大分地方裁判所 昭和34年(行)5号 判決 1965年4月13日
原告 藤野準一郎 外二名
被告 大分県教育委員会
主文
原告藤野の本訴請求を棄却する。
原告野田の本件訴を却下する。
被告が昭和三四年八月一八日付をもつてなした原告宇野に対する懲戒処分を取消す。
訴訟費用はこれを二分し、その一は原告藤野、同野田等の負担、他の一は被告の負担とする。
事実
第一、
一、原告等の求める裁判
被告が昭和三四年八月一八日付をもつてなした原告藤野に対する停職六ケ月、原告野田に対する停職五ケ月、原告宇野に対する停職一ケ月の懲戒処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
予備的に、
右各懲戒処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求原因
(一) 昭和三四年八月一八日当時原告藤野は日田市立光岡小学校教諭、原告野田は日田市立南部中学校教諭、原告宇野は玖珠町立八幡中学校教諭として勤務する教育公務員たる地方公務員であり、他方、日本教職員組合傘下の、地方公務員法(以下、法という)に基く職員団体たる大分県教職員組合(以下、大教組という)所属の組合員であり、かつ原告藤野は日田教組組合長、原告野田は同教組書記次長、原告宇野は玖珠郡教組組合長の地位にあつた。
現在、原告藤野は日田市立南部中学校、原告宇野は玖珠町立森中学校に勤務する教育公務員たる地方公務員である。
被告は大分県下の教育行政を担当する行政機関で、原告等の任免権者である。
(二) 被告は、昭和三四年八月一八日原告等に到達した同日付処分通知書をもつて、別表一の処分事由説明書記載の理由のもとに、原告等を請求の趣旨掲記のとおりの懲戒処分(以下、本件処分という)をした。
(三) しかし本件処分は左記理由により違法であつて、当然無効または取消さるべきである。
即ち
(1) 同年八月四日日田市丸山町所在の大分県立日田林工高等学校で被告主催にかかる昭和三四年度中学校技術家庭科大分県実技講習会(以下、本件講習会という)が開催されることになり、県下中学校勤務の教職員に対し、被告から校長を通じ受講予定者の指定が行われた。大教組は、本講習会が、文部省の意図ある教育課程改悪の具体化であることを強く認識していたのでその開催に反対の態度を維持していた。このことは昭和三四年六月五日および六日に開催された大教組の定期大会において全員一致により確認された事項であつた。
大教組は、被告の本講習会実施の意図を知つた頃から被告に対し再三その中止を申入れ続けたが、被告は本講習会実施は予定の方針としてこれを断行するという態度をとりつづけた。この頃になると組合員間にも、実技講習会のもつ政治的意図や教育に与える重大な悪影響を漸次自覚するに至り講習会参加を取止めるものが続出した。
そして本講習会に際しては、大教組は正当な団体行動としての説得を受講予定者に対し行うことを決定し、その目的に従つて講習会不参加説得をし、受講予定者に指定された組合員は、講習会の意図を察知し、その自由な意思決定にもとづき右講習会に参加しなかつたので、被告は右講習会開催を自発的に中止した。
そして原告等は、大教組に属する組合員として正当な団体行動の枠内における行為をしたにすぎない。従つて、
(イ) 原告等には別表一処分事由説明書記載の法三七条違反の事実はないから本件処分は法二七条三項に違反し
(ロ) また原告等の行為は職員団体たる大教組のためになされた正当な行為であるところ
(A) 本件処分は、原告等が前記のごとき職員団体の地位にあり、右団体のため正当な行為をしたことの故をもつて行われたもので法五六条に違反し、
(B) 法二七条一項が「懲戒については公正でなければならない」と規定するところからみて、地方公共団体と所属地方公務員間の監督、服務関係に信義則が支配すると解すべきところ、本件処分は、職員団体の団結力を減殺させる等の不法の目的の下に、右にいう信義則を侵してなされたもので、任免権の乱用即ち法二七条一項に違反する場合に当る。
(2) そればかりでなく本件処分には次の手続違背がある。
県教育委員会(以下、教育委員会を教委という)は教職員に対し懲戒処分をするに当つては、各市町村教育委員会(以下、地教委という)の内申にもとづき、教委の会議によつて決定すべく、また各地教委は懲戒処分の内申を決定するにつき会議を開かなければならない(地方教育行政の組織及び運営に関する法律―以下、地教行法という―三八条、一三条)。しかるに被告は、原告等関係の日田市、玖珠郡玖珠町の各地教委の内申をうけることなく、しかも教委の会議によらないで本件懲戒処分に及んだ。
仮りに被告に対し右各地教委からの内申があつたとしても、これは右各地教委がその会議によらないで決定した違法の内申である。
殊に日田市教委においては、日田市教育委員会会議規則(市教規則第一号)五条二項に定める、委員長は会議の招集を行つた場合には、直ちに会議開催の場所及び日時、会議に付議すべき事件を告示するものとするとの規定に違反し、また本件懲戒処分の内申を決定する教育委員会の開催告示をもしていないのである。
およそ懲戒処分が適法たるには履践すべき手続が尽されなければならないから、本件処分は違法である。
本件処分は以上いずれの理由によつても当然無効若しくは取消さるべきものである。
(四) 仮に原告等に法三七条違反の事実ありとするも、同条は、以下述べるとおり違憲の法令であるから適用すべからざるものであるのに、これを適用してなした本件処分は当然無効若しくは取消さるべきである。
(1) 憲法二八条違反
(A) 地方公務員も憲法二八条にいう勤労者であり、その団体行動権は奪うことのできない基本的人権であるから、この権利を制限した法三七条は憲法二八条に違反する。
(B) 仮に団体行動権を制限しうるものとすれば、それは他の手段により、地方公務員がこの権利を有することにより亨受するのと同等若しくはそれ以上の保障をなす場合に限るところ、法は実効のある保障をなしていない。
従つて法三七条は、勤労者たる地方公務員から有効な代償なく基本的人権たる団体行動権を奪つたことに帰し、憲法二八条に違反する。
(2) 憲法二一条違反
法三七条後段は、前段の行為を企て、遂行を共謀し、そそのかし、あおる行為を禁ずるところ、前段について刑事罰則がないのに後段につき法六一条四号に罰則の定めあるところをみれば後段の行為を独立して違法事実の類型としているのは明白であるところ、そうであれば、
(A) 企て、遂行の共謀を違法とする定めは、個々人の行為はそれが適法であると否とに拘らず、その行為が多数によつて行われることにより違法となるとの観念によるものであつて、集会、結社の自由を認めた憲法二一条に違反する。
(B) そそのかし、あおる行為を違法とするが、そそのかしあおる行為が如何なる行為であるか明らかでないので、結局その手段たる文書、図画、言論による表現活動自体を禁ずることになつて言論等表現の自由を認めた憲法二一条に違反する。
(3) 憲法一八条違反
法六一条四号は法三七条前段の行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおり、またはこれらの行為を企てる行為を処罰するが、このことは争議行為等に刑罰をもつて対抗させることになる。争議行為等の本質は労働提供拒否にあるからこれに対し処罰をもつて対抗することは、犯罪による処罰の場合を除き意に反する苦役に服せしめられないとする憲法一八条の規定に違反する。
(4) 憲法三一条違反
法三七条後段は甚だ漠然として行動の基準となしえないので罪刑法定主義を定めた憲法三一条に違反する。なお罪刑法定主義は刑事罰のみならず行政処分による不利益を課する場合にも適用されて然るべきである。
(五) 仮に以上の主張が理由なしとするも、本件処分は、次のごとく、いずれの理由によつても当然無効か取消さるべきものである。
(1) 本来懲戒処分は職場秩序の維持を目的としてなすべきものであるのに、本件処分に当つてはこの目的を欠き、専ら原告等が大教組の大会の決定に従つたことに対して、職員団体の組織の弱体化を図り団結力を減殺させる目的のもとになしたものであつて、法五六条及び二七条一項に違反する。
(2) 地方公務員に対しては、地方住民の憲法上の法益に対する明白かつ現在の危険がなければ懲戒処分をなしえないと解すべきところ、かかる危険がないのに法三七条を適用してなした本件処分は憲法二八条に違反する。
(3) 被告が法三七条を適用して地方公務員たる教職員を処分しようとする場合には、県が右の者に剥奪された団体行動権の代償としてその職務と責任に相応した勤務条件を保障していなければならない。従つてその保障を欠く場合における処分は、憲法二八条の規定からみて法三七条の解釈を誤つた違法な処分となる。
ところで大分県における教職員の勤務条件は、
(イ) 定員配当、
(ロ) 諸手当、
(ハ) 旅費、
(ニ) 厚生補助費、
(ホ) 給与の各点について、法令(条例を含む)の定め及び地方交付税単位費用の概算基礎、地方財政計画より遙かに劣悪な条件のもとにおかれている。
県当局はこれに対し何等積極的な施策を建てようとしないから、かような勤務条件下におかれている教職員たる原告等に対し、それを無視し法三七条を適用してなした本件処分は、憲法二八条の趣旨を誤り、法三七条の解釈を誤つて適用した違法な処分というべきである。
三、被告の主張(第二の三)に対する答弁
(一) 右のうち(三)の(ハ)、(四)、(五)の各事実は不知。
(二) (八)の(1)の事実中昭和三四年七月八日執行委員会、同月一四日分会長会議、同月一七日中央委員会が日田市若宮小学校において開かれたこと及び同月三一日地区労執行委員会が開かれたことは認める。但し同委員会は同小学校で開かれたものではない。六月二〇日中央執行委員会、七月二六日執行委員会、同月二九日分会長会議、同月三〇日中央委員会、八月三日執行委員会、八月四日執行委員会が開かれたとの点については否認する。原告藤野、同野田が被告主張のような争議行為の企て、共謀、せんどうしたとの点は否認する。
不参加説得をなすことが争議行為に該当するとの法律上の主張はこれを争う。
同(2)(イ)の事実中、七月二八日日田教組(支部)が日田教育事務所で同所事務員と交渉したことは認めるが、その余の事実を否認する。
被告主張の、団体交渉が争議行為に該当するとの法律上の主張はこれを争う。
同(2)(ロ)の事実中、八月三日に日田市所在の「藤野屋」旅館に受講者が集つた事実は認めるが、その余の事実は否認する。受講者は各人の自由かつ自発的な意思にもとづき集合したものである。
同(2)(ハ)(A)Iの事実中、山水館における行動は不知、日田教育事務所における行動については否認する。
同(2)(ハ)(A)II、(B)、(C)の事実は否認する。
仮に右(2)(ハ)(A)I、II、の事実があつたとしても、これが争議行為に該当するとの被告の主張は争う。争議行為はその行為自体が正常な職務の運営に支障を与える行為であり、その行為自体のうちに業務の運営を阻害する要素のない以上、争議行為になるいわれはない。
同(2)(ハ)(D)広瀬事件のうち、主張の日時に広瀬主事がいかなる用務で日田林工高校に来たか不知。原告野田等の行為は否認する。
同(2)(ハ)(E)の上田事件のうち、上田忠敏の用務は不知。原告藤野、同野田の行為については否認する。
同(2)(ハ)(F)(G)、(2)(ニ)及び同(3)の点は否認する。
同(2)(ハ)(C)ないし(F)の事実が争議行為に該当するとの法律上の主張はこれを争う。
(三) (九)の(1)の事実は否認する。
同(2)(イ)の中(A)の事実を認めその余は否認する。
同(2)(ロ)の事実中、主張の各日時に各場所に受講者が集つたことは認めるが、その余は全部否認する。受講者は各自の自由かつ自発的意思により集結したのである。
同(2)(ハ)、同(3)は否認する。
右(1)(2)の事実が争議行為に該当するとの被告の主張は争う。
(四) (十)(十一)の主張は争う。
四、被告の主張に対する再主張
(一) 本案前の主張について。原告野田は地位の確認そのものを争つているものでなく、過去の行政処分の効果を争つているのであるから、「地位を前提とした訴訟」であるという被告の主張は失当である。
(二) 講習会の法的性質について(教員に受講義務があるか)
(1) 本講習会開催の法律上の根拠として被告が掲げている条文中、受講者に直接関係あるものは地教行法二三条、三七条及び教育公務員特例法一九条、二〇条であるが、この規定は被告が教員の有する研修の権利を有効あらしめるため、進んでその実施に努めなければならない義務を課したのであつて、この規定によつては教員が被告の実施する講習会に参加せねばならない職務上の義務を負わされていると解することはできない。右特例法第一九条第一項の定めは、研修が教員の職務上の具体的な義務として規定されたものではなく、教育という特殊な精神活動に伴なう重要性から教員に対し日常の精神的態度を強調した訓示的規定というべきものである。従つて同条第二項の任命権者に教育公務員の研修について、その実施義務を定めたものも同様に解せられる性格のものである。このことは同法二〇条で教員が研修の機会を与えられるとあり、研修を行なうか否かは教員の主体性に委ねられていることに徴しても明らかである。以上のとおりであるから、本講習会は教員に対する任意な行事であり、教員は本来その自由な意思により参加、不参加を決定することができ、何ら受講義務を負うものでなく、故に被告は受講者に対し、出張命令等の業務命令を発することは許されない。
(2) 仮に業務命令を発しうるとしても被告は本講習会に当り、受講者指定に際し教員から受講希望者をつのつたのであつて、一方的に指名せず、また参加予定者に対し業務命令を発していないのである。
(3) 要するに、本講習会は教員に対し、その参加を強制することはできず教員の自主性にまかせられているものといわなければならない。
(三) 不参加説得の合法性について
本講習会の法的性格が右(二)のとおりである以上、受講予定者を説得して不参加に決意させても被告のいう法三七条に違反することはない。争議行為は本来労働者が使用者に対する労務提供の義務を放棄することを絶対的要件とするものであつて労務提供の義務を負わない事項についてはこれを放棄しても争議行為には該当しないことは自明の理でありそのことは何等使用者の正常な義務を阻害したことにはならない。
仮にその不参加説得により被告の正常な業務が阻害されたとしても、それは争議行為を原因とする阻害ではなく、憲法二一条に保障された表現の自由たる説得活動により生ずる反射的効果であつて、争議行為とは関係ない。通常、言われるピケツトは争議行為の最中にスト破りを防止するために行なわれる行為であつて、本件とはその態様を全く異にするものである。本件の不参加説得は被告の主張するピケツトの様相をとろうと、その他の方法をとろうと、それは憲法二八条にいう争議行為の一型体としての、それではなく、あくまでも憲法二一条に保障される表現の自由の現れにほかならない。
仮に本件行為がピケツトの態様を充足するとしても、それは争議行為としてのピケツトではなく、組合内部における団結を強化するための一手段方法に過ぎない。従つて、本件行為は団結の自由を保障された正当な組合活動であり違法のそしりを受ける筋合のものではない。
(四) 広瀬事件、上田事件について
右両事件に関する被告の主張は歪曲され誇張された不当な事実を羅列するものであるが、仮りに被告主張のとおりであるとしても前述したとおり主張自体意味がないものであり、原告等の個々具体的行為が争議行為にあたらないことは論ずるまでもないところである。
(五) 被告主張(十)について
杷木町(正しくは、福岡県浮羽郡浮羽町のいわゆる筑後川温泉)で団体交渉が行なわれたわけでもなく、同所で不参加説得がなされたこともなく、また同所にてピケツトが張られたものでもなく、講習会中止とこれらの行為との間に法律上の相当因果関係はない。講習会中止の理由は請求原因(三)の(1)記載の如く杷木町に行く者が少なかつたからにほかならない。
(六)(1) 被告のなした本件処分は不利益禁止違反、即ちいわゆる不当労働行為である。
被告が本件処分をなすに至つた真相は、一に受講者が講習に自発的に参加しなかつたため、講習会開催不能となりその結果マスコミ等の報道に対する面目を保つ手段として行なわれたものであり、前記のとおり原告等の正当な組合活動に対する報復的措置であつた。
近時文部省を頂点とする教育行政機関は日教組傘下の組合の活動を極端に嫌悪し、事毎にこれを禁止しようとし、弾圧の態度を強化し特に懲戒処分に際し法律解釈上多大の疑義をもつ法三七条を乱用し、組合活動のすべてにわたつて争議行為なりと主張するに至りつつある。このままでは正当な組合活動は全分野にわたつて縮少され、殊に重要な対県交渉、組合員動員、デモ行進等の組合の権利は次第に消滅する恐れが大である。本件処分も被告のこのような意図のもとになされた処分であり、組合活動を否定しようとする流れの現われである。
(2) 本講習会は教員の有する教育権を侵害する違法な企てである。
(イ) 日本国憲法二三条は「学問の自由はこれを保障する。」と規定するが、その趣旨は学問的研究およびその発表に対し、政府または行政機関が権力をもつてその善悪を批判し侵害する時は、かえつて真理探究が妨げられるという歴史的実証にもとづいて、学問的研究発表は国家権力によつて侵害されることのないことを憲法上保障し、自由な学問的研究により真理を追求し、学問の進歩発展を計ろうとするものであり、大学における教授の自由をも含ましむるものである。
そして憲法の右条文により保障される学問の自由は単に大学における教授の自由のみに限定することなく、小、中、高校における教師の教育の自由をも同時に保障した規定と解すべきである。従つて教育の自由を侵す法律、条令、規則、命令は憲法二三条に違反して無効である。
かりに憲法二三条の学問の自由の規定に教育の自由までは保障されていないとしても、教育の自由を保障することは政策上、立法上可能である。
そこで現行教育関係法規を検討して教育の自由が法制度的に認められているか否かを明らかにする。教育基本法は前文において、日本国憲法の精神を実現することは教育の力によるものが大であること、従つて教育の目的は個人の尊重、真理の追求と平和の実現、文化の創造にあることを宣言している。
そして一〇条は、「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し、直接に責任を負つて行なわれるべきものである。教育行政はこの自覚のもとに教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行なわなければならない。」と規定している。この一項の規定は教育は国民主権の精神に則り、一党一派に偏することなく国民全体に対して責任を負つてなされることを規定したものであり、二項の規定は教育行政のあり方を教育目的を遂行するに必要な外的諸条件の整備確立を目標と定めたのであつて、教育活動そのものに対して、教育行政が発動されることは、一項の禁止する不当な支配に服する結果を招来する恐れが大きいため、そのようなことがないところの、民主的な教育を確立するため設けられたものである。このことは、教育活動に対し、国家権力または行政機関が指揮命令することができないとする規定と解される。従つて、同条の規定は明らかに教育の自由を保障した法条というべきである。
こうした教育基本法の規定をうけて、学校教育法は二八条四項において、「教諭は児童の教育を掌る」と定め、中学校、高等学校にこの規定を準用している。この規定は教育基本法一〇条の趣旨から教育が教諭の専権であることを宣言したものと解さなければならない。しからざれば教育そのものに対して、他からの影響を蒙らせる結果となり、教育の不当な支配に服することがないという保障はその点から崩壊せしめられるからである。
以上の理由によつて現行法上、教育の自由が保障されていることが明らかである。
(ロ) このように教育の自由が法制度的に保障されていることは明らかになつたが、実際的に、いかなることを意味するかを明らかにし、教育課程の教育に占める位置を論ずる。
教育は学校経営の中では、カリキユラム(教育課程)にもとづいて行なわれる。
教育課程とは、各教科、特別教育活動および学校行事等により編成される。この教育課程をいかに編成するかを示すものが、学習指導要領である。学校現場では教員はこの教育課程、学習指導要領にもとづいて教育を行なつているのである。
以上で明らかなように、教育課程、学習指導要領は教育の中心的な内容をなし、これによつて教育活動が行なわれるのであるから、教育課程の編成は教育の自由の保障をうけるべき範囲に属する。従つて教育課程の編成について、政府や行政機関が一方的にこれを定め、教員を拘束することは許されない。
文部大臣、被告のもつ教育課程に関する権限は、教育課程の基準を示すことに限定され、行政上の権限として自己の編成した教育課程を法的に強制することまで内容とするものではない。昭和二六年教育課程を編成する学習指導要領を文部省が発表したが、その中にはこれは教師に対する示唆であつて、法的に教師を拘束しないことを明らかにしていた。しかるに文部省は、同三〇年頃から次第に教育課程の編成、つまり学習指導要領を同省で定め、これに法的拘束力をもつよう見解を改め、各地教委に対し指導するようになつた。同三三年八月になると、学校教育法施行規則二五条を改正し、学習指導要領に拘束性を持たせる法制化をなし、同年一〇月同施行規則二四条の教科の外に道徳を設け、教育課程の拘束をも図つたのである。
しかも告示によつて学習指導要領に法的拘束力を完全にもたらし、教育課程は文部大臣の公示する学習指導要領によらなければならないと定めた。こうした文部省の態度は教育の自由を侵害し、教育を教育行政の隷属下に置かしめようとする態度であつて、教育基本法に違反する行為である。
以上で明らかのように本講習会は現行法上許されない違法な企画であり、原告等教員が文部省及び被告のかかる侵害行為に対し、反対したことは教育基本法一〇条の精神を擁護する憲法一二条前段の抵抗の権利の具現であつて、真に正当な行為というべきである。
第二、
一、被告の求める裁判
(一) 本案前の申立
原告野田の本件訴を却下する。
(二) 本案の申立
原告等の請求を棄却する。
右(一)、(二)の場合につき、
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、被告の本案前の主張
原告野田は昭和三七年一月一〇日大分地方裁判所において公務執行妨害、傷害罪により懲役三月執行猶予一年の判決言渡をうけ、該判決は同三九年五月一九日確定した。
従つて同原告は法一六条二号、二八条四項の規定により同日を以つて失職した。
本件懲戒処分の無効確認等を求める訴訟は、原告が教職員たる地位にあることを前提としてはじめてその確認等を求める利益があるものであり、教職員たる地位を失職によつて失つた場合においては、仮に本件懲戒処分の無効確認または取消の判決があつたとしても原告の法的地位になんらの影響を与えるものでないので、これが無効確認等を求める利益はない。
三、請求原因事実に対する答弁
(一) の事実のうち下記の点を除き認める。
原告等がその主張のとおり日田教組、玖珠郡教組の役員か、大教組日田支部、玖珠郡支部の役員かは不明である。(しかし原告藤野、同野田の所属が日田教組原告宇野の所属が玖珠郡教組として以下の陳述をする)。
(二) の事実は認める。
(三) の事実中、被告主催の本講習会が主張の日に主張の会場で開催されることになつたが、大教組はこれに反対の態度を維持していたこと、右講習会開催に対する反対は、昭和三四年六月五、六日に開催された主張の構成による大教組定期大会において全員一致により確認された事項であり、大教組は被告の右講習会開催実施の意図を知る頃より、被告に対し再三団体交渉を申し入れたこと及び右講習会の実施は予定の方針であつたこと並びに日田市教員会議規則に原告等主張の如き定めがなされていることは認めるが、その余の事実は否認する。
もつとも被告はその義務がなかつたのであるが、本講習会に無用の摩擦をさけ事態を円満に収拾するために大教組と任意かつ法外の団体交渉をしたことはある。
(四) は争う。
(五) は否認する。
四、本案の主張
被告は文部省と共催の下に左記(一)より(六)まで記載のように本講習会を計画し実施した。故に本講習会は被告の正常な業務であり、従つてこれを阻害する行為は法第三七条に反するところ、原告等には別表一の処分事由説明書記載のとおり同条違反の行為があつた。
(一) 本講習会の性格
(イ) 昭和三三年八月二八日公布の文部省令第二五号による学校教育法施行規則の一部改正により、職業家庭科の教育課程が技術、家庭科に改訂された(同規則五三条)。
(ロ) この改訂に伴う移行措置の一環として本講習会は昭和三四年度中に実施の必要があつた。
(ハ) この講習会は施設設備及び期間の関係で夏期休暇中に実施する必要があつた。
(ニ) かかる状態のもとで講習会の実施を検討中のところ、昭和三四年五月二二日附、文初職第四〇一号で講習会内容の指示や旅費補助の通知があつたので、被告は文部省と共同主催で講習会を実施することにした。
(ホ) なお、本講習会実施に関する法令の根拠は次のとおりである。
文部大臣の都道府県委員会への助言、勧告、指導、地方自治法二四五条の三第四項、地教行法四八条。
教育委員会が行なう研修について
地方公務員法三九条、地教行法二三条、三七条、四五条、教育公務員特例法一九条、二〇条。
中学校の教課に関する事項は文部大臣が定める。
学校教育法三八条、一〇六条、同法施行規則二五条、五五条、五三条。
(二) 講習会実施の指示
前記文部省令第二五号は昭和三三年九月一日から実施された。
その移行措置について昭和三四年四月二七、二八日文部省主催の「全国指導部課長会議ならびに教科別指導主事連絡協議会」が開催され、ついで文部省は前記文初職第四〇一号で前記教育課程の改訂に伴う趣旨の徹底及び教員の指導能力の充実向上を図るため都道府県研究協議会の実施を指示した。
(三) 講習会実施計画
(イ) 昭和三四年六月初旬被告は基本方針として、(A)夏期休暇中に、(B)設備、講師の関係から工業課程をもつ高等学校を会場とし、(C)男子は一二日間、女子は四日間とする計画を定め、
(ロ) 同月中旬関係者協議のうえ、開会を次のように定めた。
日田会場は日田林工高等学校、開会は同年八月四日、会期は一二日間。
(ハ) 被告は、同年七月八日には本講習会運営委員会を組織し、運営委員長、運営委員、事務局長、局員、会場別運営委員長を定め、
(ニ) 受講参加予定者数を、日田会場は男二五名、女一五名と定め
(ホ) 講習会実施に関し被告は教育長発をもつて、(A)同年六月二二日付で教育事務所長、関係高等学校長宛に「昭和三四年度中学校技術家庭科大分県実技講習会の開催について」、(B)同年七月八日付で各教育事務所長宛に「昭和三四年度中学校技術家庭科実技講習会の運営について」、(C)同月二〇日付で同宛に「昭和三四年度中学校技術家庭科実技講習会参加者の決定について」、(D)同月二三日付で同宛に「昭和三四年度中学校技術家庭科実技講習会の会場運営について」と各題する通達を発して講習会の実施、運営を指示した。
(四) 受講参加者の決定
被告の講習会計画と準備に対応して県下地教委は各中学校長を通じ参加者を決定し、被告は各地教委から提出された参加者名簿について受講者を認可したのでその旨各地教委に通知した。その結果定まつた日田会場講習会の受講者氏名は別表四、五の受講者名簿記載のとおりである(なお、日田郡及び玖珠郡関係分は同年七月二〇日に受講者として定まり、日田市関係分は八月二日までに受講予定者として定まつていた)。
(五) 被告の日田会場講習会開催計画
(イ) 八月四日より一二日間と定まつた日田会場の講習会については被告と日田教育事務所では、日田、玖珠郡両教組と日田地区労の講習会阻止活動が猛烈であるとの情報を知り、無益な摩擦をさける方針として全受講者を一応福岡県杷木町(正しくは、同県浮羽郡浮羽町の、いわゆる筑後川温泉)の旅館に集結させ、バスで会場に集団入場の計画をたてるの止むなきに至つた。
(ロ) 日田会場運営の全責任者、日田会場運営委員長には日田教育事務所長上田忠敏が当ることになつた。
(六) 講習会業務
講習会業務(これは例えば講習会の計画、講師の選定と教育、受講者の選定、講習会関係者の会合、打合せ、交渉連絡、書類作成、書類交付、資材準備と搬入、会場設置、会場準備、関係者の入場等その他講習会の計画実施に関する業務全般をいう)の正常な業務運営が阻害されるときは争議行為となつて法三七条一項の違反となる。
(七) 原告等の所属する大教組の性格
大教組は法五二条に定める職員が給与、勤務時間、その他の勤務条件に関し当該地方公共団体の当局と交渉するための団体であつて、交渉事項は法五五条所定のもの、従つて職員団体の本質も交渉事項も団体行動も経済的で勤務条件に関するものに限定される。従つて全く勤務条件に無関係な本講習会の如く純然たる行政庁の教育行政事項については当局者の被告とは法五五条にもとづく団体交渉権はなく、またその他の適法な団体行動権もない。況んや職員団体である大教組が被告の講習会を阻止するための団体交渉又は団体行動としての争議行為をなすことは法三七条の禁ずるところである。
(八) 原告藤野、同野田の両名が本講習会阻止のためになした法三七条一項違反の争議行為
(1) 大教組は昭和三四年六月四、五日第三五回定期大会を開催して「改訂教育課程移行措置の講習会に不参加体制を確立しこれを不能におとし入れる」旨を決議し、同年七月三日各支部に対し、<1>各支部は教育事務所、地教委、校長会に対して受講者の学校別割当や個人別割当をしないよう交渉する。<2>支部分会は受講予定者に不参加を説得する。<3>各支部は講習会の二日前に受講予定者全員を集めて不参加を説得する。<4>本部、支部はそれぞれ五人以上の説得班を作つて、講習会初日に会場入口で受講者に不参加を説得する。<5>教組は被告に対し、計画変更と職務命令などによる受講者の狩出しを行なわないよう交渉することを指示し、同月一六日中央委員会を開き、「改訂教育課程に対する斗い」として本講習会阻止を決議した。
(イ) 前記大教組の「改訂教育課程移行措置講習会に不参加の体制を確立しこれを不能におとしいれる」との決議を確認した原告藤野、同野田は、同年六日二〇日開催の日田教組中央委員会にこの議題を審議させることをその数日前に定めて同委員会を招集し、同日日田市若宮小学校で開催した右委員会構成員にこれを提案した。このことは「他の争議行為」による講習会阻止という違法な行為を企てたことに当る。
(ロ) 同年七月八日右原告等は、同小学校において他の執行委員と共に日田教組執行委員会を開き本講習会不参加に関する件を協議し、被告、日田教育事務所、日田市郡内各地教委、日田市郡校長会、役職員等講習会開催関係者(以下、この場合には被告側と略称する)との強力な団体交渉と受講者に対する不参加説得による講習会阻止を定めた。
右は違法な行為の遂行を共謀したことに当る。
しかも同執行委員会において、右の趣旨の実行を求めるため日田教組分長会を開くことを決定し分会長を招集したが、これは本講習会阻止の違法行為の企てである。
(ハ) 七月一四日右原告等は右小学校で同分会長会議を開き、分会長に受講予定の職業家庭科担当教師に強く本講習会不参加を説得するよう、また本講習会阻止のため被告側と団体交渉をするよう指示した。このことは、違法な行為のせんどうに当る。
(ニ) 七月一七日日田教組中央委員会が同小学校で開かれたが、右原告等はこの会で本講習会については一切受講者を送らない、校長交渉により受講者名簿提出の阻止とすでに提出された名簿の奪還をはかる、そのため該当者分会から一名及び執行部とで七月三〇日を目途に名簿取消の覚書をとる、又高教組に働きかけ講師返上を実践させることを提案し、決定させた。右は出席した中央委員に対する違法行為のせんどうである。
(ホ) 七月二六日同小学校で開催された日田教組執行委員会において、右原告等は他の委員と共に、講習会阻止に全力を尽す方法の議題等を議するため、八月三日に臨時大会を開く、講習会前日より当日にかけて講習会阻止のピケを張る、七月二八日に日田教育事務所と講習会阻止のための団体交渉をなすことを定めたのであつて、右は違法行為の遂行を共謀したことに当る。
(ヘ) 七月二七日右原告等は同小学校に分会長を集めて日田教組分会長会議を開催し、八月三日に臨時大会を開き講習会阻止の諸方法を議題とすることの了解と、講習会阻止のための被告側との団体交渉及び受講者に対する不参加説得並びにピケによる講習会実力阻止に協力を求めたのであつて、右は分会長に対する違法行為のせんどうである。
(ト) 七月二八日同小学校で開かれた日田教組中央委員会の席上右原告等は中央委員に対し、当日までの講習会阻止のための行動経過を報告し、かつ中央委員に対し講習会阻止のための被告側との団体交渉と受講者に対する不参加説得の遂行を求め、ピケによる講習会実力阻止の協力を求めた。このことは、中央委員に対する違法行為のせんどうに当る。
(チ) 七月二九日右原告等は同小学校で日田教組分会長会議を開き、その席上分会長に講習会絶対阻止を強調し、受講者に強力な不参加説得をして参加させないよう求めかつピケの配置計画を話し合つた。このことは分会長に対する違法行為のせんどうに当る。
(リ) 同月三〇日同小学校で開かれた日田教組中央委員会において、右原告等は出席中央委員に対し「八月三日臨時大会を開くこと。講習会阻止のためピケを張ること」の執行部原案を議決させた。このことは出席中央委員に対する違法行為のせんどうである。
(ヌ) 同月三一日、原告藤野は右小学校に日田地区労執行委員会を招集し、右委員会をして講習会阻止のため共斗会議の設置を可決させ、また同委員会に講習会阻止のピケに参加することを求めた。右は同地区労執行委員に対する違法行為のせんどうである。
(ル) 八月一日原告藤野、同野田、同宇野は、右小学校において日田、玖珠郡両教組共斗会議を開き、講習会阻止の一般方策、特に被告側との団体交渉、受講者に対する不参加説得、ピケによる実力行使を協議したが、右は違法行為の遂行の共謀に当る。
(ヲ) 八月二日原告藤野、同野田は右小学校において他の執行委員と共に日田教組執行委員会を開き、八月三日の臨時大会の準備並びにピケによる講習会阻止の具体的計画を協議し、また更に被告側に対する強度の団体交渉及び受講者に対する集団的不参加説得の具体的方法を立てた。このことは違法行為の遂行を共謀したことに当る。
この日別に原告藤野は、同校に日田地区労執行委員会を招集し、右執行委員に講習会阻止の協力を求め、また同原告と原告野田は同校における日田教組分会長会において分会長に受講者不参加の方法として受講者監視を求めた。右は違法行為のせんどうに当る。
(ワ) 八月三日同小学校で開催された日田教組執行委員会において、右原告等は他の執行委員と共に講習会阻止のピケの実施方法と執行委員の部署及びピケ隊員の配置、並びに最終段階における団体交渉方策と講習会不参加説得方策を協議した。これは違法行為の遂行の共謀に当る。
また右原告等は同日日田市公会堂で開かれた臨時大会において出席の組合員に対し講習会阻止の一般経過並びに八月三、四日の具体的方策を説明して大会の諒解を求め、更に講習会阻止の緊急事態につき執行部の指令権を認めさせ、直ちに大会全員に指令して講習会阻止の態勢につかせた。このことは大会出席の組合員に対する違法行為のせんどうに当る。
(カ) 八月四日右原告等は臨時同小学校において日田教組執行委員会を開き、他の執行委員と共に講習会阻止のためのあらゆる方法を協議し計画した。右は違法行為遂行の共謀に当る。
(ヨ) 右原告等は、(ロ)から(カ)までの中央委員会、執行委員会、分会長会、地区労執行委員会を開くことを定め、これに付議すべき本講習会阻止に関する議題をまとめて各会の招集をしたのであつて、このことは違法行為の企てに当る。
(タ) また右原告等を含む(ロ)(ホ)(ヲ)(ワ)(カ)の執行委員会での右原告等の言動は、他の執行委員に対する違法行為のせんどうである。
以上述べたとおり各会毎に、右原告等に違法行為の企て、共謀、せんどうが成立する。企て(争議行為を行う計画を立案するとかそのための会合を招集すること等)、共謀はその行為をなしただけでも成立し、必ずしも結論を出し実行に移す必要はないし又せんどうも、せんどうの事実(特定の行為を実行させる目的で文書、図画あるいは言論により人に対しその行為を実行する決意を生じさせ、又は既に生じている決意を助長させるような刺戟を与えること)だけでよく、相手方がこれに応ずると否とを問わない。なお、以上に述べた違法行為のせんどうは、その対象者となつた前記各役員に対しては殆んど口頭で、組合員に対しては組合の組織を通じ指揮系統に従つて指令又は指示により、口頭又は文書によつて行われたものである。
(レ) 右原告等は各々各会合に出席した。たとい各個の会には不参したとしても、各会は講習会開催阻止のための争議行為を企て、その遂行を共謀し、せんどうするのが目的であるから、各行為は組合幹部である右原告等の共同行為であるのに変りはない。なお以上述べた中央委員会、分会長会、執行委員会及び日田地区労委員会の構成員は別表二の日田教組役員名簿及び日田地区労役員名簿のとおりである。
(2) 争議行為の実行(その他の争議行為)
(イ) 本講習会阻止を目的とする被告側との団体交渉
本講習会阻止を目的とする団体交渉は法五五条の認めない違法なものであるところ、右原告等は共謀の上、以下述べるとおり右目的のもとに強硬な威圧を加えて団体交渉をしたのであるから、これは法三七条一項の、その他の争議行為に当る。
(A) 日田教組が同年七月二八日日田教育事務所において同所員と本講習会開催について話合つた際、原告藤野、同野田は出席し、同所員に対し「講習会は官製であるから絶対に開かれないよう阻止する」と強硬に主張し
(B) 同教組が同年八月一日同所において同所員と本講習会開催について話し合つた際、原告藤野は出席し、所員に対し講習会阻止の強硬意見を述べた。
(C) 原告藤野、同野田は、八月四日午前〇時頃より午前二時頃まで、本講習会本部の日田市内の山水館において被告側数名の職員に対し、「講習会を強行すれば我々は絶対阻止するから不測の事態が起る。混乱をさけるため直ちに講習会を中止せよ。道路上に寝ても阻止する。犠牲者が出ても阻止する」等述べた。
(D) 以上の行為は、右原告等が共謀のうえ、本講習会阻止を貫徹するためなした行為であつて、ために被告の本講習会業務の正常な運営は阻害された。
(ロ) 本講習会阻止を目的とする受講者不参加説得
日田市内各中学校長は別表四の日田市関係受講者名簿記載の各教諭に本講習会受講の意思ありと認めて、同年七月初旬までに日田市教育長に届出た。しかるに同年七月中旬ごろから右原告等の本講習会反対斗争が激しくなり、受講予定者に対し講習会不参加を強く働きかけ、ために受講予定者の意思が混乱して来たので、日田市教育長、市内各中学校長は予定者に受講を説得した。しかしこの説得は右原告等の反対に会い成功しなかつた。更に右原告等は共謀の上、その受講者決定交渉中の八月三日、同表記載のとおり、うち一名を除く全員を日田市内の「藤野屋」旅館に集結させ、外部との自由な接触を遮断し、抑留したうえ、これらの者に対し講習会不参加を説得した。右原告らの行為は被告の講習会阻止を目的としたもので、この行為がなかつたならば日田市の受講者も定まり、講習会も開催されえた。しかるに右原告等の行為によりこれらができなかつたのであるから、被告の講習会業務の正常な運営が阻害されたことになる。
(ハ) 本講習会阻止の実力行使
(A) 監視、見張、尾行による阻止
右原告等の共謀により、その指図、命令にもとづき、
I 右原告等指揮下の日田教組員及び日田地区労組員は、同年八月三日正午頃から四日まで、本講習会本部にあてられた日田市内の「山水館」の部屋、廊下、玄関、庭に充満し、また同館及び本講習会運営本部にあてられた同市所在の日田教育事務所の門前に尾行及び連絡用ジープ、オートバイ、人員を待機させ、被告側の本講習会関係者の行動を監視し、見張り、けん制し、
II 原告等指揮下の日田、玖珠郡両教組員と日田地区労組員合計約二〇〇人は、八月三日正午頃より四日まで日田市内の市街地の道路の要所に見張員として配置され、右山水館と日田教育事務所及び講習会場の日田林工高校との連絡を遮断し、講習会関係者を尾行してその行動を妨害し、かつ受講者が入場しないよう厳重監視見張りを続けた。
(B) 八月四日午前三時半頃より午前八時頃まで講習会関係場所間の電話は、原告等の処置により殆んど不通となり、連絡がとれなかつたり連絡困難であつた。
(C) ピケツト
右原告等は、講習会本部の山水館、運営本部の日田教育事務所、講習会場の日田林工高校及び受講者の間を遮断し、講習会関係者と受講者を会場に入れず、本講習会開催を不能ならしめる目的のもとに共謀のうえ阻止隊本部を同高校前に置き、八月三日より八月四日本講習会中止に至るまで講習会場たる日田林工高校の周囲、附近の日田市丸山町一帯を自ら及び指揮下の日田、玖珠郡両教組員、日田地区労組員で昼夜にわたりピケツトを張つた。ことに右高校入口附近を最も厳重に何本もの、長さ四、五間位の竹に繩を巻いてスクラムを組ませ二重三重にした。他の方面は同高校の裏山と高校周辺の丸山町の四辻に三〇人ないし五〇人、或いは五〇人ないし一〇〇人位の見張員を配置し、その間に密接な連絡があり互にいつでも応援できる体制にあつた。またピケ隊員は同高校周辺だけでも最低三〇〇人から八〇〇人であつた。
これにより講習会関係者で講習会業務のため八月三日までに前記会場に入つた四、五名は、右ピケ隊の厳重監視にあい講習会業務のため学校より外に出ることができず、外部に電話も通ぜず、又被告側講習会関係者はその行動が監視阻害されたことにより右業務のため会場に入ることが不可能であつた。ことに、多数集団した婦人を含む受講者を受講のため会場に入らせることは全く絶望で、強いて入らせようとすれば大混乱が起り不祥事を招くのみである。しかも会場と宿泊所が日田市丸山町内の数個所に散在している関係上、仮に開会日の八月四日に入場できても、講習会を一二日間継続することは毎日同じ大混乱と不祥事を繰返すこととて到底実行のできることではない。
右原告等の指揮するピケツトは被告側講習会関係者と受講者を完全に封鎖したのである。
(D) 広瀬指導主事事件
同主事は本講習会の大分県運営本部事務局長として講師の選定、教育、会場の設定、諸資材の購入、準備、その他講習会実施に関する事務全般に従事していた。
八月三日前記山水館において日田会場運営委員長上田忠敏等と講習会運営について打合せの後、講師との連絡、会場の具体的準備、教材の搬入及び上田忠敏の委任により同人に代つて講習会運営の指揮をとるため会場に入る目的をもつて、同日午後五時頃教材を所持して会場の日田林工高校に赴き玄関についたとき、原告野田ほか数十人の阻止隊員により三〇分間位理由なくつるし上げられ、また引きずり下ろされ、暴行をうけて全治一週間を要する傷害を負つたばかりでなく、会場に入場できず、ために所期の目的を達しえないこととなり本講習会開催を不法に阻害された。
(E) 上田所長事件
上田忠敏は日田教育事務所長で、本講習会の日田会場運営委員長で同会場運営の全責任者であつた。八月四日午前九時の本講習会開催の時刻が迫つてきたのに会場附近は五〇〇人から六〇〇人の強力なピケツトが張られ、電話は通ぜず関係方面との連絡はとれず、原告藤野、同野田の指揮指導下にある阻止体制は固かつたが、この際何とか状況を打開して講習会を開きたいと被告関係者と相談の上、講習会開催の用務を帯び、同日午前八時頃藤原指導主事を帯同して自動車で会場に向つたところ、丸山町入口で原告藤野等の指揮するピケツトに阻まれ、十数名のピケ隊員によつて車ごと四〇メートル位押され日田統計事務所前に置かれ、右原告等を含む五、六〇人のピケ隊に包囲され、ピケ隊員は次第に増加して数百人になつた。そして多数のピケ隊員が口々に「何しに来た。出ろ。降りろ。講習会をやめろ。話し合え」等と叫び、原告藤野は車の左側の戸を明けて上田忠敏所長に降車を要求し、右の言葉を繰返した。上田所長は車内にあつて「団交の権限はないがその機会は作るから離せ。講習会開催の用務で会場に行くため来た」等答えたが、約一時間にわたりつるし上げられた。そのうちに強いて降車させられ数十人に押されて統計事務所内に連れて行かれ、そこで前同様のことで再び一時間余つるし上げられた。この間ピケ隊員は、上田所長を逮捕した等と叫んで気勢を上げていた。かかる不法監禁ならびにつるし上げを受けた上田所長は急性心贓衰弱、脳貧血を併発し、右原告等から離されるや否や車内に倒れ込み会場に入場の目的を果せないまま直ちに病院に入院した。このようにして本講習会開催は不法に阻害されたが、上田所長が講習会開催の日田会場運営委員長で全責任者であつただけにそのために受けた影響は甚大であつた。以上の行為は右原告藤野、同野田等の共謀によりなされた。
(F) 八月三日の広瀬事件、八月四日の上田事件といい、公務従事中の公務員に直接被害を加えての講習会妨害行為は、全国の斗争にその例をみない。
元来ピケツトは争議中の組合員のスト破りを防ぎ平和的説得によつて争議行為に協力せしめ、以て勤務条件等の経済的目的を達する手段であり、かつこれが許される労働争議の場合でも、平和的説得と団結による示威を示す程度をもつて適法とされる。組合員でない者、使用者側のもの、第三者等の就労権をピケによつて拒みえない。しかるに地方公務員たる右原告等は法三七条により争議行為を禁ぜられている。従つて法三七条一項にいうその他の争議行為であるピケにより、講習会開催の公務を帯びて公務遂行中の広瀬、上田等の講習会開催業務を阻み不法に被告の講習会開催を阻害したことは、それのみでも違法となるのである。
(G) 八月三日より四日早朝にわたり、別表四、五の受講者名簿記載の福岡県杷木町の旅館に待機した受講者一七名は講習会関係者の指図により予定通り講習会会場に入り受講しうる態勢であつたが、右原告等指揮の強力厳重な阻止態勢に阻まれ入場し受講することが不能になつた。ピケは前述のように説得であるのに、受講者に対する本件ピケは説得前既に立入阻止の目的でなされたもので、説得行為というも、名のみにすぎない。すなわち、本件ピケは説得のためでなく立入阻止のためで違法なものである。
(ニ) 右原告等の以上の行為がなかつたならば、被告は本講習会を開くことができ、前記受講者は受講できたところ、以上の行為により、講習会本部の山水館、運営本部の日田教育事務所、講習会場の日田林工高校及び受講者間は遮断されて連絡不能となり、講習会関係者の自由は奪われ運営事務ができず、講習会関係者と受講者の会場入場ができず、加えて、広瀬事件、上田事件が起つて本講習会の運営が行き詰つた。即ち前記三(六)記載の講習会業務の正常な運営が阻害されたのである。
なお業務の正常な運営阻害とは、阻害行為により、地方公共団体の業務が社会的機能として正常に運営されない場合は勿論、地方公共団体の機関内部において職制による命令が実現されない場合、例えば正常な職制による命令服従関係による運営が阻害されている場合も含むところ、本件の場合にはピケツトにより全く命令系統が乱されたのである。
右原告等の以上の行為は法三七条一項の争議行為に当り、当然同条に違反する。
(3) 原告藤野、同野田の法三〇条、三三条違反
原告野田が広瀬事件を起し、同原告及び原告藤野が上田事件を起したことは、教育公務員として、全体の奉仕者たる地位に背き、その職の信用を傷つけ、公務員の職全体の不名誉となるようなことをした場合に当るので、法三〇条、三三条に違反するのである。
(九) 原告宇野が本講習会阻止のためになした法三七条一項違反の争議行為
(1) 争議行為の企て、共謀、せんどう
(イ) 同原告は、期日を昭和三四年七月一四日とし、本講習会阻止方法の協議のため玖珠郡教組執行委員会を玖珠町所在の南部小学校で開くことを定めこれを招集した。右は同条項にいう違法な行為たる争議行為の企てに当る。
そして右期日に同所で右執行委員会を開き、各執行委員と講習会阻止の方法として団体交渉、受講予定者に対する不参加説得、受講者名簿の提出阻止、提出済の名簿奪還及びピケによる講習会阻止等を協議し定めた。右は争議行為という違法行為の遂行を共謀したことになる。しかも他の執行委員に対する関係では、右の違法行為のせんどうに当る。右執行委員会の構成員は別表三の玖珠郡教組役員名簿中の執行委員である。
(ロ) 同原告を除く玖珠郡教組執行委員は、同原告のせんどうにより、七月二九日前記南部小学校において、七月三一日同所において、八月二日同所及び玖珠町川底温泉所在の「螢川荘」において、八月三日「螢川荘」及び准園小学校において、八月四日「螢川荘」において、受講者(別表五の玖珠郡関係の受講者)に本講習会不参加の説得をした。即ち同原告は右執行委員に対し違法行為のせんどうをした。
(ハ) 同原告は八月二日南部小学校でなされた受講者説得後、当日開かれた玖珠郡教組執行委員会において他の委員と共に、帰宅した前記受講者を連れ出し「螢川荘」に集結させ講習会不参加を説得することを協議決定した。右は違法行為の遂行を共謀したことになり、同原告以外の執行委員に対する関係では違法行為のせんどうになる。
(ニ) 以上の行為は法三七条一項のその他の争議行為を企て、共謀、せんどうしたことである。
(2) 争議行為の実行(その他の争議行為)
(イ) 講習会阻止を目的とする被告側との団体交渉
(A) 原告宇野は七月三一日玖珠町役場において、玖珠町穴井教育長、九重町武田教育長及び玖珠郡中学校長会に対し、玖珠郡教組は講習会に参加しないことを決定したからとして講習会参加申込みを取下げられたい旨要求した。右行為の対象者は結局被告になる。
(B) 後記のとおり玖珠郡関係の受講者は同原告によつて前記「螢川荘」に軟禁状態におかれていたので、玖珠町後藤教育委員長、同穴井教育長、校長会代表五名が八月三日午後八時半頃「螢川荘」に赴き同原告に対し、<1>受講の重要性と受講者本人の受講希望を達するように<2>教組は受講の措置をとられたい<3>受講者に会わせよと申入れたが同原告はこれを拒絶した。
(ロ) 本講習会阻止を目的とする受講者不参加説得
(A) 受講者が決定されてから同年七月になると同原告は自ら又は玖珠郡教組幹部をして屡々前記玖珠郡関係の受講者に対し不参加を強力に呼びかけた。
(B) 同月二九日同原告は同教組幹部と共に玖珠町南部小学校で右受講者全員に対し「文部省の一方的な押付け講習だから受講しないよう」に強く不参加を説得した。しかし受講者はこれを拒絶し全員参加を表明した。
(C) 同原告は八月二日ハガキで右受講者全員を同小学校に集合させ、午前九時頃より午後八時半頃まで同教組幹部と共に右受講者に対し執拗に講習会不参加を説得した。しかし失敗し午後九時散会した。
(D) 同原告は右散会後、受講者に更に執拗に不参加説得することを決意し、同教組幹部を指図し、帰宅している受講者一二名(別表五の受講者名簿の玖珠郡関係受講者中「螢川荘」集合と記載あるもの)をハイヤーで各自の家より連出して「螢川荘」に軟禁し八月二日深夜から三日早暁にかけて講習会不参加を説得した。
(E) 同原告は同教組幹部と共に右受講者一二名を「螢川荘」から准園小学校に連れ出して不参加を説得し、「日田における受講者は全員不参加に決定したから玖珠郡も不参加にする。地教委や校長会の代表者が今日来るので強力な発言をするため必要であるから書け」と強要し、受講者に不本意な不参加届を書かせた。
(F) 同原告は、同日右受講者一二名をそのまま同小学校から「螢川荘」に連れ帰り、同所で再び不参加説得をした。
(G) 右受講者一二名に対する右(ニ)(ホ)(ヘ)の八月二日深夜から四日正午までの間の不参加説得は、同原告が指揮する玖珠郡教組の管理下に受講者と外部との交渉を全く遮断してなされたもので、この間右受講者は任意な意思は抑圧され、自由は制せられていたものであり、このことは強力なピケツトにより軟禁されていたと同一である。
(ハ) 同原告の(イ)の団体交渉、(ロ)の不参加説得の各行為は、平和的常識的な手段方法でなく団体の圧力により威力を示し、強要し、甚だしく自由を抑圧し、受講者の意思に背いて軟禁状態におき本講習会に参加させなかつたものである。右の各行為がなかつたならば受講者は完全に受講したし、講習会も開催しえたのである。
同原告の各行為は何れも本講習会開催阻止、受講者の受講阻止を貫徹するためなしたものであつて、玖珠郡玖珠町、同九重町教委の委員、教育長、職員、並びに同郡中学校長等の講習会業務の正常な運営を阻害した行為であるから、法三七条一項のその他の争議行議に当るのである。
(3) 同原告の法三〇条、三三条違反
同原告の(2)(ロ)の講習会阻止を目的とする受講者不参加説得のうち、(B)ないし(G)の行為は、法三七条に違反するのみでなく、全体の奉仕者なる地位に背きその職の信用を傷つけ公務員の職全体の不名誉となるようなことをした場合に当るので、法三〇条、三三条に違反する。
(十) 本講習会中止の由来
(1) 別表四、五の受講者名簿中、杷木町集結と記載されている者は八月三日までに同町の旅館に集結した。同表のうち日田郡の受講者について職務命令のあつたことは後記四、(一)、(2)の玖珠郡関係の受講者と同様である。
(2) 同時に同所には八月二日ごろから講習会のための職務をもつた被告職員並びに受講者関係の教育長、中学校長等数名が集結し講習会用務や受講者の受講の世話をしていた。
(3) しかるに前記(八)、(2)、(イ)、(ロ)、(ハ)記載の原告等の阻止行為により受講者は講習会場に入りえないこととなり、また右のような集団阻止斗争に、加うるに地理的悪条件の地域において一二日間の継続講習会の運営は不可能になりこれを中止するの止むなきに至つたのである。原告等の各行為は決して憲法二八条の保障する団体交渉権にもとずく行為に当らないのである。
(十一) 原告三名等組合幹部の責任
組合活動、とくに斗争状態下にある組合活動は、組合幹部がこれを企画し指導する等、組合幹部の直接間接の関与のもとに行われるのが一般であり、従つて特別の事情の認められない限り、組合幹部は組合活動全般についてこれを企画し指導する等、直接間接これに関与したと認めるべきであつて、この意味において、組合幹部が組合活動全般についてその責に任じなければならないことは当然であるが、たとい組合幹部の企画、指導等にもとずくものとは認められない組合員の自発的行為であつても、組合幹部がそれを知りながら阻止すべきなんらの努力を支払わなかつた場合は、当該組合幹部はそのような行為についても責任を負うものといわなければならない。
従つて原告三名には本件争議行為の企て、共謀、せんどう、その他の争議行為の各場合に右理論は当然適用され、右に述べたような責任が原告三名に存する。
(十二) 手続違背の主張に対し
仮に日田市教委が本件懲戒処分の内申を決定する委員会の会議について、開催告示をしていないとしても、右の告示は、教育委員会法(昭和二三年法律第一七〇号)三四条三項においては、会議成立の要件として規定せられていたのであるが、同法は地教行法(昭和三一年法律第一六二号)の附則二条により廃止され、同法においては、告示は委員会開催の要件ではない。
従つて原告主張の会議規則五条二項の規定は、内部取り決めに過ぎず、これに従わなかつたとしても、法律の要件に違反するものではないから、日田市教委の前記会議は適法に成立したものと解すべきである。
(十三) 法五六条(不利益禁止規定)違反の主張に対し
原告三名は職員団体のため正当な行為をしたのではなく法三七条違反の行為をなし更に法三〇条、三三条違反の行為があるから、本件処分に法五六条違反の点はない。
(十四) 同法二七条第一項(任免権の乱用)違反の主張に対し
原告等には右の違反行為があるのであるから処分を受けるのは当然で本件処分に公正を欠くところはなく、法二七条違反はない。
(十五) 法三七条の違憲の主張に対し
(イ) 憲法二八条に違反しない。
国民の権利はすべて公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とするものであるから、憲法二八条が保障する勤労者の団結権等も公共の福祉のため制限を受けることは止むをえない。ことに地方公務員は全体の奉仕者として(憲法第一五条)公共の利益のため勤務し、かつ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない性質のものであるから、団結権等について一般の勤労者と異り特別の取扱いを受けることがありうるのは当然である。従つて法三七条は違憲ではない。
しかも憲法二八条は企業者対勤労者即ち使用者対被使用者というような関係に立つものの間において勤労者のために団結権等を保障したものに外ならない。しかも保障されるものは正当な団体行動であり、不当、違法なものは保障されない。しかるに原告三名が組合活動の名においてなした本講習会の阻止、受講者の受講阻止の方法として実行した団体交渉、不参加、説得、ピケ等の実力行使による争議行為並びにこの争議行為の企て、遂行の共謀、せんどうは以上に詳述したように不当、違法な行為であるから憲法二八条の保障はない。
(ロ) 憲法二一条、三一条、一八条に違反しない。
I 憲法における言論、集会結社等表現の自由といえども個人の無制約な恣意のままに許されるものではなく、公共の福祉のために調整されなければならない場合がある。されば地方公務員が地方公務員に対し、その使用者としての住民を代表する地方公共団体の活動能率を低下させ、また妨害するような争議行為を企て、遂行を共謀し、せん動したことはそれぞれ住民全体に奉仕すべき地方公務員の重大な義務懈怠を慫慂、教唆するものであつて、公共の福祉に反し、憲法の保障する言論等表現の自由の限界を逸脱するものであるから憲法二一条による保護はない。
II 原告三名のなした前記団体交渉、不参加説得、ピケ等の実力行使は憲法二一条で保障されない。即ち憲法二一条は集会言論結社等表現の自由を保障しているので集団行動、集団示威運動等の団体行動の自由も保障しているが、他面憲法一二条は、基本的人権は濫用してはならず、常に公共の福祉のために利用すべきものとしている。従つて憲法が保障する表現の自由といえども、公共の福祉のために必要かつ已むを得ない限度においてこれを制限することが許される。
原告三名の前記行為は不当違法なものとして憲法二一条の保護はない。
III 憲法三一条、一八条違反の主張も理由がない。
(十六) 原告等大教組員に対し大分県職員としての職務と責任にふさわしい勤務条件の保障がないとの主張に対し
(イ) 定員配当について。大分県は定数法及び同法施行令により学級編成及び教員定数を決定しているので違法不当はない。
(ロ) また諸手当、旅費の支給、厚生補助費、給与についても国又は大分県の財政に従い、大分県が定めた条例並びに規則に従つて支給しているし、かつ数額も九州各県のそれに比較して普通であり甚だ劣悪ではない。
(ハ) 従つて法三七条を適用し懲戒処分を行つても憲法二八条の趣旨を誤りひいては法三七条の適用を誤つたことにはならず、また法二四条の違反もない。
五、原告の再主張に対する答弁
すべて争う
(一) 研修は教員の義務である。
(1) 任命権者は法三九条、地教行法二三条、三七条、教育公務員特例法一九条二項等により、教員の研修のため講習会を計画し実施することに努めなければならない義務があり、
(2) 教員は法三〇条、三一条、三二条、三五条に定める義務に服することが要請されているのみでなく、教育公務員特例法一条、一九条一項に定めるように、職責遂行のため絶えず研究と修養に努めなければならない。
右は憲法二六条により教育を受ける権利を有する児童生徒の教育権に関与するためであり、このことからみて教員に研修の義務ありというべきである。
前記の如く日田郡及び玖珠郡関係の受講者は昭和三四年七月二〇日に定まつたので被告は関係各機関を経て各中学校長に、各中学校長は受講参加者の教論に口頭で受講出席を求め、受講者に研修の旅費を支給した。
このことは職務命令と解すべきである。
(二) 教員に教育権の専権はなく、従つて教育権の侵害はない。
(1) 原告等は教育の定義につき縷述するが、小学校、中学校、高等学校及び大学教育の意義については、教育基本法一条に明定されているところである。
(2) 学問の自由(憲法二三条)はすべての国民が有し、この自由は研究の自由を中核としその外部的表現の自由、即ち発表の自由をも保障するものである。
学問の自由は、教育の自由、教授の自由と密接に関連するが、前者は必ずしも後者を含まない。学問の自由の中には下級教育機関である小、中、高等各学校の教育の自由、教授の自由を含まないとするのが通説である。
(3) 教育基本法一〇条で、教育は不当な支配に服することがないとは、教育の自由性の社会的保障が認められていることである。即ち教育の自主性であつて教員に自主権があるということではない。教員は公務員法制の枠内において教員という職務権限を有しその範囲内で教育することができるのであつて、教育は教員の専権ではない。学校教育法二八条四号、四〇条で教諭は児童の教育を掌るとは、右のように法令の枠内において教育に従事するとの意味であつて、教育の専権があるとの意ではない。
(4) 原告は国家の教育行政のあり方は、教育内容にはタツチし得ず、専ら教育目的達成に必要な外的諸条件の確立、整備に限定されると主張するが誤つている。教育基本法一〇条二項にいう「必要な諸条件の整備確立」の中には人的、物的の外的諸条件のみならず、教育内容の条件整備確立も含まれることは、学校教育法、地教行法等の法令で定められた文部省や教育委員会の職務権限をみれば極めて明瞭である。
(5) 公務員は公務員であることのゆえに私人と異り一定の制限を受けるのであり、教育公務員たる教員も公務員に関する諸法令、諸規則により制限を受けるのは当然である。
従つて個々の教員が自己の意思に従つて教育し国民全体に責任を負うということは考えられない。
(三) 教育課程と学習指導要領は教員を拘束する。
(1) 教育課程は文部大臣が定めることは学校教育法二〇条、三八条、四三条、一〇六条に規定されている。
(2) 教科書教材使用も文部大臣が定めることは同法二一条、四〇条、五一条に規定されている。
(3) 教育課程の編成は同法施行規則二四条、五三条に定められ、また教育課程の基準として文部大臣が公示する学習指導要領によるものとすることは同規則二五条、五五条に規定されている。
(4) 大学に右規定がないのは、大学教育と小、中、高校教育との相違から生じたもので、その根源は学問の自由と教育の自由、教授の自由の差から出たものである。
(5) 現行法令は右のとおり定められているのであつて、教員が教育課程、教科書、教材使用、教育課程の編成、学習指導要領の制定をしてもよいという規定はない。
第三、立証関係<省略>
理由
第一、原告野田の訴の利益について
一、同原告が昭和三七年一月一〇日大分地方裁判所において公務執行妨害、傷害罪により懲役三月執行猶予一年の言渡をうけ、右判決は昭和三九年五月一九日確定したことは当事者間に争いがない。
従つて同原告は地方公務員法(法)一六条二号、二八条四項によりその職を失つたことが明らかである。
二、ところで本件懲戒処分無効確認及び取消の訴は、過去の事実の確認の訴の趣旨としては許されないのであるから、判決による懲戒処分無効確認または取消により懲戒処分なかりし状態に復帰し、もつて不利益を課せられた身分の回復を目的とするものにほかならないのである。
従つて同人がすでに失職したこと右のとおりであるから、もはや右の無効確認ないし取消をしても、不利益を課せられた自分を回復するに由ないのであるから、かかる場合には懲戒処分無効確認及び取消の訴は訴訟の利益がなくなつたものとして許すべからざるものと言わなければならない。
従つて、次項以下は、他の原告藤野、同宇野の請求に対する判断を示すものである。
第二、本講習会開催計画から中止に至るまでの経緯
一、被告主催の昭和三四年度中学校技術家庭科大分県実技講習会(本講習会)が昭和三四年八月四日(以下、特に年号を示さない場合はすべて昭和三四年である)日田市丸山町所在の大分県立日田林工高等学校(以下林工高校という)で開催されることになり、県下中学校勤務の教員に対し、被告から校長を通じて受講予定者の指定が行われたこと(この経緯は後記のとおり)、大分県教職員組合(大教組)は六月五日、六日に開催された定期大会において、全員一致により本講習会開催に反対の態度を確認し、以来この態度を維持していたこと、大教組は被告の本講習会実施の意図を知つたころから被告に対し再三団体交渉を申入れ、「教育課程改悪の問題は我が国の教育に及ぼす影響が極めて大きい」と主張して本講習会中止の申入れをなしたが、被告は本講習会は予定の方針としてこれを断行するという態度をとりつづけたことは当事者間に争いがない。
二、大教組の組織及び原告らの地位成立に争いのない甲第六〇二号証の一、同六〇四、六〇五号証と原告藤野、同宇野、同野田各本人尋問の結果を総合すれば、大教組は大分県内の市町村単位の教職員組合及び特殊学校教職員組合(いずれも地方公務員法五二条一項に規定する団体。以下、単位組合という)の連合体であつて、組合員の経済的、社会的、政治的地位の向上を図り、教育並びに研究の民主化につとめ、文化国家の建設を期することを目的として組織されている法人であり、他の都道府県教職員組合とともに連合体である日本教職員組合(以下、日教組という)を組織している。
大教組は最高の決議機関として単位組合選出の代議員により構成される大会、これにつぐ決議機関として支部選出の中央委員その他で構成される中央委員会を設け、執行機関として執行委員会を設け、執行委員長、執行副委員長、書記長各一名、執行委員若干名、その他を置き、委員長は組合を代表し、副委員長は委員長を補佐し、委員長に事故あるときはその代理をする、書記長は正副委員長を補佐し組合事務を処理する旨定められている。
大教組日田、玖珠両支部は、規約上は、前者は日田市郡内の、後者は玖珠郡内の各小中学校の教職員をもつて組織する旨規定せられているが、実体は単位組合の連合体であり、大教組の目的達成のため組合員の団結を基礎とし、単位組合、大教組本部及び他支部と一体となつて行動することを目的として組織せられている職員団体である。
両支部はともに最高の決議機関として支部内全組合員をもつて構成する支部大会、これに次ぐ決議機関として、日田支部は各分会毎に選出する支部委員をもつて構成する支部委員会、玖珠支部は事務職員部、養護部、青年部、婦人部各一名、各分会より各一名選出された委員と一部執行委員を以つて構成する委員会を設け、執行機関として両支部とも執行委員長、書記長各一名、日田支部は副執行委員長二名、書記次長一名、執行委員若干名、その他、玖珠支部は副委員長一名、執行委員一〇名その他を置き、委員長等の執行する職務はおおむね大教組規約と同様である。
本講習会開催当時、原告藤野は日田市立光岡小学校教諭で日田支部執行委員長の地位にあり、同野田は同市立南部中学校の教諭で同支部書記次長の地位にあり、(本講習会以前から昭和三六年三月末日まで組合事務に専従)原告宇野は玖珠町立八幡中学校教諭で玖珠支部委員長の地位(本講習会以前から昭和三九年四月まで組合事務に専従)にあつた。
現在原告藤野は日田市立南部中学校の、同宇野は玖珠町立森中学校の各教諭である。
三、本講習会開催の経緯
(一) 文部省は昭和三三年八月二八日付文部省令第二五号により、学校教育法施行規則の一部を改正し、中学校の教育課程のうち職業家庭科を技術家庭科に改めるとともに「中学校の教育課程については、この章に定めるもののほか、教育課程の基準として文部大臣が別に公示する中学校学習指導要領によるものとする。」と定め、前記文部省令二五号による改正前の旧規定が単に「教育課程については学習指導要領の基準による。」こととし、学習指導要領は何等法的拘束力を持たない、単なる指導書に過ぎないとされていたのを改めたこと(同規則五三条、五四条の二)、ついで同年一〇月一日付文部省告示八一号により中学校学習指導要領を改訂して右教科に関する部分については昭和三七年四月一日から実施する旨公示したことは当裁判所に顕著である。
(二) 証人安養寺重夫の証言により真正に成立したものと認める乙第三号証、証人米田貞一の証言により真正に成立したものと認める乙第四号証、第五号証の二、日田教育事務所長作成部分については証人上田忠敏の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証と証人米田貞一、同安養寺重夫、同大石俊之の各証言を総合するときは、文部省は右教育課程改訂に伴う移行措置として、技術家庭科の都道府県研究協議会を実施することに決め関係教育委員会に対しその旨の通知を発し、被告は前記の改訂された学習指導要領に法的拘束力があるものと解し、右通知に基いて文部省との共催により大分県下五会場において当該教科担当の中学校教諭を対象とし、右協議会を開催することとし、六月八日付をもつて本講習会を八月四日から林工高校で開催する旨決し、次いで六月二二日付をもつて、被告教育長は関係教育事務所長宛に右日時、場所を示したうえ本講習会の参加希望者の推せんを求め、日田教育事務所長は習二三日付をもつて管内各教育長宛に右と同旨の通知をなしたこと、以上の事実を認めることができ、これを覆えすにたりる証拠はない。
四、受講者の決定
(一) 日田教育事務所長作成部分については前記のとおり真正に成立したものと認められ、玖珠町教育長作成部分については証人穴井憲一の、九重町教育長作成部分については証人武田森造の各証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第六号証、証人上田忠敏の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人米田貞一の証言により真正に成立したものと認める乙第八号証、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第八六号証の二と証人穴井憲一、同武田森造、同麻生玉人、同桐谷喜男、同八島時雄、同山下一、同高橋猪一郎、同帆足義夫、同小田原三八、同塩川実の各証言を総合するときは、六月二五日ごろ日田教育事務所において開かれた日田、玖珠地区の教育長会で、教育事務所側から、本講習会の受講者として玖珠郡全体から男子六名、女子五名の割当を受け、同月二九日に玖珠町、九重町両教育長と玖珠郡の中学校校長全員が出席して校長会を開き、玖珠郡全体で一五名を推せんすることとし、各学校長は、当該被推せん者の意向を確かめ、参加希望者があれば七月二日までに参加者名簿をもつて参加の意思を町教育委員会に報告することとした。
(二) そこで森中学校校長麻生玉人は、別表五の玖珠郡関係受講者名簿記載の小田原成道、池田静子に、玖珠中学校長八島時雄は神田敬次に、北山田中学校長深草禎作は諫山喜久男、佐藤豊音に、八幡中学校長高橋猪一郎は日隈節夫、山口由美子に、山浦中学校長山下一は井上隆幸に、古後中学校長帆足義夫は徳部好彦に、日出中学校長桐谷喜男は城戸忠義、井上八重子に、東飯田中学校長小田原三八は大蔵永喜、佐藤敏子に、南山田中学校長塩川実は佐藤雅洋に、それぞれ直接または間接に参加の意向を確かめ、受講の意思があると認めて各学校長はその旨、教育長に報告し、玖珠町、九重町両教育長は他中学校校長からの届出分を含めて日田教育事務所長宛に別表五の玖珠郡関係受講者名簿のうち吉武熊彦を除く一六名の参加者名簿を提出し、教育事務所長は七月九日県学校教育課長宛に受講者名簿を右のとおりに報告し、被告教育長は同月二〇日日田教育事務所長宛にさきに推せんのあつたとおり参加者を決定した旨の通知を、同所長は同月二五日付各教育長宛に右と同旨の通知を発したこと、以上の事実を認めることができる。
成立に争いのない甲第七〇八号証と証人池田静子の証言のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に照して採用し難く、成立に争いのない甲第七〇六号証によつても右の認定を覆えすにたりず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 証人上野吾介の証言により真正に成立したものと認める乙第一九号証と証人上野吾介、同合谷均、同高村権市、同木下康夫、同熊谷武雄、同藤井嘉門、同野上文明、同松平五郎、同財津敏夫、同異儀田浩、同大倉久治、同高倉港、同岩尾トシ子、同石松博、同一ノ宮岑子の各証言を総合すれば、日田市内の各中学校長は、日田市教育委員会教育長(以下、市教育長という)上野吾介から、七月四日付書面をもつて受講者名簿の提出を求められ、そのころから七月下旬ごろまでの間一回ないし数回にわたつて西部中学校校長合谷均は別表四の日田市関係受講者名簿のうち大倉久治に、大鶴中学校長木下康夫は梅村次彦、一ノ宮岑子に、東部中学校長高村権市は淵七郎、横尾惟子に、北部中学校長熊谷武雄は加藤和夫、高瀬真喜子に、戸山中学校長財津敏夫は野田須磨好に、東有田中学校長藤井嘉門は高倉港に、夜明中学校長野上文明は岩尾トシ子に、五和中学校長松平五郎は宮崎統介、渡辺泰にそれぞれ本講習会に参加するよう説得した。
これに対し大鶴中学校の梅村次彦(当時の教頭)は自ら参加する旨の意思を表明したが、その他の者は、参加受諾の意思表示をなすに至らなかつた。
そこで市教育長は同月二一日各学校長宛に更に強く必ず受講者名簿を提出するよう通牒を発し、更に各学校長に対し受講希望者を申出させるべく、もし希望者のない場合には学校長が受講者を決定し、充分に説得して必ず受講者名簿を提出するよう指示し、各学校長は前記受講予定者に対する個人説得と併行して七月二日から八月一日まで数回に亘り、各学校長と当該学校の職業家庭科主任、日田市郡中学校長会長と職業家庭科サークル主任会と大教組日田支部執行部との話し合いが持たれ、受講予定者をして受講を承諾させるべく努力したが、遂に予定者が受講の意思を発表するまでには至らなかつた。
また八月一日には日田市内の三川荘において、合谷、熊谷、高村、田中の各学校長が、各学校の職業家庭主任である前記加藤、淵、大倉及び南部中学校の長順一郎に対し深更に至るまで長時間説得に努めたが、遂に四名とも受講の意思を明らかにするには至らなかつた。
最後に市教育長は八月一日から三日の朝にかけて自ら受講予定者のうち、前記梅村、淵、大倉、長、加藤、高倉に対し受講するよう個人別説得に努めたが(前示のように梅村は、すでに受講の意思を表明していた)、結局右梅村のみが受講を承諾し、その他の五名は承諾せず、日田市関係の、その他の受講予定者については遂に説得の機会がなく、三日午後には説得を断念し、結局日田市関係では梅村以外に本講習会受講者の決定がなされなかつた。
右認定を覆えすにたりる証拠はない。
五、本講習会に対する大教組日田、玖珠両支部の基本的態度
(一) 証人宮本策郎の証言により真正に成立したものと認める甲第一〇五号証と証人宮本策郎の証言、原告藤野本人尋問の結果を総合すれば、前記六月五日、六日に開催された大教組定期大会における本講習会開催に反対の決議にもとづき大教組委員長は七月三日各支部執行委員長に対し、受講生に対し徹底的に不参加を呼びかけ、文部省及び被告の計画する講習会を実質的に阻止することを斗いの目標とし、具体的行動として、(1)大教組は被告に対し職務命令等により受講生の狩り出しをしないことを交渉し、これをかち取る(2)支部分会は出席者に対し講習会不参加説得をする(3)各支部は講習会の二日前予定者全員を集めて説得する。(4)当日説得班を組織し、入口で不参加説得を行うことを内容とする指示第三号を発した。
(二) 日田支部は同月八日日田市立若宮小学校において執行委員会を開催し、その際指示第三号について検討を加え、同月一四日同所において、日田支部分会長会を開き、その席上執行部は右指令第三号を説明してこれについて各分会で討議をするよう要求し、分会長は右指示第三号を職場に持ち帰つて討議し、この職場討議をもとにして七月一七日の日田支部委員会において右指示どおりの行動に出るべき旨の決議がなされた。
(三) 一方、玖珠支部においても、前記甲第一〇五号証と証人藤本英夫の証言及び原告宇野本人尋問の結果を総合すれば、七月一四日南部小学校内公民館において、委員四十五、六名が出席して委員会を開き他の議案と併せて前記指示第三号について論議したが、反対説はなく、右指示にもとづいて受講予定者の説得活動を行うことが承認された。
これも日田支部と同様右指示を大教組から受取つた後、執行委員会で検討のうえあらかじめ七月初旬各学校に流し、各学校における職場討議の後、その代表者たる委員による委員会で承認されたのである。
以上の認定を覆えすにたりる証拠はない。
六、受講予定者の態度
(一) 証人大倉久治、同高倉港、同岩尾トシ子、同一ノ宮岑子の各証言と原告藤野本人尋問の結果を総合すれば、
(1) 日田市には、市教委、校長会、大教組日田支部の三者で構成する日田市教育振興協議会があるが、この協議会の三月の総会において改訂された指導要領の取扱について協議し、これをそのまま実施することの可否について検討するため、学校長から六名、それ以外の教員六名の専門委員を選出して全般的事項について討議することとし、各科目については各科目のグループで検討することを申し合わせた。
そこで大教組日田支部としては、まず職業家庭科の研究グループ(以下、職家サークルという)で検討させることになり、同サークルは七月九日主任会を開き教育課程の全般的な問題について討議したが、その際は本講習会の参加不参加を決定せず統一行動をとることを決めた。ついで同月一三日若宮小学校で職家サークル主任会が開かれ、同月一八日には日田玖珠支部の職業家庭科主任が合同して種々協議の結果、日田支部の主任は、本講習会の不参加を確認した。(玖珠支部については後述)
(2) 此の間前記の如く日田支部執行部が七月一四日の分会長会で前記指示第三号を説明し、職場討議のうえ同月一七日には委員会で本講習会開催反対が決定されたから、このころは受講予定者ないし職家サークル員は、自らをもその構成員とする日田支部の意思が本講習会の開催に反対であることを知つていたことは明らかである。
(3) それ以後個々の受講予定者は前記梅村を除いては、或いは技術の修得自体の必要性は認めながらも(職家サークルの自主的な研修会を八月中旬に開くことを決定していた)、教育課程の改訂自体と本講習会の意図に疑問を抱き、或いは日田支部の反対運動をおもんばかつて、本講習会不参加の意思を持続し、最後まで受講の意思表示をなすに至らなかつた。
右認定を覆えすにたりる証拠はない。
(二) 成立に争いない甲第七〇六号証、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第八六号証の二と証人藤本英夫、同帆足等、同池田静子、同八島時夫、同山下一、同高橋猪一郎、同塩川実、同帆足義夫、同桐谷喜男、同麻生玉人の各証言と原告宇野本人尋問の結果を総合すれば、
(1) 大教組玖珠支部内において、学校長から受講予定者として指名されて受講に同意した者も、七月一三日と一八日に日田支部と玖珠支部の職業家庭科(以下、職家部という)の主任(部長)、受講予定者等の会議の際、玖珠支部の職家部よりも日田支部の職家サークルがはるかに本講習会不参加の意向が強かつたし、なお本講習会には参加せず、自主的な方法により必要な実技の研修会を持とうという日田支部の職家サークルの意見が説得力をもつていたこともあり、他面、前記指示第三号にもとづいて各学校毎に組合分会長(玖珠支部委員会の委員を兼任)を中心として、学習を進めていく中で本講習会不参加説得が進められて行つたこと等もあり、漸次受講予定者の大勢は本講習会不参加に傾いたが、他方予定者のうちには、あくまでも本講習会を受講すべきであるとの意見もあり、職家部の意向は容易にまとまらなかつた。
(2) 一方玖珠支部執行部としては七月上旬既に玖珠、九重両教育長から受講者名簿が被告に提出されていることを知り、また受講予定者に対する関係各学校長の参加説得もようやく強まつたため、同月二九日南部小学校に受講予定者を進め、本講習会参加不参加についての討議を求めた。
その討議においては、一方、技術を身につける必要はあると考え、また本講習会を受けないことによつて免許状を受けられなくなる懸念を持つ者があつたものの、他方、教育課程の改訂そのものと官制講習会に対しかなり疑点があり、また前記の如く組合の反対運動が強かつたこともあり、参加、不参加の決論を出すに至らず、以後連日の如く同所において職家部会の会同で検討を重ねた。
(3) 玖珠支部執行部は五、六回執行委員会で予備的に具体的な反対斗争の方法を検討したうえ、八月二日に委員会を開き、そこで決定することとし、その際委員に受講予定者の同行を求めた。
そして南部小学校内公民館で玖珠支部委員会を開いて具体的斗争方針を検討し、それと併行して同校別室で受講予定者を含めた玖珠支部内の職家部員全員が集つて本件講習会に参加するか否かについて議論を重ねた。
(4) 右職家部会は午前九時ごろから午後六時ごろまでの間続けられたが、その会においては受講予定者は統一行動をとろうという点は一致したものの、受講賛成者と反対者の対立がまとまらないまま、延々と議論を重ねたが結論に到達せず、遂には受講予定者の中で自ら出席すると称して退席して行つた者もあり、最後まで残つた者達は本講習会不参加の意思を決めたが、これを表明する時期、方法等を更に翌三日午前九時から同所で話し合うことにして当日解散した。
(5) これに対し玖珠支部執行部としては後記認定の如き玖珠町、九重町両教育長と校長会に対する交渉の経過に鑑み、教育委員会側において一応受講予定者を強制的に連行しないという見通しと、他面受講予定者の不参加の意思は固まつているとの判断の下に、当日はあえて説得活動は行わなかつた。
(6) それより先、七月三一日から八月二日ごろまでの間に玖珠郡内の各中学校長は自校の受講予定者に対し受講のための旅費の補助として一、〇〇〇円を渡して受講の説得をしようとしたが、池田静子、山口由美子、神田敬次、日隅節夫、佐藤雅洋、井上隆幸、諫山喜久男、佐藤豊音の八名は旅費を受取らず、前二者は明確に受講しない旨の意思表示をし、日隅は一日くらいして受講すると述べ、佐藤雅洋は、校長において佐藤が講習会不参加の意思をもつていると受取るような態度を示し、諫山、佐藤豊音、井上、神田の四名はいずれも受講の意思を表示しなかつた。
大蔵永喜、小田原成道の両名にはその留守宅に学校長からの旅費が置かれていたが、学校長としては大蔵に受講の意思はないと思つていた状態であり、小田原はあらかじめ学校長に対し職家部の話合いの結果によつて参加、不参加を決めると述べていた。
城戸忠義は旅費を受取つたが八月三日単身後記の「螢川荘」に赴き、また吉武熊彦については同人の旅費は未だ出されてなく、同人は前同日単身「螢川荘」に赴いた。
七、本講習会受講義務の存否
(一) 証人上野吾介の証言により真正に成立したものと認める乙第一九号証と同証人の証言によれば、日田市教委管内の受講予定者に対し本講習会受講のための職務命令が発せられていないことは明らかであつて、これを覆えすにたりる何らの証拠もない。
(二) 被告は玖珠郡における受講予定者に対し、各中学校長が口頭で受講出席を求めたことは職務命令があつたと解すべきであると主張する。
しかし証人米田貞一の証言によれば、学校長が発する、一定期間受講すべき旨の職務命令は、受講者に対する出張命令として発せられ、しかも同命令は文書によつていたことを肯認しうるところ、かかる出張命令の支書が発せられたことを認めうる証拠は、何等存在しないのである。のみならず証人穴井憲一の証言によれば玖珠町教委では七月三一日に職務命令ではなく、単に受講を依頼する旨の書面を発したこと(この書面すら玖珠町教委関係の受講者に到達したと認むべき証拠はない)、前記乙第六八号証の二と証人麻生玉人、同桐谷喜男、同八島時雄、同山下一、同高橋猪一郎、同帆足義夫の各証言によれば、玖珠町の各中学校長は、この線に副つて自校の受講予定者に対し講習に参加するよう説得したに止まること等の事実が認められ、これを覆えすにたりる何らの証拠もない。
また九重町教委関係では証人小田原三八の証言によれば、東飯田中学校長であつた同人は、八月二日前認定の如く大蔵永喜の家族に旅費を渡した際校長会の申し合わせに従つて封筒の中から出張命令書を抜き取つたこと、証人塩川実の証言によれば南山田中学校長であつた同人は七月三一日佐藤雅洋に対し、本講習会受講の旅費を渡そうとした際同人がこれを断つたので、恐らく同人も職家部の多数の意見に従うであろうと考えて受講参加説得をしなかつた事実を認めるにたりこれらを覆えすにたりる何らの証拠もないから、被告の右主張は採用できない。
(三) その他玖珠郡関係の受講予定者につき職務命令が発せられた事実を認めるにたりる何らの証拠もない。
右のとおりであつて、教員は教委の行う研修を受ける抽象的な義務があるか否か論ずるまでもなく本講習会受講予定者のうち少くとも右「螢川荘」と後記認定の「藤野屋」旅館に集結した者が本講習会受講の法律上の義務を負つていたとはいえないことは明らかである。
八、本講習会中止の経緯
証人山本峯生の証言により真正に成立したものと認める乙第四九、五〇号証と同証人、同大石俊之、同大塚一郎、同米田貞一の各証言を総合すれば、被告主催の大分県中津会場における講習会の際は、被告側と教組のピケ隊とが衝突し、警官隊の導入によつて講習会を開催したという不祥事件があつたこと、本講習会場においても後記広瀬事件、上田事件等と人員、その配置等からみて本講習会阻止のためのピケツトが極めて強力であつて、本講習会の開催を強行するときは、再び衝突が避け難い情勢にあつたのであり、そのうえ本講習会の最高責任者たる上田所長が病に倒れたため、本講習会の強行開催を断念し、遂に本講習会は中止されたことを認めうべく、右認定に反する証拠はない。
なお弁論の全趣旨によれば、受講予定者総数四四名のうち一七名しか被告側において確保できなかつたことも、中止の理由の一と推測されるのである。
被告の右中止の処置は被告側とピケツト隊との衝突による混乱を避けるのに、まさに賢明な処置であつたということができる。しかしこの中止が法律的に見て教組の争議行為によるものと言えないことは後記認定のとおりである。
第三、原告藤野の処分事由の存否
一、被告主張第二の三、(八)(1)について
(一) 右のうち(イ)の会同が開かれたことを認めるにたりる何らの証拠もない。
(二) 同(ロ)、(ハ)、(ニ)の各会同が七月八日から同月一七日までの間になされたことは当事者間に争いがない。
右各会同において被告主張の如き決議ないし指示がなされたとしても、当時、受講予定者すら未だ決定していなかつたこと前認定のとおりであるから、常軌を逸しない限り如何なる決議、指示をしようと組合活動の自由ないし言論の自由であつて、これらを以つて違法な行為の企て、共謀せんどうに当るといえないことは明白である。
(三) 同(ホ)、(ヘ)の各会議がなされたことについては、証人上野吾介の証言により真正に成立したものと認める乙第二五号証の二のみ同(ト)、(チ)、(リ)の各会議がなされたことについては右乙第二五号証の二と前記乙第一九号のみしかこれに符合する証拠はなく、右各書証の記載は、成立に争いのない乙第二〇号証の八と当裁判所が真正に成立したものと認める同第二二号証及び原告藤野本人尋問の結果に照し採用できない。
(四) 同(ヌ)主張の日時、原告藤野が日田地区労執行委員会を招集した事実は当事者間に争いがない。
そして右の委員会における同原告の行為が被告主張どおりであるとしても、地方公務員法(法)三七条一項は地方公共団体の職員の争議行為又は怠業的行為を禁止し、また何人もこのような違法な行為のせんどう等をすることを禁止している規定であり、「このような違法な行為」とは争議行為、怠業的行為を示すものであることは同項の規定自体から明白である。
ところで本講習会において争議行為または怠業的行為をなしうる地位にある者は、被告側職員は別として受講義務者(これが仮にあつたとして)のみであることは争議行為の本質上(此の点は後述)明らかであるから、右のいずれでもない地区労委員に対する働きかけが、法三七条一項にいうこのような違法行為のせんどうと目される余地は全く存在しない。
(五) 同(ル)主張の会議が開かれたことは前記乙第一九号証、第二〇号証の九、第二二号証によつても認めるにたりず、他に右の会議が持たれたことを認めるにたりる証拠はない。
(六) 同(ヲ)については、前記乙第一九号証、第二〇号証の九、第二二号証と証人山中高夫の証言によれば、被告主張の日に日田支部執行委員会と日田地区労執行委員会が開かれた事実を認めることができる。
しかし右会議において被告主張の如き行為がなされたとしても、これをもつて争議行為または怠業的行為等の違法行為の遂行の共謀及びせんどうに該当しないこと前記(四)に述べたとおりである。
尚同日、日田教組分会長会においてなされた事実については、前記乙第一九号証のみしかこれに符合する証拠はなく、右書証の記載は前記乙第二〇号証の九と第二二号証に照し採用できない。
(七) 同(ワ)について。
前記乙第二〇号証の九、第二二号証、第二五号証によれば八月三日日田支部執行委員会が開かれた事実を認めることができる。
しかし右委員会において被告主張の如き協議がなされた事実を認めるにたりる証拠はない。
仮にそのような協議がなされたとしても、違法行為の遂行の共謀に該当しないこと前(四)のとおりである。
また前記乙第二五号証の二と原告藤野本人尋問の結果によれば、同日、日田市公会堂で日田支部臨時大会が開かれ、その席上、執行部から、本講習会阻止のための具体的行動をなすについての指令権を与えられたい旨の提案がなされ、これが可決された後に組合員に指令して講習会阻止の態勢につかせた事実を認めることができ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。
しかし右の各行為が組合員に対する違法行為のせんどうに該当しないこと前(四)のとおりである。
(八) 同(カ)について。
前記乙第二〇号証の九と第二二号証によれば、被告主張の執行委員会を開いた事実を認めることができ、これを覆えすにたりる証拠はない。
しかし右委員会において被告主張の如き協議、計画がなされた事実を認めるにたりる証拠はないし、仮に被告主張どおりの事実があつたとしても、違法行為遂行の共謀に該当しないことは、前(四)のとおりである。
(九) 同(ヨ)、(タ)の主張の理由がないことは前認定のところから明らかである。
二、被告主張第二の三(八)(2)について
(一) 同(イ)について。
同(A)の話合いがなされたことは当事者間に争いがなく証人大石俊之の証言により真正に成立したものと認める乙第二七、二九号証と同証人及び証人大塚一郎の証言によれば同(B)(C)の話合いがなされた事実を認めることができる。
しかし右各証拠によれば右の各交渉は当事者双方の合意のうえ聞かれたものであることを認めるにたりるから、かかる交渉が法五五条によつて認められる団体交渉であるか否かの点を問うまでもなく、争議行為と目される理由は全く存在しない。
(二) 同(ロ)について。
別紙日田市関係受講者名簿中の一人を除く受講予定者が「藤野屋旅館」に集結したことは当事者間に争いがない。
被告は右集結は原告藤野ら日田支部執行部が共謀のうえ集結させ、外部との自由な接触を遮断し、抑留して不参加説得をした旨主張しているが、前認定の如く日田市関係の受講予定者には受講義務が存在しないのであるからこれを如何なる方法で説得しようと法三七条一項に該当するものでないことが明らかである。
即ち争議行為とは労働組合としての統一的行動のうちに使用者(管理者)の労務指揮権を排除することによつて業務の正常な運営を阻害する行為である(即ち争議行為によつて阻害されるに至る正常な業務とは労働契約上使用者が個々の労働者に対して有する労務指揮権―これに対する労働者の労働の義務―によつて支えられている業務である)から、本講習会開催計画の頭初から最後まで受講予定者に対し本講習会受講のための職務命令が発せられなかつたことは前認定のとおりであり、従つて被告側の指揮命令に服して本講習会を受講する義務者が存在せず、受講予定者は単に被告によつて受講することを期待されているにとどまり、受講すると否とは予定者の任意に決しうるところであるから、同人らが集団的に受講を拒否することが争議行為に該当しないことは明らかであつて、組合がこれらの者に対し受講しないように説得すること及びこのように説得することを組合執行部が論議し決定することは、正当な組合運動であり、これをもつて法三七条一項の争議行為等を企て、遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおる行為と評価することができないことは極めて明らかである。
のみならず、被告の右の主張の事実を認めるにたりる何らの証拠もない。
かえつて証人岩尾トシ子、一ノ宮岑子の各証言と原告藤野本人尋問の結果によれば、八月三日の日田支部臨時大会の会場に市教育長からの説得のための呼出があつた為、受講予定者は単独になることをおそれ別室に集結して対策を協議していたところ、正午会場借用期限が到来したが、尚話し合いを継続する必要があつたので、原告藤野の案内で同人方(旅館藤野屋)に赴いたこと、同旅館においても統一行動を取ることを申し合わせたが、特に一部女子の教諭から校長に強く説得された場合は断ることが困難であるとか、校長から無理に本講習会に連行されるとかの不安が持出されたので、一斉に藤野屋に一泊することになり、翌日は午後五時ごろ本講習会中止の報に接するまで同旅館で自主的研究について話し合つたほかは雑談に時を費し、途中で自宅に帰つた者もある状態であつたこと、此の間受講予定者の多数が本講習会不参加の意思を持つていると確信していた執行部はあえて不参加説得の挙には出なかつたことを認めるにたり、これを覆えすにたりる証拠はない。
(三) 同(ハ)について。
(1) 同(A)について。
被告主張の事実があるとしても、これが争議行為に該当しないことは前記のところから明らかである。
(2) 同(B)について。
証人上田忠敏の証言によれば、被告主張の日時ごろ講習会関係場所間の電話が通じ難かつた事実を認めるにたりるが、これが原告らの処置によるものであると断定するにたりる、何らの証拠もない。
(3) 同(C)について。
証人異儀田浩、同山中高夫、同川崎博国の各証言と検証の結果(日時昭和三八年一月一〇日、一一日、場所日田林工高校)を綜合すれば、原告藤野を委員長とする日田地区労働組合評議会を主体とする本講習会阻止のための共斗会議は、八月三日午後から四日本講習会中止の決定に至るまで、受講者に不参加の説得をするため、本部を林工高校前に置き、同高校の周囲、附近の日田市丸山町一帯に亘り日田市郡、玖珠郡の教組員、日田地区労組員をもつてピケツトを張つたこと、その総数は最低の時で約三〇〇人、最高の時で約七〇〇人であつたことを認めるにたり、これを覆えすにたりる証拠はない。被告主張によれば、長さ四、五間くらいの竹に縄を巻いてスクラムを二重、三重にした現場を撮影したという写真(乙四一号証、同五一号証の一三)は証人川崎博国、同斎藤耘平の各証言に徴すれば、当時、日田市役所前で別個に座りこみ闘争をしていた自由労働組合員が本部前で新聞記者の求めにより記念撮影をしたものであることを窺いうるから、右の如きピケツトが張られていたと認めることはできない。
しかし証人足立満喜人の証言と同証言により真正に成立したものと認める乙第三七号証、同都留光の証言と同証言により真正に成立したものと認める乙第三八号証、同木下照治の証言と同証言により真正に成立したものと認める乙第三九号証によれば、右ピケツトによつて講習会関係者の出入りが妨げられた事実はないことが認められる(広瀬、上田事件については後述)。右認定を覆えすにたりる証拠はない。
本講習会中止の主たる原因の一つが右ピケツトとの衝突を避けることにあつたと認められること前記認定のとおりであるが、右ピケツト自体は、憲法二一条によつて保障される表現の自由の表れにほかならず、これを違法視すべきでないことは、争議行為の本質から明らかである。
なお附言すれば、右のピケツト員が受講義務者に対し、現実に法三七条一項後段の規定するが如き行為に及んだ場合に同条の適用の有無が問題になるのであつて、労働の義務を負わない組合員が説得のため集つていたというだけで争議行為となるものでないことは明白である。
(4) 同(D)について。
証人広瀬典義の証言により真正に成立したものと認める乙第三一号証の一、原本の存在並びにその成立に争いのない乙第五六号証、第五七号証の一ないし三、第五八ないし第六五号証、成立に争いのない甲第七一九号証、第七二〇号証の各一部、第九〇一号証と証人広瀬典義、同溝田実雄の各証言を綜合すれば、原告野田は八月三日午後五時ごろ被告指導主事広瀬典義が、本講習会の講師との連絡、会場の具体的準備、その他日田教育事務所長上田忠敏の委任により、講習会運営の指揮をとるため林工高校玄関に到着した際、受講者と誤認し、不参加説得のために、同人の入校を阻止したが、間もなく講習会関係者であることを認識したにも拘らず、他の組合員数名と現場において意思相通じ共謀のうえ訴外小谷寅彦、同渡辺昭二において左右から右広瀬の腕を掴み、または引つ張つて同校正門外まで引戻し、更に同所で他の組合員等と共に同人を取囲んで余儀なく同人の入校を断念するに至らしめ、以て同人の職務の執行を妨害し、且つ右暴行により、同人に全治約一週間を要する右上膊擦過傷兼打撲傷の傷害を負わせ、右公務執行妨害、傷害罪により懲役三月執行猶予一年に処せられ、右判決は昭和三九年五月一九日に確定した事実を認めることができる。
成立に争いない甲第七〇九ないし七一二号証、右甲第七一九、七二〇号証、成立に争いない同第七二二号証と証人小谷寅彦、同武内二立、同渡辺昭二の各証言のうち右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。
しかし右の行為につき原告藤野が何らかの関与をした事実を認めるにたりる証拠はないから、これについて同原告に責任を帰することはできない。
(5) 同(E)について。
上田忠敏作成部分については同証人の証言により真正に成立したものと認められ、その他の作成部分については当裁判所が真正に成立したものと認める乙第三三号証の一部当裁判所が本件現場の写真であると認める同第三四号証の一ないし三、証人大塚一郎の証言により真正に成立したものと認める同第三五号証と証人上田忠敏、同大石俊之、同藤原正教、同足立満喜人の各証言並びに原告藤野本人尋問の結果の一部及び検証の各結果(日時昭和三八年一月一〇日、一一日、場所日田林工高校並びに日時昭和三八年一〇月二四日、場所福岡県浮羽郡浮羽町大字古川一〇九九番地の一五)を総合すれば、次の事実を認定することができる。
日田教育事務所長上田忠敏(講習会の日田会場運営委員長で同会場運営の全責任者)は、八月三日午前八時三〇分ごろ、前もつて講習会場から約一九キロメートル行程の、福岡県浮羽郡浮羽町大字古川、いわゆる筑後川温泉の旅館「春風荘」に集結させていた受講者一七名(この中には前記の教頭梅村次彦も含まれていた)を講習会場に導入させる方法を検討するため、林工高校附近を視察しての帰途、丸山町の県道上において、折柄ピケツテイング中の教組組合員及び日田地区労組合員等に発見され、乗用車に乗つたまま組合員等に押されて後退し、同所から約四〇メートル離れた農林省日田統計事務所前道路上に至つた。
しばらくの間に同所に数十名の組合員が集り、口口に大声を発したり、上田所長を揶揄したりしていたが、やがて上田所長に対し車から出て、講習会中止の為の団体交渉をすることを求める原告藤野と、自己にはその権限がないとしてこれを断る上田所長との間に車の内と外とで約一時間、押問答が続けられた。
ところがそのうち現地の阻止斗争の指導に日田市に来ていた大教組副委員長堤力、同法政部長井上来らが直接折衝することになり、右統計事務所内の電話で、上田所長は日田教育事務所次長大塚一雄、県学校教育課長大石俊之らに自己の立場を連絡し、また一方堤も同人らに対し本講習会中止のための団体交渉を求めたが、大塚、大石において上田所長の身柄を返さない状態のもとで交渉に応ずることはできないと拒否したので決裂した。上田所長は立戻るため、車に乗りこんだところ、原告藤野は「まだ返さんぞ」と言つて車内の上田所長にマイクを突きつけ、自分の質問に応じて交渉の経過を報告するように要求した。間もなく、上田所長は帰途についたが、途中の自動車内で折柄の暑気と数日来の過労も加わり、急性心臓衰弱、脳貧血により倒れ、附近の古賀病院に入院の止むなきに至つた。
右のごとく上田所長が組合員に発見されてから、統計事務所前を去るまでに約二時間を費したが、その間緊迫した雰囲気に包まれていた。
以上のように認定しうるのであつて、右認定に反する証人高田耕一、同武内俊雄、同斎藤耘平、同渡辺昭二、同井上来、同堤力の各証言及び原告藤野本人尋問の結果部分は信用しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
そして右の一連の行為と上田所長の発病によつて、同人が本講習会の打合わせをするための業務が阻害されるに至つた事実(右の業務が刑法二三三条、二三四条に定める「業務」にあたるかどうかは別問題である)を認めるにたりるけれども、前記の如き争議行為の本質から考えてこれが争議行為による業務阻害(労働関係調整法七条)とはいえないことは明らかである。
(6) 同(F)について。
右主張が理由がないことは右(3)、(4)、(5)説示のところから明らかである。
ピケツト自体が他の争議行為とは離れた独立の争議行為に該当するという被告の主張は採用できない。
(7) 同(G)について。
被告は本件ピケツトは立入阻止のためのものであり、違法であると主張するが、これを認めるにたりる何らの明確な証拠もない。
また受講予定者の集結場所たる前記筑後川温泉の旅館附近でピケツトが張られたものでもなく、受講予定者が立入を阻止されたことも、不参加説得をされたこともない本件では、被告の右主張は理由がない。
(四) 同(二)について。
この主張が理由がないこと前叙のところから明らかである。業務の正常な運営阻害を被告主張の如く、正常な職制による命令服従関係が阻害される場合をも含むとしても、被告側と阻害者の側に正常な職制による命令服従関係が存在しないし、のみならず被告側が阻害者に対して本件に関し指示命令を発した形跡はないのであるから争議行為とはいえないわけである。
三、被告主張第二の三・(八)・(3)について
(一) 本訴の対象は、まさしく本件懲戒処分自体の当否であり、処分理由書記載の当否ではなく、また処分の適否は当該処分時の事実によつて判断すべきものである。ところで懲戒処分とは、原告等が地方公務員として負う職務上または身分上の義務に違反したこと、その他品位の保持を欠いたことなどに対して、被告が特別の権力関係にもとづいて科する制裁であつて、一般国民に対する刑罰権の行使とは、本質を異にするものである。従つて懲戒事由も、法二九条一項が僅かに三個を掲げ、特に三号は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」というがごとき包括的概略的な立言型式をとつているし、また懲戒手続についても、同二項の示すように、法律に特別の定がある場合のほかは、条例にこれを委任しているのである。
もつとも具体的に懲戒処分をなす場合には、被処分者の権利保護の必要上、行政庁は被処分者が具体的に如何なる違法ないし不当の言動に及び、それが如何なる法条に該当するかを明確にすべく要求されると解しうるとしても、刑事訴訟法三三五条の有罪判決摘示のように「罪となるべき事実」「証拠の標目」「法令の適用」「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実等が主張されたときに、これに対する判断」を示すごとき厳格な表現型式が、法上、要請されている訳ではないのである。
(二) 本件につきみるのに、証人四ノ宮勤一の証言とこれにより真正に成立したものと認める乙第五二号証、証人伴了三の証言によれば、被告は昭和三四年八月一八日開催の臨時会において慎重審議の結果、原告藤野の個人的言動(この中には、前記認定の上田所長に対する案件も含まれている)を検討し、これ等を総括して、日田会場における本講習会阻止を計画し、組合員を指導して阻止行為を実行せしめる等講習会の開催を阻害し、ついに本講習会中止のやむなきに至らしめたとの懲戒該当事実を認定し、これは法三七条違反(即ち争議行為)に該当するとして本件懲戒処分をなしたことが明らかである。
(三) 被告が原告藤野に対する懲戒処分事由として主張する事実のうち、前記第三の二(三)(5)認定の上田事件以外については、その存否が同原告に対する関係で認められないか或いはその事実が認められても正当な組合活動であつて法三〇条、三三条に違反しないことは右認定のところから明白である。
しかし上田事件については、争議行為でなくて組合活動であることは明かであるが、原告藤野が講習会開催の当日、約二時間に亘り講習会会場運営の全責任者たる上田所長に対し、同人が予期しない場所と状態において執拗に所長の焦燥と疲労をかえりみず団体交渉を要求した点において正当な組合活動の域を脱していたと考えられるのであり、その間において同原告が上田所長に示した言動は、全体の奉仕者として行動すべき公務員として非難をうけるに値いし、またその職の信用、名誉を害する点があつたものと解せざるをえないのである。
従つて被告が、同原告の右言動をとらえて法三七条に違反し、二九条一項一号の懲戒事由に当ると解したのは、法的価値判断を誤つたことになるが、同原告の言動は法三三条に違反し、二九条一項一号及び三号に当るし、加えて前記懲戒権の本質を考えるとき、右の瑕疵は本件懲戒処分をして違法ないし著しく不当ならしめるものではないのである。
四、原告の請求原因(三)の(1)(イ)、(ロ)の(A)(B)について
(1) 前示のごとく被告が原告藤野の上田事件における行為を対象としてなした懲戒処分は、同原告の行為が法三七条違反でなく、三三条に違反している意味において有効であるから(イ)及び(ロ)の(A)の主張は理由がない。
また右懲戒処分が(ロ)の(B)のように職員団体の団結力を減殺させる目的などのためになされたとの主張については、これを肯認するに足る明確な証拠がないから採用しえない。
(2) 次に原告は本件懲戒処分につき手続違背があると主張するから、次に判断を加える。
(イ) 成立に争いのない甲第二〇三号証、証人上野吾介の証言により真正に成立したものと認める乙第五三号証の一と証人四ノ宮勤一、同上野吾介の各証言によれば、被告は日田市教委の内申を受けて本件懲戒処分をなしたこと、日田市教委は七月一八日その会議を開いて原告藤野の懲戒処分の内申をしたことを認めることができこれを覆えすにたりる証拠はない。
(ロ) 日田市教委会議規則五条二項には「委員長は会議の招集を行つた場合には直ちに会議開催の場所及び日時、会議に付議すべき事件を告示するものとする」との定めがあることは当事者間に争いがなく、前記甲第二〇三号証によれば日田市教委は前記七月一八日の会議については右会議規則に定められた告示をしなかつた事実を認めることができ、これを覆えすにたりる証拠はない。
しかし地教行法によつて廃止される以前の教育委員会法三四条三項は開催の告示を会議開催の要件としていたが、地教行法のもとにおいては、開催の告示は会議開催の要件とはされていないから、前記内申の決定をなす委員会を開催するにつき、右規則の定めに従わなかつた瑕疵は、本件懲戒処分を無効ならしめるものではないのはもとより、これを取消さなければならない程の違法な手続上の瑕疵ともいえない。
従つて此の点に関する原告の主張は理由がない。
五、原告の請求原因(五)の(1)の主張が理由のないこと、前判示四の(1)から明らかである。
六、(一) 原告主張四の(六)(1)の主張について
本件懲戒処分が原告主張の意図の下になされたとの主張については、これを肯認するに足る明確な証拠を欠くし、前判示四の(1)の如く本件懲戒処分は、原告藤野の行為が法三七条違反ではなく、三三条に違反している意味において有効であるから、右主張は理由がない。
(二) 同(2)の主張について
(1) 文部省が昭和三三年八月二二日附文部省令第二五号により学校教育法施行規則を改正し、これにより、学習指導要領が法的拘束力を持つかの如く運用されていることは前判示第二の三本件講習会開催の経緯の(一)、(二)のとおりである。
(2) しかし学校教育法施行規則五四条の二により文部大臣がいわゆる教育課程の基準として中学校学習指導要領を定めることのできるのは、学校教育法三八条に規定する範囲内であるべきは当然であり、この範囲内においても、文部大臣による基準立法には自ら限界があるべきであつて、教育委員会の固有の権限に属する事項は勿論、教員の教育権限内の事項を制限し、これを侵すものであつてはならない。
(3) また告示は各種行政措置の公示の形式に外ならないから、学習指導要領が告示の形式によつたからと言つてその表示内容が法規命令として法的拘束力も持つに至ることは絶対になく、その効力は専ら表示内容の法的性質によるのである。
(4) しかるに前記学習指導要領は教育課程につき大綱を示すにとどまらず、各教科等の教育内容、方法、教材等につき詳細に定めており、文部大臣による国の基準立法の限界を逸脱していると認められるものがないわけではなく、これらは実際の運用の如何に拘らず、法規命令としての法的拘束力を持ち得ないと解すべきであるが、文部大臣には教育課程の細部に関しても指導助言をなす権限があるので、これらについては、その指導助言行為を公示したものとしてなお適法と解することができる。果してそうだとすると、実際の運用の面では問題があるとしても、右学習指導要領をもつて必ずしも教育基本法一〇条に違反し、教師の教育権限を不当に侵害するものと断定することはできない。
(5) そうだとすれば、従来の教科たる職業家庭科を技術、家庭科に改編したことに伴いその趣旨の徹底と担当教師の学習指導能力の向上を図るために、被告が文部省と共催により実施しようとした本講習会は少くとも違法なものとは言えないから原告のこの点の主張も理由がない。
第四、原告宇野の処分事由の存否
一、被告が原告宇野に対する懲戒処分の対象事実として掲げるのは、本講習会に際し、玖珠郡内の受講予定者をして受講せしめないことを企て、かつ組合員を指導し、十余名の受講予定者を参加せしめなかつたことであり、これが法三七条に違反するというのである。
二、被告主張第二の三、(九)(1)について。
(一) 右のうち(イ)の主張に副う事実が仮にあつたとしても、違法な行為の共謀等に該当しないことは原告藤野の処分事由の存否について説示した第三、一、(二)と同一である。
(二)(1) 同(ロ)のうち七月二九日に玖珠支部執行部が南部小学校に受講予定者を集めたが、その際本講習会に対する討議を求めたにとどまること前認定のとおりである。
しかし仮に不参加説得をしたとしても、受講義務者が存在しなかつたこと前認定のとおりであるから、何ら違法ではないことは前叙のところから明らかであり、これに対するせんどうがありえないことも自明である。
(2) 同(ロ)のうち七月三一日玖珠支部執行部が南部小学校において受講予定者に不参加説得した事実を認めるにたりる何らの証拠もない。
(3) 同(ロ)のうち玖珠支部執行部がなしたという、その余の不参加説得の事実は、証人穴井憲一の証言により真正に成立したものと認める乙第四八号証のみしかこれを認めるにたりる証拠はなく、右書証の記載は、再伝聞であつて、原供述者及び伝聞供述者がいずれも明らかではないうえ、証人池田静子、同藤本英夫の証言に照し採用できない。
(4) 右(2)、(3)の事実があるとするも、何ら違法な行為ではなく、従つてこれに対するせんどうもありえないことは右(1)と同一である。
(三) 同(ハ)主張の事実については後に判示するが、右行為が違法行為の遂行の共謀、せんどうに当らないこと、右(二)の(1)と同一である。
三、被告主張第二の三、(九)、(2)について。
(一) 同(イ)(A)の主張が理由のないことは、原告藤野の処分事由の存否について述べた第三、二、(一)と同一である。
同(B)については後に判示する。
(二)(1) 同(ロ)(A)の事実がなされたことを認めるにたりる何らの証拠もない。
(2) 同(B)の主張が理由がないこと、前記一、(二)(1)のとおりである。
(3) 同(C)ないし(G)の主張が理由がないこと、前記一、(二)(3)、(4)のとおりであるが、なお後に判示する。
(三) 玖珠町における受講予定者が螢川荘に集結するに至つた経緯及びその後の情況
(1) 前判示第二、六(二)冒頭挙示の各証拠に検証の結果(日時昭和三八年九月一九日、場所大分県玖珠郡九重町大字菅原一四五三番地ほか)を加えれば、八月二日に南部小学校で開催された職家部会の際、家庭の事情で散会前に退席した佐藤豊音方に、翌朝の会合の連絡に赴いた玖珠支部執行委員帆足等は、同夜右佐藤方に学校長がおとずれ、翌朝六時ごろ受講のため連れ出しに来るとの連絡があつたことを聞き、更に大蔵水喜方でも留守宅に学校長が翌朝受講のための連絡方法を記載した書面が手渡されていることを知つた。
玖珠支部執行部は七月三一日教育委員会、校長会との交渉の際(被告主張第二、三(九)(2)(イ)(A)に当る)、教育委員会側がなした受講者に対し参加の強制をしないとの約束に背いて受講予定者の狩り出しにかかつたものと判断し、直ちに執行委員が手分けして直接、またはその連絡を受けた受講予定者を通じて受講予定者を招集し、一方、受講予定者も前日来の討議の結果なした統一行動をとるとの申し合わせが破られる結果となることを懸念し、しばらくのうちに前判示第二の六、(二)、(6)記載の一二名のうち城戸、吉武をのぞく一〇名の受講予定者が玖珠支部書記局に集合した。
(2) 書記局では執行部からの校長が家庭訪問をして旅費の前渡をしているとの情勢報告があり、約三〇分ばかり話し合つたが、同処は僅か三畳ばかりの板の間で極めて狭いうえ夜中に冷え込んできたので、場所を移して話し合うべく、集つた受講予定者と執行委員は全員三三五五と久大本線豊後森駅から約一〇、三キロメートル行程の、大分県玖珠郡九重町大字菅原一四五三番地、いわゆる川底温泉の「螢川荘」に赴いた。
(3) 翌朝は午前九時ごろから受講予定者全員は「螢川荘」から約一、一キロメートル行程の准園小学校に赴き、(前記一〇名のほかに更に吉武熊彦、城戸忠義が加わつて合計一二名となつた)同校の一室において約三時間討議し、不参加の結論を出し、明確な不参加の書面を作成して各学校長に提出することとなり、文案を協議の結果、全員不参加の意思を明確に表示し、各自の考えが右のとおりである以上、学校長らと個人として会う必要はないし、且つは個人として学校長に受講説得をされるのもつらいので、学校長等との交渉を、当時の玖珠支部執行委員長たる原告宇野に一任することにして甲第六〇七号証の一ないし一一の不参加届を作成した。
その間、執行委員は不参加届の文案の協議の際、書記長藤本英夫が呼ばれて加わつただけで、他は別室の宿直室に待機して今後の反対斗争方法を協議していたのである。
(4) 八月三日午後八時半ごろ玖珠町教育長穴井憲一、玖珠町の中学校長麻生玉人、八島時雄、塩川実その他一名が「螢川荘」をおとずれ、玖珠支部執行委員に対し、受講者に個別説得したい旨また教組側も個別説得に協力してほしい旨交渉したが、原告宇野ほか執行委員は前記不参加届を示し、受講予定者から委任されているし、受講予定者もこれを欲しないからと述べて個別説得は行なえず約一時間の交渉も無為に終つた。
右認定を覆えすにたりる何らの証拠もない。
(四) 被告はその主張の第二、三、(九)(2)(イ)(B)(D)ないし(G)において、右「螢川荘」における受講予定者の行為を原告宇野を含む執行委員の不法な強制によるものであるかの如く累々主張しているけれども、仮に右の如き事実があつたとするも、「螢川荘」集合者に本講習会の受講義務が存在しないこと前認定のとおりである以上、常軌を逸脱しない限りこれを如何なる方法で説得しようと、他の刑罰法令に触れる場合があるのは格別、何ら法三七条に違反するものでないことは前記原告藤野の処分事由について判示したところと同一である。
のみならず、右の被告主張の事実とても乙第四八号証のみしか、これを認めるにたりる証拠はなく、これが採用できないこと前記一、(二)、(3)に説示したとおりである。
(五) 同(ハ)の主張が理由がないことは、前判示のところから明白である。
四、被告主張第二、三、(九)、(3)について。
これについては原告宇野が受講予定者に不法な強制を加えて不参加説得をした事実の認め難いこと前認定のとおりであるから、法三〇条、三三条に違反しないことは明らかである。(証人佐藤信子の証言と成立に争いのない甲第七〇八号証によつて認められるところの、被告側の指示により、筑後川温泉の旅館に集合した受講予定者に対し、被告側がなした外部との電話連絡や自由行動を制限した程度の事実すらこれを認めるにたりる証拠はなく証人池田静子の証言によれば同人は単独で二度帰宅し再び「螢川荘」に赴いて宿泊した事実が認められる。)
五、被告主張第二、三、(十一)が理由がないことは、叙上の事実及び立論に照して明らかである。
第五、結論
一、原告藤野に関する懲戒処分は、以上のように違法ないし著しき不当さを欠くから、無効ないし取消の事由となりえず、同原告の本訴請求は棄却を免れない。
二、原告宇野に関する懲戒処分は同原告が正当な組合活動に従事したものであり、法三七条、三〇条、三三条等に違反せず、従つて懲戒理由が存在しないにも拘らずなされたものであるから違法である。
しかしその違法の瑕疵は必ずしも明白なものとは言えないから、本件懲戒処分の取消原因たるにとどまり、これを無効と解することはできない。
三、原告の請求原因(四)、(五)の(2)、(3)の各無効の主張はいずれも原告等に法三七条違反の事実ありとした場合の仮定的主張に過ぎないところ、第一段において法三七条違反の事実は存在しないと認めたのであるから右の無効事由について判断の要をみない。
四、以上説示のとおりであつて原告野田の本件訴を却下し、同藤野の本訴請求をいずれも棄却し、宇野の第一次的請求を理由なきものとするが、予備的請求にもとづいて被告が同原告に対しなした懲戒処分を取消すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤野英一 関口亨 多加喜悦男)
別表一 処分事由説明書
(イ) 原告藤野、同野田に対するもの
右は本委員会が主催した昭和三十四年度中学校技術家庭科実技講習会日田会場の開催を阻止することを計画し、組合員を指導して阻止行為を実行せしめる等講習会の開催を阻害し、遂に中止するのやむなきに至らしめた。
これは地方公務員法第三十七条に違反する行為である。
(ロ) 原告宇野に対するもの
右は本委員会が主催した昭和三十四年度中学校技術家庭科実技講習会日田会場の開催に際し、郡内受講予定者をして受講せしめないことを企て、かつ組合員を指導し、遂に十余名の受講予定者を参加せしめなかつた。
これは地方公務員法第三七条に違反する行為である。
(別表二~五省略)