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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)5997号 判決 1992年3月30日

原告 亡甲野太郎相続財産法人

右相続財産管理人弁護士 石橋一晁

原告補助参加人 豊田志津子

右訴訟代理人弁護士 正木孝明

被告 清本竹一

右訴訟代理人弁護士 奥西正雄

主文

一  被告は、原告に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成元年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、昭和五九年三月末ころ、亡甲野太郎(以下「甲野」という。)に対し、金員を貸し渡した(貸付日、金額、弁済期、利息等の定めについて争いがある。)。

2  甲野と被告は、右貸付に際し、当時甲野所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、譲渡担保権設定契約を締結し、甲野は、被告に対し、本件土地について、昭和五九年三月二九日受付により譲渡担保を登記原因として所有権移転登記をした。

3  右の譲渡担保は、帰属清算型の譲渡担保である。

4  甲野は、右貸金について、弁済期に元金を支払うことができなかった。

5  原告の相続財産管理人は、平成元年七月五日、被告に対し、内容証明郵便をもって、本件土地の所有権を被告に帰属させること及びそれに伴う清算金支払の請求を行った。

二  原告の主張

1  被告は、甲野に対し、昭和五九年三月二九日に、一億八〇〇〇万円を、弁済期を同年五月二五日、利息を二八日につき三分の割合、損害金の定めはなし、利息五六日分天引の約定で貸付ける旨合意して、同日、一億四〇八〇万円、三月三〇日に一四〇〇万円、四月三日に二〇〇万円の合計一億五六八〇万円を貸し渡した。被告は、右のとおり、甲野に対して、一億八〇〇〇万円全額を貸し渡していないので、右の貸付額は、右合計額一億五六八〇万円に、二八日につき三分の割合による五六日分の各天引利息額合計九四〇万八〇〇〇円を加えた一億六六二〇万八〇〇〇円となるが、天引利息額から利息制限法により計算した利息額を差引くと、残元金額は、別紙元利金計算表のとおり、一億六〇五三万七五六〇円となる。

2  甲野は、昭和五九年五月二五日、被告との間で、右貸付について、貸付元金一億八〇〇〇万円、約定利息二八日につき四分、損害金の定めなしとする準消費貸借契約を締結し、天引約定利息七二〇万円を支払った。

3  甲野は、その後も、昭和五九年六月二二日、同年七月二〇日、同年八月一七日、同年九月一三日の各期日に、被告との間で、貸付元金一億八〇〇〇万円、約定利息二八日につき四分、損害金の定めなしとする準消費貸借契約を締結し、それぞれの期日に天引約定利息七二〇万円を支払った。

4  仮に、被告と甲野間で、昭和五九年四月二六日、買戻し特約付で、本件土地を一億八〇〇〇万円で売渡す旨の売買契約が締結されているとしても(以下「本件契約」という。)、本件契約は、右1ないし3の債権の担保のための譲渡担保権設定契約である。

5  被告は、原告に対し、次の清算金を支払うべき義務がある。

(一) 相続財産管理人が帰属清算を要求した平成元年七月五日(以下「基準時」という。)における本件の貸付金は、別紙元利金計算表のとおり利息制限法所定の利率で計算して、残元金額が一億三三九三万五二四七円、残利息額が九四二三万一七〇二円であり、残債務総額は、二億二八一六万六九四九円である。

(二) 本件土地の右基準時における適正評価額は、少なくとも三億三一九五万円である。

(三) 被告は、昭和六一年一〇月ころから平成三年一一月末日まで、本件土地を使用して駐車場を経営し、月五〇万円、合計三〇五〇万円の収益を得ているが、被告は、本件土地の所有権を取得したものではないから、右の収益は、法律上の原因のない利得として原告に返還されるべきであって、被担保債権額からこれを相殺すべきである。

(四) なお、被告が本件の譲渡担保権により優先弁済を受けうる利息、遅延損害金の範囲は、民法三七四条の準用により、「満期となりたる最後の二年分のみ」であり、その余の利息、遅延損害金等については、優先弁済を受けることはできない。

6  よって、原告は、被告に対し、本件土地の基準時における評価額三億三一九五万円から本件貸金について利息制限法によって計算した残元金額一億三三九三万五二四七円及び累積利息額九四二三万一七〇二円を差引き、これに前記収益金三〇五〇万円を加算した清算金一億三四二八万三〇五一円の内金五〇〇〇万円の支払を求める。

三  被告の主張

1  甲野は、被告に対し、昭和五九年三月二八日、弁済期を同年四月二八日、利息を月三分、損害金を日歩一三銭、利息天引額を一ヶ月分(三〇日分)五四〇万円として、一億八〇〇〇万円を貸し渡している。

2  甲野は、弁済期の昭和五九年四月二八日に右貸金の弁済ができなかったため、同日、被告との間で、本件土地を一億八〇〇〇万円で売渡す旨の本件契約を締結し、右貸金債務一億八〇〇〇万円を右代金に充当した。

3  仮に、本件契約が譲渡担保権の行使と解される余地があるとしても、本件土地の価値は、当時、右債権額を下回っていたのであり、本件契約は、一億八〇〇〇万円の債権の清算でもある。

4  譲渡担保権設定者は、帰属清算を求める権利を有しない。

四  争点

1  本件契約は、買戻し特約付売買契約か、譲渡担保権設定契約か。

2  本件契約が譲渡担保権設定契約であるとすると、譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者に対し、帰属清算を請求できるか。

3  本件契約が譲渡担保権設定契約であるとすると、被告が原告に対し支払うべき清算金は、いくらか。

第三判断

一  前記争いのない事実並びに《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  甲野は、乙山商事の商号で不動産事業を営んでおり、本件土地上の借地人及び借家人の立退料並びに本件土地の買受け資金として二億円の資金を必要としていたため、昭和五九年三月二八日、高利金融業を営んでいた被告から、本件土地を譲渡担保に供したうえで、一億八〇〇〇万円の融資を受けることになった。ただし、被告は、月三分の割合で二月分(正確には五九日分)の利息の天引をして、右金額を貸付けているので、甲野が受領した金額は、一億六九二〇万円であり、天引利息額から利息制限法により計算した利息額を差引くと、元金充当額は、別表のとおり、六六九万七四七九円になる。なお、被告は、昭和五九年三月二八日の右譲渡担保権設定契約に従って、同月二九日、本件土地について、譲渡担保を原因として所有権移転登記をしている。

また、甲野は、同年三月二八日、右貸付と別個に、被告から、前同様の資金として、守口市八雲東町二丁目一七七番五宅地一四〇・七六平方メートル及び同所一七七番地の五家屋番号一七七番五共同住宅を譲渡担保に供したうえで、訴外中村和子、豊田志津子と連帯して二〇〇〇万円を借受けた。

2  甲野は、本件土地を売却したお金で、被告に対し、右貸金を弁済するつもりであったが、本件土地がなかなか売却できなかったため、昭和五九年五月二五日の弁済期に、月四分の割合で一ヵ月(二八日)分の金利(一億八〇〇〇万円の四分で七二〇万円)を支払って、右貸金を元金とする準消費貸借契約を締結して、その弁済期を一ヵ月(二八日)先と定め、その後も、同様に六月二二日、七月二〇日、八月一七日、九月一四日に一ヵ月(二八日)分の金利を支払って、一億八〇〇〇万円を元金とする準消費貸借契約を締結した。なお、甲野は、その際、額面一億八〇〇〇万円の約束手形を被告に新たに差入れたり、既に差入れていた手形の支払日を書き換えるなどしていた。

3  甲野は、昭和五九年五月末か六月ころ、本件土地について数件の引合を受けており、同年七月ころには、ある買主と売買契約を締結しようとしたところ、直前に買主から断りの連絡を受けたこともあったが、その後も、本件土地の買主を捜していた。

4  甲野は、本件土地及びその周辺の土地の開発事業に行き詰まり、暴力金融にも手をだしていたため、昭和五九年九月二九日、自殺したが、自殺する直前まで、本件土地の買主を捜し、転売をする努力を継続していた。

以上の事実が認められる。なお、原告は、「被告は、甲野に対し、昭和五九年三月二九日に一億四〇八〇万円、三月三〇日に一四〇〇万円、四月三日に二〇〇万円の合計一億五六八〇万円を貸し渡した。被告は、右のとおり、甲野に対して、一億八〇〇〇万円全額を貸し渡していないので、右の貸付額は、右合計額一億五六八〇万円に、二八日につき三分の割合による五六日分の各天引利息額合計九四〇万八〇〇〇円を加えた一億六六二〇万八〇〇〇円となるが、天引利息額から利息制限法により計算した利息額を差引くと、残元金額は、別紙元利金計算表のとおり、一億六〇五三万七五六〇円となる。」旨主張し、《証拠省略》によれば、甲野が支払った立退き料の合計額が、原告が主張する金額であることは認められるが、甲野は、後記認定のとおり、本件の一億八〇〇〇万円のほかに、後日、被告から三〇〇〇万円、一〇〇〇万円等の金銭を追加借入れしているのであるから、被告から一億八〇〇〇万円を借入れる合意を取付けておりながら、その全額を借入れずに、後日、被告から別途に追加融資を受けるということは考えにくく、また、前記認定のとおり、甲野が被告に一億八〇〇〇万円を前提として毎月七二〇万円の利息の支払を継続したことからすると、借入れ金額については、被告が主張するとおり一億八〇〇〇万円(ただし、月三分の割合による利息二ヵ月分を天引きしていることは前記のとおりである。)と認めるのが相当である。

二  《証拠省略》によれば、被告と甲野は、昭和五九年四月二六日付で、甲野が被告に対し、本件土地を一億八〇〇〇万円で売渡す旨の契約を締結したこと、及び、右契約は、買戻し特約付であり、甲野が同年八月二六日までに二億一二六五万四〇〇〇円を支払えば、本件土地を買戻すことができるとの特約がついていたこと、以上の事実が認められる。しかしながら、右一認定の事実及び次に認定する事実によれば、(一)甲野は、本件契約締結後も、被告に対し、一億八〇〇〇万円の貸金について、一ヵ月(二八日)について月四分の利息を支払い続け、同額の額面金額の約束手形を新たに差入れたり、既に差入れていた手形の支払日を書き換えたりしていたのであり、被告も、本件契約後も、本件貸金が存続していることを前提としてその利息を受領していた、(二)甲野は、本件土地を転売して、その売買代金をもって、被告に対し本件貸金を返済するとの当初からの計画に従って、自殺する直前まで、本件土地の買主を捜し、転売をする努力を継続していたのであり、被告に本件土地を売却したという認識を有してはいなかった、(三)被告は、昭和五九年三月二六日の譲渡担保契約に従って、本件土地について、譲渡担保を原因として所有権移転登記をしているが、本件契約の買戻し期限を経過した後、甲野が自殺するまで約一ヵ月位の期間があったにもかかわらず、売買を原因とする所有権移転登記手続をしていない、(四)本件契約は、売買契約といっても買戻し特約付であって、被告も、その本人尋問において、「(乙三について)売買をしてもらって売りの権利を自分に委託して欲しいということでした。」「(乙七について)売買契約が終わって甲野が実測したのです。買戻すために売りに行くのです。」、「甲野は、自殺する直前まで本件土地の買主を捜していたし、被告も、本件契約の締結後、甲野の買主捜しに協力した」旨供述しているように、純粋な売買契約ということはできない、(五)以上(一)ないし(四)によれば、本件契約は、形式は、買戻し特約付売買契約であるが、実質的には、本件貸金を担保するための譲渡担保権設定契約であると認めるのが相当である。すなわち、被告は、昭和五九年三月二八日にも、本件土地について譲渡担保権設定契約を締結しているが、本件契約は、形式的にはこれを売買契約にまで高めたものであるものの、実質的には、債権担保のための譲渡担保契約であるという点では、前の契約と同じ内容のものである。

被告は、右の点について、「(一)甲野は、本件契約に買戻しの特約が付いていたので、本件契約後も本件土地の買主を捜していた、(二)本件貸付にあたり、不動産を担保に取っていたため、手形は受領していない、(三)したがって、乙三の本件契約は、純粋の売買契約である。」旨主張しあるいはその旨供述するが、本件契約が純粋の売買契約であれば、甲野が本件契約後に被告に本件貸金についての利息を支払うことは考えられないところ、前記のとおり、甲野は、これを支払っていたものであり、そして、この点については、(一)《証拠省略》によれば、甲野は、自殺する直前に、豊田に対して、丙一、二、四、六の手形が入った紙袋を手渡していることが認められ、《証拠省略》によれば、支払期日昭和五九年七月二〇日を消して、同年八月一七日と記載された額面金額一億八〇〇〇万円、振出人金井田鶴子、第一裏書人を甲野とする約束手形が被告から甲野の手元に戻されていたこと、及び、被告は、不動産を担保に取っている場合でも、手形が差し入れられるのでなければ、貸付をしないものであり、本件の一億八〇〇〇万円の貸付に際しても、甲野が額面金額一億八〇〇〇万円の手形を差し入れていたのであるが、右手形が甲野の手元に戻されていたということは、甲野が右一億八〇〇〇万円を弁済してはいない以上、甲野が右八月一七日に被告に対し一ヵ月分の利息を先払いし、かつ、同一額面金額の別の手形を差し入れて、被告から丙一の手形の返還を受けたとの事実が推認されるのであり、また、(二)被告は、昭和五九年五月九日に三〇〇〇万円、九月一三日に一〇〇〇万円を甲野に貸し付けているのであるが、甲野は、これらを被告に対する本件貸金等の利息の支払に充てているのであり、更に、(三)《証拠省略》によれば、甲野は、昭和五九年七月三日に門真市本町一三七番一一の宅地一八七・一一平方メートルを松原建設株式会社に売却しているが、その売却代金の一部で、被告に対し、本件貸金の利息を支払ったことが認められ、(四)以上の事実によれば、甲野は、自殺するころまで、被告に対し、本件貸金の利息の支払を継続していたものであり、かつ、本件土地を他に転売すべくその買主を捜していたのであり、したがって、乙三の本件契約は、純粋の売買契約であるとの被告の前記主張ないし供述を、採用することはできない。

なお、丙一の手形の振出人である金井田鶴子は、昭和五八年暮か五九年初めに不渡りを出して、銀行取引は中止になっていたのであるが、前記認定のとおり、被告は、手形の差入れがなければ、貸付をしないのであるから、金井振出の手形を受領して貸付を実行したということは、被告は、金井の手形が不渡りになっていたことは知らなかったものと認められる。ただし、乙二六には、その本文末行に、「差入れたる手形(金井田鶴子振出)が昨年末不渡りになり深くお詫び致します。」との記載があるが、《証拠省略》によれば、乙二六は、住所と署名部分のみが甲野の署名であるが、その余の部分は、甲野以外の者が記載したものであること、乙二六の書面の体裁や形式は、乙一八と同様のものであることが認められ、更に、後記のとおり、乙一八は、甲野が予め白紙に署名押印していた書類に、後日、甲野以外の者が甲野の了解を得ずに本文の記載を書き加えたものであると推認されるものであること、及び、乙二六の記載内容に照すと、乙二六も、乙一八と同様に空白の書類に甲野が署名していたものに、後日、甲野以外の者が甲野の了解を得ずに本文の記載を書き加えたものであると推認するのが相当であり、したがって、乙二六もまた真正に成立したものと認めることはできない。

三  被告は、「仮に、本件契約が譲渡担保権の行使と解される余地があるとしても、本件土地の価値は、当時、右債権額を下回っていたのであり、本件契約は、一億八〇〇〇万円の債権の清算でもある。」と主張しあるいはその旨の供述をし、更に、乙一八を提出して、本件契約をもって帰属清算をした旨の主張をするが、帰属清算型の不動産の譲渡担保の場合、債権者が目的不動産を適正に評価したうえで、債務者に対し清算金の支払又はその提供をし、若しくは、目的不動産の適正評価額が債務額を上回らない旨の通知をすべきところ、被告が甲野と本件契約を締結したときに、本件土地を適正に評価したうえで、本件土地の適正評価額が債務額上回らない旨の通知をしたことを認めるに足りる証拠はない。また、乙一八については、被告は、被告本人尋問のときは、乙三以外に本件貸金を清算するとの趣旨の書面はない旨供述しており、その後、「乙三以外に乙一の譲渡担保契約を清算するとの文書を作ったかどうかについて記憶は定かではない。」と供述を訂正したうえで、平成三年一月二二日の第三回口頭弁論期日において、乙一八を証拠として提出したという経緯、及び、乙一八は、甲野が署名した書類ではあるが、住所と署名以外の文章は、甲野以外の者が記載したものであることが明らかであること、並びに、前記のとおり、甲野は、被告に対して、自殺をするころまで本件貸金の利息を支払い、本件土地の買主を捜していたことからすると、乙一八は、その記載内容からいっても、甲野が予め白紙に署名押印していた書類に、後日、甲野以外の者が本文の記載を書き加えたものであると推認するのが相当であり、したがって、乙一八は、真正に成立したものは認めることはできず、以上によれば、被告の前記主張及び供述は、採用することができない。

四  帰属清算型の不動産の譲渡担保の場合、債権者が目的不動産を適正に評価したうえで、債務者に対し清算金の支払又はその提供をしたとき、若しくは、目的不動産の適正評価額が債務額を上回らない旨の通知をしたとき、又は、債権者において目的不動産を第三者に売却したときは、債務者は、受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生するとともに、右時点を基準時として、清算金の有無及びその額が確定されるものと解するのが相当である(最判昭和六二年二月一二日民集四一巻一号六七頁)ところ、譲渡担保権設定者は、債務の履行遅滞に陥った後は、受戻権行使の利益を自ら放棄することができるのであるから、譲渡担保権者が清算金の提供も清算金がない旨の通知もしない場合に、譲渡担保権者に対し、自ら受戻権行使の利益を放棄して、清算金支払の請求をすることができると解すべきである。そして、譲渡担保権設定者は、受戻権行使の利益を自ら放棄して、譲渡担保権者に対して清算金支払の請求をしたときに、受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い、同時に被担保債権消滅の効果が発生すると解すべきであるから、譲渡担保権設定者が清算請求をした場合は、右時点を基準時として、清算金の有無及びその額を確定すべきである。

したがって、原告は、平成元年七月五日、被告に対し、内容証明郵便をもって、本件土地の所有権を被告に帰属させること及びそれに伴う清算金支払の請求を行ったことは、前記のとおりであるから、本件においては、右時点をもって、清算金の有無及びその額を確定すべきである。

五  帰属清算の金額について

1  本件土地の価格について

鑑定の結果によれば、本件土地の平成元年七月五日における時価は、三億二七二六万五〇〇〇円であると認められる。

2  利息制限法による元本充当額について

本件貸付金の残債権総額を利息制限法所定の利率(年一五パーセント)で計算すると、平成元年七月五日においては、別表のとおり、残元金額が一億四六六七万七三九〇円、残利息額が一億〇四〇三万三三九〇円となり、これを合計した残債権総額は、二億五〇七〇万〇七八〇円である。

なお、《証拠省略》によれば、被告と甲野間で昭和五九年三月二八日付で作成された譲渡担保契約証書に「債務不履行のときは日歩13銭の割合による損害金を支払う」との記載があることが認められるが、被告と甲野間においてその後締結された準消費貸借契約において、遅延損害金の定めがあったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、右の準消費貸借契約は、甲野が弁済期日に、先払の月四分の利息を持参するのが原則となっており、かつ、甲野は、右利息を支払えないときは、本件土地が、確定的に被告の所有となるとの認識のもとに右利息の支払を継続したものであり、したがって、被告としては遅延損害金について特に定める必要はなかったものであるから、本件の準消費貸借契約において、債務不履行の場合の遅延損害金の定めがあったものと認めることはできない。右によれば、本件の準消費貸借契約においては、約定利息月四分の定めしかなかったものであるから、別表のとおり、利息制限法所定の利率を年一五パーセントとして計算するのが相当である。

3  収益清算について

《証拠省略》によれば、被告は、昭和五九年九月二九日に甲野が自殺した後、遅くとも同六一年一〇月から平成三年一一月末までの間、本件土地を使用して駐車場を経営し、少なくとも月四〇万円の収益を得ていることが認められるが、右期間のうち、原告が受戻権を放棄して帰属清算を求めた平成元年七月五日までの間は、被告は、本件土地の所有権を確定的に取得したわけではなく、譲渡担保権を取得しただけであるから、被告と甲野間に特約がない限り、民法三七一条の類推適用により、被告は、右賃料を収受する権利を有しないものといわなければならない。そして、本件においては、被告と甲野間に右特約があったことを認めるに足りる証拠はないから、前記期間における被告の右収益は、法律上の原因のない利得であると認められ、被担保債権額からこれを差引くべきであるところ、前記期間における被告の収益は、四〇万円に三三ヵ月を乗じた一三二〇万円であり、また、原告が、平成三年一二月三日の本件口頭弁論期日において、相殺の意思表示をしたことは、記録上明らかである。

4  原告は、譲渡担保権によって担保される債権の範囲について、民法三七四条の規定を類推適用すべきであると主張するが、譲渡担保権によって担保されるべき債権の範囲については、強行法規又は公序良俗に反しない限り、その設定契約の当事者間において自由にこれを定めることができ、第三者に対する関係においても、民法三七四条による制約を受けないものと解すべきである(最判昭和六一年七月一五日判時一二〇九号二三頁参照)ので、原告の右主張は採用することができない。

5  以上によれば、清算金は、別表のとおり八九七六万四二二〇円であるが、本件の鑑定費用三〇万円は、清算費用の中に含まれるので、被告が原告に支払うべき清算金は、右金額から右三〇万円を差引いた八九四六万四二二〇円となる。

六  結論

よって、原告の請求は、理由がある。

(裁判官 設楽隆一)

<以下省略>

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