大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和35年(ワ)92号 判決 1965年1月29日

原告 黄孫照

同 黄祖怡

右両名訴訟代理人弁護士 羽田野忠文

同 田辺俊明

被告 タイコー衣料株式会社

右代表者代表取締役 黄祖鍬

右訴訟代理人弁護士 山本真平

主文

被告会社が昭和三五年二月二五日開催した株主総会における別紙目録(一)の1記載の決議が存在しないことを確認する。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

(一)  被告会社が昭和三五年二月二五日の定時株主総会においてなした別紙目録(一)記載の各決議が存在しないことを確認する。

(二)  被告会社が昭和三五年二月二五日の取締役会においてなした別紙目録(二)記載の決議は存在しないことを確認する。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

右(一)、(二)の請求が容れられなければ予備的に

(四)  右(一)、(二)記載の決議はいずれも無効であることを確認する。

二、被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者双方の事実上の主張

一、原告の請求原因

(一)  被告会社は衣料品販売を目的として昭和二六年四月六日設立された資本金一五〇万円の株式会社で、原告黄孫照は六〇〇株、原告黄祖怡は四八〇株をもつ株主であり、且つ原告両名は昭和三四年九月一四日同会社の代表取締役となったものである。

(二)  被告会社は昭和三五年二月二五日被告会社本店において定時株主総会(以下、本件総会という)を開催し、右総会において、別紙目録(一)記載の決議をなしたと称して、その旨の定時株主総会議事録を作成している。

(三)  被告会社は同日右定時総会により選任せられた右取締役全員の同意により取締役会(以下、本件取締役会という)を開き、別紙目録(二)記載の決議をなしたと称して、その旨の取締役会議事録を作成している。

(四)  しかしながら、本件総会及び本件取締役会は現実に開催されたことなく、従ってこれに対する右決議も存在していない。

即ち昭和三五年二月二五日頃、被告会社乗取りを策した黄祖鍬が司法書士佐藤鉄生方において、保管中の原告両名の印鑑を不正行使し一件書類を偽造して斯る決議があった旨の議事録を作成したものである。

よって右各決議の不存在確認を求める。

(五)  仮に本件総会の決議が存在するとしても、本件総会の決議には次のような瑕疵があり、無効である。

(1) 当時原告両名は共同代表の定めにより訴外黄厚好と共に被告会社の共同代表取締役であったが、本件総会開催を決議すべき取締役会を招集したことはなく、また被告会社より取締役会を招集する旨の通知を受けたことも、その招集手続を略する旨の同意を求められたこともない。

即ち本件総会招集の前提となる取締役会の招集がなされたことはなく、適法な招集手続も行われていない。

(2) 原告両名は取締役でありながら、右取締役会に出席したことはない。

即ち、右取締役会は現実に開催されていない。

(3) 又右取締役会において本件総会を招集する旨の決議もなされていない。

(4) たとえ右の決議がなされていたとしても被告会社は株主である原告両名に対して適式な株主総会招集通知を発していない。原告両名の所有する株式数は一、〇八〇株で被告会社の発行済株式総数三、〇〇〇株中の大きな割合を占めるから、右のような招集手続の瑕疵は重大である。

(5) 当時の被告会社の取締役は原告両名及び訴外黄厚好の三名であったが、本件総会以前に原告両名が取締役を辞任した事実は全くない。

従って取締役全部辞任の理由で後任取締役を選任した前記決議は真実に反した虚偽の理由にもとづくものであり、この点からも右決議中の取締役選任の部分は無効である。

(六)  仮に本件取締役会の決議が存在するとしても、本件取締役会の決議は右のように無効な株主総会の決議によって選任せられた本来何らの権限を有しない各取締役をもって構成された取締役会における決議であるから無効である。

よって右各決議の無効確認を求める。

二、被告の答弁並びに主張

(一)  原告らは昭和三八年一一月二一日開催の被告会社の株主総会の決議により、いずれも被告会社の取締役に選任され、その旨登記手続を了しているので、現在本訴において株主総会の無効確認を訴求する利益がない。

(二)  請求原因(一)の事実中、被告会社が衣料品販売を目的として昭和二六年四月六日設立された資本金一五〇万円の株式会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。

原告黄祖怡は被告会社の株式四八〇株、原告黄孫照は六〇〇株をもっていたが、原告黄祖怡は昭和三一年四月二八日に、原告黄孫照は昭和三二年七月二五日にそれぞれその所有株全部を黄祖鍬に譲渡し、いずれもその名義変更の手続を完了しているから、原告両名は株主ではない。

また原告祖怡が昭和三〇年八月一八日被告会社の取締役に選任され、同年一一月一五日原告両名が代表取締役に就任し、更に原告両名は昭和三四年九月一四日代表取締役に就任した旨の登記がなされているが、いずれも株主総会、取締役会の決議がなく、原告両名において勝手に登記手続のみをなしているものであるから、無効の登記であって、原告両名は代表取締役ではない。

(三)  請求原因(二)、(三)の事実は認める。

(四)  請求原因(四)の事実は争う。本件株主総会及び本件取締役会は後述のとおり、いずれも現実に開催され、その決議も存在している。

(五)  請求原因(五)(六)の事実はすべて争う。

(1) 本件株主総会招集を決議すべき取締役会を開くため、黄祖鍬は昭和三五年一月六日頃原告両名を含む取締役全員に対し口頭で出席方を伝達したが原告両名は故意にこれに応じなかったのである。

(2) そして同年一月一四日開催された取締役会において、同年二月二五日株主総会を招集する旨決議し、昭和三四年度の決算報告の件、取締役解任並びにその後任者選任の件、定款一部変更の件を右総会にて審議することに決め、同月一五日付書面をもって各株主に対し右株主総会招集通知を発した。

(3) 右総会は同月二五日開催され、その結果原告両名は解任せられ、取締役として新に黄祖鍬、黄厚好、林いつ子が選任せられた。

(4) そして同日開催された取締役会において、代表取締役に黄祖鍬、専務取締役に黄厚好、常務取締役に林いつ子がそれぞれ選任せられた。

(5) そして右事項を登記するについて、原告両名の名誉若しくは信用を考慮して便宜上同人等辞任の形式をとり、その旨登記がなされた。

なおこれ等爾後の手続については、黄祖鍬、黄厚好は原告両名より委任を受けている。

(6) 以上のように本件株主総会及び本件取締役会はいずれも適法に開催されてその決議がなされているものであるから、本訴請求は失当である。

第三、証拠の提出並びにその認否≪省略≫

理由

一、確認の利益について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、原告孫照は被告会社の昭和二九年二月一五日開催の株主総会の決議により、同祖怡は同三〇年八月一八日開催の臨時株主総会の決議により、それぞれ取締役に選任せられた旨の登記がなされているところ、弁論の全趣旨によれば前者の決議が何らの瑕疵をも含むものでないことは当事者間に争いがない。また≪証拠省略≫によれば、後者の決議が有効になされたことを認めるにたり、これに反する被告代表者尋問の結果は右各証拠に照し採用し難く、≪証拠省略≫によっても右の認定を覆えすにたりず、他に右認定を覆えすにたりる何らの証拠もない。

そうだとすれば仮に被告主張の如く、昭和三四年九月一四日開催の被告会社の株主総会における原告両名を取締役に選任する旨の決議が無効であるとしても、原告両名は商法二五八条の規定により、本件総会(昭和三五年二月二五日開催の定時株主総会)前、なお取締役としての権利義務をもっていたことは明らかである。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、被告会社の取締役黄祖鍬、同黄厚好、同林いつ子は昭和三七年二月二五日任期満了により退任し、昭和三八年一一月二一日開催の被告会社の臨時株主総会の決議により、原告両名と厚好が取締役に選任せられ、この三名が代表取締役に就任したとして、その旨の登記手続を了している事実を認めることができる。

しかし一方黄祖鍬は被告を相手として、当庁に右臨時株主総会の決議無効確認の訴を起し、現に同事件は当庁に係属していること、祖鍬は同事件を本案として原告両名と黄厚好の職務執行停止の仮処分決定を得、現に被告会社の代表取締役職務代行者として淵辰吉、同取締役職務代行者として堤喜代蔵、加来義正が選任せられていることは当裁判所に顕著である。

従って現在において本件総会の存否及び効力を確定しなければ、前記訴訟において係争の株主総会の議決を無効とする判決が確定した場合には、本件総会における取締役選任の効果がいまだ消滅せざることとなり、前認定の如き原告らの地位からして、再び原、被告間で被告会社の正当な取締役が誰であるかについて、本件総会の効力をめぐり紛争が起る可能性が充分であるから、現在本件総会の決議の存否及び効力を確定することが必要且つ適切であると考える。

以上のとおりであって、本件総会の無効確認を求める利益がないとの被告の主張は採用できない。

二、本件総会の存否について、

(一)  被告会社は昭和三五年二月二五日被告会社本店において定時株主総会と取締役会を開催し、別紙目録(一)、(二)記載の各決議をなしたとして各議事録を作成し、その旨の登記手続を了したことは、当事者に争いがない。

(二)  そこで、まず別紙目録(一)記載の決議の存否について検討するに、≪証拠省略≫及び被告代表者尋問の結果を総合するときは、被告会社は昭和三五年二月二五日に大分市大字大分七六〇番地の一黄祖鍬の自宅において当時の代表取締役黄厚好、株主の黄災宗、黄美恵、黄秀恵、黄秀美を代理し、自己も株主たる黄祖鍬、株主黄美妹の三名が出席(黄厚好の妻林いつ子も一時、同席)して現実に株主総会を開催し、その総会で当時の取締役たる原告両名を解任し、別紙目録(一)の(2)記載の決議をなした事実を認めることができる。

証人林いつ子、同黄祖昌の各証言によっても右の認定を覆えすにたりず(同証人らの本件総会に関する証言は極めてあいまいで、一見、本件総会の開催自体疑わしいかのごとくであるが、証人黄祖昌の証言と前記乙第六号証によれば、祖昌は本件総会には出席せず、後に決議の内容を聞いて同号証に押印したに過ぎない事実をうかがうにたり、証人黄厚好の証言(第二回)によれば、株主でも取締役でもない林いつ子は一時、同席したものの、間もなく本件総会からは退席した事実をうかがうにたりるから、いずれも右認定を覆えすにたりない)、また右認定と異った趣旨の記載のある甲第一号証の二は後記の如く採用しえず、他に右認定を覆えすにたりる明確な反証はない。

右甲第一号証の二(乙第七号証)の記載のうち前記認定に反する部分は、

(イ)  株主総会会場は被告会社事務所と記載されているが、本件全証拠によるも右の場所で会合が開かれた事実を認めることができず、かえって証人黄厚好(第一、二回)、同黄美妹の証言によれば、厚好、祖鍬らの会合はすべて右の場所の隣である祖鍬の自宅でなされていたことが明らかであること、

(ロ)  監査役黄祖昌が決算書類の確認報告をなした旨記載されているが、証人黄祖昌の証言によれば右の事実はなかったことを認めるにたりること

(ハ)  取締役たる原告両名が辞任した旨記載されているが、証人黄厚好の証言(第二回)によれば原告両名は辞任したのではなく、総会の決議により解任されたものであることが認められること等に徴し真実ではないと言わざるをえず、甲第一号証の二、は登記手続のため乙第六号証にもとづきその一部分を改変して作成した書類に過ぎないと推認され、甲第一号証の二記載どおりの決議がなされたものと認めることはできない。

(三)  本件総会において別紙目録(一)の(1)記載の決議がなされたとの被告の主張については、此の主張に副う記載のある甲第一号証の二は前記の如く採用しえず、他にこれを認めるにたりる何らの証拠もない。

三、本件総会の効力について

(一)  原告主張一の(五)の(1)ないし(3)の事由は、総会招集手続の違法に帰し、決議内容の違法ではないから、決議取消事由に該当するに止まり、決議無効事由とならないことは明らかである。

(二)  同(4)について。被告において原告祖怡は昭和三一年四月二八日に、同孫照は同三二年七月二五日にそれぞれの所有株全部を祖鍬に譲渡したから、現在、株主ではない旨主張しているが、孫照の株式の譲渡方法が株券の裏書によるものでないことは乙第一三号証の一ないし六の記載自体から明らかであるし、株券と譲渡証書の交付によるものであるか否かは被告の何ら主張立証しないところであるから、仮に被告主張の如く譲渡があったとするも、商法二〇五条一項の規定に反し、譲渡の物権的効力を生ずるに由なく、少くとも被告に対する関係においては孫照は依然として六〇〇株の株主であるといわなければならない。

原告祖怡は現在四八〇株の株主である旨主張しているが同原告本人尋問の結果により同人作成部分につき真正に成立したものと認める乙第一六号証と、被告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認める乙第二号証の二、同第一四号証の一ないし二によれば、祖怡は昭和三一年四月二三日黄祖鍬に対し株券と譲渡証書の交付によって株式を譲渡し、同月二八日名義書換手続がなされている事実を認めることができ、これを覆えすにたりる証拠はないから、祖怡は本件総会当時株主ではなかったといわなければならない。

ところで被告が原告孫照に対し、本件総会開催の通知をしなかったことは当事者間に争いがなく、これが違法であることは明らかであるが、通知の欠缺株数は総株数三、〇〇〇株の五分の一にあたる六〇〇株にすぎないから、右の程度の欠缺ではいまだもって原告主張の如く本件総会を無効(この場合は不存在の主張と解する)ならしめるものではないと解する。

(三)  同(5)の主張が理由がないことは、前判示(二の(二))から明らかである。

四、本件取締役会の存否及び効力について

(一)  黄祖鍬作成部分については被告代表者尋問の結果により、黄厚好作成部分については同証人の証言(第一回)により、いずれも真正に成立したものと認める乙第八号証の一と証人黄厚好の証言(第一、二回)及び被告代表者尋問の結果を総合するときは、本件取締役会は昭和三五年二月二五日午後七時三〇分から、前認定の本件総会に引続き、祖鍬の自宅において新取締役たる祖鍬、厚好が出席して現実に開催され、別紙目録(二)の決議をなした事実を認めることができる。

右乙第八号証の一と同号証の二及び証人林いつ子の証言のうち右認定に反する部分は、同証人の証言自体と証人黄厚好の証言(第二回)に徴し採用し難く、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。

(二)  右取締役会の決議が無効であるとする原告の主張が理由のないことは、前判示(二及び三)から明らかである。

五、以上説示のとおりであって、原告等の第一次的請求のうち別紙目録(一)の(1)記載の決議の不存在確認を求める部分は正当として認容すべく、その余の第一次的請求及び予備的請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤野英一 裁判官 関口亨 多加喜悦男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例