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大分地方裁判所 昭和43年(わ)79号 判決 1976年3月30日

本籍

大分県佐伯市大字木立五、六五九番地

住居

別府市北浜三丁目五番一七号

ホテル経営

児玉誠

大正一〇年八月三〇日生

右の者に対する所得税法違反、恐喝、詐欺(予備的訴因横領)被告事件について、当裁判所は検察官大久保慶一出席の上審理をし次のとおり判決する。

主文

被告人を判示第一ないし第三の罪につき懲役一年二月および罰金二〇〇万円に、判示第四、第五の罪につき懲役八月に処する。

未決勾留日数中六〇日を判示第一ないし第三の罪の懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三八年一二月ころ、赤木一郎に対し同人所有の山林および旅館青桐荘の土地建物(当時時価約八、〇〇〇万円相当)を売渡担保として被告人の所有名義に移転登記をしたうえ、合計一、〇〇〇万円を貸付ける約束をし、同月二四日ころ、赤木の合計二八〇万円の負債を被告人が代払いしその他費用等を含むものとして赤木から三一〇万円の領収書(昭和四四年押第六七号の9)を受取り、同月二七日ころ赤木に対し現金一〇〇万円を交付しその際実際にはその事実もないのに「別に七〇万円宮崎の銀行の赤木口座に送金した。前の三一〇万円の領収書を失つたから前の分と合わせて四八〇万円の領収書を書いてくれ。」と申し向けて前記三一〇万円の領収書を返却しないまま同人から改めて四八〇万円の領収書(同号の10)を受け取り、更に仲介人中原俊栄に五〇万円払つて赤木名義の一〇〇万円の領収書を同人に書かせて受け取り、昭和三九年一月ころ、赤木から残金の請求を受けた際、前記三通の領収書を示し「すでに八九〇万円渡している。」旨主張したうえ被告人振出名義の額面一〇〇万円の約束手形を赤木に交付したが、同月二三日ころ佐伯市大字木立五六五九番地の被告人宅において、再度赤木から残金を請求されるや、それまで赤木らに交付した金員等が右のとおりで約束の一、〇〇〇万円には遙か不足するにもかかわらず、前記山林、旅館が被告人名義になつていることを奇貨として一〇〇〇万円の債務を赤木に承認させようと企て、「もうやる分はない、かえつて一〇〇〇万円の領収書を書かんことにはあんたの財産は私の名義になつているから私が他に売却してもあんたは何ともいえんよ、どこに出ても負けない。」等申し向け、右要求に応じなければ右山林、旅館を他に売却してしまい財産上莫大な損害を受けるかも知れない旨告知し、同人を畏怖困惑させて脅迫し、よつて即時同所で同人に一、〇〇〇万円の領収書一枚(同号の12山田商事赤木一郎関係書類綴一綴のうち赤木一郎作成の昭和三九年一月二三日付額面一、〇〇〇万円のもの)を書かせて、被告人に対する右金額の債務を認めさせ、もつて財産上不法の利益を得た

第二、昭和三八年一一月一四日ころ、竹田重雄に対し、同人およびその妻所有の山林(当時時価約二、〇〇〇万円相当)を売渡抵当とし、買戻期限(弁済期日)を翌三九年一一月一四日と定め、被告人の所有名義に移転登記をしたうえ、竹田の他の各負債のほか貸付に関する雑島も含めて代払いした残金を交付する清算払いの方式で四〇〇万円を貸付けたが、昭和三九年五月一四日ころ、佐伯市所在の料亭池彦において、竹田から右元金四〇〇万円の返済の申入があつた際、前記山林の権利証を預つてその所有名義を被告人に移している立場を利用し、右貸付の際の約定で買戻しに当つては公租公課その他の雑費一切を付して支払うことになつているのを幸い、雑費名目で元金以外に相当金員を交付させようと企て、右貸付時に既に竹田が負担済みのものを除けば改めて同人が支払わなければならない費用分は殆んどないにもかかわらず、同人に対し「費用がかかつたので元金のほかに六〇万円ほど出さなければ山林は返さない」旨申し向け、これを不当とする竹田の言い分を頑として受けつけない態度を数時間にわたつて固持し、同人をしてもし右要求を容れない限り担保物件たる前記山林は今後とも絶対返還して貰えず財産上莫大な損害を受けるかも知れないと感得せしめて畏怖困惑させて脅迫し、よつてそのころ同所において同人から貸付金四〇〇万円以外に現金五三万七、〇〇〇円を交付させてこれを喝取した

第三、前記被告人宅において金融業を営むかたわら不動産賃貸や農業により収入を得ているものであるが、自己の業務に関しその所得税を免れようと企て、昭和三九年分の実際課税所得金額が別表Ⅰ、Ⅱ記載のとおり一二、七七五、三〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四〇年三月一〇日佐伯市松ケ鼻三二七六ノ三佐伯税務署において同税務署長に対し課税総所得金額が九九七、四五九円の損失で納付すべき所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書(同号の1)を提出しもつて別表Ⅱ記載のとおり昭和三九年分の正規の所得税五、六四八、四一〇円を免れた

第四、昭和四二年六月末ころ、小島善市から同人の有限会社島屋物産に対する債務の支払いを依頼されて現金五〇万円を預り保管中、同年夏ころ右会社代表取締役である佐島仁に対し、右小島の債務を半分の二五万円に減額してくれるよう交渉したものの良い返事が貰えなかつたことから、その後右金員を支払うことなくかつ小島に返還することもないまま、その頃ほしいままにこれを着服して横領した

第五、昭和四二年六月末ころから七月末にかけて、右小島に対し、同人が代表取締役として経営する各株式会社所有の新別府ホテル、同所の庭木庭園設備一切および温泉権を売渡抵当に、支払期日を同年九月末日として合計五〇〇万円を貸付けたのであるが、同年九月三〇日北浜三丁目五番一七号千尋旅館において、小島が六分酒造株式会社振出にかかる額面五〇〇万円の小切手で支払いを申し入れた際現金でないと受け取れないと難癖をつけてことさらその受領を拒絶して支払期日を徒過させ、翌一〇月一日右旅館において、支払期日の延期方を求める小島に対し、新別府ホテルについて被告人の内妻である高倉マサ子名義の所有権移転の仮登記がなされ、また庭木や庭園設備が既に同人所有名義に切り替わつていることを奇貨として、「月曜日まで二日間待つてやる。そのかわり損害金として一日一〇〇万円出せ。それが嫌ならホテルは自分の自由にするし植木は直ちに植木屋に渡してしまう。」等と申し向け、もし右要求に応じなければ右担保物件を被告人が自由に処分して財産上莫大な損害を受けるべき旨通知して同人を畏怖困惑させ、翌二日右旅館において、同人から前記貸付金以外に損害金名下の現金二〇〇万円の交付を受けてこれを喝取し、更に犯意を継続して、同所二階において前記のとおり畏怖している小島に対し「新別府ホテルが売れたら礼金として五〇〇万円を自分にくれるという誓約書を書け。書かなければ判を押さない。」と申し向け、もし右要求に応じなければ右担保物件の返還に応じず財産上莫大な損害を受けるべき旨告知し、同人を畏怖困惑させて脅迫し、即時同所において右要求通りの内容の念証一枚(同号の52)を書かせてその旨約束させ、もつて財産上不法の利益を得た

ものである。

(証拠の標目)

判示第一および第三のうち別表Ⅰ一の4、二の1の各事実につき

一、第一六回公判調書中証人赤木一郎の供述部分

一、第一七回公判調書中証人中原俊栄、同山田忠直の各供述部分

一、相良広高の検察官に対する供述調書

一、押収してある売渡証書一通(昭和四四年押第六七号の6)、登記権利書一通(同号の7)、契約証書一通(同号の8)、昭和三八年一二月二四日付領収書一枚(同号の9)、同月二七日付領収書一枚(同号の10)、同月二三日付領収書一枚(同号の11)、山田商事赤木一郎関係書類綴一綴(同号の12)

判事第二および第三別表Ⅰ一の5、6、二の2、3の各事実につき

一、第一四回公判調書中証人竹田重雄の供述部分

一、第一五回公判調書中証人中川繁男の供述部分

一、押収してある売買契約書綴一部(同号の19)、出納帳兼日記帳二冊(同号の20の1、2)

判示第三の事実につき(各証拠末尾のかつこ内は立証事項で数字記号は別表Ⅰのそれ)

一、押収してある昭和三九年度分所得税確定申告書一枚(同号の1)(全般)

第九及び第一〇回公判調書中証人浜清四郎の各供述部分(全般)

一、第一一回公判調書中証人松尾朝雄の供述部分(一の10、11、12、17)

一、第二一回公判調書中同証人の供述部分(一の18)

一、第一七回公判調書中証人山田忠直の供述部分(一の4)

一、第二二回公判調書中証人山田禎一(一の12、二の4)、同出納一(六)の各供述部分

一、満井淳(一の1)、山村チズ子(一の1)、奈須兼吉(一の3)、渡辺弘道(一の5)、竹田克己(一の6)後藤忠勝(一の8)、岡本忠夫(一の9)、高倉マサ子(昭和四三年三月三〇日付)(二の4)、塩月吉良(一の13)、新名多美男(一の15)、広瀬充(一の16)、辻安子(一の18)、安東伝(一の19)、今井進(一の1、五)、吉藤正春(七の2のロ)、山中鹿市(七の2のイ)、檜垣文明(七の2の八)の検察官又は検察事務官に対する各供述調書

一、早野正雄(一の7)、塩月吉良二通(一の13)、内山田正徳(一の14)、利根川安太郎(一の17)、安東伝(一の19)、西島馨(五)、堀口秀雄(五十一の1)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、辻安子作成の総かん定元帳(一の18)

一、土屋富一作成の土地賃貸借契約書謄本(検第七〇号)(五)

一、同人作成の土地家屋賃貸借契約書謄本(検第七一号)(五)

一、同人作成電話賃貸借契約書謄本(検第七二号)(五)

一、今井進、西島馨各作成の各上申書(五)

一、大蔵事務官作成の「児玉誠からの預り書類写」と題する書面(五)

一、坂本典作成の借家料支払明細書(五)

一、佐伯市長作成の不動産の照会回答書(五)

一、豊和相互銀行作成の昭和三九年分配当、剰余金分配および基金利息の支払い証明書(四)

一、真部直喜作成の出入金伝票写の綴(六)

一、野村証券株式会社作成の元利金支払票写(六)

一、山中鹿市作成の証明書(七の2のイ)

一、安田有良作成の貸付金及び貸付利息等証明書(検第九九号)(十一の1)

一、園田久人作成の相互掛金元帳(検第一〇〇号)(十一の一)

一、手貸利息、割引料および印紙代明細表(検第一〇二号)(十一の2)

一、日高喜忠作成の貸付金元帳写(検第一〇四号)(一の9、十一の3)

一、満島稔作成の受取手形管理カード等写綴(検第一〇五号)(九、十四)

一、杉田欽一作成の手形明細表写(検第一〇六号)(八、九)

一、三重野正水作成の議事録写(検第一〇七号)(十三)

一、同人作成の判決書謄本(検第一〇八号)(十三)

一、浜清四郎作成の固定資産台帳(十の2)

一、園田久人作成の「貸付金及貸付利息等証明書の訂正についてと題する書面(検第一六〇号)(十一の1)

一、押収してある児玉誠分割引手形元帳No.18一枚(同号の2)(一の1、13、15、16、19十一の2)、借入申込書一通(同号の3)(一の1)、雑書類綴一綴(同号の4)(一の2、10、14、五十二)、定期預金元帳一枚(同号の5)(一の3)、送金(電信為替)受領証書一枚(同号の13)(一の4)、昭和三九年三月二〇日付領収書一枚(同号の14)(一の4)、同年四月二〇日付領収書一枚(同号の15)(一の4)、送金(電信為替)受領証書一枚(同号の16)(一の4)、同年六月一六日付領収書一枚(同号の17)(一の4、二の1)、同日付領収書一枚(同号の18)(一の4、二の1)、売買契約書等綴一綴(同号の19)(一の5、12)、領収書綴一綴(同号の21)(一の5)、領収書綴一綴(同号の22)(一の6)、精算書二枚綴(同号の23)(一の5)、登記関係領収書三枚(同号の24)(一の5)、預り証一枚(同号の25)(二の2)、貸付金元帳五枚(同号の26)(一の7)、児玉ユク名義普通預金元帳四枚(同号の27)(一の4、5、6、13、二の2)、児玉誠名義普通預金元帳四枚(同号の28)(一の4、5、7)、昭和三八年一〇月一五日付領収書一枚(同号の29)(一の7)、メモ書一枚(同号の30)(一の7)、抵当権抹消不動産登記証書一通(同号の31)(一の7)、融資申込書一通(同号の32)(一の8)、定期預金元帳一枚(同号の33)(一の8)、児玉誠借入関係メモ一枚(同号の34)(一の10)、玉名興産関係書類綴一綴(同号の35)(一の11)、貸付元帳(手形)四枚(同号の36)(一の12十一の2)、約束手形額面三八五万円一通(同号の38)(一の13)、約束手形額面一二万円一通(同号の39)(一の14)、千尋金子信用金庫、利根関係書類綴一綴(同号の40)(一の17、七の2の二)、昭和三九年一一月分日計表一綴(同号の41)(一の18)、昭和三九年度分所得調査カード一綴(同号の43)(三、四)、下関交通事故その他関係書類綴一綴(同号の44)(五、七の2の二)、無記名定期預金元帳一枚(同号の45)(六)、児玉誠普通預金元帳二枚(同号の46)(六)、昭和三九年分事件簿(檜垣文明分)一冊(同号の47)(七の2の八)、同年分事件簿(檜垣恭平分)一冊(同号の48)(七の2の八)、中小公庫代理貸付金元帳三枚(同号の49)(十一の1)

一、被告人の検察官に対する昭和四三年三月八日付(検第一三三号)(一の2、3、5、6)、同日付(検第一三四号)(一の7、9、11、17、18)、同月二七日付(一の1、二の1)、同月七日付(検第一三六号)(一の4、12)、同月一八日付(一の5、6、二の2)、同月一九日付(一の11)、同月九日付(五)各供述書

一、被告人の大蔵事務官に対する昭和四一年七月二日付(十二)昭和四二年三月一六日付(一の2、3、7、9、11、17、19、二の4、五、八、九、十四)、昭和四一年七月二七日付(一の6)、同年一二月二二日付(一の4、12)、同年一一月一一日付(一の2)、昭和四二年一月一九日付(七の3、4、5)、同月一八日付(十の一)各質問てん末書

判示第四、第五の事実につき

一、小島善市の検察官に対する各供述調書

一、高倉マサ子の検察官に対する昭和四三年一二月二二日付供述調書

判示第四の事実について

一、第二六回公判調書中証人佐島仁の供述部分

判示第五の事実につき

一、第二七回公判調書中証人阿部幸郎、同阿部行人の各供述部分

一、第二八回公判調書中証人小林政太郎の供述部分

一、阿部百人の検察官に対する供述調書

一、押収してある念証一枚(同号の52)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示第三の罪について、別表Ⅰ一の11における玉名興産株式会社に対する一、〇〇〇万円の貸付金は、昭和三九年末当時同会社は既に倒産状態にあつたものであるから同年度分の貸倒れ損と認定すべきであり、かりにそうでないにしても、被告人が同年度分所得の確定申告をした昭和四〇年三月一〇日の時点を基準にすれば、被告人は同会社の当時の現況から判断して右債権の回収は不能であると同時に昭和三九年度の貸倒れ損になるものと信じていたのであるから、少くともほ脱の犯意はなかつたものである旨主張する。

ところで、税法上貸付金が貸倒れ損として認定されるためには、当該債権の回収が相手方の無資力等を原由として法律上消滅するかもしくは事実上客観的に不可能となり社会通念上経済的には無価値になつたと評価される場合でなければならないと同時に右貸倒れの事実が当該所得年度中に発生することを要するのであるが、本件についてこれをみるに、前掲証拠の標目中判示第三事実別表Ⅰの11の事実について挙示した各証拠のほか福岡手形交換所作成の証明書(被第一号証)、玉名興産株式会社振出の約束手形(被第二号証)、同会社作成の領収書((被第三号証)、同会社作成の会社更生手続申立書(被第五号証)、鶴丸富作成の調査報告書(被第八号証)によれば、被告人は、昭和三九年一二月二六日ころ右玉名興産株式会社に対して一、〇〇〇万円の貸付をなしたが、その当時同会社は高利貸等の個人金融に頼つてまで資金繰りを行わざるを得ないほどに経理内容が悪化してはいたもののいまだ宅地造成等の営業は続行しており、同会社が事実上休業状態に陥つたのは翌四〇年二月四日銀行取引停止処分を受けたのちであること、その後被告人は右貸付金の取立を断念することなく、再三にわたつて福岡市所在の同会社に赴いて督促し、本件の確定申告日以降においてさえ、同会社の代表取締役に債務を保証させあるいは同会社所有の土地建物を改めて担保に提供させるなど債権確保の方策を種々講じたこと、のみならず同年八月ころ右担保物件が競売に付された際みずからこれを競落したところ、同会社側から右物件を他に売却する方法で右貸付金債務を清算することを提案されるなど現実に債権回収の機会と可能性が存したこと、更に同年九月同会社から福岡地方裁判所へ会社更生の申立がなされたが、同年一〇月の調査報告においては同会社資産の債務に対して占める割合が相当高いことなどから会社更生の見込みがあるものとの意見が出されたこと等の諸事実が認められ、右認定事実に基づいてみれば、被告人の玉名興産に対する一、〇〇〇万円の貸付金は昭和三九年末においていまだ客観的に貸倒れ状態になかつたことが明らかであるばかりでなく、被告人が同年度所得の確定申告を行なつた当時においてさえ右債権回収の見込みがあつて被告人自身そのための奔走を種々していた状況が窺えるのであつて、右申告時に被告人が右貸付金につきほ脱の犯意がなかつたとは到底認められないところである。(ちなみに、被告人が本件確定申告に際し右貸付金について貸倒れ損の主張を全く行なつておらず、かえつて本件の捜査段階の大蔵事務官の取調において確定申告における営業収入二五〇万円の赤字の所以は、他の貸金に関し同額の損害賠償の支払を命ぜられた判決が確定したことによる旨の説明をしていることが関係証拠によつて認められる。)

弁護人の前記主張は理由がない。

(ほ脱所得の認定について)

検察官が主張する冒頭陳述書(その後の補正分を含め)記載の計算と異なる項目についてのみ摘記する。

一、満井淳関係(貸付金収入利息)

前掲の別表Ⅰ、一、1に関する各証拠によれば

イ、昭和三九年三月三一日当時満井は被告人に対し七〇、〇〇〇円の借入金があつたが、この債務については月六分の利息のみ支払い金七〇、〇〇〇円の手形を書き替えていたところ、そのうち利息の支払を滞らすようになりその後は元金に右利息を加算し、あるいは違約金等も含めて手形の書替えをしてゆき結局昭和四〇年三月末には右債務は三二〇、〇〇〇円になつたことが認められる。しかしながら右各証拠によるも昭和三九年四月当初より七〇、〇〇〇円に対して複利の利息を払つていたことは明らかにされず、又右同月以降のどの時点から複利の利息を払つたかという事実も断定できない。従つて昭和三九年分の利息収入は、満井が少くとも払つていると認められる月六分の単利計算による。月数は四月から一二月までの九カ月間。

70,000×0.06×9=37,800

ロ、満井が山村商店より受け取つた額面三〇〇、〇〇〇円、支払期日昭和三九年一〇月一〇日の約束手形を被告人が同年八月二八日に月六分の割引料で割引いていることが認められる。従つて同年八月二八日から、九月二十七日までの一月分と九月二八日から一〇月二七日までの三〇日間のうちの九月二八日から一〇月九日までの一二日分の合算額を割引料とする。

<省略>

ハ、冒頭陳述Ⅳ1、(1)、八の金員はそのまま認めて三〇、〇〇〇円

よつて満井に対する貸付金利息収入はイ、ロ、ハの合計額九三、〇〇〇円

二、後藤弥佐助(貸付金収入利息)

前掲の別表Ⅰ、一、8に関する各証拠によれば、昭和三八年四月に後藤が被告人より四〇〇、〇〇〇円借り入れ、その後利息を支払わず元金に加算され昭和四〇年八月頃元金、利息ともで合計一、四五五、〇〇〇円被告人に返済したことが認められる。

従つて昭和三九年分の利息収入としては

400,000×(1.0520-1.058)=470,400(円)

但し 1.0520=2.653 1.058=1.477とする。

三、川人敏雄(貸付金収入利息)

前掲の別表Ⅰ、一、10に関する各証拠によれば、昭和三九年一二月二六日佐伯市の料亭池彦で、川人が被告人より八、〇〇〇、〇〇〇円借り受け、その際月六分の利息二月分と右池彦に対する飲食代(四〇、〇〇〇円)と合わせて一、〇〇〇、〇〇〇円を被告人に渡した事実が認められる。

従つて被告人が利息として受取つた金額は月六分の利息二月分で九六〇、〇〇〇円となる。

よつて昭和三九年度分の利息収入としては

<省略>

四、玉名興産株式会社(貸付金収入利息)

前掲の別表Ⅰ、一、11に関する各証拠によれば、昭和三九年一二月二六日右会社が被告人より一〇、〇〇〇円借り受け二月分の利息一、〇〇〇、〇〇〇円を天引された事実が認められる。

従つて昭和三九年度分の利息収入は

<省略>

五、赤木一郎関係の担保処分益

判示第一および別表Ⅰ、一、4、同二、1に関して掲げた各証拠によれば、判示第一の認定事実のとおりであるが、被告人が赤木の若杉及び山田商事に対する負債合計二八〇万円を被告人が代払いした際、抹消登記費用等として三〇万円必要だつたとして赤木から三一〇万円の領収書を取つたものであり、検察官は右事実について被告人が実際貸付けた金員となるのは二八〇万円で三〇万円は担保処分益となる旨主張するようであるが、前掲各証拠によれば右三〇万円全額が果して現実に登記費用等として支出されたかどうかは必ずしも分明できないものの、少くとも赤木においては同金額を自己負担分の債務として承認したことが認められるのであるから、右三〇万円を担保処分益に算入するのは相当でない。

よつて赤木一郎関係の担保処分益は、右三〇万円を控除して、五、五四〇、〇〇〇円

六、別表Ⅰ、七、1の貸付経費関係において竹田重雄に対する貸付関係で判示第二の担保不動産に対する取得税一〇、九七〇円については被告人自身これを支払つていないことを自認しており経費から除外すべきである。結局別表Ⅰ七1の貸付経費は、赤木一郎関係八四〇、四四五円と山田禎一関係二一、四二六円の合計八六一、八七一円である。

七、佐伯信用金庫本店関係の支払利息

前掲の別表Ⅰ十一の2に関する各証拠によれば、手形貸付における支払利息関係で、昭和三九年度の支払分は五九八、四九五円、その内五七、〇〇〇円は昭和四〇年度分の利息の前払であること、三九年度末の未払利息が五、七三〇円であること、割引手形関係の昭和三九年度の支払分は、一三一、五二六円、その内九、〇〇〇円が昭和四〇年度分の利息の前払であることが認められる。

従つて昭和三九年度分の支払利息は

(598,495-57,000+5,730)+(131,526-9,000)=669,751

なお検察官は冒頭陳述で右支払利息のうち三三、〇〇〇円は榎太八郎が負担したと主張するが、その事実を等めるに足る証拠はない。

(確定裁判)

被告人は昭和四一年八月二三日福岡高等裁判所で公文書毀棄、業務上過失傷害、森林法違反罪により懲役一〇月(四年間保護観察付執行猶予)に処せられ、右裁判は昭和四二年六月八日確定したもので、この事実は検察事務官作成の福岡高等裁判所判決謄本および最高裁判所決定謄本によつて認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法二四九条二項に、判示第二の所為は同条一項に、判示第三の所為は昭和四〇年法律第三三号所得税法附則三五条により同法による改正前の昭和二二年法律第二七号の所得税法六九条一項に、判示第四の所為は刑法二五二条一項に、判示第五の所為は包括して同法二四九条に該当するが、判示第三の罪につき所定刑中懲役刑および罰金刑の併科を選択し、同法四五条前段および後段によれば、判示第一ないし第三の各罪と前記確定裁判のあつた罪とは併合罪であり、判示第四、第五の各罪はこれとは別個の併合罪の関係にたつので、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示第一ないし第三の罪につき処断することとし、懲役刑につき同法四七条、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、判示第三の罪の罰金刑を同法四八条一項により右懲役刑と併科することとし、判示第四、第五の罪についても同法四七条本文、一〇条により重い第五の罪の刑に法定の加重をし、右各刑期および金額の範囲内で、被告人を判示ないし第三の罪につき懲役一年二月および罰金二〇〇万円に、判示第四、第五の罪につき懲役八月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち六〇日を判示第一ないし判示第三の罪の懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 濱田武律 裁判官 西理 裁判官 杉山正士)

別表Ⅰ ほ脱所得の内容

一 貸付金利息等 5,481,658円

<省略>

二 担保物件処分益等 13,327,000円

<省略>

三 農業収入 128,084円

四 配当収入 130,000円

五 不動産貸付収入 1,617,000円

六 割引償還益 420,000円

(以上が収益の分、以下損失の分)

七 一般経費 2,252,591円

<省略>

八 車両買入費用 16,772円

九 車両減価償却費用 131,000円

十 不動産貸付経費 267,875円

<省略>

十一 支払利息 2,179,069円

<省略>

十二 貸倒損 50,000円

十三 雑損失 2,500,000円

十四 車両売却損 518,000円

別表Ⅱ 税額計算書

<省略>

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