大分地方裁判所 昭和39年(わ)117号・昭39年(わ)77号 判決
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〔判決理由〕(弁護人の主張に対する判断)
(一)、被告人梅田、同野田の弁護人羽田野忠文、同近藤新、被告人梅田の弁護人仲武雄は、「同被告人両名は、被告人広瀬、同阿南において特別の金銭上の利益を得る目的があつたこと、被告人松尾、同杉下において右広瀬、阿南に特別の金銭上の利益を得させる目的があつたことを、いずれも知らず、かつ知らなかつたことにつき過失もなかつた。」旨主張する。しかしながら、両被告人は被告人広瀬および被告人阿南、同氷室において第三者(融資を受ける者)からいわゆる裏金利として特別の金銭上の利益を得る目的があつたこと、被告人松尾、同杉下において広瀬、阿南等に特別の金銭上の利益を得させる目的があつたことを十分認識しながら、本件不当契約を締結したものであることは判示認定のとおりであるから、該主張は採用しない。
(二)、被告人松尾の弁護人山本真平は「同被告人は杉下信雄、森邦雄の窮状を救済すべく奔走したに過ぎず、なんら特別の金銭上の利益を得る目的がなかつたのであるから、犯罪を構成しない。」と主張する。しかしながら、同被告人は被告人広瀬、同阿南等が預金することについての媒介者であり、被告人広瀬、同阿南等に特別の金銭上の利益を得させる目的で、本件不当契約を締結したものであるから、媒介者である同被告人において所定の手数の外、特別の金銭上の利益を得る目的があつたかどうかは、本法二条二項所定の犯罪の成否にはなんら消長を及ぼさないものであるから、該主張は採用しない。
(三)、被告人広瀬の弁護人立石幸夫は「同被告人は常盤有限会社と称する金融会社を経営する者であつて、臨時金利調整法一条にいう資金の融通を業とするものであるから、本法二条にいう特別の金銭上の利益たるには本法一条三項一号に示す如く、この金融業者が受くべき臨時金利調整法二条に定めた最高利息以上を得て、始めて本法にいう特別の金銭上の利益を得たことになるは説かずして明らかである。ところが同被告人は貸金業者として日歩三〇銭(月利九歩)を徴することができるから、被告人杉下より受けた報酬金に、預金百万円に対する組合利子年五分六厘を加算したとしても、貸金業者として受くべき百万円の月利九万円に遙かに及ばないから被告人広瀬に特別の金銭上の利益を得る目的があつたとは、とうてい断じ難く、同被告人は無罪である。」と主張し、又被告人阿南の弁護人河野春馬も亦同趣旨の主張をする。しかしながら、貸金業者が臨時金利調整法一条にいう金融機関に該るとしても、同法二条所定の日本銀行政策委員会はもちろん、他の法律においても、特に貸金業者のために利息の最高限度を定めていないから被告人広瀬が被告人杉下より、被告人阿南等が森邦雄よりそれぞれ受けた金員は、いずれも本法にいう特別の金銭上の利益に該るので、該主張はいずれも採用しない。
(四)、被告人梅田の弁護人仲武雄は「同被告人が預金媒介者たる被告人杉下との間に、昭和三六年七月上旬訴因どおりの契約を締結したとしても、当時被告人阿南は未だ同支店に百万円の定期預金をして居らず、預金したのは数日を過ぎた同年七月一三日頃であるから、同被告人、杉下間の右契約は予約に過ぎず、処罰の対象にならないので無罪である。しかしながら、「預金者と金融機関との契約」(二条一項)と「預金媒介者と金融機関との契約」(二条二項)とは必ずしも同時に成立することを要せざるはもちろん、その先後を問わないと解すべきである。したがつて「預金媒介者と金融機関との契約」が「預金者との金融機関との契約」より先行したとしても、後日なされる当該預金と関聯性が認められる限り、本条二項所定の犯罪が成立することは明らかであるので、該主張は採用しない。
(五)、被告人梅田の弁護人仲武雄、被告人梅田、同野田弁護人広瀬の弁護人立石幸夫、被告人杉下、同氷室の弁護人高橋猪兎喜は「大分県信用組合別府支店が高木久夫に金三〇万円を融資するにあたり、被告人杉下および木崎二六との間に連帯保証契約を締結し、又野口チアキに金三〇万円を貸付けるにあたつても、小口弘および小口朝子との間に連帯保証契約を締結したうえ、共同振出にかかる約束手形を徴してそれぞれ貸付けているが、高木久夫、被告人杉下、木崎二六、又は小口弘、小口朝子はいずれも事業を盛大に営んでいるのみならず、相当高価の不動産を所有し、債務弁済の十分なる資力があるから、確実な人的担保の提供があつたというべきで、本法所定の犯罪が成立する余地がない。」と主張する。当裁判所も亦、金融機関の融資にあつて、確実な人的又は物的担保の提供があり、金融機関が自己の判断により融資先の信用力に着目して、資金の融通をなす場合においては、たとえ預金者又は媒介者が金融機関に対し融資をすべき特定の第三者を指定したとしても、それが当該預金に関してなされたものと認めなれない限りは、なんら処罰の対象にはならないと解するものであるが、前顕証拠、とりわけ被告人野田、同梅田の検察官に対する各供述調書によると、本件は金融機関の職員である被告人梅田、同野田が自主的に自己の判断により融資先の信用力に着目して資金の融通をなしたものとは、とうてい認められず、むしろ判示のとおり預金者の預金、媒介者の媒介した預金の反対給付として、預金者、媒介者に対する義務として本件貸付けを約したものと十分に肯認できるので、該主張はいずれも採用しない。(富川盛介 島信幸 吉武克洋)