大判例

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大津家庭裁判所 昭和46年(家)136号 審判

〔主文〕当事者間の婚姻費用のうち別紙(三)<理由五(1)の額>を相手方の負担とする。

相手方は申立人に対しつぎの金員を支払え。

(1) 即時金 二五〇、〇八九円。

(2) 昭和四六年八月二〇日に金二一、五七四円。

同年同月末に 金二四、〇〇〇円。

同年九月、一〇月の各二〇日に各金二一、九二七円。

同年一〇月以降離婚成立若くは別居解消の日まで、毎月二〇日に月額金二二、二七〇円の割合による金員。

〔理由〕一 本件申立の要旨は昭和四五年一二月から別居期間中の婚姻費用の負担として毎月相当額の支払いを求めるにある。

二 一件記録によればつぎの諸事実が認められる。

(1) 申立人は昭和三七年六月一三日相手方と婚姻し、その間長男秀秋(昭和三八年三月一五日生)長女さち(昭和四三年八月二四日生)の二児を設けたところ、相手方は勤務先の女性松宮唄子とねんごろになり、これが原因で申立人との離婚を考え、昭和四五年一二月に申立人に離婚を迫り、翌年に入つて離婚調停を申立てると共に当時居住の大津市○○△丁目○○の○○△△紡績社宅に申立人及び二児、相手方の実母はなえ(明治三九年一〇月一五日生)を残したまま居所を明らかにせずに右住居によりつかず、同調停及びこれに対抗して申立人の申立てた夫婦関係調整の調停も夫々不調となつた。

(2) 相手方の実母はなえは婚姻当初より相手方と同居しており、婚姻後も相手方夫婦において同居扶養し、反面はなえは申立人相手方が勤務に出ている間子供の世話をなし来たつたものであり、相手方出奔後も現に申立人ら親子とともに移住し同居して、子供らの面倒をみながら職をもたずに生計を共にしている。

(3) 相手方は昭和四六年三月二二日前記両調停不成立になるや同年同月二六日以来、申立人親子実母を残したまま勤務先に無断で前記松宮と共に出奔してしまい、ために同人は同年四月二〇日付を以て△△紡績株式会社より懲戒解雇処分を受けた。なお相手方は紡績部主任で同年三月末日より前同社労働組合副組合長として専従する予定であつた。

(4) 相手方は、前同年三月二七日同人名儀の社内預金中一八〇万円を引出して出奔し、同人名儀の同預金残高は昭和四六年四月二八日現在で元利合計金二二三、八〇六円である。

(5) 相手方の前記会社における平均収入は昭和四六年一月度七五、八〇〇円、二月度七五、〇〇〇円、三月度七四、一〇〇円、四月度六八、五四三円であつた。

(6) 相手方は申立人と昭和四五年末迄は同居していたが、申立人が昭和四六年一月始めより同年二月一七日頃まで子供二人と共に実家に帰つてより両人は別居生活に入り、申立人はその間の生活費は供与を全く受けていない。(右の間相手方は実母と同居して同女を扶養していた。)相手方は申立人帰還後は家に寄りつかず、同年二月二一日から同年三月二〇日までの前記三月度給料ははなえが、同年三月二一日から同年四月二〇日までの四月度給料は申立人が、夫々代理受領し申立人親子と実母の生活費に充てた。

(7) 申立人は相手方解雇処分のため、社宅を追われることとなり、やむなく相手方の友人の紹介で昭和四六年五月二一日より肩書住所地の□□紡績株式会社に臨時工として就職し同社の社宅へ子供二人とはなえと共に移住し、少くとも三万円を下らない給料をうるようになつた。

(8) 申立人は、他からの借入により昭和四六年五月中に臨時支出としてつぎの支出をなした。

(イ) 前記移住につき、荷物の一部実家等へ預けるための運賃約六、一五〇円、現住所までの荷物運賃約三二、〇〇〇円、人夫謝礼金三、五〇〇円、荷造費約八、三〇〇円、交通費三、三五〇円、荷ほどき手伝い謝礼金三、〇〇〇円、合計五六、三〇〇円。

(ロ) 入居関係費、ガス工事三、〇〇〇円、台所修理費五、八〇〇円、テレビアンテナ付設費六、〇〇〇円、計一四、八〇〇円

(9) 申立人は他からの借入により、はなえの両膝リュウマチの電気治療費として昭和四六年六月一八日に二四、〇〇〇円を支出し、なお少くとも同年七、八月中旬同治療を要し月額前同額の費用を要する予定である。

(10) 申立人は長男秀秋の学校給食保護者負担費として週五日、日額六〇円、月額一、二〇〇円支出している。

三 申立人相手方間に夫婦財産契約をもつて右分担の定めはなされていないので、以下前項認定事実に基き、相手方の分担と定めるべき婚姻費用について考えてみる。

(A) (1) 相手方の実母はなえの臨時費前項(9)及び経常生活費は申立人相手方間夫婦の婚姻費用に含まれるというべく、その負担は前者につき全額その実子である相手方に分担さるべきものと定める。

(2) 前項(8)の臨時費は婚姻費用に含まれ、これは専ら相手方の責に帰すべき懲戒解雇に基因して、余儀なく生じたものであるから、相手方に全額分担さるべきものと定める。

(3) その余の婚姻費用たる申立人及び子供二人及びはなえの経常生活費については申立人と相手方の収入に応じて分担さるべきものと定める。

但し後記(4の(3)以下)の如く夫婦双方収入あるときは、本来は双方の各生計費部分を収入により双互に按分し、各自の分担額相殺残を他方に終局分担させることが考えられるが、本件の申立人の就職は相手方の出奔によるやむなき措置であることを考えかかる按分分担によらず、収入をこえる部分全額を相手方の最低生活額をこえる場合にも分担させることとする。

(B) なお、本来はなえの扶養関係は生活扶助義務と言われ、夫婦、未成熟子間の生活保持義務と区別されるが、本件の如く右扶助権利者と保持権利者が同居し、事実上世帯を形成し相互に助け合つて共同生活を営んでいる関係上その費用が婚姻費用に含まれると解するときはその両権利者の扶養の程度方法については額算出において区別することなく同等に扱うのが関係ある当事者の意思及び人間本来の性情に適合するのみならず、本件相手方の如く義務者が相当の資力を有し右権利者相互が最低生活限界まで追いつめられるに至らない場合においては尚更であると解する。従つて以上の負担額算出についてはなえの生活費についてこれのみを生活保護法の基準による最低生活額に止めて他の申立人や子供の生活費算出法と区別することはすべきでないと解する。そして昭和四六年二月二一日から同年四月二〇日までの間の上記婚姻費用となるべき費用は昭和四六年三月、四月分の相手方給料全額の代理受領により十分まかなえているから分担に争いが生じているとはいえず、分担の問題は生じない。従つて本項の分担を定めるべき部分は昭和四六年一月始から同年二月二〇日までの分と同年四月二一日以降の分ということとなる。なお、後記利子収入の元本一〇〇万円を除いても通常人の生活態度より推測すれば相手方は少くともこの他に引出し預金残として金二〇万円は所有しているものと推測でき、更に社内預金残額二二三、八〇六円を存し、これを婚姻費用分担資金に充当しうるから、以下分担額が実収入より生活保護法に基づき公的に扶助さるべき最低生活費を控除した残額をこえる場合においても少くとも右社内預金残額等四二万余円の資産で充当しうる限りはなお相手方に分担せしめうるものと解する。

四 前項(3)分担基準により相手方の分担すべき経常生活費を算出すると、つぎのとおりである。

(1) 昭和四六年一月一日から同年二月二〇日までの分。

実収入中、申立人及び二人の子供の生活費のしめる額を算出してこれを相手方の分担すべき額とするべきものと解するが、右しめる額によるのと、同四六年度のそれによるのと大差はないものと考えられるので、額の算出は生活保護法に基く生活保護基準(公知の事実)に基き一個の共同生活単位とみられる申立人と幼児である前記子供二人の世帯に支給される最低生活費とはなえに対する前同費と同居関係を放棄した相手方個人に対する同上費の比率により按分してなすを相当と解する(右比率自体は昭和四五年度の基準によるのと同四六年度のそれによるのと大差ないものと考えられるので便宜後者による)。そして右額は<申立人と子二人三五、四八五円、はなえ一九、五〇〇円、相手方二三、〇六〇円>記載のとおりである。

右により算出するとつぎのとおりである。

そして右金額はいずれも相手方にも保証さるべき最低生活費を収入額より控除した金額八五、四七〇円を下廻るから、同人の最低生活保証に欠けるところはない。

(2) 昭和四六年四月二一日から同年五月二〇日までの申立人と子供二人とはなえに関する分。

(イ) 昭和四六年三月相手方出奔後の同年四月以降は、前認定の相手方の従来の地位、職種、職が容易に求められるのは大都会((1)級地)である点と、求職の最低限度は職業安定法に基づく公共団体のなす失業対策事業によつて満されることを総合すれば、相手方は少くとも右事業のうち最高額の賃金日額一、五二一円(公知の事実)を取得しているものと推定される。そして二五日間働いたとし、昭和四五年度の右事業労務者に対するボーナスが合計五二、〇三四円であることは一件記録より明らかで本年度はこれを下廻らないものと推定されるところより、相手方の月額労働実収入を推定するとつぎのとおりである。

更に相手方の手許には少くとも引出し社内預金が一二〇万円は残在するものと推定すべきは前記のとおりで、これは通常人の経済感覚に基き保存されているものと推定すべきであるから、昨今の元本保障の信託利廻りをかんあんすれば少くともその内一〇〇万円についてはかかる利子を生ずる運用に委ねられ年六分の割合による利息収入は生じているものと推定すべきである。そうだとすると結局相手方の収入月額はつぎの額となる。

(ロ) つぎに右推定実収入中申立人と子供とはなえの生活費部分を前(1)項同様方法で算出すべきこところ、相手方は(1)級地に同人が居住しているものと推定したこと前記のとおりであるから、その最低生活費は別紙(二)(イ)のとおりとなり、これに基き前(1)項同様方法によるとつぎの額となる。

これは(実収入―最低生活費)額二三、二九九円を上廻るが残存社内預金で充当可能であるから、あえて相手方に全額分担せしめる。

(3) 昭和四六年五月二一日以降同年八月二〇までの各月度分。

(イ) 申立人肩書住居地は生活保護法上(3)級地域に当ると解されるから前記関係者の最低生活費は<相手方二四、〇八二円、申立人・子二人三一、六三四円(子の一入が三歳後は三二、五四四円、はなえ一七、一三四円>である。

(ロ) (イ)と前記認定申立人の実収入に基き前記三(A)(3)の原則により算出するとつぎのとおりである。

(4) 昭和四六年八月二一日以降同年一〇月二〇日まで各月度分

(5) 昭和四六年一〇月二一日以降の各月度分

以上(3)乃至(5)の各月度分は相手方の収入より最低生活費を控除した額(47,361-24,082=23,279円)より低いから、相手方においてこれを分担することにより最低生活費を支弁しえず、前記残存預金資産や本件実収入のうち利息収入の元本たる預金一〇〇万円を喰いつぶすには至らない。

五 結論

(1) 相手方の分担が問題となる婚姻費用は前三、四項のとおりであるが、昭和四六年四月以降同年八月までの間の相手方の分担すべき婚姻費用はその実収入額より同人の最低生活費を控除した額をはるかにこえるものであるが、同人には少くとも四二万余円の残存社内預金等資産を存し、これを充てることができるから、あえて相手方の分担と定めると前記のとおりである。

以上二、三、四項により、結局相手方の分担すべき婚姻費用の費目と額は<臨時費合計一四三、一〇〇円、経常生活費合計一六三、六一二円>となる。

なお、申立人の提出する資料中にある以上以外の支出費は、いずれも経常生活費に含まれるものと解されるから特に別扱いをしない。

(2) ところで、右(1)のとおり相手方の分担と決つた婚姻費用についてはその費用発生と同時に支払義務につき、弁済期が到来するものと解される。従つて相手方は申立人に対し既に弁済期到来ずみである<略>合計金二五〇、〇八九円を即時支払うべく、その余の弁済期未到来の分については<略>夫々弁済期が到来し、以上の婚姻費用の支払義務は離婚又は別居解消のときまでつづくと解するところ、相手方の従前の申立人に対する誠意のない態度よりして、右弁済期到来済及び将来の各婚姻費用について共に相手方に対してその支払いを命ずることとする。

よつて主文のとおり決定する。

(杉本昭一)

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