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大津地方裁判所 昭和48年(む)79号 決定 1973年4月04日

被疑者 川端博

主文

本件勾留請求却下の裁判を取消す。

理由

本件準抗告の申立の趣旨および理由は申立人の準抗告「及び裁判の執行停止」申立書記載のとおりであるから、ここに引用する。

一件記録によれば、本件被疑事件につき、刑事訴訟法第六〇条第一項第二号、第三号に該当する事由ありとして大津地方検察庁より大津地方裁判所に対し勾留請求がなされたところ、冒書裁判官において本件被疑事実を認めるに足る相当な理由があるけれども右勾留請求の前提手続たる現行犯逮捕手続に違法があるとして右勾留請求を却下する旨の裁判をしたことは明らかである。

よつて判断するに、一件記録によれば本件勾留請求書摘示の送致書記載の犯罪事実(脅迫、銃砲刀剣類所持等取締法違反)はこれを認めるに足る相当の理由があることは明らかである。

そこでまず、原裁判指摘の如く、本件勾留請求の前提手続たる本件現行犯逮捕手続が違法であるかどうかにつき検討するに、一件記録によれば、

(一)  被害者である北村正八は右被疑事実のうち模造短刀で脅迫される少し前にも被疑者より同様の手段で脅迫を受けていたうえに、被疑者が前記脅迫犯罪事実のとおりの所為に及んだことから、右北村は身体に危険を感じてその現場である、本件逮捕現場から逃げ出し附近の坂本電停前において一一〇番に急訴したこと、右急訴により警察官が急行し、右北村と同道して同日午後一一時すぎころ右現場に至つたところ、被疑者は依然同所に現在していたこと、しかして北村において、右警察官に対し、被疑者を指示しつつ、自己の被害状況を説明し、同日午後一一時二〇分頃右警察官において現行犯逮捕しようとした際なおも被疑者が右北村に対し「お前のような奴はいつかは必ず殺してやるぞ」などと怒号したことが認められる。

(二)  右事実によれば、なるほど本件犯行後逮捕までの間約一時間二〇分の間隔があるが、他方一件記録によるも被害者の急訴により警察官到着する間に被害者あるいは警察官に時間の無駄をしたためにことさらにおくれたことも認められずさらに前示のように被害者がそれまでに短時間の内に再三脅迫されていたところよりして逮捕に赴いた際同人が相当程度なお畏怖状態にあつたと外観上うかがわれたことがたやすく推認される点と、逮捕時における前記被疑者の脅迫的怒号事実を総合すれば逮捕前の現場の雰囲気から被疑者が本件被疑事実を現に行い終つたことが明らかであつたものと判断されえた状況にあつたものと推認するにかたくない。

そうだとすると本件現行犯逮捕は刑訴法二一二条一項後段の要件を満し適法というべきである。

してみると本件勾留請求を却下した原裁判は失当というべく本件準抗告の申立は理由があるので刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により原裁判はこれを取消すこととし、主文のとおり決定する。

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