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大津地方裁判所 昭和58年(わ)43号 判決 1989年8月04日

国籍

朝鮮全羅南道宝城郡芦洞面新泉里

住居

滋賀県愛知郡愛知川町大字愛知川七九六番地の七

砂利採取販売業及び遊技業

安田こと安千一

一九三一年一一月六日生

本店所在地

同県近江八幡市千僧供町六二八番地の一

大圭コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

安田こと安千一

右安田こと安千一に対する所得税法違反、法人税法違反、大圭コンクリート株式会社に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官落合俊和出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人安田こと安千一を懲役三年及び罰金二億円に、被告人大圭コンクリート株式会社を罰金五〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人安田こと安千一において、右罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人安田こと安千一に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人安田こと安千一の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人安田こと安千一(以下「被告人」という。)は、滋賀県愛知郡愛知川町大字愛知川七九六番地の七等において、砂利採取販売業、遊技業及び飲食業等を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収支に関する記帳を行わず、遊技業及び飲食業については妻李伸子の事業であるかのように仮装し、また、右各事業により得た所得については仮名又は無記名の定期預金とするなどの方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年分の分離課税の長期譲渡所得を含む実際総所得金額は三億五〇五七万四三三〇円であった(別紙(二)修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和五五年三月八日、同県彦根市立花町五番二〇号所在の彦根税務署において、同税務署長に対し、昭和五四年分の総所得金額は七二〇万円で、これに対する所得税額は八九万五三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億三九七一万二二〇〇円と右申告税額との差額(ただし、パチンコ部門における李伸子名義の申告税額を控除)二億三八四〇万六九〇〇円(別紙(一)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五五年分の実際総所得金額は三億八九七九万八三九四円であった(別紙(三)修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和五六年三月一三日、前記税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額は七九六万円で、これに対する所得税額は一〇六万四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額二億七五三九万一九〇〇円と右申告税額との差額(ただし、パチンコ部門における李伸子名義の申告税額を控除)二億七三九三万二四〇〇円(別紙(一)税額計算書参照)を免れ、

三  昭和五六年分の実際総所得金額は四億三七九三万七〇一〇円であった(別紙(四)修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和五七年三月一〇日、前記税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の総所得金額は七七九万円で、これに対する所得税額は九二万八一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額三億一一六五万九九〇〇円と右申告税額との差額(ただし、パチンコ部門における李伸子名義の申告税額を控除)三億一〇二七万二七〇〇円(別紙(一)税額計算書参照)を免れ、

たものである。

第二  被告人大圭コンクリート株式会社(以下「被告会社」という。)は、滋賀県近江八幡市千僧供町六二八番地の一に本店を置き、生コンクリートの製造販売等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人は同会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を正規の帳簿に記載せず除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は一六三〇万七七九九円であった(別紙(六)修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和五五年一一月二九日、同市桜宮町二四三番地の二所在の近江八幡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は五六二万一六一九円で、これに対する法人税額は一二七万九五〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五三八万八四〇〇円と右申告税額との差額四一〇万八九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は五〇八一万八三九二円であった(別紙(七)修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和五六年一一月三〇日、前記近江八幡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額は一三四一万六〇一七円で、これに対する法人税額は四二九万六二〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二〇〇〇万五一〇〇円と右申告税額との差額一五七〇万八九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の検察官に対する昭和五八年二月二六日付供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和五七年一一月一二日付質問てん末書

判示第一の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第七回、八回、二八回及び二九回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官に対する昭和五八年二月九日付、同月二〇日付、同月二二日付及び同月二五日付各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書五通(昭和五七年一一月一二日付を除く。)

一  証人趙南聖及び同青木茂の当公判廷における各供述

一  第三回、五回、一六回及び一七回公判調書中の証人國本武こと李愚京の各供述部分

一  第四回及び六回公判調書中の証人李伸子の各供述部分

一  第一二回公判調書中の証人寺谷雄児の供述部分

一  第一五回、一八回及び二四回ないし二八回公判調書中の証人菊井昭秀の各供述部分

一  第二一回公判調書中の証人桂田光三郎の供述部分

一  第二二回公判調書中の証人青木茂の供述部分

一  安田こと李伸子(昭和五八年二月一四日付、同月一六日付及び同月一七日付(いずれも抄本提出))、瀬尾仁、遠藤茂治、田村吉輝(二通)、佐々木昭一こと金東植、國本武コト李愚京(昭和五八年二月一五日付、同月一八日付(検甲二〇一号証)、同月一九日付、同月二〇日付、同月二三日付(検甲二〇八号証)及び同月二六日付(検甲二一七号証)(検甲二〇一号証を除いていずれも抄本提出))及び青木茂(三通、昭和五八年二月二八日付は抄本提出)の検察官に対する各供述調書

一  秦年一、奥田秀夫、中島道子、川村粂雄、太田三千人、畝田恒三、澤井孫一(三通)、中村基坤(二通)、中村基東、山谷治夫、林孝三、大中武二、橋本善雄、南勝三(二通)、芳井林之丞、松山勝義、桂田光三郎、中村利雄、川嶋治良、藤森健雄、重田幸昭、松宮半七、青木美佐子、正木勉、池本善七及び川本義雄の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官寺谷雄児作成の昭和五七年一二月一七日付、昭和五八年一月二一日付(二通)、同年二月二四日付(二通)及び同月二六日付各査察官調査書

一  大蔵事務官藤本昌輝作成の昭和五七年一二月三日付、同月八日付、同月一一日付及び同月一八日付(二通)各査察官調査書

一  大蔵事務官荒牧幹雄作成の昭和五八年二月一二日付及び同月二二日付各査察官調査書

一  大蔵事務官丸尾真一作成の昭和五七年一一月一二日付、同月一六日付(二通)、同月一八日付(二通)、同年一二月八日付、同月一四日付、昭和五八年二月一日付(二通)及び同月七日付各査察官調査書

一  大蔵事務官深山二男作成の昭和五七年一一月二日付、同月二二日付、同年一二月三日付、同月一三日付及び同月二七日付各査察官調査書

一  大蔵事務官前田八郎作成の昭和五八年一月三一日付及び同年二月一日付各査察官調査書

一  大蔵事務官中谷英適作成の昭和五八年一月二二日付(検甲五七号証)、同年二月一五日付(検甲四三号証)、同月二六日付及び同月二八日付(検甲四〇号証)各査察官調査書

一  大蔵事務官中川淳作成の昭和五八年二月八日付査察官調査書

一  大蔵事務官前田八郎ほか一名作成の昭和五八年一月二二日付及び同月三〇日付各査察官調査書

一  大蔵事務官河野道有作成の昭和五七年一二月八日付、同月九日付(二通)及び同月一一日付(三通)各査察官調査書

一  大蔵事務官前田延成作成の昭和五七年一二月一日付査察官調査書

一  大蔵事務官松田千晴作成の昭和五七年一一月一五日付、同月二〇日付、同年一二月二七日付、昭和五八年一月一九日付、同月二一日付(二通)、同月二二日付、同年二月一六日付、同月一八日付、同月二二日付及び同月二四日付各査察官調査書

一  大蔵事務官足立譲作成の査察官調査書

一  大蔵事務官斎藤毅作成の査察官調査書

一  大蔵事務官藤本昌輝作成の査察官調査報告書

一  大蔵事務官寺谷雄児作成の脱税額計算書説明資料

一  検察事務官作成の電話聴取書(検甲一〇号証)

一  菊井昭秀(昭和五八年二月一一日付)、國本武(昭和五七年一一月四日付及び同月一八日付)、竹中重信、豊山斗哲(検甲一三四号証)、青木美佐子、島田健太郎、椎葉寅三郎、川本義雄、三戸康宣及び池本善己作成の各確認書

一  園田幸男(二通)及び武藤勝(二通)作成の各証明書

一  登記簿謄本四通(検甲二七四、二七五号証及び弁書二二号証の一、二)

一  滋賀県公安委員会作成の風俗営業許可証

一  李伸子作成の風俗営業許可更新申請書(二通)及び風俗営業許可証返納届(二通)

一  青木茂作成の借入申込書(写)

一  水田商事株式会社代表取締役水田和男ほか二名作成の不動産売買契約書

一  在日朝鮮人商工連合会規約

一  在日本朝鮮人滋賀県商工会作成の回答書(弁書二七号証)

一  注文書及び売上勘定元帳(写)(弁書四号証の一、二、五、一七、二三、三九ないし四一、四三ないし四六、四九、五一及び七三)

一  売上勘定元帳(写)(弁書四号証の三、四、六ないし一六、一八ないし二二、二四ないし三八、四二、四七、四八及び五二ないし七二)

一  木村正、奥井治(検甲一一九、一二〇号証)、坂口榮三、山梶忠治、谷口弘、橋口隆夫、浅野高子、小野あや子、吉住雄幸及び赤堀常二作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する各書面

一  安達輝美作成の「水道料金の支払状況の照会に対する回答書」と題する書面

一  服部良雄作成の「電気料金等の支払状況の照会に対する回答書」と題する書面

一  松吉桂三及び田口茂作成の「電話料金の支払状況の照会に対する回答書」と題する各書面

判示第一の一、二の事実について

一  西川竣治の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官丸尾真一作成の昭和五八年二月一二日付査察官調査書

一  奥井治(検甲一二六、一二七号証)、浅原暁美及び森正博作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する各書面

一  押収してある昭和五一年手帳一頁(昭和六二年押第七三号の二二)

判示第一の一、三の事実について

一  大蔵事務官中谷英適作成の昭和五八年二月一五日付査察官調査書(検甲四一号証)

一  押収してある自動車運搬日報綴一綴(昭和六二年押第七三号の五)

判示第一の一の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和五八年二月二四日付供述調書(検乙一三号証)

一  大蔵事務官深山二男作成の昭和五七年一二月一八日付及び昭和五八年二月二四日付各査察官調査書

一  彦根税務署長作成の証明書二通(検甲四、七号証)

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の会費及び特別会費受取証(弁書一八号の一)

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の商工会運営会費領収証(控)(弁書一九号の一)

一  辻川加代、柿田まさ、天野正清及び佐藤利正作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する各書面

一  押収してある売上元帳二葉(昭和六二年押第七三号の二)、自動車運搬日報綴一綴(同押号の三、四)、ドーザーショベル作業日報、自動車運搬日報綴一綴(同押号の六)、売上帳一葉(同押号の八、一二、七三、七四及び七九)、売上元帳一葉(同押号の一一)、売上帳四葉(同押号の一三)、売上帳二葉(同押号の七五)、売上帳三葉(同押号の七六、七七)、売上帳九葉(同押号の七八)、五四年度傭車台帳中の佐々木コンクリート分一一葉(同押号の一二四)及び売上帳五葉(同押号の一二五)

判示第一の二の事実について

一  彦根税務署長作成の証明書二通(検甲五、八号証)

一  豊山斗哲作成の確認書(検甲一三三号証)

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の会費及び特別会費受取証(弁書一八号の二)

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の商工会運営会費領収証(控)(弁書一九号の二)

一  里川精子作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する書面

一  浅原工業株式会社作成の元帳(写)

一  押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の七、八〇、八一、八四、八六及び九二)、売上帳五葉(同押号の八七)、売上帳二葉(同押号の九三)及び売上帳一葉(同押号の九五)

判示第一の二、三の事実について

一  大蔵事務官丸尾眞一作成の昭和五七年一一月一五日付査察官調査書

一  吉沢敏子作成の照会事項に対する回答書

一  竹島傳之助及び永井剛作成の各確認書

一  灰谷良三及び渡辺増雄作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する各書面

一  押収してある昭和五一年手帳一頁(昭和六二年押第七三号の二三)

判示第一の三の事実について

一  秋村田津夫及び藤崎英治の検察官に対する各供述調書

一  三橋敏雄及び長井耕治の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  彦根税務署長作成の証明書二通(検甲六、九号証)

一  大蔵事務官丸尾眞一作成の昭和五七年一二月一六日付及び昭和五八年二月二八日付各査察官調査書

一  大蔵事務官寺谷雄児作成の昭和五八年二月二三日付査察官調査書

一  大蔵事務官前田八郎作成の昭和五八年二月二一日付査察官調査書

一  大蔵事務官中谷英適作成の昭和五八年一月二二日付(検甲五八号証)及び同年二月二四日付各査察官調査書

一  大蔵事務官深山二男作成の昭和五七年一二月一〇日付査察官調査書

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の会費及び特別会費受取証(弁書一八号の三)

一  在日朝鮮人滋賀県商工会作成の商工会運営会費領収証(控)(弁書一九号の三)

一  奥井治(検甲一二八号証)、橋詰文五郎、奥村日出夫、深尾英二、(株)三星、樋口進、中谷伸雄、柴田勉及び川上万里子作成の「取引状況の照会に対する回答」と題する各書面

一  上山孝作成の確認書

一  押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の九、一四ないし二〇)、売上帳三葉(同押号の一〇、一〇一)、計算メモ一葉(同押号の二一)、昭和五七年手帳一頁(同押号の二五)、黄色の広告の裏のメモ一枚(同押号の二六)、売上帳一葉(同押号の九九、一〇二、一一五ないし一一八)、売上帳五葉(同押号の一〇〇)、売上帳一四葉(同押号の一〇三)、売上帳二葉(同押号の一〇五)及び秋村組の用紙に北里地区小田第五工区工事等についての記載がされているメモ一枚(同押号の一二六)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和五八年二月二四日付供述調書(検乙一四号証)

一  大蔵事務官丸尾眞一作成の昭和五八年三月一日付査察官調査書

一  大蔵事務官中谷英適作成の昭和五八年二月二八日付査察官調査書五通(検甲四〇号証を除く。)

一  近江八幡税務署長作成の証明書二通(検甲二四五、二四六号証)

一  検察事務官作成の電話聴取書(検甲二四四号証)

一  大圭コンクリート株式会社の登記簿謄本

一  大蔵事務官藤本昌輝作成の脱税額計算書説明資料

判示第二の一の事実について

一  近江八幡税務署長作成の証明書(検甲二四二号証)

判示第二の二の事実について

一  近江八幡税務署長作成の証明書(検甲二四三号証)

(弁護人の主張に対する判断)

第一砂利部門の架空売上げについて

一  弁護人は、別紙(八)のとおり、被告人の有限会社桂甚(以下「桂甚」という。)、株式会社大中組(以下「大中組」という。)及び株式会社秋村組(以下「秋村組」という。)に対する各売上げ中には架空売上げが存在するので、同架空売上げを売上げから控除すべきであると主張する(なお、弁護人は、架空売上げの日及び金額を、桂甚及び大中組については水増請求の日及び金額で、秋村組については返金の日及び金額で主張している。)。

よって、以下、弁護人が主張する各架空売上げについて検討する。

二  桂甚に対する架空売上げについて

1 昭和五四年一一月請求に係る一一一万一〇〇〇円の架空売上げについて

関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳二葉(昭和六二年押第七三号の二)、自動車運搬日報綴一綴(同押号の三ないし五)及びドーザーショベル作業日報・自動車運搬日報綴一綴(同押号の六)によれば、被告人は、昭和五四年一一月二〇日、桂甚に対し、ズリ代金等として二五二万五二〇〇円を請求したこと、昭和五四年一一月二〇日付売上元帳(同押号の二)の記載のうち、同月三日、五日ないし八日の売上げの記載は鉛筆書きで(ただし、同月七日の「イナエ高田、能登川、ユンボ、回送、一回、八〇〇〇、八〇〇〇」の分を除く。)、その余の売上げの記載はペン書きであること(右鉛筆書きの売上げを合計すると一一一万一〇〇〇円となる。)、また、被告人は、通常、運転手等が作成した自動車運搬日報に基づいて売上元帳を記帳するところ、右ペン書きの分についてはその記載に対応した自動車運搬日報があるのに対して、右鉛筆書きの分については自動車運搬日報がないことが認められ、これらの事実を総合するならば、売上元帳のうえで、真実の売上げと架空売上げとを区別するために、それぞれペン書きと鉛筆書きとで書き分けたとする証人菊井昭秀の公判廷における供述もそれなりに合理的である(加えて、関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳二葉(昭和六二年押第七三号の二)及び五四年度傭車台帳中の佐々木コンクリート分一葉(同押号の一二四)によれば、売上元帳(同押号の二)には「一一月六日、橋本、能登川、一八四〇、ズリ、六台、一一〇〇〇、六六〇〇〇」、すなわち車番一八四〇のダンプカーが、一一月六日に橋本建設から仕入れたズリ(山土)を能登川まで六回搬入したことを意味する鉛筆書きの記載が、また、その一方で、五四年度傭車台帳中の佐々木コンクリート分(同押号の一二四)には「一一・六、山砂土場渡、一八四〇、七台、四三〇〇、三〇一〇〇」、すなわちその一一月六日に同じダンプカーが佐々木コンクリートの山砂採取場(貴生川)に山砂を七回引取りに行ったことを意味するペン書きの記載がそれぞれ認められるが、この両者が果たして両立するものであるかは疑いが残るところ、右ペン書きの記載についてはこれが架空のものであるとの証拠がないことからして、この一例をみても、右売上元帳の鉛筆書きの記載に係る取引が実際にあったのか甚だ疑問であるといわざるを得ないのである。)。

もっとも、関係各証拠によれば、被告人の砂利部門における経理全般を担当していた菊井昭秀(以下「菊井」という。)は、捜査段階において、被告人には若築建設(及び今井建設)に対する売上げ中に架空売上げがあったものの、これ以外に架空売上げはないと供述していたことが認められるところ、若築建設についての架空売上げについては既に供述していたのであるから、外にも架空売上げがあったのであれば、被告人に有利となる架空売上げの事実を供述しなかった点で不自然、不合理は否めないが、桂甚に対する架空売上げを捜査段階で供述しなかった理由について、菊井が、第一八回公判調書中の証人菊井昭秀の供述部分において供述するところ、すなわち若築建設(及び今井建設)が大手の一部上場企業であるのに対して、桂甚は地元の企業であり、同社との爾後の取引を考えると、同社に対して架空売上げがあることを明らかにして同社に迷惑を掛けることはできないと思った、との理由はそれなりに理解できないでもない。

そうしてみれば、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠がないことからも、前記鉛筆書きに係る売上げ(合計一一一万一〇〇〇円)は架空売上げではないかとの合理的な疑いが残るので、これを売上げから控除するのが相当である。

2 昭和五五年三月請求に係る一六五万円の架空売上げについて

関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の七)及び売上帳一葉(同押号の八)によれば、被告人は、桂甚に対し、昭和五五年三月二〇日付で能登川猪子盛土工事につき三八五万円を請求したこと、売上元帳(同押号の七)には、同工事について「二二〇万安田・一六五万仮」と鉛筆書きで付記されていること、「桂甚殿(能登川)」と頭書のある売上帳(同押号の八)(一一月二九日から一二月二一日までの分)には、鉛筆書きで「一五四〇M3×一四〇〇=二一五六〇〇〇」との記載があることが認められる。

ところで、右各記載の意味をそれ自体から判断することは極めて困難であるといわざるを得ないが、被告人及び菊井は、公判廷において、売上帳(同押号の八)は日々の売上げを記帳したものであるところ、同売上帳の「一五四〇M3×一四〇〇=二一五六〇〇〇」との記載は、能登川猪子盛土工事が終了した後、被告人が昭和五四年一一月二九日から同年一二月二一日までの間に能登川の工事現場に搬入したズリの代金等を試算したものであり、また、売上元帳(同押号の七)の「二二〇万安田・一六五万仮」との記載は、右試算をもとに、桂甚と交渉した結果、二一五万六〇〇〇円の端数を切り上げて実際の売上げを二二〇万円と決定し、一六五万円が架空売上げであることを明らかにするために鉛筆でメモをしたものであると供述するが、この供述に特段不自然な点は認められないし、右供述を左右するに足りる証拠もない。

そうすると、右一六五万円については架空売上げではないかとの合理的な疑いが残るので、これを売上げから控除するのが相当である。

3 昭和五六年一一月請求に係る二九四万三六〇〇円の架空売上げについて

関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の九)及び売上帳三葉(同押号の一〇)によれば、被告人は、桂甚に対し、昭和五六年一一月三〇日付で山路盛土工事につき一三〇〇万円を請求したこと、「桂甚殿(山路)」と頭書のある売上帳(同押号の一〇)(昭和五六年四月一五日から同年一一月一四日までの分)の三葉目には、鉛筆書きで「一二/二〇済・八六五台×七・五M3=六四八八M3×一五五〇=一〇〇五六四〇〇」と記載のあることが認められる。

ところで、前記2の場合と同様に、右記載の意味をそれ自体から判断することは極めて困難であるといわざるを得ないが、被告人は、第二八回及び二九回公判調書中の被告人の各供述部分において、売上帳(同押号の一〇)の右記載は、昭和五六年一二月二〇日に被告人と桂甚とが交渉した結果、同年四月一五日から同年一一月一四日までの間に山路の工事現場に搬入したズリの代金等を一〇〇五万六四〇〇円と決定したもので、これが実際の売上額であり、請求金額一三〇〇万円との差額二九四万三六〇〇円は架空売上げであると供述する。

被告人の右供述によれば、関係各証拠により認められる架空請求の手続、すなわち相手方と実際の売上額を決定した後、架空売上分を水増しして相手方に請求するという手続からみて、この場合には、請求日(一一月三〇日)が実際の売上額を決定した日(一二月二一日)より前になっている点で不自然であると考えられないでもないが、被告人の公判廷における供述によれば、被告人は、工期(本工事では、昭和五六年四月一五日から同年一一月一四日まで)の関係で、同年一一月三〇日付で請求したに過ぎず、外にも被告人が相手方と実際の売上額を決定した後、相手方の要望により、架空売上げを含む水増請求をする時点で、日をさかのぼらせて請求書の日付けを記載したことがあったことが認められるから、この事実も被告人の前記供述を左右するものとはいえず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

そうすると、右二九四万三六〇〇円については架空売上げではないかとの合理的な疑いが残るので、これを売上げから控除するのが相当である。

三  大中組に対する架空売上げについて

1 昭和五四年六月請求に係る一六三〇万円の架空売上げについて

関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の一一)、売上帳一葉(同押号の一二)及び売上帳四葉(同押号の一三)によれば、被告人は、大中組に対し、昭和五四年六月二〇日付で出在家クリーク及び道路工事(盛土)につき二四八〇万円の請求をしたこと、売上帳(同押号の一二)及び売上帳(同押号の一三)は、いずれも「大中組殿(出在家)」と頭書がある継続したものであって、売上帳(同押号の一二)は昭和五三年七月二六日から同年九月二日までの分、売上帳(同押号の一三)は同日から昭和五四年五月二五日までの分を記載したものであること、売上帳(同押号の一二)の昭和五三年八月三一日分の記載と同年九月一日分の記載との堺には赤鉛筆で太い線が引かれ、かつ、右赤線のすぐ上には「八/三一済」と鉛筆で記載されていること、売上帳(同押号の一三)の末尾には鉛筆書きで計算式とともに「九/二済・八五〇〇〇〇〇」と記載のあることが認められる。

ところで、やはり右各記載の意味をそれ自体から判断することは極めて困難であるといわざるを得ないが、被告人は、第二八回公判調書中の被告人の供述部分において、売上帳(同押号の一三)の右記載は、昭和五四年九月二日に被告人と大中組とが交渉の結果、昭和五三年九月一日から昭和五四年五月二五日までの間に出在家の工事現場に搬入したズリの代金等を八五〇万円と決定したもので(なお、右売上帳の右記載のすぐ上に記載された計算式及びそれを合計した八五四万四五〇〇円は、被告人が仕入れたズリの代金及び搬入に要した運賃等を合計した概算の結果である。)、これが実際の売上額であり、請求金額二四八〇万円との差額一六三〇万円は架空売上げであると供述する。

被告人の右供述によれば、被告人は、大中組との間で、いわば仕入原価を割って売上額を決定したことになるが、第二八回公判調書中の被告人の供述部分によれば、被告人は、原価を割って売上額を決定したこともあることが認められ、継続的な取引にあってはかかる事態もあながち考えられないではないから、この事実をもって被告人の右供述を左右するものとは認め難く、また、請求日が実際の売上額を決定した日より前になっている点も前述のとおりであって格別不自然なものとはいえず、他に被告人の前記供述を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、右一六三〇万円については架空売上げではないかとの合理的な疑いが残るので、これを売上げから控除するのが相当である。

2 昭和五六年四月請求に係る五〇〇万円の架空売上げについて

関係各証拠、とりわけ押収してある売上元帳一葉(昭和六二年押第七三号の一四ないし二〇)及び計算メモ一葉(同押号の二一)によれば、被告人は、大中組に対し、昭和五六年四月三〇日付で合計二七〇〇万円(能登川南部第一工区につき一二〇四万円、能登川南部第二工区につき八六万円、能登川南部3号送水路につき三五四万円、能登川中部躰光寺工区につき三八二万円、土地総につき二六八万円、県道(出在家)につき四〇八万円、以上の合計二七〇二万円から二万円を値引きしたもの)を請求したこと、計算メモ(同押号の二一)(大中組の用紙)の上段には「米原二一〇二台×九五〇〇=一九九六九〇〇〇、栗東二五五T九〇〇×八〇〇=二〇四〇七二〇、計二二〇〇九七二〇≒二二〇〇〇〇〇〇」(なお、栗東「二五五〇T九〇〇」の誤記と認められる。)との記載が、また下段には「能登川南部第一工区一二〇四台、第二工区八六台、3号送水路三五四台、中部躰光寺工区三八二台、土地総二六八台、県道(出在家)四〇八台、計二七〇二台×一〇〇〇〇=二七〇二〇〇〇〇≒二七〇〇〇〇〇〇」との記載があることがそれぞれ認められる。

ところで、右各記載の意味について、被告人は、第二八回公判調書中の被告人の供述部分において、右メモの上段は実際の売上げで、他方、下段は被告人と大中組とが交渉の結果、大中組から依頼を受けた請求明細であって、請求金額二七〇〇万円と実際の売上額二二〇〇万円との差額五〇〇万円が架空売上げであると供述する。

しかしながら、前記メモの上段の記載と下段の記載とがいかなる関係にあるのかがその記載からは全く明らかでないうえ、この点についての被告人の記憶は不正確で、供述自体あいまいであるし、また、両者の関係について被告人の供述を裏付ける的確な証拠もないから、右メモの上段の記載と下段の記載とを被告人が供述するように結び付けて考えることはできないというべきである。

したがって、右五〇〇万円が架空売上げであるとは到底認められず、真実の売上げであると解するのが相当である。

四  秋村組に対する架空売上げについて

1 関係各証拠、とりわけ押収してある昭和五一年手帳一頁(昭和六二年押第七三号の二二、二三)、昭和五七年手帳一頁(同押号の二五)及び黄色の広告の裏のメモ一枚(同押号の二六)によれば、昭和五一年手帳(同押号の二二)の一月二一日、・二二日の欄には「秋村組、二千万、五四・一・一八」、一月二二日の欄には「秋村組、五四・一〇・二、二〇〇〇〇〇〇、五四・一二・二六、二〇〇〇〇〇〇、五五・二・二〇、二〇〇〇〇〇〇〇」と、昭和五一年手帳(同押号の二三)の一二月一日の欄には「秋村組、五五・八・一九、三〇〇〇〇〇〇、一二・四、二〇〇〇〇〇〇、五六・三・二三、二〇〇〇〇〇〇〇」と、黄色の広告の裏のメモ(同押号の二六)には「九/二八支払・三二八〇〇〇〇、一二/五支払・二三〇〇〇〇〇〇」と、また昭和五七年手帳(同押号の二五)の一二月二五日の欄には「秋村組、西中、五六・一一・二〇、一五〇〇〇〇〇〇、一回目(調整分)」とそれぞれ記載があることが認められるが、右各記載の意味について、被告人は、第二九回公判調書中の被告人の供述部分において、昭和五七年手帳(同押号の二五)の一二月二五日の欄に書かれた「秋村組、西中、五六・一一・二〇、一五〇〇〇〇〇〇、一回目(調整分)」の記載を除き、被告人が秋村組に架空売上分を返金した日及び金額をメモしたものであると供述する。

2 一方、関係各証拠、とりわけ押収してある売上帳一葉(昭和六二年押第七三号の七三、七四、七九、九五、九九、一〇二及び一一五ないし一一八)、売上帳二葉(同押号の七五、九三及び一〇五)、売上帳三葉(同押号の七六、七七及び一〇一)、売上帳五葉(同押号の八七、一〇〇)、売上帳九葉(同押号の七八)、売上帳一四葉(同押号の一〇三)及び売上元帳一葉(同押号八〇、八一、八四、八六及び九二)によれば、

(一) 売上帳(同押号の七三)(「秋村組殿」と頭書がある。)には昭和五四年五月分として「城南・四六〇〇〇〇〇」と、また、売上帳(同押号の七五)(「秋村組殿」(安土(城南工事現場の地名))と頭書があり、昭和五三年六月二八日の分から同年七月一〇日の分までを記載したもの)二葉の末尾には「六/五・三六〇〇〇〇〇・済」とそれぞれ記載があること

(二) 売上帳(同押号の七四)(「秋村組殿」と頭書がある。)には昭和五四年五月分として「佐波江・七〇〇〇〇〇〇」と、また、売上帳(同押号の七六)(「秋村組殿」(佐波江)と頭書があり、昭和五三年七月一二日の分から同年一二月二六日の分までを記載したもの)三葉の末尾には「六/五・六〇〇〇〇〇〇・済」とそれぞれ記載があること

(三) 売上帳(同押号の七四)には昭和五四年五月分として「鵜川・八五〇〇〇〇〇」と、また、売上帳(同押号の七七)(「秋村組殿」(鵜川)と頭書があり、昭和五三年八月三〇日の分から昭和五四年三月五日の分までを記載したもの)三葉の末尾には「六/五・七五〇〇〇〇〇・済」とそれぞれ記載があること

(四) 売上帳(同押号の七四)には昭和五四年五月分として「野村・二六〇〇〇〇〇〇」と、また、売上帳(同押号の七八)(「秋村組殿」(野村)と頭書があり、昭和五三年七月二五日の分から昭和五四年四月七日の分までを記載したもの)九葉の末尾には「六/五・一八〇〇〇〇〇〇・済」とそれぞれ記載があること

(五) 売上帳(同押号の七四)には昭和五四年五月分として「蓮花寺・二八九〇〇〇〇」と、また、売上帳(同押号の七九)(「秋村組殿」(蓮花寺)と頭書があり、昭和五三年一〇月一九日の分から同年一一月二三日の分までを記載したもの)の末尾には「六/五・一八九〇〇〇〇・済」とそれぞれ記載があること

(六) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年一月二〇日付で北里第二工区盛土及び掘削工事(第一回請求分)につき七〇〇万円を請求したこと

(七) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年一月二〇日付で新畑ポンプ場掘削及び残土処分工事(第一回請求分)につき一〇〇〇万円を請求したこと、売上帳(同押号の八七)(「秋村組(西松建設)殿」(新畑)と頭書があり、昭和五三年一一月三日の分から昭和五四年一二月二六日の分までを記載したもの)五葉の末尾には「一〇〇〇〇〇〇〇-一五三〇〇〇〇=八四七〇〇〇」と記載があること(なお、右計算式によると、「八四七〇〇〇」は「八四七〇〇〇〇」の誤記であると認められる。)

(八) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年三月二〇日付で北里第二工区盛土及び掘削工事(第二回請求分)につき五〇〇万円を請求したこと

(九) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年三月二〇日付で薬師盛土・掘削工事(第一回請求分)につき一〇〇〇万円を請求したこと

(一〇) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年六月二〇日付で幹排二工区工事につき一六五三万〇九四〇円をを請求したこと、売上帳(同押号の九三)(「秋村組殿」(北里)(幹排二工区工事現場の地名)と頭書があり、昭和五四年一〇月三〇日の分から昭和五五年三月二八日の分までを記載したもの)二葉の末尾には「回送五五五〇〇〇〇、小運搬五八四〇〇〇、ズリ四一三一三六」と記載があること(右売上帳に記載された三つの数字を合計すると六五四万七一三六となる。)

(一一) 被告人は、秋村組に対し、昭和五五年六月二〇日付で八信造成工事につき二四〇万円を請求したこと、売上帳(同押号の九五)(「秋村組殿」(江頭)(八信造成工事現場の地名)と頭書があり、三月三日の分から六月六日の分を記載したもの)の末尾には「ズリ一二〇一六八二+重機一七八〇〇〇=一三七九六八二≒一四〇〇〇〇〇」と記載があること

(一二) 売上帳(同押号の一〇〇)(「秋村組殿」(小田四工区)と頭書があるもの)には昭和五六年一月分として「小田四工区搬入盛土一式・三〇〇〇〇〇〇〇、掘削盛土処分・四〇〇〇〇〇〇」、昭和五六年二月分として「北里地区小田第四工区掘削、盛土工事・一八五〇〇〇〇〇」と、売上帳(同押号の九九)(「秋村組殿」(小田三工区)と頭書があるもの)には昭和五六年二月分として「北里地区小田三工区盛土工事・五二〇〇〇〇〇」と、売上帳(同押号の一〇一)(「秋村組殿」(五工区)と頭書があるもの)には昭和五六年二月分として「北里地区小田第五工区掘削、盛土工事・一五七〇〇〇〇〇」と、売上帳(同押号の一〇二)(「秋村組殿」(野村八工区)と頭書があるもの)には昭和五六年二月分として「北里地区野村8、10工区工事・七八〇〇〇〇〇」との各記載がある(右数字をすべて合計すると八一二〇万となる。)が、売上帳(同押号の一〇三)(「秋村組殿」(小田)と頭書があるもの)一四葉の末尾には「二五七一〇M3×一五〇〇=三八五六五〇〇〇・済」と、売上帳(同押号の一〇五)(「秋村組殿」(小田四工区残土)と頭書があるもの)二葉の末尾には「一五五〇〇M3×四〇〇=六二〇〇〇〇〇」との各記載があること(右数字を合計すると四四七六万五〇〇〇となる。)

(一三) 売上帳(同押号の一一五)(「秋村組殿」(正尺)と頭書があるもの)には「昭和五六年一一月二〇日・正尺造成工事・一〇八〇〇〇〇〇」と記載があること

(一四) 売上帳一葉(同押号の一一六)(「秋村組殿」(西中)と頭書があるもの)には「昭和五六年一一月二〇日・西中造成工事第一回・一五〇〇〇〇〇〇」と記載があること

(一五) 売上帳(同押号の一一七)(「秋村組殿」(出町)と頭書があるもの)には昭和五六年一二月分として「出町造成工事・三一〇〇〇〇〇」と、売上帳(同押号の一一八)(「秋村組殿」(出町)と頭書があり、昭和五六年三月二四日の分から同年四月二三日の分までを記載したもの)の末尾には「一八二〇〇〇〇・一二/二〇・済」とそれぞれ記載があること

以上の事実が認められるが、右各記載の意味について、第二五回ないし二八回公判調書中の証人菊井昭秀の各供述部分において、同証人は、(一)ないし(五)、(七)、(一〇)、(一一)、(一二)及び(一五)についてはその差額が、また、(六)、(八)、(九)、(一三)及び(一四)についてはその明細を記載した帳簿がないから全額が架空売上げであると供述する(もっとも、大蔵事務官寺谷雄児作成の昭和五八年一月二一日付査察官調査書(検甲一一号証)によれば、右のうち、昭和五四年五月佐波江及び蓮花寺の各工事については昭和五三年度売上げとして昭和五四年度の売上げから除算され、また、昭和五六年一一月二〇日正尺造成工事及び西中造成工事並びに昭和五六年一二月出町造成工事については期末未成工事として昭和五六年度の売上げから除算されていることが認められるから、仮に右各売上げが架空売上げであるとしても、これらを本件売上げから更に控除することは相当でない。また、大蔵事務官寺谷雄児作成の脱税額計算書説明資料及び昭和五八年二月二六日付査察官調査書、秋村田津夫の検察官に対する供述調書並びに押収してある秋村組の用紙に北里地区小田第五工区工事等についての記載がされているメモ一枚(昭和六二年押第七三号の一二六)によれば、検察官は、被告人の秋村組に対する昭和五六年二月請求に係る小田第五工区(一五七〇万円)、小田第四工区(一八五〇万円)、野村8、10工区(七八〇万円)及び小田第三工区(五二〇万円)の工事について、そのうち一〇〇〇万円を架空売上げと認定し、既にこれを同年度の売上げから控除しているのであるから、前記(一二)につき弁護人の主張全額を控除することはできない。さらに、押収してある売上帳五葉(昭和六二年押第七三号の一二五)によれば、同売上帳(「秋村組殿」(野村クリーク)と頭書があり、昭和五三年八月二日の分から昭和五四年一月一九日の分までを記載したもの)の末尾には「六/五・一二〇〇〇〇〇〇・済」との記載があることが認められるが、この工事名、工事時期及び右売上帳末尾の記載等を考慮すると、昭和五四年五月二〇日付請求に係る架空売上げ(前記(一)ないし(五))であると弁護人が主張する金額一二〇〇万円は、この「野村クリーク」の売上分であると認めるのが相当であるから、架空売上げでないことは明らかである。)。

3 以上のとおり、被告人あるいは証人菊井は、公判廷において、一方で被告人の手帳のメモ等に基づいて架空売上げに係る返金の日及び金額を供述し、他方で売上帳等の帳簿の記載に基づいて架空売上げを含む水増請求の日及び金額を供述するのであるが、関係各証拠によれば、架空売上げの場合、被告人において相手方との合意による架空売上げを含めた水増請求(毎月二〇日締めで請求)を行い、支払日(秋村組の場合には翌月一〇日)に相手方からその全額をいったん受領した後、被告人が相手方の請求に応じて架空売上分を返金する(なお、被告人は、当公判廷において、通常は水増請求の後一か月ないし五か月の間に、遅くとも半年の間には架空売上分を返金すると供述する。)という経過をたどることが認められるから、水増請求の日及び金額と返金の日及び金額との間には関連性がなければならないはずである(もっとも、被告人は、当公判廷において、相手方からの要望により架空売上分を全額一括ではなく、少しずつ返金していくこともあると供述する。しかし、そうであっても、遅くとも半年のうちには、その架空売上分全額、少なくともその大部分が返金されるべきことになる。)。

そこで、以下、前記返金の日及び金額と水増請求の日及び金額との間に関連性があるか否かを検討する。

(一) 昭和五四年一月一八日返金に係る二〇〇〇万円の架空売上げについて

被告人の右供述を前提にするならば、被告人が秋村組に対して昭和五四年一月一八日返金に係る二〇〇〇万円(ないしは二〇〇〇万円以上)の水増請求をしたのは、少なくとも昭和五三年一二月二〇日以前ということになり、仮に右架空売上げが真実あったとしても、その分は昭和五三年度の売上げに含まれているものと認められるから、これを本件売上げから控除するのは相当でないというべきである。

(二) 昭和五四年一〇月二日返金に係る二〇〇万円及び同年一二月二六日返金に係る二〇〇万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五四年一〇月二日返金に係る二〇〇万円及び同年一二月二六日返金に係る二〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、昭和五四年五月二〇日請求分以外に考え難いが、そうすると、同日請求に係る架空売上げの合計が一二〇〇万円であるにもかかわらず、返金は四〇〇万円に過ぎず、また、少なくとも同年一二月二六日返金分についてはその請求日から半年以上経っていることになるから、水増請求と返金との間に関連性は認められない。

(三) 昭和五五年二月二〇日返金に係る二〇〇〇万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五五年二月二〇日返金に係る二〇〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、同年一月二〇日請求分(合計八五三万円)以外に考え難いが、そうすると、被告人は秋村組に対して架空売上額の二倍以上を返金したという不自然な結果になるから、この点において水増請求と返金との間に関連性は認められない。

(四) 昭和五五年八月一九日返金に係る三〇〇万円及び同年一二月四日返金に係る二〇〇万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五五年八月一九日返金に係る三〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、同年三月二〇日請求分(合計一五〇〇万円)あるいは同年六月二〇日請求分(合計一〇九八万三八〇四円)が、また、同年一二月四日返金に係る二〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、同年六月二〇日請求分(合計一〇九八万三八〇四円)がそれぞれ考えられるが、そうすると、いずれにしても架空売上げの合計額が二五九八万三八〇四円となるのに対して、返金額合計は五〇〇万円に過ぎないことになるから、水増請求と返金との間に関連性は認められない。

(五) 昭和五六年三月二三日返金に係る二〇〇〇万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五六年三月二三日返金に係る二〇〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、同年一月二〇日請求分及び同年二月二〇日請求分(合計三六四三万五〇〇〇円)以外に考え難いが、そうすると、返金額が架空売上額に比して半額程度に過ぎないことになるから、この点で水増請求と返金との間に関連性は認められない。

(六) 昭和五六年九月二八日返金に係る三二八万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五六年九月二八日返金に係る三二八万円の架空売上げに該当する水増請求は、前記四の1の中には認められず、水増請求と返金との間には全く関連性が認められない(仮に、同年一月二〇日請求分及び同年二月二〇日請求分(合計三六四三万五〇〇〇円)をこの架空売上げに該当するものとして想定しても(水増請求日と返金日との間隔が半年を越える点で被告人の供述に合致しないが。)、その金額の対比において水増請求と返金との間に関連性は認められない。)。

(七) 昭和五六年一二月五日返金に係る二三〇〇万円の架空売上げについて

前記四の1と2とを照らし合わせると、昭和五六年一二月五日返金に係る二三〇〇万円の架空売上げに該当する水増請求は、同年一一月二〇日請求分以外に考え難いところ、さきに認定したとおり、同日請求分の支払日が同年一二月一〇日であることを考慮すると、被告人は、その支払日の前に返金をしたという不自然な結果になるから、水増請求と返金との間に関連性は認められない。

4 以上の理由で、前記手帳中のメモ書きは架空売上げの返金をメモしたものであるとする被告人の公判廷における前記供述、ひいては証人菊井の前記供述は信用できないというべきであるが、加えて秋村組の専務取締役である秋村田津夫が、同人の検察官に対する供述調書において、「安田社長に水増請求を頼んだのはその二回(一回は検察官が架空売上げと認めてこれを昭和五六年度の売上げから差し引いたものであり、また他の一回は昭和五七年度の架空売上げに関するものである。)だけであり、その点は絶対に間違いありません。安田社長がこれと違うというのであれば対決させていただいても結構です。何処に出ようとこの点は絶対に間違いありません。」と強い口調で供述し、その供述に何ら不自然、不合理な点が認められないことを合わせ考えるならば、被告人の秋村組に対する架空売上げは存在しないと認めるのが相当である。

なお、弁護人は、前記手帳中のメモ書きには検察官が認めた若築建設に対する架空売上げについての返金の記載があり、この点からも右メモ書きは秋村組に対する返金を記載したものとして十分信用できると主張する。なるほど、押収してある昭和五一年手帳一頁(昭和六二年押第七三号の二二)によれば、同手帳の一月一九日の欄には「若築建設、一二/二〇、三〇〇〇〇〇〇、ビリ代バック」との記載があることが認められ、被告人から若築建設に対する昭和五三年度の架空売上げとして検察官が認めた分と一致するが、この分については右記載自体から返金、いわゆるバックであることが明らかであるのに対して、前記認定のとおり秋村組に関する前記手帳中のメモ書きのほとんどは日付と金額のみが記載されているに過ぎず、記載自体からその意味を一義的に解釈できるものではないから、右事実が前記認定を左右するものではないというべきである(ちなみに、検察官が認容した前記被告人の秋村組に対する昭和五六年二月請求に係る架空売上げ・返金一〇〇〇万円についての記載は、右手帳中に存在しない。)。

五  以上によれば、秋村組に対しては架空売上げはなかったと認められるが、桂甚(昭和五四年一一月請求に係る一一一万一〇〇〇円、昭和五五年三月請求に係る一六五万円及び昭和五六年一一月請求に係る二九四万三六〇〇円)及び大中組(昭和五四年六月請求に係る一六三〇万円)に対しては架空売上げが存在したのではないかとの合理的な疑いが残るので、これらを本件の売上げから控除することとし、昭和五四年度の売上げからは一七四一万一〇〇〇円を、昭和五五年度の売上げからは一六五万円を、昭和五六年度の売上げからは二九四万三六〇〇円をそれぞれ減算するのが相当である。

第二砂利部門の期首、期末未成工事について

弁護人は、被告人の砂利部門における事業形態は仕入れた砂利等を取引先に運搬して販売するというものに過ぎず、未成工事勘定は存しないから、期末未成工事と期首未成工事との差額に相当する金額を被告人の所得から控除すべきであると主張する。

そこで、まず被告人の砂利部門における事業形態について検討するに、取引先から被告人に対する注文書が証拠上提出されているもののみをみても、注文書及び売上勘定元帳(弁書四号証の一、二、五、一七、四一、四六、四九及び五一)によれば、被告人は、取引先から、たとえば「ズリ(搬入、盛土)」(弁書四号証の一、二)、「クリーク及び道路盛土工事一式」(同号証の五)、「排水路掘削、クリーリ埋立等」(同号証の一七)、「盛土工事一式」(同号証の四一、五一)、「土工工事一式」(同号証の四六)、「ズリ敷地共」(同号証の四九)といった受注内容で発注を受けたことが認められるが、そうしてみれば、被告人は、取引先から、一定数量の山土等を所定の工事現場に搬入するにとどまらず、併せて盛土、掘削等の工事をも受注したものというべきであるから、土木工事請負業をも営んでいたと認定するのが相当である(ちなみに、被告人も、第八回公判調書中の被告人の供述部分において、「盛土」とは、土砂等をダンプカーで工事現場に搬入するのみではなく、ダンプカーが入りやすいようブルドーザーで整地することをも含むものであることは認めている。)。

もっとも、注文書及び売上勘定元帳(弁書四号証の三九、四四及び七三)によれば、取引先から被告人に対する注文書中には、単に品名(ズリ等)、数量及び単価のみ記載されたものがあることが認められるが、第二九回公判調書中の被告人の供述部分及び売上勘定元帳(弁書四号証の三九、四四及び七三)を総合すれば、これらの取引においても、被告人は、搬入現場において地盤の軟硬に応じたブルドーザーあるいはタイヤローラー等の重機を長時間にわたり稼働させたことが認められ、前記取引と同様に盛土、掘削等の工事をしたことが推認されるから、右注文書の記載も前記認定を左右するものではない。

なお、未成工事支出金には、完成工事原価に振り替えるまでの投入原価、すなわち材料費、労務費、外注費及び経費のすべてが計上されるところ、大蔵事務官寺谷雄児作成の昭和五八年一月二一日付査察官調査書(検甲二三号証)によれば、未成工事支出金をズリ、山砂のみで算出し、労務費、経費を算入しなかったことが認められるが、労務費、経費の正確な算定が著しく困難であることは関係各証拠から明らかであるし、未成工事支出金をズリ、山砂の材料費のみで算出した結果、被告人の所得を過大に認定したというのであれば格別、関係各証拠によれば、労務費、外注費及び経費の全額を必要経費として算定していることが推認され、むしろ被告人の所得は未成工事支出金を正確に算定した場合の所得よりも少なく認定しているものと認められるから、被告人の所得を過大に算定した違法はないというべきである。

第三在日朝鮮人滋賀県商工会に対する会費の必要経費性について

弁護人は、被告人が在日朝鮮人滋賀県商工会(以下「県商工会」という。)に対して支払った会費(通常会費及び特別会費)を必要経費に算入すべきであると主張する。

被告人の当公判廷における供述、証人趙南聖の当公判廷における供述、在日朝鮮人滋賀県商工会作成の会費及び特別会費受取証(三通)並びに商工会運営会費領収証(控)(三通)によれば、被告人は、県商工会に対し、会費として昭和五四年から昭和五六年までの間に、月額五〇万円の通常会費及び年額合計四〇〇万円(年二回)の特別会費(賛助金)を支払ったことが認められる。もっとも、被告人は、その障害となるべき事情が全くうかがわれないにもかかわらず捜査段階では右会費について一切供述せず、公判廷において初めて右会費の主張をし、しかも、第三一回公判期日に至って右受取証及び領収証の取調べを請求したことを考慮すると、その支払自体甚だ疑わしいと考えられないでもない。

しかしながら、仮に右会費の支払を肯定するとして、被告人の当公判廷における供述及び証人趙南聖の当公判廷における供述によれば、県商工会には会費について規定した規約はなく、会費の額は会員の収入を考慮して会員ごとに決定されること、実際、当時被告人と同様に月額五〇万円の通常会費を支払っていた会員は他にせいぜい一名程度いたに過ぎず、次に多額の会費を支払っていた会員にあっても月額二万円ないし三万円といった金額であったことが認められ、しかも、その一方で、被告人のかかる多額の会費支払に対し、被告人が県商工会から右金額に応じた特定の給付又は役務の提供を受けたことを認めるに足りる的確な証拠がないことを合わせ考えるならば、本件会費の性質は寄付金類似の支出とみるべきであり、かつ、本件会費は事業の維持遂行のために必要やむを得ないものとは考えられないから、必要経費に算入されるべきものではないと解するのが相当である(なお、本件会費が所得税法七八条及び租税特別措置法四一条の一五所定の寄付金に該当するものでないことはいうまでもない。)。

第四パチンコ部門の事業所得の帰属者について

弁護人は、パチンコ部門(パチンコ店及びすし店)の事業所得は被告人の妻安田こと李伸子(以下「伸子」という。)に帰属するから、被告人の所得としてこれに課税することは不当であると主張する。

所得税法一二条は、所得の帰属につき、名義又は形式とその実質とが異なる場合には、その名義又は形式にかかわらず、これを経済的、実質的に観察して事実上これを享受する者の所得として所得税を課税するという、いわゆる「実質所得者課税の原則」を明らかにしたものと解すべきところ、本件において、関係各証拠によれば、パチンコ部門の営業許可が伸子の名義でなされていたことは明らかであるが、これをもって直ちに同女が右事業の所得者であると断定することはできず、事業資金の調達、営業方針の決定等がどのようになされたかなど諸般の事情を総合的に考慮して決しなければならない。

しかるところ、関係各証拠によれば、パチンコ部門の開業資金は被告人が出捐したこと、パチンコ店「ニュークラウン」の土地建物及び「来楽運寿司」の建物は被告人がその三割を出資する竜王不動産株式会社の所有であり、またパチンコ店「マンモス城」の駐車場用地は被告人及び青木茂(以下「青木」という。)名義で所有権移転の登記がなされていること(もっとも、右駐車場の実質的所有者は、「マンモス城」の土地建物と同様、被告人であると認められる。)、パチンコ部門における売上金の管理、従業員の採用、給与の計算等日常の業務全般は國本武こと李愚京(以下「國本」という。)が当たっていたところ、同人は、商品の仕入代金、景品の引取代金及び従業員の賄費等のいわゆる現場出金を除いた売上金をいったん安田伸子、李愚京あるいは安田信男名義の各預金口座(滋賀朝鮮信用組合本店)に入金するものの、後日、毎月被告人に営業報告をするとともに、そのなかから利益金相当分を被告人に交付していたこと、國本は、定額の給与の外に歩合制の報酬を受け取っていたが、その報酬は被告人が最終的に決定していたこと、また、パチンコ店における機械の購入、店舗の改装等大口の支出についても被告人が決定していたことが認められるのであって、これに後記認定のとおりパチンコ店「マンモス城」の土地建物の実質的所有者が被告人であったことを合わせ考えるならば、各店舗の日常業務は國本が任されていたとはいえ、その収益を把握し、かつ、重要事項を決定していたのは被告人であるとみるべきであるから、パチンコ部門における事業所得の帰属者は被告人であると解するのが相当である。

第三回、五回、一六回及び一七回公判調書中の証人國本武こと李愚京の各供述部分において、同証人は、「売上金(利益金)は伸子に渡していた。」、「報酬は伸子が決定していた。」などと供述するけれども、その供述自体極めてあいまいなうえ、同証人の供述は、被告人に不利益となる点については意識的にその事実を否定し、あるいは供述を回避しようとする傾向が顕著にうかがわれ、加えて当時被告人(同人の妻の姉の夫に当たる。)が身柄を拘束されている状況にあったにもかかわらず、同人が捜査段階でパチンコ部門の経営者が伸子であると供述しなかった理由についても、「担当検事がうまく聞いてくれなかった。」、「ただ取調べが早く終わって欲しいという気持ちだった。」と供述するに終始し、何ら首肯するに足りる説明が示されないことからも、右証人國本の供述は信用できない。また、第四回及び六回公判調書中の証人李伸子の各供述部分において、同証人は、パチンコ部門の経営者は自分であると供述するが、同人が捜査段階においてその旨供述しなかった理由として供述するところは、例えば「女の身で気が動転していましたから、何をしゃべっていいか分かりませんでした。」といった説明を繰り返すだけで、前記証人國本の場合と同様、到底納得し得るものではないし、また、自分が経営者であると供述しながら、その一方で、同証人は、第四回公判調書中の証人李伸子の供述部分において、國本に日ごろの業務を任せていることを理由に、開業資金の額、資金源及びその返済方法、土地建物の所有及び利用関係並びに利益等、経営者であれば当然把握しているべき事項についてもよく分からないと供述する(この点についての第六回公判調書中の証人李伸子の供述部分は、右第四回公判調書中の証人李伸子の供述部分と対比して、時間が経過したにもかかわらず供述が詳細になっているなど不自然極まりなく、信用できない。)のであって、同人がパチンコ部門の経営者であるとは到底認められない。

以上の理由により、パチンコ部門の事業所得が伸子に帰属するとの弁護人の主張は採用しない(なお、このようにパチンコ部門の事業所得は被告人に帰属するというべきであるにもかかわらず、伸子名義で納税申告されていることが関係各証拠から明らかであるところ、本来、第三者名義の納税申告は、外観上一見して納税義務者本人の通称ないし別名と判断できるような場合でない限り、納税義務者本人の納税申告として法的効果を生じないと解するのが相当であるから、本件においても、伸子名義の申告税額は被告人のほ脱税額算定に当たり考慮する必要がないのであるが、検察官は、本件公訴提起に際して伸子名義の右申告税額を控除したうえでほ脱税額を算定しているので、当裁判所もこれを控除してほ脱税額を算定することとする。)。

第五パチンコ部門の歩合賃料について

弁護人は、被告人は青木に対し、パチンコ部門の営業に関して毎月荒利の二分の一に相当する賃料(以下「歩合賃料」という。)を支払ったので、同金額を必要経費に算入すべきであると主張する。

関係各証拠を総合すれば、パチンコ店「ニュークラウン」の土地建物及び「来楽運寿司」の建物の所有者はいずれも竜王不動産株式会社であること、パチンコ店「マンモス城」の土地建物については、被告人は、昭和五一年六月三日、水田商事株式会社から同土地建物を二億一〇〇〇万円で買い受けたが、その際、右購入資金として、青木から五〇〇〇万円を借り受けたほか、朝銀滋賀信用組合から被告人名義及び青木名義で各二五〇〇万円を借り受けたこと、同土地は、被告人及び青木の持分各二分の一の共有として登記された(同建物については昭和五七年九月八日受付で登記が経由されている。)が、これは、同信用組合から青木との共有にしないと青木名義で二五〇〇万円を貸すことができないと言われたためであり、また、青木に対する被告人の右債務についての担保提供の趣旨でもあったこと、このような事情で被告人は、同信用組合に対して、自己名義の借受金とともに青木名義の借受金をも毎月分割して返済していたこと、また、青木から借り受けた五〇〇〇万円については、青木に対して、昭和五三年末から昭和五六年ないし昭和五七年末まで毎年一〇〇〇万円ずつ返済し、かつ、未払分については青木が代表取締役をする竜王不動産株式会社の被告人に対する債務と相殺したこと、その結果、青木は、昭和六一年六月二三日に同土地建物の前記持分を放棄したことが認められ(右認定に反する第二二回公判調書中の証人青木茂の供述部分及び同証人の当公判廷における供述は信用できない。)、これらの事実に照らすと、「マンモス城」の土地建物は当初から実質的には被告人の単独所有であったと認定すべく、いずれにおいても被告人が青木に対して弁護人主張の歩合賃料を支払うべき関係にはなかったものといわざるを得ない。

第一六回及び一七回公判調書中の証人國本武こと李愚京の各供述部分並びに第二二回公判調書中の証人青木茂の供述部分中には、弁護人の前記主張に沿った供述があるが、関係各証拠によれば、歩合賃料について規定した契約書等はないことが認められるところ、歩合賃料算定の基礎となる荒利益の計算方法及びその支払方法といった当事者にとって重要な利害関係のある事項については、明確な合意がなされ、かつ、それを書面上明らかにしておくはずであるにもかかわらず、そのような契約書がないということ自体不自然であるし、また、右各証人の各供述は以下の理由からも到底信用できない。すなわち、関係各証拠によれば、國本は、捜査段階においてはかかる歩合賃料について何ら供述していないことが認められるところ、同人の公判廷における供述を前提とすれば、昭和五四年一月から昭和五六年一二月までの歩合賃料の合計は一億六〇〇〇万円余の多額にのぼり、したがって、同人が右歩合賃料を供述することで右金額相当額が被告人の所得から控除され得るという関係にあるにもかかわらず、同人は、第一七回公判調書中の証人國本武こと李愚京の供述部分において、歩合賃料を捜査段階において供述しなかった理由として、「捜査官から聞かれなかったので話す必要がないと思った。」旨供述するにとどまるのであって、かかる理由をもって歩合賃料の供述をしなかったというのは、前記認定のとおり同人が被告人と極めて密接な間柄にあることをも考慮するならば、極めて不自然かつ不合理といわざるを得ないうえ、同人は、また「捜査段階において歩合賃料について供述すると青木に取調べが及んで同人にも迷惑をかけると思った。」とも供述するが、その一方で、「その当時青木が既に取調べを受けていたことは知っていた。」と矛盾する供述をしているのであって、同人の公判廷における歩合賃料についての供述は信用できない。また、青木は、第二二回公判調書中の証人青木茂の供述部分において、「(問)定額家賃のほかのそういうもうかった場合に払ってもらうという家賃は、どのようにして決められたのですか。方程式と言うか。(答)ちょっと、それどうやったか思い出せないんですけど。お任せというような感じに私としては思っておったんですけど。(問)粗利益の半分半分でいこうか、というような話はなかったんですか。(答)國本さん、そのようにおっしゃっていました。(問)それで、実際その変動家賃と言いますか、歩合家賃と言いますか、これは当初どのくらいだったんでしょうか。(答)さあ、ちょっと大分前のことですので、十分な記憶はないんですけど。」(第二二回公判調書三丁裏から四丁表)と供述するなど歩合賃料についての同証人の供述は極めてあいまいなうえ、「歩合賃料についての約束をしたときに、その歩合賃料を返さなければならないことがある、との話があった。そのため、私としては、賃料というより預かっているという感じだった。現に二、三回返したことがあった。」などと不自然な供述をし、しかも、そのように供述する一方で、「受けとった金で現在の自宅を建築したり、商品相場に一億円投資したりした。」などと矛盾した供述をするのであって、同証人の公判廷における供述も信用できない。

以上の理由により、パチンコ部門の営業に関し、被告人が青木に対して歩合賃料を支払ったとの弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の一、二の各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に、判示第一の三の所為は同改正後の所得税法二三八条一項に、判示第二の一の所為は行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては右改正後の法人税法一五九条一項に、判示第二の二の所為は同改正後の法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の一、二、判示第二の一の各罪は、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により判示第一の各罪につき所得税法二三八条二項を、判示第二の各罪につき法人税法一五九条二項をそれぞれ適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の三の罪に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役三年及び罰金二億円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

さらに、被告人の判示第二の一、二の各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示第二の一の所為につき前記昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により同じく改正前の法人税法一五九条一項の、判示第二の二の所為につき同改正後の法人税法一六四条一項により改正後の法人税法一五九条一項の各罰金刑に処せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金五〇〇万円に処すこととする。

(量刑の事情)

本件は、被告人において、被告人の事業である遊技業及び飲食業を妻の事業であるかのように仮装したり、事業所得を仮名又は無記名の定期預金とするなどして昭和五四年度から昭和五六年度までの所得税合計八億二〇〇〇万円余をほ脱するとともに、被告人が代表取締役をする被告会社において、売上げの一部を正規の帳簿に記載せず除外するなどして昭和五四年度及び昭和五五年度の法人税合計一九〇〇万円余をほ脱したもので、そのほ脱税額は極めて高額であり、かつ、そのほ脱率も、所得税については約九九・五パーセント、法人税については約七八パーセントと高率であるうえ、本件犯行に及んだ動機も、財産の保全を図るという目的のもと、被告人の納税手続については従前から在日朝鮮人彦根納税貯蓄協同組合が代行していたこともあり、多額の利益を得ていることを知悉しながら、右納税貯蓄協同組合を通じて極端な過少申告をしていたものであって犯情は芳しくなく、申告納税制度を根幹から揺るがすことにもなりかねないことを考え合わせると、被告人及び被告会社の刑事責任は相当重いといわなければならず、近時この種脱税事犯が厳しく処罰されている現状にかんがみれば、被告人には実刑をもってのぞむことも考えられないではない。

しかしながら、右納税貯蓄協同組合は、被告人ら在日朝鮮人の納税手続を代行するに当たり、申告者に帳簿類の呈示等を要求することなく、前年度の申告内容、同業者の所得等をもとに申告者と相談のうえ申告書を作成して税務署に申告するという極めて杜撰な対応をしており、一方、彦根税務署も、少なくとも本件過少申告の査察までは、長年、申告書を右組合長に一括送付して納税手続の取りまとめを依頼するなどして、かかる納税方法につき格別の指導もせず、慣行として半ば容認してきた経緯があり、しかも、被告人及び被告会社が本件脱税で公訴提起されるに至った経緯をみると、被告人及び被告会社が大阪国税局の査察を受けるや、県商工会及び在日朝鮮人商工連合会の各役員が大阪国税局に出向き、十数回にわたり納税額につき話し合った結果、おおよその合意をみたものの、なおも右連合会の役員が強硬に自己の意見を主張したために、昭和五四年度分の脱税事件に係る公訴時効が切迫して話合いが打ち切られ、本件公訴提起に至ったものであるが、被告人自身は、直接国税局と交渉する機会を与えられなかったがために、被告人の意向が国税局との右話合いに十分反映しないまま話合いが打ち切られて公訴提起されたとみられる事情もあり、このような在日朝鮮人に対する徴税の過去の経緯とその特殊性にかんがみると、責任のすべてを被告人一人に問うことはいささか酷であると考えられること、被告人の帳簿類には隠匿、改ざん等が認められず、格別の所得秘匿行為はうかがわれないこと、昭和六三年六月二日現在、被告人は所得税につき昭和五四年度から昭和五六年度までの三年度分の本税全額八億四〇〇〇万円余(加算税については合計二億四六〇四万九四〇〇円のうち九二四九万五四〇五円、延滞税については合計一億二五八五万六六〇〇円のうち一二七〇万一五二六円)を、また被告会社は法人税につき昭和五四年度分及び昭和五五年度分の本税、加算税及び延滞税全額三七〇〇万円余をそれぞれ納付し、所得税についての右未納分も毎月約三〇〇万円ずつ分納していること、被告人は、本件後、砂利部門について個人経営を法人化するとともに、総勘定元帳の作成及び申告手続等の経理事務を税理士に委任し、再犯防止に努めていること、設立された会社は、従業員五〇名、取引先約二〇〇社を数える会社であるところ、被告人の後継者は未だ養成されておらず、被告人の存在なくしては右会社の運営に相当の支障が予想されること、被告人は、本件を除いてはこれまで勤勉に社会生活を営んできており、愛知川砂利採取協同組合の理事職に就くなど同業者及び従業員等からも信頼を寄せられていること、被告人にはさしたる前科がないことなど被告人に有利に酌むべき事情も認められるので、これらを総合考慮のうえ、被告人についてはその懲役刑の執行を猶予することが相当であると思料し、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梶田英雄 裁判官 加島義正 裁判官 飯塚宏)

別紙(一) 税額計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(二) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(三) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(四) 修正損益計算書

別紙(五) 税額計算書

別紙(六) 修正損益計算書

別紙(七) 修正損益計算書

別紙(八) 得意先別架空売上げ

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