大津地方裁判所 平成19年(ワ)921号 判決 2008年12月05日
第一事件原告兼第二事件被告
A
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士
吉原稔
第一事件被告
全国共済農業協同組合連合会
(以下「被告」という。)
同代表者代表理事
B
第二事件原告
X1<他1名>
上記三名訴訟代理人弁護士
奥田直之
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 第二事件原告らと原告との間で、第二事件原告らが原告に対し別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務を有しないことを確認する。
三 訴訟費用は第一事件及び第二事件を通じ、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
〔第一事件〕
被告は、原告に対し、六〇五万円及びこれに対する平成一九年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
〔第二事件〕
第二事件主文同旨
第二事案の概要
〔第一事件〕
第一事件は、交通事故により傷害を負った原告が、加害車両が加入していた任意保険(共済)である被告との間で成立した示談契約が弁護士法七二条に違反するもので、公序良俗違反(民法九〇条)により無効であるとして、被告に対し、被害者の損害保険会社に対する対人賠償の直接請求として、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料のうち六〇五万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(平成一九年一二月五日)から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
〔第二事件〕
第二事件は、交通事故の加害者である第二事件原告らが、原告との間の示談契約は有効であり、示談契約の免責条項により原告の第二事件原告らに対する損害賠償請求権は一切存在しないことが確認されたとして、原告らとの間で、交通事故に基づく損害賠償債務の不存在確認を求めた事案である。
一 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生し、原告が右大腿骨転子間骨折、右肋骨骨折、左下菱形骨骨折、右大腿骨転子間骨折術後及び、5+35-7・76|67MT、5+35-7義歯不適合等の傷害を負った。
(2) 被告は、加害車両が加入していた任意保険(共済)である。
(3) 第二事件原告らは、原告が本件事故により被った損害について、民法七〇九条に基づき賠償義務を有する。
(4) 原告は、平成一七年八月三日、第二事件原告X2及び前橋市農業協同組合との間で、傷害部分について、次のとおり示談契約を成立させた(甲五、以下「傷害部分の示談」という。)。
ア 第二事件原告X2は本件交通事故にかかる原告の治療費等を全額負担するものとする(但し平成一七年七月三一日までとする。)。
イ 第二事件原告X2は原告の人身損害に対して一切の賠償金として、上記治療費及び既払金二九一万七〇八六円のほか六五万円を支払う。
ウ 今後、本件交通事故にかかる原告の後遺障害が発生した場合(医師の証明による。)は、原告は第二事件原告X2の加入する自賠責保険(前橋市農業協同組合 第○○○○○号)に直接被害者請求するものとし、その結果によって解決するものとする。
エ 今後第二事件原告X2・原告双方に一切の債権・債務が発生しないことを確認し、裁判上・裁判外を問わず何ら異議申立、請求及び訴の提起等をいたしません。
(5) 原告の後遺障害のうち歯に関するものは、平成一八年一月一七日、自賠責保険において、後遺障害10級3号(ただし、13級4号からの加重障害となる)と認定された。
(6) 原告は、平成一八年一月一六日、第二事件原告X2、前橋市農業協同組合との間で、後遺障害について示談契約を成立させた(以下、契約を「本件示談契約」といい、甲六の免責証書を「本件免責証書」という。)。
ア 第二事件原告X2は、本件交通事故による原告の後遺障害共済金として三七〇万円を支払う(後遺障害10級3号ただし既存障害13級を除くものとする。)。
イ 原告は今回の共済金受領をもって満足するものとし、今後第二事件原告X2・原告双方に一切の債権・債務が発生しないことを認識し、裁判上・裁判外を問わず何ら異議申立、請求及び訴の提起等をいたしません(以下「免責条項」という。)。
(7) 共済契約約款二五条(請求権者の直接請求権)によると、「対人賠償損害または対物賠償損害が生じた場合には、請求権者は、組合が被共済者に対して填補責任を負う限度において、組合に対して損害賠償額の支払いを請求できます。」とされている。
二 争点
(1) 本件示談契約の効力
(2) 原告の後遺障害による損害
第三争点に関する当事者の主張
一 争点(1)(本件示談契約の効力)について
【原告の主張】
(1) 本件示談契約は、C(以下「C」という。)が原告の代理人として締結したものである。原告とCとの間の委任契約は弁護士法七二条に違反し、公序良俗に反するものとして無効(民法九〇条)であり、無権代理人であるCがした法律行為の効果は、本人である原告に帰属しない。
(2) 仮にCの代理行為が認められないとしても、Cは、弁護士ではなく、報酬を得る目的で、業として、法律事件に関する法律事務を取り扱ったものであり、示談の内容に関して原告がCの影響を相当に受けていたことは明らかであるから、原・被告間の本件示談契約が、Cの弁護士法七二条違反の行為が介在して締結されたことには変わりがない。弁護士法七二条は、弁護士制度を維持、確立し、もって司法秩序を維持するという公益的性質が顕著な規定であり、Cの影響を受けてなされた本件示談契約を有効とすると、司法秩序に反することになるから、本件示談契約は民法九〇条に反し無効である。
(3) 原告は、Cが常習的示談屋とは知らなかったし、知るよしもなかった。これに対し、被告は、Cの非弁行為を最初から知っており、Cが示談屋であると知りながら本件示談に関与させた。よって、原告が被告に対し、本件示談契約の無効を主張することが信義則違反であるとはいえない。
【被告の主張】
(1) 本件示談書には、代理人による意思表示はされておらず、Cは、本件示談契約の代理人ではない。仮に原告とCとの間の委任契約が無効であったとしても、本件示談契約がこれにより無効となることはない。
(2) 仮に本件示談契約がCの代理により締結されたとしても、Cの行為が弁護士法七二条にいう「報酬を得る目的」「業として」の要件を満たしていたことの主張立証はない。そもそも、原告はCに対して一切依頼をしたつもりはないというのであるから、「代理その他の法律事務を取り扱った」とすらいえない。よって、Cの行為が弁護士法七二条違反に違反する非弁行為に該当するとはいえず、本件免責証書が公序良俗に反して無効となることはない。
(3) 仮にCの行為が弁護士法七二条に違反する非弁行為であるとしても、Cの行為と、本件免責証書の意思表示に関連性はなく、本件免責証書による免責の意思表示が公序良俗違反により無効となることはない。
(4) 仮に本件示談契約も無効であるとしても、Cを代理人に選任し、示談の日・場所・同席者を設定したのは原告であり、仮にCが報酬を得たとしても報酬を支払ったのは原告であるから、本件示談契約締結までにCの非弁行為性を明らかにできたのは原告だけである。被告は報酬支払いの事実を確認していないし、示談締結時にそれを知ることは不可能であった。よって、原告が被告に対し、委任契約及び本件示談契約の無効を主張することは、信義則に反し許されない。
二 争点(2)(原告の後遺障害による損害)について
【原告の主張】
(1) 後遺障害逸失利益
原告は、本件事故により多数の歯を喪失し、適合しない義歯を装着せざるを得なくなった結果、咀嚼機能、発音機能に障害が生じた。よって、原告の後遺障害については、自賠法別表第二9級6号若しくは10級2号に該当するものとして、逸失利益を算定すべきである。
歯牙障害から直ちに労働能力の喪失を認めることが難しいとしても、歯科補綴をしてもなお咀嚼、発音等歯の持つ機能に障害が残存しているときや、歯科補綴をしたこと自体により労働に支障がある場合には、労働能力の一部喪失があるとして逸失利益を認める余地もあり、原告の職業や後遺症の程度からすると、原告には、少なくとも六パーセントの労働能力喪失率が認められるべきである。
そこで、原告の基礎収入を平成一・年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計、男子六五歳以上労働者の平均賃金額の年収七〇八万四〇〇〇円とし、労働能力喪失期間を症状固定時における原告(六五歳)の平均余命一八・二一年の二分の一である九年として、九年のライプニッツ係数七・一〇七八及び上記労働能力喪失率六パーセントを適用すると、原告の逸失利益は三〇二万一〇九九円となる。
(2) 後遺障害慰謝料
原告は、本件事故により多数の歯を失い、咀嚼機能に重大な支障をきたし、人間の生活の基礎をなす食事にストレスを感じ、日常生活上の不便、精神的苦痛を被っているうえ、治療のストレスも相当なものであった。原告の慰謝料として基準に従った後遺障害慰謝料を認定しても、その損害を賠償するには十分ではない。よって、慰謝料を通常の基準よりも増額して五〇〇万円と認定すべきである。
(3) したがって、原告の後遺症による損害額は、逸失利益三〇二万一〇九九円と慰謝料五〇〇万円を合計した八〇二万一〇九九円となる。
【被告の主張】
(1) 原告には咀嚼ないし言語の機能障害(10級2号ないし9級6号)は認められない。
(2) 歯牙障害が労働能力に影響を与えることは考えられず、逸失利益が発生することはないというべきである。
第四当裁判所の判断
一 本件示談に至る経緯
上記第二、一の事実及び《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、平成一六年三月八日、本件事故により右大腿骨骨折の傷害を負い、水口市民病院に七〇日間入院した。原告は、受傷後約一年を経過した平成一七年三月二五日に竹村歯科を受診し、一五歯に対して抜歯または歯冠部の大部分を切除する治療を受け、暫間義歯を装着したが、同年五月二六日を最後に加療中の段階で治療を中断し(実治療日数一二日)、その後噛み合わせが悪いとの理由で義歯を外した。
(2) 原告は、大腿骨骨折後の症状について後遺障害事前認定を申し立てたが、自賠責では非該当との結果が出たので、平成一七年八月三日、人身損害に関する賠償金として、治療費及び既払金二九一万円のほか六五万円を受領するという内容で傷害部分の示談をした。このとき、被告滋賀県本部大津サービスセンター職員D(以下「D」という。)が、歯について後遺障害認定を受けるか否か尋ねたところ、原告は、「もう歯医者には行きたくない、この状態で示談したい。」と答えた。そこで、Dは、歯については原告の被害者請求の余地を残すこととし、竹村歯科に後遺障害診断書(歯科用)の作成を依頼した。
(3) 傷害部分の示談後、原告の知人である「a」社長のE(以下「E」という。)が、「幾ら示談でもらったんや、もっともらえるやないか。」と言って原告宅を訪れ、原告にCを紹介した。原告は、Cが示した名刺に「代表取締役」と記載されていたのを見て、同人が弁護士でないことを認識した。
(4) Cは、平成一七年一二月五日午後四時、本件事故の他の被害者(同乗者)であるF(以下「F」という。)の件で電話をかけた後、Fを連れて被告滋賀県本部大津サービスセンターを訪れ、Dと面談した。Cは、Fに関する交渉の最後で、Dに対し、「Fさんの件がうまくいかなければ、既に終わっているAさんのほうも徹底的にやる。」と発言し、原告の足の件で後遺障害の異議申立てをするので用紙をほしいと言った。Dは、「本人様に送らせていただきます。」と伝え、原告に被害者請求の用紙と足の後遺障害診断書を送付した。
(5) Cは、その後約六回Dに電話をかけて交渉し、平成一八年一月五日、歯の後遺障害診断書の送付依頼をしたので、Dは原告に歯の後遺障害診断書を送付した。Cは、同年一月一一日、原告の歯について一括払事前認定を受けるため、被告滋賀県本部大津サービスセンターに再発行の診断書を持参し、Dに対し、早急に手続きをするよう伝えた。被告群馬県本部は、同月一三日に診断書を受け付け、同日中、10級13号の加重障害に該当するだろうとの返事があった。
(6) Cは、同月一六日にDに電話をかけ、今日示談したいので結果を早くもってくるようにと求めた。Dは、同日、被告群馬県本部に電話をしてファックスで事前認定の結果を受領し、その結果をもって、同日午後二時、aへ示談交渉に行った。同社事務所にはEとCがいたが、Dは、原告本人の意向を確認して示談交渉にCの同席を許し、原告とDが向かい合わせでソファーに座り、原告の横にCが座った。
(7) Dは、逸失利益と慰謝料を含めて示談金三五〇万円を提示し、Cは、四〇〇万円という対案を出した。これに対し、Dが、四〇〇万円は無理であり、自分にできる限度は三七〇万円であると答えたところ、Cは、「自分ならば四〇〇万円じゃないと納得しないが、おっちゃん(原告)が納得するんやったら仕方ない。」と言って示談交渉の場から席を外した。原告は、三七〇万円で示談すると納得し、本件免責証書に「A」と署名したうえで押印し、賠償金の振込口座として、口座番号「×××××」(傷害部分の示談金振込口座と同一の口座)と記載した。Dは原告に免責証書一枚を渡した。
(8) Dは、aを退出した後、Cから、もう一度口座の変更をしたいと電話を受けたので、aに戻り、変更に応じた。原告は、賠償金受領方法の口座番号欄に記載された口座番号を二本線で消し、「△△△△△」と記載して訂正印を押した。原告は、三七〇万円が口座に振り込まれた後、Cに示談額の一五パーセント、Eに一五パーセントを支払ったほか、Cが「弁護士に払わんといかん。」と言ったことから、別に六〇万円を支払った。合計一六六万円を支払った。
二 争点(1)(本件示談契約の効力)について
(1) 弁護士法七二条は、弁護士でない者が報酬を得ることを目的として、業として法律事務を取扱うことを禁止するが、右規定の趣旨は、委任を受けて行う法律事務を専ら専門家である弁護士に委ねることにより、国民の法律生活に関する利益を保護するにあるものと解することができる。そして、同条がこのような公益を目的とする規定であることに加え、同条に違反する行為が処罰の対象とされていること(同法七七条)を考慮すれば、同条に違反する委任行為は、無効であると解すべきである(最高裁判所昭和三八年六月一三日判決、民集一七巻五号七四四頁)。
(2) 原告とCとの間の委任契約について
上記一で認定した事実によれば、Cは弁護士ではないが、原告が、加害者の任意保険会社である被告との間で示談契約を締結するに先立ち、被告の担当社員との間で交渉を進めるという「一般の法律事件」に関して法律事務を取り扱ったものと認められる。
しかも、Cは、本件示談成立後、原告から少なくとも受領額の一五パーセントの報酬を受領しており、原告も、本人尋問において、Cには何も頼んでいないと供述する一方で、「Cが示談金を取らないことには自分が礼金がもらえないから交渉しているのかなと思っていた。」などと供述し、被告との間で示談が成立したときには、原告自身がCに謝礼を支払う結果になることを予期した上で、示談交渉に立ち会っていたことが認められる。以上の事実を考慮すれば、Cの行為は、報酬を得ることを目的とするものであり、原告もそのことを認識したうえで、被告との示談交渉をCに委ねていたものと推認される(原告本人尋問の結果中上記認定に反する部分は採用できない。)。さらに、Cが、原告に関する交渉と同時に、Fの後遺障害に関する交渉も進めていたことによれば、Cは同種類の行為を反復継続していたものであるから、原告とCとの間には、原告の後遺障害について、被告との間で示談交渉を進めることを目的とする委任契約が成立していたと推認されるが、当該委任契約は、弁護士法七二条に違反する行為として、公序良俗に反し(民法九〇条)、無効であると解すべきである。
(3) 本件示談契約について
しかしながら、本件免責証書は、損害賠償請求権者本人である原告が自ら署名押印することによって締結されたものであり、本件示談契約がCの代理による法律行為であることを窺わせる記載はない(甲六)。
しかも、上記一で認定した事実によれば、平成一八年一月一六日の示談交渉において、Dが示談金額三七〇万円を提示したとき、Cは、「自分ならば四〇〇万円じゃないと納得しないが、おっちゃん(原告)が納得するんやったら仕方ない。」と言って契約締結の場から離れ、最終的に後遺障害共済金三七〇万円を受領するという内容で示談をする旨の意思表示をし、第二事件原告X2に対する免責条項の入った本件免責証書に署名押印したのは原告であることが認められる。さらに、被告担当者であるDは、後遺障害認定に関する書類をすべて原告に直接送付し、金額の明細や足の後遺障害が自賠責で非該当になった理由など重要な事項については、電話又は面談で原告に直接説明したことが認められ、原告には、本件示談契約締結時点で、同契約を締結するか否かを自ら判断するため必要な情報が伝えられていたと推認される。
そうすると、本件示談契約は、Cの行為ではなく、原告自身の意思に基づき締結されたものであるから、上記のとおり、原告とCとの委任契約が公序良俗に反して無効であるとしても、Cが原告との委任契約に基づきDとの間で行った交渉と、原告の被告に対する本件示談契約締結の意思表示との間に因果関係はないといわざるを得ない。
(4) この点につき、原告は、本件示談契約がCの行為でないとしても、Cの影響を受けて締結された契約である以上、民法九〇条に反し無効であると主張する。
しかしながら、仮に原告が本件示談をするという意思決定をしたことに、無効な委任契約に基づくCの助言が影響していたとしても、原告は、当時六五歳の成人で権利能力の制限もなく、上記(3)のとおり、自ら本件示談契約を締結するか否かに判断するために必要な情報は与えられていたのであるから、Cの助言に従うかどうかの判断及びその判断の結果については、基本的に原告の自己責任に帰すべきものといえる。
しかも、原告の歯牙障害については、労働能力の喪失を認めるに足りる事情を窺わせる資料の提供はなく、咀嚼機能や発音機能についても、原告が竹村歯科での治療を自ら中断したことから医学的に判断できる資料がないことを考慮すれば、Dが提示した三七〇万円という額は、原告の後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料を含めた示談金額として相当であり、本件示談契約の内容が不当で著しく原告に損害を与えるものとみることはできない。
加えて、本件示談契約締結当時、Dには、Cが職業的示談屋であるという確証がなかったこと、Cがいつも本人を連れてきていたことによれば、被告担当者のDとしては、当時、非弁護士による代理であることを理由に、Cとの交渉を断るのは困難であったといわざるを得ず、他に被告の交渉活動に、社会的倫理に反するものとして非難されるべき事情も認められない。
そうすると、仮に原告がCの影響を受けて被告との間で本件示談契約を締結したとしても、そのことをもって本件示談契約が公序良俗に反し、民法九〇条により無効であると認めることはできない。
(5) 以上によれば、本件示談契約及び免責条項は有効であり、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、本件事故による後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料のうち三七〇万円を超える部分の支払いを直接請求することはできず(第一事件)、第二事件原告らは、原告に対し、交通事故に基づく損害賠償債務を有しない(第二事件)。
三 以上の次第で、原告の第一事件請求は理由がないから棄却することとし、第二事件原告らの第二事件請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 阿多麻子)
別紙 交通事故目録《省略》