大津地方裁判所 昭和24年(ワ)16号 判決
原告 西村俊雄 外五名
被告 西岡寅男 外一名
一、主 文
一、被告西岡寅男は原告西村俊雄に対し金八十五万円、原告西村昭、同西村孝子、同西村保、同西村和子に対し各金五万円及びそれぞれこれに対する昭和二十一年四月二十二日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。
一、原告西村ようの請求並びに原告西村俊雄、同西村昭、同西村孝子、同西村保、同西村和子のその余の請求はこれを棄却する。
一、訴訟費用中原告等と被告西岡寅男との間に生じた部分は被告西岡寅男の負担とし、原告等と被告滋賀県との間に生じた部分は、原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は「被告両名は連帯して原告西村俊雄に対し金九十六万円、原告西村ように対し金十万円、原告西村昭、同西村孝子、同西村保、同西村和子に対し各金五万円及びそれぞれこれに対する昭和二十一年四月二十二日より支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払うこと。訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。
訴外亡西村広三は昭和二十一年四月二十一日琵琶湖へ魚釣に赴むき、同日午後七時四十分頃京津国道を自転車に乗つて京都市へ帰るべく、大津市追分町京阪電車京津線追分停留所附近に差しかかつた際、前方から疾走して来た被告西岡寅男操縦にかかる被告滋賀県所有の草津警察署用乗用自動車に衝突され、これがため右広三は前頭部骨折の傷害を蒙り即死した。
当日は曇天の上日没後であつて、すでに前方の見透しも十分でなくなつていたのであるから、かかる際に自動車を操縦する者は十分に前方を注視し衝突等の事故を起さないよう慎重に運転すべきであつたのに拘わらず、被告西岡は毫もかかる注意をなさず漫然無燈火のまま時速約三十五粁の速度で、しかも車道の右側を歩道寄りに運転していたため、その前方から左側を進行して来た西村広三の自転車に正面から衝突し、前記事故を惹起するに至つたものであつて、これは全く被告西岡の重大なる過失に基くものといわなければならない。
而して右の自動車には滋賀県警察部刑事課勤務の捜査主任であつた警部補沢村貞義が乗車しており、同警部補は当日犯罪捜査のため京都市に赴き、その帰途被告西岡に本件自動車の運転を依頼し、これに同乗して帰庁の途中にあつたものであつて、被告滋賀県が犯罪捜査のため、その常用自動車(滋賀県所有草津警察署用)を運転することは疑いもなく滋賀県の事業であり、被告西岡は右運転のため臨時に使役せられた県の被用者に外ならない。従つて使用者たる被告滋賀県は被告西岡が右自動車の運転中その過失によつて惹起した本件事故による損害を賠償すべき義務あるや勿論である。
亡西村広三は大正十四年京都高等工芸学校を卒業後、同校助教授等の職を経て、昭和十七年七月七日京都市技師に任ぜられ、爾来京都市染色試験場に勤務していたのであるが、本件事故発生当時満四十八年六月の身体強健な男子であつたから、内閣統計局の生命表によれば、将来の生存年数はなお十四年六月を下らないところ京都市の吏員、雇員その他停年に関する規程によれば主事級以上の者の停年は満六十年であるから広三はなお十一年六月は同試験場技師として勤務することが可能であつた。また当時はすでにインフレーシヨンの傾向があらわれて来ており、名目賃銀の上昇による収入の増加は容易に予見し得たし、その増加した収入を確実に取得し得た筈である。
而して同人の本件事故発生当時における手取り月収は本俸の外扶養家族手当等を加へても八百四十四円余に過ぎなかつたが、右の如き特別の事情によりその俸給は逐次増加し、昭和二十一年五月以降昭和二十二年三月末までは合計二万千五百四十五円七十二銭、昭和二十二年四月以降昭和二十三年三月末までは合計五万三百四十一円三十五銭、昭和二十三年四月以降昭和二十四年三月までは合計十一万九千百八十五円四銭、昭和二十四年四月以降前記停年までの八年八月間は少くとも一ケ月一万円以上の収入を得べかりしものであり、これが合計額が広三の死亡により生じた財産的損害であるが、中間利息を五分としてホフマン式計算方法により事故発生当時における一時払額に換算すると金八十七万五千九百七円七十銭になる。而して原告西村俊雄は右広三の次男であつて同人の死亡によりその家督を相続し、右損害賠償請求権を承継したから、本訴においてこれが内金八十六万円の支払いを請求する。
なお、原告西村ようは右広三の妻、その余の原告等はいずれも広三の子であつて、広三の死亡によつて一家の支柱を失い、生計の困窮を来し、学業を中途において廃するの已むなきに至る等精神上多大の苦痛を蒙むるに至つたが、特に広三の遺妻またはその家督相続人として幼少なる子女弟妹を養育する重責を負わされるに至つた原告よう並びに俊雄の苦痛は一入甚大なるものがある。被告等は右苦痛を慰藉するため原告等に相当の慰藉料を支払う義務がありその額は、右諸般の事情からして、原告俊雄同ようについては各金十万円、その他の原告等については各金五万円と算定するのが相当である。
よつて、原告等は被告両名に対し右各金員及びそれぞれこれに対する損害発生の日の翌日である昭和二十一年四月二十二日以降支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶと斯様に陳述し、被告等の抗弁事実を否認し、被告西岡は自動車の修理が専門であつて、操縦は未熟であるから同被告に本件自動車を運転せしめたのは、その選任監督について過失があつたものといわねばならない。また本件自動車による運送行為は私法上の行為であつて、公法人と雖もその被用者が私法上の行為につき第三者に損害を与えた場合には、民法第七百十五条による損害賠償の責任を免れないものである。と述べた。<立証省略>
被告西岡訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の連帯負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の日時に被告西岡が原告主張にかかる自動車を運転中、その主張の場所において訴外亡西村広三と衝突し、これがため同人が死亡したこと、右広三の年齢、同人と原告等との身分関係が原告主張のとおりであることはいずれも認めるが、西村広三の地位職業に関する事実は不知、本件事故当時被告西岡が被告県に雇傭せられていたとの事実並びに被告西岡に過失があつたとの事実はいずれも否認する。仮りに、被告西岡に過失があつたとしても、西村広三もまた当時無燈火の自転車に乗り何ら前方に注意を払うことなく疾走してきたのであつて本件事故の発生については同人にもまた過失がある。なお、本件事故直後被告西岡寅男の父から原告等に慰藉料として金五千円を交付し、これによつて原告等は被告西岡に対する本件事故に因る損害賠償請求権を放棄したものであると述べた。<立証省略>
被告滋賀県訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告主張の日時場所において相被告西岡寅男が犯罪捜査の帰途にあつた被告滋賀県刑事課捜査主任警部補沢村貞義の乗車せる自動車を運転中訴外亡西村広三と衝突し因て同人が死亡したこと、及び右広三の年齢、同人と原告等との身分関係が原告主張のとおりであることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。相被告西岡には前記事故の発生につき何等の過失もなく、かりに過失があつたとしても本件は犯罪捜査という公法上の行為によつて生じたものであり、さらに訴外沢村貞義が相被告西岡寅男に本件自動車を運転させるについては同訴外人においてその選任及び監督につき十分の注意を払い少しも過失がなかつたのであるから、以上いずれの点からしても、本件事故につき被告滋賀県が民法第七百十五条による損害賠償責任を負うべき理由はない。と述べた。<立証省略>
三、理 由
訴外西村広三が昭和二十一年四月二十一日琵琶湖に魚釣に赴むいての帰途同日午後七時四十分頃大津市追分町京阪電車京津線追分停留所附近路上を自転車に乗つて通行中、被告滋賀県警察部刑事課捜査主任警部補沢村貞義が京都方面へ犯罪捜査に赴むいての帰途、被告西岡寅男に操縦させて前方から進行して来た滋賀県所有の草津警察署用乗用自動車と衝突し、前頭部骨折の傷害のため即死したこと、及び右広三と原告等の身分関係がそれぞれ原告主張のとおりであることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第四号証乃至第七号証に被告西岡本人(第一回)の供述を綜合すれば、本件事故発生当時は曇天の上すでに日没後であり、しかも自動車の前照燈が故障のため点燈できず前方の見透しがきかなかつたので、西岡は幅員約三十三尺の車道の右側歩道と車道との境界の高低線をたよりにして車道の右側寄りを時速三十五粁位いの速度で東行していたため、前方から自転車に乗つて西行して来た西村広三に全然気付かず、これと正面衝突するに至つたものであることが認められる。而して右の如き薄暗がりにおいて自動車を運転する場合は前照燈を点火の上車道の左側を進行すべく、なお常に前方を注視し適宜その速度を加減する等危害の発生を未然に防止するための万全の措置を講ずべき業務上の注意義務があることは当然であるから、かかる注意義務を怠り無燈火のまま漫然車道の右側を時速約三十五粁で疾行した被告西岡には重大なる過失があつたものと断ぜざるを得ない。
次に原告等は本件事故は被告県の犯罪捜査のためにする運送行為という事業の執行につき被告県の被用者である被告西岡が過失により加えたものであるから、被告県は相被告西岡の使用者として同人の不法行為につき民法第七百十五条による損害賠償責任があると主張するのでこの点につき考えてみるに、前顕甲第五、六号証及び証人沢村貞義の証言並びに被告西岡本人尋問(第一回)の結果によれば、当日訴外沢村貞義は京都方面へ犯罪捜査に赴むくに当り、たまたま滋賀県刑事課用の自動車に差支えがあつたので、修繕のため訴外西岡新七経営の自動車修理工場に預けてあつた本件自動車を帰途使用することとし、これが運転を新七の息子である被告西岡寅男に依頼し、同被告の操縦する本件自動車に乗車して滋賀県庁に帰庁の途次本件事故を惹起したことを認め得るところ、当時における犯罪捜査は国の事務であつて、地方公共団体たる滋賀県の事務ではなく、従つて沢村貞義が前記犯罪捜査よりの帰途本件自動車の運転を被告西岡に依頼し同人を個人的に使役したからといつて、これをもつて民法第七百十五条にいわゆる県の事業執行のための被用者というを得ず、このことはたまたま右沢村が滋賀県刑事課に勤務せる捜査主任であり、また、本件自動車が滋賀県所有の警察用自動車であつたからとて、毫もその理を異にするものではない。従つて、この点に関する原告等の主張は到底採用することはできない。
以上の次第であるから、被告滋賀県に対する原告等の本訴請求はその理由がないが、被告西岡寅男は、本件事故のため西村広三を死に致したことにより、被害者西村広三及びその妻子である原告等が蒙つた損害を賠償すべき義務あること勿論である。
そこで進んで損害の額について考察する。成立に争のない甲第一号証によると広三は明治三十年十一月三十日に出生し、本件事故当時年齢満四十八年六月の男子であつたことが明らかであり、満四十八年六月の普通健康体の男子の将来の生存平均年数が十四年六月を下らないことは当裁判所に顕著な事実であるところ、証人石野伝一の証言(第一回)及び同証人の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証によれば、広三は事故当時京都市技師として京都市染色試験場に勤務していたこと、京都市技師の停年は満六十年であることが認められるから、広三は将来なお十一年六月は同試験場技師として勤務することが可能であつたと推定すべきである。そして右証人石野伝一の証言(第一、二回)及び原告西村よう本人尋問の結果を綜合すれば本件事故当時広三の月収は八百四十四円余に過ぎなかつたが、右試験場において広三と同程度の地位に在り、扶養家族相似た事情にあつた同試験場技師松本康之の手取収入は、昭和二十一年五月乃至昭和二十二年四月までは合計二万五千百四十六円六十六銭、昭和二十二年五月より昭和二十三年四月までは合計六万五千百二十五円五十銭、昭和二十三年五月より昭和二十四年四月までは合計十四万六千四百二十二円六十四銭、昭和二十四年五月以降は毎年十九万九千三百五十四円を下らないことが明らかであるから、他に特別の事情の認められない限り、広三も少くとも右同額の収入を得ることができたものと解するのが相当であり、かつ当時は終戦後のインフレーシヨンの傾向がすでに顕われはじめておつて、これが進行に伴い名目賃銀の上昇する方向にあつたことは当裁判所に顕著な事実であるから当時右の程度の収入の増加は予見することが可能であつたものと云うべきである。而して原告西村よう本人尋問の結果によれば広三の生活費が手取収入の略三割を占めていたことが窺われるので前記収入から右の割合による金員を控除し、更にホフマン式計算方法により中間利息五分を差引いて事故当時における一時払額に換算すると金百一万五千八百三十二円四十一銭となる。しかしながら、他面被告西岡寅男本人尋問(第二回)の結果によれば、西村広三が本件事故当時乗用していた自転車には燈火の設備がなくこれがため被告西岡寅男においては右広三の自転車が進行して来ることに気付かなかつたものであることが認められるので、右事故の発生については被害者たる広三の側にもまた過失があつたものというべく、しかも右自転車に燈火がついて居たならば、西岡寅男においてその進行に気付き衝突を避けられたかも知れないのであるから、広三の上叙過失を斟酌の上本件損害額を金八十万円と定めるのが相当であり、原告西村俊雄は家督相続によりこれが賠償請求権を承継したものである。次に成立に争のない甲第一号証と原告西村よう本人尋問の結果とによれば、原告俊雄は右事故当時二十歳、原告昭は十九歳、原告孝子は十七歳、原告保は十一歳、原告和子は八歳であつて、原告俊雄は病弱であり、広三の給料を唯一の収入として家計を維持して来たが、同人の急死に遭つて生計は忽ち困窮に陥り、精神上多大の打撃を蒙つたことは明白である。ただ証人沢村貞義の証言並びに原告西村よう本人及び被告西岡寅男本人(第一回)各尋問の結果によれば、本件事故直後沢村貞義及び被告西岡寅男の父西岡新七から各金五千円宛合計金一万円の見舞金を原告ように交付したところ、ようは十分満足してこれを受取り、その後生計上の事柄に関して被告西岡に何かと相談をもちかけたりしている事実を認め得るところであつて、右のような事実と当時において金一万円の金額が相当の価値を有していた事実とから推すときは、ようは右金員の受領により一応精神上慰藉を得たものと認むべきである。そしてその余の原告等についてすでに述べたような諸事情を考慮すれば、その蒙つた精神上の苦痛に対する慰藉料としては、各金五万円と算定するのが相当であると考える。被告西岡は前記五千円の支払によつて原告等は同被告に対する一切の損害賠償請求権を放棄したものであると抗弁するけれども、かかる事実を認めるに足る何等の資料もないから、右抗弁は採用の限りでない。
果して然らば被告西岡寅男は原告西村俊雄に対しその相続した前記財産上の損害賠償金八十万円及び慰藉料五万円の合計八十五万円、原告西村昭、同西村孝子、同西村保、同西村和子に対し右慰藉料各五万円及びそれぞれこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和二十一年四月二十二日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。よつて原告等の本訴請求は右の限度においてのみこれを正当として認容すべきも、その余は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小石寿夫 八塚英一 日高敏夫)
原告 吉田藤一郎 外一名
被告 共和ゴム株式会社
一、主 文
被告会社が昭和二十六年五月二日その肩書地所在の当時の仮事務所に招集した臨時株主総会においてなした(イ)定款第二条中資本金「二百三十万円」とあるを「四百万円」に、第四条中「東京都豊島区目白町二丁目千五百七十三番地」とあるを「東京都中央区」に、第十七条中「取締役五名以内」とあるを「取締役十名以内」に、第二十三条中「当会社は社長又は専務取締役を設くることを得」とあるを「当会社は取締役会長・取締役社長・専務取締役各一名及び常務取締役若干名を互選することを得」に、夫々変更する旨、(ロ)中島勝三郎、中山督、久保董一、山脇武、中島勝、勝田晴夫、新庄鹿一を夫々被告会社取締役に、井田十郎を同会社監査役に選任する旨、(ハ)中島勝三郎を被告会社代表取締役に選任する旨及び(ニ)被告会社の役員の報酬を六ケ月分百万円以内とする旨の各決議がいずれも存在しないことを確認する。
被告会社が昭和二十六年五月七日登記してなした資本増加はこれを無効とする。
被告会社が昭和二十六年七月三十一日肩書地の本店事務所に招集した通常株主総会においてなした昭和二十六年度上期の営業報告書、貸借対照表、財産目録及び損益金処分案を承認する決議が存在しないことを確認する。
原告等のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その三を被告、その余を原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、「(一)被告会社が昭和二十五年八月二十九日主文第一項掲記の場所に招集した臨時株主総会においてなしたと称する、資本を金百七十万円増加する旨の決議の存在しないことを確認する。」という他、(二)主文第一項、(三)主文第二項、(四)主文第三項と同旨及び「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、なお右(一)の請求が容れられないときは「同決議は無効であることを確認する。」右(二)の請求が容れられないときは「主文第一項の決議は無効であることを確認する。」この請求も容れられないときは「主文第二項の決議を取消す。」右(四)の請求の容れられないときは「主文第三項の決議が無効であることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告吉田藤一郎は被告会社の株式一万五千五百八十二株を有する株主、原告杉浦英一郎は同株式五千株を有する株主であるところ、
(一) 昭和二十五年八月二十九日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十五年八月二十九日その肩書地所在の当時の仮事務所に招集した臨時株主総会で、資本を金百七十万円増加する旨の決議をしたと称しているが、右決議は存在しなかつたものである。もつとも右株主総会において、一部の株主から会社の資本を金百七十万円増加する旨の提案があり、それに基いて出席株主の間に、被告会社のその後の経営方策として、増資できるかどうかを検討してみようという程度の申合がなされたことはあるが、右は決議という迄には至らなかつたのである。仮りに資本増加の決議がなされたとするも、その決議は、次の理由によつて現在はその効力を有しない。すなわち、
(イ) 右決議においては新株の引受は、全部被告会社の取引上の得意先の引受申込に対してのみ割当をなすべきことを予定し、得意先が全株式の引受をしないことを解除条件として右決議をしたものである。しかるに、同年十一月頃には、僅かに額面約二十万円相当の株式について引受申込があつたのみで到底右予定達成の見込のないことが確定したので解除条件が成就し、決議は初に遡つて効力を失つたのである。
(ロ) 仮りに右の通り認められないとしても、右増資新株の引受条件として引受人は、昭和二十六年二月末日までに増資報告総会が終了しないときは、引受を取り消すことができる旨定められていたところ、右期日までに増資報告総会が終了しなかつたから、右決議の効力は、約六ケ月にわたる長期間の空白により自然消滅した。
(二) 昭和二十六年五月二日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十六年五月二日同所に招集した臨時株主総会において、主文第一項掲記の決議をしたけれども、右決議は次に述べるようなわけで法律上存在しないもの、仮りにそうでないとするも法律上無効のものである。即ち、
(イ) 原告吉田はもと被告会社の取締役であつたところ、昭和二十五年十二月十八日辞任し、これにより同会社は取締役の法定数を欠くに至つたので、同会社取締役高木政勝、同新庄鹿一及び監査役井田十郎の協議により、翌二十六年三月十八日旧商法第二百七十六条第一項但書に基き、右井田を一時取締役の職務を行うべき者と定めた。しかしながら右規定は、取締役に欠員がある場合において監査役が二名以上在任するとき、一時その中から取締役の職務を行わせる者を指定することができる旨を定めたに止るのであるが、右井田十郎は右の場合被告会社の唯一の監査役であつたから、同法条は適用の余地なく、同人は元来右のような指定を受けることができなかつたのである。従つて、昭和二十六年三月二十五日取締役の職務を行う者となる資格のない井田十郎が加わつてなした被告会社の株主総会招集についての取締役会の決議は無効であつて、この決議にもとづいて為された総会の招集は違法である。又同人は、昭和二十六年四月十七日右決議にもとづいて株主に対し株主総会の招集通知を発したのであるが、これは招集権限のない者の招集として無効であるから、この招集による株主総会の決議は法律上存在しないものというべきである。
(ロ) 仮に右の主張が認められないとしても、右決議は株主でない者が株主として加わつてなした違法の決議である。そのわけは、被告会社の前記昭和二十五年八月二十九日の増資決議は存在しないに拘らず、前記高木、新庄及び井田の三名はこれがあつたと称して増資手続を進め、更にその増資新株の払込が完了したとして新株引受人なる者を同決議に参加させた。しかし増資新株の引受人は、未だ新株の株主になつていないけれども、新株の募集に関する事項を報告する総会においてのみ特に株主と同一の権利を有するのであつて、同一総会においてであつても右事項にあらざる事項については、株主と同一の権利を有しないわけであるから、その者の加わつた新株の引受に関する事項にあらざる事項についての決議は違法である。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資の無効について、
被告会社は前記(一)の増資決議があつたものとして増資手続を進め、昭和二十六年五月二日臨時株主総会(前記(二)の総会と同じ総会である。)を招集してこれに新株の払込があつた旨報告し、同月七日右増資の登記をした。しかし右増資は以下に述べるような違法があるから無効とすべきである。即ち、
(イ) 右増資の前提である資本増加の決議は前記(一)の通り存在しないものであり、仮りにそうでないとしても増資手続当時既に失効していたのである。
(ロ) 仮に右決議が存在し、なお現に効力を喪つていないとするも、その増資には新株引受権のない者によつて引受けられている違法がある。けだし右決議乃至はその決議の際株主総会から細目の決定及びその実行の委託を受けた原告吉田のなした決定では、増資新株の引受人を全部被告会社の取引先に限定したのであるが、本件新株の実質上の引受人は、従来同会社と何の関係もなかつた中島勝三郎なのである。もつとも形式上は旧株主である前記高木、新庄及び井田が引受けたことになつているけれども同人等は取引先ではない。仮りに株主たる資格で引受けたものとするも、この場合株式の割当は、株主の支配の分布状態維持のために、各株主の間に平等に行われなければならないのであつて、右三名の株主のみに割当てられた本件の引受は株主平等の原則に反し、違法である。
(ハ) 次にこれら引受人の引受に瑕疵がないと仮定しても、昭和二十六年三月十八日以後に右増資手続に当つたのは前記井田十郎を加えた取締役会であるが、右井田は前記の如く取締役の職務を行い得ないものであるから、結局右取締役会によつて進められた右手続もまた違法たるを免れない。
(ニ) なお、本件株式申込は株式申込証を用いないでなされている。株式の引受は商法の定める事項を記載した株式申込証によつて申込をして為す行為であるから、右申込は無効である。
(ホ) 更に本件増資のための株金払込銀行は当初埼玉銀行池袋支店であつたのに、その後裁判所の許可なく帝国銀行丸ノ内支店に変更された違法がある。又株式申込を取消し得る期間も、当初昭和二十六年二月末日であつたものが、後に同年五月末日に変更されたが、これまた変更の権限のない者によつてなされたもので違法である。
(ヘ) 最後に、右増資の報告は昭和二十六年五月二日の臨時株主総会において行われたわけであるが、右総会は前記の如く招集権のない者によつて招集されたものであるから、右報告及びその承認は法律上不存在である。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十六年七月三十一日肩書地の本店事務所に通常株主総会を招集して、昭和二十六年度上期営業報告書、貸借対照表、財産目録及び損益金処分案に対する承認決議をしたと称しているが、右総会は、法律上不存在というべき(二)の決議により取締役に選任された中島勝三郎が取締役として招集したものであるから、この総会は、招集権限なき者の招集であり、この総会でなされた右決議は、やはり法律上存在しないもの又は無効を以て目すべきものである。
よつて請求の趣旨の如く本訴に及ぶ。」と陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「原告主張の請求原因事実中、原告等がその主張のような株主であることは認める。その他の事実はつぎの通りである。
(一) 昭和二十五年八月二十九日の株主総会の決議について(以下原告の請求原因に附された番号に対応するものとする。)
被告会社が昭和二十五年八月二十九日原告主張の場所に臨時株主総会を招集したことは認めるが、その余の事実は否認する。この総会において資本金百七十万円を増加する旨の決議がなされたのであつて単にその旨の申合をしたという程度のものではない。なお、
(イ) 資本増加の決議に原告主張のような解除条件を附したことは否認する。仮りにそのような条件が附されたとするも、資本増加の決議に附された条件は無効であるから、原告の主張は理由がない。
(ロ) 引受取消条件の成就によつては引受が取消されうることとなるのみであつて増資決議が効力を喪うことはない。
(二) 昭和二十六年五月二日の株主総会の決議について、
被告会社が昭和二十六年五月二日原告主張の場所に招集した株主総会において原告主張の決議がなされたことは認める。
(イ) この総会が原告主張のようなわけで一時取締役の職務を行うべき者に定められた唯一の監査役たる井田十郎によつて招集されたものであることは認める。しかし、右井田十郎がなした招集は適法であつて無権限による違法のものというわけのものではない。けだし、旧商法第二百七十六条の規定は原告のいうように狭く解すべきでなく、右井田は同条第一項但書に基き有効に一時取締役の職務を行うべき者と定められたのである。仮に右決定が誤つていたとするも、右井田は、なお監査役の資格を保有しており、同人のした招集は、取締役及び監査役の全員の決定に基き、監査役としてしたことになるから、やはり手落がないことになる。
(ロ) 又右決議に新株引受人が加わつたのは正当な増資手続を経たものであつて些かの違法もない。仮に右決議参加が違法であるとしても、少くとも右決議は全会一致でなされたのであるから、右増資株数に相応する議決権三万四千株分(それは旧株主である高木政勝、新庄鹿一及び井田十郎が引受けたものである。)を除いても、なお結果に相違を来さない。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資について、
被告が原告主張の通りの手続を経て昭和二十六年五月七日資本増加の登記をしたことは認める。
(イ) その増資決議が行われ、現になお効力を有することは前述した。
(ロ) 高木等は、被告会社が新株引受人募集に手を尽したに拘らず、所期の成績をあげることができなかつたので止むなく自ら引受けたものに他ならない。
(ハ) 増資手続に当つた者は総て被告会社の取締役及び監査役であるから違法はなく、しかもその間役員間に意見の不一致があつたことはないから、その効力を云々する必要もない。
(ニ) 右手続に当つては適式の株式申込証により株式申込がなされている。
(ホ) 払込を取扱う銀行及び引受取消の条件たる払込報告の総会の終結すべき時期を変更したことは認めるけれども、この変更は、権限ある者によつてなされたものであつて違法ではない。
(ヘ) 増資報告総会の招集が適式であることについては前述した。同総会において増資報告承認の議案は賛成多数で可決されたものである。なお仮に右総会の招集乃至報告に何等かの瑕疵があるとしても、増資は元来新株式の払込完了により既に効力を生じているのであつて、いわゆる増資報告総会は単に引受及びその払込の有無につき調査の結果を報告するに止まるものであるから、同総会の手続の適否は増資の効力に影響をきたすものではない。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の株主総会の決議について、
以上述べたところから(四)の決議にも原告の指摘するような欠陥が生じ得ないことは明かであるが、仮に取締役中島勝三郎の選任が違法であるとしても、少くともその選任の違法が判決で確定するまでは右決議の効力は否定されえないものである。」と答弁した。<立証省略>
三、理 由
原告吉田藤一郎が被告会社の株式一万五千五百八十二株を有する株主、原告杉浦英一郎が同株式五千株を有する株主であることは当事者間に争がないから、以下に被告会社の株主総会の決議等を争う原告の請求を順次検討する。
(一) 昭和二十五年八月二十九日の総会決議について、
被告会社が昭和二十五年八月二十九日その肩書地所在の当時の仮事務所に臨時株主総会を招集したことは当事者間に争がないから、同総会において資本金百七十万円を増加する旨の決議がなされたかどうかを考える。成立に争のない乙第一、二号証によれば、右株主総会は、被告会社の資本金を百七十万円増加することを決議事項の一として招集されたものであることを認めるに十分であつて反対の証拠はないから、右増資の議事は原告の主張するように総会における一部株主の提案という程度のものでなかつたこと明かであるといわなければならない。資本増加の決定が最初から予定された総会の議事であつた右認定事実に成立に争のない甲第四号証の一乃至三、乙第三号証の一、同号証の三の一、二、同号証の四、五、六及び証人高木政勝、同井田十郎、同大林貞夫、同新庄武夫、同田中昇策の各証言を綜合すれば、右株主総会において被告会社の資本金を百七十万円増加すべき旨決議されたことを認めるに十分である。この点についての原告吉田藤一郎の供述は措信し難い。又原告は、甲第四号証の一乃至三を援いて決議の不成立を主張するけれども、証人山本誠一の証言及び原告吉田藤一郎の供述を綜合すれば、原告吉田藤一郎は総会中議事につき自ら筆記したメモ(乙第三号証の一)を総会終了後被告会社の社員たる山本誠一に交付し総会の議事録を作成すべき旨命じ、且つ、総会において増資の細目の決定を社長に一任していたので被告会社の取引上の得意先の引受を予定して新株申込の勧誘をしたところ、わずかに額面約二十万円程度の申込を受けたのみで所期の成績を挙げなかつたことを認めることができるから、資本増加の決議が成立しなかつたとする原告の主張は到底採用することができない。なお、仮定の主張として、
(イ) 原告は、右増資決議は、被告会社の得意先が引受けないことを解除条件として為されたのであると主張するけれども、右決議にそのような条件が附されていたことを的確に認めるに足る証拠はない。
(ロ) 更に、原告は、右決議は昭和二十六年二月末日の経過によりその効力を喪失したと主張し、その援用する甲第四号証の三によれば株式申込書用紙には「昭和二十六年二月末日マデニ資本増加ノ報告総会ノ終結シナイトキハ株式ノ申込ヲ取消スコトガデキル」との記載があり、証人高木政勝の証言及び原告吉田藤一郎の供述によれば、この記載は、総会の前記委任の趣旨により社長として原告吉田藤一郎が定めたものであることを認めることができ、右期日までに増資報告総会が終結しなかつたことは、弁論の全趣旨よりして当事者間に争ないものと認めうるけれども、これは、被告の主張する通り引受を取消す権利を行使することができる時期を定めたものであつて、この定あるが故に決議がこの時期の到来により当然にその効力を喪失する訳のものではない。
(二) 翌二十六年五月二日の総会の決議について、
被告会社が昭和二十六年五月二日前同所に招集した臨時株主総会において、原告主張の各決議がなされたことは当事者間に争がない。
右株主総会は被告会社の監査役たる井田十郎が同年四月十七日発した招集状により招集されたものであること及び、原告吉田はもと被告会社の取締役であつたところ、昭和二十五年十二月十八日辞任し、これにより同会社は取締役の法定数を欠くに至つたので、取締役高木政勝、同新庄鹿一及び唯一人の監査役たる井田十郎の協議により翌二十六年三月十八日旧商法第二百七十六条第一項但書に基き、右井田を一時取締役の職務を行うべき者と定め、その資格において右招集をしたものであることは当事者間に争がない。この措置の当否を定める為、右旧商法の規定の趣旨を考えると、右は株式会社の業務執行機関である取締役の員数に欠員を生じた場合に、これを監査機関である監査役中から一時補うことができるなら、法定の会社の全機関の機能をとめることなく正常な運営をなめらかに維持させることができるので、短期間を限りそのような措置をとることを許したものに他ならない。従つてもし監査役もまた一人しかないような場合に、これをもつて取締役の職務代行者に充てるとすれば、会社は逆に監査機関を欠き、その機能はとまり、たとえ一時にもせよ、会社の正常な運営がとげられないことになるから、このような場合には右規定の適用は許されないものというべく、従つてこれを侵して監査役が一時取締役の職務代行者に指定されたとすれば、それは商法の所期する会社の構成をことさらに乱すものであつて、その者のなした行為は無効となるといわなければならない。しかるに当時井田が被告会社の唯一人の監査役であつたことは当事者間に争がないから、同人に対する右指定は効力がなく、同人が代表取締役の職務を行う者の資格においてなした前記招集もまた無効である。被告はこれに対し、右指定が無効であるとしても右井田の招集は監査役の行為として有効であるというけれども、監査役は取締役の監督機関であつて両者の職務は相反するものであるから、その間に右のような無効行為の転換は許されない。従つて右決議は、法律上招集権限のない者の招集した総会において為された決議ということになり、とうてい適法な総会の決議といえないから、法律上は存在しないものといわなければならない。原告の請求は、その主張の(イ)の点において理由があることになる。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資について、
被告会社が前記(一)の増資決議を根拠として増資手続を進め、前記(二)の臨時株主総会に新株の払込のあつた旨報告し、同月七日右増資の登記をしたことは当事間者に争がない。これに対し、
(イ) 原告は、右増資の前提である(一)の決議及びその効力の存在を争うけれども、右決議が適法に為され、現になお効力を喪つていないことはすでに前に認定した通りである。
(ロ) 次に原告は右増資新株の引受は増資決議の際なされた全株式を取引上の得意先のみに引受けさせるという附帯決議に違反し、被告会社の取引先以外の者によつてなされているから無効であるというが、このように増資決議を制限する決議があつたことの証拠がないから、この点も理由がない。もつとも原告吉田藤一郎の供述によれば本件増資新株の引受を取引先にさせようと計画したことが窺えるけれども、それは法律上決議という程強い意味のものでなく、資金が株主その他からえられないのでとられた一の方針ともいうべきものであつたところ、原告吉田は会社理事者としてこの方針の実現に失敗し、昭和二十五年十二月十八日辞任したのであることが右原告本人の供述によつて窺えるから、その後増資実行の衝に当る者において先の方針を変更することがゆるされないわけではなく、これを変更しても何等増資手続の違法をもたらすことはない。なお原告は旧株主である高木政勝、新庄鹿一及び井田十郎が右新株を引受けたことは株主平等の原則に反するというけれども、新株の割当先を誰にするかということは、定款その他の特段の制限のない限り自由に決し得るところであり、本件についてはかかる有効な制限が存することを認める根拠がないからいずれにせよ新株引受人の適格を争う右主張は理由がない。
(ハ) 更に原告は、原告吉田の退職後右増資決議は、被告会社の取締役会の決議によつて実行されたのであるが、この取締役会には前記のように取締役としての職務を行い得ない井田十郎が参加しているから、右決議の実行は無効である旨主張する。
証人高木政勝の証言によれば、被告会社が昭和二十六年三月十八日さきに会社に提出された原告吉田の辞表を正式に受理した後は増資決議の実行は専ら取締役会の議を経てなされたことが認められる。かかる措置は、増資の細目の決定を社長に一任した総会の決議の趣旨と相容れないわけのものでなく、この場合、特別の主張立証がないから、井田は取締役会を通じて右増資の実行に加わつたものというべきである。しかして、原告吉田藤一郎の社長辞任が正式に受理された後株式申込証の記載の変更、払込取扱銀行の変更、割当増資報告総会招集の決定及び同招集等がなされたことが証人高木政勝の証言及び原告吉田藤一郎の供述によつて認められる。果して然らばこれら増資決議は、関与する権限のない者の意思が加わつて実行されたことになるから、この実行は当然効力なく、増資は未だ完了していないといわなければならない。被告会社が昭和二十六年五月七日登記してなした増資を無効とすべきものであるとする原告の主張は、他の点について判断するまでもなく、この点において理由がある。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の総会の決議について、
中島勝三郎が昭和二十六年七月三十一日被告会社の本店事務所にその通常総会を招集したこと及びそこで原告主張の決議がなされたことは当事者間に争がない。而して右中島勝三郎は前記(二)の決議により被告会社取締役に選任されたものであるところ、右決議はすでに認定した通り招集権限のない者によつて招集された総会においてなされたものであるから、法律上存在せざるものというべく、したがつてそれにより有する同人の地位もまた法律上の効力なく、本件(四)の総会招集もまた権限のない者がこれをなしたことになる。
されば、右総会においてなされた右のような決議は法律上存在しないものというべく、よつて同決議不存在の確認を求める原告の請求は理由があるといわなければならない。そして、本訴において代表取締役中島勝三郎の選任決議の効力を争う請求は、この請求に対し単に併位的に存在し、矛盾なく同時に判断し、確定させることができるのであつて、前者が確定してからでなければ後者の判断ができないという訳のものでないから、この点の被告の主張は理由がない。
よつて(二)の決議の取消、(三)の増資の無効宣言及び(四)の株主総会の決議の不存在確認を求める原告の請求を正当として認容し、その余の請求を理由がないとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条の各規定を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中島一郎 矢口洪一)