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大分家庭裁判所 昭和43年(家)298号 審判 1974年5月14日

申立人 島田雪子(仮名)

相手方 青木照子(仮名) 外三名

被相続人 亡青木二三夫(仮名)

主文

別紙第一物件目録一、一三ないし一六の各土地は申立人島田雪子の、同目録二ないし四の各土地および同目録一七の建物は相手方山梨邦子の、同目録五ないし七の各土地は相手方青木昌子の、同目録八ないし一二は相手方青木照子の各単独所有とする。

被相続人加入名簿の電話加入権(三二局二五一四番)は相手方青木重夫が承継するものとする。

申立人島田雪子は金八二万一七七八円を、相手方山梨邦子は金二五七万八三〇円を、相手方青木照子は金四八万二八九九円を相手方青木重夫は金七万円をそれぞれ相手方青木昌子に対して支払え。

鑑定人池田要に支給した鑑定料五万六、〇〇〇円は八分し、その各二を申立人島田雪子、相手方青木照子、同青木昌子の各負担とし、その各一を相手方青木重夫、同山梨邦子の各負担とする。

理由

第一申立の趣旨ならびに申立人の主張

申立人は、被相続人青木二三夫の遺産について法律上適正な分割を求め、次のとおり主張した。

一  被相続人青木二三夫(以下「二三夫」という。)は昭和三九年二月一八日大分市大字○○△△番地において死亡し、別紙相続関係図のとおり、申立人島田雪子(以下「雪子」という。)、相手方青木重夫(以下「重夫」という。)、同山梨邦子(以下「邦子」という。)、同青木照子(以下「照子」という。)、同青木昌子(以下「昌子」という。)がその遺産を相続した。

二  別紙第一物件目録記載の土地建物および別紙定期預金目録記載の定期預金債権は二三夫の遺産である。

また、上記土地建物は賃貸しており、その地代家賃は遺産から生じた収益として、遺産分割の際適正に配分すべきである。

三  相手方重夫および邦子の母トシエは、昭和三六年から同三八年の間に被相続人二三夫が高齢と病弱のため判断力を失なつており、かつ自己が二三夫の実印を自由に使用しうる立場にあつたのを奇貨とし、二三夫には無断で同人の所有であつた別紙第二物件目録記載の各土地を同目録備考欄記載のように他に売却し、その売却代金を相手方重夫および邦子らの生活費、教育費等に費消した。

よつて、第二物件目録記載の各土地の価格を相続財産に加算し、その加算額を相手方重夫および邦子らの相続分から控除すべきである。

四  相手方重夫は、被相続人二三夫から別紙第三物件目録記載の土地建物の生前贈与を受けているから、特別受益者として取扱うべきである。

第二当裁判所の判断

一  相続開始および相続人

申立人が提出した関係人の戸籍謄本によれば、被相続人二三夫は昭和三九年二月一八日死亡し、別紙相続関係図のように申立人雪子、相手方照子、同重夫、同邦子、同昌子がその相続人であり、重夫および邦子の決定相続分は各八分の一、雪子、照子、昌子の法定相続分は各四分の一である。

二  遺産

1  別紙第一物件目録一ないし一七の各物件の登記簿謄本によれば、これらの物件がいずれも被相続人二三夫の遺産であることが明らかであり、鑑定人池田要の鑑定結果および家庭裁判所調査官岩崎正一作成の昭和四九年三月一八日付調査報告書によれば、上記各物件の相続開始時ならびに現在における価格は別紙遺産評価額表記載のとおりであり、当事者もこの価額に異存がない。

なお、同表中遺産分割時評価額(土地)は、上記鑑定の結果により判明している昭和四四年における各土地の底地価額(二および三、四を除くその土地はいずれも賃貸地であり、二の土地上には同目録一七の家屋が存在して借家人が居住していること、三、四の土地上には重夫所有の家屋が存在していることなどにかんがみ、いずれも底地価額を採用)にその後の価額上昇率を乗じたものである(第一物件目録記載の各土地について昭和四四年における税務署査定の路線価をみると、同目録一ないし四および六の土地は坪当り三万円、五および八ないし一二の土地は坪当り二万七、〇〇〇円、七の土地は坪当り四万五、〇〇〇円、一三ないし一六の土地は坪当り二万六、〇〇〇円であり、昭和四八年におけるそれは、同目録一ないし四および六の土地は平方メートル当り二万七、〇〇〇円、五および八ないし一二の土地は平方メートル当り二万二、〇〇〇円、七の土地は平方メートル当り四万三、〇〇〇円、一三ないし一六の土地は平方メートル当り二万二、〇〇〇円であり、その間の価額上昇率は、一ないし四および六の土地が二九七倍、五および八ないし一二の土地が二六九倍、七の土地が三一五倍、一三ないし一六の土地が二七九倍である。)

2  別紙第一物件目録一八の物件の登記簿謄本によれば、同物件は、昭和三九年一月九日相手方重夫に贈与されており、被相続人二三夫の遺産とは認められない。

3  申立人は別紙定期預金目録記載の定期預金債権は被相続人の遺産であると主張するが、株式会社○○相互銀行に対する照会の結果および青木トシエに対する審問の結果によれば、上記預金債権はいずれも青木トシエにおいて払戻しを受け、相続税の支払等に費消し現存しないことが認められる。したがつて上記預金債権を遺産分割の対象にすることはできない(青木トシエの上記払戻行為が違法であり、これにより各相続人が損害を受けたというのであれば、各相続人は、その相続分に応じて青木トシエに対し別途損害賠償の請求をすべきものである。)。

4  申立人は遺産から生じた地代家賃も遺産分割の対象にすべきであると主張するが、青木トシエに対する審問の結果によれば、被相続人二三夫の遺産は青木トシエにおいて管理しており、したがつて上記地代家賃は青木トシエにおいて徴収し、税金、管理費、生活費等に費消済みであることが認められる。

そして、これら遺産から生じた収益は、当該遺産を取得した各相続人と青木トシエとの間において、別途収益、管理費等の清算を行なうべきであり、本件遺産分割の対象にはならない。

5  家庭裁判所調査官岩崎正一作成の昭和四八年六月五日付調査報告書および青木トシエに対する審問の結果によれば、被相続人二三夫の遺産として電話加入権(三二局二五一四番)があり、その評価額は七万円であることが認められる。

三  特別受益

1  申立人は、第二物件目録記載の各土地はいずれも被相続人二三夫が高齢と病弱のため判断力を失つているのに乗じ、相手方重夫および邦子の母トシエが勝手に売却し、その代金は上記相手方らの生活費に充てられたので重夫および邦子は特別の利益を得ていると主張するので検討するに、家庭裁判所調査官補松木美恵作成の昭和四〇年七月一三日付および同年九月一〇日付調査報告書によれば、被相続人二三夫の精神状態は死亡するまで正常であり、同人がその財産を管理していたこと、上記各土地はいずれも被相続人二三夫の意思に基づいて売却され、その代金は同人の生活費や家屋造作費に費消されたほか、同人と同居して生活していたトシエ、重夫、邦子等の生活費として費消されたことが認められるが、トシエは被相続人二三夫の長男亡篤の妻として老齢の二三夫と同居してその面倒をみるかたわら二三夫の孫にあたる重夫、邦子を養育していたものであり、トシエが上記代金を重夫、邦子の生活費に充てることについては二三夫もこれを承認していたものと考えられる。

したがつて、上記売却代金から重夫、邦子の生活費に充てられたものは、直系血族間の扶養として支出されたものとみることができこれを特別受益として民法第九〇三条の適用の対象とすることは相当でない。

2  つぎに申立人は、重夫は第三物件目録記載の物件の贈与を受けているので特別受益者であると主張するので検討するに、別紙第三物件目録一ないし五の各物件の登記簿謄本および家庭裁判所調査官補松木美恵作成の昭和四〇年七月一三日付調査報告書(青木トシエ供述)によれば、同目録一、二の物件は昭和二七年一二月一五日に被相続人から重夫に対して同目録三の物件は昭和三三年一一月一〇日に被相続人から重夫、邦子、亡篤、トシエらに対して、同目録四の物件は昭和三七年七月四日に重夫、邦子、トシエに対して(持分各三分の一)、同目録五の物件は昭和二三年頃被相続人から重夫に対してそれぞれ贈与されたことが認められる。

ところで、重夫、邦子はいずれも被相続人二三夫の長男亡篤を代襲して被相続人二三夫の相続人になつたものであるが、このような代襲相続人について民法第九〇三条を適用して特別受益分の持戻を行なうのは、当該代襲相続人が代襲により推定相続人となつた後に被相続人から直接特別な利益を得た場合に限ると解すべきであり、したがつてたとえば当該代襲相続人が推定相続人になる以前に被相続人から贈与を受けた場合、あるいは被相続人から贈与を受けたのは被代襲者であり、代襲相続人は当該被代襲者から当該財産を相続したにすぎない場合などは、当該受益分について民法第九〇三条を適用することはできない。

したがつて重夫、邦子が代襲により推定相続人になつた後に二三夫から直接贈与を受けたのは別紙第三物件目録記載の物件のうち、四の物件のみであり、この物件については民法第九〇三条を適用することができるが、その他の物件については同条を適用することはできない。

3  別紙第一物件目録一八の建物の各登記簿謄本ならびに家庭裁判所調査官高橋一馬作成の昭和四五年四月三〇日付調査報告書によれば被相続人二三夫は昭和三九年一月九日別紙第一物件目録一八の建物を、同三五年一二月一四日○○交通株式会社の株式一、五〇〇株をいずれも相手方重夫に贈与したことが認められ、これらは、いずれも重夫が代襲により推定相続人になつた後に被相続人二三夫から直接贈与を受けたものであるから持戻の対象とすべきものである。

4  また大分市○○町○丁目○○番宅地二一八.一八平方メートル(旧○○町大字○○字○○△△番地)の登記簿謄本および旧番地の閉鎖登記簿謄本によれば、上記土地は、被相続人二三夫が昭和一四年三月二八日養子の青木信也に贈与し、その長女である相手方昌子が昭和一六年八月一四日家督相続によりその所有権を取得したものであることが認められるが、これは相手方昌子が被相続人二三夫から直接贈与を受けたものでないことが明らかであるから、これについて民法第九〇三条を適用することはできない。

5  以上によれば、重夫は、○○交通株式会社の株式一、五〇〇株、別紙第三物件目録四記載の土地に対する三分の一の共有持分、別紙第一物件目録一八記載の建物を、邦子は、別紙第三物件目録四記載の土地に対する三分の一の共有持分を特別受益として持戻すべきである。

そして、家庭裁判所認査官岩崎正一作成の昭和四八年六月五日付調査報告書によれば、上記○○交通株式会社株式の相続開始時(昭和三九年二月一八日)における価額は一株八〇円であつたことが認められ、また鑑定人池田要作成の鑑定書によれば、別紙第三物件目録四記載の土地(同土地上には別紙第一物件目録一八および同第三物件目録五の建物が存在する。)の相続開始時における価額は三七一万七、七八〇円であること(底地価額)、および別紙第一物件目録一八記載の建物の相続開始時における価額は一三六万三、〇〇〇円であることが認められる。

したがつて重夫の特別受益額は、一三六万三、〇〇〇円(第一物件目録一八の価額)、一二三万九二六〇円(第三物件目録四の価額の三分の一)、および一二万円(○○交通株式会社株式一、五〇〇株)の合計額である二七二万二、二六〇円であり、邦子の特別受益額は、一二三万九、二六〇円(第三物件目録四の価額の三分の一)である。

四  具体的相続分

相続開始時における遺産の総評価額一、七四三万九、六一一円に相手方重夫の特別受益額二七二万二二六〇円および相手方邦子の特別受益額一二三万九、二六〇円を加算すると想定相続財産の価額は二、一四〇万一、一三一円となり、これを基にして各相続人の相続分を計算すると一応次のようになる(以下円未満は切捨て)。

重夫の相続分

21,401,131円×(1/8)-2,722,260円 = -47,118円

邦子の相続分

21,401,131円×(1/8)-1,239,260円 = 1,435,881円

照子、昌子、雪子の各相続分

21,401,131円×(1/4) = 5,350,282円

上記によれば重夫の相続分は零であるから、同人を除外し相続開始時における遺産の総評価額一、七四三万九、六一一円に相手方邦子の特別受益額一二三万九、二六〇円のみを加算した一、八六七万八、八七一円を想定相続財産の価額として、各相続人の相続分を計算しなおすと次のとおりである。

邦子の相続分

18,678,871円×(1/7)-1,239,260円 = 1,429,150円

照子、昌子、雪子の各相続分

18,678,871円×(2/7) = 5,336,820円

ところで、遺産分割時における遺産の総評価額は別紙遺産評価額表のとおり一億二七三万二、六六八円であるから、これを上記各相続分に応じて按分し、各相続人の最終の具体的相続分を計算すると次のとおりである。

邦子の相続分

(102,732,668円×1,429,150)/17,439,610 = 8,418,788円

照子、昌子、雪子の各相続分

(102,732,668円×5,336,820)/17,439,610 = 31,437,960円

五  分割

遺産の分割については、遺産の内容、各相続人の希望、事情などを考慮して、別紙第一物件目録一、一三ないし一六の各土地(評価額計三、二二五万九、七三八円、前記具体的相続分より八二万一、七七八円超過)は申立人島田雪子の同目録二ないし四の各土地および同目録一七の建物(評価額計一、〇九八万九、六一八円、前記具体的相続分より二五七万八三〇円超過)は相手方山梨邦子の、同目録五ないし七の各土地(評価額計二、七四九万二、四五三円、前記具体的相続分より三九四万五、五〇七円不足)は相手方青木昌子の、同目録八ないし一二(評価額計三、一九二万八五九円、前記相続分より四八万二八九九円超過)は相手方青木照子の各単独所有とし、被相続人加入名義の電話加入権(三二局二、五一四番、評価額七万円)は相手方青木重夫が単独承継するものとし(同人の具体的相続分は零であるが、上記電話は同人所有の別紙第一物件目録一八の建物に設置されているので同人に与えることとする。)、上記分割の結果生じる過不足分を清算するため、申立人島田雪子は八二万一、一七七八円を、相手方山梨邦子は金二五七万八三〇円を、相手方青木照子は金四八万二八九九円を、相手方青木重夫は金七万円をそれぞれ相手方青木昌子に対して支払わせることとし、費用の負担につき、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二七条、第二八条を適用して主文のとおり決定する。

(家事審判官 高橋正)

(別紙編略)

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