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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)1431号 判決 1991年8月26日

原告

安威川生コンクリート工業株式会社

右代表者代表取締役

田中一郎

右訴訟代理人弁護士

池田俊

奥村正道

被告

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

被告

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部安威川生コン分会

右代表者分会長

三宅正剛

右被告ら訴訟代理人弁護士

菊池逸雄

里見和夫

主文

一  被告らは、原告に対し、それぞれ別紙物件目録記載の建物部分を明渡せ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一及び三項と同旨

二  被告らは、原告に対し、連帯して昭和六二年一二月二一日から別紙物件目録記載の建物部分の明渡済みまで月額金三万七〇〇〇円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要及び争点

一  事案の概要(証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)

本件は、原告が、賃借権を保全するため、別紙物件目録(略)記載の建物(以下、本件建物という。)の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使し、被告らが組合事務所として使用している別紙物件目録記載の建物部分(以下、本件建物部分という。)の明渡及び不法行為に基づく損害賠償を求めた事件である。

1  原告は、遅くとも昭和五九年四月一日以降、本件建物を所有者である訴外大丸興産株式会社(以下、訴外会社という。)から賃借している(<証拠・人証略>)。

2  被告らは、昭和六二年一二月二一日以降本件建物部分を占有している。

3  原告と全日本運輸一般労働組合関西生コン支部(以下、旧生コン支部という。)及び同支部安威川分会(以下、旧分会という。)は、昭和五八年五月二八日、旧生コン支部及び分会が本件建物部分を組合事務所として使用する権限のあることを確認した(<証拠略>~以下、右で確認された使用権限を本件権限という。)。

4  昭和五八年一〇月、旧生コン支部は、被告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下、被告支部という。)と全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下、運一支部という。)に、また、旧分会は、被告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部安威川分会(以下、被告分会という。)と全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部安威川分会(以下、運一分会という。)に分裂した。原告は、昭和五八年一〇月二〇日過ぎころまでに被告支部及び被告分会が本件建物部分を本件権限に基づき組合事務所として使用する権利のあることを承認した(<人証略>)。

5  昭和六二年六月ころ、原告が当時被告分会に所属していた従業員西山、古閑、辻本、久米の四名(右四名が当時の被告分会の全構成員である。)を解雇したことから争議が発生した。右争議は、同年八月七日解決し、右従業員全員が同年六月一七日付で退社することとなった。

二  争点

1  被告分会の本件建物部分の占有権限(本件権限)の帰趨

(原告の主張)

昭和六二年八月七日、当時被告分会に所属していた原告の従業員四名は全員六月一七日付けをもって退職し、その際本件建物の鍵を原告に返還した。

右事実は、ア 本件権限を生じさせた使用貸借若しくはこれ類似の無名契約における契約目的(被告分会が原告会社内に活動の場所的拠点を持つことによる組合活動の活発化)に従った使用及び収益の終了による返還時期の到来と明渡し又はイ 被告分会員の欠乏による分会の解散と清算行為としての明渡し又はウ 右契約の合意解約である。

(被告らの主張)

現在の被告分会の構成員全員は、昭和六二年九月に被告分会に移籍するまでの間、運一分会の構成員として本件建物部分を原告の承認の下に組合事務所として使用してきた。したがって、原告との関係に限っていうと被告分会構成員の本件建物部分の使用は「分会」の単なる名称変更にすぎないのであるから、被告分会に本件建物部分を使用する権限のあることは明らかである。

2  被告支部の本件権限の帰趨

(原告の主張)

前記鍵の返還及び被告分会員の退社を被告支部の権限との関係からみると、ア 被告支部に本件権限を生じさせた使用貸借若しくはこれ類似の無名契約における契約目的(被告支部が、原告に対する被告分会の組合活動を援助すること)に従った使用及び収益の終了による返還時期の到来と明渡し又はイ 右契約の合意解約である。

(被告らの主張)

被告支部は、いわゆる産業別労働組合であり、企業内労働組合とはその性質を異にしている。したがって、被告支部は、各企業との間で、集団交渉をもってセメント・生コン産業全体の統一的労働条件を確立するとともに、個別企業の組合員の労働条件の具体的確定をはかり、さらに、セメント・生コン産業の個別企業に存在する未組織労働者の組織化を通じて労働者の権利を全般的に強化する活動を行っている。原告は、被告支部が右目的の下に活動していることを十分認識したうえで被告支部に本件権限を与えたものであり、現に、被告支部が、被告分会に属さない原告の従業員たる被告支部構成員のため本件建物部分を使うことを認めていた。したがって、被告分会員が退社したことの一事をもって被告支部の権限は消長を来たさない。

3  原告の被告らに対する明渡請求は権利の濫用か。

(被告らの主張)

被告分会員らは、昭和六二年一二月二一日以降現在まで、原告の違法なロックアウト攻撃にさらされ経済的にも精神的にも甚だしく困窮している。このような状態にある被告分会員が労働者の団結を維持していくため組合事務所の存在は不可欠である。他方、本件建物部分は、昭和五六年一〇月以降、名称こそ変われ原告の従業員により組織された労働組合の事務所として使用され続けてきたのであって、被告らが右建物部分の使用を継続することにより原告に新たな負担を課すものではない。

4  被告らの不法占有により原告が蒙る損害額

(原告の主張)

原告は、訴外会社から本件建物を賃料月額金一〇万円で賃借している。ところで、本件建物部分が同建物の内に占める面積比率は約四四パーセントであること等を勘案すると、原告が被告らの不法占有により蒙る損害は月額金三万七〇〇〇円となる。

第三争点に対する判断

一  争点1について

被告分会に本件権限を生じさせた契約は、昭和五六年一〇月ころ原告と旧分会との間で締結された契約が基となっており(<証拠略>)、その契約の性質は使用貸借若しくはこれ類似の無名契約であるから、契約目的に従った使用が終了することにより返還時期が到来するものと解するのが相当である。

ところで、右契約の目的は、被告分会が本件建物部分を組合事務所として使用することより、会社施設内に活動の拠点を得て組合活動を活発化することにあるものと認められる(<証拠略>、弁論の全趣旨)ところ、被告分会の構成員四名全員が、昭和六二年八月七日、同年六月一七日付けで退職し(当事者間に争いがない)、その際、被告分会は、昭和五八年一〇月以降所持していた本件建物の鍵を原告に返還したこと(<人証略>)、原告は、八月七日以降、現在の被告分会の構成員らが本件建物部分を組合事務所として使用することは認めていなかったこと(<人証略>)、昭和六二年九月一六日付けの被告らから原告に対する団体交渉申入書には団交の場所として生コン会館が指定され、要求事項として分会事務所の貸与が挙げられていることが認められ、右事実からすると、同年八月七日の時点で一旦契約目的の終了により返還時期が到来し、これを了解した被告分会から明渡行為として鍵の返還が行われたものと認めるのが相当である。

したがって、被告分会の本件権限は、昭和六二年八月七日をもって消滅したものというべきである。被告らの主張は、被告分会がその構成員から独立した法主体であることを無視している点で採用できない。

二  争点2について

被告支部に本件権限を生じさせた契約(この基になる契約も昭和五六年一〇月ころ原告と旧支部との間で締結された~<証拠略>)もその目的に従った使用が終了することにより返還時期が到来するものと解するのが相当である。そこで、右契約目的につき考えるに、被告らに対する組合事務所の供与は原告のいわゆる恩恵的給付としてなされていること、昭和五六年一〇月以前には、被告分会のみが、原告会社の構外にある建物を組合事務所として使用することが認められていたこと(<証拠略>)からすると、被告支部との契約の目的は特段の事情のない限り被告分会が存在する限りその活動を援助することにあるものと認めるのが相当である。

被告らは、被告支部が産業別労働組合であること、原告が被告分会に属さない被告支部員の使用を認めていたことをもって被告分会と離れた使用目的があった旨主張する。しかし、被告支部が産業別労働組合であることと支部が本件建物部分を組合事務所として使用する目的との間に直接の繋がりはなく、原告が被告分会と離れた支部の組合活動のために義務なき事務所の貸与に応ずるとは考えられない。また、原告が被告分会に属さない被告支部の使用を認めたのは、被告分会以外の被告支部員を原告が雇用したという例外的場合のことである(被告分会代表者本人)から特段の事情とはいえず、他にも右事情を認めるに足りる証拠はない。

右事実からすると、被告分会員の退社により被告支部との契約もまた目的に従った使用の終了により返還時期が到来し、これを認めた被告支部もまた被告分会員が鍵を返還することによる明渡行為を完了したものと認めるのが相当である。

したがって、被告支部の権限もまた昭和六二年八月七日をもって消滅したものというべきである。

三  争点3について

原告が、昭和六二年一二月二〇日以降ロックアウトを行っていること(<証拠略>)、本件建物部分を昭和五六年一〇月以降組合事務所として使用させていたこと(前記認定)は認められる。しかし、被告らは、昭和六二年一二月二一日、ロックアウトのために張られたバリケードを破り、本件建物の施錠を壊すという違法な態様(被告支部役員はこのため刑事罰を受けた。)で前記認定のとおり権限が消滅し一旦は原告に明渡した本件建物部分を再び占拠したことが認められる(<証拠・人証略>、被告分会代表者本人)ことからすると、前記認定事実のみでは原告の明渡請求が権利の濫用と認めるに足りず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

四  争点4について

原告と訴外会社間の本件建物の賃貸借契約書(<証拠略>)には、賃料が月額金一〇万円である旨の記載がある。しかし、本件建物部分は従来無償で貸与されていたものであり(当事者間に争いがない)、昭和六二年一二月二一日以降は、本件建物部分を含む会社施設はロックアウトのため閉鎖されており、原告において使用することが不可能である(被告分会代表者本人、弁論の趣旨)ことからすると、原告は、仮に被告らが本件建物部分を占有していなかったとしても、右建物部分を何ら利用することなく訴外会社に賃料を払い続けなければならなかったものというべきであるから、原告が仮に賃料を支払続けていたことが認められるとしても、右賃料の支払が直ちに被告らが原告に与えた損害とは認められない。

第四結論

以上によれば、原告の請求は主文第一項掲記の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 野々上友之 裁判官 長谷部幸弥)

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