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大分地方裁判所 昭和34年(ワ)344号 判決 1960年6月29日

原告 永井輝生

被告 三宅茂生

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告は「被告は原告に対し一八五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三四年八月一五日から支払の済むまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

昭和三三年六月五日被告は、日伯セメント工業株式会社取締役社長三宅茂生の名義で、電化興業株式会社に対し、金額一八五、〇〇〇円、満期同年九月二五日、支払地振出地とも別府市、支払場所豊和相互銀行別府支店なる約束手形一通を振出し、電化興業株式会社は右手形を満期に支払場所で呈示して支払を求めたが拒絶された。そうして同年九月二八日原告は、電化興業株式会社から右手形の裏書譲渡を受けてこれが所持人となつた。ところで日伯セメント工業株式会社なる会社は、登記のない架空の会社であるから、被告が同会社取締役社長三宅茂生なる名義で振出した本件手形の手形金債務は、被告三宅茂生個人に帰属するものと解するのほかはない。よつて原告は、被告に対し、本件手形の手形金一八五、〇〇〇円及びこれに対する支払命令送達の日の翌日である昭和三四年八月一五日から支払の済むまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

二  被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

三宅茂生が原告主張の日に原告主張の名義で原告主張の約束手形一通を電化興業株式会社に対して振出したことは認める、原告主張の裏書の事実は知らない、日伯セメント工業株式会社が商業登記簿に登載されていない会社であることは認めるが、同会社は、日伯商事株式会社工事部の通称であり、本件手形は、三宅茂生が日伯商事株式会社の代表者として振出したものなのであるから、被告三宅茂生個人が振出人としての責を負うべきいわれはない。

三  原告は、立証として、甲第一及び第七号証(第二ないし第六号証は欠号)を提出し、被告訴訟代理人は、甲号各証の成立を認め、当裁判所は、職権で、原告本人を尋問した。

理由

一  昭和三二年六月五日被告が日伯セメント工業株式会社取締役社長三宅茂生の名義で、電化興業株式会社に対し、金額一八五、〇〇〇円、満期同年九月二五日、支払地振出地とも別府市、支払場所豊和相互銀行別府支店なる約束手形一通を振出したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果を綜合すると電化興業株式会社は、株式会社伊予銀行に委任して右手形を満期に支払場所で呈示して支払を求めさせたが拒絶され同日これを原告に裏書譲渡したことを認めることができる。

二  そこで原告は、日伯セメント工業株式会社は登記のない架空の会社であるから本件手形の手形金債務は被告三宅茂生個人に帰属すると主張するので、この点について考察を進める。日伯セメント工業株式会社が商業登記簿に登載されていない会社であることは、被告の自白するところであるが、前掲甲第一号証及び成立に争いのない同第七号証並びに原告本人尋問の結果を綜合すると、被告は、日伯商事株式会社の代表取締役であること、同会社は、もと、金融業及び不動産売買業並びにこれに附帯する一切の事業を目的としていたところ、昭和三二年五月三一日右目的を変更してセメント瓦及びブロツク製造販売を不動産売買業の次に加え、右部門を日伯商事株式会社工事部又は日伯セメント工業株式会社の名称で運営していたこと、株式会社豊和相互銀行別府支店に日伯セメント工業株式会社という名義で当座預金口座を開設していたことを認めることができる。してみると、日伯セメント工業株式会社とは、日伯商事株式会社工事部の通称であると解することができる。もつとも原告本人尋問の結果によると、原告は本件手形取得の当時、日伯商事株式会社とは別に、商業登記簿に登載された日伯セメント工業株式会社なる会社が存在するものと信じていたことが認められるけれども、この事実のみでは未だ前記判断を左右するに足りず、他にこれを左右すべき証左はない。

してみると、本件手形は、日伯商事株式会社の代表取締役である被告が、同会社工事部の通称である日伯セメント工業株式会社のために振出したものであり、結局日伯商事株式会社のために振出したものというべきであるから、本件手形の手形金債務は日伯商事株式会社に帰属するものというべく、被告三宅茂生が個人として右手形金債務を負うべきいわれはない。

三  してみると被告三宅茂生個人に対して本件手形の手形金の支払を求める原告の本訴請求は、失当というのほかないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 乾達彦)

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