大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和39年(ヨ)70号 決定 1964年4月25日

申請人

別府観光交通株式会社

右代表者代表取締役

岩屋譲

右訴訟代理人弁護士

宮川仁

被申請人

別府観光交通労働組合

右代表者組合長

姫野啓

右控訴代理人弁護士

三浦久

吉田孝美

主文

申請人の本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

(中略)

三、仮処分の被保全権利及び必要性

(一)  営業所立入り禁止申請について、

(1)  会社は四月一一日組合に対しロツクアウトを通告したが、その理由とするところは、「組合は団体交渉継続中に労働協約に示す平和義務に違背して抜き打ちストライキを実施し、また協約にもとずき当事者に約定された正規の労働時間を業務命令を無視して就労せず、不法な職場放棄を繰り返えしているので会社の自主的運行計画が全く阻害され旅客輸送の公共的使命も全うしえない」というのである。

(2) しかしロツクアウトは労働者の争議行為によつて受ける使用者の損害が、その争議行為との関連において使用者の受忍すべき限度を超えると判断される場合即ち労働者の争議行為によつて企業の存立が脅やかされるような重大な損害が発生する場合或いは明らかに正当な争議行為の限界を逸脱する場合等にのみ許されると解するのを相当とする。従つて使用者がロツクアウトをするにつき、右に述べた意味での必要も利益もないのに、みだりにこれを実施することは違法であるといわなければならない。

(3) これを本件についてみれば組合がストライキ通告をした四月六日から会社がロツクアウトの通告をした四月一一日に至るまで組合は四月六日に三時間の時限ストを行つたのみで以後は(特に四月八日に両者の団体交渉が決裂した後も)協約に定められた八時間の労働に従事し、右労働時間内においては何ら会社業務の正常な運営を阻害するような行為は存在しなかつた。

そしてその間組合は会社に対し「争議行為」の一つとして四月八日以降残業拒否通告をなし、会社は此の「争議行為」に対抗する手段として本件ロツクアウト通告をなしたのであるが、時間外労働協定が期間満了によつて失効していることが認められるから(会社は協約によつて時間外労働協定を締結したのであり、右協約は四月一日以降も効力があるから、残業拒否は協約及び就業規則違反であると主張しているのであるが、協約三四条によれば、時間外、休日出勤等別に定める旨規定されており、協約自体によつて時間外等労働が定められるものでないことは明らかであり、労働基準監督署に対する時間外労働協定の届出書によれば右協定の有効期間は昭和三八年四月一日から三九年三月三日までであることを認めるにたりる)組合員には協約で定められた一日八時間以上労働をなす義務はなく、従つて会社の業務命令は無効である。即ち、時間外労働協定が存在しない場合には、会社の正常な業務とは一週四八時間を超えない限度で労働協約で定められた時間内における労働によるものと解すべきであるから、この時間を超えて労働しなかつたからといつて「業務の正常な運営を阻害する行為」であるとはいえない。

此の点につき時間外労働協定失効後も七日間現実に一カ月拘束労働時間三五三時間の割合による労働が行われていた事実をうかがうにたりるけれども、労働基準法三六条違反の此の事実が現実に行われていたからといつて、協約による労働時間を超えて労働しないことが業務の正常な運営を阻害する行為であるということはできないと解する。

勿論会社の営業の性質からみて夜間においても自動車を運行させる必要があり、残業拒否によつて三日間これを為しえなかつたため或る程度の損害が発生した事実は推認するに難くはないけれども、この損害自体会社の存立を脅やかすに至るような重大な損害であるとは考え難いし、元来この損害は労働基準法が労働者の身心の保護を図つていることの当然の結果というべく、争議行為による損害とはいえない。

(4)  以上のとおりであるから本件ロツクアウトは前記の理由により違法だと言わなければならない。

(5)  会社は所有権及び占有権に基いて組合員の会社営業所構内への立入り禁止を求めているのであり、組合は現在山の手営業所の車庫内に会社自動車六〇台を保管するとともに、これを実効あらしめるために同営業所構内にピケツテングを張つていると認められること前記のとおりであるけれども、右の自動車の保管方法自体車を出入口近くに並べて繩を二本かけているに過ぎず、また全自動車の車体検査証と鍵は会社が保管しており、また会社側の非組合員の同営業所構内への出入りは自由であり構内は会社守衛等が管理していると認められること前記のとおりであつて、同営業所とその構内の車の占有が排他的に組合に移つているわけではない。

(6)  そして元来組合員は会社の従業員として会社構内への立入りを許されているのであるから、たまたま争議により会社の指揮命令権を離れても、前記のとおりロツクアウトが違法である以上正当な争議行為に附随するピケツテングのため構内に立入ること自体違法であるということはできない。

(7)  次にピケツテング自体についてみれば、前記のとおり会社と組合との間に一度紛争があつた事実はあるが(此の紛争の程度は詳らかではないが、仮に此の紛争がピケツテイングの限界を越えた違法なものであつたとしても)其の後は同種の紛争は全くなく、ピケツテイングは平穏に終始していること前記のとおりであるから、ピケツテング自体違法であるとは言えない。

(8)  以上のとおり前記ロツクアウトが違法であり、組合のピケツテインが適法であるので、他に組合に会社所有の建物、自動車等に対する破壊的意図の全く認められない争議の現況では会社所有の建物その敷地、の所有権、占有権が不法に侵害されまたは不法に侵害されるおそれはないものといわなければならないから、組合の営業所内への立入禁止を求める部分は被保全請求権を欠き、理由がない。

(二)  営業妨害禁止申請について、

争議中といえども会社が非組合員たる従業員を使用して繰業することはそれが著しい協約違反または信義則違反の行為と認められない限り許されると解すべきであるが、前記のとおり現在会社が自由に動かしうる車輛二四台に対し運転手は五名に満たない状態であり、組合はこれらの者の業務を放任しているから、現在の段階で会社がなしうる自動車運行の業務を妨害する可能性は全く予想し難い状況にある。そのうえ、会社代表取締役の言明によつて明らかなとおり会社は営業妨害禁止の仮処分決定を得て公益事業の名目の下に、大量のスト破りを雇入れる計画であると認められるから、右仮処分申請を認容するときは、組合に対し致命的打撃を与える危険性が極めて高いということができる。以上のとおり本件争議の現段階においては、会社の営業妨害禁止を求める部分はその必要性を認めるにたりない。

四、以上のとおり会社の本件仮処分申請はすべて失当であるからこれを却下すべく、申請費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。(裁判官多加喜悦男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例