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大津地方裁判所 昭和24年(行)14号 判決 1949年11月22日

原告

增田善夫

被告

愛知川町農地委員会

滋賀県農地委員会

滋賀県知事

主文

原告の被告愛知川農地委員会に対する買收計画取消の訴及び被告滋賀縣農地委員会に対する訴願一部棄却の裁決取消の訴はこれを却下する。

原告の被告滋賀縣知事に対する買收処分取消の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告愛知川町農地委員会が原告所有の別紙物件目録記載の農地につき昭和二十三年十一月九日なした買收計画、右買收計画に対して原告がなした訴願について被告滋賀縣農地委員会が昭和二十四年六月三十日なした裁決中原告の訴願を棄却した部分及び被告滋賀縣知事が昭和二十四年七月五日附買收令書の交付によつてなした右農地の買收処分はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求原因として、

被告愛知川町農地委員会は、別紙物件目録記載の農地につき、原告を昭和二十年十一月二十三日現在における不在地主と認定し、昭和二十三年十一月九日農地買收計画を樹立し原告はこれに対し滋賀県農地委員会に訴願したところ、同委員会は昭和二十四年六月三十日その一部を認容し、その余の部分を棄却する裁決を為し、被告滋賀県知事は右買收計画に基き同年七月五日附買收令書を同年同月二十二日原告に交付した。しかし原告は戦時中の疎開先である沼津市から昭和二十年十一月十七日滋賀県愛知郡愛知川町大字山川原三百八番地の現住所に帰住しており不在地主ではなかつたから、本件買收計画、本件裁決中原告の訴願を棄却した部分並びに本件買收処分は、いづれも違法であると述べ訴願棄却の裁決書が昭和二十四年七月十日原告に送逹せられた事実はこれを認めると述べた。

被告愛知川町農地委員会代表者並びに被告滋賀県農地委員会及び滋賀県知事指定代理人等は、原告の各請求はいづれもこれを棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め原告主張の各日に、原告所有の本件農地の買收計画の樹立、訴願、同裁決、買收令書交付がそれぞれ為されたことは認めるしかしながら右訴願裁決書は昭和二十四年七月十日原告に送逹せられ原告はその日に右裁決のあつたことを知つたのであるから、本件買收計画取消の訴並びに本件訴願裁決一部取消の訴はいづれもその日から一箇月の出訴期間内に提起せられねばならないのに、右出訴期間経過後に為された不適法のものである。又買收処分に対しては異議申立又は訴願の途がないことから考えて、買收処分は買收計画の延長ではなくその事務的手続と解すべきであるから、買收処分の違法はその手続上の瑕疵に限らるべきものであり、買收計画の違法を理由として買收処分の取消を求めることはできないと述べた。(立証省略)

理由

原告所有の別紙物件目録記載の農地につき被告愛知川町農地委員会が、昭和二十三年十一月九日買收計画を立て、原告はこれに関し、被告滋賀縣農地委員会に訴願を提起し、同委員会はこれに対し昭和二十四年六月三十日その一部を認めその余の部分を棄却する裁決を爲し、同裁決書は同年七月十日原告に送逹せられ、被告滋賀縣知事は、右買收計画に基き同年七月五日附買收令書を同年同月二十二日原告に交付した各事実は当事者に爭いがない。從つて別段の反証がない本件においては原告は本件訴願裁決書が原告に送逹せられた右七月十日に右裁決のあつたことを知つたものと認めるのが相当である。そうすれば、訴願裁決を経た本件では買收計画取消の訴並に訴願裁決一部取消の訴は共に原告が右裁決のあつたことを知つた前記七月十日から自作農創設特別措置法第四十七條の二第一項本文に規定する一箇月の期間内に、即ち昭和二十四年八月十日までにこれを提起しなければならない。然るに本件買收計画取消の訴並に訴願裁決一部取消の訴は右出訴期間を過ぎた同年同月二十二日に至つて提起せられたものであることは明白であるから不適法として、これを却下すべきものである。次に原告の買收処分取消請求について考えてみるのに買收計画の違法乃至は訴願裁決の違法を以つて、買收処分違法の理由とすることを常に許すとすれば前段認定の如く買收計画取消並びに訴願裁決取消の各訴がその出訴期間を過ぎれば、同計画並びに訴願裁決の違法はもはやこれを爭うことができなくなることゝ矛盾するのみならず、市町村農地委員会の爲す異議に対する決定並びに、同委員会と同樣の構成を有する都道府縣農地委員会の爲す訴願に対する裁決は結局いづれも買收計画の適法性を実質的且つ具体的に再檢討した結果の判断であるのに対し、都道府縣知事の爲す買收処分は都道府縣農地委員会の承認によつて確定した買收計画の存在を前提として爲す形式的事務的な処分であると解するのが、自作農創設特別措置法第八條並びに同法第九條の最もすなおな解釈であつて、農地買收等の実質的決定はこれを專ら農地委員会の権限に委ねたものと解するのが自作農創設特別措置法全体の趣旨に適合するものと考えられるから買收処分の違法はその処分自体の法的瑕疵に限られ、買收計画乃至は、訴願裁決の違法をその理由とすることは許されないと言わねばならない。そうすれば、買收計画乃至は訴願棄却裁決の違法のみをその原因とする本件買收処分取消請求は、その理由がないことになるから失当としてこれを棄却すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(小石 渡島 東)

(目録省略)

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