大津家庭裁判所 事件番号不詳 決定
少年 G(昭一七・五・一五生)
主文
この事件を大津地方検察庁の検察官に送致する。
理由
一 罪となるべき事実
昭和三四年五月一日付検察官作成の送致書(甲)記載の犯罪事実
二、上記事実に適用すべき法令
刑法第二四〇条
この少年についてはその性格ならびに罪質情状にてらして刑事処分に付するを相当と認めるので少年法第二〇条、少年審判規則第二四条により主文のとおり決定する。
(裁判官 江島孝)
別紙一 (送致書(甲)記載の犯罪事実)
少年は昭和三四年四月一九日午前七時三〇分頃かねてより顔見知りの○○○郡××町△△、漣りえ(当五六年)方を訪れ同女に対し金を貸してほしいと要求し、同女に拒絶せられたので金員を強取しようと企て所携の出刃庖丁をつきつけて金員を強奪しようとしたところ同女が「泥棒、泥棒」と叫び続けたので出刃庖丁で同女の頭部を切りつけたが、同女は土間に倒れながらなおも「泥棒、泥棒」と叫んだので同女を殺害しようと決意し同女に馬乗りになり出刃庖丁で同女の前頭部等を突き刺して右頸動脈刺傷により即死させたものである。
別紙二 (事件の問題点)
少年は現在高校二年生であるが、中学生時代から家の金銭、米等を持出して菓子、パン等の買食いに使つていたが、最近は借金をして物を買い、その返済に窮して同級生の財布を盗んだこともある。(発覚後返金……四日間の家庭謹慎処分)本件非行当時借金が一、八〇〇円程あり、等にズック靴一足四〇〇円の支払を迫られていた事情から(少年の父母関知せず)本件非行前日に被害者宅を訪れ、借金方を依頼したが断わられ、翌日米を買つてくれるよう頼んだが、その米を家から持出すことができず、再び被害者に借金方を申出て本件非行に及んでいる。
本件は純朴な農村において寡婦が惨殺されたばかりでなく、加害者が一六歳の高校生であり、しかもその動機が僅か数百円の借金を拒絶されたことによつたものであつただけに、社会の耳目をあつめ、その与えた影響は大なるものがある。
少年の個性および環境
少年の家庭は土地の旧家で資産は住居地町内第二位の純農家で家柄もよく生活は普通以上である。実父は約三〇年前より住居地において多くの公職につき相当信望があるが、性格的には神経質で内向性であり、りんしよくとまではいかないが、金銭的に極めてこまかく家族に対して節約を命じ、自からも実行している。また仏教の信仰家であり、家族全体も自然信仰心を持つようになつた。継母は少年の五歳時少年の父に再婚し、以来少年を養育しているが、温順で実子と差別待遇等をすることもなく少年の言によれば「子供思いのよいお母さん」だとその仲は非常によい。その他家族には実兄、異母妹、租母を含めて八人の大家族であるが、家庭環境を綜合して特に問題はない。だが少年個人をみると家庭内では保護者に対し従順であり兄妹の仲も普通で、外出も少なくまじめな生活をしていたが家庭外では借金家財持出し、金銭の窃取無賃乗車等、その風評も悪く、その生活にはなはだしい表裏が認められる。
なお、少年の個性については下記鑑別所技官の「綜合所見」および家庭裁判所技官の「精神医学的所見の綜合的考察」のとおりである。
(鑑別所技官の綜合所見)
(一) 知能は普通段階にあつて別に問題はない。しかしながら注意の集中が性格的な欠陥のため出来ないために高等学校で学業の不振を示していたものである。
(二) 性格は不安定性と気分易変性との性格上の欠陥(異常という程強くない)がある。
このために絶えず不安感を抱き、対人的に極めて感じやすかつたり、また少しの動機で衝動的な行為をする危険性がある。
(三) 上記の性格以外に意志の弱さ、敵意の強さ、引込勝ちな自閉、抑うつ性等が見られるが普通少年と比較して目立つ程度のものである。尚この(三)の性格が学業不振による劣等感から形成されたものである。
(四) 非行は
(イ) 普通知能の少年ではあるが、一点に注意を集中することが出来ず、常に動揺しているために思考が浅く目標に向う力だけに動かされて、それ以外の事柄について考えず、短道反応を示した。そして短道反応は高校一年生時三回程自宅より米の持出しとして始まり、その成功体験が本少年に安易な考え方をさせた。そしてこの短道反応は学校内での窃盗、ついで今回の非行に発展した。
(ロ) 不安定性と気分易変性の性格上の欠陥があり、普通少年より対人的関係において刺戟に敏感であつた。
以上(イ)(ロ)が本少年を非行に至らせたものである。
(家庭裁判所技官の精神医学的所見の綜合的考察)
知的には正常範囲内にあり精神病ではない。しかし性格的には意志の弱さ、情性の稀薄さ、道徳的薄弱、自制心の欠陥があり又注意集中困難、向上心の乏しさを認め思考的であるより行動的で刺戟と反応とが不釣合で反応が大きすぎる等の特色をあげることができる。
これらの特色は弱志性及び薄情性(情性欠如性ともいう)精神病質的であると類型化しうるが、しかし精神病質であるときめつける程甚しくはない。
(精神病質と正常との区別は厳然たる劃線がある訳ではなく漸進的に移行するのであり、本件少年が精神病質的であるというのはその移行段階上にあるという意味である。)
少年は非行の追想可能であり、記憶も比較的判然としているので本件非行時少年が意識喪失乃至溷濁の状態にあつたとは考えられず又上記所見の如くさしたる病的人格ではないという二点を根拠にして非行時に甚しく意志能力を欠いていたとは考えられない。