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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)6447号 判決 1991年11月28日

原告

信用組合大阪興銀

右代表者代表理事

李熙健

右訴訟代理人弁護士

曽我乙彦

松本佳典

中澤洋央兒

被告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

出宮靖二郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二七七万〇五〇〇円及びこれに対する平成元年七月一八日から支払ずみまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  基本約定

(一) 原告は、昭和六二年九月五日、訴外Mとの間で信用組合取引約定を締結し、訴外Mは、同取引に基づいて原告に対して負担すべき債務につき、債務の履行を遅滞したときは期限の利益を喪失し、年18.25パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨を約した。

(二) 被告は、昭和六三年二月二五日、原告に対し、前記取引約定に基づいて訴外Mが原告に負担する現在及び将来の債務について連帯保証する旨を約した(以下「本件保証」という。)。

2  手形貸付

(一) 原告は、昭和六三年四月二〇日、前記取引約定に基づき、訴外Mに対し、弁済期を同年五月一〇日と定めて一〇〇〇万円を手形貸付の方法で貸し渡した。

(二) その後、原告は、訴外Mから昭和六三年九月末日までの利息の弁済を受け、右手形貸付金の元金の弁済期を右同日まで猶予し、その間、訴外Mから五〇〇万円の弁済を受けた。

3  証書貸付

(一) 原告は、昭和六二年九月五日、前記取引約定に基づき、訴外Mに対し、利息を年六パーセント、昭和六二年九月末日を第一回として毎月末日限り、元金返済分を三〇万円ずつ、利息を一か月分先払の約定で一〇〇〇万円を証書貸付の方法で貸し渡した。

(二) 訴外Mは、元金二一〇万円及び昭和六三年九月末日までの利息を返済したが、昭和六三年四月末日支払分の分割金の支払を怠り、期限の利益を喪失した。

4  配当金による一部弁済

原告は、平成元年七月一七日、被告所有物件の担保権実行による不動産競売事件により一二〇〇万円の配当金を受け、右配当金を前記手形貸付及び証書貸付の残元金合計一二九〇万円に対する昭和六三年一〇月一日から右配当期日までの遅延損害金一八七万〇五〇〇円及び残元金の一部一〇一二万九五〇〇円にそれぞれ充当した。

5  結語

よって、原告は、被告に対し、連帯保証契約に基づき、前記配当金充当後の残元金二七七万〇五〇〇円及びこれに対する配当期日の翌日である平成元年七月一八日から支払ずみまで年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  基本約定について

(一) 請求原因1(一)の事実は知らない。

(二) 請求原因1(二)の事実は否認する。

すなわち、被告は、昭和六三年二月二五日、原告に対し、訴外Mを主債務者として包括根保証をする旨の条項を含む保証約定書を差し入れたが、同書面は、同日、訴外Mが原告から八〇〇万円を借り入れるに際して当該借入金債務を保証するために作成されたものであり、訴外Mや原告の融資担当者からも包括根保証である旨の説明はなされなかったもので、原・被告間において包括根保証契約は締結されていない。

仮に、右保証約定書が八〇〇万円の借入に際しての個別保証を約したものでないとしても、保証期間及び保証限度額の定めのない包括根保証条項を含む取引約定書は、主債務の増減・変動について熟知し得る者の保証に限って利用するのが今日の銀行実務の在り方であって、右保証約定書が差し入れられた同じ日に原告が被告との間で極度額を一二〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結していることに照らせば、原・被告間の前記保証についても極度額を同額とする旨の黙示の合意があったものというべきである。

2  手形貸付について

(一) 請求原因2(一)の事実は否認する。

原告が手形貸付の証拠とする書替手形は、訴外Mが行方不明の間に、原告の従業員が同人の印章を預かっていた被告に署名押印させたものであり、手形貸付の事実はない。

(二) 請求原因2(二)の事実は知らない。

3  証書貸付について

請求原因3(一)(二)の事実はいずれも知らない。

4  配当金による一部弁済について

請求原因4の事実のうち、原告がその主張の日に一二〇〇万円の配当を受けたことは認めるが、弁済の充当関係は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一1  請求原因1(一)の事実は、証人張本永次及び同Mの各証言及び<書証番号略>(ただし、M作成部分については成立に争いがない。)により、これを認めることができる。

2  同2の事実は、M作成部分については成立に争いがなく、原告作成部分については<書証番号略>(なお、同号証の被告作成部分については、<書証番号略>の被告の氏名が被告の自署であることは被告本人尋問の結果により明らかであり、これと<書証番号略>の被告の氏名とを対照すると、その筆跡は異なるものであることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、その名下の印影も訴外Mによって被告の印章が冒用されたものである可能性を否定できず、被告作成部分については成立を認めるに足りない。)、<書証番号略>、前掲各証人及び証人花田智満の各証言によりこれを認めることができる。証人Mの証言中この認定に反する部分は、内容的にも曖昧であり、責任回避的傾向が看取されるので直ちには措信できない。

3  同3の事実は、M作成部分については当事者間に争いがなく、その余の部分については<書証番号略>及び前掲証人の各証言によりこれを認めることができる。

二そこで、請求原因1(二)の事実(本件保証)について判断する。

1  <書証番号略>、前掲証人の各証言、被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  被告は、訴外Mと昭和四九年に婚姻して二子を儲けたが、同五七年に訴外Mの女性関係が原因で協議離婚し、被告は、美容部員として稼働しながら二子を引き取って養育していた。

(二)  訴外Mは、右婚姻当時から清涼飲料水の製造・販売等の自営業を営んでおり、原告とは昭和六一年ころから預金取引があったが、昭和六二年三月ころ、「セフティーライフ」の商号で商品の宅配を兼ねたコンビニエンスストアーを開業し、同年九月五日、連帯保証人を訴外土橋松平とする信用組合取引約定を締結して原告から事業資金として一〇〇〇万円を借り入れ、原告から事業資金の融資を受けるようになった。

(三)  訴外Mは、離婚後数年間は被告との音信を断っていたが、たまたま当時の被告住居の近所に前記事情の店舗を構えたことから、子との面接交渉等のため被告方を訪問するようになり、昭和六二年一二月ころ、前記事業のため雇用していた女性従業員が退職して人手に困窮したため、その後任を被告に依頼し、被告は、同六三年一月ころから訴外Mの従業員となり、仕入業務、在庫管理及び商品選定等の仕事に従事するようになった。

(四)  訴外Mは、昭和六三年二月、事業資金として八〇〇万円の融資を受ける必要を生じたため、原告の融資担当者であった訴外張本永次にその旨依頼したが、前年九月に借り入れた一〇〇〇万円の分割返済が滞りがちであったため、右担当者からは新規に保証人を追加するのでなければ融資には応じられないとの回答を受けた。

(五)  そこで、訴外Mは、同年三月に新規開業のチェーン店から一〇〇〇万円の支払を受ける目処があったため、その旨を説明して被告に右借入の保証人になってくれるよう懇願し、被告も右新規開業者に電話で入金の事実を確認のうえ、右借入の保証人になることを承諾し、昭和六三年二月二五日、訴外Mとともに原告の北支店に出向き、訴外Mを主債務者とし保証期間及び保証限度額の定めのないいわゆる包括根保証をする旨の条項を含む保証約定書、被告所有の不動産について信用組合取引によって訴外Mが原告に対して負担する債務を被担保債権とする極度額一二〇〇万円の根抵当権を設定する旨の根抵当権設定契約書及び保証人の印鑑届等を原告に差し入れて本件保証をした。

(六)  ところで、被告が本件保証をするについては、訴外Mから原告側の融資担当者張本に対し、八〇〇万円の個別保証にしてもらいたいとの要望がなされたものの、それまでの残債務があったことから張本に右希望を聞き入れてはもらえず、そのため、被告は前記保証約定書を差し入れるにいたったが、右と同時に締結した根抵当権設定契約については、右張本が当時の訴外Mの担保預金額や残債務の額及び新規に融資する八〇〇万円や訴外Mに対する将来の与信見込額等を総合的に勘案し、極度額を一二〇〇万円と決定した。

(七)  訴外Mは、右融資手続完了の後、原告から八〇〇万円の融資を受けたが、右借入金は、昭和六三年四月一〇日ころ、新規開業者からの前記入金をまって、被告が訴外Mと原告の北支店に同道のうえ完済したものの、そのころには訴外Mの事業の資金繰は相当に逼迫しており、同月一五日、訴外Mは原告に対して一〇〇〇万円の融資の申込をなし、同月二〇日に融資の実行を受けたが、訴外Mは同年五月中に事実上倒産し、債権者からの追及を逃れるために四国方面に遁走した。

(八)  なお、被告が、原告のために根抵当権を設定した不動産については、右設定当時、すでに債権額一二〇〇万円の一番抵当権が設定されており、同年五月二四日には右一番抵当権に基づく競売開始決定がなされ、右不動産は二八八〇万円で競落され、平成元年七月一七日、前記一番抵当権者は被担保債権全額である一四二四万二五〇七円及び手続費用五四万五八一〇円の配当を受けるとともに、原告も根抵当権の極度額である一二〇〇万円の配当を受けたがなお余剰が存した。

2 ところで、一般に、債権者と保証人との間でいわゆる保証期間及び保証限度の定めがない包括根保証契約が締結された場合には、保証人の責任が苛酷にならないよう、主たる債務者と保証人との関係、保証契約が締結されるに至った事情、債権者と主たる債務者との取引の態様及び取引経過や債権者の地位等の諸般の事情を考慮して、保証の範囲ないし限度額については、信義則に従って当事者の意思を合理的に解釈すべきである。

そこで、本件保証の範囲について右の見地から検討すると、原告と訴外Mとは、本件保証がなされる半年ほど以前から訴外Mの事業資金の融資を中心とする信用金庫取引を開始したものであり、一方、被告は訴外Mの従業員に過ぎず、訴外Mの事業の詳細な経営状態や経理内容を知りうる立場にはなかったこと、また、被告が本件保証をなすに至ったのも原告から借り入れる八〇〇万円については、その返済に確実な見込があったことによるのであって、これについては現に予定とおりの返済がなされていること、また、被告は、本件保証に際し、訴外Mを介して原告の融資担当者に対して八〇〇万円の個別保証にしてもらいたい旨を申し入れていたこと、しかも、競売手続での売却価格からして、本件保証と同時に締結された根抵当権設定契約に際しても、担保物件の担保価値には余裕があったものと推認されるところ、それにもかかわらず、原告の融資担当者は被告から極度額を一二〇〇万円とする根抵当権の設定契約書を徴したものであって、右限度額は、融資担当者が訴外Mとの取引経過等に鑑みて、残債務の額や他の担保との兼ね合いを考慮のうえ、将来における訴外Mに対する与信状況をも見越し、訴外Mの原告に対する債務を担保するに足りるものとして決定されたものであることは前記説示のとおりであり、金融機関としての原告の地位をも勘案すると、本件保証の範囲は、本件保証契約と同日に締結された根抵当権の極度額をもって被告の保証責任の限度(すなわち、いわゆる債権極度額)とするものであったと解するのが合理的であり、右保証責任については、原告が競売手続において一二〇〇万円の配当を受けたこと(この事実は当事者間に争いがない。)によって消滅したものというべきである。

三以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却し、訴外費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官石井教文)

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