大津地方裁判所 平成15年(行ウ)3号 判決 2005年2月07日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
南出喜久治
被告
滋賀県
同代表者知事
國松善次
被告
滋賀県知事 國松善次
被告ら訴訟代理人弁護士
宮川清
同
中川幸雄
同
吉田和宏
同
田口勝之
同訴訟復代理人弁護士
中原淳一
同指定代理人
藤岡康弘
同
澤田宣雄
同
馬淵英明
主文
1 原告の被告滋賀県に対する訴外滋賀県漁業協同組合連合会への外来魚駆除事業に関する昭和60年度から平成14年度までの各公金支出行為の無効確認請求にかかる訴えをいずれも却下する。
2 原告の被告滋賀県知事に対する訴外滋賀県漁業協同組合連合会への外来魚駆除事業に関する昭和60年度から平成12年度までの各公金支出及び平成13年度の各公金支出のうち滋賀県外来魚駆除作戦緊急対策事業(外来魚繁殖抑制対策事業)に関する補助金支出部分について被告滋賀県知事が各支出額の金員の返還を求めることを怠る事実の違法確認請求にかかる訴えをいずれも却下する。
3 原告の被告滋賀県知事に対する滋賀県漁業協同組合連合会への外来魚駆除促進対策事業費補助金、外来魚回収処分事業費補助金及び外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創出事業)委託契約金に関する平成14年度及び平成15年度の公金支出の差止め請求にかかる訴えをいずれも却下する。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
(原告)
1 被告滋賀県が、昭和60年度から昭和63年度までは有害水産動物駆除事業として、平成元年度から平成3年度まではビワバス総合対策事業として、平成4年度から平成6年度までは外来魚総合対策事業として、平成7年度から平成10年度までは外来魚資源仰制対策事業として、平成11年度から平成13年度までは外来魚駆除作戦緊急対策事業として、平成14年度は外来魚駆除促進対策事業、外来魚回収処分事業及び外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創設事業)として、訴外滋賀県漁業協同組合連合会に補助金及び委託契約金の名目で支払われた被告滋賀県知事の支出行為はいずれも違法無効であることを確認する。
2 被告滋賀県が、昭和60年度から昭和63年度までは有害水産動物駆除事業として、平成元年度から平成3年度まではビワバス総合対策事業として、平成4年度から平成6年度までは外来魚総合対策事業として、平成7年度から平成10年度までは外来魚資源仰制対策事業として、平成11年度から平成13年度までは外来魚駆除作戦緊急対策事業として、平成14年度は外来魚駆除促進対策事業、外来魚回収処分事業及び外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創設事業)として、訴外滋賀県漁業協同組合連合会に補助金及び委託契約金の名目で支払われた支出額の返還を求めることを被告滋賀県知事が怠る事実はいずれも違法無効であることを確認する。
3 被告滋賀県知事は、訴外滋賀県漁業共同組合連合会に対し、平成14年度以降の外来魚駆除促進対策事業費補助金、外来魚回収処分事業費補助金及び外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用割出事業)による補助金及び委託契約金を支出してはならない。
(被告ら)
1 原告の上記2項の請求及び3項のうち平成14年度及び平成15年度の補助金及び委託契約金の支出の差止め請求にかかる訴えをいずれも却下する。
2 原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
本件は、被告滋賀県(以下「被告県」という)の住民である原告が、被告県の外来魚駆除事業に関する各公金支出は、違法・違憲であると主張して、地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項2号に基づき被告県に対し昭和60年度から平成14年度までの上記各公金支出行為の無効確認(以下「2号請求」という。)を、同項3号に基づき被告滋賀県知事(以下「被告知事」という。)に対し上記各公金支出にかかる支出額の返還を求めることを怠る事実の違法確認(以下「3号請求」という。)を、同項1号に基づき被告知事に対し平成14年度以降の上記事業に関する公金支出行為の差止め(以下「1号請求」という。)をそれぞれ求めた事案である。
Ⅰ 前提事実(末尾に証拠を掲記した事実の他は当事者間に争いがない。)
1 当事者
(1) 原告は、被告県の住民である。
(2) 被告知事は、被告県の執行機関である。
2 監査請求の経緯及び本訴の提起
(1) 被告県の住民であるAら3名は、平成14年9月10日、滋賀県監査委員に対し、昭和60年度以降、被告知事及び被告県水産課職員が、有害水産動物駆除事業等の外来魚駆除に関する各事業について、滋賀県漁業協同組合連合会(以下「県漁連」という。)に対し、補助金として、違法かつ不正な公金支出を行っているとして、今後の支出の中止及び支出した公金の返還、その他相当な措置を求める旨の住民監査請求を行った(以下「監査請求1」という。)。
滋賀県監査委員は、Aら3名に対し、上記公金支出のうち、昭和60年度から平成12年度までの支出にかかる部分は、法242条2項所定の監査請求期間を経過し、同項ただし書の「正当な理由」もないから、不適法であるとして却下し、その余の部分は、理由がないとして棄却する旨の平成14年11月7日付監査結果を通知した。
(2) 原告は、平成14年12月6日、滋賀県監査委員に対し、昭和60年度以降、被告知事及び被告県水産課職員が、上記(1)の外来魚駆除に関する各事業について、県漁連に対し、補助金及び委託契約金として、違法・違憲な公金支出を行っているとして、その支出の中止及び支出した公金の返還、その他相当な措置を求める旨の住民監査請求を行った(以下「監査請求2」という。)。
滋賀県監査委員は、原告に対し、昭和60年度から平成12年度までの各補助金及び委託料並びに平成13年度の外来魚繁殖抑制対策事業費補助金の支出にかかる請求部分は、法242条2項所定の監査請求期間を経過し、同項ただし書の「正当な理由」もないから、不適法であるとして却下し、その余の部分は、監査請求1の監査結果の公表公告をもって監査結果とする旨の平成15年1月31日付け監査結果を通知した。なお、監査請求1及び2は、いずれも同一の公金支出行為に関する請求である。(〔証拠略〕)
(3) 原告は、平成15年3月3日、本訴を提起した。
3 公金支出
被告知事は、被告県の機関として、昭和60年度以降、県漁連の外来魚駆除事業について、以下のとおり、相当額の補助金等を支出している。
平成14年9月20日付公文書一部公開決定(〔証拠略〕)により明らかになった各年度の支出額は、平成元年度がバス流通加工対策事業費補助金等につき合計700万円、平成2年度がビワバス流通加工対策事業費補助金等につき合計700万円、平成3年度がビワバス漁獲促進対策事業費補助金等につき合計1900万円、平成4年度が外来魚漁獲促進対策事業費補助金等につき合計2060万円、平成5年度が増殖場等外来魚駆除事業費補助金等につき合計2087万円、平成7年度が増殖場等外来魚駆除事業費補助金につき1120万円、平成8年度が同事業費補助金につき1200万円、平成9年度が沿岸漁業構造改善事業費補助金につき1200万円、平成10年度が同補助金につき600万円、平成11年が同補助金等につき合計4084万8000円、平成12年度が外来魚漁獲促進対策事業費補助金等につき合計4266万0450円であり、平成13年度以降も、県漁連に対する補助金等の支出が行われている(以下、上記各事業を「本件各外来魚駆除事業」、各公金支出を「本件各公金支出」という。)。
平成13年度の支出のうち、外来魚繁殖抑制対策事業費補助金350万円は、平成13年9月7日に支出命令がされ、同月12日までに支払われ、その余は、概算払いによる支出分をのぞき、監査請求2がされた日の1年前の日である同年12月6日以降に支出された。
なお、昭和60年度ないし昭和63年度及び平成6年度の各支出金額は、保存期間経過により文書が廃棄されているため不明である(同各年度の各事業及び各公金支出を含めて「本件各外来魚駆除事業」及び「本件各公金支出」ということもある。)。(〔証拠略〕)
Ⅱ 争点
1 本案前
(1) 2号請求にかかる訴えの適否。
(2) 3号請求にかかる訴えに法242条2項本文が適用されるか。適用される場合、監査請求期間経過後の支出分について、同項ただし書の「正当な理由」があるか。
(3) 1号請求のうち、平成14年度及び平成15年度の各公金支出の差止めを請求する部分にかかる訴えについて、訴えの利益があるか。
2 本案
本件各公金支出の適否。
Ⅲ 争点に対する当事者の主張
1 争点1(1)
(原告)
2号請求は、被告県に対する請求である。原告は、本件各公金支出等の原因となった滋賀県と県漁連との間の法律関係(公金支出処分行為)が無効であることの確認を求める。
(被告ら)
争う。
2 争点1(2)
(原告)
原告の監査請求期間経過後の支出部分の請求にかかる訴えは、以下のとおり法242条2項ただし書の「正当な理由」があり適法である。
本件各公金支出の根拠となる補助金交付要綱や外来魚駆除事業の外来魚回収作業は一般に公開されていないため、一般県民としては、滋賀県情報公開条例施行後も、本件各公金支出が、水増し請求に対応して行われているなどという具体的な実態を知り得る状態になかった。このように秘密裏に行われた公金支出に対する監査請求は、単に外形的な支出行為だけでなく、その行為の具体的実態を知ることが必要であり、一般県民がその具体的実態を知った時を基準に相当期間内に監査請求をすれば、同項ただし書の「正当の理由」がある。
本件各公金支出については、県民の一人であるAが、平成14年3月28日に特別許可を得て行った外来魚回収場の見学で大量の在来魚が混入されているのを発見したのを契機に、一般県民がこの実態を周知し得る相当期間が経過した時点が基準となる。
原告は、Aから監査請求1の結果の報告を受けた日から起算して僅か1か月弱しか経過していない平成14年12月6日に監査請求2を行った。また、Aが上記回収場を見学した日から起算しても約9か月しか経過していない。
したがって、監査請求2は、同項ただし書の「正当な理由」があり、原告の訴えはいずれも適法である。
(被告ら)
本件各公金支出のうち、平成12年度以前の補助金及び契約委託金並びに平成13年度のうちの外来魚繁殖抑制対策事業補助金部分は、監査請求期間経過後のものであり、法242条2項ただし書の「正当な理由」もないから、同支出部分の請求にかかる訴えは、いずれも不適法である。
上記各支出部分やそれに対応する外来魚駆除事業は、毎年度県議会の議決を経た予算に基づいて、公然と行われており、県民は、十分にこれを知り得たはずであり、原告主張の事情は「正当な理由」に当たらない。
3 争点1(3)
(被告ら)
平成14年度及び平成15年度の補助金及び契約委託金は、既に支出されており、1号請求のうち上記各年度の支出差止請求にかかる訴えは、訴えの利益を欠き不適法である。
4 争点2
(原告)
本件各公金支出は、以下のとおり違法・違憲である。よって、原告は、前記第1記載の各裁判を求める。
(1) 本件各外来魚駆除事業自体の違法性
ア オオクチバスを駆除する必要性はない。
(ア) 被告は、外来魚としてオオクチバスとブルーギルを駆除の対象としているが、オオクチバスは減少傾向にあり増加していない。
琵琶湖では、環境負荷への増大に伴ってオオクチバスも在来魚と共に減少しており、外来魚の絶対数が増加し、在来魚のそれが減少しているという事実はない。在来魚とオオクチバスの減少率は比較的高く、ブルーギルの減少率は比較的低いという琵琶湖の現状を踏まえれば、ブルーギルとオオクチバスとを区別して科学的に検討する必要があり、単にオオクチバスとブルーギルを一括りに外来魚に分類して、在来魚の相対的減少と外来魚の相対的増加という概括的な二元的判断を行っても琵琶湖の実態を正確に把握することはできない。
(イ) 在来魚の減少とオオクチバスの増加との間には因果関係がないか、あるいは、未だ因果関係の科学的な解明はなされていない。
在来魚の減少は、主として、<1> 人為的な開発行為(琵琶湖総合開発等)による在来魚の産卵場所の急激な減少、<2> 漁業技術の革新による在来魚の乱獲、<3> 開発行為等による汚水、汚物、有害化学物質等の流入による水質悪化、<4> 外来魚駆除事業等による巻き添え死滅という複合的要因による。因果関係は、多様かつ複雑に形成されており、オオクチバスが在来魚を捕食するという単線的な因果関係ではない。食物連鎖とは小型種から中型種、さらに大型種というような単線的かつ一方的な捕食の連鎖ではなく、小型種の成魚が中型種や大型種の卵や稚魚を捕食したり、在来魚と外来魚の異種間同士の捕食や、飽和絶滅を回避するために外来魚同士が共喰いするなどの複合的な構造を有しており、昭和61年から同63年ころにはオオクチバスがモロコやフナと共生していたこと、採捕したオオクチバスを開腹してもケイ藻類しか出てこなかったという漁業関係者の証言も存することからして、オオクチバスが一方的に在来魚を捕食するという単純な食物連鎖論は成立しない。
また、ブルーギルの増大は、ブルーギルが環境負荷に強い種であり、他の魚類と比較して強い繁殖力を有していることの結果にすぎず、オオクチバスが在来魚を捕食するという食物連鎖論とは何ら関係がない。
また、被告が提出したオオクチバスの生息状況等に関する学術論文等は、いずれも、オオクチバスの増加に関する科学的なデータがないなど、オオクチバスの増加と在来魚の減少の因果関係を科学的に基礎づける資料とはいえない。
(ウ) 漁獲量の減少と外来魚の増加には因果関係はない。
漁獲量の減少は、需要の減少などに左右されており、外来魚の増加とは何ら因果関係がない。
漁獲量から魚の個体数や現在量を推定することはできないし、被告が提出した近畿農政局滋賀統計情報事務所作成の漁獲量に関する統計資料(〔証拠略〕)は、漁獲量の定義が明らかでないなど、在来魚及び外来魚の生息数の増減を判断するための資料足りえない。
(エ) 平成14年度の滋賀県緊急雇用創出特別対策事業として実施された外来魚繁殖阻止対策事業は、従来の外来魚駆除事業に対する補助金を別名目で追加支出することを企図して行われたもので、雇用対策を目的としていない。雇用需要がある業種、職種は外来魚駆除に限らず多数存在しており、繁殖阻止対策事業を「緊急」の事業として実施する必要性はない。県内の失業者は、漁業関係者以外の者が圧倒的に多いにもかかわらず、被告県は、漁業関係者のみを、同事業の労働者として雇用して、高額な賃金を支払っており、このような特別扱いは、他の失業者に対する不合理な差別であって、憲法14条、地方公務員法13条に違反する。
また、実際の労働者の作業時間は、1日に1時間から2時間にすぎないにもかかわらず、日当1万円という不当に高額な賃金が支払われている。また、県漁連や漁業従事者の協力が不可欠であるとの名目で、協力者に対しても相当額の金員が支出されている。
イ 外来魚駆除事業における、外来魚の採捕方法は、在来魚の保護という目的を達成するための手段として不合理である。
すなわち、採捕方法は、外来魚と区別することなく大量の在来魚をも一網打尽に採捕するエリ、刺網などの漁法であって、これらは、大量の在来魚を死滅させる結果を招く方法である。1日の捕獲魚のうち在来魚の混入率は全体の33.8パーセントを占め、平成12年度には、少なくとも約64トンもの大量の在来魚が巻添え死滅に至っている。県漁連は、在来魚混入の事実を自認しているし、Aは、近江八幡漁業協同組合(以下漁業協同組合を「漁協」という。)内、守山漁協内、三和漁協内の各回収場において捕獲魚に大量の在来魚が混入している事実を発見している。在来魚の混入は、上記採捕方法からして必然的かつ恒常的な問題であり、偶然の一回的な事態ではない。釣り人やその団体に委託して釣りによる採捕を選択すれば、外来魚のみを駆除することができる。上記のような漁業者が得意とするえりや刺し網などの漁法を選択しなければならない必要性や合理性はない。
また、捕獲魚は、在来魚と外来魚とに選別されず、一括して容器に納められて回収処分されている。
(2) 県漁連の水増し請求
前記(1)イのとおり、外来魚駆除事業による捕獲魚には、在来魚が大量に混入している。県漁連は、外来魚にこれらの大量の在来魚と大量の湖水を併せて外来魚捕獲量として計測し、被告県に対し、水増し請求を行っている。県漁連は、少なくとも、過去に水増し請求を行ったことを認めている。また、県漁連は、平成14年度の外来魚繁殖阻止対策事業の作業員が捕獲した外来魚を県漁連が事業主体として実施している外来魚駆除促進対策事業による外来魚捕獲量に加算して、被告県に対し、水増し請求を行っている。
(3) 滋賀県補助金等交付規則(〔証拠略〕、以下「交付規則」という。)違反被告知事は、交付規則13条に基づき、外来魚駆除事業の成果が補助金等の交付の内容やこれに付した条件に適合するか否かを調査して交付すべき補助金等の額を決定しなければならない。
しかしながら、被告知事は、同条に違反し、本件各事業について必要な調査等を行わず、その金額の確定も全く合理性がないまま、本件各公金支出を行っている。
(4) その他の法令違反
本件各公金支出は、動物愛護及び管理に関する法律、漁業資産保護法、生物の多様性に関する条約、湖沼水質保全特別処置法、憲法26条、同13条にそれぞれ違反する。
(被告ら)
(1) 監査請求期間内の各公金支出は、以下のとおり、法232条の2の「公益上必要がある場合」に該当する支出であり、いずれも適法である。
琵琶湖は、世界でも有数の古代湖であり、その長い歴史の中で50種を超える固有種をはじめとする多様な生物で構成される豊かで貴重な生態系が育まれ、伝統的な漁業や食文化の形成に貢献してきた。しかし、オオクチバスやブルーギルが大量に繁殖し、外来魚が優占する生態系へと大きく変化し、漁獲量は減少の一途をたどり、水産加工業も経営不振が続き、伝統的な食文化も途絶えかねない状況に至っている。
オオクチバスなどの外来魚の食害が在来種の減少に大きな影響を与えていることは、オオクチバスが在来種を一方的に捕食するという食性、オオクチバスが体重1キログラム増長するために約10キログラムの魚介類を捕食するという食害の程度、フナやコイ等のオオクチバスの食害を受けやすい魚種の漁獲量がオオクチバスが急増した昭和58年ころから、スジエビやホンモロコというブルーギルの食害を受けやすい魚種の漁獲量がブルーギルが急増した平成2年ころから急減している事実から明らかである。
上記各公金支出にかかる平成13年度及び平成14年度の外来魚駆除事業は、上記のような危機的状況にある琵琶湖固有の生態系を保全、回復し、漁業や水産加工業等の復興を図り、伝統的食文化を未来に承継するという目的のもとで行われている「有害外来魚ゼロ作戦事業」であり、必要かつ合理的な事業である。
上記外来魚駆除事業の内容は、<1> 県漁連が漁業者の捕獲した外来魚を買い上げるために要した経費及び捕獲専用漁具の整備に要した費用を補助するもの(平成13年度)、<2> 県漁連が外来魚を回収し、リサイクルセンターに搬入するために要した経費及び同所に支払を要した処理負担金を補助するもの(平成13年度、同14年度)、<3> 県漁連が漁業者に対して支給した外来魚捕獲の経費を補助するもの(平成14年度)、<4> 失業者を雇用して外来魚を捕獲することを県漁連に委託したことによって県漁連が要する賃金、漁具、傭船料等の経費を支払うもの(平成14年度)であり、将来においても基本的には同様の内容になる見込みである。
また、上記各事業における駆除作業の執行状況、駆除手法等や各公金支出手続は、いずれも、適正かつ妥当である。
(2) 原告の主張に対する反論
ア 外来魚駆除事業の適法性
(ア)a オオクチバスは、食性が在来種に与える影響の大きさ、すなわち、オオクチバスは、親が自らの卵や稚魚を強く守るためこれらが在来魚介類に捕食されることはないが、外来魚は一方的に在来魚介類を捕食するという偏った関係が存することが問題であり、その生息数が減少したからといって、その問題が解決するわけではない。
被告は、外来魚が琵琶湖の固有の生態系に与える影響の大きさについて、学術的な調査等の科学的根拠に基づいて、判断している。オオクチバスとブルーギルとを一括りに外来魚に分類して、概括的に判断したことはない。オオクチバスの食害性は、ブルーギルと比較しても格段に大きく、仮にオオクチバスが減少しているとしても、引続き駆除の対象とする必要がある。
b 原告が在来魚の減少の主たる原因として掲げる事項は、科学的根拠に乏しい独自の見解である。外来魚駆除事業は、古くから営まれてきた漁業の中で混獲された外来魚を駆除対象として実施してきたものであり、これによって従来以上に在来魚が死滅することはない。琵琶湖の漁業は伝統的な漁法により実施され、在来魚の生息に大きな影響を与えるおそれのある漁法等は滋賀県漁業調整規則等で制限されているのであって、琵琶湖漁業の漁法が在来魚の減少に大きな影響を与えることはない。被告らは、外来魚の増加のみを在来魚の減少の原因と考えているわけではなく、ヨシ帯等の産卵、繁殖場所の減少や水質自浄能力の低下等の要因もあると考えており、これらの要因に対する様々な取組を行っている。
c フナ・コイ・ホンモロコ・スジエビ・アユ・ビワマスは一定の社会的な影響を受けながらも根強い需要があり漁獲努力が続けられてきた魚種であり、漁獲量の増減が生息数の増減を反映していることが合理的に推測される。被告らは、近畿農政局の統計の外来魚の漁獲量を用いて、外来魚の増加を主張したことはない。
d 被告県は、緊急雇用創出特別対策事業の趣旨に則り、事業の効果、必要性を検討した上で、これを活用して外来魚繁殖阻止対策事業を行うことを決定している。平成14年度当初に被告県が実施した緊急雇用創出特別対策事業は全52事業であり、外来魚繁殖阻止対策事業だけではなく、漁業関係者を特別扱いして、他の失業者を不合理に差別したことはない。
捕獲作業員の労働時間は、1日8時間で、船上及び湖辺水中での危険を伴う重労働であるから、賃金単価は合理的である。
(イ) 駆除方法は合理的である。琵琶湖全域に生息域を拡大し増殖したオオクチバスやブルーギルを積極的かつ効率的に駆除するためには、タモ網、釣り、投げ網では不可能であり、刺網、地引き網、エリなどの漁具・漁法を用いる必要がある。駆除作業において、恒常的に大量の在来魚を混獲して死滅させたことや大量の在来魚を外来魚と一括して回収処分したことはない。
イ 県漁連の水増し請求の事実はない。
外来魚捕獲量の計測に当たり、大量の在来魚や湖水を混入したことはない。平成14年3月下旬、外来魚とともに混獲された在来魚数尾を回収車に積み込んだことがあったが、混獲された在来魚は数尾で、補助金の額に変更が生じる程度ではなかった。
外来魚繁殖阻止対策事業の作業員が捕獲する外来魚と外来魚駆除促進対策事業において一般漁業者が捕獲する外来魚とが混入することはない。
ウ 交付規則違反、その他の法令違反はいずれも争う。
第3 判断
Ⅰ 争点1(1)について
原告は、法242条1項2号に基づき、被告県を被告として、本件各公金支出行為の無効確認の請求をするところ、同号に基づく訴えの被告適格は、行政事件訴訟法43条2項が準用する同法38条1項、同項が準用する同法11条により、行政処分たる当該行為を行った行政庁にあるから、本件各公金支出を執行した行政庁に当たらない被告県には、その被告適格が認められない。
したがって、原告の2号請求にかかる訴えは、不適法であって、却下を免れない。
Ⅱ 争点1(2)について
1 原告は、被告知事の本件各公金支出が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権(不当利得返還請求権)の不行使について、財産管理を怠る事実があるとして、3号請求を行っており、このような請求については、上記実体法上の請求権が発生し、行使し得ることになった時点である本件各公金支出行為の日を基準として、法242条2項本文の規定による監査請求期間の制限が適用されると解すべきである(最高裁判所昭和62年2月20日民集41巻1号122頁、平成9年1月28日民集51巻1号287頁参照)。そうすると、3号請求で対象とされている本件各公金支出のうち、昭和60年度から平成12年度までの各支出及び平成13年度の外来魚繁殖抑制対策事業についての支出部分は、同項の監査請求期間経過後の財務会計行為であり(前記第2のⅠ3)、同部分にかかる請求は、同項ただし書の「正当な理由」が存在する場合に限って、適法であると認められる。
同項ただし書にいう「正当な理由」の有無は、当該行為が秘密裏に行われた場合に限らず、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的に監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合は、住民が、相当の注意力をもって調査すれば、客観的にみて、監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁判所平成14年9月12日第1小法廷判決民集第56巻7号1481頁参照)。
2 そして、補助金の支出の個別具体的な内容について、滋賀県議会において審議されていないことから、被告県の住民である原告が、本件各公金支出の内容を具体的に知るためには、情報公開などによってその内容が開示されることが必要である。
〔証拠略〕によれば、
(1) Aは、平成14年3月28日、外来魚駆除事業の回収場を見学した際に、回収した魚の中に在来魚が混入しているのを確認しその状況を写真に撮影したこと、(2)Aは、同年9月5日当時、被告県の農政水産部水産課職員が作成したとする昭和60年度から平成13年度までの各年度ごとの外来魚駆除事業の各事業名、事業主体、事業の概要、事業費、買上げ単価等が具体的に記載された「滋賀県における外来魚駆除対策の経緯」と題する文書を有していたこと、
(3) Aは、上記同日、同文書記載の各事業における県漁連への公金支出に関する文書等についての公文書公開請求を行い、同月20日付でされた公文書一部公開決定により、同月26日滋賀県庁において、昭和60年度及び同61年度、平成元年ないし同5年度、同7年度ないし同14年度までの外来魚駆除事業に関する支出命令決議書等の各公文書が公開され(ただし、県漁連の印影、取引金融機関コード、金融機関名、口座番号及び口座名義は、非公開とされた。)、これらの情報を入手していること、
(4) Aは、同月10日原告の監査請求2と同じ公金支出を対象とした監査請求1を行うとともに、被告知事宛に、外来魚駆除事業に対する補助金等に関する公開質問事項を記載した公開質問状を提出し、同月25日県漁連への補助事業に関する事業費、補助金額事業内容が示された回答書を受け取っていること、
(5) Aが理事長を務める滋賀県フィッシングボート協同組合は、外来魚対策での県の買取り制度を悪用し、外来魚に在来魚を大量に混入して買い取らせているなどとする記事や写真を掲載した平成14年9月付「異議あり!」と題するパンフレット(〔証拠略〕)を作成していること、がそれぞれ認められる。
以上の事実によれば、平成14年当時、琵琶湖の釣り人として被告県の外来魚の再放流を規制する条例の制定に対する反対活動を行い、外来魚問題に重大な関心を寄せていた原告としては、その活動や釣り仲間、上記公文書公開請求や監査請求1等でAの代理人を務めていた原告訴訟代理人弁護士、上記パンフレットを通じるなどして、比較的容易に本件各公金支出に関する情報を入手し得たものと推認される。
したがって、原告は、遅くとも、Aが情報公開を経て監査請求1を行った同年9月10日ころには、相当の注意力をもって調査すれば、客観的にみて、監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたというべきであり、その入手し得た情報の具体性や入手可能性等に鑑みれば、同年9月10日から3か月近くを経過した同年12月6日にされた原告の監査請求2は、監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解されるときから相当な期間内に行われたとは認められない。
3 よって、原告の昭和60年度から平成12年度の各支出及び平成13年度の外来魚繁殖抑制対策事業に関する補助金支出部分についての請求は、法242条2項ただし書の「正当な理由」があるとは認められないから、上記各支出部分の請求にかかる訴えは、監査請求前置の要件を欠き不適法であって、却下を免れない。
Ⅲ 争点1(3)について
原告は、平成14年以降の外来魚駆除事業に関する支出の差止めを求めているところ、平成14年度及び平成15年度の外来魚駆除に関する支出はすでに行われており(〔証拠略〕)、上記各支出部分の請求にかかる訴えは、訴えの利益がない。
よって、原告の、平成14年度及び平成15年度の公金支出の差止め請求部分にかかる訴えは、訴えの利益を欠き不適法であって、却下を免れない。
Ⅳ 争点2について
1 認定事実
括孤内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 琵琶湖の生態系の変化に関する諸状況について
ア 琵琶湖の自然環境等
琵琶湖は、30数万年前に現在の場所に形成され、大陸から離れた島に存する湖としては世界最古の湖とされ、豊かな生物相を有している。
琵琶湖は、674平方キロメートルと日本一の面積を有し、湖岸線の長さは235キロメートル、南北の長さは63.5キロメートル、東西の幅は琵琶湖大橋部分で最も狭く1.4キロメートルであり、琵琶湖大橋より北側が北湖、南側が南湖と呼ばれている。
琵琶湖には、藻類、水草類等の77科175属491種の植物と、魚類、節足動物、軟体動物、ワムシ類等の157科365属595種の動物が生息し、そのうち、琵琶湖にしか生息していない固有種は、ヨコエビ類3種、イケチョウガイやセタシジミなど貝類20種、アブラヒガイ、イサザ、イワトコナマズ、ウツセミカジカ、ゲンゴロウブナ、スゴモロコ、ニゴロブナ、ハス、ビワコオオナマズ、ビワヒガイ、ビワマス、ホンモロコやワタカの魚類11種など、合計59種(植物5種、動物54種)が存するとされている。
また、琵琶湖においては、ビワマス、アユ、ホンモロコ、ハス、ニゴロフナ、ゲンゴロウブナ、ブナ、コイ、イサザ、セタシジミ、イケチョウガイ、エビ(スジエビ、テナガエビ)などを中心に、エリ、ヤナや小糸(刺網)などの伝統的な漁具・漁法を用いた漁業が古くから営まれており、明治時代以降には、近代的な漁業制度が整備され、これらの水産資源の保護培養、維持のための諸施策が実施されている。
これらの琵琶湖の水産資源を使った湖魚料理は、フナ寿司やアユのアメ炊きなどをはじめ滋賀県の伝統的な食文化として紹介されている。(〔証拠略〕)
イ 外来種及び在来種の生息状況等
(ア) オオクチバス(俗称ブラックバス)は、北アメリカ大陸原産のするスズキ目サンフィッシュ科の淡水魚で、昭和49年北湖で初めて確認され、以後方々の漁場で捕獲されるようになり、全域に拡大し、昭和58年から昭和59年にかけて急増したとする外来魚であり、平成2年以降、減少傾向にあることが指摘されている。
ブルーギルは、北アメリカ大陸中東部原産のスズキ目サンフィッシュ科の淡水魚で昭和38年から昭和39年に滋賀県水産試験場に譲渡され飼育されていたが、何らかの経緯で逃げ出し、砂州などで閉ざされた内湖の一つである西の湖(滋賀県近江八幡市)に定着したといわれている外来魚(以下、オオクチバスとともに「本件各外来魚」という。)であり、昭和45年から昭和55年にかけて琵琶湖全域に分布し、平成2年から増加傾向にあることが指摘されている。(〔証拠略〕)
(イ) 琵琶湖における水産生物の生息状況については、以下の調査結果が存する。
a 平成6年5月20日から平成7年7月20日に、琵琶湖沿岸の8水域(北湖沿岸6水域、南湖沿岸2水域)の22地点において行われた滋賀県水産試験場による水産生物の採集調査の結果は、以下のとおりである。
採集された水産生物は、32種、1万0033個体であり、その内訳は、魚類については、順に、ヨシノボリ3524尾、オオクチバス1638尾、ゼゼラ907尾、ブルーギル736尾、ビワヒガイ430尾、オイカワ388尾、ヌマチチブ373尾、フナ358尾等、甲殻類については、スジエビ2万3159尾、テナガエビ2831尾、アメリカザリガニ222尾であった。外来種としては、上記オオクチバス、ブルーギル、ヌマチチブ(国内起源)のほか、ワカサギ(同)、タイリクバラタナゴ(国外起源)、カムルチー(同)が採集された。このうち沿岸域となるヨシ群落の外側では、小型底曳網を用いて67回の調査が実施され、6224個体が採集された。このうち大型コイ2個体を除く6222個体の内訳は、外来種が1239個体・重量合計4641.2グラム、在来種が4983個体・重量合計4748.6グラムであり、個体数でみると、順に、ヨシノボリが46.7パーセント、ゼゼラが14.6パーセント、ブルーギルが8.1パーセント、ビワヒガイが5.6パーセント、ヌマチチブが5.5パーセント、オオクチバスが5.2パーセントであり、重量でみると、オオクチバスが31.6パーセント、ブルーギルが15.6パーセントなどとなっている。また、1個あたりの平均重量は、オオクチバスが8.88グラム、ブルーギルが2.90グラム、ヨシノボリが0.36グラム、ビワヒガイが1.61グラム、ゼゼラが1.54グラム、ヌマチチブが0.73グラムである。他方、ヨシ群落の内側においては、小型定置網を用いて16回の調査が実施され、採集された2319個体の内訳は、外来種が1557個体・重量合計6783.8グラム、在来種が1162個体・重量合計2905グラムであり、個体数でみると、順に、オオクチバスが43.9パーセント、オイカワが13.7パーセント、カネヒラが7.4パーセント、ブルーギルが6.9パーセント、シロヒレタビラが5.3パーセント、タイリクアラタナゴが5.1パーセントなどとなり、重量でみると、ブルーギルが48.2パーセント、オオクチバスが19.6パーセントとなっている。また、1個あたりの平均重量は、ブルーギルが24.96グラム、オオクチバスが1.59グラム、オイカワが0.65グラム、カネヒラが5.82グラムなどである。
以上により、平成6年ないし7年の時点で、琵琶湖の沿岸域(ヨシ群落の外側)ではオオクチバスとブルーギルが卓越し、多くの在来魚種の産卵場、生育場であるヨシ群落の内側は、大型のブルーギルに占拠され、かつオオクチバスの幼魚の生育場所として利用されていることが明らかになった。(〔証拠略〕)
b 平成10年3月から平成12年11月に、南湖周辺の10市町村の琵琶湖湖岸、内湖、河川、小河川、水路、池などの879地点において行われた調査では、16科42属55種(亜種も含む。)の水産生物が採集され、在来種については、オイカワなど8種が100地点以上、ヤリタナゴなど12種が20地点以上の水域で、また、外来種については、ブルーギルが226地点、オオクチバスが111地点、タイリクバラタナゴが59地点、ヌマチチブが62地点の水域に分布していること、また、琵琶湖の沿岸帯や内湖はブルーギルやオオクチバスなどの外来種によって優占され、在来種の生息数が極端に減少し、単純な魚類相になっていることなどが明らかになった。(〔証拠略〕)
c 平成12年8月から平成13年8月に、北湖北端部に位置する菅浦(伊香保郡西浅井町菅浦)、南湖北部の東岸に位置する木浜(守山市木浜町)、北湖北西部に位置する知内川河口(高島市マキノ町)及び彦根市三津屋町に位置する琵琶湖の内湖の一つである曽根沼の合計4地点で行われた調査によれば、全調査地点でオオクチバス及びブルーギルが優占し、内湖と南湖ではブルーギルが、北湖ではオオクチバスが多い傾向が認められた。(〔証拠略〕)
d また、滋賀県水産試験場により平成14年6月から平成15年10月に行われた魚類及び甲殻類の生息状況の調査では、県内の河川上流、河川中・下流、内湖、琵琶湖沿岸、琵琶湖沖合を45に区分した各地点のうち、河川上流を除く全ての水域にオオクチバス及びブルーギルが認められ、また、内湖・沿岸帯は、ブルーギルが優占し、特に南湖では魚類相の単純化が進んでいる旨が報告されている。(〔証拠略〕)
ウ 琵琶湖漁業の漁獲量(採捕された水産動物の原型重量)は、昭和29年当時合計1万0165トンであったが、以後、昭和58年までは、減少しながらも、1万トンから5000トン台の範囲で推移していたが、昭和59年に3854トンに低下した後は、5000トンを上回ることなく、抵迷状態を続け、平成13年には1998トン(ブラックバス137トンを除いた漁獲量合計)となり、本件各公金支出当時も回復しない状態であった。(〔証拠略〕)
(2) 外来魚の捕食が琵琶湖の生態系に与える影響について
ア(ア) オオクチバスの食性は、一般に、仔魚期については、他の一般的な温水性のふ化仔魚と変わらないが、成長に伴い動物プランクトンから魚類の仔魚、甲殻類へと変化し、稚魚期(ふ化後20日ころ)になると、コイ科のホンモロコの仔魚の捕食が可能となり、ふ化後50日前後には、ニゴロブナ、ホンモロコの小型個体を10尾ないし18尾程度捕食し、成魚期には、陸生昆虫のほか、主に湖岸性で生息場所に近いところに生息する魚類、水中昆虫、甲殻類等を捕食するといわれている。また、オオクチバスの餌の食べ方には、飢えによる捕食と反射的に食いついてしまう習性による捕食とがあること、オオクチバスは水温、水深、湖盆形態などに対する環境順応性は極めて強いこと、温暖な地域の被捕食生物の多い中型ないし大型の湖沼が成長に適した場所であり、琵琶湖は成長のよい水体に当たるとされている。
(イ) ブルーギルは、一般に、全長50ミリメートルまでの仔魚・稚魚期には、小型動物プランクトンを捕食し、その後雑食傾向を強め、成魚期には、生息場所や時期に関係なく、様々な種類の昆虫を中心として植物、魚類、貝類さらには動物プランクトンなどを捕食し幅広い雑食性を示しているとされている。また、日本の淡水域にはオオクチバス以外にブルーギルの強力な捕食者は存在せず、雄が卵、稚仔魚を保護するという特殊な生殖形態を有していることから、仔稚魚の初期減耗率が低く、貧弱な飼育環境下においても生存し得る生命力を有しているとされている。(〔証拠略〕)
イ 琵琶湖におけるオオクチバスの食性等に関しては、以下の調査結果が存する。
(ア) 昭和61年2月から同年5月及び同年8月から同年11月に南湖で採集したオオクチバス509個体のうち胃内容物の出現した314個体について、胃内容物を調査した結果は、以下のとおりである。
出現した胃内容物の種類を魚類、甲殻類、水中生物、その他の4項目に分け、それぞれの湿重量百分率を算出すると、順に、甲殻類が55.4パーセント、魚類が43.6パーセント、水生昆虫が0.2パーセントであった。胃内容物の内訳は、テナガエビ科2種(テナガエビ、スジエビ)、ヌマエビ科1種(ヌマエビ)、アユ科1種(アユ)、コイ科8種(ホンモロコ、ビワヒガイ、ゼゼラ、ハス、ワタカ、ゲンゴロウブナ、ニゴロブナ、シロヒレタビラ)、サンフィッシュ科1種(ブルーギル)及びハゼ科2種(ヨシノボリ、ウキゴリ)などで、捕食率(ある餌生物を捕食していた個体数/調査個体数〔標本数-空胃個体数〕×100)は、全く種の判明しないものを除き、甲殻類では、順に、テナガエビが37パーセント、スジエビが35.7パーセント、ヌマエビが20.2パーセントで、魚類では、順に、ヨシノボリ(ハゼ科)が33.1パーセント、コイ科(種不明)が11.0パーセント、ハゼ科(種不明)が3.5パーセント、ホンモロコ(コイ科)が2.9パーセントであった。
以上によると、オオクチバスの主な餌生物は、テナガエビ、スジエビ、ヌマエビなどの甲殻類及びヨシノボリやコイ科の魚類であることが明らかになった。(〔証拠略〕)
(イ) 平成4年5月15日から同年11月24日に山ノ下湾の旧御呂戸川周辺(大津市)において実施されたオオクチバスの稚魚期の食性調査によると、オオクチバスは全長30ミリメートルを超えると、動物プランクトン及び水中昆虫から魚類に食性が変化し、全長50ミリメートル以上になるとエビ類をも捕食するようになること、コイ科フナ型、コイ科ハヤ型、ハゼ科(主にヨシノボリ)、ブルーギルを捕食していたことなどが明らかになった。(〔証拠略〕)
(ウ) 平成12年8月から平成13年8月に菅浦、木浜、知内川河口及び曽根沼の合計4地点(前記(1)イ(イ)c参照)で採集されたオオクチバスの成長と摂餌生態に関する調査結果は、以下のとおりである。
出現した胃内容物は、ヨシノボリ類、ヌマチチブ、アユ、ブルーギル、フナ類の魚類、スジエビ、テナガエビの甲殻類、昆虫類などで組成され、これらについて、オオクチバスの餌資源消費量の指標となる餌料重量比(〔ある餌生物の胃中での重量/胃内容物の総重量〕×100)を算出すると、菅浦、木浜、知内では、いずれもエビ類(スジエビ、テナガエビ、種不明エビ類)及び魚類が上位で、それぞれ95.9パーセント、86.0パーセント、94.7パーセントを占めていた。曽根沼では、他の調査地点では確認されなかったウシガエルの幼生(オタマジャクシ)が69.4パーセントで上位を占め、甲殻類及び魚類のそれは29.8パーセントであった。また、どれだけ多くのオオクチバスが餌資源を利用しているかの指標となる餌料出現率(捕食率)を算出して分析すると、曽根沼ではヨシノボリ類、ブルーギル、フナを中心とする魚類が最も多く利用され、その他の地点では、いずれも魚類及び甲殻類が約90パーセントの割合で利用されていることが判明した。そのほか、0歳魚及び1歳魚と推測される体長220ミリメートル以下のオオクチバスが、体重2グラム未満の小さい魚類及びエビ類を高い割合で捕食していることがわかった。なお、同調査結果においては、オオクチバスの個体数は減少、安定に向かっていると考えられ、比較的大きなバイオマスを有する生物種(ヨシノボリ類、アユ、エビ類)は安定後も存在しうる可能性は高いが、生存基盤の危うい希少種は絶滅の危険性が考えられること、在来種の増加の後には捕食者である外来種が増加することを考えなければならず、環境の改善による生態系の復元は、外来魚の駆除による個体数の抑制なくしては実現しないと考えられることが意見として付されている。(〔証拠略〕)
ウ 琵琶湖におけるブルーギルの食性等に関しては、以下の調査結果が存する。
(ア) 昭和51年に琵琶湖で採集した全長7.5センチメートルから21センチメートルまでの成魚期のブルーギルについて、胃内容物を調査した結果、主として、スジエビ、ヌマエビなどを捕食していることが判明した。(〔証拠略〕)
(イ) 平成11年6月及び同年10月、平成12年1月から平成13年8月までに菅浦、木浜、知内川河口及び曽根沼の合計4地点で採集したブルーギルの生態調査の結果は、以下のとおりである。なお、知内川河口は周年を通じてブルーギルがほとんど採集されなかったため分析対象から除外された。
平成13年に各地点で採集したブルーギルの胃内容物を藻類、水草、昆虫、魚類等の項目に分類し、項目ごとの容積が胃内容物全体の容積に占める割合を算出すると、菅浦は、順に、水草30.4パーセント、魚類17.2パーセント、昆虫16.5パーセント、藻類15.1パーセント、エビ類12.8パーセントなどで、木浜は、順に、水草21.5パーセント、魚類18.8パーセント、藻類18.3パーセント、昆虫12.3パーセント、エビ類9.9パーセント、動物プランクトン3.4パーセントで、曽根沼は、昆虫36.3パーセント、動物プランクトン26.4パーセント、藻類16.6パーセント、魚類7.1パーセント、水草2.6パーセント、エビ類5.5パーセント、などとなる。また、菅浦では、スジエビ、テナガエビのヨコエビ類及びハゼ科魚類の稚魚又は成魚の魚類の捕食が、木浜では、小型個体を中心にヨコエビ類の、大型個体による魚卵の捕食が、曽根沼では大型個体によるブルーギルの仔稚魚の捕食がそれぞれ確認された。(〔証拠略〕)
(3) 琵琶湖の生態系の保全に対する被告の施策の状況等(本件各公金支出に関する後記(5)及び(6)を除く。)について
ア 被告県は、平成4年以後、在来種の生息場所となる琵琶湖のヨシ群落を保全し、繁殖環境を整備するため、ヨシ群落造成事業を実施して、平成13年度までに、合計14.36ヘクタールの造成を行っている。
また、平成11年度から平成32年度を計画期間とし、滋賀県全域において、水質保全、水源かん養、自然環境・景観保全の観点から、母なる湖琵琶湖を健全な姿で次世代を伝えることを基本理念とする「マザーレイク21(琵琶湖総合保全整備計画)」を策定し、その中に外来種の侵入を防ぎ、琵琶湖固有の魚介類をはじめ多様な在来種を保護する旨が、琵琶湖保全の具体的な取組の一つに掲げられている。
その他、被告県においては、琵琶湖の水質保全の観点から、水質規制を設けて自然浄化機能の向上のための浄化対策を講じ、平成14年3月、京都府と共同で平成13年度から平成17年度までを計画期間とする「琵琶湖に係る湖沼水質保全計画」を立案し、上記浄化対策を続行・推進している。
イ さらに、被告県は、釣り上げた外来魚を持ち帰り食べるというキャッチ・アンド・イートを推進して釣り人に対し、外来魚の持ち帰りを啓発するとともに、平成14年6月16日には、釣り人に対し、琵琶湖のレジャー活動において釣り上げた外来魚の再放流を禁止する旨の条項を含む滋賀県条例を制定し、平成15年4月1日からその主要部分が施行された。同条例は、琵琶湖におけるレジャー活動に伴う環境の負荷を低減し、琵琶湖の自然環境およびその周辺における生活環境の保全を実現することを目的とし、その中で、琵琶湖の本来の生態系を回復するために、釣りというレジャー活動の側面からも、琵琶湖に生息する外来魚の絶対数を減らしていくことが不可欠であるとして上記再放流禁止条項が定められた。なお、施行後の平成15年9月9日から同月16日までの間の外来魚の回収量は461.6キログラムで、個体数の大半がブルーギルであり、重量では約6分の1がブラックバスであること、施行日の同年4月1日から同日までの累計は5700.7キログラムである旨の報告がされている。(〔証拠略〕)
(4) 国内外における外来魚に対する施策の情勢や県民の動向等について
ア(ア) 水産庁長官は、平成12年6月15日付け通達をもって、「次に掲げる魚種(卵も含むも)を移植してはならない。ただし、漁業権の対象となっている魚種を当該漁業権に係る漁場の区域に移植する場合及び移植について知事の許可を受けた場合はこの限りではない。一 ブラックバス(オオクチバス、コクチバスその他オオクチバス属の魚をいう。) 二 ブルーギル」とする都道府県内水面漁業調整規則規則例を提示した。
沖縄県をのぞく全国46の都道府県は、各自の漁業調整規則においてブラックバス(オオクチバス、コクチバスその他オオクチバス属の魚)の移植の原則禁止を定め、また、ブルーギルについても、44の都道府県が、同規則において、移植の原則禁止を定めている。さらに、複数の地方公共団体は、内水面漁業管理委員会指示により、オオクチバス、コクチバスあるいはブルーギルの再放流禁止等を定めている。
滋賀県漁業調整規則(昭和40年滋賀県規則第6号、〔証拠略〕)においては、「びわます、こい、ふな、ほんもろこ等16種の水産動物以外の水産動物(卵を含む。)は、知事の許可を受けなければ県内に移植してはならない。」旨規定されている(50条1項)。(〔証拠略〕)
(イ) 平成14年3月、水産庁は、水産基本法に基づく日本政府の水産に関する施策の的確な実施を図るための「水産基本計画」を決定し、我が国の水域の生態系を保全する観点から、水産動植物に悪影響を及ぼすブラックバス等の外来魚の移植を厳しく制限するとともに、その駆除を推進する等の措置を講ずることなどを総合的かつ計画的に講ずべき施策として示している。(〔証拠略〕)
(ウ) 平成14年8月6日、農林水産大臣は、被告知事に対し、漁業法11条1項及び2項の規定による漁業権の免許の内容たるべき事項等の決定に対し、「ブラックバス(オオクチバス、コクチバスその他オオクチバス属の魚をいう。)及びブルーギルに関して内水面漁業者、遊漁業者等の関係者による取組についての合意が形成されるまでの当分の間、これら外来魚を新たに漁業権の対象とする免許は行ってはならない。」などとする同条6項の規定に基づく「漁業権の免許の内容等の事前決定に関する指示」をした。(〔証拠略〕)
イ(ア) 平成12年12月27日、日本政府の環境の保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を定める環境基本計画が閣議決定され、公表された。
同基本計画は、生物多様性(すべての生物〔陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。〕の間の変異性。種内及び種間の多様性並びに生態系の多様性を含む。後記「生物の多様性に関する条約」2条〔証拠略〕による。)の保全のための取組みを掲げ、健全な生態系を維持、回復するために生物多様性を将来にわたって損なうことのないよう持続可能な利用(生物の多様性の長期的な減少をもたらさない方法及び速度で生物の多様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様性の可能性を維持すること。後記「生物の多様性に関する条約」2条による。)を図る必要があるとして、移入種問題への対応を重点的取組事項の一つとし、また、我が国の生物多様性の減少要因としては、生息地の減少や分断、さらに、二次的自然環境に見られる生息地としての質の変化、移入種による影響が大きいことが考えられることなどを示している。(〔証拠略〕)
(イ) また、地球環境保全に関する関係閣僚会議は、上記環境基本計画を受け、平成14年3月27日、「生物の多様性に関する条約」(平成5年12月21日公布)6条に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とした国家的な戦略として「新・生物多様性国家戦略」を決定した。同戦略は、日本の自然環境施策の中長期的な基本方針、実践的な行動計画を示すものであり、生物多様性保全上の第3の危機として国外あるいは地域外から人為的に持ち込まれた移入種(外来種)等による生態系の攪乱を掲げ、移入種が及ぼす影響に関する科学的知見の収集を基礎として、侵入の予防、侵入の初期段階での発見と対応、定着した移入種の駆除・管理の各段階に応じた対策を進める必要があるとし、移入種(外来種)等生態系への撹乱要因への対策として、外来魚対策について、外来魚の移植の禁止措置、地域における生息状況等の調査、密放流防止の啓発、資源抑制のための駆除、生態系の復元等の事業に対する支援及びブラックバスの生態的特性の解明と効果的な繁殖仰制技術の研究開発の各取組を引き続き実施し、その効果を高める措置を検討し、地域の実態に応じた外来魚の生息域・量の抑制を推進する必要があることなどを示している。(〔証拠略〕)
ウ 平成12年度第3回滋賀県政世論調査における外来魚対策に関する質問についての回答(複数回答可)は、「琵琶湖の生態系に関わる問題なので駆除すべきだ。」とする回答が1位で全体の60.7パーセントを占め、2位が「釣り上げた外来魚を回収する体制を整えるべきだ。」で42パーセント、3位が「外来魚の密放流防止の啓発を強化すべきだ。」で40.5パーセント、順に「釣り上げた外来魚の持ち帰りを啓発すべきだ。」、「琵琶湖漁業に関わる問題なので駆除すべきだ。」、「釣りの対象として利用すべきだ。」、「観光資源として利用すべきだ。」などとなっている。(〔証拠略〕)
(5) 県漁連の外来魚駆除事業及び被告県の補助との関係
ア 県漁連は、昭和59年から外来魚駆除事業を開始し、平成3年度まではオオクチバスを、平成4年度以降はオオクチバス及びブルーギルをそれぞれ駆除の対象として同事業を実施している。事業の内容は、漁業者が漁業活動等で捕獲した外来魚の買取りと捕獲された外来魚の回収処分等とに大別される。
イ 被告県は、外来魚の生息量をできる限り少なくし、琵琶湖の固有の生態系を保全するため、昭和60年、県漁連の実施している上記アの外来魚駆除事業について補助を行うこととし、以後、外来魚の買取りや外来魚の回収処分を行うのに要する経費等に対し相当額の補助金を交付している。(〔証拠略〕)
(6) 監査請求期間内の外来魚駆除事業の内容及び公金支出の経緯(本項以下では、同期間内の各外来魚駆除事業及びこれに対応する各公金支出を「本件各公金支出」及び「本件各外来魚駆除事業」という。)
ア 平成13年度
(ア) 県漁連は、琵琶湖において外来魚が異常繁殖し、フナやモロコ等の水産資源を食害し、漁業に多大の被害を与えている他、琵琶湖本来の生態系に大きな歪みが生じていることから、外来魚の積極的な駆除を推進し、漁業の振興を図ること等を事業目的として、漁業者が捕獲した外来魚の買上げや外来魚専用の捕獲漁具の整備を行う外来魚捕獲促進対策事業と、駆除や混獲で捕獲された外来魚を回収し、資源再利用型の処理を行う外来魚回収処分事業をそれぞれ行った。
(イ) 被告県は、外来魚を捕獲し、琵琶湖固有の生態系を保全、回復し、漁業や水産加工業等の復興を図るため、県漁連が行う上記(ア)の外来魚捕獲促進対策事業及び外来魚回収処分事業等に対し、被告知事において、予算の範囲内で補助金を交付することとして、平成13年度実施事業について適用される「滋賀県外来魚駆除緊急作戦対策事業費補助金交付要綱」(〔証拠略〕)を作成し、平成13年度実施事業について、同要綱及び交付規則に基づき、所定の手続きを経て、県漁連に対し、以下のとおり補助金を交付した。
a 外来魚捕獲促進対策事業費補助金
外来魚捕獲促進対策事業に対する補助金は、県漁連が外来魚の捕獲を促進するのに要する経費を対象として、このうち県漁連が外来魚を漁協から買い上げる経費については1キログラムあたり150円以内の定額であり、外来魚捕獲専用漁具の整備に要する経費については10分の10以内の、各補助率により支出される。
被告知事は、平成14年3月29日、県漁連から、上記対策事業の目的、事業の内容、事業の効果、経費の配分及び経費の内訳、事業の完了年月日、収支精算書を記載し、事業状況の写真が添付された県漁連作成の各実績報告書を受理し、その内容をそれぞれ審査し、これを適正なものと認めた上で、外来魚27万6527.8キログラムの買上げ額4147万9170円(1キログラムあたり150円)及びエリツボ等の漁具整備費1650万円の事業費合計5797万9170円に対し、うち5700万円を上記対策事業に対して交付すべき補助金の額とすることとし、補助金の額の確定を行った。
被告県においては、上記確定前に、県漁連からの概算払請求を受け、必要と認めて農政水産部水産課長が、補助金の一部を交付して概算払を行っており、被告県知事は、同年5月20日までに、上記確定額のうちの残額を精算払として県漁連に交付した。
b 外来魚回収処分事業費補助金
外来魚回収処分事業に対する補助金は、県漁連が捕獲された外来魚の回収処分を実施するために要する経費を対象として、外来魚の巡回回収、回収した外来魚の処分場への搬送委託及び回収した外来魚の処分委託について10分の9以内の補助率により支出される。
被告知事は、同年3月29日、漁連から、上記回収処分事業の目的、事業の内容、事業の効果、経費の配分及び経費の内訳、事業の完了年月日、収支精算書を記載し、事業状況の写真が添付された県漁連作成の各実績報告書を受理し、その内容をそれぞれ審査し、これを適正なものと認めた上で、回収毒事務作業にかかる賃金300万円、回収運搬委託費1020万円(回収費700万円、運搬費320万円の合計額)、処分費368万7404円等の事業費合計1720万円に対し、うち1548万円を、上記回収処分事業に対して交付すべき補助金の額とすることとし、補助金の額の確定を行った。
被告県においては、上記確定前に、県漁連からの概算払請求を受け、これを必要と認めて農政水産部水産課長が、補助金の一部を交付して概算払を行っており、被告県知事は、同年5月20日までに、上記確定額のうちの残額を精算払として県漁連に交付した。(〔証拠略〕)
イ 平成14年度(後記エを除く。)
(ア) 県漁連は、平成13年度実施事業と同様の事業目的のもと、漁業者が外来魚を捕獲するために要する経費の負担を行う外来魚駆除促進対策事業と、駆除や混獲で捕獲された外来魚を回収し、資源再利用型の処理を行う外来魚回収処分事業をそれぞれ行った。
(イ) 被告県は、平成14年度から3か年の緊急対策として、毎年300トンの外来魚を捕獲することを目標とする(後に計画期間を2か年、毎年580トンの目標に変更。)滋賀県有害外来魚駆除3カ年緊急対策事業を計画し、県漁連が行う上記(ア)の駆除促進対策事業及び回収処分事業等に対し、被告知事において、予算の範囲内で補助金を交付することとして、平成14年度実施事業について適用される「滋賀県有害外来魚駆除3カ年緊急対策事業費補助金交付要綱」(〔証拠略〕)を作成した。
被告知事は、平成14年度実施事業について、同要綱及び交付規則に基づき、所定の手続きを経て、県漁連に対し、以下のとおり補助金を交付した。
a 外来魚駆除促進対策事業費補助金
外来魚駆除促進対策事業に対する補助金は、県漁連が外来魚の捕獲を促進するのに要する経費を対象として、県漁連が外来魚を各漁協から買い上げる経費に対し、通常期については外来魚1キログラムあたり350円以内の、強化月間(アユの禁漁期、休漁期)のそれは500円以内の範囲で支出される。
被告知事は、平成15年3月31日、県漁連から、上記対策事業の目的、事業の内容、事業の効果、経費の配分及び経費の内訳、事業の完了年月日、収支精算書を記載し、事業状況の写真が添付された県漁連作成の各実績報告書を受理し、その内容をそれぞれ審査し、これを適正なものと認めた上で、通常期について外来魚36万8988.6キログラムにかかる経費1億2914万6010円(1キログラムあたり350円)及び強化期について外来魚9万9483.5キログラムにかかる経費4974万1750円(同500円)の事業費合計1億7887万7760円全額を上記対策事業に対して交付すべき補助金の額とすることとし、補助金の額の確定を行った。
被告県においては、上記確定前に、県漁連からの概算払請求を受け、これを必要と認めて農政水産部水産課長が、補助金の一部を交付して概算払を行っており、被告県知事は、同年5月15日までに、上記確定額のうちの残額を精算払として県漁連に交付した。
b 外来魚回収処分事業費補助金
外来魚回収処分事業に対する補助金は、平成13年度のそれと同様に、県漁連が捕獲された外来魚の回収処分を行うのに要する経費を対象として、外来魚の巡回回収、回収した外来魚の処分場への搬送委託及び回収した外来魚の処分委託について10分の9以内の補助率により支出される。
被告知事は、同年3月31日、県漁連から、上記回収処分事業の目的、事業の内容、事業の効果、経費の配分及び経費の内訳、事業の完了年月日、収支精算書を記載し、事業状況の写真が添付された県漁連作成の各実績報告書を受理し、その内容をそれぞれ審査し、これを適正なものと認めた上で、回収・事務作業にかかる賃金150万円、委託料2569万0340万円(回収委託1830万円、処分費739万0340円の合計額)等の事業費合計2833万1337円に対し、うち2549万8000円を、上記回収処分事業に対して交付すべき補助金の額とすることとし、補助金の額の確定を行った。
被告県においては、上記確定前に、県漁連からの概算払請求を受け、これを必要と認めて農政水産部水産課長が、補助金の一部を交付して概算払を行っており、被告県知事は、同年5月23日までに、上記確定額のうちの残額を精算払として県漁連に交付した。(〔証拠略〕)
ウ 上記ア及びイの各事業(以下「本件各補助対象事業」という。)の執行状況及び成果等
(ア) 平成13年度の外来魚捕獲促進対策事業及び平成14年度の外来魚駆除促進対策事業
a 各漁業者が漁業活動等によって捕獲した魚(外来魚も含む。)は、漁業者により漁種別に分けられ、各漁協組合長などの計量責任者によって各漁業者ごとの漁獲量が計量された。計量された外来魚は、専用の水色の回収桶に保管され、定時に巡回してくる専用の回収車に搬入された。平成14年度以降、外来魚が保管された水色の各回収桶を、漁協名、年月日、重量を記載した掲示板ともに写真撮影していた。
県漁連職員は、随時、各回収場に赴き、現場確認を行い、被告県の水産課職員が、各回収場に赴き、計量が適正に行われているかなどの作業状況の確認や回収場の写真撮影を行うこともあった。
b また、各漁協は、計量した外来魚の数量を記載した納品書や捕獲量、回収車へ載せた量、計量責任者名等を記載した外来魚捕獲日報を県漁連に提出し、県漁連は、これらの記録に基づいて、月ごとの漁協別外来魚回収量及びその合計量を被告県に報告するとともに、その後、被告県に対し、上記の捕獲量に各補助金交付規程所定の補助率を乗じて算出した額の概算払請求を行い、被告県からこの支払いを受けた県漁連が、各漁協に対し、平成13年度分については買上げ代金として2か月ごとに、平成14度分については駆除経費として1か月ごとにそれぞれ金員を支払う仕組みであった。
c 平成13年度事業においては、27万6527.8キログラムの外来魚が捕獲された他、エリツボ12統、桝網(小型エリ)9統、刺網530把やエリに使用するコンポーズパイプの資材などの駆除専用漁具の整備が実施された。
また、平成14年度事業においては、46万8472.1キログラムの外来魚が捕獲された。
(イ) 平成13年度及び平成14年度外来魚回収処分事業
a 県漁連は、外来魚の回収を業者に委託し、平成13年度については、捕獲量の多い時期には週3回、少ない時期には数日に1回、平成14年度については、原則として2日に1回、特定の7つの拠点には毎日、回収業者が、各回収場を巡回して、外来魚の積込みを行い、外来魚の回収を行った。
回収された外来魚は、魚アラを魚粉化し、飼料原料に加工する専門業者である京都魚アラリサイクルセンター(以下「リサイクルセンター」という。)が指定する運送業者によって、リサイクルセンターに搬入され、飼料原料等に加工された。
また、処理施設を有する漁協や操漁時の餌料として使用する漁業者は、漁協あるいは漁業者自身による再資源化処理が実施された。
b 平成14年3月下旬、回収業者が外来魚とともに捕獲された在来魚を回収車に積み込んで、リサイクルセンターに搬入したことがあった。
県漁連のリサイクルセンターに対する平成13年度(平成13年4月から平成14年3月まで)の処分処理負担金は、外来魚搬入量に1トンあたりの単価1万3650円を乗じた額とされていたところ、同年度の搬入量の総計は21万3237キログラム(213.237トン)で、県漁連は、リサイクルセンターから上記負担金として、搬入量総計213トンに上記単価を乗じた金額の請求を受けて、これを支払っており、在来魚の重量が、0.237トンを上まわっていたと認められる証拠はなく、これらの在来魚の搬入は、県漁連が支払った負担金の額面を左右しない範囲であった。(〔証拠略〕)
エ 平成14年度外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創出特別対策事業)
(ア) 緊急雇用創出特別対策事業は、厳しい雇用失業情勢に鑑み、構造改革の集中調整期間中の臨時応急の措置として、各都道府県において、厚生労働省から交付される緊急地域雇用創出特別交付金による基金を活用して、各地域の実情に応じた事業を実施し、公的部門における緊急かつ臨時的な雇用・就業機会の創設を図るというもので、民間企業等の法人や団体への委託により行う事業、各都道府県自らが実施する事業及び市町村へ補助金を交付する事業とがあり、被告県においては、平成14年度当初、県実施事業として52の事業を行っていた。なお、事業終了は平成16年度末とされている。
(イ) 被告県は、県内の失業雇用対策とともに、前記イ(イ)の滋賀県有害外来魚駆除3カ年緊急対策事業において計画した外来魚の捕獲量を達成するため、上記(ア)の緊急雇用創出特別対策事業を活用して、外来魚繁殖阻止対策事業を実施することとして、平成14年4月1日、県漁連との間で、以下の委託契約を締結した。
委託業務 外来魚繁殖阻止対策業務(琵琶湖水域等における外来魚の稚魚及び親魚の捕獲並びにこれに伴う必要な作業及び事務)
委託期間 平成14年4月1日から平成15年3月31日
委託料 2億1297万円(なお、平成15年1月10日付で2億0500万円に変更された。)
(ウ) 県漁連は、上記委託業務の労働者の雇用にあたり、前期(平成14年5月1日から同年9月30日まで)については平成14年4月2日に公共職業安定所へ求人申込みをし、同月17日採用面接を行って、管理業務員2名、捕獲作業員57名を、後期(同年10月1日から平成16年3月31日まで)については、同年9月3日に公共職業安定所へ求人申込みをし、面接日などを新聞紙に掲載して、同月18日採用面接を行い、管理業務員1名、捕獲作業員43名を、それぞれ採用した。前期の捕獲作業員のうち19名と、後期のそれのうち14名は、漁船を所有し、刺網漁業許可を有する者であることを要件として採用し、その余は、一般の失業者であった。また、県漁連は、労働者の労働条件、服務規律等についての就業規則を定めた。
(エ) 雇用者の勤務時間は、午前8時30分から午後5時15分までの1日8時間労働であり捕獲作業員は、通常午前8時30分に拠点となる漁協に出勤し、出勤簿に捺印の上、捕獲準備作業、刺網の引上げ、外来魚の水揚げ、刺網の補修、刺網の設置などの作業を行った。捕獲作業員は、湖岸・船上から投網等で産卵床を保護する外来魚の親魚を捕獲し、刺網によって外来魚の親魚を捕獲するほか、沿岸帯のヨシ群落前面等でオオクチバスの稚魚等をタモ網等ですくい取ったり、荒天時やその他投網・タモ網すくいが困難な場合には釣り等による捕獲や漁具の整備などを行うとともに、各作業内容、作業場所、漁獲量を記録した業務日報を作成し、県漁連に提出した。また、作業の際、混獲された在来魚(フナ・モロコ等)は再放流された。
管理業務員は、県漁連の事務局に勤務し、各捕獲作業員の勤務地を定期的に巡回し、業務の執行状況やデータ等の回収管理を行った。
県漁連の職員は、随時、各漁協を巡回して勤務状況等を確認した。
捕獲作業員が捕獲した外来魚は、毎日計量のうえ、白色の回収桶に保管され、漁協名、年月日、捕獲量を記載した黒板とともに写真撮影を行い、各拠点漁協の捕獲作業員の中から選任された班長が業務日報に捕獲量を記録した。
(オ) 捕獲作業員らによる外来魚駆除量は、親魚が合計5万2877.7キログラム、稚魚が合計3578.35グラムであった。
なお、上記事業によって捕獲された外来魚は、県漁連が実施している前記イの平成14年度有害外来魚駆除3カ年緊急対策事業の回収事業にかかる専用の回収車に、同事業によって捕獲された外来魚とは区別した上で回収され、リサイクルセンターにおいて処理された。
(カ) 被告知事は、上記(ア)の委託契約に基づき、県漁連に対し、委託料2億0500万円を支払った。上記委託料のうち、捕獲作業員1人にかかる人件費(賃金)は1日1万円とされており、これは、被告県の平成14年予算見積標準単価表において示されている、主に屋外作業に従事する技能者で、特殊な技能または重労働を要する日々雇用職員(月16日以内)に対する賃金が基準とされている。
県漁連は、平成15年3月31日、上記事業の事業実施状況、収支精算を記載し、作業状況の写真などを添付し業務完了に伴う報告書を作成し、被告知事宛に提出した。被告県の検査職員は、同日、外来魚繁殖阻止対策事業が適正に執行されたと認められる旨の委託事業検査事業調書を作成した。(〔証拠略〕)
2 以上を前提について、本件各公金支出の適否について検討する。
(1) 前記1(1)ないし(4)で認定した各事実によれば、
ア 琵琶湖は、50種以上の固有種を含む多様な動植物による豊かな生物相を有し、これらの豊かな魚類等を対象に伝統的な漁具、漁法による漁業が営まれ、また、滋賀県の伝統的な食文化を支えていたが、昭和58年ころからオオクチバスの、平成2年ころからブルーギルの生息数が急増し始め、沿岸域では本件各外来魚が優占して在来種の生息数が極端に減少し、特に南湖では魚類相の単純化の進行が懸念されるなど、本件各公金支出当時、豊かで多様であった従来の生態系が危機的な状況に陥っていたこと、
イ 琵琶湖における本件各外来魚の食性等の調査結果、オオクチバスの稚魚期から成魚期の食性や環境順応能力等の特性、ブルーギルの稚魚期から成魚期の食性、仔稚魚の初期減耗率やその生命力等の特性(前記1(2)アないしウ)からして、本件各外来魚による在来種の捕食は、在来種の生息数の減少に大きな影響を与え、それを基盤とする琵琶湖の漁業にも相当の影響を及ぼしていること、
特に、上記調査においてオオクチバスによる捕食が認められた魚類の中にはアユ、スジエビ、テナガエビ、ニゴロブナ、ホンモロコ、ハスなどの琵琶湖の漁業の中心を占める種が多く含まれていること、
ウ 被告県は、在来種の繁殖環境の整備や水質保全の観点からの規制や対策を講じたり、外来魚の持ち帰りのための啓発活動や釣り人の外来魚の再放流を禁止する条例を制定するなど、琵琶湖の生態系の保全について種々の観点からの施策を実施していること、
エ 政府は、水産基本計画において、水域の生態系の保全の観点からオオクチバスなどの外来魚の移植の制限やその駆除の推進等の措置を講じることなどの方針を示し、また、被告を含む多くの地方公共団体は、水産庁長官の通達を受け、各自の漁業調整規則においてオオクチバスやブルーギルの移植の原則禁止を定め、さらに、国の環境政策においても、生物多様性の保全に関する外来種問題を重点的取組事項とし、地域の実態に応じ外来魚の生息域・量の抑制を推進する必要があるなどの方針を示していること、
オ そして、平成12年度の滋賀県政世論調査においては、外来魚対策に関する質問について、複数の回答に分かれたものの、その1位が「琵琶湖の生態系に関わる問題なので駆除すべきだ。」とする回答で60.7パーセントを占めていたこと、
以上の事実が認められる。
これらの事実によれば、県漁連において、外来魚の異常繁殖が、琵琶湖漁業に多大の被害を与えている他、琵琶湖の本来の生態系に大きな歪みを生じさせていると判断し、外来魚の積極的な駆除を推進する必要があるとして実施した本件各補助対象事業は、いずれも十分な合理性があり、これに対する各補助金の支出も、県内に存する自然公物であり県民を含む一般公衆の共同使用に供されている琵琶湖の生態系を保全し、県内の漁業、水産業の振興や伝統的な食文化を保護するという公益を図るためにいずれも必要であり、また、被告県が県漁連に委託することによって実施した平成14年度外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創出特別対策事業)は、雇用失業対策とともに、琵琶湖の生態系の保全、水産業の振興等を実現するとの観点から、合理性、必要性を備えているものと認められる。
(2) そして、本件各外来魚駆除事業の執行状況は、前記1(6)ウ、エによれば、一部で在来魚が混入したままリサイクルセンターに搬入・回収処分されたという不適切な事態が発生したほかは、いずれも相当な作業内容であったと認められる。上記混入は、処分費用の額面を左右する程度の量ではなく、これに基づいて支出された補助金の範囲に影響があったとは認められない(前記1(6)ウ(イ)b)。また、前記1(6)エによれば、平成14年度外来魚繁殖阻止対策事業(緊急雇用創出特別対策事業)にかかる委託料も相当な根拠に基づいて算出されている。
以上の事実に加え、前記1(6)ア、イ、エの各事実及び弁論の全趣旨によれば、本件各公金支出は、いずれも補助金及び委託料の支出として所定の手続を経て、適式に行われたものと認められる。
(3) したがって、上記(1)及び(2)で示したとおり、本件各公金支出は、いずれも適法である。また、同様に、今後の外来魚駆除事業に関する公金支出を差し止めるべき理由はない。
3 原告の主張に対する補足説明
(1)ア 原告は、ブルーギルと異なりオオクチバスは減少しているし、また、在来魚の減少は、開発行為等による産卵場所の急激な減少、水質悪化などの複合的な要因に基づくもので、オオクチバスの食害との間には因果関係がない、あるいは未だ科学的に因果関係が解明されていないとして、本件各外来魚駆除事業自体が違法であると主張する。
しかしながら、平成14年当時、オオクチバスがブルーギルと共に琵琶湖沿岸において在来種に優占して生息していたことは前記1(1)認定のとおりであり、また、前記1(2)認定のオオクチバスの食性の、特性や胃内容物の調査の結果等に鑑みれば、在来種の減少とオオクチバスの食害との間に因果関係が存することは明らかであり、オオクチバスが減少傾向にあるとしても、オオクチバスの食害が琵琶湖の生態系に与える影響を否定することはできない。
原告が主張する各要因も在来種の減少に重要な関わり合いを有する事柄があるとしても、上記のオオクチバスの食性の特性等からして、オオクチバスの捕食と在来種の減少との間に因果関係があることは明らかである。そして、この事実に本件各公金支出当時の琵琶湖の生態系の危機的状況の程度や前記2(2)ウのオオクチバスの捕食が認められた在来種の漁業において占める位置、さらに、オオクチバスの個体数は減少、安定に向かっていても、生存基盤の危うい希少種は絶滅の危険性が考えられること、在来種の増加の後には捕食者である外来種が増加することを考えなければならず、環境の改善による生態系の復元は、外来魚の駆除による個体数の抑制なくしては実現しないと考えられるという専門家の意見が存すること(前記1(2)イ(ウ))をも併せ考えれば、オオクチバスの捕食による影響をわずかなものということもできない。
イ 原告は、漁獲量から魚の個体数や現在量を推定することはできないし、漁獲量の減少と外来魚の増加には因果関係がないと主張する。
しかしながら、前記1(2)認定のオオクチバスの食性の特性や胃内容物の調査の結果等に鑑みれば、在来種の減少とオオクチバスの食害との間に因果関係が存することは明らかであることからして、漁獲量の減少について、他に要因も存するからといって、オオクチバスの食害との因果関係が否定されるわけではない。
ウ 原告は、本件各外来魚駆除事業で行われているエリや刺網は、外来魚とともに大量の在来魚を死滅させる漁法であり、在来種の保護という事業の目的を達成する手段として不合理であり、また、在来魚の混入は、駆除事業において一回的な事態ではなく、恒常的な問題であるなどと主張する。
しかしながら、前記1(1)ア認定のとおり、各漁法は琵琶湖において古くから行われてきた伝統的な方法で、滋賀県漁業調整規則によって、在来種の漁法として知事の許可のもとで許容されている(〔証拠略〕)のであって、これらの漁法が、本件各外来魚だけを取り分けて捕獲することができず、外来魚駆除を目的として行われることになったからといって、琵琶湖の在来種の生息にこれまでと異なる影響を与えることになるとはいえない。
エ 原告は平成14年度の滋賀県緊急雇用創出特別対策事業として行われた外来魚繁殖阻止対策事業の目的が雇用対策ではなく、漁業関係者のみを雇用し、高額な賃金を支払って特別扱いしているなどと主張するが、前記2(6)エ認定のとおり、平成14年当時、被告県が、上記雇用創出特別対策事業を活用して実施した事業は52事業であって、外来魚繁殖阻止対策事業に限らないし、また、同事業における各作業員の労働時間、作業状況に鑑みればその賃金単価も相当と認められるのであって、この点に関する原告の主張は採用できない。
オ なお、原告は、オオクチバスの生息状況等に関して被告が提出した学術論文は、科学的なデータを欠きオオクチバスの増加と在来魚の減少との間の因果関係を基礎づけるものではないなどと主張するが、上記各論文に引用されたオオクチバスの生息状況や食性等に関する調査結果について、その採集データの客観性や信憑性を疑う事情は認められない。
また、原告は、近畿農政局滋賀統計情報事務所作成の漁獲量に関する統計資料(〔証拠略〕)は、漁獲量の定義が明らかでなく、これによって在来魚及び外来魚の生息数の増減を判断することはできないなどとするが、在来種に関する漁獲量の全体的な推移を把握する上では、同資料における漁獲量の定義に不明な点はなく(調査嘱託の結果)、同資料に関する原告ら主張の諸事情は前記認定を左右しない。
(2) 原告は、県漁連が被告県に対し、大量の在来魚や湖水、あるいは外来魚繁殖阻止対策事業(滋賀県緊急雇用創出特別対策事業)において捕獲作業員が捕獲した外来魚を混入して外来魚の捕獲量を計測した上で、補助金の水増し請求を行っているなどと主張する。
Aが平成14年3月28日に守山漁脇等で撮影した写真(〔証拠略〕)によれば、捕獲された魚の中に本件各外来魚以外の魚が混じっている様子が窺える。しかし、これらの写真は、計量後の作業過程を撮影したものであるとは断言できない。また、計量済みの外来魚を保管している水色の回収桶から回収車に魚を搬入している作業を撮影したと思われる写真(〔証拠略〕)では、在来魚の混入があるとは認められない。
また、Aが同年9月2日ないし3日に三和漁協で撮影した写真(〔証拠略〕)では、在来種と外来魚とは分別されており、混じったまま計量されている事実は見あたらない。その他原告主張の事実を裏付ける的確な証拠はない。
(3) 原告は、被告知事の補助金の額の確定について、現地調査を行なっていないなどとして、交付規則13条に違反すると主張をする。しかしながら、同条は、補助金の額の確定について、必ずしも現地調査を行わなければならない旨を定めたものではなく、被告知事は、前記1(6)ア及びイ認定のとおり、県漁連から提出された各事業の実績報告書を内容をそれぞれ審査した上で、各事業についてそれぞれ補助金の額の確定を行っており、その額にも不合理な点はない。よって、原告の上記主張は採用できない。
(4) 原告のその他の法令違反に関する主張は、本件各公金支出の適否を直接左右する事由とは認められず、いずれも採用できない。
Ⅴ 結論
以上によれば、原告の被告県に対する2号請求、被告知事に対する平成13年度の外来魚繁殖抑制対策事業費補助金の支出以前の各公金支出に関する3号請求、被告知事に対する平成14年度及び平成15年度の公金支出に関する1号請求にかかる各訴えはいずれも不適法であるから、これらをいずれも却下し、その余の請求は、いずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条及び民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 稻葉重子 裁判官 岡野典章 本多智子)