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大分地方裁判所 昭和29年(ワ)300号 判決 1958年2月13日

原告 株式会社西日本相互銀行

被告 徳丸勝 外六名

主文

被告等は原告に対し連帯して、金二百五十万九千百七十円及び内金四万二千五百円に対する昭和二十六年八月六日以降、内金四万二千五百円に対する同年九月六日以降、内金二百四十二万四千百七十円に対する同年十月六日以降各完済に至る迄日歩金七銭の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

本判決は第一項に限り原告において各被告に対し夫々金五十万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告等は原告に対し各自金二百五十万九千百七十円及びこれに対する昭和二十六年八月六日以降完済に至る迄日歩金七銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として「原告は昭和二十六年二月八日訴外大分食糧株式会社との間の無尽契約に基き、金二百五十五万円を同会社に給付し、同会社は原告に対し、

(一)  契約給付金二百五十五万円の弁済期日は昭和三十一年一月五日とし、当該無尽の掛金は昭和二十六年二月より昭和三十一年一月迄六十回毎月五日限り金四万二千五百円宛支払うこと(但し、第一回の二月分は既に払込済)

(二)  右掛金の払込を完了したときは最終回の日にその掛込金全額と契約給付金とを相殺する。

(三)  給付による掛増金は右掛金一回につき金二万二千五百円とし、第二回(昭和二十六年三月)より第六十回迄掛金と共に支払うこと。

(四)  右会社は現在及び将来の掛込金に対し本債務の担保として質権を設定すること。

(五)  掛金及び掛増金の払込を三回以上延滞したときは何等の通知手続を要せずして当然に期限の利益を失い契約給付金を一時に弁済すること。

(六)  右会社が債務の履行を怠つたときは払込の日迄掛金及び掛増金につき日歩金七銭の割合による損害金を支払うこと。

を約し、被告等は右会社の債務を連帯保証した。

ところが、右会社は昭和二十六年八月分以降の掛金及び掛増金の支払を為さなかつたので前記約定に基き同月以降昭和三十一年一月分迄の各五十四回分の掛金金二百二十九万五千円及び掛増金百二十一万五千円の債務につき分割弁済の利益を失い直ちにこれを支払うべき義務を負担するに至つた。

ところで右会社は営業振わず為に大分地方裁判所昭和二十七年(ミ)第一号事件として会社更生の手続に入つたが効を奏せずして昭和三十二年五月十八日更生手続廃止の決定があり破産手続に移行しているものであるが、右更生手続中本件債務の内金三十九万千九百八十円を弁済し、本件債務の他の連帯保証人である訴外大分澱粉工業株式会社も金五十二万八千八百五十円を弁済し、又原告は前記主債務者たる訴外会社が原告に対し有していた金八万円の預金債権と本件債務とを昭和二十六年八月六日対等額において相殺し、いずれも本件債権の内掛増金に充当した。

よつて被告等に対して夫々掛金債務金二百二十九万五千円及び掛増金残債務金二十一万四千百七十円合計金二百五十万九千百七十円及びこれに対する昭和二十六年八月六日以降完済に至る迄約定利率日歩金七銭の割合による損害金の支払を求める為に本訴に及んだ」。と述べた。

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

「原告主張の事実中、掛金及び掛増金を三回以上延滞したとき掛増金についても期限の利益を失い一時にこれを弁済する旨の特約のあつたことは否認するが、その余の事実はすべてこれを認める。」と述べた。

理由

原告が昭和二十六年二月八日訴外大分食糧株式会社との間の無尽契約に基き、金二百五十五万円を同会社に給付し、同会社は原告に対し、

(一)  契約給付金二百五十五万円の弁済期日は昭和三十一年一月五日とし、当該無尽の掛金は昭和二十六年二月より昭和三十一年一月迄六十回毎月五日限り金四万二千五百円宛支払うこと(但し、第一回の二月分は既に払込済)

(二)  右掛金の払込を完了したときは最終回の日にその掛込金全額と契約給付金とを相殺する。

(三)  給付による掛増金は右掛金一回につき金二万二千五百円とし第二回(昭和二十六年三月)より第六十回迄掛金と共に支払うこと。

(四)  右会社は現在及び将来の掛込金に対し、本債務の担保として質権を認定すること。

(五)  掛金及び掛増金の払込を三回以上延滞したときは何等の通知手続を要せずして当然に期限の利益を失い契約給付金を一時に弁済すること。

(六)  右会社が債務の履行を怠つたときは払込の日迄掛金及び掛増金につき日歩金七銭の割合による損害金を支払うこと。

を約し、被告等が右会社の債務を連帯保証したことは当事者間に争いがない。

原告は右契約は掛金又は掛増金の払込を三回以上延滞したときは掛増金についても当然に期限の利益を失以これを一時に弁済すべき約定であつたと主張するに対し被告等はこれを争うのでこの点について判断する。

そこで本件無尽契約についてその性質を次に考えてみる。

本件契約はその内容が示すとおり所謂「両建式」と呼ばれる無尽方式であることは前記約定の(二)及び(四)を見れば明白であり、右方式によれば一応講元たる原告が給付金を貸付け、右会社が掛金及び掛増金を原告に寄託(消費寄託)する形式をとつている。即ち、原告及び右会社は共に夫々別個の独立した債権債務の関係にあり互に干渉するところがない。そこで掛金の全額を払込んだときに加入者の給付金返還債務と掛金の返還債権全額とを相殺する必要があり、又加入者の掛金返還債権の第三者よりの差押等を防止する為右債権につき質権を設定する必要が生じるのである。

以上のように解すれば本件訴外会社の原告に対する掛金を掛込む債務は無尽契約における特殊の債務であり、従つて掛金全額を払込んだときはその返還請求権が生じるものであつて、原告より受けた給付金の返還債務の弁済に当然充当せられるものではないと云うべきである。

右の如き掛金債務の性質即ち消費貸借による債務の弁済に非ざることは又最終回に給付を受けた加入者についてみれば明らかである。即ち右加入者は最終回に至る迄給付金を受領していないのであるからその以前においては何等弁済すべき債務は存在しない。従つて給付に至る迄の掛金の支払は存在しない債務に対する弁済と解せざるを得ず、その不合理はあえて究明すべき必要をみない。

次に本件においては右会社は第一回にその給付を受けたので所定掛金即ち給付金額を掛込回数で除した金額の外、掛増金として毎回金二万二千五百円を掛込むべき債務を負担するに至つているものであるので、その性質についてみると実質的にみると右は給付金に対する利息の如き観がないでもない。が必ずしもこれにつきるものではなく、本件の如く相互銀行法等に基き厳重なる監督を受ける原告を講元とする営業無尽においては講員において掛金の払込を為さないものがある場合には、講元においてそれを理由にして他の講員に対し講金の支払を拒むことができないのであるから、右掛増金に相当する額は右資金その他講を運営する費用に充当せられるべきものである。この意味において右両建式無尽契約における掛増金は寄託の性質を有するものでなく、無尽契約独得の債務と云うべきである。

前記契約(五)によると、掛金及び掛増金の払込を三回以上延滞したときは期限の利益を失い契約給付金を一時に弁済することと定められているが、右契約給付金を一時に弁済するとは畢竟数十回に分割して弁済せられるべき掛金債務を一時に弁済すべきものとせられる意味に解すべきである。何者契約給付金を返済すべき債務は右契約においては分割弁済の特約が存せず、単に弁済期日は昭和三十一年一月五日とせられているにすぎないのみならず、元来両建式無尽契約においては掛金債務を完済せしめれば当然これを契約給付金と相殺せしめて講元の給付金返還債権を満足せしむるに至る理論構成をとつているのであるから右の如く解するはその理論上の帰結であるからである。又本契約において掛金及び掛増金債務につき日歩金七銭の損害金の約定が存し、契約給付金返還債務についてはかゝる約定の存しないことも右解釈の一助ともなり得るであろう。

而して掛増金の性質が前述のように無尽契約独特のものであつて利息とは云い得ない点及び前記契約(三)により明らかな如く右は掛金と共に支払うべきものとせられている点よりみれば、掛金債務を一時に弁済すべきに至つたときは掛増金債務も共に一時に支払われなければならないものであると解するを相当とし、他に右解釈と異る解釈を見出すに足りる資料は存在しない。

次に、被告等が右訴外会社の債務を右無尽契約と同時に連帯保証したこと、右会社が昭和二十六年八月分以降の掛金及び掛増金の支払を怠つたことは当事者間に争がないので、前記約定に基き右会社及び被告等は各自同月五日に支払われるべき掛金四万二千五百円、掛増金二万二千五百円につき同月六日に遅滞に陥り、同年九月五日に支払われるべき同金額につき同月六日遅滞となり、同年十月六日においては同月より最終回迄に支払われるべき掛金二百二十一万円、掛増金百十七万円につき遅滞に陥つたものである。

而して原告が同年八月六日右会社の原告に対して有していた預金債権金八万円と本件債権とを対等額において相殺し右を掛増金債権に充当したことは当事者間に争がないが、右判示の如く当時において原告は被告に対して金二万二千五百円の弁済期の到来した掛増金債権のみしか有していなかつたのであるから右額においてのみ相殺の効力が生じたものと解すべきである。

ところで右会社が営業不振の為に大分地方裁判所昭和二十七年(ミ)第一号事件として会社更生の手続に入つたが、効を奏せず昭和三十二年五月十八日更生手続廃止の決定があり破産手続に移行しているものであること、右更生手続中右会社は本件債務の内金三十九万千九百八十円を弁済し、本件債務の他の連帯保証人である訴外大分澱粉工業株式会社も金五十二万八千八百五十円を弁済したことはいずれも当事者間に争がない。

次に右弁済金は本件債権の内掛増金債権に充当せられたことは当事者間に争がないので法定充当の規定に則り先ず弁済期の至りたる昭和二十六年九月五日に支払われるべき掛増金債務金二万二千五百円に充当せられ、ついで同年十月六日に遅滞に陥つた金百十七万円の掛増金債務に充当せられたものと云うべきである。

よつて右有効に相殺及び弁済せられた金員合計金九十四万三千三百三十円を右計算によつて控除するときは原告は被告等に対して夫々金二十七万千六百七十円の掛増金債権を有するものと云うべきであるから、右内金二十一万四千百七十円及び掛金債権金二百二十九万五千円合計金二百五十万九千百七十円並びに右掛増金債権金二十一万四千百七十円及び掛金債権の内昭和二十六年十月六日遅滞に陥つた金二百二十一万円合計金二百四十二万四千百七十円に対する同日以降完済に至る迄、同年九月六日遅滞に陥つた掛金債権金四万二千五百円に対する同日以降完済に至る迄、同年八月六日遅滞に陥つた掛金債権金四万二千五百円に対する同日以降完済に至る迄各約定利率日歩金七銭の割合による損害金の支払を求める権利がある。

結局原告の本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条、仮執行の宣言について同法第百九十六条を夫々適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田亦夫)

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