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大津簡易裁判所 昭和32年(ろ)198号 判決 1958年11月25日

被告人 山村安太郎

主文

被告人は無罪。

理由

本件は訴因として被告人は禁猟期である昭和三十二年六月七日頃の午後八時頃滋賀県滋賀郡志賀町大字木戸一四四二番地先甘藷畑において、猟銃を使用して、猪一頭を捕獲したものであると謂うにあつて、狩猟法第四条第三項第五項第二十二条第一号同法施行規則第二条が適用せらるべきものであるところ被告人は当公廷において銃殺の点を否認しておる、依つて先づ右訴因事実に対し、有罪か無罪かにつき考えるに証拠として、被告人の司法警察員並に検察官に対する供述に基く自白以外に直接的証拠としては、証拠物である猟銃と空薬莢と、昭和三十三年七月七日附鑑識課長宛刑事部鑑識課主事補吉井宏康の鑑定結果報告書並に同主事補が証人として当公廷における供述以外にはない。依つて右証拠について検討するに、その最も主要なる証拠と見るべき右報告書並に同人の当公廷における供述は共に、右猟銃は発射された形跡はあり、その発射よりの経過期間は、二年未満であることを認めているが、右報告書によれば、尚その各部分における濃度差及び発錆状態などからして、一年前後を経過したものと思考されるとあるのに対して当公廷における供述によれば、検察官の問に対し、呈色反応から見て、発射後二年位経過していると認められました、反応が強陽性の場合は二年未満という事になります、又弁護人の問に対し、一年経過すると反応は大分変ります、一年なれば極強陽性で、二年なれば強陽性です。発射したというのは一年以上二年未満ですか、そうです、と述べている等右報告書と当公廷における供述とを色々対比して考えると発射時期は鑑定時前二年に近い二年未満として考える事に妥当性がより強く鑑定時前一年に近い一年以上として考える事に妥当性がより弱いと認定するを適当とする。

かく認定する事によつて、訴因事実は、右鑑定時前約一年に発生したとする事案であるから、この鑑定は、被告人に有利となる。然らば被告人の自白(各証人の証言中、被告人に不利なる証言は、いづれも被告人より聞き知つたか、或は被告人の言うた事が世間の風評となり、それによつて知つたと言う事以外に、原因は認められないから、結局被告人の自白と同一性質のものとなる)を唯一の証拠とする事は憲法上許されないばかりでなく、更に右の如く鑑定の結果を認定する事によつて自白の効力が失われるか或は相当なる疑問と言う事になる。

要するに訴因事実は証拠不充分にして犯罪の証明がないと認定し、刑事訴訟法第三百三十六条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 八塚英一)

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