野博之

主文

一  被告Aは原告に対し、金九〇万円及びこれに対する平成八年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告B及び同Cは原告に対し、各自金四万円及びこれに対する平成八年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは各自、原告に対し、金三六〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成八年一〇月二七日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、○○中学校在学中、同校で同学年であった被告Aから、一年生の二学期(平成四年一一月ころ)から三年生までの間に継続して金員を脅し取られたり暴行を受けたりする等のいじめを受けたとして、被告A並びに当時同被告の親権者であった被告B及び同Cの三名に対し、不法行為に基づく損害賠償金三六〇万円(慰謝料三三〇万円、弁護士費用三〇万円)及びこれに対する遅延損害金を請求している事案である。

一  争いのない事実

1  原告及び被告Aは、平成四年に○○中学校(以下、「中学校」という。)に入学し、平成七年三月同校を卒業したものであり、在学中両名は吹奏楽部に所属していた。

2  被告Bは被告Aの父、被告Cは被告Aの母である。

二  争点

1  被告Aの原告に対するいじめの存否

(原告の主張)

被告Aは、原告に対し、一年生二学期から三年生までの間(原告及び被告Aの中学校での学年・学期をいう。以下、同じ。)に、別紙一記載のとおりのいじめを行った。

(被告らの主張)

被告Aは、原告が主張するような暴行や金銭の受け取りなどを行ったことはない。

被告Aは、他の生徒と一緒にじゃれ合って殴打したことはあるが、これは同被告が一方的に原告を殴打したものではない。また、雑誌を購入する際や釣りに行った際に金銭を借りたことがあるが、その回数及び金額はわずかであり、その後、原告に返還している。別紙一の3(五)記載の件は、肝試しでボートに乗り合って遊んでいたものであり、原告のみを無理やり乗せたのではない。

2  被告B及び同Cの責任の有無

(原告の主張)

被告Aの原告に対するいじめが長期に及んでいること、原告が、被告ら方に出入りし、被告Cが原告に対し感じの悪い子供であるとの印象を持っていたこと、被告Cが、原告が被告Aに現金を手渡している現場を目撃していることなどからすれば、被告B及び同Cは、被告Aの原告に対するいじめを十分認識し得る立場にあり、被告Aに対し指導・監督を行うべき地位にあったにもかかわらず、右いじめを漫然と見逃し、指導・監督義務を尽くさなかった違法性がある。

(被告らの主張)

被告B及び同Cに責任があるとの主張は争う。

3  損害額

(原告の主張)

前記1記載の被告Aによるいじめが行われた期間の長さ、その陰湿・執拗性、特にその態様が原告の人間性を全く否定するようなものであることなどを考慮すると、原告が受けた精神的苦痛の慰謝料としては少なくとも金三三〇万円が相当である。また、本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用は三〇万円である。

(被告らの主張)

原告が、精神的苦痛を受けていたとしても、平成一〇年一月二六日時点においては既に就職も決まり楽しい学生生活を送っているのであるから、原告の精神的損害は既に癒されており、一方、被告Aは、本件により社会的・精神的に苦しい不利益を被っているのであるから、これらの事情に照らすと、原告の精神的損害を認めることはできない。弁護士費用については争う。

4  消滅時効

(被告らの主張)

別紙一記載の原告主張事実のうち、1ないし4及び5(一)の事実については、原告が損害及び加害者を知ったときから三年を既に経過しているのであるから、かかる部分についての不法行為に基づく損害賠償請求権は既に消滅時効により消滅している。

被告らは右消滅時効を援用する。

(原告の主張)

別紙一記載の原告主張の被告Aの行為は、継続的不法行為であり、被告Aの一連の行為は一体として不法行為を構成するものである。したがって、本件請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、別紙一の8の事実が行われた時点であり、同消滅時効は本訴提起により中断されているので、いまだ完成していない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告Aの原告に対するいじめの存否)について

1  証拠(甲一の9、11ないし15、19、26ないし33、38ないし40、46ないし55、57ないし59、61、二の1ないし7、三の1、2、四の1、2、五の1、2、原告法定代理人、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、甲第一号証の57ないし59、61、62、被告A本人尋問の結果中これに反する部分は、前掲各証拠と対比して措信できない。

(一) 原告と被告Aとは、小学校のころからの知り合いで、小学校において同じクラスになったことがないものの、グループで一緒に遊ぶことがあった。

(二) 原告と被告Aとは、中学校入学と同時に、共に吹奏楽部に入り、部活動が終了した後には、一緒に帰ったり、二人で遊んだりしていた。当初、原告は、被告Aと対等の関係で一緒に遊んでいたものであり、被告Aから誘われても行きたくないという気持ちにはなっていなかった。

(三) 中学校一年生の二学期に入り、被告Aは、原告に対し、暴力をふるうようになった。原告は、原告と被告Aとの体格を比較すると、被告Aの方が原告よりも体格が良く、体力もあり、少林寺拳法を習っていて、けんかが強かったので、被告Aに対して反抗することができず、同被告に従属する関係になった。

(四) 中学校一年生二学期から同三年生の間において、被告Aは、原告に対し、別紙二記載の各行為を行った。この間、原告は、被告Aに反抗すれば、同被告から暴行を受けるとの思いから、被告Aの右行為を甘受していた。

これに対し、被告Aは、「原告が主張するような暴行や金銭の受け取りなどを行ったことはない。被告Aは、他の生徒と一緒にじゃれ合って殴打したことはあるが、同被告が一方的に原告を殴打したものではない。また、雑誌を購入する際や釣りに行った際に金銭を借りたことがあるが、その回数及び金額はわずかであり、その後、原告に返還している。3(五)記載の件は、肝試しでボートに乗り合って遊んでいたものであり、原告のみを無理やり乗せたのではない。」旨主張し、これに沿う供述をするが、同供述は、前掲の各証拠、特に別紙二の3(六)記載の暴行の際に臨場するなどした甲野太郎の供述記載内容及び他の同級生の供述記載内容(甲一の31ないし33、46、47、49、51ないし53。いずれも被告Aに不利な供述をする理由に乏しく、信用性が高い。)に沿わない内容であり、措信し難い。

(五) 原告は、平成五年一二月八日ころから、被告Aから暴行を受けることを恐れて、中学校を休むようになった。原告の登校拒否は、平成六年二月一九日まで続き、欠席日数は合計三九日に達した。

(六) 原告は、平成六年二月一四日ころ、原告の姉に対し、被告Aから釣りの時の餌代や釣り竿代を払わされ、それを断わると殴られる旨、また、他にもいろいろある旨言った。これを聞いた原告の姉は、原告の母親に原告がいじめられている旨伝えた。

(七) 原告は、平成六年二月ころ、前記(六)のとおり、被告Aからいじめられている旨が原告の母親に伝わったことにより、被告Aから後で呼び出されることを嫌い、また、被告Aが近くにいること自体を嫌って、吹奏楽部を退部した。

2 以上のとおりであるから、別紙二記載のとおり、ほぼ原告主張のとおりの被告Aの原告に対するいじめ行為があったものと認められる。

二  争点2(被告B及び同Cの責任の有無)について

1 前記のとおり、被告B及び同Cが、被告Aの父母であることは当事者間に争いがない。また、証拠(甲一の1)によれば、被告Aの原告に対するいじめが始まった時点(平成四年一一月)において、被告Aは一三歳であったことが認められる。そうすると、被告Aの行った行為と年齢に照らせば、同被告は同行為の責任を弁識するに足るべき知能(責任能力)を有していたといえるものの、同被告は未だ中学生であったから、被告B及び同Cは、被告Aの親権者として、被告Aが原告に対しいじめを行うことが予見し得る場合には、これを行うことがないよう指導監督すべき不法行為上の作為義務を原告に対し負っていたといえる。

2 しかし、証拠(甲一の55、被告C本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告B及び同Cは、平成六年二月ころ、中学校から被告Aが原告に対して暴行を行った旨の連絡を受けてはじめて、被告Aが原告に対していじめを行っていることを知ったことが認められ、本件全証拠によるも、それまでの間に、被告B及び同Cが、被告Aが原告に対しいじめを行うことを予見し得たことを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告は、被告Aの原告に対するいじめが長期に及んでいること、原告が被告ら方へ出入りし、被告Cが原告に対し感じの悪い子供であるとの印象を持っていたこと、被告Cが、原告が被告Aに現金を手渡している現場を目撃していることから、被告B及び同Cは被告Aの原告に対するいじめを十分認識し得たと主張するが、本件全証拠によるも、被告Cが現金手渡しの現場を目撃していることを認めるに足りる証拠はなく、その余の原告主張事実を前提としても、被告B及び同Cが、被告Aの原告に対するいじめを予見し得たとはいえない。

そうすると、被告B及び同Cには、平成六年二月に中学校から連絡を受ける以前においては、被告Aに対しいじめを行うことがないよう指導監督すべき作為義務はなかったといえるが、それ以後においては作為義務があるといえる。

3 そこで、平成六年二月以後の被告Aの原告に対するいじめ(別紙二の8記載の行為)についての被告B及び同Cの責任について判断するに、前記一1掲記の各証拠及び被告C本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告B及び同Cは、前記中学校からの連絡を受けた後においても、被告Aのいじめの存在を否定する弁解を鵜呑みにして、同被告に対する有効適切な指導監督を行わなかったことが認められる。

そうすると、その結果発生した別紙二の8記載の被告Aの行為については、被告B及び同Cにも不法行為責任が成立することになる。

三  争点3(損害額)について

1  慰謝料について

(一) 前記一認定のとおり、被告Aの原告に対するいじめは一年以上にわたる長期間に及んでいること、かかる期間に多数回にわたり原告に対し暴行に及び、また、金銭を要求し、これを取得していること、原告を「マネーフレンド」と称し、また、中学校の試験において答案を白紙で提出させるなど原告の人間性を全く否定するような態様のものであること、原告は、被告Aのいじめにより合計三九日間にわたり中学校の欠席を余儀なくされ、また、吹奏楽部を退部せざるをえなくなったことなどを考慮すると、原告は相当の精神的損害を被ったというべきである(なお、被告は、原告の精神的損害は既に癒されており、一方、被告Aは、本件により社会的・精神的な不利益を被っているのであるから、これらの事情に照らすと、原告の精神的損害を認めることはできない旨主張するが、かかる主張が採用できないことは明らかである。)。

(二) 一方、証拠(甲一の35、47、49、59、原告本人、被告A本人)によれば、原告は、普段から差し出がましい性格で、友人を侮辱的な呼称で呼んでいたこともあり、このことによって被告Aによるいじめを誘発したという側面があることが認められ、また、原告は、被告Aからいじめを受け始めた時点において、既に中学校一年生(一二歳)であったのであるから、親権者等に相談するなどして事態を改善することも可能であったにもかかわらず、一年以上にわたり相談等を行うことがなかったことが事態を深刻化させたといえることなどの事情もあり、損害額の算定に際しては、これらの事情も考慮すべきである。

(三) 以上の事情のほか、原告が被告Aの要求に応じて交付した金銭の額等諸般の事情を総合考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、八〇万円が相当である。

2  弁護士費用について

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し費用及び報酬の支払を約束していることが認められるところ、本件事案の性質、困難性等に照らすと本件と相当因果関係にあるものとして原告に負担させることのできる弁護士費用は、一〇万円と認めるのが相当である。

3  被告B及び同Cの支払うべき損害額について

別紙二の8記載の被告Aの行為については、被告B及び同Cにも不法行為に基づく損害賠償責任があるところ、右行為の程度・内容に照らせば、被告B及び同Cは、慰謝料三万円及び弁護士費用一万円の合計四万円を被告Aと連帯して支払う義務があるというべきである。

四  争点4(消滅時効の成否)について

被告らは、別紙一記載の原告主張事実のうち、1ないし4及び5(一)の事実については、原告が損害及び加害者を知ったときから三年を既に経過しているのであるから、かかる部分についての不法行為に基づく損害賠償請求権は既に消滅時効により消滅している旨主張する。

しかし、本件における原告の精神的苦痛は、被告Aによる前記一1記載の不法行為の累行により、継続的に増悪したものであり、その損害を被告Aの各行為ごとに切り離して評価することは極めて困難であって、前記一1記載の一連の不法行為は、包括して一個の連続した不法行為と評価でき、これによって生じた原告の精神的損害も、包括して一個の損害として評価できる。

そうすると、本件における消滅時効の起算点は、前記一1記載の一連の不法行為が終了した平成六年四月以後(中学校三年生時)であり、平成八年一〇月四日に本訴の提起があったことは記録上明らかであるから、本訴の提起により消滅時効は中断し、いまだ消滅時効は完成していない。

したがって、この点に関する被告らの主張は理由がない。

第四  結論

そうすると、原告の被告らに対する請求は、被告Aに対し九〇万円及びその余の被告らに対し各自四万円並びにこれらに対する訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな平成八年一〇月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用につき、民訴法六一条、六四条本文、六五条一項を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・一志泰滋、裁判官・脇博人、裁判官・小松本卓)

別紙<省略>

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