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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)9865号 判決 1992年3月23日

原告

宮田和彦

被告

塩田元

主文

一  被告は、原告に対し、金三一四七万五四一〇円並びにうち金三〇一七万五四一〇円に対する昭和六一年八月三一日から支払済みまで及びうち金一三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一五分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

被告は、原告に対し、金六五九九万〇七四八円並びにうち金六四六九万〇七四八円に対する昭和六一年八月三一日から支払済みまで及びうち金一三〇万円に対する本件判決確定の日の翌日から支払済みまでいずれも年五分の割合による金員を支払え

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(一) 日時 昭和六一年八月三一日午後一一時四〇分ころ

(二) 場所 大阪市城東区野江四丁目一番三号先大阪市道路上

(三) 車両 被告が運転し、原告が同乗していた普通乗用自動車(なにわ五五な三三八四号、以下「本件車両」という。)

(四) 態様 本件車両が時速八〇キロメートルの速度のまま、発生場所にある交差点(以下「本件交差点」という。)を右折しようとしたところ、曲がりきれずに中央分離帯に接触し、対向車線に横転した。

(五) 結果 原告は、頭部打撲、顔面挫創、左後耳挫創、左肩擦過傷、左膝部擦過傷、左耳出血、両鼻出血、左側頭部骨折、頭蓋内出血(左硬膜外出血)、脳挫傷等の傷害を受けた。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、加害車を保有しこれを自己のために運行の用に供しており、安全に交差点を右折できる速度にまで減速すべき注意義務に違反して、時速八〇キロメートルの高速で右折した過失のため、本件事故を惹起させたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  治療経過及び後遺障害の程度

(一) 治療経過

原告は、本件事故による受傷の治療のため、次のとおり入通院した。

(1) 明正病院

入院 昭和六一年八月三一日から同年一〇月六日まで三七日間

通院 同月七日から昭和六三年三月一九日まで(実治療日数一八〇日)

(2) 福地眼科京橋分院

通院 昭和六一年九月一七日から昭和六三年三月一〇日まで(実治療日数三二日)

(3) 京橋耳鼻科

通院 昭和六一年九月一二日から昭和六三年三月一四日まで(実治療日数二〇三日)

(4) 神戸大学医学部附属病院

通院 昭和六二年一〇月一三日から同年一二月一八日まで(実治療日数四日)

(二) 後遺障害の程度

原告は右の治療を受けたが、昭和六三年三月一九日に症状固定し、両眼視力障害、嗅覚及び味覚障害、両耳聴力障害(耳鳴)、顔面神経麻痺等の後遺障害が残存し、両眼視力障害は自賠法施行令別表第八級に、嗅覚及び味覚障害は同表第九級に、両耳聴力障害(耳鳴)は同表第一二級に、顔面神経麻痺は同表第一四級にそれぞれ相当するから、以上の後遺障害を総合すると同表第六級に相当する。

4  損害

(一) 治療費 計二三一万九二四〇円

本件事故による受傷のため、次のとおり、治療費が必要であり、その他に一万六〇〇〇円の文書料が必要であつた。

(1) 明生病院 二二二万三三〇〇円

(2) 京橋耳鼻科 四万五五八〇円

(3) 福地眼科京橋分院 二万四一一〇円

(4) 神戸大学医学部附属病院 四九三〇円

(5) 住友病院 五三二〇円

(二) 治療関係費

(1) 付添看護費 三一万八四一〇円

昭和六一年九月二日から同月三〇日までに二八万五四一〇円の付添看護費が必要であり、その後の同年一〇月一日から同月六日までの六日間も一日当たり五五〇〇円の付添看護費が必要であつた。

(2) 入院雑費 四万八一〇〇円

前記三七日間の入院中、一日当たり一三〇〇円の雑費が必要だつた。

(3) 通院交通費 計一三万八八四〇円

本件事故による通院のために、次のとおり交通費が必要であつた。

ア 明生病院(一八〇日分) 五万七六〇〇円

イ 福地眼科京橋分院(三二日分) 一万〇二四〇円

ウ 京橋耳鼻科(二〇三日分) 六万四九六〇円

エ 神戸大学医学部附属病院(四日分) 五三六〇円

オ 住友病院(二日分) 六八〇円

(三) 休業損害 計三八一万五〇〇〇円

原告は、本件事故当時、八尾自動車興産株式会社に技能指導員として勤務し、一か月約二七万円を得ていたが、本件事故により、昭和六一年九月一日より昭和六二年五月三一日まで休業し、右会社に出社するようになつてから後も、治療のため、欠勤、遅刻及び早退を余儀なくされた。そのため、次のような損害を被つた。

(1) 休業期間中給料分 二四三万円

右のとおり、九か月間休業したから、次のとおりの給料分の減収が生じた。

(算式)270,000×9=2,430,000

(2) 賞与減額分 七〇万一七八九円

右の休業等により、昭和六一年冬季賞与が三三万二九五七円、昭和六二年夏季賞与が三二万六二八二円、同年冬季賞与が四万二五五〇円それぞれ減額された。

(3) 欠勤、遅刻及び早退による給与減額分 六八万三二一一円

(四) 後遺障害による逸失利益 六一三二万七五八八円

原告は、昭和三九年一月三一日生で、症状固定後さらに四三年間就労し、その間に、一年当たりで本件事故前の年収額四〇四万八一九四円程度の収入を得ることが可能であつたところ、本件事故の後遺障害により、六七パーセントの労働能力を喪失したから、これによる逸失利益をホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると、次のとおり六一三二万七五八八円となる。

(算式)4,048,194×0.67×22.611=61,327,588

(五) 慰謝料 計一一四三万二〇〇〇円

(1) 入通院慰謝料 二二〇万円

原告は、本件事故による重傷を負い、三七日間入院し、約一八か月にわたり通院することを余儀なくされた。

(2) 後遺障害慰謝料 九二三万二〇〇〇円

原告は、前記の程度の重い後遺障害を残した。

(六) 弁護士費用 一三〇万円

原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を依頼し、右金額の報酬を支払う旨約した。

(以上損害額合計 八〇六九万九一七八円)

5  損害の填補

原告は、被告から、損害の填補として、治療費分二二四万六六六〇円、付添看護費分二八万五四一〇円、通院交通費分一一万七六八〇円、休業補償金分二五三万五〇〇〇円の各支払を受け、また、自動車損害賠償責任保険から九四九万円の支払を受けたので、前記損害額合計から控除する。

6  結論

よつて、原告は、被告に対し、損害賠償請求として、金六五九九万〇七四八円及びこれから弁護士費用を除いた六四六九万〇七四八円に対する本件事故発生の日である昭和六一年八月三一日から、うち弁護士費用分の一三〇万円に対する本件判決確定の日の翌日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(四)は認めるが、(五)は知らない。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3(一)の事実は明らかに争わない。

同3(二)のうち、両眼視力障害が自賠法施行令別表第八級に相当することは認めるが、嗅覚及び味覚障害が同表第九級に、両耳聴力障害(耳鳴り)は同表第一二級に、顔面神経麻痺は同表第一四級にそれぞれ相当し、原告の後遺障害を総合すると同表第六級に相当する程度となるとの主張は争う。

(二)  原告の後遺障害としては、両眼視力障害の他、右別表第一二級に相当する嗅覚脱失、同表第一二級一二号に相当する頭部外傷後の障害等があり、全体として原告には同表第七級に相当する程度の後遺障害があるが、聴力障害は同表のいずれの等級にも該当しないものである。

4(一)  同4の事実は知らない。

(二)  原告は、治療中も従来の業務に従事し、症状が固定した昭和六二年三月一九日以降現在に至るまで従来と同じ職場である自動車教習所に勤務し、従来と同様に実技講習の指導員として教習車に乗車しているのだから、従来と変わらない給与を得ているはずであり、定期昇級も受けているはずである。

(三)  現実の収入について、事故前後を通じて全く変化がないことは、逸失利益の算出において十分考慮されるべきであり、本件においては原告に後遺障害による逸失利益はなく、前記後遺障害はせいぜい慰謝料算出に当たり考慮するば十分である。

(四)  原告は、視力障害等による将来の不安を主張するが、少なくとも当分の間は何等の心配はないし、かえつて年月を経れば、視力障害等は矯正及び慣れ等により相当程度カバーされるから、仮に一定程度の労働能力の喪失が認められるとしても、一定年月を経て相当程度回復することが期待されるものである。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁(好意同乗者等を理由とする減額)

以下の事情により、原告の損害については、好意同乗あるいは過失相殺類似の理由に基づき相当額の減額がなされるべきである。

1  原被告は、中学時代からの友人であり、高校進学後もアルバイト先が一緒であるなど、遊び友達として親しくしていた。原告は、被告よりも先に自動車免許を取得し、自動車教習所の教習指導員をしており、自動車運転に関しては社会生活上、被告に対し指導的な立場にあつた。

2  被告は、昭和六〇年一一月一五日普通免許を取得し、初心者マークを付けて本件車両を運転しており、原告は、被告が初心者であることを知つていたが、本件事故までにもたびたび被告運転の本件車両に同乗して遊びに行つていた。本件事故の半月ほど前にも、被告運転の本件車両に、原被告共通の友人である石渡某と原告が同乗して三人で和歌山まで遊びに行つたことがあつた。

3  本件事故当日は、午後七時三〇分過ぎ、被告が原告方に立ち寄り、一緒に喫茶店に行こうということになつて、石渡某も呼び出し、三人で被告自宅近くの喫茶店に行き、午後八時五〇分ころまで一緒にコーヒーを飲みながら雑談し、その後パチンコをしに行き、午後一〇時三〇分ころまで一緒にパチンコをしていた。

その後、近くのゲームセンターで午後一一時二五分ころまで遊び、帰ろうということになつて、先に被告運転の本件車両で石渡某を自宅に送り、その後原告を自宅まで送る途上において本件事故となつたものである。

4  被告は、原告を送る途中、深夜で帰路を急いでいたこともあり、時速一〇〇キロメートルに近いスピードで走行し、本件交差点に差し掛かり、対面信号が青であつたので、時速七〇ないし八〇キロメートルに減速して右折したところ、カーブを曲がり切れずにスリツプし、前方の中央分離帯に乗り上げ横転してしまつたものである。

原告は、本件車両の助手席に乗り、時速一〇〇キロメートル近い速度で走行する被告に対し特に注意することもなく、ただ本件交差点に差し掛かつた際に「こんなスピードで曲がるんか」と述べただけであつた。

5  また、本件車両には、シートベルト装置があつたが、本件事故時に原告は、シートベルトを装着しておらず、このため、本件車両が横転した際、原告は、車内で強く強打されて、大きな傷害を負うことになつたものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁(好意同乗等を理由とする減額)の主張は争う。

2  原被告は、高校卒業後一年程度経過した後から昭和六一年七月ころまでは、原告の仕事が忙しくなつたことから、交際が途絶えており、原告が、被告の運転する本件車両に同乗して遊びに行つたのは、被告主張の和歌山行きと本件事故の際の二回だけである。

3  原告が、本件車両に同乗したのは、被告が事故当日、原告方を訪れ、喫茶店に行こうと誘つたためであり、また、原告から自宅まで送るよう頼んだことはなく、被告が、自ら誘い出したという道義的義務から、原告を自宅に送り届ける目的で、自発的に同乗させたのである。

4  被告は、運転免許を取得して日が浅く、運転技術も未熟であり、本件事故前に本件事故現場を五、六回は通つたことがあり、本件事故現場付近の道路状況及び時速四〇キロメートルの制限速度であることをよく知つていたにもかかわらず、早く帰宅してレコードの録音をしたいという一方的事情によつて時速一〇〇キロメートルもの高速で走行して、本件交差点を右折しようとしてハンドル操作を誤つたものであり、本件事故は、被告の一方的な過失により発生したものである。

5  被告は、石渡某を送り届けるまでは、制限速度を大幅に上回るような高速度で走行していなかつたが、石渡某の自宅を出てからは、次第に加速し、本件事故現場に差し掛かつた。その間、原告は、本件交差点の手前二〇〇メートルの地点で本件車両の速度が時速一〇〇キロメートルに近いことに気付き、減速するように注意し、さらに、本件交差点直前で再度被告に対し、減速するように注意したので、やつと被告は減速したが、本件事故に至つたものであり、原告としては、事故回避のための努力はしており、本件事故発生について原告の過失はない。

6  原告が、本件車両の助手席に乗つたのは、石渡某の自宅を出るときからであり、原告の自宅までわずかの道のりであつたため、シートベルトを装着しなかつたのである。また、仮に装着していたとしても、それにより本件事故による原告の受傷が防止あるいは軽減されたという確証はない。そして、そもそも、法令上も本件事故当時シートベルト装着は義務付けられていなかつたのであるから、シートベルト不装着について、原告の過失はない。

理由

一  事故の発生及び被告の責任

請求原因1(事故の発生)(一)ないし(四)の各事実及び同2(責任原因)の事実は当事間に争いがなく、甲第二号証の一及び乙第七号証によれば、原告は、本件事故により、頭部打撲、顔面挫創、頭蓋内出血(左硬膜外出血及び脳挫傷)、左後耳介部挫創、左肩擦過傷、左膝部擦過傷、左耳出血、両鼻出血、左側頭部骨折、両眼底出血の傷害を受けたことが認められる。

これらによれば、被告は、自賠法三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

二  治療経過及び後遺障害の程度

1  治療経過

請求原因3(一)(治療経過)の事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

2  後遺障害の程度

(一)  甲第二号証の一ないし一二、第一〇ないし第一二号証、乙第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告は、前記治療の結果、昭和六三年三月一九日に症状固定に至つたところ、本件事故により、頭重感、顔面変形、両眼視力障害、嗅覚障害、味覚障害、耳鳴りの自覚症状のある後遺障害を残した。

(2) 右後遺障害のうち、頭重感に関しては頭部から両肩部の筋群の一部の圧痛が認められ、また、顔面変形は左顔面神経障害によるものである。

両眼視力障害は、両眼黄班部の変性症(右眼に著明)のため、特に右眼の中心視力が低下しており、本件事故前は、裸眼で両眼とも〇・八程度の視力であつたが、本件事故後は、裸眼視力が右〇・〇四、左〇・一五、矯正視力が右〇・〇五、左一・五であり、また、両眼視野に暗点がある。

さらに、嗅覚障害は、静脈性嗅覚検査及び基準嗅覚検査では無反応であつて、嗅覚は消失している。

味覚障害は、漏紙デイスク法による味覚検査で、甘味液四、塩味液四、酸味液四、苦味液四で反応を認める程度のもので、電気味覚検査により左半分の域値上昇が認められ、左顔面神経麻痺に伴つて生じたものである。

また、耳の障害は、聴力障害を伴わない無難聴性耳鳴りである。

(3) 右障害について、自動車保険料率算定会は、頭重感及び顔面変形を併せて、自賠法施行令別表第一二級一二号に該当し、視力障害及び視野障害を併せて、同別表第八級に相当し、嗅覚脱失は、同別表第一二級に相当し、味覚障害及び耳鳴りについては、同別表のいずれにも該当せず、原告の後遺障害全体として、同別表併合七級に該当すると認定した。

(4) 原告は、右視力障害のため、右眼の中心付近が見えず、左眼の中心から左側の部分と中心の少し上の辺りに見えない部分があり、においは全く感じず、塩や砂糖、醤油といつた調味料そのものの味であれば判るものの、食物の味は判らず、また、顔面の口の左辺りが少し引きつつており、両耳に耳鳴りがし、特に左耳ではキーという音が常時鳴つているように感じる状態である。

(二)  以上の事実によれば、右のうち、顔面変形は直ちに労働能力に関わるものとは思われず、また、耳鳴りは聴力障害を伴わないものであつて、労働能力を直ちに減退させるものとは考えられない。さらに、味覚障害についても、味覚検査が無反応で味覚を失つたという程度のものではないことからすると、原告の後遺障害の程度は、右別表第七級に相当する程度のものであると考えられる。

しかし、顔面変形、耳鳴り及び味覚障害が、原告の生活において、様々な不便を感じさせ、楽しみを奪い、苦労を強いる等の結果をもたらしていることは容易に推認できるから、慰謝料算定にあたつては、これらの事情を十分に勘酌すべきである。

三  損害

1  治療費 二三〇万六九二〇円

甲第三号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、第九号証の一ないし一九及び第一四号証によれば、原告は、前記入通院治療のために、明生病院で二二二万三三〇〇円、福地眼科京橋分院で二万四一一〇円、京橋耳鼻科で四万五五八〇円、神戸大学医学部附属病院で四九三〇円を必要とし、さらに、京橋耳鼻科に四〇〇〇円の、福地眼科京橋分院に五〇〇〇円の文書料をそれぞれ支払つたことが認められる。

これによれば、右合計の二三〇万六九二〇円が本件事故による治療費と考えられる。

なお、原告は、住友病院で五三二〇円の治療費を支払つた旨主張し、それに沿う証拠(甲第四号証の一及び二)を提出しているが、同病院での治療と本件事故との因果関係が明らかでない以上、これを本件事故による治療費に加えることはできない。

また、原告は、右認定の文書料の他七〇〇〇円の文書料を必要とした旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(甲第六号証の三から福地眼科京橋分院に七五〇円を支払つた事実が、また、甲第七号証から明生病院に七〇〇〇円を支払つた事実がそれぞれ認められるものの、いずれも何に対する支払かは明らかでない。)。

2  治療関係費

(一)  付添看護費 二八万五四一〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六一年九月二日から同月三〇日まで付添看護を必要とし、そのために二八万五四一〇円を支払つたことが認められる。

なお、原告は、同年一〇月一日から同月六日までさらに付添看護が必要であつた旨主張しているが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  入院雑費 四八万八一〇〇円

以上記載の事実によれば、前記三七日間の入院期間に、一日当たり一三〇〇円程度の入院雑費が必要であつたものと推認される。

(三)  通院交通費 一一万七六八〇円

弁論の全趣旨によれば、本件事故による通院のために交通費として、一一万七六八〇円を必要としたものと認められる。

なお、原告は、さらに二万一一六〇円の交通費が必要であつた旨主張するが、原告の主張は、同じ日に二つ以上の病院には通院しなかつたことを前提としているところ、その点に関して何等証明がないので、これを認めることはできない。

3  休業等による逸失利益 計三八一万五〇〇〇円

(一)  休業期間分 三〇八万九二三九円

甲第八号証の一及び二、第一三号証の一及び三、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故当時、八尾自動車興産株式会社の経営する八尾自動車教習所に技能指導員として勤務し、少なくとも原告主張の一か月二七万円程度の給与を得て、その他に、七月及び一二月には賞与を支給されていたところ、本件事故による受傷のため、昭和六一年八月三一日から昭和六二年五月三一日までの九か月間にわたり休業を余儀なくされ、その間の給与を支給されず、また、昭和六一年一二月五日に支給された賞与は三三万二九五七円を、昭和六二年七月二日に支給された賞与は三二万六二八二円を、それぞれ本来支給されるべき額から減額されたことが認められる。

以上によれば、右休業期間における休業損害は、三〇八万九二三九円となる。

(二)  欠勤、遅刻及び早退による減収分 七二万五七六一円

甲第八号証の三及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和六二年六月に、本件事故前の職場である八尾自動車教習所に復帰したが、同所での給与制度は、いわゆる日給月給制であるところ、復帰後も本件事故による受傷の治療のために通院していたので、欠勤、遅刻及び早退が続き、事故以前の程度の収入を得ることができるようになつたのは、同年一二月ころであり、また、同月一一日に支給された賞与は、右欠勤のために四万二五五〇円減額されたことが認められる。

右認定事実に加え、以上記載の事実によれば、原告には、本件事故による職場復帰後の欠勤等による減収として、賞与減額分の他、原告主張の六八万三二一一円の減収があつたものと推認されるから、本件事故による職場復帰後の損害は、七二万五七六一円となる。

3  後遺障害による逸失利益 三〇二七万七〇五〇円

(一)  原告は、本件事故により、自賠法施行令別表第七級相当程度の後遺障害を負つたことは前記のとおりであり、甲第一三号証の一ないし三、乙第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三九年一月三一日生であり、本件事故当時、自動車教習所の技能指導員として健康に就労して、本件事故前一年間に四〇四万八一九四円の収入を得ていたこと、本件事故以前は、日曜及び祝日にも相当程度の出勤をして一か月当たり五万円程の出勤手当を得ていたが、事故後、以前の職場に復帰してからは、日曜及び祝日には、眼の疲れのために出勤できないようになり、本件事故による通院の必要がなくなつた昭和六三年四月ころ以降は、本件事故以前の収入から、右手当を除いた程度の収入を得るようになつたこと、本件事故以前には、教習車に乗つて実技指導をする仕事が中心であつたが、本件事故後は、会社の配慮で、教習車に乗ることは週に一度程度で、シユミレーションによる指導中心の職務内容となつたこと、会社の勤務態勢の関係で、週一度程度は教習車に乗つて実技指導を行わなければならず、その際には、眼の見え難さや視野の少なさを補うための努力をしていること、原告は、技能指導員として採用された時に、自動二輪車の技能指導員の資格を将来取得するよう求められていたが、本件事故後は、眼の障害があるために自動二輪車を運転することは危険であるとして、同資格を取得することを会社から認めてもらえず、同資格を取得することによつて得られるはずの手当を得ることが困難になつており、また、既に同資格を取得した同期入社の指導員と給与面で差が生じていること、同資格あるいは同資格を取得した者が取得できる自動二輪車免許検定員の資格を取得できないこと等のため昇格が困難となる恐れがあること、現在のところ、会社から本件事故による後遺障害を理由として、退職するように求められてはいないが、原告自身は、永続的には技能指導員の仕事を続けることは難しいものと考えていることが認められる。

(二)  以上によれば、原告は、本件事故に遭わなければ、昭和六三年三月一九日の症状固定後、さらに満六七歳までの四三年間にわたり就労可能であり、その間を平均して、少なくとも、一年当たり四〇四万八一九四円程度となる収入を得ることができたものと推認されるところ、本件事故による後遺障害に基づく労働能力の喪失のため、そのうちの三五パーセントを得ることができなくなつたと考えられるので、右金額を算定の基礎とし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の本件事故の後遺障害による逸失利益の本件事故当時における現価を算出すると、次のとおり三〇二七万七〇五〇円となる。

(算式)4,048,194×0.35×(23.230-4.861)=30,277,050(小数点以下切り捨て)

(三)  なお、被告は、従来と同様の業務に従事して、同様の収入を得ているはずであり、現実の減収がないのであれば、原告において、後遺障害による逸失利益は生じていない旨主張するが、右認定よりすれば、原告の後遺障害の程度には比例していないにせよ、現実に減収は認められるうえ、原告の後遺障害の程度を考えれば、将来にわたり、現在程度の収入が維持されるであろうとは必ずしもいえず、さらには、現在の収入が維持されるとしても、それは原告自身の余人以上の努力に負うところが大きいものと考えられるので、右主張は採用することができない。

また、被告は、視力障害等が将来的には、矯正及び慣れ等でカバーされるので、労働能力の喪失も回復される旨主張するが、そのような回復が相当程度の蓋然性をもつて起こるものとは考えられず、容易に左袒できない。

4  慰謝料 八〇〇万円

本件事故の態様、原告の受傷内容及び治療の経過、後遺障害の部位、内容及び程度(前記のとおり、特に、労働能力には直ちに反映しないが、原告の生活に支障をもたらす後遺障害が存在すること)、原告の職業、年齢、後記の原告と被告の関係及び本件事故に至つた経緯、その他本件記録上に現れた諸事情を考え併せると、本件事故により原告が受けた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、傷害分、後遺障害分を併せて八〇〇万円とするのが相当である。

(以上損害額合計 四四八五万〇一六〇円)

四  好意同乗等を理由とする減額

1  乙第二ないし第五号証、第一一ないし第一六号証並びに原告及び被告各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告と被告は、小学校時代から友人関係にあり、高校卒業後一年程は、一緒に遊ぶ間柄にあつたが、その後、交際は中断しており、本件事故の一か月半程前の昭和六一年七月上旬ころに、共通の友人である石渡某と三人で、和歌山に遊びに行き、そのころから交際を再開するようになつていた。

原告は、和歌山に遊びに行つた時に、被告の運転する自動車に初めて同乗して往復し、本件事故の際の同乗は、二度目のことであつた。また、原告は、本件事故当時、自動車の運転に関して、被告が普通免許取得後一年を経過していない初心者であることを知つていた。

(二)  本件事故当日、午後七時三〇分過ぎ、被告が本件車両に乗つて原告方に立ち寄り、喫茶店に行こうと誘つたため、石渡某も呼び出して、三人で最初は喫茶店に行つて一緒にコーヒーを飲みながら雑談し、その後、一緒にパチンコをしてから、大阪市旭区千林のゲームセンターで午後一一時二五分ころまで遊び、帰ろうということになつて、被告が本件車両で石渡某を自宅に送り、その後、原告を自宅まで送る途上において、本件事故となつたものである。なお、被告がこのように原告を送ることにしたのは、原告から頼まれてしたわけではなく、被告の自発的な好意から出たことであつた。

(三)  被告は、千林の右ゲームセンターから国道一号線を南に向けて進行し、関目五丁目交差点を右折したところで石渡某を降車させたが、それまでは、制限速度を大幅に上回る高速度で走行したり危険な運転をしたりすることは特になく、また、原告は、後部座席に乗つていた。その後、被告は、大阪市道桜島守口線を南西に向けて進行して原告の自宅に向かつた。原告は、石渡某が降車した時に助手席に移つていたが、すぐに降車することもあり、シートベルトはしていなかつた。

被告は、借りてあつたレンタルレコードを早くに録音したいと思い、また、道路がすいていたこともあり、次第に加速し、制限速度時速四〇キロメートルのところを、時速一〇〇キロメートル程度の速度で進行し、本件交差点の手前に至つた。その際に、原告から急ぐように求められたことはなかつた。本件交差点は、石渡某を降車させた地点から一キロメートル程度の地点にあり、それまで南西に向かつていた右市道が西方向に曲がる地点にあり、被告は、西方向に右折する予定であつた。

(四)  原告は、高速過ぎて右折しきれないと思い、被告に対して、少なくとも一回は、本件交差点の手前二〇〇ないし三〇〇メートルの地点で注意をしたが、被告は直ちに減速のための措置を取らず、本件交差点の三〇メートル程手前に至り、ギアを四速から三速に変えて時速八〇キロメートル程度まで減速し、その速度で右折できると思い、交差点に入つたが、曲がりきれず、ハンドル操作を誤つて、本件事故となつた。被告は、本件事故以前にも何度も本件交差点を自動車を運転して通つたことがあり、本件交差点の状況を知つていたが、右のような高速で通過したことはなかつた。

(五)  原告は、本件車両が中央分離帯の縁石に乗り上げた際に、頭等を強打し、気を失い、本件車両が横転した後に頭部に負傷していたが、やはりシートベルトをしていなかつた被告は、病院で治療を受けるような負傷はなかつた。

2  以上の事実によると、原告は、被告が運転免許取得後一年を経過していない初心者であるとの認識は有していたものの、本件事故以前から、被告が特に危険な運転をしている等の事情を原告が承知し、その上で同乗したものとまでは認められず(なお、被告は、原告が被告よりも先に自動車免許を取得し、自動車教習所の技能指導員をしていたことをもつて、自動車運転に関しては社会生活上指導的な立場にあつたと主張するが、原告と被告の関係は友人の関係であり、原告の職業から直ちに、原告が被告に対する関係で指導的な立場にあつたということはできない。)、また、被告が被告自身の都合により高速運転を始めたのは、本件事故のせいぜい数分前からであつて、それ以前は通常の運転をし、高速運転を始めた直後に本件事故が発生しており、さらには、原告が本件事故直前に、被告に対して、減速するように注意していることからすると、原告に本件事故発生について何らかの落度があつたものとは考えられない。

ただ、原告が、シートベルトをしていなかつたことにより、受傷の程度が拡大した可能性は否定できないが、本件事故当時は道路交通法上シートベルトの着用が義務付けられてはいなかつたことに加え、シートベルトを着用するよう被告が原告に求めたという事情も認められず、また、被告が危険な運転を始めてから本件事故発生まで間がなく、その間に原告が被告に対し注意を発したが、その直後、被告の重大な過失で事故発生に至つたという経過からすれば、原告のシートベルト不装着の事実をもつて、被告に対する損害賠償請求権を減額する事由としての過失あるいは落度であるとまでは考えられない。

3  さらに、以上の事実によれば、原告と被告が友人関係にあり、本件事故は一緒に遊びに行つた帰りの事故であつて、原告は、いわゆる好意同乗者であるとはいえるものの、それ以上に、両者の間に身分上、経済生活上の一体性が認められるとまではいえず、他に過失相殺あるいは過失相殺類似の理由により、原告の損害賠償請求権を減縮すべき事情も認められないから、好意同乗をしたということを理由として、原告の求め得る損害賠償額を減額しなければ、信義則あるいは衡平の原則に反するとまではいえず、原告と被告の関係あるいは本件事故に至る経緯は、慰謝料算定において考慮するべき事由にとどめるのが相当である。

五  損害の補填

請求原因5(損害の填補)の事実は当事間に争いがない。

よつて、以上認定の損害額より、填補額合計一四六七万四七五〇円を控除すると、損害残額は三〇一七万五四一〇円となる。

六  弁護士費用 一三〇万円

本件記録上、原告は、原告代理人に本件訴訟の提起追行を依頼し、その報酬として、相当額の支払を約していることは明らかであるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による弁護士費用相当の損害として求め得る金額は、一三〇万円とするのが相当である。

七  結論

以上の次第で、被告に対する原告の本訴請求は、金三一四七万五四一〇円並びにうち弁護士費用分を除いた金三〇一七万五四一〇円に対する本件事故日である昭和六一年八月三一日から支払済みまで及びうち弁護士費用分一三〇万円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 本多俊雄 小海隆則)

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