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大津地方裁判所 平成16年(ワ)573号 判決 2005年5月23日

原告

A野花子

訴訟代理人弁護士

吉原稔

被告

学校法人 平安女学院

代表者理事

山岡景一郎

訴訟代理人弁護士

姫野敬輔

橘英樹

主文

一  原告の、被告の設置するびわ湖守山キャンパスにおいて就学する権利の確認を求める請求にかかる訴えを却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が、卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置するびわ湖守山キャンパス(以下「守山キャンパス」という。)において就学する権利(教育を受ける権利)があることを確認する。

二  被告は、原告に対し、卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置する守山キャンパスにおいて就学させよ。

第二事案の概要

一  本件は、被告の経営する平安女学院大学の現代文化学部に在籍している原告が、同学部を守山キャンパスから高槻キャンパスに統合させることを決定した被告に対し、在籍期間中は守山キャンパスにおいて就学する権利があるとして、その権利の確認と履行を求めた事案である。

二  前提となる事実(争いのない事実)

(1)  原告は、平成一四年四月、被告の経営する平安女学院大学(四年制)の現代文化学部国際コミュニケーション学科に入学し、被告との間に在学契約(以下「本件在学契約」という。)を締結した。

原告は、現代文化学部に在籍する者で構成する「平安女学院大学守山キャンパスの存続を守ろうの会」(以下「守ろうの会」という。)の代表である。

(2)  被告は、学校教育法により設置された学校法人であり、京都市に本部を有する。被告は、平成一二年四月一日、平安女学院大学を開校し、滋賀県守山市三宅町にある守山キャンパスに同大学の現代文化学部(国際コミュニケーション学科、現代福祉学科)を設置した。大阪府高槻市にある高槻キャンパスには、現在、平安女学院短期大学部と平安女学院大学生活環境学部等が設置されているが、生活環境学部は平成一四年に設置された学部である。

(3)  被告が守山キャンパスを設置するにあたり、守山市は二五億円余りの補助金を、滋賀県は八億円の補助金を、それぞれ被告に交付した。

(4)  被告は、平成一六年三月から四月にかけて、平安女学院大学の現代文化学部を守山キャンパスから高槻キャンパスに移転統合すること(以下「本件統合」という。)を決定した。

(5)  守山市及び滋賀県は、被告に対し、現代文化学部の守山キャンパスでの存続を申し入れた。

三  原告の主張

(1)  本件在学契約の合意内容

原告と被告との間で締結された本件在学契約は、サービス提供契約の一種であり、主として準委任契約、付随的に施設利用契約の性質を併せもつ有償双務無名契約である。学舎が滋賀県守山市に立地していること、原告が守山キャンパスで授業等の教育を受けることは、被告の履行すべき義務の重要な内容であり債務の本旨である。その不完全履行に対しては、追完を請求することができる。

学科の廃止にあたっては、それを専攻する学生が在学する間は学科を存続させてから廃止するのが当然であるが、本件はそれと同様の当然のことを求めるものである。

被告は、募集案内や入学案内で、現代文化学部の教育は守山キャンパスで行われることを明記しているから、被告はこの記載に拘束される。

在学契約は、①学校が文部科学省の定めた一定の基準に従って教育施設を提供し、②あらかじめ設定した教育課程に従って授業を行うことを内容とする。本件在学契約では、①の義務が主導的なものであり、②の義務は①の義務を前提にして成立するものである。提供する授業等の教育内容さえ同一であれば、別の場所で提供しても義務違反にならないというものではない。本件統合は、通学の不便や授業内容の変更を伴うもので、高槻キャンパスでの授業等では守山キャンパスでの授業等を代替できない。

原告は、大学設置基準を満たす守山キャンパスを選択して入学したのであり、本件統合は、仮に高槻キャンパスが大学設置基準を満たすとしても、原告の施設選択権を侵害するものである。原告は、通学時間が増加し自宅で学習する時間や睡眠時間が減少することにより身体への負担が生じるし、就学場所が変わることによって生活環境が侵害され、教育条件が低下し学士としての学位取得にも支障をきたす。

被告が、平成一四年に、新学部である生活環境学部を高槻キャンパスに設置する際に、被告が文部科学省に提出した設置認可申請書には、高槻キャンパスに新学部を設置しても「教員の移動だけですむ。」との記載がされており、守山キャンパスの学生に負担をかけないことが前提とされ、守山キャンパスの学生を高槻キャンパスに移動させることは全く考えていない。これは、本件統合はあり得ないことを明言したものといえる。この認可申請は平成一三年に行われており、認可申請の時期と翌年の平成一四年に入学した原告が被告への入学を希望した時期とは同時期である。

学生が在籍する以上は、当然に教育関係法規及び行政処分(認可及び補助金交付決定等)の法規に、学生である原告も被告も双方拘束されるものであるという在学契約の附合契約性から、守山市と被告との合意、滋賀県と被告との補助金交付決定の合意及び文部科学省の設置認可の法的拘束力によって、被告が守山キャンパスを存続させることは在学契約の内容となり、被告の義務となった。

(2)  本件在学契約の第三者のためにする契約性、規範設定契約性

被告は、守山市及び滋賀県からの補助金の交付を受けるにあたり、原告を第三者とする第三者のためにする契約を締結し、相当の長期間守山キャンパスを存続させ、ここで授業を行う債務を負担した。第三者たる原告は、被告と在学契約を締結して、入学して授業を受けることによって、契約の利益を受益するとの意思表示をした。

被告は、補助金の交付を受けるに際しての、滋賀県に対する補助金交付申請(甲一四)や守山市との基本協定(甲五)によって守山キャンパスの設置を約定している。本件では、第三者のためにする契約について諾約者である被告の負う負担について明示の約定があるから、守山キャンパスで原告を就学させる義務は優に認められる。地方自治体の補助金交付決定を行政処分とみるのか私法上の契約とみるのかについては、見解の対立があるが、本件では、特に基本協定書が作成されているから、私法上の契約といえることは明かである。基本協定書では、守山キャンパスを建設して学生を就学させること、かつ、現代文化学部(現代福祉学科、国際コミュニケーション学科)を作ること、その定員を合計二八〇名とすることを取り決めているのであるから、就学させる義務を認めるのに必要にして十分である。

第三者のためにする契約は、契約時に第三者が現存していなくても有効に成立する。第三者が特定していなくても特定しうる者であればよく、受益の意志表示のときに特定していればよい。

第三者に給付請求権を帰属させる通常の第三者のためにする契約(真正な第三者のためにする契約)と第三者には権利を帰属させない第三者のためにする契約との区別は、要約者から諾約者への出捐の有無が判断基準であると解されるが、本件においては、守山市及び滋賀県が被告に対して補助金を交付する出捐をしているから、これが真正な第三者のためにする契約であることが明かである。

本件在学契約は、第三者のためにする契約という形式における規範設定契約でもある。

規範設定契約とは、一連の同種の個別契約が従うべき一種の規範を設定する合意である。労働協約、あるいは、市町村がガス、水道、ゴミ収集業者との間で料金その他の市長村民への供給条件を定める契約と類似する。本件では、被告が、平安女学院大学の開設にあたり、平成一一年一二月に文部科学省から学校教育法による大学設置の認可を受けたが、これは、学校施設を守山市に置くことが大学設置基準に適合するとして認可を受けたものである。被告には、設置するときだけではなく、設置後もその基準に従って管理運営すべき法的義務がある。さらに、被告は、滋賀県及び守山市から多額の補助金の交付を受け、守山キャンパスにおいて就学させるという継続的供給契約による義務を有している。この守山キャンパスの設置存続が上記の供給条件に該当する。この条件に従って、被告と学生との間に在学契約がなされたといえる。

したがって、被告の原告を守山キャンパスで就学させるとの事業遂行義務は、滋賀県や守山市によって解除されるか義務を免除されるかしない限り、被告はこれを免れることはできない。滋賀県の平安女学院大学補助金交付決定通知(甲一五)には第三(2)で「補助事業を中止し、または廃止しようとする場合は、あらかじめ知事に承認を受けなければならない。」と定められているが、滋賀県知事が変更を承認した事実はない。守山市と被告との補助金交付に関する協定書(甲七)では、事業の廃止については触れられていないが、これは、そのようなことを全く予想していなかったからである。守山市平安女学院大学創設費補助金交付要綱(甲一二)七条では、「学校法人は、補助金の交付決定通知を受けた後において、事業内容を変更しようとするときは、あらかじめ市長に届け出て承認を得なければならない。」とされているが、この手続もとられていない。

地方公共団体の補助金には直接適用されるものではないが、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第三条二項では、補助事業者等は、「法令の定及び補助金等の交付の目的又は間接補助金等の交付若しくは融通の目的に従って誠実に補助事業等又は間接補助事業等を行うように努めなければならない。」と定められ、またこれを受けて、一一条では、補助事業者の補助事業を行わなければならない義務が定められてその義務の範囲及びその基準が明確にされ、他用途使用が禁止されている。

地方自治体の補助金交付は、形式的行政処分であるとの判例や行政契約、私法契約であるとする判例があるが、どのように解するとしても、補助金を受けた者に事業遂行義務が存在することは当然である。

(3)  本件の補助金交付は、負担付贈与であり、被告は、原告に対し、原告を守山キャンパスで就学させるとの負担を負った。

四  被告の主張

(1)  本件在学契約は、原告を守山キャンパスで就学させることまでを内容としていない。

在学契約は、学校が、学生に対し、①学生としての身分を取得させ、②文部科学省の定めた一定の基準に従って教育施設を提供し、③あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うことを主たる内容とする契約であり、主として準委任契約、付随的に施設利用権の性質を併せもつ有償双務の無名契約である。

被告は、平成一七年四月以降現代文化学部の授業などを守山キャンパスから高槻キャンパスに統合させて、あらかじめ設定したカリキュラムにしたがって授業等の教育を行う計画であるが、本件統合後も高槻キャンパスは十分に大学設置基準を満たし、そこで、基準に従った施設を提供でき、行われる授業等についても守山キャンパスにおいて予定されていたものと何ら変動はない。

在学契約の内容のうち、上記③の義務こそ重要であり、②の義務は従属的なものである。在学契約によっては、学校が提供するべき施設の設置場所を特定・固定することまで要求されない。

教育施設の移転・変更などは、これが極端に学生の通学等を困難にし又は不可能にするなど、実質的に教育施設の不提供と同視されるような場合を除き、学校の教育方針、経営上の都合、その他の理由により、適宜、その移転・変更が容認されるべきものである。大学においては、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする(学校教育法五二条)」ものであり、学生は満一八歳以上であって、入学当初の教育施設を卒業まで移転させてはならないという必然性はない。

財務上の理由及び教育の向上充実の理由などから、本件統合には合理的な理由があり、学生等に対する説明を尽くしたうえ学生からの要求に応え、平安女学院大学学生会(以下「学生会」という。)から確認書の交付を受け、本件統合に伴い学生に発生する損害等については補填、補償の措置を講じていることは後記(3)、(4)のとおりであり、その方法も適切妥当である。

(2)  被告は守山市及び滋賀県と第三者のためにする契約を締結していない。

被告は、守山市や滋賀県から補助金の交付を受けるにつき、何ら私法上の契約ないし約束はしていない。

守山市及び滋賀県が被告に補助金を交付したのは、地方自治体として、守山市内に大学のキャンパスを開設することに公益上の必要性があると認めたことによる。補助金の交付は、地方自治法、滋賀県補助金等交付規則、同補助金交付要綱、守山市補助金等交付規則、同補助金交付要綱などに基づく純粋な行政行為であり、私法上の合意による契約とは全く性格を異にする。被告は、滋賀県や守山市に対して、地方自治法、補助金交付規則、補助金交付要綱に定められた条件を遵守する義務はあるが、私法上負っている債務はない。

被告は、守山市に対しては、補助金交付に関する手続以外に、基本協定を締結しているが、これは、被告が守山市の誘致に応じ、同市から被告に対し補助金を交付することの根拠を必要とすることから協定書が作成されたもので、補助金交付という行政行為を行う前提としての確認行為である。私法上拘束力のある契約ではない。補助金の交付についても、行政的行為であり、守山キャンパスにおいて行う事業内容を具体的に約定したものではない。内容的にみても、被告が守山市内に大学を設置することについて、守山市が用地、施設、設備等の創設費として補助することを取り決めたものであって、守山キャンパスで大学が行う授業や学生の処遇については全く取り決められていない。

被告は、滋賀県に対し、補助金交付申請をし、補助金の交付を受けているが、これは財務的な見地からの補助金交付申請とこれに対する交付という行政的行為であり、守山キャンパスにおいて行う事業についての具体的な約定をしたものではない。

被告は、四年制大学である平安女学院大学を設置するにあたり、文部科学省に設置認可申請をし、設置の認可を得たが、この認可にあたって、現代文化学部の学生に対して守山キャンパスにおいて授業等の教育をしなければならないことが条件とはなっていない。文部科学省の大学設置認可は、キャンパスを限定するものではなく、大学は認可を受けた範囲内において、設置基準に従った施設において、教育課程に従い自由に授業等の教育を行うことができる。国の行政行為である認可について、契約法理は適用されない。

大学が授業等の教育をいかなる施設において行うかは、授業の内容、方法とともに大学の自治において決せられるべきものである。国や地方自治体が契約をもって制約したり強制したりできることではない。

(3)  本件統合には、合理的な理由がある。

被告において、現代文化学部の授業を高槻キャンパスに統合せざるを得ない事情は、入学者の減少、財政逼迫で、このままでは、学園全体が倒壊することが明らかであることにある。本件統合に伴い学生に発生する不利益は、被告において補填、補償している。

現代文化学部は平成一二年四月に学生定員一学年二八〇名の計画でスタートした。しかし、一学年から四学年までの学生がそろった平成一五年度は定員数からいえば約一一〇〇名の学生数であるべきところ、実際には六三一名であり、平成一六年度は四七六名になった。学校の収入の主なものは学生からの授業料等の納付金であり、これが当初の予想を大幅に下回った。被告では、入学者数の確保のために、種々の施策を実施し支出の削減も行ったが、入学者の増加については見込みが立たない。守山キャンパスの物理的維持管理費用、守山キャンパスと高槻キャンパスの二か所にキャンパスを分けていることによる各種の複合費用がかかり、このままでは、被告は教育水準を維持して大学としての機能を果たすことができなくなる。

守山キャンパスは、通学の便や環境の点から学生募集には障害があり、滋賀県外から多くの志願者を確保することは困難である。滋賀県内の高校出身者の入学者ですら、守山キャンパスよりも高槻キャンパスの方が多い。

守山市は、守山市内の子女の入学推進を初めとする通学環境づくりに全面的に協力すると約束したのに、教育委員会と連絡協定を締結し、高校との交流や指定校推薦枠の設置等を行った以上の具体的な協力は、守山市から得られていないし、JR守山駅からキャンパスまでの幹線道路の設置も約束されたのに、未設置のままである。

高槻キャンパスは、周辺人口が多い都市部にあり、ライバル大学が近くに開設されていないことから学生数の増加が見込めるし、全学生が一つのキャンパスに集うことによって、フェローシップが高揚され経費の削減も見込める。また、高槻キャンパスに統合しても大学設置基準は満たしている。

(4)  本件統合について、被告は、学生会から確認書の交付を受けており、学生の承諾がある。

被告は、本件統合に向けて平成一六年五月以降、説明会等を繰り返し、理解と協力を求めた結果、守山キャンパスの全学生によって構成されている学生会は、平成一六年九月二八日付けで、「守山キャンパスの高槻統合についての確認書」(乙二〇)を提出し、本件統合に合意して協力を約している。

五  被告の主張に対する原告の反論

(1)  大学設置認可は、守山キャンパスの設置認可であるから、守山キャンパスに限定されるものである。

高槻キャンパスで大学設置基準を満たしているか否かについては、文部科学省の審査を受けなければわからない。大学設置基準を満たしていても、守山キャンパスにおいて教育を提供する義務を免れるものではない。

大学の自治は、滋賀県や守山市から補助金の交付を受けて、守山キャンパスの建設とそこにおける就学を滋賀県と守山市に約束した限度において制約を受ける。

大学の自治によって、大学が学生の守山キャンパスにおける営造物利用権又は教育を受ける権利を侵害することはできない。

(2)  本件統合に合理的な理由はない。

学生数が減少し、被告が財政的に困難を来していることは、キャンパスを統合し守山キャンパスにおける教育の提供を拒否する正当な理由とはならない。そもそも、被告は、財政的に困難であることについても、その具体的内容を、学生、滋賀県及び守山市に明かにしていない。

経営が悪化した高等教育機関の対応として、在学生の就学の機会の確保が最優先されるべきであることは、平成一六年一二月二〇日、中央教育審議会の「我が国の高等教育の将来像」(中間報告)においても強調されている。また、ユネスコは、一九九八年一〇月の世界高等教育会議において「ユネスコ世界宣言。二一世紀の高等教育、展望と行方」を採択し、その宣言において、学生を教育の主体者、当事者として扱うことを求め、近畿私大三団体による「国庫助成の大幅増額を求める共同アピールにおいても、大学が教育研究活動を行ううえで関わる第三者への説明責任は強く求められている。入学者の減少は、在学生の就学権を侵害する理由にはならない。

守山キャンパスの入学者が減少傾向となったのは、被告が守山キャンパスの学生募集に最善を尽くさなかったことが原因である。守山キャンパスへの学生募集では、被告は、高槻キャンパスの学生募集の場合のように新聞の全面広告や電車の中吊り広告をしたことがない。被告は、守山キャンパスの開校後わずか二年で、高槻キャンパスに四年制の生活環境学部を作り、多額の経費を支出している。

統合を考える前に、被告は、実学志向で学生を獲得する方法や女子大を共学化する方法を検討すべきである。滋賀県南部地域は、国内でも人口急増地域で、若年人口も増加しており、滋賀県の大学進学率は全国平均より高く、そのうちの一九%は滋賀県にある大学に進学している。平成一四年四月現在の県内の大学及び短大は一一校で、県内大学の収容率からみた教育設備水準も全国の上位にあり、これらの事情からみて、本件統合をしなくても、守山キャンパスの定員割れは解消しうる。

また、被告の守山キャンパスでの大学祭には、毎年一万人もの市民が参加しており、守山市民には大学による街づくりの期待が大きい。統合するのであれば、人数の少ない生活環境学部を人数の多い守山キャンパスに統合すべきであって、より人数の多い学生に負担をかけるのは不合理である。

高槻キャンパスの施設・設備の拡充は十分ではない。高槻キャンパスにおいてさえ学生の学習環境は奪われている。文部科学省の認可から完成年度(開学から四年生が卒業するまでの四年間)には教員はやめてはいけないのに、完成年度までに九名、その翌年に五名、平成一六年度には二名は退職している。高槻キャンパスでは、守山キャンパスよりも授業が削減され、教員数が減り、ゼミ数も削減されている。高槻キャンパスに統合したからといって、定員割れが解消できるとはいえない。

守山キャンパスの在学生の約六割が滋賀県出身者であるが、これらの多くが、自宅から通勤できる滋賀県内での就職を希望しているのに、被告において、就職活動についての対応はない。

(3)  原告を含む学生会が本件統合について合意した事実はない。

確認書(乙二〇)は真正に作成されたものではない。

学生会は、学生によって自主的に結成されたものではなく、学生会に学生の自治は存在しないし、学生会執行委員は選挙によって選ばれる者ではない。確認書は、学生会において、学生の総意を確認していないのに、会長の不在時にその名を使用して作成されたものであるから、真正に作成されたものとはいえないし、仮に真正に作成されたとしても、学生会に原告を含む個々の学生の在学契約上の権利を処分する権限はない。また、執行委員は、個別対応をして欲しいと被告に要求しているのであって、個々の学生の権利を処分するとの意図はない。

被告の説明会で学生が参加できるものは五月と七月に開催された二回の説明会だけであったし、参加しにくい時期で参加数も少なかった。理事長や学長は出席しておらず、責任ある説明もなされなかった。本件統合に反対しているのは原告一人だけではない。平成一六年一二月二四日の段階で、守山キャンパスの在校生三一五人が反対の署名を維持している。

(4)  被告が、在学契約の給付内容の一部解除あるいは変更を主張するとしても、被告にはその権利はない。

契約当事者の一方が契約を解除できるのは法律に特別の定めのある場合か相手方に債務不履行など契約を解除されてもやむを得ない事情がある場合に限られており、大学の自治による裁量をもって契約を破棄できることにはならない。

高校や大学などの校舎、学科の廃止にあたっては、生徒、学生が選択して入学した学校であることが明確であるため、当然のこととして、在校生、在学生が卒業してから学校、学部、学科などの廃止手続をとることが常識である。

解除権ないし変更権の行使であるとしても、それは、以下の各事情に照らせば、信義則に反し、権利の濫用であり、無効である。

被告は、原告の入学を勧誘するにあたって、平安女学院は創立一三〇年を迎える伝統ある私学であるとし、その長い歴史を伝統を誇る学校法人が、平安女学院大学守山キャンパスを開設したとして、そのキャンパスでの就学を勧誘したのであるから、入学しようとした原告は、まさか自分が卒業するまでの在学期間中に、守山キャンパスで就学できなくなるとは夢にも思わなかった。まして、原告は、被告の財務状況を全く知らなかったから、予想することも不可能であった。本件統合によって、その原告の期待権が侵害される。また、本件統合により、被告は、守山市と滋賀県からの多額の補助金をただ取りし、市民と県民の期待を裏切ることになる。私学には、その建学の精神から、就学場所を存続させる社会的責任があるのに、被告は、平安女学院大学の二期生の入学者が減少し、財政的に困難となることを予想できたときに、あえて、高槻キャンパスに四年制の学部(生活環境部)を創設して、多額の経費を消費し、財政を悪化させた。被告には私学の経営を安定的に維持するための「基本金」があり、その金額は年々増額している。被告は、在校生が卒業してからであれば、容易にキャンパスを移転できるのに、わざわざ在学生の卒業前に本件統合をする必要性は全くない。

第三当裁判所の判断

一  請求一について

原告は、本件訴訟において、被告に対し、原告が卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置する守山キャンパスにおいて就学させるとの作為の給付請求をすると同時に、原告が、卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置する守山キャンパスにおいて就学する権利(教育を受ける権利)の確認を求めている。原告が確認請求を求める権利の内容は、給付請求の内容と全く同一である。

給付請求について、請求が認容されればその権利の存在について既判力が生じるし、棄却されればその権利の不存在について既判力が生じるのであるから、原告において、給付請求と全く同一の権利について、同時に重ねて、確認請求をする確認の利益は認められない。

よって、原告の、卒業するまでの間(卒業最短修業年限)被告の設置する守山キャンパスにおいて就学する権利の確認を求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法であり、却下を免れない。

二  請求二について

(1)  前提事実、《証拠省略》によれば、以下の事実経過を認めることができる。

ア 被告は、もと京都市に高等学校、中学校及び二年制短期大学等を設置していたが、昭和六二年四月、大阪府高槻市にある高槻キャンパスに短期大学を移転し、平成一二年四月、滋賀県守山市三宅町の守山キャンパスに、平安女学院大学(四年制)現化文化学部(国際コミュニケーション学科、現代福祉学科)を設置した。さらに、平成一四年四月、高槻キャンパスに平安女学院大学生活環境学部(生活環境学科)を設置した。

イ 被告と守山市とは、平成九年一二月一日に基本協定を締結した。基本協定では、被告と守山市が協力して、被告が予定する大学の早期設置を積極的に推進し、もって地域の振興と教育文化の向上を図ることを目的とする(一条)とされ、被告が、大学を平成一二年四月を目途として開設すること(三条一項)、被告は大学を守山市三宅町に設置すること(四条)、被告の設置する大学は四年制女子大学とし、その学部学科及び入学定員は現代文化学部現代福祉学科、一年次一三〇名、三年次編入二〇名、同学部国際コミュニケーション学科一年次一五〇名、三年次編入二〇名とすること(五条)、守山市は、被告に対して、大学の用地、校舎、施設、設備等の創設費として、別に協議して定めるところにより補助すること(六条)等が内容となっている。そして、この六条の規定に基づき、被告と守山市は、平安女学院大学(仮称)創設費補助金交付に関する協定(甲七)をした。守山市は、平成一〇年一月から平成一一年四月にかけて、大学取得造成事業の補助金として一八億一五三七万七〇〇〇円、大学施設整備事業の補助金として七億五〇〇〇万円の合計二五億六五三七万七〇〇〇円を被告に交付した。

また、被告、守山市及び守山土地開発公社は、平成九年一二月一九日、高等教育機関(平安女学院大学)設置用地取得事業に必要な用地の取得(造成工事を含む。)について協定した。同協定では、事業にかかる用地の自然環境及び社会的、経済的条件を十分考慮し、守山市の総合開発計画に基づく調和のとれた街づくりに資するため、守山市と協議のうえ、事業を公社に委託し、公社はこれを受託するものとすること(一条)等が内容となっている。さらに、被告と、守山市教育委員会は、平成一〇年六月一五日に教育に関する連携協定をし、教育内容、方法の調査と研究に関することや進路及び双方の教育活性化に関すること等六項目にわたり誠意をもって連携協力することを合意し、被告と守山市は、平成一二年三月一五日に、「平安女学院大学を核としたまちづくりを推進するうえにおいては、市民には、大学ができて良かったと実感してもらえるまちとして、学生には、思い出が残るまちとしての地域社会を構築するため、ここに守山市と被告は、相互に理解と協力をし、教育文化、地域福祉、産業経済等の各分野で諸事業を積極的に進め、恒久的な相互の繁栄と市民福祉の向上と国際交流の進展に向けて努力することを協定」した。

被告と守山市は、平成一二年三月三〇日付念書(甲一〇)で、互いに協力して大学を核としたまちづくりを進めるためとして、被告が守山市に対し、平成一六年四月二日から同二〇年三月三一日までに、八億円を提供するとの合意をした。

守山市平安女学院大学創設費補助金交付要綱(甲一二)七条では「学校法人は、補助金の交付決定通知を受けた後において、事業内容を変更しようとするときは、あらかじめ市長に届け出て承認を得なければならない。」と、一〇条では「市長は、学校法人が、補助対象事業に要する経費以外に使用したときは、補助金の全部または、一部の返還を学校法人に請求することができる。」と、一一条では「学校法人は、補助対象事業により取得し、または効用の増加した財産を、市長の承認を受けないで、補助金交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付けまたは担保に供してはならない。」とされている。

滋賀県は、平成一〇年九月二五日付け被告の施設等整備費補助金交付申請(甲一四)を受けて、平成一〇年九月三〇日付けで平安女学院大学施設等整備事業に八億円の補助金を交付したが、その交付決定通知書(甲一五、一七)では、「補助金等により取得した、又は効用を増加した財産については、処分制限期間(鉄筋コンクリート造の学校の場合六〇年と認められる)を経過するまでこの補助金の交付目的に反して使用、譲渡、貸付又は担保に供しようとするときは知事の承認を得なければならない」と記載され、滋賀県平安女学院大学施設等整備費補助金交付要綱(甲一六)六条では、「学校法人は、補助金の交付決定通知を受けた後において事業内容を変更しようとするときは、あらかじめ知事に届け出て承認を得なければならない。」としている。

ウ 被告の二〇〇一年度(平成一三年度)の大学案内(甲一)には、「守山、高槻、京都を拠点に、総合学園として発展。」「全施設バリアフリー、人にやさしい先進の学習環境を整備。」「湖畔の四季と多彩なイベントが彩るキャンパスライフ。」との記載があり、守山キャンパスの施設の絵や写真、守山キャンパス周辺の風物や行事が紹介されており、二〇〇二年度(平成一四年度)の大学案内(甲三)では、Campus Life編と題する頁には、守山キャンパスでのクラブやサークル活動の様子やメディアセンター、学生会館、カフェテリア等の施設の様子の写真がキャンパス周辺の名所の写真等が掲載されており、現代文化学科に入学した学生は守山キャンパスで紹介されたような学生生活を送れることを期待させる内容となっている。

二〇〇二年度(平成一四年度)の募集要項(甲二)では、平安女学院大学現代文化学部の募集資格は、「高等学校もしくは中等教育学校を卒業した者、および二〇〇二年三月卒業見込みの者」等に該当する女性とされており、住所や居住地による制限はない。

エ 現代文化学部の入学者は、平成一二年が二二六名、平成一三年が一七九名、平成一四年が一四三名、平成一五年は九八名であった。学生一人当たりの学生納付金は四年間で四七三万円で、平成一五年度は収容定員が二八〇名の四学年分の合計一一二〇名のところ、実際の在籍者数は六三一名であり、この時点で定員割れにより不足する学生納付金の金額の累計は二三億円となることが確定した。定員に対する入学者が少なすぎると、大学への補助金不交付要件に該当することから、被告は、平成一六年度の入学者の定員を二八〇名から一七〇名に減じた。

入学者の出身高校の所在地は、滋賀県だけではなく他府県にも及んでいる。

被告は、財政状況の改善のため、人件費の削減や経費の削減をし、資格や免許状に関連する課程の開設や専門学校との連携をして教育内容の充実、強化し、実践力を高める教育方法の改善、高等学校との連携、中学高校の経営改善や大学学科改編等に取り組んできた。しかし、被告の常務理事会では、このままでは、現代文化学部を守山キャンパスで維持していくことは困難であり、被告の経営に問題が生じるとして、いろいろな案が検討され、平成一六年三月九日に至って、平成一七年度からの現代文化学部の高槻キャンパス統合(本件統合)を決断した。しかし、同月一一日の理事会では、移転の時期についてはなお検討することとして、統合することだけが承認された。さらに同月二五日の評議会でも、統合自体は決議されたが、その時期については理事会に委ねることとされた。平成一六年度の現代文化学部への入学者は九〇名であり、同学部の在籍者数は、定員の五〇パーセント以下となった。

平成一六年四月一日、常務理事会にて、同月一九日、定例理事会にて、同年五月二七日、評議会にて、平成一七年四月をもって現代文化学部を高槻キャンパスへの統合すること(本件統合)が決定された。

被告は、平成一六年四月九日、教職員に対する本件統合についての説明会を開催し、本件統合は、同月一〇日の京都新聞の記事によって、初めて学生やその保護者の知るところとなった。

その後、被告は、同年五月一六日及び同年六月一三日に、守山キャンパスの学生の保護者に対する説明会を開催し、同月一七日から二一日と同年七月三〇日に守山キャンパスの学生に対する説明会を開催した。その間、学生会からの要求書が何回か被告に提出され、学生会やその代表と被告の理事等との協議がなされた。平成一六年九月二八日に学生会名で「守山キャンパスの高槻統合についての確認書」(乙二〇)が提出された。

オ 滋賀県知事は、被告に対し、平成一六年七月三〇日付けの文書で、平安女学院大学守山キャンパスの存続を求めた。

守ろうの会は、同年七月一二日、守山市長に対し、守山キャンパスの存続を望む一万一一一一名の署名簿(守山市民五七七七名、守山市民を除く滋賀県民三八二二名、県外一二一九名、守山キャンパスの学生二八三名〔総在籍者の約六割〕)を渡し、同年七月二三日に、滋賀県知事に対し、一万二八一六名の署名簿を、同年八月四日、文部科学大臣に対し、一万四五八二名の署名簿(うち守山キャンパスの学生三〇九名〔総在籍者の約七割〕)を提出し、同年一〇月八日に、被告に対し、署名簿を受け取るようにとの要望書を提出した。守ろうの会の代表者である原告は、平成一六年一〇月二六日、本訴を提起した。

守山市長は、被告に対し、平成一七年一月六日付けの文書で、平安女学院大学守山キャンパスの存続を求めた。

(2)  本件在学契約の合意内容について

原告は、平成一四年四月に現代文化学部に入学した者であり、平成一三年(二〇〇一年)度の学校案内等を見て、守山市という環境に建つ新しい校舎が気に入り、オープンキャンパスに行って施設を見学し、新しくきれいな施設で学べることを期待して入試の申し込みをしたことを認めることができる。原告の入学時は、守山キャンパスが開設されてからわずか二年経過しようとする時期であるから、キャンパスが近々移転されるなどということは通常予想しないし、上記(1)ウのとおり、学校案内の内容は、現代文化学部が守山キャンパスにあることを当然の前提として、その施設の充実ぶりや、周辺環境の魅力を訴えるものであったから、ここで紹介された学習環境にも期待し、進学先の大学や学部学科を選択したと認めることができる。

しかしながら、大学の在学契約は、大学が、学生に対して、①学生としての身分を取得させ、②文部科学省の定めた一定の基準にしたがって教育施設を提供し、③あらかじめ設定した教育課程に従って授業等の教育を行うなどの義務を負い、学生は、その対価である授業料等を大学に支払うことを主たる内容とする契約である。この契約には、施設利用契約の性質もあるとしても、その施設は一定の基準に従った施設であって、特定された施設を利用させることまでが内容となっているとはいえない。特定の施設を利用できることは、学生が契約を締結するに至る主観的な期待であって、動機にとどまり、これを越えるものとはいえないから、それに基づいて履行請求が可能となるような法的な権利が発生するとは認めることができない。教育内容に直接かかわる学科や授業が廃止されることと、授業を受ける場所が移転することとは、同列に論じられる内容ではない。たしかに、授業を受ける場所の移転が、あらかじめ提供を約束した授業を受けることを不能させることと同視できるような事情があれば、これは在学契約の本旨に従わないものであると認めることができるが、本件では、以下のとおり、そこまでの事情は見あたらない。

原告は、守山キャンパスまでの通学は、自宅から徒歩二〇分で可能であったのに、高槻キャンパスまでの通学は、自宅からJR守山駅までバス又は自転車で一〇分、JR守山駅からJR高槻駅まで新快速電車で四〇分、JR高槻駅から高槻キャンパスまで高槻市営バスで二〇分を要することになり、乗り継ぎ時間も含めると、片道で一時間三〇分を要することになり、通学時間が増え、学生に授業を受ける場所が移転することに伴う不利益や不便が生じるということができる。しかし、大学に入学する学生は満一八歳以上であって、大学生が大学における教育を受けるために自宅や保護者の下を離れることは一般的なことである。施設自体の設備の充実度や通園に便利な位置関係等の条件が満たされなければたちまち利用が著しく困難ないし不能となる保育所等の場合と、大学とは同じに論じることができない。上記の程度の距離の移転は、一八歳以上の大学生にとっては、極端に通学困難となり、授業や学習の提供が不能となったことと同旨できるというほどのものとはいえない。また、被告は、通学地域を限定した学生募集を行っているわけでもない。

さらに、本件では、被告において、通学にかかる経済的な不利益については、卒業最短終業年限までの通学運賃等の補助をすることを決定しているから、経済的には本件統合に伴い原告に通学困難が生じているとは認めることができない。

高槻キャンパスと守山キャンパスとで施設の内容に差があるとしても、それが授業や学習の提供が不能になることと同視できる程度のものといえるような事実は見あたらない。守山キャンパスにおいても、施設の内容が変化したり、授業の内容が変化したりする可能性はあり得るのであって、それは、場所の移転自体に伴う不便や不利益ではないから、守山キャンパスという場所を特定して就学する権利を主張する理由とはならない。

また、学生が学校に在籍する以上は、教育関係法規及び行政処分(認可及び補助金交付決定等)に、学生である原告も被告も双方拘束されるものであるとはいえるが、原告から被告への法的に履行請求を認めうる法律関係が成立しているとはいえない。むしろ、在学契約の附合契約性によって、学生の個々の同意がなくても、大学が定める規定・規則、理事会や教授会の決定にも、学生が拘束され得るともいえる。公法上の営造物等の利用は、私的な契約関係に基づくものではないし、侵害されたときに損害賠償(国家賠償)が認められるかの問題と、本件での私的な在学契約に基づく履行請求が認められるかの問題とを同列には論じることはできない。

原告と被告との間の在学契約に基づく本件請求二は理由がない。

(3)  第三者のためにする契約について

被告が、守山キャンパスの開設にあたって、地元地方自治体である守山市及び滋賀県から多額の補助金の交付を受けた経過は前記(1)イ認定の事実のとおりである。

上記の事実からも、被告の作成した平安女学院大学設置の理由書(甲一四)からも、守山市は、「大学を核としたまちづくり」の基本構想を打ち出し、大学の誘致によって、「都市環境を創出する」とともに、「大学と地域社会との交流システムづくり」を目指していたこと、設置される大学周辺に市民文化会館、市民運動公園も設置して、「教育・文化・体育ゾーン」を形成して新市街地の核とし、近隣の医療(県立成人病センター、県立小児保健医療センター、市立市民病院)・保健(県立総合保健専門学校)・福祉(市立福祉健康センター)の諸機関・施設と連携をはかり、大学と地域社会との交流システムを形成すること、大学施設において、公開講座、セミナー等の市民向け学習機会の提供や地元女子生徒の進学機会の拡大、生涯学習への対応、体育施設、図書館、コンピューター施設等の市民への開放等を期待していたことを認めることができる。したがって、補助金交付は、こうした守山市の地域の振興と教育文化の向上を目的とする開発事業計画に基づく調和のとれたまちづくりのためになされたものであることが明らかである。また、滋賀県においても、同理由書から、福祉専門職や英語や中国語に堪能な人材が県下で養成されることが、滋賀県の福祉や経済に利益となることを期待していたことを認めることができる。

このように、補助金の交付によって地方自治体が期待したことは、上記のような地方自治体の発展やその住民の利益であり、その目的のために、被告の大学を守山市の中心部に誘致し、その大学の内容や規模が四年制女子大学現代文化学部の一学年の定員二八〇名であることを前提に、それにふさわしい補助金交付を決定されたものと認めることができる。したがって、ここで自治体が期待したことの内容には、学生が守山キャンパスで就学し、守山市内を中心として学生生活を送ることも含まれているとはいえる。しかし、それは、その自治体の振興やその住民の福祉の向上のための手段にすぎず、地方自治体が、その自治体外からも特段地域を限定せずに募集される個々の学生に、守山キャンパスで就学する具体的権利を付与することをまで意図し、それを内容とする第三者のために契約をする意思があったと解することは、困難であるといわざるを得ない。

したがって、被告と守山市又は滋賀県との間の協定等が私的な契約関係としての性格をも有すると解することを前提としても、これに基づき、自治体が、個々の学生に対して、被告に対する具体的な権利が付与されるような契約をしたとは解されず、原告の、第三者のためにする契約を理由とする本件請求二も理由がない。

なお、原告は、本件の補助金交付は、負担付贈与であり、被告は、原告に対し守山キャンパスで就学させるとの負担を負ったとも主張するが、原告の主張によれば、贈与契約の当事者は、守山市ないし滋賀県と被告であり、原告は被告の負った負担によって利益を受ける第三者であって、この場合第三者自ら負担の履行を請求する権利を有するか否かは、第三者のためにする契約がなされたとみるか否かによって決まるから、結局は、被告と滋賀県ないし守山市と補助金交付を巡る関係が原告を第三者とする第三者のためにする契約といえるかという問題に帰着する。したがって、この主張は、原告の被告に対する権利を基礎づける独立した主張とはいえない。

(4)  その他、原告を守山キャンパスで就学させることが、原告と被告との間で法的に保護すべき契約内容となっているといえるような主張及び立証はない。

よって、原告の請求二は理由がない。守山キャンパスでの就学が契約内容となっているといえない以上、その余の主張についてはいずれも判断をするまでもない。

三  以上の次第で、原告の請求一は訴えの利益を欠き不適法であるから却下し、原告の請求二は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稻葉重子 裁判官 岡野典章 裁判官本多智子は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 稻葉重子)

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