大分地方裁判所佐伯支部 昭和55年(ワ)69号 判決 1981年12月18日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
被告は、原告に対し、金二二〇万〇、五四七円及びこれに対する昭和五四年七月一一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
(一) 被告は、相互銀行業を営む会社である。
(二) 原告は、昭和四五年一〇月二六日被告との間で、当座勘定取引契約を締結した。
(三) 原告は、被告に対し、右取引に基く当座預金として、金二二〇万〇、五四七円を有していたところ、遅くとも昭和五四年七月一〇日ころまでにその払い戻しを請求した。
(四) よつて、原告は、被告に対し、右当座預金二二〇万〇、五四七円及びこれに対する払い戻し請求後の昭和五四年七月一一日から完済まで商事法定利率たる年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
(一) 請求原因(一)、(二)の事実は認める。
(二) 同(三)の事実のうち、原告が被告に対し主張のころ、主張の金員の払い戻し請求をしたことは認め、その余の事実は否認する。
三 抗弁
(一) 被告は、原告に対し、原告振出にかかる後記約束手形金債権を有していたので、昭和五五年一月三一日右手形金債権と期限後利息の合計金二二〇万〇、五四七円を自働債権として請求原因記載の被告の昭和五四年五月一九日現在の債務と対当額で相殺する旨の意思表示をなし、右意思表示は昭和五五年二月一日ころ原告に到達し、昭和五四年五月一九日に遡及して、被告の右債務は消滅した。
記
額面 金二〇〇万円
振出日 昭和五三年一月一〇日
振出人 清家静太郎
支払期日 昭和五三年五月三一日
受取人兼第一裏書人 親和興業
被裏書人 宮崎相互銀行
支払地及び振出地 佐伯市
支払場所 株式会社宮崎相互銀行佐伯支店
(二) 仮に右約束手形(以下本件手形という。)が訴外清家得央(以下得央という。)によつて権限なく振出された偽造手形であつたとしても、原告は同訴外人の本件手形の振出行為を昭和五三年二月ころ追認したものである。
(三) 仮に右偽造手形の追認が認められないとしても、原告は、民法一〇九条、一一〇条、一一二条の法理(表見代理)によつて訴外得央の振出にかかる本件手形の責任を負うべきである。
すなわち、訴外得央は、昭和四三年ころから同五一年ころまで原告の事業に付き、銀行取引・手形の振出について原告から代理権を授与されていたこと、本件手形の振出についても目的は違つても第三者である被告からみれば訴外得央にその振出行為をなすにつきその権限ありと信ずべき事情にあつたこと、訴外得央の右代理権が昭和五一年ころ消滅したとしても原告において、被告にその旨連絡もなかつたことからみて、訴外得央の本件手形の振出行為の責任を原告は負うべきである。
(四) 以上の主張が認められないとしても、原告は、民法七一五条に基き、訴外得央の本件手形の偽造という不法行為によつて生じた被告の損害を賠償する責任がある。
すなわち、訴外得央は、原告の海運業の業務に従事しており、本件手形振出行為はその事業の執行に付きなされたもので、その不法行為によつて蒙つた被告の損害を賠償すべきものである。
四 抗弁に対する認否
(一) 被告が抗弁記載の手形一通を所持していること、主張の日時ころ原告に対し相殺の意思表示をなし、これが原告に到着したことは認めるが、右相殺によつて原告の当座預金債権が消滅したとの効力を争う。
(二) 抗弁(一)について
原告は本件手形を振出したことはない。これは、訴外得央の振出にかかる偽造手形である。
(三) 抗弁(二)について
原告が訴外得央のなした本件手形の振出行為を追認したことはない。
(四) 抗弁(三)について
本件において、表見代理が成立するとの事実は否認する被告は、そもそも表見代理の規定が適用される「第三者」には該当しない。
(五) 抗弁(四)について
すべて否認する。
第三 証拠(省略)