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大津地方裁判所 平成2年(ワ)138号 判決 1992年9月02日

原告

吹田巌

被告

信和ゴルフ株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自金四八〇万八四三五円及び内金四四〇万八四三五円に対しては昭和六一年一月五日から、内金四〇万円については本判決の確定した日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、内七を被告らの、その余を原告の各負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告に対し、金一三〇八万六六二一円及び内金一一六八万六六二一円に対する昭和六一年一月五日から、内金一四〇万円に対する本判決の確定した日の翌日から、それぞれ支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件交通事故の発生及び被告らの責任

1  昭和六一年一月四日午後六時四〇分頃、滋賀県甲賀郡信楽町長野一三六八―五地先県道において、被告直村吉松運転の大型乗用自動車(以下「加害車両」という。)が原告運転の普通貨物自動車(以下「被害車両」という。)に衝突した(以下「本件事故」という。)(争いがない)。

2  本件事故は被告直村吉松運転の加害車両が被害車両を追い越そうとして被害車両と並進状態となり、その後被害車両の右前方に進路変更したため、加害車両が被害車両の前方を塞ぐ状態となつて、加害車両が被害車両に衝突したもので、本件事故は同被告の進路左右及び前方の安全確認を怠つた過失に起因するものであるから同被告は民法七〇九条により、また、被告信和ゴルフ株式会社は加害車両の保有者として自賠法三条により、それぞれ本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する責任がある(乙四ないし六、原告本人、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故を原因として原告は第二腰椎骨折の傷害を負つたか。

2  右傷害により、原告は昭和六二年三月五日症状固定にかかる後遺障害別等級表(自賠法施行令二条)等級一一級七号の後遺障害を残したか。

3  右各事実が認められた場合の原告の損害。

第三争点に対する判断

一  本件事故を原因として原告は第二腰椎骨折の傷害を負つたものと推定すべきであり、かつ右推定を覆すに足りる証拠はないが、本件事故が右障害に与えた寄与度は五〇パーセントとするのが相当である。

すなわち、甲二、三、乙一、同三の一、二、同四ないし七、同八の一ないし一二、同九ないし一四、同一五の一、二、検乙一ないし六、証人上村素彦、同渡辺俊彦、鑑定、原告本人(一、二回)によれば、左記の事実を認めることができる。

1  本件事故は、時速約四〇キロメートルで進行中の加害車両が時速約二〇ないし二五キロメートルで進行中の被害車両を追い越そうとして被害車両と並進状態となり、その後被害車両の右前方に進路変更したため、加害車両の左前角が被害車両の右側面に接触衝突し、衝突後被害車両はほぼそのまま前方約一三・四メートル進行し、他の物体に衝突等することなく停止したもので、被害車両は右運転席の天井、地上一・五メートル部分が幾分凹損した程度であつて、このような事故の態様からすれば、骨粗鬆症等による骨が元々脆弱な体質であればともかく、そうではない原告にとつては、その身体に与えた衝撃力は、通常であれば、せいぜい腰の捻挫が生ずる程度としか考えられない。

2  原告の愁訴によれば、本件事故直後当時は腰部には疼痛を自覚せず、事故後の翌日午後三時ころに至つて腰が動かなくなり、その日の夜半になつて腰部に痛みを自覚したものであるところ、さらにその翌日の一月六日に信楽町国民健康保険中央病院で撮ったレントゲン写真には、第二腰椎体に比較的新鮮な楔状変形があり、軽い腰椎圧迫骨折が認められたものである。

3  原告の右第二腰椎圧迫骨折は、脊椎に過度の屈曲が加わつたとき、あるいは脊柱に過度の軸圧が加わつたときに発生しうるものであるが、右1のような事故態様からすれば、通常、原告の腰部にはそのような外力が働いたとは考えにくいが、かといつて、原告が事故による衝突直前、無意識の内に腰部を左方に捻り、力を入れて、腰を屈曲させて身構えていたとすれば、腰部自己筋力と事故による衝撃力によつて腰部に軸圧力が働いて第二腰椎に圧迫骨折が起こることの可能性は否定できないし、原告の腰部痛の自覚症状が事故の翌日に遅発性に発生したことも、比較的軽い骨折であれば、ありえないことではない。

他方、腰椎圧迫骨折を惹起させるような腰部に働く過度の圧力は、日常生活中の、尻餅をつく、あるいはどこからか落ちる等によつて受けることの方が、むしろ本件事故によつて受ける圧力よりも強いと見られ、原告の腰部痛の自覚症状が事故の翌日以降発生していることからすれば、原告の第二腰椎圧迫骨折は本件事故後の日常生活の動作上で発生したと考える余地も十分あるものである。

以上の各事実が認められるものであつて、これらの事実、すなわち、原告の第二腰椎圧迫骨折と本件事故との因果関係はこれを全く否定はできないものの、そのような可能性は希な例と言わざるをえなく、他方、右受傷が本件事故後日常生活上発生する可能性もあることを総合して考慮すると、本件事故と原告の右傷害との因果関係は、五〇パーセントと見るのが最も公平、妥当である。

二  甲二、三、乙一、同三の一、二、同八の一ないし一二、同九ないし一四、同一五の一、二、検乙一ないし六、証人上村素彦、同渡辺俊彦、鑑定、原告本人(一、二回)によれば、原告の第二腰椎圧迫骨折は、昭和六一年一月六日の信楽町国民健康保険中央病院でのレントゲン写真で読影しえたのにその発見が遅れ、結局第二腰椎圧迫骨折に対する適切な治療が行われず、そのため治癒、症状固定時期も遅れたものと推定されるが、右遅れた前提事実をも考慮した上での証人渡辺俊彦の証言及び鑑定の結果ならびに甲九及び乙一五の一によれば、原告の第二腰椎圧迫骨折は、遅くとも本件事故後一〇月を経過した。昭和六一年一一月五日ころには後遺症等級一一級七号の後遺症を残し、症状固定したものと認めるのが相当である。なお、甲三の池田明徳医師の診断書では、原告の右受傷は、昭和六二年三月五日に症状固定したとされているが、同医師作成にかかる乙一〇によつても、右適切な治療が遅れた事実を考慮した上で、症状固定は受傷後八ないし九か月とされ、かつ、右乙一〇では、神経症状が強く残つた場合はこの限りではないとされているものの、証人渡辺俊彦及び鑑定によれば、単純X線所見、CT所見、MRI所見、筋電図所見によるも、甲三の原告の自覚症状を裏付ける他覚的所見は存在せず、長期後遺する強い腰痛、神経症状を伴った下肢痛の原因となることは、過去及び現在においても考えにくいとされていることからして、右のとおり、原告は昭和六一年一一月五日ころには、症状固定したものと認めるのが相当である。

三  原告の損害

1  休業損害

甲四及び原告本人(一回)によれば、原告は本件事故によつて、昭和六一年二月一日から同年三月五日までの時間外手当を得ることができず、その額は一二万七〇八〇円であつたものと認められる。

2  通院慰謝料

甲二、三、乙九、原告本人(一回)によれば、本件事故により、原告は昭和六一年一月六日から昭和六二年三月五日までの間、信楽町国民健康保険中央病院、初田接骨院、メイトク・クリニックに実日数一八〇日間通院加療したものであるが、この間内である、前記症状固定時期の昭和六一年一一月五日までの通院慰謝料は九〇万三〇〇〇円が相当である。

3  後遺症による逸失利益

乙一六によれば、なるほど原告が運転手として勤務していた後藤鍛工株式会社は、被告ら代理人の照会に対して、本件事故後「減給」した事実も職種の変更をした事実もない旨回答している。しかし、右回答では、本件事故後の原告の給与が実際に減額したか否かについては触れられていないし、むしろ甲五ないし八の各源泉徴収票によれば、原告の昭和五九年の給与所得は五四四万一八六二円、同六〇年は五一九万八四三〇円であつたのに対し、本件事故後の同六一年は四二四万一八五〇円、同六二年は四五〇万二八八一円と、明らかに減額していることからすれば、右回答から直ちに原告には後遺症による逸失利益が観念されないとは即断できない。

従って、原告については前記症状固定時期から就労可能年数六七歳までの約一五年間(原告は昭和九年三月一二日生)について、本件事故前年の右昭和六〇年の給与所得五一九万八四三〇円を基礎に、新ホフマン係数一〇・九八一により、前記後遺障害別等級表一一級の労働能力喪失率二〇パーセントとしてその逸失利益を算定するのが相当であるところ、右算定による逸失利益は一一四一万六七九一円となる。

5,198,430×10.981×0.2=11,416,791

4  後遺症慰謝料

後遺症慰謝料としては、二六九万円が相当である。

5  以上1ないし4の合計は一五一三万六八七一円となるが、前記のとおり、本件事故と原告の受傷との間の因果関係は五〇パーセントと見るのが相当であるから、結局本件事故に起因する損害額は、右金額の五〇パーセントである七五六万八四三五円とすることになる。

6  原告が、本件事故による損害の補填として、自賠責保険から三一六万円の支払いを受けていることは原告の自認するところであるから、5の七五六万六八七一円から右補填金額を控除すると、四四〇万八四三五円となる。

7  弁護士費用としては四〇万円が相当である。

四  結論

認容額は前記三項の6、7の合計四八〇万八四三五円となる(付帯請求の起算日は、弁護士費用を除く部分の四四〇万八四三五円については本件事故の日であり、かつ原告の請求している昭和六一年一月五日から、弁護士費用四〇万円については本判決の確定した日の翌日からとなる。)。

(裁判官 永井ユタカ)

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