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大津地方裁判所 平成8年(ワ)13号 判決 1997年3月28日

原告

村田フサ

ほか一名

被告

林田貢

主文

一  被告は、原告村田フサに対し、金三八一万五四八〇円、原告村田絹枝に対し、金一七〇七万九二六四円及び右各金員に対する平成七年六月二六日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告村田フサに対し一一七二万四五七六円、原告村田絹枝に対し三二五六万九九五二円及び右各金員に対する平成七年六月二六日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故のとおり、深夜市道を歩行中、被告運転の加害車にはねられて死亡した訴外村田耕作(以下、「被害者」という。)の相続人である原告らが、加害者である被告に対し、保有者責任を根拠に損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実及び基本的な事実関係

1  原告村田フサは被害者の母、原告村田絹枝は妻であり、被害者の相続人らである(以下、両名とも名前のみで表す。)。

2  次の交通事故(以下、「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成七年六月二六日午前〇時五分ころ

(二) 場所 大津市伊香立向在地町一八七番地先

(三) 被害者 村田耕作(昭和一〇年八月三日生、事故当時五九歳、乙一一号証)

(四) 加害車 被告所有の普通貨物自動車(滋賀四五せ三三五六)

(五) 本件事故現場は、片側一車線(幅員約二・七五メートル)、路側帯(幅員約〇・六メートル)、歩道(幅員約一・五メートル)の市道であるが、被告(昭和一〇年三月二五日生)は加害車を運転して北方から南方に向かい時速約三〇キロメートルで進行中、前方を注視し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、助手席の同乗者がフロントガラスを拭いていたことに気を取られ、前方注視を欠いたまま漫然進行した過失により、折から、進路前方を同一方向に向けて歩行中の被害者に気付かず、加害車の左前部を同人に衝突させて転倒させ、脳挫傷の傷害を負わせた。被害者は、右傷害により、同月三〇日、入院先の琵琶湖大橋病院で死亡した(乙一ないし一四号証)。

3  被告は、本件事故当時、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

4  原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払いを受けた。被告も、治療費二六〇万二六〇〇円を支払つた。

5  被告は、本件事故により、平成七年一一月二九日に略式起訴され、罰金刑を受けた(乙一号証)。

三  争点

1  過失相殺の適否、割合

(被告の主張)

本件事故現場は、整備された幹線道路で、車道より一段高い歩道が設けられている所であつたが、当夜は降雨中で現場は暗く、被害者の発見は容易でなかつた。被告は多少飲酒しており、前方注視が十分でなかつた過失は否めないが、被害者も飲酒の上、深夜車道上に進出して歩行していたので、道路交通法一〇条二項違反の重大な過失がある。

(原告らの反論)

本件事故現場の道路は幹線道路ではないし、被害者は飲酒していない上、歩道上の坂田甚右衛門と話をしながら歩いており、降雨中で声が聞き取り難いため坂田に寄り添つて白線内(路側帯)を歩行していたのであるから、過失相殺すべきではない。

2  損害額

(原告らの主張)

被告は、自動車損害賠償補償法三条により、後記の損害を賠償する責任がある。

(一) 被害者の損害

傷害分及び死亡分の損害額から自賠責保険等の補填を差し引いた残額三〇六七万三七二八円

原告フサにつきその三分の一の一〇二二万四五七六円、原告絹枝につき三分の二の二〇四四万九一五二円

(傷害分)

治療費 二六〇万二六〇〇円

入院雑費 七五〇〇円

付添い看護費 二万五〇〇〇円

入院慰謝料 一〇万円

休業損害 五万〇七〇五円

(死亡分)

逸失利益 二七九八万七九三〇円

所得分三一七九万七五九四円と厚生年金及び国民年金分八一八万五一六三円の合計額から三割の生活費を控除した額

死亡慰謝料 三〇〇〇万円

葬儀費用 二二〇万三九六三円

書類費用 一万一七六〇円

従業員支払分 二八万六八七〇円

(二) 原告絹枝固有の損害

逸失利益 九六二万〇八〇〇円

年一一二万円の給与所得の一一年間分

(三) 弁護士費用

原告フサ 一五〇万円

原告絹枝 二五〇万円

以上の損害について、原告フサにつき三分の一の一一七二万四五七六円、原告絹枝につき三分の二の三二五六万九九五二円及び右各損害金に対する事故当日の平成七年六月二六日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の反論)

(一) 逸失利益について

被害者の平成六年分の申告所得額は三三五万一六九九円であつた。

就労可能年数も六七歳までの八年とすべきであるし、生活費として八割控除するのが相当である。

年金も支給開始前であるから、逸失利益の対象とすることはできない。仮に、年金の逸失利益性を肯定する場合には遺族年金分を控除すべきである。

(二) 慰謝料、葬儀費は過大であり、原告絹枝の逸失利益は間接被害で相当因果関係がない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点1(過失相殺の適否、過失割合)について

1  前記二項の事実、乙一ないし六号証及び証人坂田甚右衛門の証言によれば、本件事故現場は、ほぼ南北に通じる車道(全幅員約六・八メートル)の市道幹一〇〇四号線道路(最高速度毎時四〇キロメートル)であつて、道路中央部の白色破線を中央線として、上下各一車線に区分されていること、右道路の車道幅は、上下線とも約二・七五メートル、東側の路側帯は〇・六メートル幅、西側の路側帯は〇・七メートル幅であり、東側のみに縁石により車道から一段高く歩道(幅員約一・八メートル)が設けられていること、道路照明はなく暗い場所であるが、直線で、進路前方の見通しは良く、アスフアルト舗装された路面は平坦であること、被告は、事故の当夜に会合(同じ村の被害者も参加)があつて飲酒したが、事故当時酒酔いの程度までには至つておらず、事故の約四〇分後に行われた飲酒検査でも、政令数値〇・二五ミリグラム未満であつたこと、被害者も飲酒していたが、酔つてはなかつたことが認められる。

2  そこで、問題は、原告ら主張のように、被害者が路側帯を歩行していたのか、それとも被告主張のように、車道を歩行していたのかという点である。証人坂田甚右衛門は原告ら主張に沿う供述をし、同趣旨を記載した陳述書(甲一号証)を提出するのに対し、被告本人は被告主張に沿う供述をしているが、以下の事実と対比して、坂田の右供述等を措信することはできず、被害者は車道を歩行していたと認めざるを得ない。

すなわち、乙一ないし一四号証、検甲一ないし五号証、検甲六号証の1ないし7、証人中岡克已、同大槻正樹の各証言によれば、本件事故の一時間後に事故現場で行われた実況見分には、被告、魚谷宏(加害車の同乗者)、坂田甚右衛門(以下、「坂田」という。)の三名が立会したが、立会人三名とも、衝突地点及び衝突時の被害者の位置は東側路側帯寄りの車道上の地点であると指示説明し、その地点も一致したこと、衝突地点以外の指示説明についても、三名の間に食い違いはなかつたこと、坂田は、平成七年六月二九日、堅田警察署での取調において、本件事故の状況につき、「当夜は降雨中で、私と被害者と二人で傘をさしながら歩いて帰る途中、本件市道まで来てからは、私は歩道を歩いていたが、被害者は歩道から車道に出て、歩道寄りを歩いていた。被害者が車道に出て歩いたのは、私との会話が真剣であつたからと思う。歩道で前後になつて歩きながら話すのは、出来ないことではないが、一生懸命に話し合うには並んで歩いた方がよいと判断したのだろう。私らは歩道を歩くべきだつたと反省している。」と供述し、その旨供述録取された調書(乙八号証)に、読み聞けに誤りがないことを認め、署名捺印したこと、坂田の右供述は、被告、魚谷のそれと符合すること、以上の事実が認められる。

右認定事実に徴すると、坂田は、本件事故後間もない実況見分において、被害者が車道上を歩いていたと指示説明し、事故の三日後に行われた警察での取調においても、右指示説明と同趣旨の供述をして、供述録取内容に誤りがないことを認め署名捺印したもので、いずれも記憶の新鮮な時期におけるものであり、被告や他の立会者の説明、供述とも符合していることを考え合わせると、坂田の実況見分での指示説明及び警察での供述の方が信用性があり、これに反する同人の証言及び甲一号証の記載部分は措信することができず、他に、本件全証拠によつても、2項冒頭の認定を覆すに足りる証拠はない。

3  してみると、本件事故は、被告の前方注視義務違反によつて発生したもので、しかも、同乗者がフロントガラスを拭いているのに気を奪われ、衝突するまで被害者に気付かなかつたのであるから、被告の過失は大きいというべきである。しかし、被害者にも車道を歩行した落度があるというべく、深夜、降雨中で、被害者の姿が見えにくい状況にあつたこと、他方、被害者は車道といつても路側帯寄りを歩いていたのであり、深夜のことで交通量も殆どなかつたこと等本件に表れた諸般の事情を勘案すると、被告の過失割合を八、被害者のそれを二と認めるのが相当である。

二  争点2(損害額)について

1  被害者の損害

(一) 治療費 二六〇万二六〇〇円

弁論の全趣旨により右額を認める。

(二) 入院雑費 六五〇〇円

被害者は本件事故当日から琵琶湖大橋病院へ入院し、平成七年六月三〇日に死亡したので、その五日間の入院雑費として、一日一三〇〇円の割合による右額が相当である。

(三) 付添看護費 二万五〇〇〇円

一日五〇〇〇円の割合による五日分として右額が相当である。

(四) 入院慰謝料 一〇万円

本件事故の態様、双方の過失の内容、程度、負傷の内容、程度、入院期間等にかんがみると、入院期間中の慰謝料は右同額をもつて相当と認める。

(五) 休業損害 四万五九一五円

甲四号証の1によれば、被害者は平成六年当時少なくとも年間三三五万一六九九円の所得があつたと認められるので、一日に換算して九一八三円(四捨五入、以下同処理による。)の五日分に相当する右額をもつて入院期間中の休業補償額と認める。

(六) 逸失利益 二三九八万二六五五円

甲四号証の1ないし3、五、六号証及び原告村田絹枝本人尋問の結果によれば、被害者は事故当時五九歳であり、袋加工業のかたわら農業に従事し、野菜と米は自給していたこと、被害者と原告絹枝には子供がおらず、実母のフサとの三人家族で、一家の支柱であつたこと、平成六年度の所得税の確定申告に対し、三三五万一六九九円と申告しており、平成七年においても右同額の所得があつたと推認されるので、稼業の内容、年齢等にかんがみ、本件事故に遭遇しなければ一〇年間就労可能であつたものとみて、新ホフマン式により中間利息を控除すると、三三五万一六九九×七・九四四九=二六六二万八九一三円―<1>―となる。

さらに、原告らは、国民年金及び厚生年金の計八一八万五一六三円を逸失利益として主張するのに対し、被告は、未だ受給前であるから逸失利益の対象にならない旨争う。

国民年金及び厚生年金を受給していた者が不法行為によつて死亡した場合には、相続人は、加害者に対し、年金受給者が生存していればその平均余命期間に受給することができたであろう年金の現在額を同人の損害として賠償を求めることができると解される。

これを本件についてみるに、原告村田絹枝の本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被害者は、本件事故に遭遇するまでは健康な男子(約五九歳一一か月)として家業に従事していたこと、被害者は年金受給のための掛金の支払いを既に終え、受給資格期間を満たしており、本件事故の約一か月後に六〇歳に達するときから死亡に至るまで、国民年金につき年額七八万五五〇〇円、厚生年金につき年額六万七四〇〇円、合計八五万二九〇〇円を受給する見込みであつたが、受給開始を目前にして本件事故に遭遇したことが認められる。右の事情にかんがみると、被害者が本件事故当時には年金を受給していなかつたとしても、前同様の考え方を準用して、国民年金及び厚生年金を逸失利益の対象とするのが相当である。そこで、被害者が死亡しなければその平均余命期間に受給することができたであろう各年金の現在額を算定するに、平成七年簡易生命表による被害者の平均余命は約八〇歳であるから、同人の生活費割合を三割とし、新ホフマン方式により中間利息を控除すると、<2> 六〇歳から六五歳までは、年間六万七四〇〇円として新ホフマン係数四・三六四を乗ずると二九万四一三四円、<3> 六五歳から八〇歳までは、年間八五万二九〇〇円として新ホフマン係数九・二五二を乗ずると七八九万一〇三一円となる。

以上の<1>ないし<3>の総計三四八一万四〇七八円から生活費三割を控除するのが相当であり、二四三六万九八五五円となる。

ところで、弁論の全趣旨によれば、原告絹枝については、被害者の死亡を原因として遺族年金年額一万七六〇〇円を受給しているので、遺族年金の支給が確定している限度で、右増加額を、被害者の年金受給権喪失による逸失利益から控除すべきである。そうすると、被害者が死亡した平成七年六月から当審口頭弁論終結の月である平成九年三月までの一年一〇か月間に受給した同原告の年金受給増加額三八万七二〇〇円を控除すべきであり、その残額は二三九八万二六五五円となる。

(七) 葬儀費用 一五〇万円

甲二号証、三号証の1ないし24、同号証の25、26の各1、2、同号証の27ないし31、同号証の32、33の各1、2、同号 証の34、同号証の35の1、2、同号証の36、同号証の37の1ないし3、同号証の38、39、同号証の40の1、2、同号証の41ないし47及び原告村田絹枝の本人尋問の結果を総合すると、本件譲渡こと相当因果関係のある被害者の葬儀費用としては右同額をもつて相当と認める。

(八) 死亡慰謝料 二五〇〇万円

本件に表れた諸般の事情を総合すると、右額をもつて相当と認める。

(九) 書類費用 一万一七六〇円

甲二号証により右額を認める。

(一〇) 従業員への支払い分 二八万六八七〇円

甲六号証及び原告村田絹枝本人尋問の結果によれば、被害者が死亡したため、袋加工業のパートの河合に退職してもらうのに同額の支払いを要したことが認められる。

以上の合計額五三五六万一三〇〇円から過失相殺により二割を減ずると、四二八四万九〇四〇円となり、同額から自賠責保険の三〇〇〇万円及び治療費二六〇万二六〇〇円の合計額を差し引くと、最終の損害額は一〇二四万六四四〇円となり、この額について、原告フサは三分の一の三四一万五四八〇円、原告絹枝は六八三万〇九六〇円を相続したことになる。

2  原告絹枝固有の逸失利益 八六四万八三〇四円

甲四号証の1及び原告村田絹枝本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被害者は平成六年度の所得税申告に際し、妻の絹枝(昭和一四年九月一八日生)を事業専従者として年間一一二万円の給与を支払つたとして同年度の所得総額を三三五万一六九九円と申告しているところ、原告絹枝は実際には同額の給与を手にしていないことが認められる。しかし、1項(六)で認めたとおり、被害者の平成七年度における所得につき、右給与の支払いを前提として三三五万一六九九円として逸失利益を算定しているのであるから、本件事故による損害の負担については、原告絹枝に右同額の収入があつたものと認めるのが相当である。そして、前記争いのない事実及び前掲証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被害者の死亡によつて、原告絹枝はビニール袋加工業を廃業せざるを得なくなり、その結果、被害者が稼業を継続できた一〇年間の間の給与を失つたことが認められるので、新ホフマン式による中間利息を控除すると、一一二万円×七・七二一七=八六四万八三〇四円となる。

3  弁護士費用 計一五〇万円

原告フサにつき四〇万円、原告絹枝につき一六〇万円が相当である。

以上の事実をまとめると、被告は、保有者責任に基づいて、原告フサに対し三八一万五四八〇円、原告絹枝に対し一七〇七万九二六四円及び右各損害額に対する本件事故の日である平成七年六月二六日から支払い済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

三  結論

以上によれば、原告らの本件各請求は右認定の限度で理由があるのでこれらを認容することとし、その余は理由がないのでこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鏑木重明)

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