大分地方裁判所 昭和33年(ワ)16号・昭33年(ワ)383号 判決
本件における本訴被告の主張は多岐に亘つておるが、判決摘示の事実は大要次のようである。
原告(反訴被告)は、Kより被告(反訴原告)振出名宛人Kなる金額十五万円の約束手形を昭和三一年一二月八日裏書によつて譲受け、同月二〇日F銀行に裏書譲渡したところ、同銀行が支払のために呈示したに拘らず、支払がなかつたので、原告は同銀行より償還請求を受けて受戻したと主張し、
被告は原告の主張事実を認めて次のとおり抗弁した。
(一)原告の受戻前にF銀行に弁済した。
(五) 本件手形は騙取ないし横領せられた手形であつて、その情を知れる害意の取得者たる原告に支払うべき義務はない。即ち、
被告はKと、被告所有の自動三輪車とK所有の小型四輪トラックを交換し、その交換に伴う差金として被告よりKに三十万円を支払うことを約し、Kに本件手形を振出し交付し、Kにおいて割引の上内金五万円は右差金の支払に充て、残金十万円は被告に融資せしめることとしたところ、その頃Kは既に右トラックは原告に対する債務担保のために差入れておつたのであつて、右のように交換する意思もなく、被告に融資を得せしめる意思もないのにこれを秘して本件手形を詐取したのである。仮りにそうでないとしても、本件手形受領後Kは被告との約定を遵守する意思を捨て自己の為に領得せんとしたものである。原告はこのことを知悉しながら敢て同人に対する多額の貸付金の回収を急ぎ、譲渡せしめたものである。
(三)仮りに、手形上の権利を原告が取得したとしても、その権利行使は反社会性を有し権利の乱用である。
(四)原告の本件手形の取得は不法行為であるから、その損害賠償債権をもつて相殺する。
(五)本件手形上の権利取得は不当利得であるから、返還請求権をもつて相殺する。そして、反訴として、原告は右のように騙取或いは不法領得により手形を取得した無権利者であるKより、悪意をもつて裏書譲渡を受けたのであるから、手形返還義務がある、と主張した。
裁判所の判断
裁判所は、被告がKに本件手形を振出し交付した事情として、
Kは本件手形を騙取したのではなく、真実自動車を交換し、割引の上融資する意思をもつて交付を受けたものと認定し、唯被告との交換契約が履行不能となることを知りながら、自己の小型四輪車を他に譲渡し、手形は自己の原告に対する債務支払のために裏書譲渡し、原告は、Kと被告との間に車輛交換に伴う差金支払のために振出されたという事実のみを知つて譲受けたものである、と認定した。
そして、弁済の抗弁については証拠なく、被告は騙取せられたものとはいえず、また差金支払義務の消滅及び割引金不交付の抗弁をするものとしても、原告に害意はないから採用できず、原告の手形上の権利取得が不当利得だとか、その権利行使が乱用だとはいえないとし、Kは本件手形上の権利を有しないものであつたとは認められないから、原告の本件手形取得を善意取得の有無をもつて論ずべきではないとした。
以上の理由で、本訴請求を正当とし、反訴請求を理由なしとして棄却した。