大津地方裁判所 平成18年(ワ)115号 判決 2009年2月05日
原告
株式会社X
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
藤田昌徳
同
後藤隆志
被告
株式会社 シャトレーゼ
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
宇佐見方宏
同
濱秀和
同訴訟復代理人弁護士
熊谷吏夏
主文
一 被告は、原告に対し、三二五六万九七三六円及びうち二三五三万六五二八円に対する平成一八年三月一〇日から、うち九〇三万三二〇八円に対する平成二〇年一〇月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、七五二三万九〇五二円及びうち四五二七万三〇五六円に対する平成一八年三月一〇日から、うち二九九六万五九九六円に対する平成二〇年一〇月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告のフランチャイジーとして菓子等の販売業に従事していた原告が、被告が①フランチャイズ契約の締結に当たり、店舗の売上収支予測に関して不正確・不合理な情報を提供し、②フランチャイズ契約の締結後、原告に対する適切な経営指導を怠ったとして、被告に対し、債務不履行に基づき、損害賠償金七五二三万九〇五二円及びうち四五二七万三〇五六円に対する訴状送達の日の翌日である平成一八年三月一〇日から、うち二九九六万五九九六円(店舗原状回復工事費用一二五万五〇〇〇円と営業損失二八七一万〇九九六円の合計)に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成二〇年一〇月一七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
二 前提事実(争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 被告は、菓子の製造販売等を業とする株式会社であり、「シャトレーゼ」の名称で、フランチャイズ方式による菓子店を展開している。
イ 原告は、洋菓子、和菓子の製造販売等を業とする株式会社であり、被告との間で締結したフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)に基づき、フランチャイジーとして宇治東店(以下「本件店舗」という。)を経営していた。
(2) 立地調査報告
被告の店舗開拓部のC(以下「C」という。)及びD(以下「D」という。)は、本件契約の締結に先立つ平成一六年七月二九日、原告の代表者であるA(以下「A」という。)に対し、本件店舗の年間売上高として一億五一〇〇万円、営業利益として一〇七七万六〇〇〇円と記載された立地調査報告書(以下「本件報告書」という。)を交付した。
本件報告書に記載された本件店舗の年間売上高一億五一〇〇万円は、一次商圏人口に本件店舗で販売する商品に対する一人当たりの年間消費支出額(以下「マーケットサイズ」という。)及び出店した場合の推定市場占拠率(以下「シェア率」という。)を乗じた数値、二次商圏人口に本件店舗で販売する商品のマーケットサイズ及びシェア率を乗じた数値並びに三次商圏人口に本件店舗で販売する商品のマーケットサイズ及びシェア率を乗じた数値を合算して算出したものである(以下「本件算出方法」という。)。
(3) フランチャイズ契約の締結
原告は、同年八月三日、被告との間で、以下の約定などを内容とするフランチャイズ契約(本件契約)を締結し、本件契約に基づき、被告に対し、成約預託金として五五〇万円を支払った。
ア 成約預託金について(加盟店基本契約書第七条)
(ア) 原告は、本件契約の締結と同時に、被告に対し、五五〇万円を預託する。この預託金は、本件契約の有効期間中は被告が預かり、原告の研修費用二〇万円及び開業準備手数料三〇万円の支払に充当され、残額五〇〇万円は、本件契約から生じる原告の債務及び損害賠償債務の履行を担保するための保証金とされる。
(イ) 預託金には、利息を付さないものとし、被告は、本件契約終了後、原告に対し、本件契約から生じる原告の債務及び損害賠償債務を控除した残額を返還する。
イ 商品の仕入れ並びに在庫品の維持及び管理について(加盟店基本契約書第二四条)
原告は、被告の市場調査、商品情報及び助言に基づき、商品の仕入れ、並びに在庫品の維持及び管理を適切に行わなければならない。
ウ 販売促進について(加盟店基本契約書第二五条)
被告は、本件店舗の販売促進のため、担当者を派遣して助言・指導を行ったり、本件店舗の経営上生じた諸問題の解決に協力する。
(4) 本件店舗の開店と閉店
原告は、同年九月二九日、本件店舗を開店したが、営業に行き詰まり、平成一七年一〇月二〇日に閉店した。
(5) 成約預託金の返還
被告は、本件店舗の閉店に伴い、本件契約に基づき、原告に対し、原告が支払った成約預託金五五〇万円から研修費用二〇万円及び開業準備手数料三〇万円並びに原告の被告に対する債務額を控除した残額一四〇万九〇八九円を返還した。
三 争点
(1) 売上収益予測に関する情報提供義務違反の有無
(2) 経営指導義務違反の有無
(3) 原告の損害額
(4) 過失相殺の可否及び割合
四 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(売上収益予測に関する情報提供義務違反の有無)について
(原告の主張)
被告は、本件契約締結の交渉段階において、原告に対し、正確な売上収益予測を提供すべき義務を負っていたにもかかわらず、以下のとおり、不正確な売上収益予測を提供した。
ア 売上予測について
被告は、以下のとおり、不十分な調査に基づいて杜撰な分析を行い、不正確な売上予測を算出した。
(ア) 商圏範囲の設定
被告は、本件店舗の東側が山間部であり、西側にはJR奈良線及び京阪宇治線の線路が敷かれ、宇治川が流れているという地理的条件、JR奈良線宇治駅及び京阪宇治線宇治駅を中心とする商圏、JR奈良線六地蔵駅及び地下鉄東西線六地蔵駅を中心とする商圏並びにアルプラザ宇治東店の存在、本件店舗の販売商品が最寄り品であることなどを考慮せず、本件店舗から一キロメートル以上も離れた地域を商圏に含めている。
(イ) 商圏人口の調査
商圏内の人口の男女比や年齢構成は、本件店舗の集客力を判断するために重要な要素となるにもかかわらず、被告は、商圏内の行政人口を商圏人口としている。
(ウ) マーケットサイズ
本件店舗の主力商品は、洋菓子及びアイスクリームであり、和菓子、食パン、茶飲料等は主力商品ではないにもかかわらず、被告は、和菓子、食パン、茶飲料等に対する消費支出額を主力商品のそれと区別することなく、マーケットサイズを算出するための根拠としている。
(エ) シェア率
商圏人口、商圏内の人口密度は、商圏人口そのもの及びその評価にすぎず、シェア率設定の要素とはなり得ない。
被告が行った京都府道七号線京都宇治線(以下「府道七号線」という。)通行量調査は、平日の二日間に実施されたのみで、調査時間が本件店舗の営業時間より短い上に実測時間も短く、通行者の特性や通行車両の進行方向を区別していない不十分なものである。
被告は、商圏内の競合店の調査を十分に行っておらず、二次商圏内に被告自身が地域一番店と評価しているアルプラザ宇治東店が存在するにもかかわらず、二次商圏のシェア率を、本件店舗が地域一番店と認識され得る状態とされる二六パーセントと評価している。
(オ) 以上(ア)ないし(エ)のとおり、被告の売上予測は、不十分な調査に基づき杜撰な分析を行って算出された不正確なものである。このことは、本件店舗の実際の売上高から算出した一年当たりの売上高が、約六八二二万円であることからも明らかである。
イ 粗利率及び固定費について
被告の予測では、粗利率は三一・五パーセント、売上高に対する固定費の割合(以下「経費率」という。)は高くても二六・二二パーセントとされていたが、本件店舗の粗利率(平成一六年九月から平成一七年五月までのもの)は二〇パーセント、本件店舗の経費率(平成一六年九月から閉店した平成一七年一〇月までのもの)は約六〇パーセントとなっており、これは、被告の予測が不正確であることの証左である。
(被告の主張)
ア 被告が本件報告書で示した数字は、売上予測ではなく、売上目標である上、その売上目標も、以下のとおり、十分な調査に基づき適切に分析して算出した合理的なものである。
(ア) 商圏範囲の設定
被告は、当該店舗が地域一番店として安定的な集客力につながる範囲を一次商圏、当該店舗が地域一番店として認識され得る範囲を二次商圏及び動線的に来店可能性のある範囲を三次商圏と定めている。本件の一次商圏については、JR奈良線及び同黄檗駅並びに京阪宇治線及び同黄檗駅の存在等を考慮して、その範囲を福角、折阪、平野、二番割、一番割の一部、東隼上り、羽戸山一丁目と定め、二次商圏については、府道七号線、京滋バイパス及びアルプラザ宇治東店の存在等を考慮して、その範囲を北は五ヶ庄西浦地区まで、東は五ヶ庄三番割地区及び羽戸山地区まで、南は莵道谷下り地区まで、西は五ヶ庄戸ノ内及び莵道車田地区までと定め、三次商圏については、宇治川及び被告のフランチャイジーである宇治伊勢田店の存在等を考慮して、その範囲を北は木幡地区及び五ヶ庄西田地区まで、東は五ヶ庄三番割地区及び羽戸山地区まで、南は宇治紅斉地区まで、西は五ヶ庄戸ノ内及び莵道車田地区までと設定した。
本件店舗は、上記の一次商圏ないし三次商圏から万遍なく顧客を獲得しており、被告の商圏設定は正確であったといえる。
(イ) 商圏人口の調査
被告は、京都府宇治市役所企画管理部企画課において入手した地域別人口集計表によって、一次商圏人口を五二八二人、二次商圏人口を一万三六三四人、三次商圏人口を三万二四七二人と各算定した。
被告が当該店舗の地域的特性を考慮してシェア率を設定していることなどにかんがみると、商圏内の行政人口を商圏人口としたことに問題はない。
(ウ) マーケットサイズの設定
被告は、総務省統計局「平成一四年度家計調査年報」により、本件店舗が販売する商品に対する一世帯当たりの年間消費支出額を算出し、これを一世帯当たりの平均世帯構成人数二・六二人で除した二万一九六五円と、被告が店舗開発に当たって基準としている本件店舗が販売する商品のマーケットサイズを併せて考慮し、マーケットサイズを二万一五〇〇円と設定した。
(エ) シェア率の設定
a 被告は、当該店舗の地域的特性を考慮して、三パーセントから四〇パーセントの範囲内のシェア率を設定することとしているところ、商圏人口、商圏内の人口密度、府道七号線の通行量や京滋バイパスの宇治東インターチェンジの存在、アルプラザ宇治東店等競合店の存在等を総合考慮して、一次商圏のシェア率を三五パーセント、二次商圏のシェア率を二六パーセント、三次商圏のシェア率を五パーセントと各設定した。
なお、本件店舗の販売商品と競合店のそれとは趣向が異なるから、競合店の存在はかえって集客力につながると判断した。
b 本件店舗が販売する商品のうち菓子等は、経験則上、平日に比して休日のほうが売上が多くなること、被告の調査時間は、現実的に顧客の来店が期待できる時間帯であること、本件店舗への来店可能性を判断するに当たって府道七号線には通行車両の進行方向を区別すべき要因がないことから、被告が行った府道七号線の通行量調査でも、本件店舗の売上目標を算出することは可能である。
なお、原告は、府道七号線の通行量調査を平日のみしか実施しないことについて承諾していた。
イ 実際の売上や収益は、フランチャイジーの経営に左右されるものであり、被告が提示した売上目標や収益と本件店舗の実際の売上や収益が乖離した原因は、原告の放漫な経営にあるから、被告が提示した売上目標や収益と本件店舗の実際の売上や収益が乖離したことをもって、被告が情報提供義務に違反しているということはできない。
(2) 争点(2)(経営指導義務違反の有無)について
(原告の主張)
被告は、フランチャイザーとして、本件店舗の経営を適切に指導する義務があった。
しかるに、被告は、原告に対し、過剰に商品を発注させるなど発注量について適切な指導を行わず、経営改善策を何ら示さなかった。また、被告は、本件店舗の赤字が深刻化したため、原告が平成一七年二月に本件店舗の閉店を望んだにもかかわらず、強引に本件店舗の営業を継続するよう迫り、平成一七年五月以降は一切の経営指導を行わなかった。
(被告の主張)
被告は、商品の発注指導を行い、経費削減策を示すなど適切な経営指導を行っており、本件店舗の売上及び収益が上がらなかったことは、原告の経営努力の怠慢が原因であるから、被告には経営指導義務違反はない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 成約預託金 四〇九万〇九一一円
イ 開業準備費用 計二三〇九万一七三〇円
(ア) 店舗借入費用 計四九七万二五〇〇円
a 保証金 四五〇万〇〇〇〇円
b 仲介手数料 四七万二五〇〇円
(イ) 店舗工事代金その他 計一八一一万九二三〇円
a 店舗新装工事代金 一六二七万四六八五円
b カーポート工事代金 一三万〇〇〇〇円
c 空調機器購入代金 九四万二九〇〇円
d セコム費用 二四万六九六〇円
e 設計料 五二万四六八五円
ウ 原状回復費用 計一五三四万五四一五円
a リース解約違約金 一三八四万三六二〇円
b セコム撤去費用 一万八七九五円
c 看板撤去費用 二二万八〇〇〇円
d 店舗原状回復工事費用 一二五万五〇〇〇円
エ 営業損失 二八七一万〇九九六円
オ 弁護士費用 四〇〇万〇〇〇〇円
以上のうち、店舗原状回復工事費用一二五万五〇〇〇円と営業損失二八七一万〇九九六円は、平成二〇年一〇月一五日付け訴えの変更申立書により拡張された請求に係る損害項目であり、その余が訴状の請求に係る損害項目である。
(被告の主張)
原告の上記主張は、否認ないし争う。
(4) 争点(4)(過失相殺の可否及び割合)について
(被告の主張)
フランチャイジーは、自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する者であるから、フランチャイズ契約を締結するか否かについては、自らの判断と責任において決すべきであり、店舗運営についても自ら責任を負うべきである。
原告の代表取締役であるAが、一般的教養を身につけた社会人であり、商売を営む経営上の危険性について十分理解し、判断する能力を有する者であったこと及び原告が被告の経営指導に従わなかったことなどからすると、原告の過失割合は少なくとも九五パーセント以上である。
(原告の主張)
被告は、フランチャイズ契約に関する知識、経験等について、原告に比して圧倒的に優位な立場に立って、フランチャイズ契約を締結できること、被告が原告に示した売上予測は全く正確ではなかったこと、Aがフランチャイジーとして、店舗を経営した経験を有していなかったこと及び原告が本件店舗の経営状態を改善しようと様々な策を講じたことなどからすると、被告の過失は重大であり、過失相殺をすべきではない。
第三当裁判所の判断
一 事実経過
前記第二、二の前提事実のほか、《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件店舗が店舗候補地となるまでの経緯
ア Aは、昭和五〇年三月、立命館大学産業社会学部を卒業後、同年四月、株式会社a銀行(以下「a銀行」という。)に入社し、融資業務に一〇年以上携わるなど二七日間勤務し、a銀行唐崎支店の次長に就いていたが、従前からフランチャイズ店を経営したいと考えていたことから、平成一四年三月、a銀行を退職した。
Aは、退職金を元手にコンビニエンスストアのフランチャイズ店を経営しようと考え、フランチャイズ店に関する資料を集めるなかで、被告のフランチャイズ店にも興味を抱くようになった。
イ 被告の店舗開拓部のE(以下「E」という。)は、平成一五年三月、Aに対し、被告のフランチャイズシステムを説明したパンフレットに基づき、被告のフランチャイズシステムの特長として、ロイヤリティが発生しないこと、店舗の営業時間が一二時間程度であるため二四時間営業のコンビニエンスストアと比較して経費が安いこと、加盟店同士で商圏の競合がないことなどを挙げた上、被告のフランチャイズ店の平均年間売上高が約二億円程度であると説明した。Aは、Eの話を聞き、被告のフランチャイズ店を経営したいと思うようになり、被告に対し、草津市周辺への出店の意向を伝えた。
同年九月ころ、被告の担当者がEからCに代わった。Cは、同年一一月、Aに対し、被告のフランチャイズシステムを説明したパンフレットを交付し、これに基づき、被告のフランチャイズ全店の平均年間売上高が約二億円程度であると説明した上、かつては年間四億円の売上高をあげるフランチャイズ店が存在した旨述べた。
Cは、平成一六年六月ころ、Aに対し、損益計算書(都心パティオ型)と題する書面を交付した。上記書面には、年間売上高を一億五〇〇〇万円、一億八〇〇〇万円及び二億円と仮定した場合の損益計算がそれぞれ記載されていた。
ウ C及びDは、平成一五年一一月ころから、大津市周辺で店舗候補地となるような物件を探したが、めぼしい物件がなかなか見つからなかったことから、Aの了解を得て、京都市周辺でも店舗候補地となるような物件を探すこととした。その結果、C及びDは、平成一六年三月ころには大津市浜大津に、同年四月ころには京都市西京極に、同年五月ころには京都市西院に、同年六月ころには京都市五条に物件を見つけ出したものの、いずれの物件も、所有者との間で賃貸借契約を締結するには至らなかった。
C及びDは、Aが遅くとも同年九月ころには出店したいと希望していたことから、店舗候補地の範囲を京都市周辺から更に拡大し、同年七月中旬、京都府宇治市に本件店舗を見つけ出した。C及びDがAを本件店舗に案内したところ、Aは、滋賀県草津市の自宅から京滋バイパスを利用すれば、通勤時間が約三〇分になることなどから、本件店舗で出店することを希望した。
(2) 本件店舗の売上・収益予測の算出
ア Dは、Aが同年九月ころの出店を希望していたことから、出店までのスケジュールを逆算し、直ちに本件店舗の売上・収益予測を算出するために必要な調査を開始した。
(ア) Dは、同年七月一四日、京都府宇治市役所に赴き、宇治市企画管理部管理課作成の同年六月一日付け地域別人口集計表を入手した。
(イ) Dは、本件店舗周囲の道路を徒歩や自動車で移動して、本件店舗の周囲の地理的特徴を調査し、以下のように把握した。
a 本件店舗は府道七号線に面しているところ、府道七号線は、京都市と宇治市を結ぶ中央分離帯のない片側一車線の道路で、道路幅は約七・三五メートル、歩道幅は約一・三メートルであった。
b 府道七号線の西側には、JR奈良線及び京阪宇治線が通っており、本件店舗から北方約八〇〇メートルの地点にJR奈良線黄檗駅及び京阪宇治線黄檗駅があった。
線路の西側には、小規模アパートが密集しており、その西側には戸建て住宅が建ち並んでいた。
c 本件店舗の西方には、川幅が相当程度大きな宇治川が流れているが、これに架かる橋は、本件店舗から半径三キロメートル以内に数本あった。
d 本件店舗の東方は、山間部でゴルフ場が広がっており、居住者がほとんどいなかった。
e 本件店舗の南方には、京滋バイパスが通っており、本件店舗の南方約三〇〇メートルの付近に、京滋バイパス宇治東インターチェンジがあり、京滋バイパスと府道七号線は、立体交差していた。
(ウ)a Dは、平成一六年七月二一日(月曜日 曇)及び二二日(火曜日 晴)の両日、本件店舗が面する府道七号線の通行量を調査した。Dが採った通行量調査の手法は、一日のうち、午前一〇時三〇分、午後〇時三〇分、午後二時三〇分、午後四時、午後五時、午後六時及び午後七時からそれぞれ一〇分間の車両(大型トラック・小型トラック・普通自動車及び軽四輪自動車、バイク、自転車、バス)及び歩行者の数を進行方向並びに通行人の性別・年齢を区別せずに計測するというものであった。Dの調査の結果、同月二一日の平均通行量は二一三・四三(一〇分間当たりの数値)で、その内訳は普通自動車及び軽四輪自動車の割合が八〇・七パーセント、自転車の割合が二・六パーセント、歩行者の割合が一・二パーセントであり、同月二二日の平均通行量は二一四・一四(一〇分間当たりの数値)で、その内訳は普通自動車及び軽四輪自動車の割合が八一・一パーセント、自転車の割合が一・九パーセント、歩行者の割合が〇・七パーセントであった。
b Dは、出店までのスケジュール上、土日の通行量を調査することができなかったものの、被告の他のフランチャイズ店では平日に比して土日のほうが売上が大きかったことから、土日の通行量を調査しなくても本件店舗周辺の交通量を解析するには問題ないと判断した。
以上の認定に関し、被告は、出店までの時間的制約から土日の通行量を調査することができないことについて、Aの了解を得た旨主張し、Dはこれに沿う陳述をしている。
しかしながら、Aがそのような事実は一切ないと、Dの陳述と反対趣旨の供述をしていることに照らすと、Dの上記陳述はにわかに信用することができず、被告の上記主張を採用することはできない。
(エ) Dは、本件店舗の周囲の店舗のうち、次に挙げた店舗の売場面積、レジの台数、品揃え、価格、ショーケースの大きさ及び種類を調査し、評価を下した。
a ベルジュ
ベルジュは、本件店舗の北方約五〇〇メートルにある(本件店舗の一次商圏内)売場面積約一〇坪の洋菓子店であり、ケーキを一二尺二段のケースに陳列して販売し、焼き洋菓子を六尺の台に陳列して販売していた。苺のショートケーキを二九四円で販売し、フィナンシェを一五七円で販売していた。
Dは、A評価を下した。
b ハッピーテラダ黄檗店
ハッピーアラダ黄檗店は、本件店舗の北方約五〇〇メートルにある(本件店舗の一次商圏内)売場面積約二〇〇坪のスーパーマーケットで、レジが五台あり、アイスを一二尺のアイランドケースに陳列して販売していたが、チルド商品は販売していなかった。アイスを全て定価の二割引きの値段で販売していた。
Dは、B評価を下した。
c フレスコ木幡店
フレスコ木幡店は、本件店舗の北方約一・五キロメートルにある(本件店舗の三次商圏内)売場面積約一二〇坪のスーパーマーケットで、レジが三台あり、アイスを一二尺のデュアルケースに陳列して販売していたが、チルド商品は販売していなかった。アイスを全て定価で販売していた。
Dは、B評価を下した。
d コミュニティマートオザキ
コミュニティマートオザキは、本件店舗の北西約三〇〇メートルにある(本件店舗の一次商圏内)売場面積約一六〇坪のスーパーマーケットで、レジが四台あり、アイスを六尺のデュアルケースに陳列して販売していたが、チルド商品は販売していなかった。定価一〇〇円のアイスを販売しておらず、定価三〇〇円のアイスを二四八円で販売していた。
Dは、A評価を下した。
e アルプラザ宇治東店
アルプラザ宇治東店は、本件店舗の南西約六〇〇メートルにある(本件店舗の二次商圏内)売場面積約六五〇坪のスーパーマーケットで、レジが一四台あり、チルド商品を四尺五段のケースに陳列して販売し、アイスを一五尺のアイランドケースに陳列して販売していた。定価一〇〇円のアイスを三個二五〇円で販売し、定価三〇〇円のアイスを二五〇円で販売していた。
Dは、A評価を下した。
同店内には、洋菓子店「タカラブネ」があり、ケーキを一二尺三段のケースに陳列して販売し、アイスを五尺のストッカーケースに陳列して販売し、ギフト商品を九尺三段のケースに陳列して販売し、その他ソフトクリームも販売していた。
Dは、A評価を下した。
f シェアガタ
シェアガタは、本件店舗の南約八〇〇メートルにある(本件店舗の二次商圏内)売場面積約五坪の洋菓子店であり、ケーキを六尺三段のケースに陳列して販売していた。ロールケーキを一〇五〇円で販売し、その他焼きたてパンも販売していた。
Dは、B評価を下した。
g 幸栄堂
幸栄堂は、本件店舗の南東約二〇〇メートルにある(本件店舗の一次商圏内)売場面積約一〇坪の和菓子店であり、ギフト商品を一二尺二段のケースに陳列して販売し、生和菓子を六尺二段のケースに陳列して販売していた。ギフト商品の値段は一五〇〇円から三〇〇〇円であり、あんみつの値段は三五〇円、わらびもちの値段は四七三円であった。
Dは、A評価を下した。
h プルミエ
プルミエは、本件店舗の南方約六〇〇メートルにある(本件店舗の二次商圏内)売場面積約一五坪の洋菓子店であり、ケーキを一二尺三段のケースに陳列して販売し、焼き洋菓子のギフト商品を四尺二段のケースに陳列して販売していた。クレームブリュレを二六四円で販売していた。
Dは、A評価を下した。
(オ) Dは、本件店舗の北方約二・五キロメートルの場所で平成一一年九月二二日に開店し、一億五〇〇〇万円を超える年間売上高を上げていた被告のフランチャイズ店(宇治木幡店)が、平成一五年二月二八日に閉店したことを把握していた。
イ Dは、被告がフランチャイズ店の新規開店に際してその売上を予測するために用いる本件算出方法に従い、上記アの調査結果を基に、以下のとおり、本件店舗の売上を算出した。
(ア) 商圏人口
a 商圏範囲の設定
被告は、地域一番店として安定的な集客力につながる範囲を一次商圏、地域一番店として認識され得る範囲を二次商圏、動線的に来店可能性のある範囲を三次商圏としている。本件においては、Dが地域を車及び徒歩で回り、ここまでなら顧客を獲得できると考えたところを設定した。
Dは、①福住地区は、JR奈良線及び京阪宇治線の東側だけでなく西側の人口も多いこと、②JR奈良線及び京阪宇治線の西側の福住地区には商業施設が少ないことから、当該地区の住民が線路の東側まで徒歩で買い物に来ることが多いこと、③JR奈良線黄檗駅及び京阪宇治線黄檗駅の利用者の来店が見込めること、④競合店が存在するが、本件店舗の近辺にはかつて被告のフランチャイズ店である宇治木幡店が存在しており、Dが周辺住民に聴取した範囲では、「シャトレーゼ」というブランドの認知度が高かったことなどから、福角、折坂、平野、二番割及び一番割の一部、東隼上り、羽戸山一丁目の範囲を一次商圏と設定した。
次に、Dは、①府道七号線は木幡方面へ走行する車両が多いこと、②京滋バイパスの南側は東西への人の動きが少ないこと、③アルプラザ宇治東店は宇治東地域における地域一番店と評価できること、④羽戸山及び五ヶ庄三番割の東側の地区には居住者がほとんどいないことなどから、本件店舗が地域一番店として認識され得る範囲は、北方は本件店舗から自動車で約一〇分の距離、南方は本件店舗から自動車で約五分の距離すなわち北は五ヶ庄西浦、東は五ヶ庄三番割及び羽戸山、南は莵道谷下り、西は五ヶ庄戸ノ内及び莵道車田の範囲であると判断して、これを二次商圏と設定した。
さらに、Dは、①羽戸山及び五ヶ庄三番割の東側の地区には居住者がほとんどいないこと、②宇治市中心部の居住者が宇治川を渡って宇治東地域まで買い物に来ることがほとんどないこと、③被告のフランチャイズ店の宇治伊勢田店と商圏が競合しないようにしなければならないことなどから、北は木幡及び五ヶ庄西田、東は五ヶ庄三番割及び羽戸山、南は宇治紅斉、西は五ヶ庄戸ノ内及び莵道車田の範囲を三次商圏と設定した。
b 商圏範囲内の人口
Dは、入手した地域別人口集計表に基づき、一次商圏ないし三次商圏内の人口を算出し、一次商圏内の人口を五二八二人、二次商圏内の人口を一万三六三四人及び三次商圏内の人口を三万二四七二人と把握した。
(イ) マーケットサイズ
被告は、総務省統計局「平成一四年度家計調査年報」により、一世帯当たりの年間消費支出のうち、食パン、ようかん、饅頭、他の和生菓子、カステラ、ケーキ、ゼリー、プリン、他の洋生菓子、せんべい、チョコレート、アイスクリーム・シャーベット、ヨーグルト、茶飲料に対する金額の合計を一世帯当たりの平均世帯構成人数二・六二人で除し、上記商品に対する一人当たりの年間消費支出額を二万一九六五円と把握した上、被告のフランチャイズ店で販売する商品のマーケットサイズを二万一五〇〇円と設定していた。
Dも、これに従い、本件店舗で販売する商品のマーケットサイズを二万一五〇〇円と設定した。
(ウ) シェア率
a 被告は、従前から、シェア率を設定するに当たって、ランチェスター戦略と呼ばれるマーケティング理論を参考にシェア率を設定していた。そして、ランチェスター戦略では、シェア率四一・七パーセント(安定目標値)は、三者以上の市場において圧倒的に優位な地位が確保でき、安定した事業を展開できる状態であり、シェア率二六・一パーセント(下限目標値)は、競争から一歩抜け出した強者と認知され、業界トップないし市場に影響力を有する地位を確立できる状態であるとされていることにかんがみ、被告は、一次商圏の範囲が地域一番店として安定的な集客力につながる範囲として設定されたものであること、二次商圏の範囲が地域一番店として認識され得る範囲として設定されたものであること及び三次商圏の範囲が動線的に来店可能性のある範囲として設定されたものであることを基礎に、当該店舗の地域的特性を考慮した上で、三パーセントないし四〇パーセントの範囲内でシェア率を設定していた。
b Dは、①本件店舗を中心とする半径一キロメートルの範囲内の人口が一万人以上、半径一キロメートルから二キロメートルの範囲内の人口が二万五〇〇〇人以上、半径二キロメートルから三キロメートルの範囲内の人口が三万人以上であったこと、②本件店舗は、京都市と宇治市を結ぶ生活道路である府道七号線に面し、南方約三〇〇メートルには京都府と滋賀県を結ぶ京滋バイパスの宇治東インターチェンジがあって、交通の便がよいこと、③府道七号線は、普通自動車及び軽四輪自動車の通行量が多い上、本件店舗前には中央分離帯や交差点、信号がなく、木幡方面に走行する車両も入店しやすいこと、また、午後五時から午後六時にかけて混雑するとはいうものの、渋滞といえるほど混雑するわけではないこと、④アルプラザ宇治東店は、地域一番店で平日の集客力が大きいが、そこで買い物をして北方へ帰る住民が、本件店舗に来店することが期待できること、⑤本件店舗で販売する商品は低価格であり、競合店で販売されている商品とは趣向が異なるから、競合店の存在がかえって集客につながること、⑥本件店舗の北方約二・五キロメートルの場所にはかつて宇治木幡店があり、「シャトレーゼ」というブランドが本件店舗付近の住民に認知されていることなどを根拠として、本件店舗のシェア率を、一次商圏につき三五パーセント、二次商圏につき二六パーセント、三次商圏につき五パーセントと各設定した。
(エ) 本件店舗の売上・収益予測
a Dは、一次商圏人口五二八二人にマーケットサイズ二万一五〇〇円及びシェア率三五パーセントを乗じたもの、二次商圏人口一万三六三四人にマーケットサイズ二万一五〇〇円及びシェア率二六パーセントを乗じたもの並びに三次商圏人口三万二四七二人にマーケットサイズ二万一五〇〇円及びシェア率五パーセントを乗じたものを合算し、本件店舗の年間売上高を一億五〇八六万八五一〇円と予測した。
b Dは、平日は三・五人、土日祝日は四人で稼働することを前提として人件費を試算し、被告がフランチャイズ店の売上総利益を売上高の三一・五パーセント、ロスを売上高の二・五パーセントと想定していたことなどを参考として、本件店舗の年間営業利益を一〇七七万六〇〇〇円と予測した。
(オ) 報告書の作成及び出店会議
Dは、上記ア及びイ(ア)ないし(エ)の内容をまとめた報告書を作成し、Cと共に、平成一六年七月二六日、出店会議に臨み、上記報告書に基づいて本件店舗の売上予測等を説明したところ、取締役を含め出席者の誰からも上記報告書の内容に疑義は唱えられず、出店許可の決裁が下りた。
(3) 本件契約締結に至るまでの経緯
ア(ア) Cは、平成一六年七月二九日、JR京都駅前にあるホテル「エルイン京都」において、Aに対し、本件報告書を交付し、これに基づき、本件店舗は一億五一〇〇万円の年間売上高が見込める旨述べたが、本件報告書に記載された個々の内容については、「後で読んでおいてください。」と述べるにとどまり、具体的な説明をしなかった(Cの陳述書には、Dが調査内容を丁寧に説明したという記載があるが、上記陳述部分は、A本人の反対趣旨の供述に照らし採用することができない。)。Aは、Cが本件店舗の年間売上高として一億五一〇〇万円は見込める旨述べたこと及び本件報告書に総合評価として、本件店舗については安定した売上が見込まれる旨の記載があったことから、本件店舗で開業すれば一億五一〇〇万円の年間売上高(この数値から月間売上高を算出すると一二五八万三三三三円となる。)が見込めると信じ、C及びDに対し、本件店舗の売上や収益予測を算出した根拠について何らの質問をしなかった。
以上の認定に関し、被告は、CらがAに示した一億五一〇〇万円という数値は、本件店舗の売上予測として算出したものではなく、売上目標として算出したものである旨主張し、Dはこれに沿う供述をする。しかしながら、C、Dのいずれとも、Aに対し、本件報告書に記載された一億五一〇〇万円という数値が本件店舗の売上目標であるとの説明をしておらず、Cは、同報告書を見たAが一億五一〇〇万円ぐらいは売上が出ると期待することはわかっていたと供述していることに照らすと、Dの上記供述はにわかに信用することができず、被告の上記主張を採用することはできない。
(イ) Cは、同日、Aに対し、フランチャイズ契約書を交付し、本件契約に基づく原告及び被告の権利義務の内容を説明するとともに、本件契約締結に伴い、原告が締結することになる什器備品のリース契約及び本件店舗の賃貸借契約に関する説明を行った。さらに、Cは、Aに対し、本件店舗の開店までのスケジュールについても説明し、開店日を同年九月二九日とすることを提案したところ、Aは、これを了承した。
イ 原告は同年八月三日、被告との間で、前提事実(3)のとおり本件契約を締結し、Fとの間で、本件店舗に関し、期間を同日から一〇年間、賃料を一か月四七万二五〇〇円とする賃貸借契約を締結した。
(4) 本件店舗が開店するまでの経緯
ア Dは、平成一六年八月六日及び八日、本件店舗の商圏内の流出入人口及び老齢化指数(老齢(六五歳以上)人口÷幼年(一四歳以下)人口)を調査した。
イ A及びその義父であるGは、同月九日、被告の店舗企画部(同年一〇月以降、トレーニング部と名称変更)のH(以下「H」という。)及びI(以下「I」という。)と、本件店舗の開店前にポスティングする地域や本件店舗の開店までの動きについて話し合った。
ウ Aは、本件契約を締結する前から、G及びその娘(Aの義妹)の協力を得ながら、本件店舗を経営していこうと考えており、Gをマネージャーに、その娘を店長に配置することにした(以下、Gを「Gマネージャー」、Aの義妹を「G店長」という。)。しかし、同人が家庭の事情から宿泊を伴う店長研修を受けることができないため、Aが、同月二七日から同月三〇日までの間及び同年九月六日から同月八日までの間、被告の大阪事務所やフランチャイズ店において、店長研修を受けた。
また、Aは、同年九月一日及び同月二日、被告の本社において、オーナー研修を受けた。
エ HやIは、同月二五日から同月二八日までの間、Hが作成したオープン計画書に基づき、発注を行うなど本件店舗の開店準備を行った。
なお、被告のフランチャイズ店で販売する商品の発注は、フランチャイジーが行うことが原則であるが、プレオープンからフォロー期間までの間は、フランチャイジーの側に発注経験がないことを考慮して、被告の担当者が長年の経験を生かして発注を行い、被告が発注して廃棄ロスが生じた場合には、被告が廃棄ロスを負担することとされていた。また、被告は、定番商品が品切れを起こすと、来店者の期待を裏切ることとなり、当該店舗のその後の売上にも影響し得るので、定番商品については、廃棄ロスが生じることを覚悟して多めに発注すべきであるとの方針を取っており、これに基づき、店舗開店時の発注やフランチャイジーに対する発注指導を行っていた。
(5) 本件店舗の開店から閉店に至るまでの経緯
ア 本件店舗は、同月二九日及び同月三〇日をプレオープン期間として営業し、正式開店日である同年一〇月一日から同月三日まではグランドオープン期間として営業した。さらに、同月四日からは、対外的には通常営業であったが、同日から同月八日までの間がフォロー期間とされた。
プレオープン期間からフォロー期間の商品発注は、HやIなど被告の担当者が行い、被告は、同期間内に売れ残った商品の廃棄ロスのうち一四六万八六七二円を負担した。
イ 本件店舗は、同月二二日から、「収穫祭」と呼ばれるキャンペーンを開催することになっていた。Hは、収穫祭が本件店舗にとって初のキャンペーンであることを考慮し、同月二〇日、Aに対し、収穫祭で販売する商品の発注数を提案した。しかし、Aは、開店以降廃棄ロスが生じ続けていたことから、Hが提案した数をそのまま発注すると廃棄ロスが生じることを懸念し、Hの提案よりも発注数を減らした。その結果、同月二二日午後一時ころ、一部のアイスクリームが品切れになったが、売れ残った商品もあった。
Aは、HやIの発注指示に従うと、廃棄ロスがかさんで本件店舗の経営に悪い影響が出ると判断し、同年一一月上旬以降、HやIの発注指示にあまり従わず、発注数を減らすこととした。
ウ(ア) 本件店舗の売上高は、同年九月が二〇万九五二五円、同年一〇月が九二六万六〇九二円、同年一一月が五二六万三八四五円であった。Hは、同年一一月の売上高が大きく落ち込んだと判断し、販促活動として、同年一二月一〇日から同月一二日までの間に特別感謝祭というキャンペーンを実施することを決め、同月七日から同月九日までの間、Gマネージャーらと共に、周辺住民へのポスティングを行った。また、Hは、店の雰囲気を楽しいものにし、魅力ある店を作り出すことが必要であると考えて、特別感謝祭期間中の同月一一日及び一二日に輪投げゲームを実施する計画を立案し、これに基づいて、原告は輪投げゲームを実施した。
特別感謝祭の開催期間中の商品発注は、Hの指示の下に行われた。被告は、輪投げゲームの景品代二万二四一六円を負担した。
(イ) 同月下旬に開催されたクリスマスキャンペーン期間中の商品発注は、Hの指示の下に行われた。被告は、クリスマスキャンペーン期間中に生じた廃棄ロスのうち、クリスマスキャンペーンと関連した商品の廃棄ロスのみを負担した。
G店長は、このころ、経営方針が異なる被告とAとの間で板挟みになり、Hに対し、退職の意思を表明し、これを聞いた本件店舗の従業員らも、G店長が退職するのであれば、自分たちも退職する旨言い出した。Hは、G店長が退職すれば本件店舗の運営に重大な影響が出ると判断し、G店長を慰留し、翻意を得た。
(ウ) 本件店舗の同月の売上高は八五〇万八四一六円であった。
エ Aは、平成一七年一月上旬、ショーケースに見本として陳列され、売り物ではない物を販売した。その後、A、Gマネージャー及びG店長が協議し、同月一〇日以降、Aが本件店舗の運営から退き、代わりにGマネージャーが本件店舗の運営に関与することとした。
同月二一日から開催されたいちごフェアの期間中、商品の発注はHらの指示の下に行われたが、大量に商品の売れ残りが生じた。
本件店舗の同月の売上高は五九五万八二四〇円であった。
オ H及びIは、同年二月八日以降、本件店舗を数回訪れ、バレンタイン商戦や同月一一日から開催された二回目のいちごフェアの期間中の商品の発注を指示したり、Gマネージャーと面談するなどすることにより、本件店舗の経営改善策を検討した。
Gマネージャーは、本件店舗の売上が伸びず(本件店舗の同月の売上高は四九三万一九三一円であった。)、人件費等の経費を削減しても一向に経営状態が改善しないことから、本件店舗を閉店したほうがよいと考えるようになり、Aと共に、同月二四日、H及び被告のトレーニング部のJ(以下「J」という。)に対し、本件店舗を閉店したいとの意向を伝えた。しかし、Hらは、Aに対し、本件店舗の経営を続けるよう求め、Aも、退職金等の資金を投じて本件店舗を開店した以上、経営を続けたいとの思いがあったことから、Gマネージャーの反対にもかかわらず、同月二八日、Hらの求めに応じることとした。そして、HらとAは、同年三月から、Aが本件店舗に復帰し、三か月間経営を続けた上で閉店するか否かを見極めることとした。
カ(ア) HやJは、本件店舗の問題点を検討し、ロスが減少するような発注数や人件費が削減されるようなシフトの組み方等を指導する必要があるとの結論に達した。そこで、本件店舗の経営改善を図るため、HやIをはじめとする被告の担当者は、同年三月一日以降、毎日のように本件店舗を訪れ、AやGマネージャーと面談したり、ひなまつり、ホワイトデー、彼岸、お菓子フェア等における発注数や、シフトの組み方等について提案した。
しかし、Aは、必ずしも提案された発注数に従って発注したわけではなく、ひなまつりのキャンペーンが実施されていた同月三日は、午後七時ころから品切れが生じた。
(イ) G店長は、同月九日ころから、本件店舗に出なくなり、本件店舗の経営が改善することはないと考えていたGマネージャーは、同月一五日、退職した。
本件店舗の同月の売上高は六〇一万三九五八円であった。
キ Aが、HやIに対し、経営に関する指導は不要であり、自らの考えに基づいて本件店舗の経営を行いたい旨述べるようになったことから、HやIは、同年四月以降、本件店舗を訪れる頻度を減らし、経営に関する指導をほとんど行わなくなった。
ク Aは、本件店舗の売上高が、同年四月が四八二万九八〇四円、同年五月が五〇七万二四一六円、同年六月が四八三万八七九九円、同年七月が五一四万七五八八円、同年八月が五二三万七六四二円、同年九月が四二三万二八九七円と伸びなかったことから、同年一〇月二〇日、本件店舗を閉店した(本件店舗の同年一〇月の売上高は二六七万二四一二円であった。)。
二 争点(1)について
(1) フランチャイズへの加盟契約を締結するか否かを検討している者にとって、通常、最大の関心事は、契約後に店舗経営によってどの程度の収益を得ることができるかにある。そして、フランチャイザーは、多数の店舗展開をする中で膨大な情報と売上予測のノウハウを有しているのに対し、フランチャイジー候補者は通常、乏しい情報しか有しておらず、売上予測や収益予測については、主としてフランチャイザーから提供される情報に依拠することになるから、フランチャイザーがフランチャイジー候補者に対し、フランチャイズ契約の締結に向けた交渉過程において店舗の売上予測を提供した場合、その内容は、フランチャイジー候補者が契約を締結するか否かを決断するに当たって重要な影響力を持つと考えられる。もとより、その予測値について誤差が生じ得ることは、事の性質上避けられないことではあるが、ノウハウを有するフランチャイザーから提供された情報であるだけに、フランチャイジー候補者とすれば、その予測が大幅に外れることはないだろうと信頼するのが通常であり、他方、フランチャイザーとしても、当該店舗でどの程度の収益が得られるかという切実な問題意識を有するフランチャイジー候補者に対し、売上予測等に関する情報を提供する以上、フランチャイジー候補者がそれを信頼性の高い数値と受け止めることを期待していると考えられる。
したがって、このような両者の関係にかんがみると、フランチャイザーが、フランチャイズ契約の締結に向けた準備段階において、フランチャイジー候補者に対し、売上予測等を提供する場合には、信義則上、十分な調査をし、的確な分析を行って、できる限り正確な売上予測等を提供する義務がある。
(2) そこで、この点を原告らの主張に即して検討する。
ア 商圏範囲の設定について
商圏とは、顧客の自店への来店範囲をいい、一般的には、主に最寄り品を販売し、買回り品も一部取り扱う店舗の商圏範囲は半径五〇〇メートルから一・五キロメートル、逆に主に買回り品を販売し、最寄り品も一部取り扱う店舗の商圏範囲は半径一・五キロメートルから五キロメートルとされている。もっとも、商圏は、業種・業態の違い、店舗面積の大小、取扱商品の品揃え幅・豊富さ、価格帯及び店舗運営政策などにより、範囲が異なり区分の方法も変わってくることから、商圏設定は、個々の店舗の販売促進戦略に基づき、自然条件、競合店舗の展開状況、道路交通状況等を総合考慮して行うべきであるとされている。
Dは、前記一(2)イ(ア)aで認定したとおり、自らの調査によって得られた本件店舗の東方が山間部で居住者が少なく、本件店舗の西方に宇治川が流れているといった自然条件、アルプラザ宇治東店が宇治東地域における地域一番店と評価できるといった競合店舗の展開状況、府道七号線は木幡方面へ走行する車両が多いといった道路交通状況等を総合考慮して、本件店舗の一次商圏ないし三次商圏を設定したが、このような手法は、新設店の仮想商圏の設定方法として一般的なものである。
原告は、被告が本件店舗の販売商品が最寄り品であることなどを考慮せず、本件店舗から一キロメートル以上も離れた地域を商圏に含めたことは不合理である旨主張する。しかしながら、上記のとおり、商圏範囲は当該店舗の取扱商品のみによって定まるものではない上、本件店舗で販売する洋菓子や和菓子等には必ずしも最寄り品であるとはいい難い面もあること等を考慮すると、被告の商圏設定が直ちに不合理であるとはいえず、原告の上記主張を採用することはできない。
イ 商圏人口の調査
原告は、被告が商圏内の人口の男女比や年齢構成を考慮しなかったのは不合理である旨主張する。確かに、商圏内の人口の男女比や年齢構成は、本件店舗の集客力を判断する上で重要な要素となり得るが、商圏内の行政人口をもって商圏人口と捉えることは一般的に用いられている手法であり、男女比や年齢構成についてはシェア率で考慮することも可能であるから、被告が商圏内の行政人口をもって商圏人口と捉えたことが、直ちに不合理であるとはいえず、原告の上記主張を採用することはできない。
ウ マーケットサイズについて
前記一(2)イ(イ)で認定したとおり、被告は、総務省統計局「平成一四年度家計調査年報」を用いて、被告のフランチャイズ店で販売する商品に対する一人当たりの年間消費支出額を算出した上、被告のフランチャイズ店で販売する商品のマーケットサイズを算出することとし、Dも、これに従って本件店舗のマーケットサイズを把握しているところ、Dが本件店舗のマーケットサイズを把握するために行った調査・検討には特段不合理な点を見出すことはできない。
原告は、本件店舗のマーケットサイズの算出に当たって、本件店舗の主力商品とそうではない商品を区別すべきであった旨主張する。しかしながら、マーケットサイズとは、当該店舗で販売する商品に対する一人当たりの年間消費支出額のことをいい、主力商品とそれ以外の商品を区別すべき合理的理由はないから、原告の上記主張を採用することはできない。
エ シェア率について
(ア) Dは、前記一(2)イ(ウ)bのとおり、①本件店舗を中心として半径一キロメートルの範囲内の人口が一万人以上、半径一キロメートルから二キロメートルの範囲内の人口が二万五〇〇〇人以上、半径二キロメートルから三キロメートルの範囲内の人口が三万人以上であったこと、②本件店舗は、京都市と宇治市を結ぶ生活道路である府道七号線に面し、南方約三〇〇メートルには京都府と滋賀県を結ぶ京滋バイパスの宇治東インターチェンジがあって、交通の便がよいこと、③府道七号線は、普通自動車及び軽四輪自動車の通行が多い上、本件店舗前には中央分離帯や交差点、信号がなく、木幡方面に走行する車両も入店しやすいこと、また、午後五時から午後六時にかけて混雑するとはいうものの、渋滞といえるほど混雑するわけではないこと、④アルプラザ宇治東店は、地域一番店で平日の集客力が大きいが、そこで買い物をして北方へ帰る住民が、本件店舗に来店することが期待できること、⑤本件店舗で販売する商品は低価格であり、競合店で販売されている商品とは趣向が異なるから、競合店の存在は、かえって集客につながること、⑥本件店舗の北方約二・五キロメートルの場所にはかつて宇治木幡店があり、「シャトレーゼ」というブランドが本件店舗付近の住民に認知されていることなどを考慮要素として、本件店舗のシェア率を、一次商圏につき三五パーセント、二次商圏につき二六パーセント、三次商圏につき五パーセントと各設定した。
(イ) そこで、Dが上記シェア率を算出した過程について検討する。
前記のとおり、被告も参考にしていたランチェスター戦略では、三者以上の市場において圧倒的に優位な地位を確保でき、安定した事業を展開できる状態が、シェア率四一・七パーセントであり、競争から一歩抜け出した強者と認知され、業界トップないし市場に影響力を有する地位を確立できる状態が、シェア率二六・一パーセントとされている。したがって、これを前提とするならば、Dが本件店舗について設定したシェア率は、一次商圏内ではほぼ独占に近い地位を確保でき、二次商圏内でも地域一番店といえる地位を確保できることを意味している。
しかしながら、本件店舗の一次商圏内には、ベルジュ、ハッピーテラダ黄檗店、コミュニティマートオザキ及び幸栄堂という四店の競合店があり、そのうちハッピーテラダ黄檗店を除く三店については、D自身がA評価をしていたこと、本件店舗の二次商圏内にも、アルプラザ宇治東店、シェアガタ及びプルミエという三店の競合店のほか、競合店になり得るものであるのにDが全く調査しなかった洋菓子店として、エースケーキの店、コトブキ黄檗店及びティッヒー洋菓子店の三店があったこと、このうちアルプラザ宇治東店については、D自身が地域一番店という評価をしており、かつ、同店の中には本件店舗と同様に比較的安価な菓子類を販売し、D自身がA評価をしたタカラブネが入店していたことを考慮すると、これらの競合店との対比において、本件店舗の明らかな優位性を基礎づける特段の事情がない限り、本件店舗が一次商圏内でほぼ独占に近い地位を確保でき、二次商圏内でも地域一番店といえる地位を確保できるということは、容易には想定し難いところである。
Dは、本件店舗のシェア率を設定するに当たり、上記①ないし⑥の点を考慮しているが、①の人口数は本来シェア率とは無関係であるし、本件店舗の販売商品が低価格なものであることからすると、多数の客が高速道路を利用してまで来店するとは考え難く、②の宇治東インターチェンジの存在も、上記特段の事情に当たるとはいえない。また、上記競合店のうち、ベルジュ、ハッピーテラダ黄檗店、シェアガタ及びプルミエの四店が、本件店舗と同様に、府道七号線沿いにあったことを考慮すると、③の点も、直ちに本件店舗の明らかな優位性を基礎づけるものとはいい難い。そして、④の点についてみても、アルプラザ宇治東店は、そもそもD自身が地域一番店と評価した優位性の高い競合店であった上、その中には本件店舗と同様に比較的安価な菓子類を販売するタカラブネが入店しており、アルプラザ宇治東店を訪れた客が、その帰りに本件店舗を訪れて菓子類を購入する可能性が高いとまではいえないから、この点も、本件店舗の明らかな優位性を基礎づけるものとはいい難い。さらに、⑤の点については、競合店の販売商品と趣向が異なるということは、競合店と競っていく上で一つの長所になるではあろうが、競合店の存在は、集客力低下の重要な要因でもあることを考慮すると、それだけで直ちに本件店舗の集客力向上につながるとはいえないし、⑥の点も、本件店舗の北方二・五キロメートルの場所で約一年六か月前まで宇治木幡店が営業していたとしても、その閉店の経緯は明らかでない上、上記のとおりの競合店がある中で、本件店舗について当然に安定した売上が見込める状況にあったとはいえないから、⑤及び⑥の点も、本件店舗の明らかな優位性を基礎づけるものとはいえない。
(ウ) そうすると、Dが本件店舗について設定した一次商圏及び二次商圏のシェア率は、合理的な根拠を欠くものというほかはない。
オ 以上のとおり、商圏範囲の設定、商圏人口の調査、マーケットサイズの把握においては、被告の検討過程に特段問題があるとはいえないが、シェア率の設定においては、その過程で競合店となり得る店舗の調査を十分せず、合理的根拠を欠いた分析を行って、本件店舗のシェア率として、一次商圏内ではほぼ独占に近い地位を確保でき、二次商圏内でも地域一番店といえる地位を確保できるという過大な設定をしていたものである。そして、本件算出方法では、シェア率を高く設定すれば当然に売上高も大きくなるのであり、本件店舗の実際の売上高が被告の売上予測に遠く及ばない結果に終わったことについては、被告が本件店舗のシェア率を過大に設定していたことが、その一因であったと推認される。そうすると、被告は、過大なシェア率を設定して本件店舗の売上予測を誤り、原告に対しても、この誤った売上予測、さらには営業予測を提供していたものであるから、情報提供義務違反の責任を免れない。
これに対し、被告は、①本件店舗が商圏範囲内から万遍なく顧客を獲得できていること、②原告の本件店舗の経営に問題があったことなどを挙げて、情報提供義務違反の責任を負わない旨主張する。
まず、①の点についてみるに、《証拠省略》によれば、本件店舗が商圏範囲内から万遍なく顧客を獲得していることは認められる。しかし、上記事実によって、商圏設定の合理性を根拠づけることはできたとしても、売上予測に当たり当該仮想商圏に適用すべきシェア率算出の合理性を根拠づけることはできない。次に、②の点についてみるに、被告は、本件店舗の開店以降、その売上を向上させるため、原告に対して種々の経営指導を行っており、他方の原告も、平成一七年四月までは基本的に被告の経営指導に従っていたこと、それにもかかわらず、本件店舗の月間売上高は、オープン月の平成一六年一〇月でさえ九二六万六〇九二円で、その後は、同年一一月が五二六万三八四五円、同年一二月が八五〇万八四一六円、平成一七年一月が五九五万八二四〇円、同年二月が四九三万一九三一円、同年三月が六〇一万三九五八円、同年四月が四八二万九八〇四円、同年五月が五〇七万二四一六円、同年六月が四八三万八七九九円、同年七月が五一四万七五八八円、同年八月が五二三万七六四二円、同年九月が四二三万二八九七円と、被告が原告に提示した一二五八万三三三三円という月間売上予測に遠く及ばなかったことを考慮すると、本件店舗の立地条件は、他のフランチャイジーがたとえ被告の経営指導に全面的に依拠して運営したとしても、被告が予測したような売上を上げることはできなかった可能性が高い。
したがって、後述するように、原告の経営にも問題があったとしても、それを理由に過失相殺をするのは別として、上記のとおりの情報提供義務違反がある以上、被告は、その責任を免れることができない。
三 争点(2)について
(1) 原告は、被告が①過剰に商品を発注させたこと、②経営改善策を示さなかったこと、③原告が平成一七年二月に本件店舗の閉店を望んだにもかかわらず、強引に本件店舗の営業を継続するよう迫り、同年五月以降は一切の経営指導を行わなかったことを挙げ、被告がこれらの点で経営指導義務に違反した旨主張するので、以下検討する。
(2) ①について
前記一(4)エで認定したとおり、被告は、定番商品が品切れを起こすと来店者の期待を裏切ることとなり、当該店舗のその後の売上にも影響し得るので、定番商品については廃棄ロスが生じることを覚悟して多めに発注すべきであるとの方針を有しており、これに基づき、原告に対する発注指導を行っていた。
この点、廃棄ロスを生じることを覚悟で多めに仕入れるということは、来店する顧客との関係では、希望する商品が常に陳列してあるという意味で、顧客の信頼を得ることにつながり、結果として店舗全体の売上増大にもつながるという、いわゆるチャンスロスを防止するという経営戦略に基づくものであり、それ自体不合理であるとはいえない。また、本件全証拠によっても、被告が、原告から売掛金で利益を得ることのみを目的として、実績からは売上の見込めない商品を発注させるなど、不当な目的をもって発注指導を行ったと認めることはできない。
したがって、発注指導に関して被告の義務違反があったとする原告の主張を採用することはできない。
(3) ②について
被告は、前記一(5)で認定したとおり、HやIなどの担当者を本件店舗に派遣し、原告に対し、商品の発注に関する指導をしたり、人件費を削減するためにシフトの組み方について提案したりしている。
したがって、経営改善策の提示に関して被告の義務違反があったとする原告の主張を採用することはできない。
(4) ③について
Aは、前記一(5)オで認定したとおり、自らの意思により本件店舗の営業を継続することを決めたこと、また、前記一(5)キで認定したとおり、HやIは、Aが経営に関する指導は不要であり、自らの考えに基づいて本件店舗の経営を行いたい旨述べるようになったことから、平成一七年四月以降、本件店舗を訪れる頻度を減らしたものであることを考慮すれば、原告は、被告による経営指導を受けることを自ら放棄したといえる。
したがって、被告が同年五月以降、原告に対する経営指導を怠ったとする原告の主張を採用することはできない。
四 争点(3)について
(1) 成約預託金 四〇九万〇九一一円
《証拠省略》によれば、原告は被告に対し、平成一六年八月三日、研修費用二〇万円、開業準備手数料三〇万円及び加盟保証金五〇〇万円からなる成約預託金として五五〇万円を支払ったが、本件契約終了後の平成一七年一〇月一五日、加盟保証金五〇〇万円から商品代金等として三五九万〇九一一円を相殺された結果、返還を受けたのは一四〇万九〇八九円にとどまったことが認められる。原告が支払った研修費用二〇万円、開業準備手数料三〇万円及び加盟保証金五〇〇万円から相殺された三五九万〇九一一円(その合計は四〇九万〇九一一円)は、本件店舗を開業したことに伴って生じた費用であるから、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(2) 本件店舗の賃貸借関係費用 四九七万二五〇〇円
《証拠省略》によれば、原告は、平成一六年八月三日、有限会社オリエンタルインダストリー(以下「オリエンタルインダストリー」という。)を介して、F(以下「F」という。)との間で、本件店舗の建物を目的とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を、期間を同日から一〇年間、賃料を月四七万二五〇〇円とする約定のもとに締結し、同日、オリエンタルインダストリーに対し、仲介手数料として四七万二五〇〇円を、Fに対し、本件賃貸借契約に基づき、保証金として四五〇万円を各支払ったことが認められる。
このうち、仲介手数料四七万二五〇〇円の支払は、本件店舗の開業に伴って生じた支出であるから、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
また、保証金四五〇万円の支払は、本件店舗の開業に伴って生じた支出である上、本件賃貸借終了後、本件賃貸借契約に基づき、本件建物の原状回復工事費用に保証金が充当されているから、原告はFに対して、上記保証金を返還を求めることができない。したがって、保証金四五〇万円の支払も、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(3) 店舗工事代金等 一八一一万九二三〇円
《証拠省略》によれば、原告は、本件店舗の設計及び工事、カーポートの工事、並びに空調機器及び金庫の購入のために、一八一一万九二三〇円を支出したことが認められるところ、上記支出は、本件店舗の開業に伴って生じた支出であるから、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(4) 原状回復費用 一五三四万五四一五円
《証拠省略》によれば、原告は、本件店舗開業のために、平成一六年九月二八日、東銀リース株式会社(以下「東銀リース」という。)との間で、ケーキケース他一式等のリース契約を締結したこと、本件賃貸借契約の終了に基づき、本件店舗を原状に復する義務を負ったため、平成一七年一二月一日、東銀リースとの間で、上記リース契約の解約金として一三八四万二七八〇円を支払うことで合意したこと、警報機器の撤去費用として一万八七九五円を支出したこと、看板の撤去費用として二二万八〇〇〇円を支出したこと及び本件店舗の原状回復工事に五七五万五〇〇〇円の費用を要したため、本件賃貸借契約に基づき保証金四五〇万〇〇〇〇円を充当した上、さらに一二五万五〇〇〇円を支出したことが認められる。上記支出ないし債務負担は、本件店舗の開業に伴い本件店舗に設置したものを撤去することによって生じた支出ないし債務負担であるから、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害といえる。
(5) 営業損失 一六八一万一四一七円
ア 《証拠省略》によれば、原告は、本件店舗の営業により、平成一六年九月から平成一七年一〇月までの間に、二六二一万五三一四円(平成一六年九月:五一六万九一五四円、平成一六年一〇月:二六八万一七五八円、平成一六年一一月:二七四万七四六七円、平成一六年一二月:二二〇万三一八六円、平成一七年一月:二三五万六二八八円、平成一七年二月:一六五万三五六四円、平成一七年三月:一四〇万六九一四円、平成一七年四月:一三七万〇四四八円、平成一七年五月:四八万二四〇六円、平成一七年六月:一四〇万九九三九円、平成一七年七月:六四万五三五二円、平成一七年八月:一四一万四九九八円、平成一七年九月:一四六万〇四六六円、平成一七年一〇月:一二一万三三七四円)の営業損失を計上したことが認められる。
イ 上記営業損失は、本件店舗の開業及びその営業継続に伴って生じた損害であるが、前記一(5)で認定したとおり、原告は、開店直後から、被告の経営指導に疑問を抱き、本件店舗の売上が向上せず営業損失を計上し続けたことから、平成一七年二月ころには、いったん本件店舗を閉店させようと考えていたこと、その時点では結局、営業を継続することになったが、これにはGマネージャーが反対しており、原告は自らの責任で、同年三月以降の営業を継続していたと見ざるを得ないことを考慮すると、平成一六年九月から平成一七年二月までの営業損失(一六八一万一四一七円)については、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認めることはできるが、同年三月以降の営業損失については、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
五 争点(4)について
フランチャイジーは、単なる末端消費者とは異なり、自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図するものである以上、フランチャイザーから開示・提示された情報を検討・吟味した上、最終的には自己の判断と責任においてフランチャイズ契約を締結するか否かを決すべきである。
原告の代表取締役であるAは、大学を卒業後、融資業務に一〇年以上携わるなど計二七年間銀行員として勤務していたことから、商売を営む経営上の危険性について十分理解し、判断する能力を有していたにもかかわらず、被告から交付された本件報告書に記載された売上予測について、DやCに対して説明を求めず、また、損益計算書を読解する能力を有しながら、本件報告書に記載された本件店舗の損益計算書を検討することもなく、本件店舗を経営することにより、一年間に約一億五一〇〇万円の売上が上がり、約一〇七七万六〇〇〇円の営業利益が計上されると安易に信じて、本件契約を締結することを決意したものである。これは、多額の開業資金を投下して商売を始めようとする者としては、フランチャイザーの言動に寄りかかりすぎた軽率なものであったといわざるを得ない。
もっとも、原告と被告とでは、フランチャイズ契約に関する知識・経験、情報量、組織的力量など、どれをとっても決定的な差があり、しかも、前記二で認定した被告の情報提供義務違反の態様からすると、被告の責任も大きいというべきであるから、本件における損害賠償額の算定に当たっては、原告の上記過失を斟酌し、五〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。
六 認容額の計算
(1) 原告の損害額
前記四(1)ないし(5)で認定したとおり、五九三三万九四七三円である。
(2) 過失相殺
上記(1)の原告の損害額について、五〇パーセントの過失相殺をすると、その残額は、二九六六万九七三六円となる。
(3) 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるが、本件事案の難易、審理の経過、認容額に照らすと、このうち二九〇万円をもって、被告の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害と認める。
七 結論
以上によれば、原告の請求は、三二五六万九七三六円及びこれから訴えの変更申立書により拡張された請求に係る損害項目(店舗原状回復工事費用と営業損失)の九〇三万三二〇八円を控除した二三五三万六五二八円に対する訴状送達の日の翌日である平成一八年三月一〇日から、上記九〇三万三二〇八円に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成二〇年一〇月一七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石原稚也 裁判官 阿多麻子 大門宏一郎)