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大阪地方裁判所 平成元年(行ウ)14号 判決 1989年11月01日

原告 森本商事株式会社

右代表者代表取締役 森本明良

右訴訟代理人弁護士 甲田通昭

同 田中泰雄

同 中村真喜子

同 平尾孔孝

同 藤田正隆

被告 大阪市長 西尾正也

右指定代理人 京極務

<ほか二名>

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(申立て)

一  請求の趣旨(原告)

1  被告が昭和六三年九月一六日付で別紙物件目録記載の建物についてした違反建築物措置命令処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

(主張)

一  請求原因(原告)

1  被告は、昭和六三年九月一六日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、原告を名宛人として建築基準法九条一項の違反建築物措置命令処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  原告は、これに対して、昭和六三年一一月一五日、大阪市建築審査会に審査請求をしたが、平成元年一月一三日、その棄却裁決があり、原告は、これをそのころ知った。

3  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

(なお、原告は、本件建物の所有者ではないが、宅地建物取引業者である原告は、本件処分の名宛人であるため、本件処分を遵守しないときは建築基準法九条の三等により右免許を取り消されたり、その業務の停止を命じられたりするおそれがあるほか、刑罰を科せられるおそれもあり、この原告の不利益を考慮すると、原告には本件処分の取消しを求める適格があるというべきである。)

二  請求原因に対する被告の認否及び被告の主張

1  請求原因1、2の事実を認める。

2  本件建物は、都市計画法九条二項の第二種住居専用地域に位置するものであるところ、

① 原告は本件建物の三階を事務所の用に供していること(建築基準法四八条二項違反)、

② 右地域の容積率の制限(同法五二条一項二号により定められた都市計画によるもの)が一〇分の二〇であるにもかかわらず、本件建物のそれは一〇分の三三・九に達していること、

③ 右地域の建ぺい率の制限(同法五三条一項二号により定められた都市計画によるもの)が一〇分の六であるにもかかわらず、本件建物のそれは一〇分の八・一に達していること、

④ 日影による中高層の建築物の高さの制限(同法五六条の二により定められた大阪市条例によるもの)が冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時までの間において、平均地盤面から四メートルの高さの水平面に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲において、「敷地境界線からの水平距離が一〇メートル以内の範囲では四時間以上、一〇メートルを超える範囲では二・五時間以上」日影となる部分を生じさせてはならないとされているにもかかわらず、本件建物のそれは「敷地境界線からの水平距離が北へ五メートルの地点で七・五時間、一〇メートルの地点で四時間」に達していること。

以上から、本件建物が同法九条一項にいう違反建築物として、不動産登記簿上の所有者の原告に対し、所要の手続を経て本件処分をしたものである。

三  被告の主張に対する原告の認否

本件建物が第二種住居専用地域に存することは認め、その余の点は、不知又は争う。原告は、本件建物の所有者ではない。

(立証)《省略》

理由

一  まず、本件訴えにつき原告が原告適格を有するかどうかについて判断する。

原告に対し本件処分がなされたことは当事者間に争いがないところ、建築基準法九条一項にいう措置命令は、その特定人の主観的事情に着目してされたものではなく、その客観的事情に着目してされた、いわゆる対物処分に属するものであると解される(東京高等裁判所昭和三九年(行コ)第一七号・同四一年(行コ)第四九号、同四二年一二月二五日第五民事部判決、行政事件裁判例集一八巻一二号一八一〇頁参照)。ところで、原告が本件建物の所有者でないことは、原告の自陳するところであるから、本件処分の右性質上、原告が直接本件処分の効力を受けるものではなく、したがって、原告が本件処分の名宛人として扱われたという一事をもって原告に本件処分の原告適格を肯認することはできないことは多言を要しないうえ、他に原告に原告適格を認めるべき特段の事情もみあたらない(原告は、同法九条の三を原告適格を根拠とも主張するが、右は、同法九条の違反建築物の建築、取引等に建築士、建設業、宅地建物取引業者等がその業として関与した場合について適用があることがその文言に徴し明らかであり、所論は前提を欠く。また、刑罰を科せられるおそれをいう原告の主張は、独自のものであって失当である。)。

以上によると、原告に本件処分について原告適格がないことは、明らかである。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件訴えは、原告適格を欠くものとしてこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑豊 裁判官 園部秀穗 田中健治)

<以下省略>

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