大判例

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大津地方裁判所 事件番号不詳 決定

主文

本件仮処分申請を却下する。

理由

申請人等の申請理由の要旨は左のとおりである。

第一、被申請人共栄板紙株式会社は資本金五十万円、株式総数一万株を有する株式会社であつて申請人等はいずれも同会社の取締役であつたところ、同会社の株主である申請外杉山勝外二十一名は昭和二十六年一月商法第二百三十七条第一項に基いて申請人等の取締役たることの解任を目的とする臨時株主総会の招集請求をすると共に大津地方裁判所に対し商法第二百七十二条による職務執行停止並びに代行者選任等の仮処分命令の申請があり同裁判所はこれを昭和二十六年(ヒ)第一号仮処分申請事件として審理した結果同月二十九日「(一)申請人より招集を請求した共栄板紙株式会社の臨時株主総会の終了並びにその議決事項の執行済に至るまで被申請人等は同会社の取締役の職務を行つてはならない。(二)右職務執行停止期間中古林治一郞、田中三朗、田中武正をして右会社の取締役の職務を仮に行はしめる。(三)右職務代行者等は第一項の臨時株主総会の招集、開会及びその議決事項の執行をすることができる。」旨の決定をなした。申請人等は右決定に対し大阪高等裁判所へ即時抗告をなしたところ同裁判所はこれを昭和二十六年(ラ)第一一号事件として審理の上同年二月二十八日「原決定を取消す相手方等の申請にかかる本件仮処分申請はこれを棄却する。申請費用及び抗告費用は相手方等の負担とする」との決定をなした。

第二、ところで一方申請人古林治一郞、田中三朗、同武正等は前記大津地方裁判所の仮処分決定がなされるやその第三項に基き昭和二十六年二月二日臨時株主総会を同月十七日大津市馬場町十七番地の被申請会社に於て開催する旨の招集通知を発送し右総会において多数決をもつて「取締役田中一朗河上光哉高野龍雄並びに監査役種谷東洋を解任しその補充として取締役に古林治一郞田中三朗田中武正を監査役に今西儀浩を選任する」旨の決議をなし、更に古林治一郞は被申請会社の代表取締役として同年二月二十一日取締役増員の件外一件を目的とする臨時株主総会を同年三月八日被申請会社会議室において開催する旨の招集通知をなし、右総会において「従来の取締役古林治一郞田中三朗田中武正の外新たに取締役として古川貞次郞増田義雄松本七郞妹尾一雄西山佐一郞の五名を選任する」旨の決議がなされた。

第三、然しながら

(一)商法第二百七十二条に基く取締役の職務執行停止及び代行者選任の裁判は非訟事件手続法第百三十二条の六によつてなされる裁判であつて即時抗告を許されるものであるところ、即時抗告をなし得る裁判は抗告なくして七日の不変期間を経過することによつてはじめて確定するものであり、本件の場合の如く即時抗告があり抗告審において原決定が取消されたときは原裁判はついにその効力を発生せずして終つたものといわねばならない。そしてこのことは非訟事件手続法第百八十八条の二によつて同法第百三十五条の六が右の職務執行停止及び代行者選任の裁判があつた場合の登記に準用されて居つて、これ等の裁判が確定したときにその登記をなすべきものとされていることからも明瞭である。従つて仮処分による被申請人古林治一郞田中三朗田中武正等の代行者たる地位は昭和二十六年二月二日の株主総会招集当時において未だ確定していなかつたのであり、右総会は権限なき者によつて招集せられたこととなるからその決議は当然無効である。

(二)被申請人等が昭和二十六年二月二日なした臨時株主総会の招集は前記大津地方裁判所昭和二十六年(ヒ)第一号事件の仮処分決定第三項に基いてなされたものであるが、右の事項は商法第二百七十一号第一項にいう「会社の常務に属せざる行為に当り、従つてもし仮処分命令中に掲げられないときは、別に裁判所の許可を要すべき事柄である。ところでこの許可の裁判に対しては非訟事件手続法第百三十二条の五第二項によつて即時抗告が許され、この抗告には執行停止の効力のあることが規定されているのであるが、この点は右の裁判所の許可事項がたまたま仮処分命令中に定められている場合においても同様に解釈せらるべきである。すなわち、前記仮処分決定第三項は仮処分決定に対して即時抗告がなされたときはその執行力が停止されるものと解すべきであり、従つて、被申請人古林治一郞等が昭和二十六年二月二日なした臨時株主総会の招集は前記仮処分決定第三項が即時抗告によりその執行力を停止されている間になされたものであり、結局権限なき者の招集としてその総会の決議は無効のものといわねばならない。

(三)更にまた、前記大津地方裁判所昭和二十六年(ヒ)第一号仮処分決定は既述の如く大阪高等裁判所において取消されたのであつて、右の取消には遡及効を認むべきである。従つてこの点よりするも被申請人古林治一郞等の招集した上述昭和二十六年二月二十七日の臨時株主総会は現に無権限者によつて招集されたものとなり、無効に帰したものといわねばならない。

第四、以上の如く被申請人等を取締役に選任した昭和二十六年二月二十七日の臨時株主総会の決議は無効のものであり、ひいては該決議によつて取締役に選任された古林治一郞がその取締役たる地位に基いて招集した同年三月八日の株主総会の決議もまた無権限者の招集にかかるものたる結果となり同じく無効というべきである。よつて申請人等は右両臨時株主総会の決議の無効確認を求める訴を提起すべく準備中であるが、このまま日時を経過するときは被申請人等の会社のためにする諸般の行為が増嵩し、会社のため回復すべからざる損害を生ずるに至る虞があるのでここに被申請人等の取締役又は監査役としての職務の執行を停止し、且右停止期間中におけるこれが代行者の選任を求める。

当裁判所の判断

申請外杉山勝外二十一名の申請にかかる大津地方裁判所昭和二十六年(ヒ)第一号仮処分申請事件について、同年一月二十九日申請人等主張のような内容の仮処分決定をしたこと、申請人等が右決定に対し大阪高等裁判所へ即時抗告をなしたところ同裁判所が原決定を取消す旨の決定をなしたこと、並びに申請人等主張の如き各被申請会社の臨時株主総会の招集がなされ右総会においてそれぞれ申請人等主張のような決議のあつたことはいずれも申請人等提出の疏明資料によつて明かである。そこで申請人等の申請理由の当否に関する当裁判所の判断の要旨を左に掲げる。

第一、申請理由第三の(一)について

前示大津地方裁判所昭和二十六年(ヒ)第一号仮処分事件の決定が非訟事件手続法第百三十二条の六によるものであることは申請人等の主張するとおりであり、また右裁判に対して即時抗告をなし得ることは同条によつて同法第百二十九条の四の規定がこの場合に準用されていることによつて明かである。しかしながら非訟事件手続法第二十一条によれば、抗告は特に定めた場合を除く外執行停止の効力を有しないものとされて居り、しかも本件の即時抗告が執行停止の効力を有することについては何等の規定がないのであるから本件の即時抗告は前記第二十一条の一般原則によつて執行停止の効力を有しないものと解すべきである。なお本件の裁判が仮処分の性質を有するものであり、民事訴訟法における仮処分に対する異議には執行停止の効力のない点より考えても、右のように解するのが相当と思われる。申請人等は非訟事件手続法第百八十八条の二によつて第百三十五条の六の規定が商法第二百七十二条による職務執行停止及び代行者選任の裁判があつた場合の登記に準用されていることからして、右裁判に対して即時抗告がなされたときはその確定を遮断せられる(執行力を停止されるとの意味であらう)と主張するが前記第百八十八条の二による第百三十五条の六の準用の趣旨は右の職務執行停止及び代行者選任の登記については会社設立無効の判決があつた場合の登記と同様これを裁判所より登記所に囑託すべきことを明かにしたものにすぎず、裁判の効力には何等関係のないものであるから、申請人等の右主張は首肯し難い。

第二、申請理由第三の(二)について

本件仮処分決定が即時抗告によつてその執行力を停止されないことは第一に述べた通りであつて、このことは右決定の一部をなす第三項についても何等別異に解すべきではあるまい。申請人等は右のように解すると裁判所において代行者に対して同じく「会社の常務に属せざる行為」をなすことを許す裁判をした場合、それをはじめから仮処分命令中に定めたときと仮処分命令後に商法第二百七十一条第一項但書による許可の裁判をしたときとで異なる結果を生ずることになりその間に矛盾を来たすというけれども、商法第二百七十二条第一項による仮処分命令と同法第二百七十一条第一項但書の許可の裁判とはその性質を異にするものであるからその効力において差別があつても、これを目して矛盾あるものとはいい得ず、殊に一個の仮処分命令についてその一部分のみの執行力の停止というが如きことは特別の規定なき限りこれを認められないものといわねばならない。

第三、申請理由第三の(三)について

本件仮処分決定が告知によつてその効力を生じ、即時抗告の申立があつてもその執行力を停止せられないものであることは既に述べたところの通りであるから、被申請人古林治一郞田中三朗田中武正等が、右決定に従つてなした行為は法律上有効に成立したものといわねばならない。ところでその後になつて右の裁判が取消されたがためにその裁判に従つてすでになした行為がすべて無効になるとするときは既成の権利関係を徒らに紛糾錯綜せしめる結果となるのであつて、抗告による取消しにかかる効果を認める法の趣旨とは到底考えられないので、右仮処分決定が抗告の結果取消されたりとするも右の取消の効力は将来に向つてのみ生じ、既往に遡及しないものと解するを相当と考える。

以上説明するところの如く、前記大津地方裁判所のなした仮処分決定は之が告知と同時にその効力を生じ、従つて申請人古林治一郞等が右決定に基いて招集した昭和二十六年二月十七日の臨時株主総会の決議には申請人等主張のような瑕疵はなくまたその後右仮処分決定が取消されても、これがため、既になされた前記株主総会の決議の効力に何等の影響を及ぼすものでもないから、右総会の決議が無資格者の招集に係る無効のものであるという申請人等の主張はすべてその理由なきものといわねばならない。

よつて本件仮処分申請はその理由なきものと認めてこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定する。(昭和二六年四月五日大津地方裁判所)

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