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大津地方裁判所 平成9年(ワ)376号 判決 1998年11月17日

原告

南川喜史

右訴訟代理人弁護士

玉木昌美

近藤公人

被告

フットワークエクスプレス株式会社

右代表者代表取締役

大渡

右訴訟代理人弁護士

福島正

竹林節治

畑守人

中川克己

松下守男

竹林竜太郎

主文

一  原告と被告との間に雇用契約が存在することを確認する。

二  被告は、原告に対し、平成九年三月から毎月二五日限り、三五万四二六六円を支払え。

三  被告は、原告に対し、八八万五三六三円及び内金四一万二九四二円に対する平成九年七月一一日から、内金四七万二四二一円に対する平成九年一二月六日から支払い済に至るまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決二、三項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  主文一、二項及び五項同旨

二  被告は原告に対し、八九万一九六三円及び内金四一万六二四二円に対する平成九年七月一一日から、内金四七万五七二一円に対する同年一二月六日から、それぞれ支払い済に至るまで年五分の割合による損害金を支払え。

三  主文二項及び前項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、大津市内に居住し、被告の大津店で貨物集配業務に従事していたトラック運転手の原告が、和歌山市内にある阪和支店への転勤命令を拒否したため平成九年二月二五日付で懲戒解雇を受けたが、この懲戒解雇は不当労働行為、権利の濫用等により無効であると主張して、雇用契約の存在を争う被告に対し、その存在の確認及び同年三月以降の賃金と一時金の支払いを求めた事案である。

二  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

1  被告(平成二年一月、日本運送株式会社から社名変更)は、兵庫県加古川市に本店を、全国各地に支店等を置き、トラック、トレーラー、軽自動車等による陸上貨物運送を主たる業務としており、従業員数は約六二〇〇名である。

大津市内に居住する原告は、昭和五八年四月被告に運転手(営業所管内の貨物集配、配送)として仮採用され、同年七月一六日に本採用されて、二トン車で大津市堅田一円の集荷、配送業務に従事し、平成八年二月からは四トン車で同業務に従事してきた。

2  原告の給料は、毎月一五日締めの二五日払いで、平成八年七月分から平成九年二月分までの給料の平均は三五万四二六六円(税込、社会保険料を含んだ額)である。原告は過去に懲戒処分を受けたことはなく、勤務態度も特に問題はなかった。

3  原告は、平成八年二月五日、それまで所属していた多数組合のフットワークエクスプレス労働組合から、全日本運輸一般労働組合フットワークエクスプレス新労組支部へ移り、分会長に就任した。もっとも、当時、分会員は原告一人だけであった。

4  被告は、平成九年二月一六日付で、原告に対し、和歌山市内の阪和支店勤務を命じ(<証拠略>、以下、「本件配転命令」という。)、これが拒否されると、同月二五日付で、就業規則第一八条違反及び第一四二条一号、第一九号該当を理由に、懲戒解雇する旨を通告した(<証拠略>、以下、「本件懲戒解雇」という。)。

5  被告の就業規則には、懲戒解雇(ママ)として、譴責、減給、出勤停止、降職、諭旨解雇及び懲戒解雇の六種類が定められている(<証拠略>、第一四〇条)。

就業規則第一八条は、「会社は、業務の必要により、従業員に転勤又は勤務替え及び会社外の職務に従事せしめるために、出向させることが出来る。

2 業務の必要により、転勤せしめる場合は、原則として第六条(各社員の定義)の社員区分毎に定められた勤務地の範囲とする。」と定め、第一四二条は、「懲戒解雇の基準は次のとおりとする。」とした上、一号において「上長の指示命令に違反し、無断で職場を放棄する等、職場の統制秩序を乱したとき。」と、一九号において「その他、前各号に準ずる行為があったとき。」とそれぞれ定めている。

6  原告の家族は妻と高校生の子供二人、母親及び実弟の六人暮らしである。妻は過去にくも膜下出血で倒れて開頭手術を受けたことがあり、現在も定期的に通院している。実弟は知的障害者で、施設に通園している。

三  争点

1  本件配転命令の拒否を理由とする本件懲戒解雇の効力

(原告の主張)

本件配転命令は以下の理由により無効であるから、これに従わないことを理由とする本件懲戒解雇も無効である。

(一) 労働契約における、転勤に関する合意の不存在

原告は、被告に雇用される際、将来転勤があり得ることの説明を受けておらず、勤務場所を大津と特定して労働契約を締結した。現に、採用の辞令には「大津店の集配運転手として採用する。」と記載されていた。入社後も、勤務場所の変更の可能性について説明はなく、転勤を記載した就業規則を交付されたこともない。したがって、本件配転命令は労働契約の範囲外のことについて、原告の同意なしに強行したものであるから違法であり、これに従わないことを理由とする本件懲戒解雇は無効である。

(二) 転勤を定めた就業規則の改正の効力がないこと

被告は昭和五八年に就業規則を改正して、業務の必要により従業員に転勤又は勤務替え及び会社外への業務をさせるため出向させることがあると定め、昭和六三年にも就業規則を改正して社員区分制度をもうけ、ブロック社員はブロック内での転勤を受けるものと定めた。しかし、原告は平成九年二月の時点までブロック社員制度の存在及び自分がブロック社員であることを知らず、ブロック社員の登録手続をしたこともない。したがって、右就業規則の改正は労働者への周知を欠くから、被告が原告に対し、ブロック社員であるとして当然にブロック内の和歌山への転勤を命じることは許されない。

(三) 報復的取扱による不当労働行為

原告は、かねてより、所属組合のフットワークエクスプレス労働組合が本来の労働組合としての役割を果たしていないと痛感していたことから、組合脱退を決意し、前記のとおり、同年二月五日に全日本運輸一般労働組合フットワークエクスプレス新労組支部(分会員は原告のみ)に移り、大津分会長になった。

これに対し、被告は、滝本京都支店長、御用組合である旧労働組合の奥村分会長や執行委員を利用して、原告に対し新組合からの脱退を執拗に強要した。例えば、<1> 同月六日には、奥村分会長から「何でそんな組合に入るのか。組合を変われ。フットワーク労組に戻れ。」と言われ、<2> 同月七日には、奥村分会長と滝本京都支店長が「こんな組合に入っても何のメリットもない。会社の友達関係も悪くなるだけや。何で赤の組合に入るのや。子供の就職や結婚にも障害になる。フットワーク労組へ戻れ」、「戻る意思があったら、私・京都支店長の滝本に電話をくれるように。」と言われ、<3> 同月一四日にも、右二人から「組合変わる気になったか。わしの親心が分からんのか。もう一回チヤンスをやるから考えておけ。」と言われ、<4> 同月二四日には、奥村分会長と執行委員から「組合を変われ。集配乗務員の中でお前だけが孤立しているんやぞ。」と言われ、<5> 同年七月以降は転勤をほのめかす言動が出てきた。例えば、同月三日ころ、奥村分会長から「九月か一〇月ころ異動があると聞いているし、そうなったら南川、お前は確実にターゲットになるので、今のうちに組合を変われ。脱退届を書いたら転勤がなくなる。脱退届を衛藤福(ママ)分会長か野島(ママ)大津店長にわたすように。」と言われ、<6> 平成九年一月六日にも、野島(ママ)店長から「組合を変わる意思はないのか。もうわしは西大阪へ行くからこれで最後やから聞いとく。」と組合脱退を迫られた。

しかし、原告があくまで新労組支部にとどまる意思を貫いたことから、被告は、原告に対する報復、見せしめとして、平成九年二月二五日付で本件配転命令を強行した。

したがって、本件配転命令は労働組合法七条四号の報復的不利益取扱の禁止に違反する不当労働行為として無効であるから、これを前提とする本件懲戒解雇は無効である。

(四) 解雇権の濫用

二項6のとおり、原告の妻は、平成七年一月、くも膜下出血で倒れ、入院して開頭手術を受け、現在は三月に一度通院している。実弟は精神薄弱者で身体障害者の施設に通園している。妻のパート収入があるほか、原告が家族を支えており、単身赴任できない状況にある。他方、被告大津店に余剰人員はないし、本件懲戒解雇後運転手が一人採用されている。また、近畿ブロックといっても阪和店は大津店から遠方にあるので、近隣地域からの補充を検討すべきであったもので、本件配転命令を出す必要は全くない。

したがって、本件配転命令は、原告の家庭の事情を無視し、業務上の必要もメリットもないのに強行されたものであるから、権利の濫用として無効であり、これを前提とする本件懲戒解雇も無効である。

(被告の反論)

(一) 被告は原告を採用するに際し、勤務場所を大津店と特定していない。被告においては、運転手に対しても、日常的に配転が行われており、大津店も例外ではない。昭和五八年当時の就業規則(<証拠略>)の一五条には、「業務の必要により従業員に配転を命じることがある。」と明記されており、一六条にも配転を明示された従業員の応諾義務を前提とした赴任手続が定められている。

(二) さらに、昭和六三年の就業規則改正により、ブロック社員制度が制定され、業務の必要により、従業員にブロック範囲内への転勤を命じることができるものとされた。この改正は労使間の議論が沸騰し、従業員の関心も高く、改正の際、点呼時の説明、掲示等により改正内容について周知徹底を図ったから、原告がこれを知らないということは有り得ない。この結果、原告は関西ブロック社員になり、和歌山も勤務範囲となった。

ところで、被告は、不況の長期化、過当競争という厳しい経営環境の中で、小規模店の統廃合を進め、阪和店の管轄下にあった高野口店も阪和店に統合する計画で平成八年五月三一日付で閉店したが、エリア自体は確保する予定であったのに、高野口店の管理職以外の六名が全員退職したため、阪和店において早急に運転手を補充する必要が生じたけれども、近隣地域からの補充はできなかった。そこで、関西ブロックを管轄する関西主幹の指示のもと、京都支店と大津店とが協議して人選した結果、高野口エリアは山地が多くて人口が少なく、原告の勤務する堅田エリアと似た自然環境、人口分布であるので、原告の実績やノウハウが役に立つこと、家庭環境も単身転勤を不可能にするほどではないことから最適任と判断され、阪和店への本件配転命令に至ったものである。

(三) 不当労働行為の主張は否認する。被告が原告の同僚や旧労組の幹部と図って組合脱退工作をしたり、新労組の壊滅をめざす労務政策を講じたことはない。

(四) 解雇権の濫用については、(二)項のとおり、本件配転命令の必要性がある上、原告が最適任であること、家庭状況も、母親の年収が二三七万余円あること、実弟の世話は母親がしていること、妻も働いていることから、単身赴任ができない状況ではなく、解雇権濫用の主張は当たらない。

2  賃金請求権の成否と内容

(原告の主張)

原告は、被告に対し、毎月の賃金として、平成九年三月から毎月二五日限り三五万四二六六円、平成九年夏、冬の一時金として、八九万一九六三円及び内金四一万六二四二円に対する平成九年七月一一日から、内金四七万五七二一円に対する同年一二月六日から、各支払い済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張)

原告の月平均の賃金額が主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。計算上の一時金は、夏が四一万二九四二円、冬が四四万五四二一円である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点1(本件懲戒解雇の効力)について

1  転勤に関する、労働契約上の合意の不存在について

(証拠略)(原告作成の陳述書)には、昭和五八年四月に労働契約を締結した際、将来転勤が有り得ることについて説明を受けておらず、勤務場所をずっと大津と思って入社したこと、原告の入社後本件懲戒解雇に至るまでの一四年間、運転手が業務命令により転勤させられた例は一件もない旨の記載があり、右記載に徴すると、原告と被告との間の労働契約において、転勤に関する合意はなかったと認められ、これに反する証拠はない。

2  就業規則の改正による転勤

(一) しかし、労働契約上転勤の合意がなかったとしても、労働契約後の就業規則改正によって、一定範囲内の転勤が可能になったものと認められる。

すなわち、(証拠略)によれば、原告が採用された年の昭和五八年の就業規則において、業務の必要により、従業員に転勤又は勤務替え及び会社外への業務をさせるために出向させることがあること(第一五条1項)及び転勤を命ぜられた者の引継と赴任手続(第一六条、第一七条)が定められたこと、次いで、昭和六三年の就業規則において、同趣旨の条項(第一八条ないし第二〇条)が制定されたほか、新しく社員をブロック社員とその他に区分けし、ブロック社員の勤務地をブロック内の店所に限定したこと(第六条)、ブロック社員の賃金体系は地方社員(居住地から通勤可能な店に勤務する者)より有利であること、原告は関西ブロック社員に該当するが、同ブロックの範囲は、滋賀、京都、大阪、西大阪、大阪東、阪和及び本社であり、被告は右の各改正の際点呼時の説明や、掲示により改正内容の周知徹底を図ったこと、ブロック社員制度は被告とフットワークエクスプレス新労働組合との間で締結された労働協約(平成三年一月制定)の中でも第二一条で明記されていることが認められ、右認定に反する(証拠・人証略)は前掲証拠と対比して直ちに措信することができず、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、右各就業規則の改正が労働者の不利益に変更されたとか、又は変更の合理性がないものと認めるに足りる特別の事情は窺われない。してみると、右就業規則の改正が周知された結果、原告は関西ブロック社員として阪和エリアを含む関西ブロック内の転勤対象者の身分に置かれたものということができる。

(二) しかし、進んで、被告が本件配転命令を出さなければならない業務上の必要性があったか否かについては、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

すなわち、(証拠・人証略)によれば、被告においては、近年、不況の長期化、過当競争時代に対する合理化政策の一環として、ミニ店の統廃合を進めてきたところ、阪和支店の管轄下にあったミニ店の高野口店も阪和支店に統合することになり、平成八年五月三一日限りで閉店したこと、しかし、職員二名、運転手五名、計七名を全員引き取ってエリアを確保する予定であったのが、管理職一名を除く六名が閉店のころに全員退職したため、その補充に難航し、地元で確保することができず、地元の他の業者に業務委託を行った後、最終的に、関西ブロックを管轄する川原幸博関西主幹に後任運転手の補充を要請したことが認められる。しかし、高野口店のエリアは広い山間部で人口が少ないが(<人証略>)、そのエリアを確保する必要性がどの程度あったのか、業務委託の方が安上がりなのに(<人証略>)、どうしてこの方法で賄えなかったのか、収支率は阪和支店より大津店の方が高いが(<証拠略>)、収支率の高い店から低い店へ異動させる必要がどの程度あったのか、従来五名の運転手で貨物集配業務を行っていた広い山間部のエリアに、地理も交通事情も不案内な原告一名だけを配転する必要がどの程度あったのか、これらの点について納得できる事情は窺われず、これらの点のほか、当時の阪和支店の業績は落ち込んでいたこと(<証拠略>)、被告は、職業安定所で平成八年四月九日から同年六月三〇日まで求人募集した程度で、それ以外に求人募集した形跡がないこと(<証拠略>)を考え合わせると、阪和支店が高野口店のエリアを確保するため新規に運転手を補充する必要があったかどうかは、疑問というべきである。仮に、その必要性を認めるとしても、退職運転手らの後任として原告が最適任者であったかどうかについては、大津店のブロック社員は原告だけでなく、運転手の殆どがブロック社員であること(<証拠略>)、高野口店のエリアは特に運転技術を要せず、運転手なら誰でも集配業務に従事できること(<人証略>)、平成八年九月以降、新人の福島運転手が原告の後任として大津店の堅田地区を担当して現在に至っていること(<証拠略>)から、大津店に運転手を出せる人的余裕があったとはいえないこと、これらの点に加え、原告の家庭環境(二項及び後記4項)に照らすと、原告が果たして阪和支店の補充運転手として最適任者であったかどうか疑わしく、これに反する、堅田エリアと高野口エリアとの地域環境、人口分布の類似性、原告の経験と実績等により原告が最適任者であるという(証拠・人証略)は直ちに措信することができず、他に、被告主張の本件配転命令の必要性を裏付ける的確な資料はない。

してみると、本件配転命令はその必要性を欠き無効であると認めるのが相当である。

3  争点3(不当労働行為の有無)について

仮に、本件配転命令を出す業務上の必要性があったとすると、次に原告主張の不当労働行為の有無が問題になる。そこで、念のため検討するに、原告は、本件配転命令違反による本件懲戒解雇が組合脱退工作に応じない原告に対する報復行為であって不当労働行為である旨主張する。

原告は、平成八年二月ころ、従来所属していた多数組合のフットワークエクスプレス労働組合から全日本運輸一般労働組合フットワークエクスプレス新労組支部(分会員は原告一人)へ移ったことは、前記のとおりである。そして、(証拠略)には、組合脱退工作に応じないことを理由とする不当労働行為である旨の記載があり、特に、(証拠略)には被告による新組合(ママ)からの具体的な脱退工作に関する旧組合(ママ)の奥村分会長、滝本京都支店長、組合執行委員、野嶋新(ママ)大津店長による三 争点1(三)の<1>ないし<6>ほかの言動があった旨の記載があり、(人証略)も同旨の証言をする。また、(証拠略)によれば、原告が所属する新労組と被告との間には、複数の不当労働行為救済申立事件又は労働契約上の地位確認等の訴訟事件が係属していること、平成一〇年六月に、被告の関西主幹で元労務課長川原幸博(本件を契機に懲戒解雇)ほか一名の組合脅迫行為に対して司直の手が延びたことが認められる。

しかし、右事件が発生したとしても、本件において、組合脱退工作をしたという奥村分会長、衛藤副分会長、野嶋前大津支(ママ)店長、滝本京都支店長ら関係者の取調をしていない上、陳述書の提出もない状況下においては、前掲証拠をもって直ちに被告会社幹部及び労組幹部者との共謀による組合脱退工作の事実を認めるには証拠十分でないというべく、被告において新労組の壊滅をめざす労務対策を講じたとか、被告が旧労働組合と相図って、新組合(ママ)からの脱退に応じない原告に対する報復人事として、本件配転命令に及んだとまで認めることはできない。

4  争点4(解雇権の濫用)について

また、仮に、被告が本件配転命令を出す必要があったとして、本件懲戒解雇が権利の濫用として無効であるか否かにつき検討するに、前記争いのない事実、(証拠略)によれば、原告は、妻と高校生の子供二人、母及び実弟の六人暮らしで、大津市大萱に所有する自宅で六人全員が生活していること、妻は平成七年一月にくも膜下出血で倒れて開頭手術を受け、現在は病状をみながら三か月に一度定期的に通院しており、そのかたわら、パート勤務(月六万七〇〇〇円程度の収入)に出ているが、気候の変化による頭痛、ストレス、精神不安定による頭痛、身体の疲れによる頭痛がときどきあり、不安を抱えた中で生活していること、実弟は知的障害者(精神薄弱)で、あじさい学園という施設に通園しており、収入はないこと、原告は母から毎月五万円程度の援助を受けているが、家族六人の生活費は主として原告が被告から得る賃金で支えており、経済的、精神的にも一家の中心的な存在であること、以上の事実が認められる。右事実に加え、原告がこれまで一四年間真面目に働き、なんらの懲戒処分を受けたこともないこと、本件配転命令の必要性が仮にあったにしても、それほど強いものではなかったと窺われ、これらの事情を総合すると、本件配転命令は権利の濫用として許されず、したがって、その命令違反を理由とする本件懲戒解雇は無効というべきである。

二  以上の事実によれば、原告と被告との間で雇用契約が存在するものと認められるが、被告においてこれを争っていることは弁論の全趣旨により明らかである。

三  争点5(賃金額及び一時金)について

以上の事実によれば、原告は被告の間で雇用契約上の権利を有するので、就業規則及び被告からの回答に基づいて夏、冬の一時金の支払いを請求する権利があるところ、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、平成九年夏の一時金は四一万二九四二円、支給日は平成九年七月一〇日、同年冬の一時金は四七万二四二一円、支給日は同年一二月五日であることが認められる。

右認定事実によれば、被告は、原告に対し、賃金請求権として、本件懲戒解雇後の平成九年三月から毎月二五日限り三五万四二六六円、一時金請求権として、八八万五三六三円及び内金四一万二九四二円に対する平成九年七月一一日から、内金四七万二四二一円に対する同年一二月六日から、各支払い済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

四  結論

以上によれば、原告の本件各請求のうち、雇用契約存在の確認請求は理由があり、賃金及び一時金の支払いを求める請求は右認定の限度で理由があるのでこれらを認容することとし、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六一条を、金銭の支払いを命ずる部分に対する仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鏑木重明)

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