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大分地方裁判所佐伯支部 平成8年(わ)5号 判決 1997年3月12日

主文

被告人を懲役六月に処する。

未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

押収してあるカッターナイフ一本(平成九年押第一号の1)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  平成八年一二月四日午後五時二五分ころ、大分県佐伯市駅前二丁目六番三五号九州旅客鉄道株式会社佐伯駅構内待合室において、甲野花子に対し、その面前で所携のカッターナイフ(平成九年押第一号の1)を左右に振り回し、「待ち伏せして殺してやる。」などと申し向けて、同人の生命、身体に危害を加えかねない気勢を示し、もって凶器を示して脅迫し

第二  業務その他正当な理由による場合でないのに、前記日時場所において、前記カッターナイフ一本(刃体の長さ六・八センチメートル、刃体の幅一・八センチメートルで、刃体を鞘に固定する装置を有する。)を携帯し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(累犯前科)

被告人は、平成六年一一月一五日長崎地方裁判所平戸支部で器物損壊、住居侵入、窃盗罪により懲役一〇月に処せられ、平成七年九月一四日その刑の執行を受け終わったものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書及び平成六年一一月三〇日付調書判決謄本によって認められる。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は暴力行為等処罰に関する法律一条、刑法二二二条一項に、判示第二の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三二条三号、二二条に各該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により各罪の刑に再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、何度刑務所に入っても酒に酔って粗暴行為を繰り返すことを考慮して、右刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇日を右刑に算入し、押収してあるカッターナイフ一本(平成九年押第一号の1)は判示第一の加重脅迫の用に供した物で被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項二号、二項を適用してこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(判示第二の所為と銃砲刀剣類所持等取締法二二条但書、同法施行令九条について)

銃砲刀剣類所持等取締法(以下、同法を「法」といい、同法施行令を「令」という。)二二条は、「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、総理府令で定めるところにより計った刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。ただし、総理府令で定めるところにより計った刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、政令で定める種類又は形状のものについては、この限りではない。」と定め、右但書を受けて、令九条は一号で刃体の長さ八センチメートル以下のはさみについて、二号で刃体の長さ八センチメートル以下の折りたたみ式ナイフについて、三号で刃体の長さ八センチメートル以下のくだものナイフについて、四号で刃体の長さ七センチメートル以下の切出しについて、それぞれ適用除外の要件を定めているところ、本件カッターナイフは刃体の長さが六・八センチメートルであり、法二二条但書で定める刃体の長さ八センチメートルを下回るから、右規定及び令九条による適用除外に当たらないかを検討する。

カッターナイフは、従来、令九条一号に定めるはさみ、二号に定める折りたたみ式ナイフ、三号に定めるくだものナイフ、四号に定める切出し、いずれにも該当せず、法二二条但書の適用はないものとして解釈、運用されてきたところであり(初めに見解を示したものとして昭和五六・六・三丁安発第一九二号警察庁保安部保安課長から北海道警察本部長あて回答、最近の裁判例として大阪簡易裁判所平成五年(ろ)第四四九号事件に対する平成五年一〇月一九日付判決、岡山簡易裁判所平成七年(い)第三一六号事件に対する平成七年四月二七日付略式命令、岡山地方裁判所平成七年(わ)第二八三号事件に対する平成七年一一月一日付判決)、通常の用語からすればカッターナイフが令九条各所定の刃物には当てはまらないことは明らかである。

しかし、令九条に定める刃物の中にカッターナイフが当てはまるものがない理由は、令九条が制定された当時にはカッターナイフが存在しなかったためであり(昭和五五・六・二四道本保(銃)第九五八号北海道警察本部防犯部長から警察庁保安課保安課長あて照会参照)、カッターナイフを右規定の対象から除外する趣旨ではないこと、法二二条但書、令九条の立法趣旨は、家庭生活や事務作業等で日常広範に用いられている刃物に関し、その用途から安全性に配慮されているところもあり、刃体の長さが比較的短いものについて、要件を吟味した上一般的に処罰規定から除外しようとするものと理解できるところ、カッターナイフは、従前の刃物に比べて高い安全性を持つ刃物として、使用しないときは刃体は鞘兼柄にしまわれ、使用するときは刃体を数ミリメートルだけ出して使用できるように考案された刃物であり、利便性と併せその安全性の高さから、現在、家庭生活や職場において、従来の折りたたみ式ナイフや切出しに代わる刃物として広範に利用されている刃物であり、前記立法趣旨に合致する刃物と考えられることから、令九条所定の刃物に当然には当てはまらないからとして適用を拒否するのではなく、むしろ、カッターナイフと令九条所定の刃物との類似性に着目して、その適用を認めるべきと考える。

そこで、令九条各号所定の刃物とカッターナイフとを対比すると、カッターナイフは通常は刃体を鞘兼柄にしまい、使用するときに鞘兼柄から刃体を出して使用するものであるところ、この点は折りたたみ式ナイフと同一であること、他の刃物は柄ないし握持する部分と刃体とが固定されているものであること、カッターナイフは切先から柄に向けて直線的に刃先が存在するものであるが折りたたみ式ナイフもほぼ同一であること、から、カッターナイフは令九条の適用については同条二号所定の折りたたみ式ナイフに当たるものと解釈するのが相当である。

なお、一般に折りたたみ式ナイフは刃体が回転して鞘兼柄から出し入れされるものであり、カッターナイフは刃体が直線的に鞘兼柄から出し入れされるものであるが、この点については、法二条二項が定める「四五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ」に関し、言葉をそのまま読むと刃体が回転して飛び出すナイフのみを想定しているようだが、直線的に刃体が飛び出すナイフも同条項に定める飛出しナイフに含まれることは確定した解釈であり、そうすると、法の適用については刃体が回転して鞘兼柄から出し入れされるか、直線的に出し入れされるかは比較的重要度の低い事実ということができ、従って一般的折りたたみ式ナイフとカッターナイフとの刃体の出し入れの相違は前記判断に影響を及ぼさない。

右解釈によって、本件カッターナイフが令九条二号に該当するかを検討する。令九条二号は「刃体の長さが八センチメートル以下の折りたたみ式ナイフであって、刃体の幅が一・五センチメートルを、刃体の厚みが〇・二五センチメートルをそれぞれ超えず、かつ開刃した刃体をさやに固定する装置を有しないもの」が法二二条但書の適用除外を受けると定める。司法警察員各作成の刃物の測定結果についての報告書及び写真撮影報告書によれば、本件カッターナイフは、刃体の長さが六・八センチメートル、刃体の幅が一・八センチメートル、刃体の厚みが〇・〇五センチメートルで、開刃した刃体をさやに固定する装置を有することが認められる。そうすると、刃体の長さと厚みの点は規定に合致するが、刃体の幅と刃体固定装置の点は規定に合致しないといえ、結局本件カッターナイフは令九条二号の要件は満たさず、法二二条但書の適用除外にはならないことになる。

よって、判示第二の所為については、前記のとおり法三二条三号、二二条を適用することになる。

(裁判官 山口信恭)

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