大津地方裁判所 平成10年(ヨ)116号 決定 2000年1月31日
債権者
古川輝秀
(ほか三八七名)
右債権者ら代理人弁護士
籠橋隆明
同
元永佐緒里
債務者
彦根・犬上広域廃棄物投棄場管理組合
右代表者管理者
中島一
右債務者代理人弁護士
藤本清
同
飯田和宏
同
長尾博史
同
中坊公平
同
東岡弘高
主文
一 本件申立てを却下する。
二 申立費用は債権者らの負担とする。
理由
第二 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実及び末尾括弧内記載の各疎明及び審尋の全趣旨によれば、以下の各事実を一応認めることができる。
1 本件処分場の遮水工について
(一) 廃棄物最終処分場の遮水材としては、昭和五三年に廃棄物処理施設構造指針が示されたことにより、遮水シートの使用が定着し、当初一般廃棄物最終処分場では主に合成ゴム(EPDM)シートが使用され、産業廃棄物最終処分場では主にポリ塩化ビニル(PVC)シートが使用されてきたが、その後、遮水シートの破損による地下水汚染が問題化したことなどから、熱融着接合ができる熱融着ゴム(TPE)シートが用いられるようになり、平成五年ころからは米国やドイツでの使用実績の多い高密度ポリエチレン(HDPE)シートが日本国内でも使用されるようになった(〔証拠略〕)。
(二) 本件処分場では、遮水材として、厚さ一・五ミリメートル、広幅一〇・五メートルのガンデル社製の高密度ポリエチレンシート(以下「本件遮水シート」という。)が用いられている(〔証拠略〕)。
(三) 本件処分場の底面部の構造は、基礎地盤の突起物が除去され、十分な締固めや不陸整正を行われた上で、平滑に仕上げられ、更に下地地盤の突起物や廃棄物の展圧や覆土時の重機による破損を防止するため、後記(二)のとおり、セメント系固化剤により改良された地盤の上に、厚さ一〇ミリメートル、目付量が一平方メートル当たり一二〇〇グラムの保護マット(不織布)が敷かれている。その上に本件遮水シートが一枚敷かれ、クッション材としてサンドマット(川砂)が三〇センチを入れられた上に(透水層)、その上に本件遮水シートがもう一枚敷かれている(二重シート)。更にその上には厚さ二〇ミリメートル、目付量が一平方メートル当たり二四〇〇グラムの保護マットが敷かれ、その上に七〇センチメートルの保護土(粒調砕石)が被せられている。
本件処分場の築堤法面部の構造は、勾配が一割五分で整形され、その上に保護マット(不織布)と遮水シートが二重に敷かれ、その上に更に厚さ二〇ミリメートル、目付量が一平方メートル当たり二四〇〇グラムの保護マット(不織布)、保護マットの滑りを防止するための厚さ五〇ミリメートルの畳がそれぞれ敷かれ、その上に一個二五キログラムの土のうが厚さ四五センチメートルになるまで谷積みにされている。
(以上、〔証拠略〕)
(四) 本件遮水シートは、自走式熱融着機で加熱融着し圧接して接合されており、接合部には高圧空気による注入試験を行われ、空気の漏れがないかを検査するため、高電圧の真鍮ブラシによるスパークテスト等が実施された上で設置された(〔証拠略〕)。
(五) 高密度ポリエチレンシートの破断強さ、引裂強さ、突き刺し強さ等の諸物性は、合成ゴムシートのそれに比して約三倍程度の高い値を示し、接合部の強さを判定するのに適当な剥離強度も合成ゴムシートなどの従来の遮水シートの比して非常に大きい(〔証拠略〕)。
(六) 一般に、ポリエチレンなど高分子化合物は長期間屋外に曝露すると、太陽光中の紫外線や熱によってその分子鎖が切断されて表面に小さな亀裂を生じ、ついで強伸度の低下が起こって、脆弱化、劣化し、その結果として遮水シートの亀裂や浸出水の漏水が起こるが、遮水シートの劣化の原因としては、通常熱よりも紫外線の方が大きい。
ガンデル社の研究所が公表した、一九六八年から一九八五年にかけて南アフリカの八ケ所の池や排水路でポンドライナーとして使用されていた高密度ポリエチレンシートの七ないし一七年間曝露された露出部、一〇年と一五年使用された埋没部の各引張伸強度、引裂強力、突刺強力の測定結果によって、厚さ〇・五ミリメートルの高密度ポリエチレンシートの強度の残存率を算定すると、強度が五〇%になるのは、露出部で二〇年、埋設部で四五年である(なお、本件処分場で使用されている遮水シートは同質で厚さが一・五ミリメートルのものであるから、その耐久性は厚さ〇・五ミリメートルのものの三倍以上と推定され、それによれば、一七年後においても引裂能力は七八ないし一〇〇パーセントを、突刺能力は一〇〇パーセントを保持するものと推察される。)。
また、本件遮水シートはガンデル社製の遮水シートのうち表面が白色のものであるが、同種のシートを用いて、米国アリゾナ州フェニックスの検査機関で一九九二年一月から一四ケ月間にわたって屋外曝露実験を行った結果、一年間の曝露では試料に劣化を示す兆候は認められなかった。フェニックスの日射量は、日本の千葉県銚子市の約一〇倍に相当するので、日本での屋外曝露では八・六年間は劣化がほとんどないと推定される。
さらに、自然環境に近似した降雨・加熱・光照射のリサイクルを設定して劣化を促進する促進曝露試験機ウエザオメーターによる一万時間の照射(一五年ないし三〇年間相当)によっても、高密度ポリエチレンシートの強度、伸度にほとんど変化が認められなかった。
( 以上、〔証拠略〕)
(七) 一般に、遮水シートは、夏季、直射日光によってシート表面の温度が摂氏六〇ないし七〇度に上昇するため、空気中の酸素によってシートの分子鎖が切断されて、強伸度の低下を起こす熱酸化劣化の恐れがあるが、地中に埋設され、太陽光線による温度上昇がない場合には、熱酸化劣化は非常に起こり難い(〔証拠略〕)。
(八) 高密度ポリエチレンシートの耐薬品性は、ポリ塩化ビニルシートや合成ゴムシートに比してバランスがとれており、ほとんどの薬品に強い(〔証拠略〕)。
(九) 実験の結果によれば、厚さ一・五ミリメートルの高密度ポリエチレンシートだけでは、四九・四キログラム重の突刺し強さしかないが、これに一〇ミリメートルの不織布を重ねると、突刺し強さは一三三・四キログラム重に増加した(〔証拠略〕)。
(一〇) 本件処分場の基礎地盤は、層厚が〇・二ないし一・八五メートルの粘性土層(Ac、軟質な礫混じり粘土を主体とし、含水が多い層相である。N値は二ないし五前後。)、層厚が一・七五ないし五・八五メートルの礫質土層(Ag、礫はチャート・粘板岩主体で、マトリックスが粘度混じりの砂である層相である。N値は一〇ないし四〇前後。)及び更に深い地層で粘板岩(Tsl、強風化岩及び破砕された形で分布が認められる層相である。N値は三〇以上。)で構成されているところ、このうち、粘性土層は基礎地盤として残すことは適当でないため全部掘削して除去され、礫質土層も上層部のN地の低い部分について掘削除去しているため、不同沈下の対象となりうる地質層は基礎地盤として残っていない(〔証拠略〕)。
(一一) 廃棄物処分場の底面部の基礎地盤は、地下水やゴミの重量に耐えられることが必要とされるところ、本件処分場において、掘削の際、砂礫土層のN値の低い部分が発見されたことから、これを取り除き、底面部の基礎地盤の安定性を確保し、本件遮水シートの破損を防ぐため、底面部の砂礫土層の最上部が深さ三〇センチメートルで、タフロックが一立法メートル当たり一〇〇キログラム使用されたセメント系固化剤により改良され、改良後にローラー転圧をして均一性、平坦性を保持し、法面部も同様に、タフロックが一立方メートル当たり六〇キログラム使用されたセメント系固化剤により改良されている(〔証拠略〕)。
(一二) 本件処分場内に雨水が流入しないよう、埋立地の最上流部に谷止工(土堰堤)が設けられ、本件処分場の外周部には、コンクリート水路を新設し、埋立地には雨水が一切入らないようにして、本件処分場の流末に設けられた容量五〇〇〇立方メートルの沈砂池に雨水を流入させた後、キトラ川に放流し、矢倉川で合流させる構造になっている。また、最上流の谷止工周辺の窪地に降った雨水は直径一二〇〇ミリメートルの排水管によって直接最下流の沈砂池に流れ込むようにされている。
この水路の断面の決定根拠は、滋賀県の過去百年間の降雨量データからキトラ川流域における一〇年間の確率最大降雨強度値である毎時一二八ミリメートルを採用し、また、鉄砲水とならないよう流速が秒速三メートル以下になるように水路勾配が定められたものである。
(以上、〔証拠略〕)
(一三) 本件処分場が建設された谷部で実施したボーリング調査時に測定された孔内水位はGLマイナス〇・五五メートルからマイナス二メートルと推測され、ごく地表近くに水位はあるものの湧水となるような現象は全く認められない(〔証拠略〕)。
(一四) 地下水位の上昇を防ぎ、シート下面の洗掘を防ぐために、本件処分場の底面部と法面部の交差位置に直径四〇〇ミリメートルの有孔ポリエチレン管が地下水集排水管として設置されており、底面には直径四〇〇ミリメートルの技管が梯子型に敷設されている。また、法面部にも山腹からの雨水や地下水などを流すため、直径一五〇ミリメートルの有孔ポリエチレン管が敷設されている。
(以上、〔証拠略〕)
(一六) 厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長は、平成七年一二月二二日付けで、廃棄物最終処分場の構造等に関する技術上の基準を強化し(衛環第二八四号)、遮水工について、新たに、<1>遮水シートを二重にし、その間に排水層を敷設した構造にすること、<2>十分な厚さの粘性土の上に遮水シートを敷設した構造にすること、<3>十分な下地処理工や保護土を施すとともに地下水排除施設を設けること、<4>埋立完了区域には表層に十分な覆土を施すことなどを指導した(〔証拠略〕)。
2 遮水シートの破損に対する検知方法と対策について
(一) 本件処分場には、万一下部の遮水シートが破損した場合に備えて、汚水の地下への流出を早く確認できるように、本件処分場内に二ケ所、本件処分場の直下流の矢倉川沿いに一ケ所の計三ケ所に設置した地下水観測井戸(モニタリング井戸)に検知監視設備として、電気伝導度を常時観測し、地下水に含まれない塩素系物質やナトリウム系物質等のイオンを瞬時に確認することができる導電率計(EC計)が設置されている。また、本件処分場内の地下水集排水管の出口や二重の遮水シートの間にある直径一〇〇ミリメートルの有孔管(モニタリング用パイプ)の末端でも採水し、水質検査をしている。河川水質、地下水位・水質については生活環境項目は月一回、環境項目又は水道水質項目は年二回定期的に測定を行ない、住民に結果を公表することになっている。
また、処分場最下流のモニタリング井戸には電気伝導度を二四時間連続測定できるセンサーが取り付けられており、処分場入り口に電光掲示板を設置し、その値を常時掲示している。
(以上、〔証拠略〕)
(二) そして、遮水シートが破損したことが検知された場合には、債務者は、彦根市や関係自治会等に対し、事故報告をした上、破損箇所の補修を行い、その間処分場での廃棄物受入れを停止する措置を行うことになっている(〔証拠略〕)。
3 本件処分場における浸出水の処理について
(一) 一般に、廃棄物処分場においてゴミの埋立部分から出る水は、浸出水と呼ばれ、これを処分場外に放流するには浄化する必要がある(審尋の全趣旨)。
(二) 本件遮水シートの上には、魚骨状に浸出水集排水管(本管の直径は六〇〇ミリメートル、枝管の直径は二〇〇ミリメートルである。)が敷設されており、浸出水は、右集排水管を通って速やかに浸出水処理施設に導かれる。同施設では、<1>降雨量による水量変動を吸収しながら原水を一時的に貯留し、後続の処理設備への送水を定量化するための流人調整設備、<2>原水中のカルシウムを炭酸ソーダにより凝集沈殿分離させるカルシウム除去設備、<3>微生物の働きによって原水に含まれる有機汚泥物質や窒素成分を取り除く生物処理設備、<4>凝集剤を添加することにより、浮遊物質と化学的酸素要求量(COD)成分を沈殿させ、嚥下第二鉄や硫酸による中和処理をする凝集沈殿設備、<5>微細な浮遊物質(SS)を砂とアンスラサイトの二重濾過により捕捉除去する砂濾過処埋設備、<6>農薬やダイオキシン類等の微量有害物質を紫外線とオゾン併用による光化学的分解方式で除去する微量有害物除去設備、<7>活性炭による吸着作用で溶解性のCOD成分や色度成分などの残留有機物を除去する活性炭吸着設備、<8>カドミウム、銅、鉛等の有害重金属をキレート樹脂(キレート結合により特定イオンを強く選択吸着する樹脂である。)によって除去する重金属除去設備、<9>放流水中の細菌を固形塩素剤を浸漬して殺菌する塩素滅菌設備の各設備(<1>ないし<9>の浸出水処理方法は接触ばっ気式と呼ばれている。)によりそれぞれ浸出水を処理した上で(なお、<2>や<4>の設備等から発生した汚泥は、汚泥処理設備で、濃縮後貯留され脱水機で処理され、脱水ケーキは埋立処分される。)公共用水域に放流することになっている。右浸出水処理施設による処理能力は一日当たり一二〇立方メートルである。
(以上、〔証拠略〕)
(三) 債権者らの一部もその構成員となっている鳥居本学区自治連合会は、平成八年一一月一八日彦根市および債務者との間で、公害防止および環境保全に関する協定を締結し、その中で本件処分場の放流水の計画処理水質値は、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊粒子状物質量(SS)、全窒素(T―N)については、水一リットル当たりそれぞれ五ミリグラム以下、全リン(T―P)については、水一リットル当たり〇・一ミリグラム以下とするなど、国(総理府・厚生省)や滋賀県の公共下水道等の放流基準よりもかなり厳しい基準が設けた(〔証拠略〕)。
(四) 本件処分場からの浸出水や放流水の水質測定に関しては生活環境項目については月一回、健康項目については年二回定期的に測定することになっているため、債務者は、本件処分場の浸出水処理の調査を株式会社西日本技術コンサルタントに依頼している。平成一〇年九月二五日及び同年一〇月一五日の調査結果によれば、鳥居本学区自治連合会との協定で定めた基準値をほとんど充たしているものの、放流槽の一〇月一五日の検査結果において放流水一リットル当たり五・一グラムの全窒素が検出され、前記協定の基準を〇・一グラム超えたため、直ちに生物処埋設備でその処理対策を講じたものの、放流水は、地下水や河川の水質と対比してみると概ね良質である。
(以上、〔証拠略〕)
(五) 本件処分場の浸出水処理施設の地下には容量二五〇〇立方メートル以上の浸出水調整槽が設けられており(前記<1>流入調整設備の一部に当たる。)、浸出水処理施設の処理能力を超える場合に浸出水を貯留できるようになっている。更に大雨が降って浸出水調整槽の容量を越える場合には緊急遮断弁が働き、調整槽に入らず、一時的に本件処分場の敷地内で雨水を貯めることができるようになっている。
(以上、〔証拠略〕)
4 本件処分場に搬入される廃棄物について
(一) 債務者は、彦根市を通じ、ゴミの分別収集を徹底する旨のパンフレットを配るなどして住民や回収業者を指導している(〔証拠略〕)。
(二) 本件処分場に搬入された廃棄物の種類、数量等については入り口に計量設備を設け、搬入された廃棄物の種類、数量等を把握し、記録することにし、あわせて目視で受入れの当否を確認し、投棄できない物が混入していることが発見されると持ち帰らせることになっている。そのために、ゴミの搬入量の多い水曜日には現在五名の、他の曜日には二名ないし三名の監視員が稼働している。
(以上、〔証拠略〕)
(三) 焼却灰のうち家庭用のものは、本件処分場で処理されているが、清掃センターで焼却した焼却灰については、大阪湾フェニックスに搬送し埋め立て処分されるため、本件処分場に投棄しないことになっている
(〔証拠略〕)。
(四) トラックによる廃棄物の搬入について、重量制限をし、埋立重機も処分場の構造に見合うブルドーザーで対応して集中加重を避けている(審尋の全趣旨)。
5 総理府と厚生省による「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令の一部を改正する命令」(以下「共同命令」という。)が平成一〇年六月一六日付けで公布され、翌一七日付けで施行された。同命令は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づく廃棄物最終処分場の構造・維持管理基準を強化・明確化するとともに同法改正により必要となった最終処分場の廃止の確認を行うための基準の設定を行うものである。既存の最終処分場に対する経過措置としては、原則として、改正後の新基準を適用することとするが、直ちに新基準に適合させることが困難な場合には一定期間適用を猶予するとともに、新基準を適合させることが実態上困難な場合には適用しないとしている。
共同命令の一般廃棄物最終処分場に関する構造基準及び維持管理の強化された内容の概要は以下のとおりである。
<1> 遮水工の要件の強化・明確化
(a) 遮水層の二重化(粘土等の層と遮水シートの組み合わせ、二重シート)
(b) 基礎地盤の整備(遮水層の損傷を防止できる強度を有し、平らであること)
(c) 遮光性のある不織布等による遮水層の保護
(d) 不透水層を用いる遮水工の要件の明確化(不透水地層の要件、鉛直遮水工)
<2> 遮水工の損傷を防止するため、砂等で覆うことにより遮水工を保護
<3> 地下水により遮水工が損傷するおそれがある場合の地下水集排水設備の設置
<4> 埋立地から保有水等の排水機能の強化(調整池の設置等)
<5> 放流水の水質検査について、検査項目、検査方法及び検査頻度の明確化
<6> 放流水に係る排水基準の強化
<7> 最終処分場周縁の地下水の水質検査について、検査項目、検査方法及び検査頻度を明確化。水質が悪化した場合には、その原因の調査その他生活環境保全上必要な措置を講ずることを義務付け
<8> 埋め立てられた廃棄物の種類、数量及び点検、検査その他の措置の記録を作成し廃止までの間保存
(以上、〔証拠略〕)
6 本件処分場に搬入される家庭用焼却灰は、ほとんど肥料袋に入れられていて、混じり気のものが多く、通常はそのままで飛散することがない上、晴天の日には、焼却灰等が飛散しないように、散水がなされ、その上に即日覆土がなされている(〔証拠略〕)。
二 以上を前提に、争点1ないし4について検討する。
1 水質汚濁、土壌汚染のおそれについて
前記各認定の事実によれば、債務者は、ゴミの分別収集を徹底するよう住民や回収業者に指導したり、監視員を置き本件処分場に搬入されるべきでない廃棄物等が搬入されないよう搬入時に監視するなどの措置を講じているものの、これにより本件処分場において扱われるべきでない物が搬入され、埋め立てられる可能性がないとまではいい難い。
しかしながら、前記認定の各事実によれば、<1>本件処分場においては、遮水材として高密度ポリエチレンシートがいわゆる二重シートという形で使用されているところ、その設置に当たっては基礎地盤をセメント系固化剤等により仕上げ、シート自体は自走式熱融着機で加熱融着し圧接するなどして接合し、スパークテスト等を実施して、接合の完全性を確認しており、その破損防止のため保護マットや保護土などの措置が講じられていること、軟質な地盤等を掘削除去した結果、本件処分場付近で不同沈下の対象となり得る地質層は基礎地盤として残っていないこと、ボーリング調査の結果では、本件処分揚が建設された谷部では湧水となるような現象は認められないこと、高密度ポリエチレンシートに関する検査結果は前記一1(六)のとおりであって、右検査結果に照らせば、本件遮水シートは長期間にわたってその強度や耐久性等を保持するものと推定されること、以上を考え合わせれば、本件処分場において本件遮水シートが破損する可能性は極めて少ないということができること、<2>仮に、遮水シートが破損した場合でも、それによる漏水を検知するため導電率計などが設置されており、債務者において、直ちに修繕等の適切な措置を講ずることができること、<3>浸出水についても、重金属除去設備、微量有害除去設備などにより、的確に浄化することが可能であること、<4>本件処分場における設備等は、厚生省の指導に基づく基準や共同命令の基準を明らかに充たしていることが認められ、これらの事実に照らすと、前記の事情(本件処分場に本来搬入されるべきでないものが搬入され、埋め立てられる可能性が否定できないこと)を考慮しても、本件処分場から有害物質が排出されることにより地下水や矢倉川水系の水及び土壌が汚染されるおそれがあるとの疎明があるということはできないというべきであり、他にこれを認めるに足りる疎明資料はない。
なお、債権者らは、水質汚濁のおそれなどを疎明するために、京都大学防災研究所の中川鮮の意見書(〔証拠略〕)を提出するが、右意見書は本件処分場による水質汚濁のおそれを抽象的に指摘するにとどまり、前記認定の各事実に照らすと、これを採用することはできないというべきである。
2 大気汚染について
前記のとおり、本件処分場では、家庭用焼却灰は、ほとんど肥料袋に入れられていて、混じり気のものが多く、通常はそのままで飛散することがない上、晴天の日には、焼却灰等が飛散しないように、散水がなされ、その上に即日覆土がなされていることに照らすと、本件処分場に持ち込まれた焼却灰により周辺の環境を破壊するおそれがあるとの疎明があるということはできない。
3 交通被害について
一件記録を検討しても、債権者らが主張するように埋立処分の差止めを認める根拠となり得る程の交通被害を一応認めるに足りる疎明資料はなく、また仮に、債権者が主張するような被害が生じるとしても、それは本件処分場における埋立処分とは直接因果関係がなく、当該道路の通行禁止を申し立てるのであれば格別、本件処分場の埋立処分の禁止を求めることは主張自体失当である。
三 よって、以上によれば、争点5について検討するまでもなく、債権者らの申立ては被保全権利についての疎明がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 神吉正則 裁判官 末永雅之 後藤真孝)