大分地方裁判所 昭和60年(わ)398号 判決 1986年7月15日
本籍・住居
大分県大分郡挾問町大字内成三三二二番地
金融業
岡幸正
昭和一二年一二月一七日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官柿原和則出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大分市大字永興一四二香地の五において金融業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、取引に関する帳簿類を作成せず、取引によって得た資金を仮名の定期預金及び普通預金等に預け入れるなどの不正の手段により所得の一部を秘匿したうえ、
第一 昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの五六年分の総所得金額が四九八七万五〇九五円でこれに対する所得税額は二三四七万八四〇〇円であるにもかかわらず、昭和五七年三月一五日、同市中島西一丁目一番三二号所在の大分税務署において、同税務署長に対し、右五六年分の総所得金額が四八九万五〇八四円でこれに対する所得税額は四五万四四〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二三〇二万四〇〇〇円を免れ
第二 昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの五七年分の総所得金額が一三四〇万七二九円でこれに対する所得税額は二〇六万二〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記大分税務署において、同税務署長に対し、右五七年分の総所得金額が二二五万七五九五円でこれに対する所得税額は四万二二〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二〇一万九八〇〇円を免れ
第三 昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの五八年分の総所得金額が五八四六万七三一六円でこれに対する所得税額は二八五九万一〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年三月一五日、前記大分税務署において、同税務署長に対し、右五八年分の総所得金額が五六五万八九一六円でこれに対する所得税額は五七万六〇〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二八〇一万四一〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する各供述調書
一 被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の各調査書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、それぞれにつき情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人が三年間にわたり、所得額において合計一億八九三万一五四五円を秘匿し、税額において五三〇五万七九〇〇円をほ脱した事案であって、そのほ脱率は九八パーセントに及んでいるし、被告人は脱税の動機として、貸付金の貸し倒れ等に備えるためであるなどと述べているが、これが脱税を正当化する理由にならないことは当然のことであり、また、被告人は取引帳簿類を作成しない営業をしていたため、所得額の正確な捕捉を著しく困確にした事情も認められるのであって、犯情は悪質であり、被告人の刑責には軽視を許さないものがあるといわなければならない。
しかしながら、他面、被告人は、現在では自己の犯した行為を反省するとともに、今後は経理体制を改善し、正しく納税していきたい旨申し述べ、本件についても修正申告を行って未納分を完納するとともに、これに伴なう諸税についても、いまだ完納するに至っていないものの、確実に納付してゆくための予定を立てていること、被告人には古い業務上過失傷害罪による罰金前科を除き前科、前歴がないことなどの被告人に有利な事情も認められるので、これらの事情を総合考慮して、主文のとおりの刑で処断することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾昭一)