大津地方裁判所 平成4年(ワ)314号 判決 1993年11月30日
反訴原告
株式会社八起
ほか一名
反訴被告
海老原こと金和人
主文
一 反訴被告は、反訴原告株式会社八起に対し、金二二八万二四四〇円及びこれに対する平成三年八月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告は、反訴原告酒元豊に対し、金一〇万円及びこれに対する平成三年八月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
五 この判決は、主文第一、第二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 反訴被告は、反訴原告株式会社八起に対し、金四三九万二七四〇円及びこれにに対する平成三年八月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 反訴被告は、反訴原告酒元豊に、金三八〇万円及びこれに対する平成三年八月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因(以下、反訴原告を「原告」、反訴被告を「被告」という。)
1 (事故の発生)
(一) 日時 平成三年八月三日
(二) 場所 大阪府豊中市名神口二丁目先府道高速大阪池田線路上
(三) 加害車両 被告所有の普通乗用自動車(車両番号神戸三三ね六八七四)
(四) 加害車両の運転者 被告
(五) 被害車両 原告株式会社八起(以下、「原告会社」という。)所有の普通乗用自動車(車両番号滋賀三三せ七一七)
(六) 事故の態様 現場道路付近で道路標識確認のため徐行していた訴外阿部三代恵運転の被害車両に被告運転の加害車両が追突したもの(以下、「本件事故」という。)
(七) 被害状況 本件事故により被害車両及び同車両後部トランクに積載していた原告酒元豊(以下、「原告豊」という。)所有の掛軸二本に損傷を受けた。
2 (責任の原因)
被告は、自動車の運転業務に従事するに際し、制限速度を遵守するとともに前方を注視し危険を回避するに足りる適切な運転操作をもつて、適正に車両を運転すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、制限速度をはるかに超える時速約六〇キロメートル以上のスピードのままで走行を続けるとともに、わき見運転をしたため、前方に徐行中の被害車両の後部に加害車両の前部を激突させて本件事故を発生させたもので、被告は民法七〇九条の不法行為責任を負う。
3 (損害)
(一) 原告会社の損害
<1> 本件事故により、被害車両の後部は原形をとどめないほどメチャメチャに壊れ、特にフレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じた。修理復元が可能であつたとしても、復元後被害車両のハンドルにブレ等が生じ、走行に危険が伴うことになる。したがつて、中古車として市場に販売することは不可能であるから、被害車両の客観的価値は一万九〇〇〇円にすぎない。被害車両の事故前の価格が二八〇万円であつたから、被害車両の本件事故による損害は二八〇万円を下らない。
<2> 原告会社は、不動産の売買、賃貸、仲介を主たる業務とする法人であるところ、被害車両は従来から原告会社の営業用として業務に使用してきた。同車両には、得意先に対する営業用の自動車電話を積載し、顧客との営業折衝・連絡等に利用していた。本件事故により、同車両の使用は勿論のこと、右自動車電話を使用した営業折衝等もできなくなり、もつて原告会社は営業上の損失を被つた。すなわち、被害車両の代車使用料相当額として五四万円、営業上の損失として五〇万円を下らない。
<3> 被害車両の牽引料 三万〇六四〇円
<4> 被害車両牽引の際の高速自動車使用料一八〇〇円
<5> 原告会社が訴外滋賀トヨタ自動車(株)宛支払うべき金額合計 二二万六九一〇円
右内訳(被害車両預かり代一四万五五〇〇円、事故見積り手数料六万二五〇〇円、原告会社から右会社まの牽引料一万二三〇〇円
<6> 弁護士料 三〇万円
(二) 原告豊の損害
原告豊は、昭和六一年一一月訴外山田信男から掛軸二本を代金合計三八〇万円にて購入し所持していたところ、平成三年七月初め実弟の病気見舞いのため鹿児島の実家に帰郷した際、右実家に居住する実姉に右掛軸二本を贈与する約束をしていた。同年八月二日原告豊は、実弟が危篤との連絡を受け、鹿児島へ帰ることになつたので、とりあえず訴外阿部三代恵の運転する被害車両の後部トランクに右掛軸二本を積載して鹿児島に向け出発させたところ本件事故にあつた。よつて右掛軸二本の購入代金三八〇万円が原告豊が本件事故により被つた損害である。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の(一)ないし(六)は認める。
2 同1の(七)は、被害車両の損傷は認め、掛軸二本を同車両後部トランクに積載していたことは否認する。
3 同2は、被告運転の自動車が被害車両に追突したことは認め、その余は争う。
4 同3は、追突の点及び原告会社の業務の点は認め、その余は否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1の(一)ないし(六)は、当事者間に争いがない。
二 成立に争いがない乙五号証の四ないし七及び一二によれば被告は、前方注視を怠り、わき見運転をした過失により自車進路前方に徐行中の被害車両の後部に自車前部を追突させて本件事故を発生させたものであることが認められ、被告は民法七〇九条の不法行為責任を負うものというべきである。
三 そこで、原告らの損害について、検討する。
(一) 証人高田二吉の証言、被告本人尋問の結果によりその成立を認める甲二号証、検乙四ないし一五によれば、次の事実が認められる。すなわち、
被害車両の修復にはフレームの取り替えまたは修正を行い、ドアから後ろの殆どの部分を取り替える必要があること、右のような修理には一二五万円強の費用が必要であること、フレームを全部取り替えても走行中に支障が出る可能性が五〇パーセント程度見込まれること、また走行中の騒音、風切り音が大きくなり、ハンドルが振れたり、タイヤの走行具合も悪くなる可能性も考えられること及び被害車両の事故当時の時価は二八〇万円程度であること等の事実が認められる。
右事実から、評価損を修理費の五〇パーセントとみるのが相当であるから、修理費を一三〇万円とみると評価損は六五万円となり、原告会社の車両損害は一九五万円と認められる。
(二) 原告会社の代車料及び営業上の損失については、これを認めるに足りる証拠がない。
(三) 原告豊本人尋問の結果によりその成立を認める乙九号証によれば、事故現場から原告会社本店所在地までの被害車両の牽引料として三万〇六四〇円の損害が認められ、成立に争いがない乙一〇号証によれば、右牽引の際の高速自動車使用料として一八〇〇円の損害が認められる。
(四) 請求原因3の(一)の<5>については、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(五) 本件事故と相当因果関係のある原告会社の弁護士費用として三〇万円が相当である。
四 次に、原告豊の損害については、原告豊本人尋問の結果によれば、昭和六一年一一月、同郷の先輩である訴外山田信男から同人の言を信じて本件掛軸二本を代金合計三八〇万円で購入して所持していたものを本件事故で破損したことが認められるが、その購入の経緯、取扱状況、本件事故時の運搬状況等の諸般の事情から、その時価は掛軸二本で合計一〇万円と認めるのが相当である。
五 よつて、原告らの請求は右の限度で理由があるから正当として認容し、その余の請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但し書を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮本定雄)