大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大津地方裁判所 昭和49年(ワ)151号 決定 1974年11月13日

原告 江坂重夫

右訴訟代理人弁護士 牛田利治

被告 服部設備株式会社

右代表者代表取締役 服部元満

被告 梅棹豊

右訴訟代理人弁護士 河本光平

被告 京都信用金庫

右代表者代表理事 阿南孝士

<ほか二名>

主文

この事件を京都地方裁判所へ移送する。

理由

本件訴状の請求の趣旨・原因の記載に徴し、当裁判所は管轄につき職権をもって左のとおり判断する(なお、被告梅棹の訴訟代理人提出の答弁書には管轄違の抗弁の記載がある。)。

(なお、以下、「被告両名」というときは被告服部設備株式会社と被告梅棹豊を指し、「被告金庫」というときは被告京都信用金庫を指す。)

当裁判所の判断

一、被告三名の普通裁判籍はいずれも当庁の管轄にない。

二、まず、被告両名に対する詐害行為取消の訴についての管轄につき検討する。詐害行為取消の訴については、民訴法五条の適用における義務履行地を債権者住所地とする先例(昭和四〇年一月二八日東京高裁決定・下民集一六巻一号一三三頁)も存するが、右は債権者が詐害行為の取消とともに、受益者又は転得者から直接債権者への給付を求める場合に妥当する見解であって、本件の如く、単に取消の請求にのみ止まる訴は、形成訴訟の性質のみを有するものと解されるから、仮にその訴につき義務履行地を考え得るとしても、それは取消によって形成さるべき法律関係についての義務履行地であり、本件では債権譲渡が取消されることにより、被係争債権の債権者の地位が再び被告会社に復するのであるから、そこに形成される法律関係についての義務履行地は、被告会社の住所地となる。

三、被告金庫に対する請求は、債権者代位権に基づく請求であるがこの場合も義務履行地を債権者住所地とすることには、取立訴訟(民訴六一〇条)の管轄が債務者の提起する訴の裁判籍に従うべきものと解せられていることとの対比において、なお問題の存する余地がないではないが、これをひとまず債権者住所地と解すれば右請求については当庁にも管轄権が存し、民訴二一条の適用を認める限りは、被告両名についても当庁に管轄を生ずることとなる。

四、しかし、民訴二一条を主観的併合訴訟へ無条件に適用するときは、元来管轄原因のない共同被告が、その管轄の利益を奪われることとなるのであるから、被告の一部につき管轄を生ずる地が複数あるとき、その者に対する関係では原告の管轄選択権は自由に行使できるものではあっても、その選択の結果を、元来管轄原因のない他の共同被告との関係においてみた場合、それによってもたらされる原告の利益と、他の共同被告の受ける不利益との比較において、著しく権衡を失するものあるときは、自づと同条の適用が例外的に制約されるものと解するのが相当である。

これを本件についていえば、本件は、

(1)  請求の趣旨・原因から明らかなごとく、原告の被告金庫に対する請求の当否は、原告の被告両名に対する請求が認容されることがまず前提であり、同条を適用するときは、元来管轄原因のない被告両名が、自己との係争からみれば付随的な立場にしかない他の共同被告(被告金庫)に対する関係で漸くに管轄を生ずるに過ぎない裁判所への応訴を義務付けられること。

(2)  請求の趣旨・原因に照らせば、被告両名との紛争(それは前記のとおり被告金庫との間でもまず判断を要するべき事項である。)の証拠は大部分が被告両名の住所地にあると推認され、原告の仮差押と係争の債権譲渡の前後関係などについても京都地裁に係属又は保管中の記録の取調べが必要になることが予想され、京都地裁において審理する方が訴訟経済上、損害又は遅滞を避くるに優れていること。

(3)  他方、原告が当庁で審理を受ける利益は、原告本人の出頭に便宜であるという他、特段の利益は認められない(なお原告は大阪に事務所を有する弁護士を訴訟代理人に選任している)こと。

に徴し、前段説示の同条の適用が例外的に制約される場合にあたるとみるべきである。

五、よって、被告両名については民訴法三〇条一項を、被告金庫については同三一条一項を(前四後段に説示するとおりに事情あるから被告両名と併合して同一裁判所で審理されるのが相当である)適用して、被告三名の普通裁判籍管轄庁である京都地方裁判所へ移送することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 潮久郎)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例