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大津地方裁判所 平成12年(ワ)184号 判決 2004年12月20日

平成12年(ワ)第184号 不当利得返還等請求本訴事件(甲事件本訴)

平成15年(ワ)第338号 立替金等請求反訴事件(甲事件第1反訴)

平成15年(ワ)第347号 立替金等請求反訴事件(甲事件第2反訴)

平成15年(ワ)第394号 立替金等請求反訴事件(甲事件第3反訴)

平成16年(ワ)第219号 立替金等請求本訴事件(乙事件本訴)

平成16年(ワ)第220号 立替金等請求本訴事件(丙事件本訴)

平成16年(ワ)第349号 不当利得返還請求反訴事件(乙事件,丙事件反訴)

平成16年(ワ)第517号 立替金等請求本訴事件(丁事件本訴)

平成16年(ワ)第557号 不当利得返還請求反訴事件(丁事件反訴)

甲事件本訴原告(甲事件第1反訴被告)

別紙当事者目録1のとおり

同(甲事件第2反訴被告)

別紙当事者目録2のとおり

同(甲事件第3反訴被告)

別紙当事者目録3のとおり

滋賀県<以下省略>

甲事件本訴原告

●●●

<住所略>

乙事件本訴被告(乙事件反訴原告)

●●●

<住所略>

丙事件本訴被告(丙事件反訴原告)

●●●

<住所略>

丁事件本訴被告(丁事件反訴原告)

●●●

(以上の当事者は,以下全員単に「原告」とも呼称する。)

上記原告ら訴訟代理人弁護士

田口勝之

訴訟復代理人弁護士

file_3.jpg井裕明

小川恭子

元永佐緒里

河村憲司

近藤公人

平井建志

甲津貴央

東京都新宿区<以下省略>

甲事件本訴被告(甲事件第1反訴原告)

・丁事件本訴原告(丁事件反訴被告)〔以下「被告」という。〕

ファインクレジット株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

大阪市西区<以下省略>

甲事件本訴被告(甲事件第2反訴原告)〔以下「被告」という。〕

株式会社クオーク

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

●●●

本訴訴訟復代理人・反訴訴訟代理人弁護士

●●●

東京都千代田区<以下省略>

甲事件本訴被告(甲事件第3反訴原告)

・乙事件本訴被告(乙事件反訴原告)

・丙事件本訴被告(丙事件反訴原告)〔以下「被告」という。〕

株式会社オリエントコーポレーション

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

同(乙・丙事件を除く。)

●●●

甲事件訴訟復代理人,乙・丙事件訴訟代理人弁護士

●●●

主文

Ⅰ  甲事件本訴について

1  原告らの甲事件本訴主位的請求をいずれも棄却する。

2  原告らの甲事件本訴予備的請求のうち,被告らに対し,別紙1ないし3の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務のないことの確認請求(第1次請求)に係る訴えをいずれも却下する。

3  原告らの甲事件本訴予備的請求のうち,別紙1ないし3の「未払代金」欄記載の立替金支払債務についての取立禁止請求(第2次請求)をいずれも棄却する。

4  原告らのその余の甲事件本訴予備的請求(第3,第4次請求)に係る訴えをいずれも却下する。

Ⅱ  甲事件反訴について

1  被告ファインクレジット株式会社及び同株式会社クオークの甲事件各反訴請求(甲事件第1反訴及び第2反訴)をいずれも棄却する。

2(1)  原告●●●は,被告株式会社オリエントコーポレーションに対し,32万4000円及び平成12年11月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  原告●●●は,被告株式会社オリエントコーポレーションに対し,25万3000円及び平成12年9月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告株式会社オリエントコーポレーションの甲事件第3反訴請求につき,その余の請求をいずれも棄却する。

Ⅲ  乙,丙,丁事件について

1  被告株式会社オリエントコーポレーションの乙事件及び丙事件の各本訴請求を,いずれも棄却する。

2  原告●●●の乙事件反訴請求を棄却する。

3  原告●●●の丙事件反訴請求を棄却する。

4  被告ファインクレジット株式会社の丁事件本訴請求を棄却する。

5  原告●●●の丁事件反訴請求を棄却する。

Ⅳ  訴訟費用は,すべての事件を通じてこれを100分し,その1を原告●●●子及び同●●●の負担とし,その11を被告株式会社クオークの負担とし,その24を被告ファインクレジット株式会社の負担とし,その26を原告●●●及び同●●●を除く原告らの負担とし,その余を被告株式会社オリエントコーポレーションの負担とする。

Ⅴ  この判決は,上記Ⅱ2(1)(2)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下,被告ファインクレジット株式会社は「被告ファイン」と,同株式会社クオークは「被告クオーク」と,同株式会社オリエントコーポレーションは「被告オリコ」という。)

第1請求

Ⅰ  甲事件本訴

1  主位的請求

(1) 被告ファインは,別紙当事者目録1記載の各原告に対し,別紙1「既払代金」欄記載の各金員及びこれらに対する平成12年6月16日(甲事件本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)ア 被告クオークは,別紙当事者目録2記載の各原告に対し,別紙2「既払代金」欄記載の各金員及びこれらに対する平成12年6月16日(甲事件本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 被告クオークは,原告●●●に対し,43万2432円及びこれに対する平成16年1月30日(請求の趣旨の変更の申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)ア 被告オリコは,別紙当事者目録3記載の各原告(だたし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)に対し,別紙3「既払代金」欄記載の各金員及びこれらに対する平成12年6月16日(甲事件本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 被告オリコは,原告●●●に対し,9万2276円及びこれに対する平成12年6月16日(甲事件本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告●●●及び同●●●に対し,それぞれ4万6138円及びこれに対する平成12年6月16日(甲事件本訴訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  予備的請求

(1) 第1次請求

ア 別紙当事者目録1記載の各原告と被告ファインとの間で,同原告らと株式会社ダンシング(以下「ダンシング」という。)との売買契約にかかる別紙1の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

イ 別紙当事者目録2記載の各原告と被告クオークとの間で,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙2の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

ウ(ア) 別紙当事者目録3記載の各原告(ただし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)と被告オリコとの間で,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙3の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(イ) 原告●●●,同●●●及び同●●●と被告オリコの間において,亡原告●●●とダンシングとの売買契約にかかる立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(2) 第2次請求

ア 被告ファインは,別紙当事者目録1記載の各原告に対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙1の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その取立てをしてはならない。

イ 被告クオークは,別紙当事者目録2記載の各原告に対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙2の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その取立てをしてはならない。

ウ(ア) 被告オリコは,別紙当事者目録3記載の各原告に対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙3(だたし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その取立てをしてはならない。

(イ) 被告オリコは,原告●●●,同●●●及び同●●●に対し,亡●●●とダンシングとの売買契約にかかる立替金債務につき,その取立てをしてはならない。

(3) 第3次請求

ア 別紙当事者目録1記載の原告らと被告ファインとの間において,同原告らが,被告ファインに対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙1の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その支払を拒絶することができることを確認する。

イ 別紙当事者目録2記載の原告らと被告クオークとの間において,同原告らが,被告クオークに対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙2の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その支払を拒絶することができることを確認する。

ウ(ア) 別紙当事者目録3記載の原告ら(だたし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)と被告オリコとの間において,同原告らが,被告オリコに対し,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙3の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その支払を拒絶することができることを確認する。

(イ) 原告●●●,同●●●及び同●●●と被告オリコとの間において,同原告らが被告オリコに対し,亡原告●●●とダンシングとの売買契約にかかる別紙3の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務につき,その支払を拒絶することができることを確認する。

(4) 第4次請求

ア 別紙当事者目録1記載の原告らと被告ファインとの間において,同原告らが,被告ファインから,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙1の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務の支払を請求されたときは,これを拒絶することができることを確認する。

イ 別紙当事者目録2記載の原告らと被告クオークとの間において,同原告らが,被告クオークから,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙2の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務の支払を請求されたときは,これを拒絶することができることを確認する。

ウ(ア) 別紙当事者目録3記載の原告ら(だたし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)と被告オリコとの間において,同原告らが,被告オリコから,同原告らとダンシングとの売買契約にかかる別紙3の「未払代金」欄記載の金額の立替金支払債務の支払を請求されたときは,これを拒絶することができることを確認する。

(イ) 原告●●●,同●●●及び同●●●と被告オリコの間において,同原告らが,被告オリコに対し,被告オリコから,亡原告●●●とダンシングとの売買契約にかかる別紙3の「未払代金」欄の金額の立替金支払債務の支払を請求されたときは,これを拒絶することができることを確認する。

Ⅱ  甲事件第1反訴

別紙当事者目録1記載の原告らは,被告ファインに対し,別紙1「氏名」欄記載の各原告に対応する「未払代金」欄記載の各金員及び同各「最終約定支払期日」欄記載月6日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。

Ⅲ  甲事件第2反訴

別紙当事者目録2記載の原告らは,被告クオークに対し,別紙2「氏名」欄記載の各原告に対応する「未払代金」欄記載の各金員及び同各「最終約定支払期日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合(年365日の日割計算)による金員をそれぞれ支払え。

Ⅳ  甲事件第3反訴

1  別紙当事者目録3記載の原告ら(だたし,原告●●●,同●●●及び同●●●を除く。)は,被告オリコに対し,同欄記載の各原告に対応する「請求金額」欄記載の各金員及び同各「最終約定支払期日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  原告●●●は,被告オリコに対し,18万4000円及びこれに対する平成12年10月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告●●●は,被告オリコに対し,9万2000円及びこれに対する平成12年10月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  原告●●●は,被告オリコに対し,9万2000円及びこれに対する平成12年10月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

Ⅴ  乙事件本訴

原告●●●は,被告オリコに対し,30万6000円及びこれに対する平成12年9月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

Ⅵ  丙事件本訴

原告●●●は,被告オリコに対し,32万4000円及びこれに対する平成12年10月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

Ⅶ  乙,丙事件反訴

1  被告オリコは,原告●●●に対し,12万6432円及びこれに対する平成16年7月4日(乙事件反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告オリコは,原告●●●に対し,10万8432円及びこれに対する平成16年7月4日(丙事件反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

Ⅷ  丁事件本訴

原告●●●は,被告ファインに対し,37万8000円及びこれに対する平成13年2月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

Ⅸ  丁事件反訴

被告ファインは,原告●●●に対し,5万4432円及びこれに対する平成16年10月26日(丁事件反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

Ⅰ1  甲事件

甲事件の原告ら(なお,以下で契約の当事者として甲事件原告らと総称する場合は,原告●●●,同●●●及び同●●●を含まず,亡●●●を含む者として総称する。)がダンシングとの間で布団の購入契約を締結し,その代金について信販会社である被告らとの間で立替払契約を締結したところ,ダンシングの布団販売方法は公序良俗に反する無効なものであり,また,布団購入契約は錯誤に基づき取り消されたものであることなどから,被告らとの立替払契約も無効又は取り消されたものである等と主張し,主位的に不当利得返還請求として既払立替金の返還を請求し,予備的に布団購入契約の無効等を被告らに対抗できるとして,立替金債務の不存在確認や債務の支払を拒めることの確認等を求めた(甲事件本訴)。各被告が,各原告(但し,原告●●●を除く。)に対し本件各立替払契約に基づき未払立替金の支払を請求した(甲事件各反訴)。

2  乙,丙,丁事件

被告オリコが,原告●●●及び同●●●に対し,被告ファインが,原告●●●に対し,それぞれ,原告●●●,同●●●及び同●●●がダンシングから布団を購入し,その代金につき被告オリコ又は同ファインとの間でそれぞれ立替払契約を締結したことから,同契約に基づき未払立替金の支払を請求した(乙,丙,丁各本訴事件)。同原告らが,各立替払契約は無効又は取り消されたものであるとして既払立替金の返還を請求した(乙,丙,丁各反訴事件)。

Ⅱ  前提となる事実(末尾に証拠〔特にことわらない限り枝番号を含む。〕の摘示のない限り当事者間に争いがない事実)

1  ダンシング

(1) ダンシングは,本店を兵庫県姫路市に置き,寝具の販売を業とする会社であったところ,甲,乙,丙,丁各事件各原告(以下では,これらの原告を「原告ら」と総称する。)らを含む多数の者に,商品名を「テルマール」と称する寝具(以下「本件布団」ともいう。)を,1セットあたりシングル36万円,ダブル46万円(いずれも消費税別)で販売するとともに,その購入者である原告らを会員として登録していた。

ダンシングの会員には,モニター会員とビジネス会員等の種別があり,前者は,メンバーまたは愛用者の拡張のためと称してレポートの提出等が義務付けられるとともに,毎月3万5000円を上限とする報酬を得ることができる会員である。後者は,新たな購入者1名をダンシングに紹介するごとに売買代金の8パーセントの手数料を受け取ることができ,新規購入者を3名紹介すれば,ボーナスとして売買代金の50パーセントが加算され,さらに紹介者数ごとにグループが形成され,グループ1つあたりの売上の3パーセントをコミッションとして受領できるとされる会員である。寝具を購入すること及びモニター会員等になることを希望する者は,ダンシングに対し,「登録申請書(兼商品購入申請書)」と題する書面を差し入れ,寝具の購入を申し込むとともに,会員としての登録を申し込むことになっていた(以下,この契約関係全体を「ダンシング商法」という。)。(以上,甲14,20,21の1)

(2) ダンシングは,平成11年6月30日,神戸地方裁判所姫路支部において破産宣告を受けた。

2  ダンシングと被告らとの加盟店契約

ダンシングは,本件布団の販売に関し,その代金支払方法として,「信販利用」,「カード利用」,「現金利用」の三種を設け,そのうちの「信販利用」を選択する購入者のために,被告らと以下の時期に加盟店契約を締結した。

(1) 東京総合信用株式会社:平成9年3月28日(丁1)

なお,同社は,平成11年10月1日,日本総合信用株式会社と合併し,「株式会社クオーク」と商号変更した(以下では,合併及び商号変更の前後を問わず「被告クオーク」という。)。

(2) 被告オリコ:平成10年4月3日(甲32)

ただし,この契約は,サンエス工業株式会社(以下「サンエス工業」という。)と被告オリコとの加盟店契約に付帯して,サンエス工業の代理店であるダンシングの販売について被告オリコが立替払をする契約である。

(3) 被告ファイン:平成10年10月10日(甲33)

3  原告らとダンシングとの契約

原告らは,別紙1ないし3の「契約年月日」欄記載の日ころ,ダンシングとの間で本件布団の購入契約(以下「本件各売買契約」という。)をそれぞれ締結した。また,上記契約と同時に,原告らとダンシングは,モニター会員となる契約をそれぞれ締結した。その後,原告●●●及び同●●●は,モニター会員からビジネス会員へと契約内容を変更した(以下,モニター会員となる契約を「モニター会員契約」,ビジネス会員となる契約を「ビジネス会員契約」といい,両者をまとめて「モニター会員契約等」という。)。

4  原告らと被告らとの立替払契約

原告らは,上記3の布団購入契約に基づくダンシングに対する代金支払のため,別紙1記載の原告らは同別紙の「契約年月日」欄記載の日に被告ファインと,別紙2記載の原告らは同別紙の「契約年月日」欄記載の日に被告クオークと,別紙3記載の原告らは同別紙「契約年月日」欄の日に被告オリコと,それぞれ立替払契約を締結した(以下「本件各立替払契約」という。)。

5  原告らの既払金

原告らは,上記4の本件各立替払契約に基づき,別紙1記載の原告らは同別紙の「既払代金」欄記載の金額を被告ファインへ,別紙2記載の原告らは同別紙の「既払代金」欄記載の金額を被告クオークへ,別紙3記載の原告らは同別紙「既払金額」欄の金額を被告オリコへ,それぞれ支払った。

6  立替払契約の解除の意思表示及び割賦販売法30条の4による支払拒絶

甲事件原告らは,被告らに対し,平成12年6月15日送達の甲事件本訴訴状によって,原告●●●及び同●●●は,被告オリコに対し,平成16年7月3日送達の乙,丙事件反訴状によって,原告●●●は,被告ファインに対し,平成16年10月25日送達の丁事件反訴状によって,それぞれ本件各立替払契約を解除するとの意思表示及び割賦販売法30条の4に基づく支払拒絶をする旨の通知をした。

第3当事者の主張

Ⅰ  原告らの主張

A  本件各売買契約の無効等による本件各立替払契約の無効等

1 モニター会員契約等の無効等

(1) 公序良俗違反による無効

ア 破綻必至性

ダンシング商法のうち,本件布団の購入者がモニター会員となるモニター会員制度では,その販売代金はシングルで36万円であるのに,ダンシングがモニター会員に支払うモニター料は,合計84万円(毎月3万5000円の24回払い)である。モニター会員がダンシングに対して行うアンケートの回答は何ら経済的価値はないし,ごく稀に指示されるチラシのポスティング作業も宣伝広告費をいくらか軽減する程度のことでモニター料に見合う効果はない。したがって,モニター会員制度は破綻必至のものであった。モニター会員にモニター料を支払続ける方法としては,会員を幾何級数的に増加させ続けることや,モニター会員の購入者に占める割合を一定限度に限定することしかあり得ず,これらを実現することは実際には不可能である。

購入者がビジネス会員となるビジネス会員制度では,会員は,毎月一定額のモニター料を受け取ることはできないが,新規購入者を1名紹介する度に手数料の支払を,紹介した新規紹介者が3名になるとボーナス及びコミッションの支払をそれぞれ受けられる。当面,毎月のモニター料の支払がなされないので,この制度の導入によってモニター会員制度はわずかの期間破綻が先送りになったが,これは,モニター会員制度の延命のために組み込まれた全体としてひとつのシステムにすぎず,これも破綻することが必至のものであった。

イ 独占禁止法違反性

ダンシングによるモニター会員及びビジネス会員の募集方法は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条に基づく公正取引委員会による不公正な取引方法の一般指定8項(ぎまん的顧客誘引)及び9項(不当な利益による顧客誘引)に該当するものである。すなわち,モニター料や紹介手数料の支払という取引条件を提示し,これによって他の競争者より著しく有利であると誤認させたものである(8項)し,また,寝具の購入代金の約2倍のモニター料の支払は,正常な商慣習に照らして不当な利益に他ならない(9項)。

このような違法性の高い取引は,公正取引委員会の介入を待つまでもなく,その効力を有しないものである。

(2) 錯誤による無効

モニター会員契約は,客観的に破綻必至のものであったところ,原告らは,最後までモニター料の支払を受け続けられるものと誤信してモニター会員契約を締結したのであり,モニター料の支払が経済的論理的に成立しうるか否かはまさに契約の要素であった。このことは,ビジネス会員契約における手数料等についても同様である。

したがって,原告らとダンシングとの間のモニター会員契約等は錯誤により無効である。

(3) 詐欺による取消し

前記のとおり,ダンシングのモニター料,手数料等の支払は,破綻必至のもので,このことは平成9年8月のモニター会員,ビジネス会員制度導入当初からその制度自体に内在するものであった。ダンシングは,モニター会員制度等の導入当初からモニター料等を最後まで支払う意思も能力もないのに,漫然とモニター会員契約等を締結し続けた。

そして,ダンシングは,原告らに対し,モニター料や紹介料等が稼げると説明するとともに,破綻することはない旨の説明をし,その旨誤信させたのである。

ダンシングの破産管財人に対し,甲事件原告らは,平成12年3月23日到達,原告●●●,同●●●は,平成16年6月19日到達,原告●●●は平成16年10月12日到達の各内容証明郵便によってモニター会員契約等を詐欺による契約であるとして取り消す旨の意思表示をした。

(4) 履行不能による解除

ダンシングは,平成11年6月30日に破産宣告を受け,同年9月22日の第1回債権者集会において,営業廃止の決議がされた。これにより,ダンシングのモニター料支払債務及び手数料等支払債務は,ダンシングの責めに帰すべき事由によって確定的に履行不能となった。

そして,原告らは,上記の内容証明郵便により,モニター会員契約等を履行不能により解除するとの意思表示をした。

2 モニター会員契約等の無効等による本件各売買契約の無効等

ダンシングと原告らの契約は,モニター会員となってアンケートを提出したりチラシを配布したりすればモニター料を支払うとするモニター会員契約部分と本件布団の販売契約部分とで構成されるが,ダンシングによる勧誘の実態は,モニター料が得られることを強調して,モニター会員になるために必要であるとして布団を購入させる取引であることから,契約としては1個である。ビジネス会員についての手数料等の支払にかかるビジネス会員契約部分と本件布団の販売契約部分との関係も同様である。仮にモニター会員契約等と本件布団の販売契約として別の契約であるとしても,法律効果において連動するものと解すべきである。したがって,モニター会員契約等の部分が無効であることにより,本件布団の販売契約を含む契約全体が当然に無効となる。

3 本件各売買契約の詐欺による取消し,解除

上記のとおり,ダンシング商法は,モニター会員契約等部分と本件布団の販売契約部分とで構成される1個の契約であるから,モニター会員契約等部分を取り消し,又は解除すれば,寝具販売契約部分も取り消し,又は解除されることになる。また,仮に,モニター会員契約等と寝具販売契約として別の契約であるとしても,上記の密接な関係からすると,モニター会員契約におけるダンシングの詐欺,モニター会員契約に基づくダンシングの債務の履行不能により,原告らは寝具販売契約についても,取消又は解除ができると解すべきである。原告らは,これを理由として,前記1(3)のとおり内容証明郵便により,ダンシングとの間の寝具販売契約を取り消し,又は解除する旨の意思表示をした。

4 本件各売買契約のクーリングオフによる解除

原告らは,平成12年法律第120号による題名変更前の訪問販売等に関する法律(以下「訪問販売法」という。)上のクーリングオフによる解除権を行使できる。ところで,ダンシングが原告らに交付した「登録申請書(兼商品購入申請書)」には,「商品を使用しまたは消費した場合には,クーリングオフ対象外となることがありますので,ご注意下さい」との文言があるところ,ダンシングが売却した商品は寝具であり,訪問販売法6条1項2号にいう「消耗品」ではないから,上記記載は,クーリングオフに関する不実の告知にあたり,結局,ダンシングは,訪問販売法上の5条所定の書面につき,法定の要件を備えていない書面の交付を行ったことになる。

したがって,クーリングオフの期間は進行していないところ,原告らは,ダンシング破産管財人に対し,上記1(3)のとおり内容証明郵便により,寝具販売契約を解除するとの意思表示をした。

5 本件各売買契約の無効等による本件各立替払契約の無効等

(1) 原告ら,ダンシング及び被告らは,割賦購入あっせん契約関係にあり,三者の法律関係は,原告らとダンシングとの売買契約,ダンシングと被告らとの加盟店契約及び原告らと被告らとの立替払契約という三面契約である。詐欺的な集金システムであるダンシング商法は,上記立替払契約と結びつくことで初めて可能になるものであって,被告らはダンシング商法を資金面から支えたのであり,上記売買契約と立替払契約とは,経済的には実質上一体の結合関係にある。

(2) 被告らは,加盟店契約において必要とされる加盟店に対する調査・管理義務を尽くしていれば,ダンシング商法が展開されていることを認識し得たはずであるし,少なくとも平成10年9月ころまでにはダンシング商法の展開を知っていたのであって,被告らはダンシング商法の問題性を容易に発見できたにもかかわらず,ダンシングとの加盟店契約を締結し,又はその契約関係を維持して,立替金をダンシングに確実かつ早期に供給することにより,被害の拡大の原因となったものである。

(3) したがって,寝具販売契約が無効(取消し,解除による無効を含む。)であることにより,本件各立替払契約も当然に無効となる。

6 提携事業者間の共同責任

(1) 原告ら,ダンシング及び被告らは,割賦購入あっせん契約関係にあるところ,購入あっせんの目的は,与信契約の締結であり,その与信は消費者が取得する商品の対価を対象としている。売主の販売促進によって与信業務の育成・発展が図られるのであり,売主の販売行為は与信業務にとっての手段であり,売主は与信業務の補助者としての地位にある。そして,他人を補助者として利用し自己の契約事業の拡大を図る者は,利用した補助者が相手方に対して負う契約上の義務を負担し,あるいはそれに準ずる義務を負うように扱うことが公平の原則に合致する。

(2) 供給業者と与信業者とはそれぞれ独立の業者であるが,機能を分担して共同事業を営んでおり,双方の契約は不即不離である。

(3) 以上のような割賦購入斡旋の実態に照らせば,与信業者にも以下の要件の下で供給契約における双務契約の拘束が及ぶと解すべきである。

ア 与信が供給契約の対価についてのもので,融資金の使途が限定されていること。

イ 与信形態があっせんであり,供給契約を成立させることに貢献していること。

ウ 供給契約を成立させることにより,消費者が与信業者と与信契約を締結し,これにより与信業者が利益を得る関係にあること。

(4) 上記のように与信業者が共同責任を負う結果,消費者は,供給業者との契約の無効・取消し・解除等を理由に,与信業者に対する既払金の返還を請求することができる。そして,本件においては,上記(3)アないしウの要件を満たし,前記のとおり,原告らとダンシングとの寝具販売契約は当初から無効であり,又は取消し,解除により遡及的に無効となっている。

B  立替払契約自体の無効等

1 本件各立替払契約の錯誤による無効

原告らは,モニター料や手数料の受取りがあることを大前提として被告らとの本件各立替払契約を締結した。ところが,前記1(1)アのとおり,モニター会員契約等は破綻必至のもので,モニター料や手数料の支払を継続できないものであったのだから,原告らには要素の錯誤があり,本件各立替払契約は無効である。

また,モニター料等の受取りと本件各立替払契約との不可分一体性や,モニター料等の受取りはダンシング商法のシステムの重要部分に該当することからすると,モニター料等の受取りは本件各立替払契約締結上における単なる動機に止まらず,その意思表示の内容にあたるから,これを表示する必要はない。

なお,仮にモニター料等の受取りが動機に該当するとしても,割賦購入あっせんにおいては,加盟店は,本件各立替払契約締結時における信販会社の与信業務の補助者たる立場にあるから,原告らが与信業務の補助者たるダンシングとの間でモニター料や手数料の受取りを約している以上,モニター料等の受取りという動機は,被告らに対しても表示されている。

2 立替払契約の債務不履行による解除

割賦購入あっせん契約における立替払契約の法的性質は準委任契約であるから,受任者たる信販会社は委任者たる消費者に対して善管注意義務を負うところ,信販会社と加盟店とが互いに経済的に依存する関係にあり,特に,信販会社は加盟店の活動によって利益を得る立場にあること,信販会社は立替払契約の締結に当たり,書類の作成や説明を加盟店に代行させて,加盟店を補助者として利用していることに鑑みれば,信販会社は,消費者に対し,消費者が損害を被ることがないよう,加盟店の信用や商品販売契約の不当性の有無を調査する信義則上の加盟店管理義務を負っているというべきである。

ところが,被告らは,上記義務を怠り,ダンシング商法についての必要な調査をしないまま,原告らと本件各立替払契約を締結したものである。そこで,被告らの上記債務不履行に基づき,第2Ⅱ6のとおり,それぞれ本件各立替払契約を解除するとの意思表示をした。

C  割賦販売法30条の4による抗弁の接続

1 原告らと被告らとの本件各立替払契約は,割賦販売法2条3項2号の「割賦購入あっせん」に該当し,本件布団は,同法2条4項の「指定商品」にあたるから,原告らは,ダンシングに対する後記3の各抗弁を,同法30条の4第1項により,被告らに対抗できる。

2 なお,ダンシングと原告らとの契約は,前記のとおり,本件布団の販売契約とモニター会員契約等とが一体となった1個の契約で平成12年11月17日公布,平成13年6月1日施行にかかる特定商取引に関する法律にいう「業務委託誘引販売取引」に該当するものである(仮に2個としても不可分一体のものである。)から,同条項が適用される。また,同条項の立法趣旨に照らせば,その適用範囲は広く解するべきであるから,原則としてダンシングに対して主張し得る事由はすべて抗弁事由となるし,それに対する信販会社の認識や認識可能性は不要である。

3 原告らとダンシングとの間の寝具販売契約は,前記のとおり,当初から無効であり,又は取消し,解除により遡及的に無効となっている。

4 原告らの上記3の抗弁事由は,将来的に解消することのない性格のものであるから,原告らは,被告らに対し,何らの債務も負っていないことになる。仮に債務不存在を帰結しえないとしても,抗弁は永久に存在し続けるのであり,その間,被告らは原告らに対し立替金の取立てをすることができないはずである。なお,原告らは,支払を拒絶できる法的地位にあるにもかかわらず,被告らはこれを争って請求行為を継続する意思を明らかにしているのであるから,原告らには,債務不存在確認及び取立禁止を求める利益がある。仮に以上が認められないとしても,抗弁対抗の効果として,原告らは,被告らからの請求に対して,支払を拒絶できる法的地位にある。

Ⅱ  原告●●●の主張(被告クオーク関係)

原告●●●は,本件紛争の解決について原告ら訴訟代理人を構成員とするダンシング被害滋賀弁護団に委任し,同弁護団は,平成11年7月22日付け内容証明郵便により,被告クオークに対し,割賦販売法30条の4に基づき支払を拒絶する旨の通知を行い,同通知は,同月23日に被告クオークに送達された。

原告●●●は,被告クオークに対するクレジット代金を銀行口座からの引き落としにより支払っていたところ,被告クオークは,上記支払拒絶の通知を受領したにもかかわらず,銀行に対する引き落としを停止しなかったため,クレジット代金の引き落としはその後も継続し,残代金である10万8000円が少なくとも引き落とされた。

被告クオークは,上記支払拒絶の通知を受けた時点で,本件紛争に関する結論が出るまで,銀行に対する引き落とし停止依頼をするべきであったにもかかわらず,被告クオークがこれを行わなかったために,原告●●●の銀行口座から10万8000円が引き落とされ,これを被告クオークが受領してしまった。仮に,原告らの請求のうち,不当利得返還請求権が認められず,単に支払を拒絶できるに過ぎないとの結論となった場合,原告●●●は,上記通知到達後に被告クオークにより引き落とされた金額について,当該額の損害を受けたと評価し得るから,被告クオークに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

Ⅲ  被告らの認否・反論

(被告ファイン)

1 モニター会員契約等の無効について

(1)は争う。ダンシング商法は,必ずしも全顧客についてモニター会員契約をするものではないし,モニター制度の具体的運用によっては破綻必至であったとはいえない。したがって,原告らとダンシングとの間でモニター会員契約等を締結した時点で具体的にダンシング商法が破綻必至であったとはいえない。また,ダンシングの本件布団の販売方法は,独占禁止法に違反するものではない。

(2)は争う。あくまで売買契約とモニター会員契約とは別個独立の契約であり,モニター料を最後まで受け取ることができることは,売買契約の要素ではない。販売促進のためにモニターを募ること自体は,世上しばしば行われていることでもあり,ダンシング商法にあっても,口コミによる宣伝効果で商品が売れるようになれば,既存加入者以外の者をモニター会員に引き込まなくとも利益配当を確保することが可能であったのであり,原告らに錯誤はない。

(3)は争う。ダンシング商法は,破綻必至のものではなく,企業の資金繰り,販売実績といった流動的な経営状況の中で経営選択されるべきものであるから,原告らがモニター会員契約等を締結した当時,ダンシング経営者に詐欺の故意があったとはいえない。

(4)は争う。モニター料等の支払債務は売買契約とは別個のモニター会員契約等に基づき発生するものであるから,その不履行により売買契約が不履行になることはない。また,金銭債権については履行不能はないし,モニター会員はダンシングが支払債務を負うモニター料等についてはダンシングの破産手続において配当を受けることができる。

2 モニター会員契約等の無効による本件各売買契約の無効について

争う。ダンシングから本件布団を購入した者全員がモニター会員になるわけではないから,本件布団の販売契約とモニター会員契約とを1個の契約と把握することはできない。モニター会員全員にモニター期間の24か月間のモニター料の支払が無条件で保証されているわけではないし,ビジネス会員への変更制度もあるが,これらの場合にも本件布団の売買契約には影響しない。したがって,当事者間の意思としても本件布団の売買契約とモニター会員契約とは別個の契約であると認識されている。

3 本件各売買契約の取消し,解除について

争う。モニター会員契約等の締結にあたっての詐欺,モニター会員契約等上の債務の履行不能を理由として,原告らが寝具販売契約を取消し,解除することはできない。

4 本件各売買契約のクーリングオフによる解除について

争う。ダンシングの交付した書面が直ちに虚偽書面とはいえない。原告らのこの点についての主張はダンシング倒産後にされるに至ったもので,著しく信義に反する。

5 本件各売買契約の無効等による本件各立替払契約の無効について

(1)は争う。原告らの主張は,両契約は,契約の当事者を異にする別契約であること等からしても,それ自体失当であるし,クレジット制度の有用性をことさら無視した暴論である。

(2)は否認する。被告ファインは,ダンシングからの説明や興信所を利用した調査等によって,モニター会員がクレジットを利用するとは考えてもいなかったし,説明も受けていなかった。

(3)は争う。

6 提携事業者間の共同責任について

争う。被告ファインは,信販会社として原告らから立替払の申込みに対し所定の調査(電話による契約意思の確認等)をしている。原告らは,ダンシングを介して購入代金の分割払いの利益を求めて与信を依頼しているに過ぎず,本件各立替払契約は原告らと被告ファインの二当事者間で成立している。したがって,提携事業者間の共同責任の議論は失当である。被告ファインは割賦手数料,ダンシングは売買代金の確保,原告らは割賦の利益を目的として,本件各売買契約,本件各立替払契約に当事者として関与しているのであり,他の当事者が契約に関与する関係にはないのである。

7 立替払契約の錯誤による無効について

争う。モニター料や手数料の支払は本件各立替払契約の要素ではない。仮に本件各立替払契約締結の動機がモニター料等の受取りにあったとしても,動機の表示はない(ダンシングには被告らの代理権や意思表示の受領権限はない。)し,そもそもダンシング商法は契約締結時において破綻必至であったわけではないから,原告らの動機に錯誤はない。

8 立替払契約の債務不履行による解除について

争う。本件各立替払契約上の被告ファインの善管注意義務の内容は,顧客の指示通りに確実かつ速やかに販売業者に立替払することで,それ以上の調査義務等はない。なお,それでも,被告ファインは,加盟店契約の締結に際して信用調査を行っており,ダンシングとの加盟店契約締結当時には何の問題点も明らかでなかった。被告ファインが,本件各立替払契約申込者の中にモニター会員が含まれていたことを知ったのは平成11年2月のことである。むしろ,原告らがモニター会員であることを被告ファインには秘匿して,単純な寝具の売買であるとして立替払を申し込んだのである。

9 抗弁の接続について

争う。割賦販売法30条の4は,取引の健全な発達の理念を基準として購入者と割賦販売斡旋業者との間の利害を調整したものであるから,同条の抗弁事由は,無制限ではない。

ダンシングと原告らは,モニター会員契約等と本件布団の売買契約の2個の契約をしており,原告らは被告らに対し,前者に基づく売買代金について立替払を委託したものであるから,後者に関する事由は,当然には被告らに対する抗弁事由となるわけではない。

かかる場合,本来的な購入目的を達成するために,売買契約上生じている事由,または,契約上生じていてその達成が不可能であることを割賦購入あっせん業者が知っていた場合にのみ割賦販売法30条の4を適用ないし類推適用できると解すべきである。被告ファインが知らなかったことは前記のとおりである。

また,割賦販売法30条の4は創設的規定であり,政策的に消費者に支払停止の抗弁権を認めたものにすぎないから,債務不存在効等の法的効果は発生しない。

(被告クオーク)

1 モニター会員契約等の無効について

(1)は争う。ダンシング商法が破綻必至であったとしても,公序良俗違反の取引とはいえない。本件においては,商品の販売が末端購入者から利益を吸い上げる道具とされたものではなく,無限連鎖講等といえるような部分はダンシング商法の中核部分ではないから,公序良俗違反とはいえない。ダンシングが販売していた寝具の価格は特段高額なものではない。さらに,独占禁止法19条の一般指定は,競争者を保護するための規定であり,競争者の顧客を勧誘することを要件としているところ,原告らはそもそも競争者の顧客でないから,同条の定義に該当しない。仮に該当するとしても,その違反により私法上の効力が直ちに無効になるものではない。

(2)は争う。あくまで本件各売買契約とモニター会員契約とは別個独立の契約であり,モニター料を最後まで受け取ることができることについては,本件各売買契約の要素ではない。販売促進のためにモニターを募ること自体は,世上しばしば行われていることでもあり,ダンシング商法にあっても,口コミによる宣伝効果で商品が売れるようになれば,既存加入者以外の者をモニター会員として引き込まなくとも利益配当を確保することが可能であったのであり,原告らに錯誤はない。

(3)は争う。上記のとおり,モニター料を最後まで受け取ることができることは売買契約の要素ではないから,その点で原告らが錯誤に陥ったとしても,それと売買契約締結とは関係がない。また,上記のとおりダンシング商法は破綻必至の商法とはいえないのであるから,そもそも原告らに対し欺罔行為があったとはいえず,したがって,原告らが錯誤に陥った事実もない。

(4)は争う。金銭債権の性質上履行不能はあり得ず,ダンシングの破産手続において配当を受けることができる。また,ダンシングは破産宣告を受けたことにより債務の履行を禁じられているのであり,履行しないことは違法でない。

2 モニター会員契約等の無効による本件各売買契約の無効について

争う。

3 本件各売買契約の取消し,解除について

争う。

4 本件各売買契約のクーリングオフによる解除について

争う。

5 本件各売買契約の無効による立替払契約の無効について

(1)は争う。

(2)は否認する。被告クオークは,加盟店契約締結当時は,ダンシングの業務形態は寝具の訪問販売であると認識していたし,その後のダンシングの説明でもモニター料の支払は否定されていた。したがって,ダンシングの販売方法についての認識はなかった。ダンシングがモニター商法を行っていることを被告クオークが知ったのは,平成11年5月20日に顧客から支払停止の抗弁を受けてからのことである。

(3)は争う。

6 提携事業者間の共同責任について

争う。原告らが主張する信販会社の共同責任は,立法を待って初めて実現できるものであって,そのような法律上の根拠がない以上成立する余地はない。また,割賦購入あっせんの現実の取引形態は,購入者が商品を購入する際に,あっせん業者が購入者と販売店との契約に従い,販売店に対し購入代金相当額を交付し,その後購入者があっせん業者に対し,当該金額を一定の方法により支払っていくものであって,そこには原告らが主張する共同責任が成立する余地は全くない。

7 立替払契約の錯誤による無効について

争う。本件各立替払契約の申込みはあくまで書面による意思表示であって,販売店に意思表示を受領する代理権が与えられているわけではない。そして,申込書上に動機が表示されていない以上,仮に原告らに錯誤があっても,本件各立替払契約の無効を被告クオークに主張することはできない。

8 立替払契約の債務不履行による解除について

争う。そもそも割賦購入あっせん業者が購入者に対して負う立替払契約の本旨たる義務は立替払という給付義務を履行することに尽きるのであって,それ以外に原告ら主張のような信義則上の義務を負うことはない。また,仮に加盟店調査義務があったとしても,それは給付義務に伴う付随義務であるところ,付随義務の違反は解除権の根拠にはならないから,加盟店管理義務違反は解除権の根拠とはならない。

9 抗弁の接続について

(1) 割賦販売法30条の4は,販売業者と購入者との間に売買契約があり,これに関連して対抗しうる事由が存在することを前提としているところ,原告らとダンシングとの契約が本件布団の購入を条件とするモニター会員契約等という1個の無名契約であるとすると,同条の対象ではなくなってしまう。

また,売買契約が存在するとしても,対抗できる抗弁事由は,本件各売買契約に直接関連して生じた抗弁でなければならないところ,原告らの主張する事由は,売買契約とは別個のモニター会員契約に関するものであるから,抗弁を対抗することはできない。

割賦販売法30条の4は,政策的理由により私法上の原則に対する例外を限定的に認めたものであるから,同条による抗弁事由は無制限ではなく,購入者に背信的な行為があるなど抗弁権の接続を認める趣旨に反する場合は,信義則上,抗弁を対抗できない。

そして,仮に本件各売買契約と本件各立替払契約との間に抗弁権の接続が認められる余地があるとしても,被告クオークが抗弁事由を予見するために必要な基礎事実についての認識を欠いてる本件のような場合に,原告らがそのような主張をすることは,信義則上許されない。

被告クオークがダンシング商法の内容を知ったのは平成11年5月20日以降のことであり,それ以前にはダンシング商法の公序良俗違反性についての認識がなく,認識可能性もなかった。

(2) 割賦販売法30条の4は,本件各売買契約における問題が解決されるまでの間,一時的に未払立替金の支払を拒絶できることを規定したものであり,これを超えて,実体的に,本件各売買契約と別個の契約である本件各立替払契約に基づく債権債務自体が消滅するものではないから,原告らの債務不存在確認請求は,主張自体失当である。また,同条は,割賦購入あっせん業者からの給付請求を前提としてこれに対する支払拒絶の抗弁としてのみ用いることができるもので,進んでその取立禁止を求める権能まで購入者に付与するものではないから,原告らの取立禁止請求も主張自体失当である。

10 原告●●●の請求について

争う。支払拒絶により,利用者に支払を請求できなくなるのは,同人からの支払拒絶に理由がある場合のみである。そして,本件においては,原告●●●には,抗弁事由がなく,また仮に抗弁事由があったとしても,抗弁の接続を主張することは信義則上許されない。被告クオークが原告●●●から支払拒絶の通知を受領した後も銀行口座から引き落としを継続したことは,立替払契約に基づく正当な権利行使であり,不法行為との評価を受けるものではない。

(被告オリコ)

1 モニター会員契約等の無効について

(1)は争う。ダンシングの商法も,売上数量とモニター会員数との関連に留意しつつ経営することによって一定の利益を上げることが可能であるから,破綻必至とはいえない。また,モニター料や手数料の支払は一定の役務の提供を条件とするものであって「不当な利益」とまではいえない。仮に独占禁止法違反性が認められるとしても,私法上の効力が直ちに無効となるものではない。

(2)は争う。契約締結時においてダンシング商法は破綻必至ではなく,また,現実に立替払債務完済までモニター料の支払を受けた者も存在したのだから,モニター料や手数料が支払われると信じていたことは錯誤にならない。なお,ビジネス会員は一定額の手数料の受取りを約束されていたものではない。

(3)は争う。上記のとおり,ダンシング商法は,契約締結時に破綻必至であったとはいえないから,ダンシングに欺罔行為や故意はなく,原告らが錯誤に陥っていたともいえない。

(4)は争う。

2 モニター会員契約等の無効による本件各売買契約の無効について

争う。モニター会員契約等を締結せず寝具の売買契約のみを締結してその引渡しを受けたとしても,売買契約本体の目的を達成することができるものであったのであるから,両者は法的に重なる部分のない別個の契約であり,性質上も密接に関連付けられるものではない。

ダンシングのモニター料支払債務及び手数料支払債務はいずれも寝具売買契約とは別個のモニター会員契約等に基づいて発生する債務である。ダンシングから原告らへの本件布団の引渡しが終了している以上,寝具売買契約についての債務不履行はない。また,モニター会員契約及びビジネス会員契約は,実質的には委任契約に準じる業務委託契約であったところ,これはダンシングの破産宣告により終了したもので,支払債務の履行不能はない。仮に終了していないとしても,原告らの解除は破産法59条等に違反するものである。

3 本件各売買契約の取消し,解除について

争う。

4 本件各売買契約のクーリングオフによる解除について

争う。

5 本件各売買契約の無効による立替払契約の無効について

(1)は争う。本件各立替払契約の内容は,被告オリコが売買代金をダンシングに立替払することに尽きる。

(2)は否認する。被告オリコは,サンエス工業との加盟店契約に付帯してダンシングの販売につき立替払を行うとの契約の締結時及びその後の調査において,ダンシング商法の内容について,ダンシングから虚偽の説明を受けており,その他の事情からも,現実のダンシングの販売方法ないしモニター会員数についての認識及び認識可能性はなかった。

(3)は争う。

6 提携事業者間の共同責任について

争う。

7 立替払契約の錯誤による無効について

争う。モニター料や手数料の支払は本件各立替払契約の要素ではない。仮に本件各立替払契約締結の動機がモニター料等の受取りにあったとしても,動機の表示はない。ダンシングには代理権や意思表示の受領権限はない。そもそもダンシング商法は契約締結時において破綻必至であったわけではないから,原告らの動機に錯誤はない。

8 立替払契約の債務不履行による解除について

(1) 争う。原告らと被告オリコ間における本件各立替払契約の本旨は,「被告が立替払を行うこと」であり,立替払を実行した被告オリコに債務不履行はない。

(2) 仮に加盟店管理義務が存在するとしても,被告オリコに加盟店管理義務違反はない。被告オリコは,サンエス工業との加盟店契約に付帯した子番契約締結時及びその後の調査において,ダンシングの商品の販売方法を確認したところ,販売方法は直接販売,訪問販売,紹介販売であり,紹介販売の場合には次のような紹介手数料を払うということであった。

① 紹介販売を継続的に行うビジネス会員の場合

1名紹介 商品代金の8パーセント

3名紹介 商品代金の50パーセント

6名紹介 商品代金の100パーセント

② 継続的な販売活動は行わないが,チラシを配布したりレポートを提出するモニター会員

1名紹介 商品代金の3パーセント

3名紹介 商品代金の15パーセント

6名紹介 商品代金の30パーセント

したがって,ダンシング商法の真実の内容については説明を受けていなかった。被告オリコは,通常必要とされる妥当な調査を行った。

また,被告オリコは,加盟店契約締結後も,必要な調査を行ったうえ,加盟店に是正申入れや警告を行い,是正されないときは取扱停止等を行うという適正措置をとったのであり,この点においても加盟店管理義務違反はない。被告オリコが顧客のほとんどがモニター会員であったことを知ったのは,ダンシング倒産後のことである。

9 抗弁の接続について

争う。割賦販売法30条の4に基づく支払拒絶の抗弁は,単に支払拒絶権が認められるにすぎず,立替払債務が不存在となったり,被告に,取立禁止という不作為義務を生じせしめたりする根拠とはならない。

Ⅳ  被告らの主張(抗弁)

1  信義則違反

原告らは,何らの出捐もなく利益を得たいとの思いからモニター料等の支払を受けることを目的としてダンシングとの契約を締結したのであり,実質的には寝具の購入意思や立替金の支払意思を欠き,ダンシングに対し有償の名義貸し行為を行ったといえる。原告らは,モニター制度の存在を秘匿して本件各立替払契約を締結したが,被告らはその存在を知らなかった。原告らは別紙5ないし7のとおりの毎月の立替金を上回るモニター料を現実に受け取ってきた。原告らは,ダンシングから本件布団という売買契約上の目的物引渡も受けた。原告らが,予定していた利益を得られなくなったからといって,被告らに対し,本件各立替払契約の公序良俗違反による無効等を主張し,立替金の支払義務を争うことは,信義則に違反するものである。

2  錯誤についての重過失

モニター会員契約等を締結するにあたっては,原告らに重過失があった。

Ⅴ  被告ファインの主張

特に,原告●●●については,同原告を勧誘したのはその母親である●●●であることを考えれば,同原告はダンシング商法に深く関わっており,その利得は大きく,ダンシング商法の実際についても十分知り得たはずである。

Ⅵ  抗弁に対する認否・反論

1  1は争う。被告らの主張は,信販会社の加盟店管理責任を看過し,抗弁対抗の規定について原則例外を転倒させようとする議論である。割賦販売法30条の4の立法趣旨によれば,購入者は販売業者に主張しうる事由を主張立証することで信販会社の認識可能性を論ずるまでもなく原則として支払を拒絶できると解されるのであって,信販会社がこれを否定するためには,抗弁対抗を認めることが立法趣旨に反するという事情を主張立証すべきである。また,クレジット契約には構造的危険性があることから,これを展開して経済的利益を上げている信販会社は,継続的提携関係にある加盟店が不適正な販売活動を行わないように審査・管理すべき責任(加盟店管理責任)を,取引上の信義則により負っているところ,被告らには,自らの加盟店管理責任を棚に上げて消費者の信義則違反を主張する資格はない。

2  2は争う。ダンシングは,破綻必至であるのにこれを隠蔽し,消費者に対しては,あたかも宣伝販売の一環として一定期間・一定範囲の顧客だけに優遇して有利なモニター会員契約を認めるかのような勧誘を行っていたのであり,原告らに重過失はない。

第4当裁判所の判断

Ⅰ  証拠(当該箇所に掲記の証拠〔書証については特にことわらない限り枝番号を含む。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

1  事実経過

(1) 布団販売の開始等

ア 布団販売の開始

●●●(以下「●●●社長」という。)は,健康食品及び食料品の販売等を目的として株式会社クローバー友の会を設立し,昭和62年には株式会社瑞邦苑と商号変更し,自ら代表取締役を務めて老人福祉関係の事業を手がけようとしたが,これに失敗するなどし,同社は,事実上,休眠会社となった(甲1ないし4,93)。

その後,平成8年ころから,●●●社長は,株式会社瑞邦苑で布団販売を開始し,平成9年1月20日には商号を「株式会社ダンシング」に変更するとともに,設立目的を寝装寝具の販売等に変更した。なお,ダンシングは,当時,借入金をもって営業資金としていた。ダンシングは,平成9年末ころまで,自動車で訪問販売したり,チラシや折り込み広告で宣伝し顧客を勧誘するなどの販売形態をとっていたが,売上はほとんどなかった(甲40,47,93,101〔●●●社長の証人調書〕)。

ダンシングは,同年10月ころから,サンエス工業より本件布団を仕入れるようになり,平成10年ころには「テルマール」という商品名で本件布団(上掛布団,肌掛布団,敷布団,枕,上掛布団カバー,敷布団カバーのセットなど)を販売するようになった。ダンシングは,顧客に対し,本件布団のシングルサイズを36万円で,ダブルサイズを46万円(いずれも消費税別)で販売していた(甲12,22の1,2,甲101〔●●●社長の証人調書〕)。

イ 本件布団

本件布団のうち,敷布団,肌掛布団は,マイナスイオンを発する特殊繊維として特許を取得している「ステイヤーズ」(特許第1426696号,特許2101495号)を50パーセント(その他,ポリエステル綿50パーセント)使用した健康布団である(甲12)。ステイヤーズは,富士紡績株式会社が製造,販売している(甲12,22の1,50)。

平成10年末までは,ダンシングの関連会社である株式会社千匠がサンエス工業から本件布団を仕入れていたところ,株式会社千匠からの仕入価格はシングルサイズは6万3000円,ダブルサイズは8万4000円であった。平成11年以降は,ダンシングが直接サンエス工業から,シングルサイズ5万円,ダブルサイズ7万円で本件布団を仕入れていた(甲90,101〔●●●社長の証人調書〕,丙4)。

(2) モニター会員制度の導入

ア モニター会員制度の内容

ダンシングは,平成9年9月ころから,布団の販売方法としてモニター会員制度を導入した。ダンシングがサンエス工業から本件布団を仕入れるようになった平成9年10月以降のモニター会員制度の内容は,次のとおりである(甲87,101〔●●●社長の証人調書〕)。

(ア) モニター会員の登録方法

モニター会員になるには,本件布団(シングルサイズ36万円,ダブルサイズ46万円)を購入することが必要であり,本件布団の購入申込みとモニター会員の登録申込みは,「登録申請書面(兼商品購入申請書)」と題する1通の書面でなされた(甲14,21の1)。

ただし,ダンシングから本件布団の購入だけをすることも可能であったし,購入時にモニター会員になり,その後ビジネス会員へ転換することも可能ではあった。しかし,モニター会員等にならずに本件布団だけを購入した者はほとんどいなかったし,実際にビジネス会員に転換した者も,別紙4のとおり,全体との比率でみればごく僅かであった。なお,モニター会員とビジネス会員との比率をみると,会員全体の約8割以上がモニター会員であった(甲21の1,甲47,94,95,96,101〔●●●社長の証人調書〕)。

(イ) モニター会員の業務及び報酬

a モニター会員は,①本件布団を使用した感想・意見を,ダンシングから送付されるアンケート(以下「レポート」という。)に回答を記入の上,ダンシングに提出すること,②ダンシングの作成したチラシを配布するポスティング業務を行うことで,24か月間にわたり,ダンシングから毎月3万5000円ずつ,合計84万円のモニター料を受け取ることができた(甲21の1)。

b ①レポートには,モニター会員となって一番最初に提出するファーストレポートと,以後毎月提出するマンスリーレポートがあった。いずれのレポートも,質問事項が記載されている書面を,ダンシングがモニター会員に交付して,モニター会員がその質問に答えるだけの非常に簡易なものであり,提出期限は毎月20日であった(甲13,23の5の2)。

マンスリーレポートは,各モニター会員が各自で責任を持ち提出することになっていたが,提出しない会員や,同一会員が他の会員の分もまとめてダンシングに提出する事例が続出したため,ダンシングも,同社の発行する会報「ヴィヴァ・ヴィータ」平成11年1月号等で,このようなことがないように注意を呼びかけていた(甲23の4,88)。

ダンシングは,モニター会員から提出されたレポートを段ボール箱に入れて本社に山積みにしていたのみで,活用していなかった(甲94)。

平成11年2月21日(平成11年3月分)以降は,マンスリーレポートの提出が不要となった(甲23の6)。

c ②チラシの配布枚数は,当初,月間2000枚であったが,その後500枚に減少し,平成10年10月1日以降は廃止された。

チラシの配布が義務付けられていた当時でも,ダンシングは配布されたかについて確認していないため,モニター会員が実際にチラシを配布していたかどうかは不明である。

(以上,甲94,95)

d その他,モニター会員が新規顧客を1名紹介し,1つの契約が成立すると,3パーセント(1万0800円)の紹介手数料が支払われ,契約日から90日以内に新規顧客との間で3つの契約を成立させると,15パーセント(5万4000円)のボーナスがモニター料の満了額84万円の中から先に支払われ,さらに,契約日から90日以内に,モニター会員の紹介により,新規顧客10名との間でモニター会員契約が成立すると,84万円全額が先に一括して支払われることになっていた(甲21の1)。

以上いずれの場合でも,モニター会員が84万円の支給を受けた時点でモニター会員契約は終了した。したがって,モニター会員は,モニター料や紹介手数料,ボーナスを含めて,ダンシングから総額84万円を超えて受領することはなかった(甲21の1)。

イ 立替払契約の利用

モニター会員は,本件布団の購入に当たって,その代金支払方法として,「信販利用」,「カード利用」,「現金利用」の三種を利用することができた(甲14)。

このうち,信販利用の方法によれば,シングルサイズの布団を購入したモニター会員が,被告らとの間で24回払の立替払契約を締結した場合,モニター会員は,24か月にわたり毎月ダンシングからモニター料3万5000円を受け取ることができるのに対して,被告らに支払わなければならない立替金は月1万8000円にとどまる。立替金の分割弁済時期は,被告オリコが毎月27日,被告クオークが毎月26日,被告ファインが毎月5日であったが,モニター会員は,ダンシングから毎月20日にモニター料を受け取ることができたので,モニター会員は,モニター料を原資として,信販会社に対し立替金を支払うことができた。このため,モニター会員は,自己の金銭負担を全く伴うことなく本件布団を購入し,その上,モニター料と被告らへ支払う立替金との差額を毎月取得することができた(甲15ないし18,21の1,52の1)。

ウ モニター会員の勧誘実態

ダンシングからモニター会員制度の説明を受けたほとんどの者は,それではダンシングに何の利益もないことから,その内容に疑問を感じたが,これに対して,ダンシングは,高額の広告費を支出するより,モニター料を支払って口コミで本件布団を宣伝した方が,費用も安く宣伝効果があること,ダンシングには,モニター料を支払うだけの自己資金があること,モニター会員の人数を制限していること,モニター会員からビジネス会員に移行する者が多数いることなど,モニター会員制度が成立する理由について虚偽の説明をしていた。

そのため,原告らを始めとするダンシングの顧客は,半信半疑ながらも,モニター料が先に入り,そこから立替金を支払うことができ,原告らは実質的には経済的負担を負うことはない旨の説明を受けたこと,クレジット代金を超えるモニター料による収益があること,原告らを勧誘した者との人間関係を壊したくなかったこと,募集締切りが間近であるなどと契約締結を急がされたこと,本件布団が健康に良いとの説明を受けたことなどから,ダンシングとの間で,本件各売買契約及びモニター会員契約等を締結し,被告らとの間で,本件各立替払契約を締結して,本件布団購入代金を被告らの立替金で支払った。なお,ビジネス会員は,モニター会員に対して,本件布団の売買契約と本件各立替払契約は別個の契約であるから,信販会社に対して,モニター会員契約に関することや,モニター料が払われなくなったら立替金を払わないなどという話はしないように注意をしており,モニター会員らは,この注意を守っていた。

(以上,甲52の1,甲101,102,105ないし111,乙21,丙2,原告●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●,同●●●)

(3) ビジネス会員制度の導入

ア ビジネス会員制度の内容

ダンシングは,平成10年2月ころから,本件布団の販売方法として,モニター会員制度に加えて,次のとおりのビジネス会員制度を導入した。なお,ビジネス会員契約においても,本件布団の代金支払方法として,「信販利用」,「カード利用」,「現金利用」の3種を利用できた(甲21の1,甲51,94,101〔●●●の証人調書〕)。

(ア) ビジネス会員となるには,本件布団を購入して会員登録するか,モニター会員からビジネス会員に変更することを要した。

当初からビジネス会員になるためには,本件布団を購入することが必要であったが,本件布団の購入申込みとビジネス会員の登録申込みは,「登録申請書面(兼商品購入申請書)」と題する1通の書面でなされていた(甲14,21の1)。

なお,モニター会員からビジネス会員になった場合には,以後のモニター料は支給されなかった。

(イ) ビジネス会員は,新規購入者を紹介すると,ダンシングから,1名につき売買代金の8パーセントにあたる金額(シングルサイズの場合2万8800円)の紹介手数料を受け取ることができ,紹介した新規購入者が3名になると,紹介手数料に加えて,販売代金の50パーセントに当たる金額(シングルサイズの場合18万円)のボーナスを受け取ることができさらに,マネージャー資格を得て,自己の6代下位にある会員まで,新規購入者ができる都度,販売代金の3パーセントに当たる金額(シングルサイズの場合1万0800円)のロイヤリティを受け取ることができた。

(ウ) ビジネス会員が紹介手数料を受け取ることができる新規購入者は,本件布団を購入するだけの者やビジネス会員となる者だけでなく,モニター会員となる者でもよかった。また,これらの紹介手数料には支払期限の制限はなかった。

イ 原告●●●は,平成10年9月11日ころ,ダンシングとの間でモニター会員契約を締結し,同日,被告オリコとの間で立替払契約を締結したが,その後,ダンシングの幹部からの勧誘を受けて,平成11年1月にビジネス会員契約へと切り替えた。原告●●●は,自己の同業者の友人ら3名を勧誘し,そのうち2名との間で契約が成立し,残り1名については立替払契約の審査が通らなかったため成約には至らなかった。また,原告●●●は,平成10年9月11日ころ,ダンシングとの間でモニター会員契約を締結し,同日,被告オリコとの間で立替払契約を締結したが,その後,ビジネス会員契約へ切り替えた(甲102〔O2,O50〕,109,丙3の8,50,原告●●●,弁論の全趣旨)。

(4) モニター会員の増加

ア ダンシングがビジネス会員制度を導入した平成10年2月以降,モニター会員が急増した。

イ ダンシングは,当初,モニター会員数を限定1000人と告知していたが,同年5月ころには,モニター会員数が1000人を超えていた。

ダンシングは,同年9月30日で第1次モニター募集を締め切り,同年10月1日から限定2000人として第2次モニター募集を開始するとしたが,実は,モニター会員数は,すでに同年7月ころには2000人を超えていた。

また,ダンシングは,同年中に,大阪営業所,東京営業所を開設するなどして,事業を全国規模へ拡大し,このこともモニター会員が急増する一因となった。

ウ ダンシングは,モニター会員数が定員を超えたことをビジネス会員らに伝えないだけでなく,モニター会員数に関するビジネス会員からの問い合わせに対して,まだ定員に達していないなどと答えるなどして,真実のモニター会員数を隠していた。

(以上,甲23の2及び3,甲51,80,88,94,101〔●●●,●●●,●●●の各証人調書〕)

(5) モニター商法破綻の懸念

ア 平成10年5月末までダンシングの大阪営業所長であった●●●(以下「●●●」という。)は,同年6月1日からダンシング本社で専務取締役として勤務するようになり,モニター会員やビジネス会員などの正確な人数を把握した上で,このままの経過をたどると,ダンシングは,平成11年春ころには,モニター会員に支払うモニター料等や,ビジネス会員に支払う紹介手数料等の支払が困難となり,破綻することとなるとの経営予測をした。

この予測は,平成10年夏以降には,●●●社長らダンシングの経営陣も知るところにもなった(甲101〔●●●の証人調書〕)。

イ ダンシングは,モニター料,紹介手数料等の支払が大きな負担となったことから,平成10年10月ころ,①モニター料は,月1万5000円を6か月にわたり支払うこととし,6か月以内にモニター会員が2名以上の新規購入者を紹介できたときに限り,モニター料を24回まで支払うこと,②ビジネス会員は,ビジネス会員のみを紹介することができることなどの変更案を示した。

しかし,ダンシングは,ビジネス会員の強硬な反対を受けて,上記変更を断念し,その後も,モニター会員の募集を継続し,その数を増加させていった。

平成10年12月末にはモニター会員は9000人を超え,ダンシングが支払うモニター料,紹介手数料等も増加の一途をたどった。

(以上,甲40,51,52の2,甲101〔●●●の証人調書〕)

ウ そこで,ダンシングは,平成11年1月,会報誌「ヴィヴァ・ヴィータ」平成11年2月号等で,第2次モニター募集は定員に達したとして,同年2月20日にモニター会員制度を廃止することを告知した。

しかし,これを知ったビジネス会員の新規購入者獲得活動が活発化したので,新規モニター会員は,平成11年1月に1469人,同年2月に3478人となった(甲23の5,80)。

(6) モニター会員制度の廃止後のダンシングの対応

ア テルメイト会員制度の導入

ダンシングは,平成11年2月20日,モニター会員制度を廃止して,「テルメイト会員制度」を導入した。その内容は,次のとおりである。なお,同制度には,同月から同年4月までの間に,474名が参加した(甲40,55)。

(ア) テルメイト会員になるには,現金又はクレジットカードで本件布団を購入し,会報誌「ヴィヴァ・ヴィータ」を申し込み,会員登録を行う。

(イ) テルメイト会員になると,活動費として,毎月3万5000円を12か月にわたって受け取れる。

また,その紹介により,新規の契約が成立すると,1契約につき3パーセント(1万0800円),3名の新規契約が成立するとボーナスとして15パーセント(5万4000円)を受け取ることができる。

イ いちご倶楽部制度の導入

ダンシングは,購入者層の拡大を目指し,平成11年4月から,「いちご倶楽部制度」を立ち上げた。その内容は,次のとおりである,なお,いちご倶楽部には,約390名が参加したが,資金を獲得するには足りず,手数料等の支払は一度もなされなかった(甲40,57)。

(ア) 参加者は,登録費用2100円,年会費3150円,広告チラシ購入費1万0500円を支払う。

(イ) 参加者が,新たな者をいちご倶楽部に参加させると,その者は子会員となり(1次会員),子会員がダンシングに支払った広告チラシ購入代金の10パーセントである1000円の紹介手数料が得られる。さらに,1次会員が新たな者を参加させると,1名あたり500円のロイヤリティが得られる(ただし,4次会員で打切り)。

また,参加者が紹介の実績を上げる都度,抽選券がダンシングから発行され,その抽選により現金が当たるという特典もあった。

2  信販会社との加盟店取引について

(1) ダンシングは,本件布団の販売に関し,上記1(2)イ,(3)アのとおりの代金支払方法を設けていたが,そのうちの「信販利用」を選択する購入者のために,被告クオークとの間で平成9年3月28日から,被告ファインとの間で,平成10年10月10日から加盟店契約を締結し,被告オリコとの間で,サンエス工業との加盟店契約に付帯してダンシングをその子番として,ダンシングの顧客についても,被告オリコとの間で本件各立替払契約が締結できるクレジット利用契約を平成10年4月3日締結した(甲31ないし33,丁1)。

(2) 各被告との取引中止

ア 被告クオーク関係

平成10年7月14日,被告クオーク本社のお客様相談室に,匿名の電話で,モニター会員制度とビジネス会員制度に関する問い合わせがあったことを契機に,被告クオークは,同年8月7日,ダンシングとの加盟店契約を解消することを表明し,直ちに加盟店契約を打ち切ることまではしなかったものの,その取扱件数を徐々に減少させ,平成11年3月の17件を最後に,ダンシングとの加盟店契約を解約した(甲52の2,甲53,80,101〔●●●,●●●の各証人調書〕,丁10,11)。

イ 被告オリコ関係

平成10年10月中旬ころ,被告オリコのお客様相談室に,モニター会員契約についての問い合わせがあったことを契機に,被告オリコは,ビジネス会員制度が連鎖販売取引類似のものであるとして,平成11年11月中旬,●●●社長に対し,一定の猶予期間をもって,連鎖販売取引類似のビジネス会員制度を中止するなど,販売方法の改善を要請するとともに,モニター会員からの立替払契約は受け付けない旨申し入れたが,その後も,ダンシングの販売方法について何らの改善が確認できなかったことから,平成11年2月末をもって,ダンシング顧客との立替払契約を終了させ,平成13年3月以降,新規の立替払契約の申込みを受け付けなかった(甲40,52の2,甲53,54,80,101〔●●●,●●●の各証人調書〕)。

ウ 被告ファイン関係

平成11年2月1日,匿名の男性から被告ファインの営業課に,モニター会員契約についての問い合わせの電話があった。その結果,被告ファインは,ダンシングの経営状態についての調査を開始し,同月17日,同月20日締め分以降の本件布団代金の立替払金の支払を留保し,同年3月10日,立替払契約した者がモニター会員か否か,立替金の支払意思が確認できるまで,ダンシングに対する総額約5億4000万円の立替払金の支払を留保した(乙3)。

ダンシングは,既存のモニター会員だけでなく,被告ファインから支払拒絶をされたモニター会員に対しても,同年3月分のモニター料等の支払をした(甲40)。

3  ダンシングの破産申立等

(1) その後,平成11年3月,大阪において,ダンシングと被告ファインとの間で話し合いがなされ,その後も話し合いが継続されることとなったが,結局,話し合いは行われず,被告ファインからの立替払金も支払われなかった(乙5,7,8,17)。

(2) ダンシングは,被告ファインの立替払金の支払が停止していたものの,モニター会員やビジネス会員らに対して,平成11年4月分のモニター料や紹介手数料等を支払った。

ダンシングは,同年5月20日,モニター料や紹介手数料等の支払が不能になって営業を停止し,同月25日までに従業員全員を解雇した。

そして,ダンシングは,同月31日,神戸地方裁判所姫路支部に自己破産の申し立てをし(同裁判所平成11年(フ)第301号事件),同年6月30日,同裁判所から破産宣告を受けた。

(以上,甲37,39,40)

Ⅱ  モニター会員契約と本件各売買契約の関係について

モニター会員契約等を締結しなくても,本件布団の売買契約を締結する余地があったし,モニター会員契約等は,上記Ⅰ1(2)(3)のとおり,本件布団の売買契約とは契約の内容を異にするものである。

しかし,上記Ⅰ1(2)ア(ア),(3)ア(ア)のとおり,本件布団の購入とモニター会員契約等の締結とは1通の書面でなされていること,上記Ⅰ1(2)ア(ア)のとおり,本件布団のみを購入した顧客はほとんど存在せず,モニター会員又はビジネス会員になるために本件布団を購入した者が大部分であったこと,本件布団の価格は上記Ⅰ1(1)アのとおり,布団としては高額なものであるのに原告らが本件布団を購入したのは,モニター料や紹介手数料を入手できると考えたからであることなど,実際の契約の締結状況や,契約書の体裁,原告らにおいては,本件各売買契約とモニター会員契約等は相互に密接に関連付けられていて,いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないという関係にあったといえるから,両者は不可分一体の契約であると解するのが相当である。

Ⅲ  ダンシング商法の性格について

1(1)  破綻必至性

本件布団の代金は,上記Ⅰ1(1)アのとおり,いずれも消費税別で,シングルサイズは36万円,ダブルサイズは46万円であったのに対し,モニター会員契約は,上記Ⅰ1(2)ア(イ)のとおり,本件布団の購入者が本件布団を使用した感想・意見についてダンシングにマンスリーレポートを提出するとともに,ダンシングの作成したチラシを配布する業務を行うだけで,24か月にわたり毎月3万5000円,合計84万円を受け取ることができるとの契約であった。

この点,モニター会員契約によりダンシングへ送付されたマンスリーレポートは,上記Ⅰ1(2)ア(イ)bのとおり,モニター会員の全員が責任をもって提出していたとはいえないばかりか,ダンシング自身も提出されたレポートを有効に活用することはなく,平成11年2月21日以降はその提出すら不要となった。また,上記Ⅰ1(2)ア(イ)cのチラシ配布は,まったく宣伝効果がなかったとは断じ得ないまでも,本件布団が布団としては高額な商品であること,上記Ⅰ1(2)ア(ア)のとおり,本件布団のみを購入した者がほとんどいなかった状況等に鑑みれば,その効果はごく僅かであったことが明白である。

(2)  一方,上記Ⅰ1(3)のとおり,ダンシングは平成10年2月ころから,ビジネス会員制度を導入したが,その内容は,上記Ⅰ1(3)ア(イ)認定のとおり,いわゆるマルチ商法の一種の連鎖販売取引ということができる。

新規の契約者はビジネス会員やモニター会員であってもかまわず,これらの紹介手数料の支払期限も制限がなかったところ,本件布団の販売価格が高額であったことからすれば,モニター会員制度やビジネス会員制度による特典がなければ,一定数以上の販売は困難であったことは明らかである。

そして,ビジネス会員の勧誘により,さらに多くのモニター会員契約が締結されることとなった(上記Ⅰ1(2)ア(ア))。

(3)  以上によると,モニター会員制度やビジネス会員制度を組み合わせたダンシング商法は,ビジネス会員による紹介等によりモニター会員が増加して,当初にダンシングに支払われる本件布団の代金額を大幅に上回るモニター料をモニター会員に対して払い続ける債務を負うことになるから,本件布団を売却すればするほど,モニター料の支払のために損失が累積する一方であり,社会通念上,短期間のうちに破綻することが必至であったものと認められる。

(4)  被告らは,ダンシングの販売方法は必ずしも顧客全員についてモニター会員契約を締結するものではなく,モニター会員制度の具体的運用によっては,必ずしも破綻必至であったとはいえないと主張する。しかし,上記(2)のとおり,本件布団は布団としては高額な商品であることからすれば,本件布団の購入のみを目的とする顧客を多数期待できるとは思われないし,実際にも,本件布団のみを購入する者がほとんどいなかったことは既述のとおりである。また,確かに,モニター会員契約の件数を限る等の方法をとれば,他の本件布団の購入者からの収入などによりモニター料をまかなうことも可能であるとはいえるが,上記Ⅰ1(4)のとおり,ダンシングは当初モニター会員を1000名に限定するとしておきながら,実際には,1000名を超えても契約を制限することなく,新たに2000名を募集することとし,上記Ⅰ1(5)のように,平成10年夏ころには,モニター料やビジネス会員に支払う紹介手数料の支払が困難となり,いずれ破綻するとの予測があることを知りながら,漫然とこれを放置し,その後,同年10月に至って初めてモニター料の負担が加重になってきたため,モニター会員契約の契約内容を変更しようとしたが,結局はビジネス会員らの強硬な反対を受けて契約内容変更を断念したという状況等に照らすと,ダンシングには,当初から,モニター会員契約を破綻するにまかせていただけで,破綻させないように運用しようとする意図もなかったものといわざるを得ない。

2  ぎまん的顧客誘因

ダンシングは,上記Ⅰ1(2)ウのとおり,モニター会員契約について,モニター料は広告料と比べれば安価で宣伝効果も期待できること,モニター料を支払うだけの自己資金があること,モニターの人数を制限していること,モニター会員からビジネス会員へと転換する者が多数いることなどを説明し,ダンシング商法に不信感を抱く顧客を一応納得させていた。しかし,実際には,上記Ⅰ1(2)ア(イ)のとおり,モニター会員による宣伝効果も費用に比例するだけのものとはいえず,上記Ⅰ1(1)アのとおり,ダンシングにはモニター料を支払えるだけの自己資金はなく,上記Ⅰ1(4)のとおり,モニター会員の数を制限することもなく,上記Ⅰ1(2)ア(ア)のとおり,モニター会員からビジネス会員への転換もほとんどされない状態であったのだから,上記のようなダンシングの勧誘方法は,取引に関する事項について顧客を誤認させるものである。

これに対して,被告クオークは,原告らは,競争業者の顧客ではないから独占禁止法の対象とはならないと主張するが,後述のとおり,モニター会員契約等は,本件布団の販売のため行われたものであり,両契約は相互に密接に関連するものであるから,その実態としてみれば,原告らは,他の布団販売業者の顧客であるといえるので,被告クオークの主張は理由がない。

以上から,モニター会員契約の勧誘方法は,独占禁止法2条9項に基づく,昭和57年公正取引委員会告示15号の不公正な取引方法の8項のぎまん的顧客誘因に該当し,公正な取引秩序を害するものであり,違法な勧誘方法であるといえる。ただし,独占禁止法19条に違反する行為であっても,同法20条により,公正取引委員会が,当該行為の差止め,契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができるに過ぎないから,同法19条違反により直ちにモニター会員契約等が無効となるわけではない。

3  以上,上記1,2のとおり,ダンシング商法は,モニター会員制度の破綻必至性,ぎまん的顧客誘因にあたること,その他,ビジネス会員契約はマルチまがいの商法であることなどの事情を総合すると,モニター会員制度とビジネス会員制度とが結びついたダンシング商法は,結局,公序良俗に反する違法な取引であるということができる。

4  よって,前記のとおり,本件モニター会員契約等と本件各売買契約は不可分一体の契約と解されるから,全体として公序良俗に違反するものとしてその契約全部が無効と解される。

したがって,この部分に関する原告らの主張には理由がある。

Ⅳ  本件各立替払契約の効力について

1  ダンシング商法と本件各立替払契約の関係

原告らは,ダンシング商法は本件各立替払契約と結びつくことで初めて可能になる,本件各売買契約と本件各立替払契約は,経済的,実質的に一体のものであって,被告らは,少なくとも平成10年9月ころまでには,ダンシング商法の問題性を容易に発見できたにもかかわらず,ダンシングとの加盟店契約を維持して立替金をダンシングに供給することが被害の拡大の原因となったこと,割賦購入あっせん契約においては,売主と与信業者は独立の業者であるが,機能を分担して共同事業を営む不即不離の関係にある実態に照らせば,一定の要件のもとで,供給契約における双務契約の拘束は与信業者にも及ぶべきであることから,本件においても原告らは,ダンシングに対して主張することのできる本件各売買契約の無効を被告らにも主張することができ,既払金の返還を請求できるなどと主張する。

しかしながら,そもそも,個品割賦購入あっせん契約は,購入者が,信販会社の加盟店である販売業者から証票等を利用することなく商品を購入する際に,信販会社が購入者との契約及び販売業者との加盟店契約に従い販売業者に対して商品代金相当額を一括払いし,購入者が信販会社に対して立替金及び手数料の分割払いを約する仕組みであり,法的には,別個の契約関係である購入者・信販会社間の立替払契約と購入者・販売業者間の売買契約を前提とするものであるから,原告らが主張するように,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあること,販売業者の販売促進によって与信業務の育成・発達が図られるという面があることは否定し得ないとしても,各契約が別個の契約関係である以上,信販会社と販売業者が法的に共同責任を負うべき関係に高められるためには,両者の間に共同事業的,利益協同的な関係があるか,購入者に対する一方の違法行為に他方が加担するなどの特段の事情のない限りは,購入者が売買契約上生じている事由をもって当然に信販会社に対抗することはできないというべきである。

そして,本件においては,後記Ⅴ4のとおり,被告らは,ダンシング商法について認識した後は,加盟店契約を解除を検討するなどの対応をした等の事実が認められ,被告らとダンシングの間に上記のような特段の事情が存在したことを認めるに足りる証拠はない。なお,●●●(甲101)は,信販会社の社員は,ダンシングの事務所に頻繁に出入りしており,その際にモニター会員契約の話などもしていたから,信販会社の社員はモニター会員契約の存在を知っていたと思うと述べ,●●●(甲101)は,ダンシング本社の事務所には,モニター会員を募集するチラシやビジネス会員用のキットが置いてあったから,これを被告らの社員が見て,ビジネス会員契約等を知っていたと思うと述べるが,いずれも推測の域を出ず,これをもって,被告らがダンシング商法を知りながらあえてこれに協力していたと認めることはできない。

したがって,この部分に関する原告らの主張には理由がない。

2  立替払契約の錯誤による無効

(1) 上記Ⅰ1(2)ウのとおり,原告らのうちモニター会員である者は,モニター料により立替金を支払うことで自己の経済的負担がないと考えたから,本件各立替払契約を締結したことが認められる。しかし,上記Ⅲ1のとおり,ダンシング商法が破綻必至であり,モニター料の支払を継続することができないものであったことからすると,同原告らには,本件各立替払契約の締結につきその動機において錯誤があるといえる。

しかしながら,上記Ⅰ1(2)ウのとおり,モニター会員は,いずれもその動機を被告らに対して告知していないことが認められる。そして上記1のとおり,被告らとダンシングは別個の事業者であるから上記の動機がダンシングにとっては明らかであったとしても,被告らに対しては表示されていないから,同原告らに動機の錯誤があっても,本件各立替払契約は無効とならない。

なお,原告らは,ダンシングは,本件各立替払契約の締結にあたり,被告らの与信業務の補助者たる立場にあるから,原告らが与信業務の補助者であるダンシングとの間でモニター料等の受取りを約している以上,その動機は被告らにも表示されていると主張するが,ダンシングは,被告らと原告らの間の本件各立替払契約の締結にあたり,申込書類の作成やその説明等の業務に関与しているものの,これは本来被告らが行うべき業務の一部をダンシングが代行しているにすぎないから,ダンシングが,原告らの意思表示を受領する権限を有してとまでは認められないので,原告らの上記主張には理由がない。

(2) ビジネス会員契約をした者は,ダンシングに顧客(会員)を紹介して初めて手数料が支払われるとの理解のもとにビジネス会員契約を締結したと認められるから,立替金の支払について自己の経済的負担がないものとの動機があったとは認められない。原告●●●及び同●●●については,モニター会員から途中でビジネス会員に切り替えたことから見て本件立替払契約の締結について錯誤があったとは認められない。この部分に関する同原告らの主張には理由がない。

3  立替払契約の債務不履行による解除

(1) 証拠(当該箇所に掲記のもの。)によれば,以下の事実が認められる。

ア 通商産業省(当時)は,昭和57年4月13日付けで,社団法人日本割賦協会を通じ,同協会会員に対して,商品の供給が適正かつ円滑に行うことができない販売店を加盟店としないなどを求める行政指導をした(甲73)。

イ 通商産業省(当時)は,昭和58年3月11日付けで,同様に社団法人日本割賦協会会員に対して,割賦購入あっせん業者が加盟店契約締結時や締結後において,販売業者が取り扱う商品及び役務の内容並びに販売方法等を十分把握するなど具体的措置を求める行政指導をした(甲74)。

ウ さらに,通商産業省(当時)は,平成4年5月26日,社団法人日本クレジット産業協会を通じ,同協会会員に対して,昭和58年3月11日通達に定めた措置を励行することに加え,加盟店の審査・管理の厳格化,顧客の特殊な誘因方法等により商品を販売する加盟店の審査・管理について,継続的かつ徹底した管理を行うことを求める行政指導をした(甲75)。

なお,経済産業省は,ダンシングの破産後である平成14年5月15日,社団法人日本クレジット産業協会及び社団法人全国信販協会の会員に対して,業務提供誘引販売取引をはじめ消費者トラブルが増加傾向にあることから,加盟店審査及び管理を適切に行うことを要請し,その方法については,加盟店等のパンフレット,広告,契約書面等を取り寄せること,口頭によって勧誘をしている場合には,勧誘内容を確認することを求めている(甲112)。

(2) 割賦購入あっせん契約の構造は,上記Ⅳ1のとおりであるところ,上記(1)のとおり,販売店が信販会社の信用供与を悪用する,集団名義貸事件や役務提供をめぐるトラブル等,加盟店が行う不正販売行為により購入者に対し損害を与えるなどの事案が増加傾向にあり,このような事態を未然に防止するため,信販会社の加盟店管理義務についてたびたび行政指導がなされてきたことが認められる。このように,割賦購入あっせん契約には,加盟店による悪用の危険がはらんでいることからすれば,割賦購入あっせん契約において,信販会社は,販売店との間で加盟店契約を締結し,業務提携するにあたり,自己の与信供与が販売店によって不当に利用されることを未然に防止するため,販売店の信用調査を十分に行う一般的な義務があるというべきである。

もっとも,信販会社と購入者との間で締結される立替払契約等は,信販会社が販売業者との加盟店契約に従って販売業者に対し商品代金相当額を一括払いし,購入者が信販会社に対し立替金及び手数料の分割払いすることを本質的内容とするから,上記の加盟店調査義務は,信販会社が購入者に対して負う付随的義務に過ぎず,同義務の不履行により当該契約をなした目的を達することができないなどの特段の事情の存しない限り,契約を解除することはできないものと解するのが相当であるところ,本件では,このような特段の事情が存することを認めるに足りるまでの証拠はない。

したがって,この部分に関する原告らの主張は理由がない。

4  そうすると,本件各立替払契約自体の無効又は解除を理由とする原告らの既払立替金の返還を求める主位的請求及び乙,丙,丁各事件各反訴請求はいずれも理由がない。

5  なお,原告らの予備的請求のうち,第1次,第3次及び第4次請求は,いずれも本件各立替払契約に基づく債務の不存在確認を求める訴えであり,甲事件各反訴,乙,丙,丁事件各本訴請求(原告らに対して本件各立替払契約に基づき残立替金の給付を求める訴え)と同一の訴訟物に関するものであるから,上記請求は,確認の利益を欠くものとして不適法であり却下を免れない。

Ⅴ  抗弁の接続

1  本件各立替払契約は,被告らが,原告らのダンシングに対する本件布団の購入代金を立替払した上で,原告らから,2か月以上の期間にわたる3回以上の分割での支払を受けるものであるから,割賦販売法30条の4の「割賦購入あっせん」(同法2条3項2号)に該当する。また,本件布団は,割賦販売法施行令1条1項別表1第4号の「寝具」に該当するので,同法2条4項の「指定商品」に該当する。

2  上記Ⅱ認定のとおり,本件各売買契約とモニター会員契約等は,不可分一体の契約と解されるから,モニター会員契約等について生じた事由は本件各売買契約にも影響を及ぼし,その結果,本件各売買契約について本件各立替払契約を締結した被告らに対しても,その抗弁を対抗できるし,ダンシング商法が,指定商品である本件布団は引き渡されており,販売契約たる性質が失われた別の無名契約と評価することはできない。

3  割賦販売法30条の4の規定は,信販業者に対する関係で,消費者の利益を保護するためのものであり,かつ,同条において対抗を認める抗弁には制限がないのであるから,原告らは,特段の事情のない限り,前記認定の公序良俗違反を理由とする本件各売買契約の無効(抗弁)を主張して,被告らの各請求を拒むことができると解するのが相当である。本規定が設けられた趣旨は,商品の売買契約と立替払契約とは別個独立の契約であって,本来であれば,売買契約に無効,取消事由等のトラブルがあっても,割賦購入あっせん業者は,割賦金の支払を請求することができるというべきであるが,①割賦購入あっせん業者と販売業者との間には購入者への商品販売に関して密接な関係が継続的に存在していること,②このような密接な関係が存在するため,購入者はいわゆる自社割賦と同様に対抗事由が存する場合には支払請求を拒みうることを期待していること,③割賦購入あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,また,損失を分散・転嫁する能力を有していること,④これに対して,購入者は,購入の際に一時的に販売業者と接するにすぎず,また,契約に習熟していないし,損害負担能力が低いなど,割賦購入あっせん業者と比較して格段の能力差があることなどの諸事情にかんがみ,消費者の利益を保護することにある。また割賦購入あっせんにおいては,あっせん業者は,「あっせん行為」として購入者の信用を調査してその結果を販売業者に通知し,販売業者と購入者間の売買契約に向け積極的に関与しているといえるのであるから,抗弁の対抗を認める実質的根拠は,この「あっせん行為」についての責任を求めたものである。しかし,購入者が割賦購入あっせん業者に対して抗弁を主張することが信義則に反すると認められるような特段の事情がある場合には,抗弁対抗が許されない。本規定の趣旨及び目的に照らすと,この抗弁を主張することが信義に反するとして制限される場合とは,抗弁事由が信義則上保護に値しない購入者の一方的行為によって作出された場合やあっせん業者が予測しえない事由による場合,すなわち,購入者が販売業者と共謀して信販会社から立替金相当額を不正取得すべく仮装売買をして立替払契約を締結した場合や購入者と販売業者とが事後に法定解除の要件もないのに合意解除したような場合が該当するというべきである。したがって,信販会社である被告らと本件各立替払契約の締結に際し,購入者である原告らに何らかの過失や不注意があることでは足りないといわざるを得ず,また,信義に反する場合であるか否かの判断は信販会社である被告らにおいて,販売店であるダンシングの公序良俗に反する本件モニター商法に購入者が引き込まれないように加盟店に対する調査,管理の義務を尽くしたかどうかも考慮に入れた上で判断するのが相当である。

4  そこで,このような事情を検討するに,証拠(当該箇所に掲記の証拠〔書証については特にことわらない限り枝番号を含む。〕。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被告ら以外の信販会社について

ア ダンシングは,平成9年7月ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社(以下「GEコンシューマー」という。)との間で,平成9年8月株式会社アプラス(以下「アプラス」という。)との間で,各加盟店契約を締結した(甲29,30,40)。

イ アプラスは,平成9年9月,本件布団の購入者が,「子供のアトピーが治ると説明を受けたので,本件布団を買ったのに,治らない。」との苦情を消費者センターに持ち込んだことから,ダンシングとの加盟店契約を解消した。さらに,GEコンシューマーも,平成9年12月,ダンシングがモニター会員制度を採っていることを知って,ダンシングとの加盟店契約を解消した(甲93)。

(2) 被告クオークの事情について

ア 被告クオーク神戸支店は,平成9年3月28日,ダンシングとの間で,加盟店契約を締結した。ダンシングは,その時点では,モニター制度もビジネス制度も採用していなかった(甲31,40,47,93,101●●●社長の証人調書〕,丁1)。

イ 当時,被告クオーク神戸支店の営業課長であった●●●(以下「●●●課長」という。)は,平成9年11月まで1桁であったダンシングの取扱件数が,同年12月に44件,平成10年1月に54件,同年2月に106件と急増したことから,同月18日,ダンシングの販売方法を確認するため,●●●社長と面談した。

●●●社長は,●●●課長に対し,訪問販売を行っていたが業績が上がらないので,紹介販売に切り換えたこと,顧客が本件布団を購入してモニター会員となり,購入者を1人紹介すれば,紹介料として3万5000円を支給する,3か月以内に10人を紹介すると,10人分の紹介料35万円に加えて,報奨金49万円を支給する,モニターとは単に会員のことであり,モニター会員数は200人であるなどと説明した。なお,この説明は,ダンシングが既に採用していたモニター会員制度やビジネス会員制度とは異なっていた。

また,●●●課長は,●●●社長に対して,ダンシングがモニター会員に販売促進用等に渡している書類があれば提出するよう要請したが,●●●社長は,作成が未了であるとしてこれを拒んだ。

被告クオークは,システム販売(連鎖販売取引)にかかる立替払契約の締結はしない方針であったが,●●●社長の説明により,ダンシングはシステム販売(連鎖販売取引)をしていないと理解し,商品の納品も行われていることからダンシングとの加盟店契約に基づく取引を継続した。(以上,甲101〔●●●の証人調書〕,丁9ないし11)

ウ ●●●課長は,平成10年6月から,ダンシングの取扱件数が再び急増したことから,ダンシングの販売方法について再度調査することになり,●●●社長の了解を得て,同年7月9日,ダンシングの研修会に参加したが,●●●課長は,同研修会参加者の発言からも,ダンシングのモニター会員制度,ビジネス会員制度の実態を把握することができなかった(甲101〔●●●の証人調書〕,丁9ないし11)。

エ 平成10年7月14日,被告クオーク本社のお客様相談室に,匿名の電話で,ダンシングのモニターになれば月1回のマンスリーレポートへの回答とチラシ500枚の配布で,毎月3万5000円がもらえ,ビジネスコースに入ると7代目まで3パーセントの手数料が入ると聞いたが本当かなどとダンシングのモニター会員制度,ビジネス会員制度に関する問い合わせがあった。

これを受けて,平成10年7月16日,●●●課長らは,●●●社長に会い,ダンシングの販売方法について確認した。●●●社長は,●●●課長に対して,ビジネス会員制度については認めたものの,モニター会員制度については,そのようなばかげた販売方法を採用するはずがないといって,これを否定した。●●●課長は,ビジネス会員制度はいわゆるシステム販売(連鎖販売取引)であるとして,●●●社長に対し,ダンシングとの取引を中止する旨伝えたが,●●●社長は,取引の継続を強く要請した。(以上,甲101〔●●●の証人調書〕,丁9ないし11)

オ 被告クオーク本社も,神戸支店からの報告を受けて,平成10年8月7日,神戸支店に対して,ダンシングがシステム販売(連鎖販売取引)をしていることを理由に,ダンシングとの取引中止を指示した。

しかし,被告クオーク神戸支店は,●●●社長から取引の継続を強く要請されていること,突然撤退することにより生じる混乱を避けること,既にダンシングに渡していた立替払契約書は会員らに渡っており,回収が困難であることなどを理由に,直ちにダンシングとの取引を終了させることはせずに,回収できなかった契約書による立替払契約の申込みのみ受け付けることとして,その旨被告クオーク本社に報告し,その了解を取り付けた。

もっとも,被告クオーク神戸支店は,その後,ダンシングの顧客からの立替払契約の申込みについては,その審査を厳しくし,申込者の約5割と立替払契約を締結したにとどまった。しかし,それでも,その取扱件数は,平成10年8月が379件,同年9月が408件,同年10月が394件,同年11月が372件と推移した。

その後,平成10年12月に62件,平成11年1月に53件,同年2月に11件と,その取扱件数を減少させて行き,同年3月の17件を最後に,ダンシングとの加盟店契約を打ち切った。

(以上,甲52の2,甲53,80,101〔●●●,●●●の各証人調書〕,丁8ないし11)

カ 被告クオーク神戸支店では,平成10年7月ころから,毎月,ダンシングから,ダンシングの広報誌である「ヴィヴァ・ヴィータ」(甲22の2ないし5)の送付を受けていたところ,その紙面を一瞥しただけでは,ダンシングのビジネス会員制度やモニター会員制度の全容を正確に把握することは困難であった。そのため,被告クオーク神戸支店は,モニター会員制度及びビジネス会員制度の全容を正確に把握することができなかった(甲101〔●●●の証人調書〕,丁10)。

(3) 被告オリコの事情について

ア 従前から被告オリコとの間で加盟店取引を行っていたサンエス工業は,被告オリコに対して,ダンシングを紹介した。そこで,被告オリコ(大阪北支店)は,商業登記簿謄本を取り寄せて,法人の登記がなされていることの確認や,代表者,会社役員に関して被告オリコの保有する情報の照会,サンエス工業からの事情の聴取等を行った。平成10年4月始めには,被告オリコの●●●が,ダンシングの●●●社長と面会し,この際,●●●社長から,ダンシングは紹介販売をとっており,ビジネス会員は1名紹介ごとに2万円,10名紹介するとボーナスを加えて50万円を支払っているとの説明が口頭でなされた。そこで,被告オリコは,連鎖販売取引にかかる立替払契約の締結はしない方針であることから,●●●社長に対し,ダンシングの販売方法が連鎖販売取引か否か確認したが,同社長はこれを否定した。

このとき,被告オリコは,ダンシングから商品パンフレットを受領したのみであったが,ダンシングの販売方法には問題がないと判断して,平成10年4月3日,新たにサンエス工業を親番加盟店とし,ダンシングを子番加盟店とする,被告オリコ,ダンシング及びサンエス工業の三者間の契約(クレジット利用契約)を締結して,ダンシングの顧客との間の立替払契約の締結を開始した。

(以上,甲32,101〔●●●の証人調書〕,丙2)

イ その後,被告オリコは,ダンシングの顧客との立替金契約の件数が,平成10年4月が155件,同年5月が176件,同年6月が99件と高い水準であったことから,同月,サンエス工業及びダンシングについて,加盟店調査をすることとした。

そこで,被告オリコは,同年7月中旬,サンエス工業の社長を伴い,ダンシングを訪問した。その際,●●●社長は,モニター会員とは,布団を使って,その使用感,効果,効能を口コミで広めたり,チラシで広めたりさせるものであり,ビジネス会員は,新規顧客との間で契約を成立させるものであると説明をしたが,連鎖販売については一切ないと明確に否定し,サンエス工業の社長からもその旨の説明がなされた。被告オリコは,紹介手数料等が記載された書類を求めたが,●●●社長は,口頭で説明しているので,書類等は存在しないと答えた。また,顧客との間で取り交わしている契約書の提出も求めたが,これも存在せず,成約ベースで支払っているのみであると説明された。このような説明を受けたことや,連鎖販売であることを伺わせるようなクレームや問い合わせが一切なかったことから,被告オリコは,一応の納得をして取引を継続した。

(以上,甲80,101〔●●●証人調書〕,丙2)

ウ その後,ダンシングの取扱件数は,平成10年7月が69件,同年8月が297件,同年9月が294件,同年10月が1088件と推移したが,被告オリコは,ダンシングに対する調査を特に行わなかった(甲80,弁論の全趣旨)。

エ ダンシングは,被告オリコに対して「ヴィヴァ・ヴィータ」(甲23の1ないし8)の送付するようになった。

しかし,その紙面を一瞥しただけでは,ダンシングのビジネス会員制度やモニター会員制度の詳細を正確に把握することは困難であり,被告オリコは,ダンシングのモニター会員制度及びビジネス会員制度の全容を正確に把握できなかった(甲101〔●●●の証人調書〕,丙2)。

オ 平成10年10月中旬ころ,顧客から,被告オリコのお客様相談室に,モニター会員契約の存在やモニター料に関する問い合わせがあり,被告オリコは,ダンシングのモニター会員制度が,これまで●●●社長が説明していた内容と全く異なっていることを知った。

そこで,被告オリコは,直ちに●●●社長から,モニター会員制度を始めとするダンシングの布団販売方法について聴取したところ,同社長は,被告オリコに対し,ビジネス会員制度が連鎖販売取引類似の制度ではあるが,連鎖販売取引のように組織化されていないと答えるとともに,モニター会員は,全布団購入者の一,二割程度であり,今後順次ビジネス会員に切り換えていき,来年度には廃止する旨説明した。

この際,被告オリコ(●●●支店長)は,各会員制度の内容を記載した概要書面があると考えて,●●●社長に対し,概要書面の提出を求めたが,同社長は概要書面は作成していないと言って,その提出を拒んだ。

(甲101〔●●●の証人調書〕,丙2)

カ そこで,被告オリコは,平成10年11月中旬,●●●社長に対し,一定の猶予期間をもって,連鎖販売取引類似のビジネス会員制度を中止し,販売代理店として契約を転換すること,今後はモニター会員契約にかかる立替払契約は受け付けないことを申し入れた。しかし,同年12月中旬になっても,改善が確認されなかったことから,平成11年1月中旬,サンエス工業の社長に対し,同年2月末をもって,ダンシングの顧客が被告オリコのクレジットを利用することを終了する旨,通告した。

そして,被告オリコは,平成11年3月以降,ダンシングの顧客からの新規の立替払契約の申込みを受け付けなかったことから,同年3月の取扱件数は12件にとどまった。なお,平成10年11月以降の立替払契約の件数は,平成10年11月が701件,同年12月が562件,平成11年1月が369件,同年2月が119件,同年3月が12件であった。

(以上,甲40,52の2,甲53,54,80,101〔●●●,●●●の各証人調書〕,丙2,4,弁論の全趣旨)

(4) 被告ファインの事情について

ア 被告ファインの本社第二営業部主任●●●(以下「●●●主任」という。)は,新規顧客の開拓のため,平成10年8月21日,ダンシング東京営業所を訪問して,●●●東京営業所長(以下「●●●営業所長」という。)と面談し,同所長から,ダンシングが,連鎖販売取引の方法により布団を販売している旨の説明を受けた。

被告ファインは,東京商工リサーチに調査を依頼したが,その結果特に注意を要する点や異常な点はなかった。

被告ファインは,同年9月17日,再びダンシング東京営業所を訪問し,●●●営業所長から,概要書面等を受領した。概要書面には,モニター会員制度やビジネス会員制度に関する記載があったが,モニター会員制度については,月3万5000円のモニター料を24か月間にわたって受け取れるなどという説明に加えて,本件布団を使用するだけの単なる会員の説明もあった。

被告ファインは,同月30日,加盟店契約の条件を詰めるため,再度ダンシング東京営業所を訪問し,●●●営業所長にモニター会員とはどのようなものであるか尋ねた。●●●営業所長は,被告ファインに対し,モニター会員は広告,宣伝のためのものであり,ビジネス会員がほとんどであるなどと説明した。

(以上,甲101〔●●●の証人調書〕,乙16,18)

イ そこで,被告ファインは,ダンシングが行っている連鎖販売取引は,旧訪問販売法の要件を満たした適法なものであり,モニター会員も全布団購入者の僅か1パーセント以下に過ぎず,被告ファインのクレジットを利用する顧客には,モニター会員やビジネス会員はいないものと考え,平成10年10月10日付けで,ダンシングとの間で加盟店契約を締結した(甲33,101〔●●●の証人調書〕,乙18)。

ウ 被告ファインの取扱件数は,平成10年11月が455件,同年12月が967件,平成11年1月が1048件,同年2月が1841件と,被告ファインの予想を大幅に超えるものであった(甲80)。

しかし,被告ファインは,平成10年10月16日,ダンシングの本社で,●●●社長から,ダンシングの布団の販売実績が伸びており,さらに全国に営業所の展開を進めているので,被告ファインとの取引も多くなるとの説明を受けていたことから,異常な増加ではないと考えていた。

これに加えて,被告ファインは,ダンシングの顧客からの苦情が全くなく,立替金の支払がほぼ遅滞なくなされていることから,ダンシングの販売方法に問題はないと考えていた。

(以上,乙16,18,21,22)

エ ところが,平成11年2月1日,匿名の男性から,被告ファインの営業課に,モニター料として月1回のマンスリーレポートを提出すれば毎月3万5000円がもらえる,信販会社がクレジット代金の支払について保険をかけているので商品代金は保証されると聞いたが事実なのかとの電話があった。

被告ファインの取締役で,第2営業部長の●●●(以下「●●●取締役」という。)は,上記電話報告を聞き,ダンシングの説明とは異なることから,●●●主任に対し,上記電話内容についてダンシングに確認するようにと指示した。

そこで,●●●主任が,電話で確認したところ,ダンシングの総務部長は,●●●主任に対し,広告,宣伝のため,モニター会員を募集し,商品の研究や開発のためにレポートを提出してもらっているが,信販会社がクレジット代金の支払について保険をかけているなどという販売トークはしていない,販売員への指導を徹底すると答えた。

(以上,乙16,17,19)

オ しかし,被告ファインは,平成10年12月以降,ダンシングの取扱件数が急増していることから,総務部長の説明だけでは納得がいかず,平成11年2月13日,●●●主任と共にダンシング本社に出向き,●●●社長,総務部長と面談して,ダンシングのモニター会員数と,支払われる報酬等を尋ねた。

これに対して,●●●社長は,被告ファインに対し,会員数が1万3000人で,そのうちモニター会員が5000人である,大半のモニター会員が二,三か月でビジネス会員に移行すると説明した。

被告ファインは,当初の説明とは異なり,モニター会員が5000人もいると聞いて驚き,●●●社長に対して,その裏付けとなる会員名簿等の提出を求めたが,●●●社長はこれを拒んだ。

(以上,乙16,17,19)

カ そのため,被告ファイン(●●●取締役)は,●●●社長の説明に納得がいかず,平成11年2月16日,被告ファインの社員に命じて,立替払契約の申込者20人に電話でモニター会員か否か確認させたところ,全員がモニター会員であることが判明した。その後,引き続き同様の方法で,同申込者270人から280人に対して確認させたところ,約8割がモニター会員であることが判明した。

そこで,被告ファイン(●●●取締役)は,翌17日,●●●社長に対し,同月20日締め分以降の清算金の支払を留保する旨,電話で申し入れ,さらに,同年3月10日付け書面(乙3)で,ダンシングに対し,販売方法に関する懸念が解消するまでの間,ダンシングに対する立替払金の支払を留保する旨を通知した。

(以上,乙3,17,19,21)

キ なお,被告ファインは,ダンシングから,「ヴィヴァ・ヴィータ」の送付を受けていない(乙21)。

5  検討

(1) 被告らの事情について

上記Ⅳ3判示のとおり,信販会社は,販売店との間で加盟店契約を締結し,業務提携するにあたっては,自己の与信供与が販売店によって不当に利用されることを未然に防止するため,販売店の信用調査を十分に行う義務があるところ,

ア 被告クオークは,上記4(2)認定のとおり,平成10年2月には,ダンシングが紹介販売を取り入れた旨を確認しながら,その内容について●●●社長から説明を受けたにとどまったところ,取扱件数が急激に増加した事実に照らせば,さらなる加盟店調査を行うべきであったのにこれをしなかった点には,落度があるといわざるを得ず,その後,同年7月には,モニター会員契約等の存在を知り,同年8月には,取引停止の方針を打ち出しながらも,●●●社長からの強い要請等があったことから,ダンシングとの取引を継続したことには重大な落度があったといえる。

イ 被告オリコは,上記4(3)認定のとおり,平成10年4月に取引を始めるに当たり,ダンシングが紹介販売を取り入れていることについて説明がなされたにも関わらず,口頭による確認を行ったにとどまり,決算書や概要書面等について確認を行わなかったことには落度があるといわざるを得ない。また,同年7月中旬には,契約件数が高い水準であったことに基づき調査を行った際,紹介手数料が記載された書面や契約書等の提出を求めたものの,ダンシングがそのような書面を作成していないとの回答したため,これを軽信し,十分な調査を行わなかった点には,加盟店調査に落度があるといえる。そして,同年10月には,電話によりモニター会員契約等についての問い合わせを請け,再度調査を行ったにもかかわらず,ダンシングの●●●社長からの連鎖取引販売ではないとの言葉を安易に信じ,取引を継続した点には,加盟店管理に重大な落度があるといえる。

ウ 被告ファインは,上記4(4)認定のとおり,平成10年9月にダンシングとの加盟店契約締結に当たり,ダンシングがモニター会員契約等の行っていることを知りながら,純粋に布団のみを購入する者が存在すること,モニター会員はごく僅かであり,ビジネス会員がほとんどであるとの説明を●●●社長から受け,これを軽信し,さらに詳細な調査等を行うことなく,同年10月には,ダンシングとの間で加盟店契約を締結したのであり,加盟店調査義務に違反する重大な落度があったといえる。

すなわち,被告らには,それぞれ加盟店調査義務や加盟店管理義務を十分に果たさないまま,ダンシングとの加盟店契約を締結し又は取引を継続した落度がある。

(2) モニター会員について

ア 原告らのうち,原告●●●及び同●●●を除く者らは,モニター会員契約をダンシングとの間で締結し,その後もモニター会員契約を維持し続けた。同原告らは,上記のとおり,モニター会員契約の存在を被告らに告げることなく本件各立替払契約を締結し,結果的にダンシング商法に協力することになったことが認められるが,これは消費者の軽率さや経済的弱み,勧誘者との人間関係を壊したくないなどの義理人情等につけこんだダンシングの組織的で巧みな勧誘により,上記Ⅰ1(2)のとおり,ダンシングのモニター商法に次々と利用されるために引き込まれたということができる。原告らの個々人の事情を見れば,モニター会員の原告らは,原告●●●を除き,ダンシングからモニター料が支払われなくなったと同時に立替金の支払を停止しており,現段階で何ら現実的な損害が発生していないばかりか,支払われたモニター料と既払立替金との差額を利得した状況にあり,本件布団も所持している。仮に原告らにおいて立替金の支払をしたとしても,本件布団を所持し続けることとこれまでの利得を考慮すれば,実質的に大きな損害が生じないともいえなくもない。また,原告らにおいて,支払われることを期待していたモニター料が支払われないことをもって損害ということができないことは明白である。

しかし,実際に,何回か立替金を上回るモニター料を受け取ったことは,これについてもビジネス会員などのダンシングの販売員らから,宣伝費の削減のためであるなどと言葉巧みに告げられたため,本件布団の使用感等に関するレポートの提出やチラシの配布などに対する対価であると信じさせられてこれを受け取ったものとみられる。モニター料の支払を受けたことは軽率というほかないが,これをもって直ちに不当な利得であるとまではいえない。

また,本件においては売買目的物である本件布団は,購入者に引き渡されており,加盟店の資金繰りのため,架空の売買契約について信販会社から立替払金を得ることを目的として,購入者が了解の上で架空の売買契約について立替払契約を締結するといういわゆる名義貸しなどとは明らかに事情が異なる。

原告らは,本件布団を所持しているが,ダンシングと原告らの本件各売買契約が無効である以上,本件布団の所有権はダンシングに帰属するものであり(ただし,ダンシグからの返還請求は不法原因給付によるものとして認められないと解される。),原告らが本件布団を現実に手元に所持していることは,法的に権限があるとはいえない。

そうすると,原告らに現段階で現実的な損害が発生していないこと等の事情は,原告らが被告らに対して抗弁の接続を主張することに対してさほど影響を与える事実ということができない。

なお,被告クオークは,特に原告●●●について,同原告は自己の母親から勧誘されてダンシングとの間でモニター会員契約及び本件布団の売買契約を締結したことからすれば,ダンシング商法を十分知り得たはずであり,抗弁の接続を主張することは信義則に反すると主張する。この点,原告●●●がその母親の勧誘により,ダンシングとの間で本件売買契約及びモニター会員契約等を締結したことは争いがないが,これをもって,原告●●●が,他のモニター会員である原告らと異なり,ダンシング商法が公序良俗に反するものであることを認識して契約したと認めることまではできず,被告クオークの主張は理由がない。

イ 以上(1),(2)アの事情を総合考慮すれば,確かにモニター会員である原告らには,ダンシングの合理性を欠く説明等を安易に信じ,多額のモニター料に目を奪われダンシングとの間で本件各売買契約及びモニター会員契約を締結した軽率な面があり,個々人については,善良な消費者とはいいがたいにしても,ダンシング商法が組織的に一定期間にわたり大勢のモニター会員を誘い込むことで成り立ちえたもので全体として公序良俗に反するものであったと評価できること,原告らが立替払契約の不正利用によって信販会社に損害を及ぼすことを認識しながら,その手続や利得の分配に自ら積極的に加担したとまではいうことができないといえること,被告らには加盟店調査義務や加盟店管理義務を果たしていなかったとの落度があることからすれば,被告らは,ダンシング商法による被害を同原告らに転嫁することは許されない。同原告らには,割賦販売法30条の4の抗弁の接続を主張できなくなるほどの信義則に反する背信的な事情があるとは認められない。

したがって,原告らのうち,原告●●●及び同●●●以外の者は,本件各売買契約が公序良俗に反するものとして無効であることを被告らに対して対抗することができ,上記原告らに対する被告らの立替金の請求はいずれも認められない。

ウ 割賦販売法30条の4における抗弁の接続は,法が購入者保護の観点から,創設的に,購入者が信販会社から立替払契約に基づく立替金支払の請求を受けた場合に,一定の要件の下,立替払契約とは別個の契約に関する事由であって本来当然には対抗することのできない売買契約につき販売会社に対して生じている事由を抗弁として対抗できることとしたものであり,その趣旨及び規定の文言からすれば,売買契約における問題が解決されるまでの間,一時的に信販会社に対して未払割賦代金の支払を拒絶できることとしたものと解され,これを超えて,抗弁権の行使により実体的に,売買契約とは別個の契約である本件各立替払契約に基づく債権債務自体が消滅するものと解することはできない。

よって,同原告らの,予備的請求のうち,被告らからの取立禁止を求める第2次的請求については理由がない。

(3) ビジネス会員について

ア ビジネス会員は,紹介手数料を得ることを目的に,新規の顧客を勧誘し,ダンシングとの間で,本件布団の売買契約やモニター会員契約等を締結させ,勧誘の際にはモニター会員に対して,信販会社に対してモニター会員契約の存在について話さないように口止めし,被告らにモニター会員契約の存在を悟られないようにするなどしていたのであり,いわば,公序良俗に反するダンシング商法に自ら積極的に加担し,ダンシング商法を支える地位にあったものであるといえる。したがって,このような立場にあるビジネス会員が信販会社に対してダンシング商法の公序良俗違反を理由に抗弁を主張することは,信義則に反し許されない。

原告●●●については,当初,モニター会員契約を締結し,その後に,ビジネス会員契約へと切り替えた者であることは認められるが,その後,自己の友人らを勧誘し,そのうち2名についてはダンシングとの間で契約を成立させているのであるから,当初モニター会員契約を締結していたことにより事情を異にする理由はない。また,原告●●●についても,同様に当初モニター会員契約を締結し,その後,ビジネス会員契約へ切り替えた者であることは認められるが,同原告についても,ビジネス会員契約へと切り替えたことによりダンシング商法に積極的に参加し,これを支える立場にあったことは同様である。よって,原告●●●及び同●●●については,被告らに対し,ビジネス会員契約が無効であることをもって被告オリコに主張することはできない。

また,同原告らの予備的請求のうち,被告オリコからの取立禁止を求める第2次的請求については理由がない。

Ⅵ  ビジネス会員らに対する立替金請求について

1  争いのない事実,甲102(O8),109,丙3の8,原告●●●の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば,原告●●●は,平成10年11月11日,被告オリコとの間で,シングルサイズの本件布団代金37万8000円,分割手数料5万4432円,支払期間平成10年12月から平成12年11月まで,毎月の支払日27日,分割回数24回,遅延損害金を年6分とする立替払契約を締結したこと,未払立替金は32万4000円であることが認められる。

したがって,原告●●●は,被告オリコに対し,立替金32万4000円及びこれに対する平成12年11月28日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を負うことが認められる。

2  争いのない事実,甲102(O50),丙3の50及び弁論の全趣旨によれば,原告●●●は,平成10年8月26日,被告オリコとの間で,ダブルサイズの本件布団代金48万3000円,分割手数料6万9552円,支払期間平成10年9月から平成12年9月まで,毎月の支払日27日,分割回数24回,遅延損害金を年6分とする立替払契約を締結したこと,未払立替金は25万3000円であることが認められる。

したがって,原告●●●は,被告オリコに対し,立替金25万3000円及びこれに対する平成12年9月28日から支払済みまでの遅延損害金の支払義務を負うことが認められる。

Ⅶ  原告●●●の不法行為に基づく損害賠償請求について

1  原告●●●は,平成11年7月23日,被告クオークに対し,割賦販売法30条の4に基づき支払を拒絶する旨の通知を行ったが,被告クオークが従前,原告●●●が立替金の引き落としのために使用していた銀行から引き続き引き落としを継続したため,残代金が引き落とされたことについて,被告クオークの行為は不法行為を構成すると主張する。

2  しかしながら,支払拒絶の通知は,これにより支払停止の効果が発生し,遅延損害金の支払義務が発生しない等の効果が発生するにすぎないものであり,信販会社に対する未払分の立替払債務が消滅するとまでは解することができない。したがって,支払拒絶の通知が到達した後に,原告●●●が従前からの引き落とし口座に金員を用意していたことから,被告クオークが口座引き落としの方法による支払を受け続けていたとしても,その行為が不法行為を構成することはなく,上記主張には理由がない。

Ⅷ  結論

1  原告らの請求について

(1) 甲事件本訴請求のうち原告らが被告らに対し,既払立替金の返還を求める主位的請求,乙丙丁事件各反訴請求は,上記Ⅳ4のとおりいずれも理由がなく,原告●●●の損害賠償請求も上記Ⅶ2のとおり理由がないから,いずれも棄却する。

(2) 甲事件予備的請求のうち,第1次,第3次,第4次請求は,上記Ⅳ5のとおりいずれも確認の利益を欠く不適法な訴えであるから却下する。

(3) 甲事件予備的請求のうち,第2次請求は,上記Ⅴ5(2)(3)のとおり,いずれも理由がないから棄却する。

2  被告ファインの請求について

甲事件第1反訴請求及び丁事件各本訴請求は,上記Ⅴ5(2)のとおり,いずれも理由がないから棄却する。

3  被告オリコの請求について

(1) 甲事件第2反訴請求のうち,上記Ⅴ5(3),Ⅵのとおり,ビジネス会員である原告●●●及び同●●●に対する請求は理由があるから認容し,その余の請求は,上記Ⅴ5(2)のとおり,いずれも理由がないから棄却する。

(2) 乙事件本訴請求及び丙事件各本訴請求は,上記Ⅴ5(2)のとおり,いずれも理由がないから棄却する。

4  被告クオークの請求について

甲事件第3反訴請求は,上記Ⅴ5(2)のとおり,いずれも理由がないから棄却する。

5  訴訟費用の負担について,民訴法61条,64条,65条1項本文を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用する。

(裁判長裁判官 稻葉重子 裁判官 島村典男 裁判官 永井美奈)

<以下省略>

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