大阪地方裁判所 平成10年(ミ)4号 決定 1998年3月31日
主文
債務者末野興産株式会社について更生手続を開始する。
理由
一 申立債権の存在
一件記録によると、申立人は、被申立人に対し、合計約三五八六億円の債権を有していることが認められる。
二 更生開始要件の有無
1 一件記録及び被申立人の破産事件記録(当庁平成八年(フ)第三〇六四号)によると、次の事実が認められる。
(一) 被申立人は、大阪府を中心に事務所用及びレジャー用貸ビル、マンション、モータープール等を所有し、所有ビル各室の賃貸等の事業を営んでいる会社であり、その関連会社は、会社としての実体を有しないものを含め、三五社ほど存する。
(二) 被申立人は、昭和六〇年ころから貸ビル等の賃貸業に乗り出し、その後、いわゆるバブル景気のもとで、住専、ノンバンク等から融資を受けてマンション、レジャービルの購入、建設を積極的に行い、賃貸業を拡大した。しかし、バブル崩壊後の不動産の下落、不動産賃貸市況の悪化等により経営状態が悪化し、平成四年ころには、大部分の債権について借入金元本の分割返済金の支払ができなくなり、その後は利息も全額を支払えなくなり、金額を減じて支払う状態となっていた。他方、被申立人は、平成三年ころから、当時の代表取締役であった末野謙一の経営方針に基づき、債権者への支払を極力停止しながら、多数のグループ会社を設立し、それらの会社に被申立人の預金や不動産名義を移転するなどの資産隠匿行為を行ったため、これが被申立人の大口債権者であった旧住専各社の経営破綻の一因となり、社会問題化するまでに至った。
(三) そのため、旧住専各社から債権譲渡を受けた申立人は、被申立人から旧経営陣を排除して資産隠匿を防止し債権の適正な回収を図る目的で、被申立人らに対する破産申立てをし、被申立人、株式会社ワールドエステート、被申立人代表取締役(社長)末野謙一及び同代表取締役(副社長)足立武に対し、いずれも平成八年一一月一八日午前一一時破産宣告がなされた。その後、本決定までの間に、前記グループ会社のうち、実体を有する会社の大部分及びグループ会社の一部を支配していた米田栄治(元副社長)について破産宣告などがなされ、被申立人及びその大部分のグループ会社から、末野謙一ら旧経営陣が排除され、被申立人の破産管財人らがこれらの会社の営業権能を掌握するに至った。
(四) 被申立人の破産管財人らは、不動産賃貸業務について破産宣告後も営業を継続した。同破産管財人らが、平成一〇年三月二五日時点で管理掌握する被申立人及びそのグループ会社の営業用物件の数は、約一四五物件であり、そのテナントの件数は約五〇八五件である。
(五) 破産手続における同月二三日の債権者集会において、申立人と同破産管財人らとの間で、右営業用物件のうち三五物件について、適正評価額により別除権を受け戻す旨の和解案が、大部分の債権者の賛成により可決され、その後、これに沿った和解契約が締結・実行された。右営業用物件には、もともと債権者による担保権が設定されていない物件(無担保物件)が九物件存していたが、右和解の実行により、無担保物件は合計四四物件となった。なお、右の和解契約は、その実行後、申立人が本件会社更生手続開始の申立てをすることを前提とするものであった。
(六) 被申立人の不動産賃貸業に関する営業状況をみると、破産宣告後から平成一〇年二月末までの間の月間の営業利益(賃料・保証金等の収入から管理費用・保証金返還金等の営業にかかる支出及び明渡訴訟費用等を差し引いたもの)は、平均約二億円であり、また、最近三か月間(平成九年一一月一日から平成一〇年二月二八日まで)の月間の営業利益は、平均約一億九〇〇〇万円である。なお、右の営業に関する費用とは別に破産管財事務にかかる支出は、月額平均約二五〇〇万円である。
(七) 平成一〇年二月二八日現在、被申立人の破産財団に帰属する預金の額は、約七一二億円であり、その大部分は、不動産賃貸業務との関係では、余剰資金である。
(八) 被申立人につき、破産手続によると、配当については、一般債権者に対する配当率(株式会社ワールド・エステートとの合算による)は約九・七%と予想されるが、不動産の換価には相当の期間を要し、別除権者においては、不動産が処分・換価されるまで事実上配当金を受け取ることができない結果となること、不動産換価については、別除権者の個別的権利行使(競売手続など)が任意売却の障害となって低額に換価される可能性があり、また、複数の不動産の一括売却、有価証券化しての売却など機動的な処理が困難であること、不動産管理については、競売申立てのなされた物件については新規賃借人募集業務を停止せざるを得ず、また、物上代位のなされた物件については場合によっては不動産を破産財団から放棄せざるを得なくなり、さらに、破産手続中であることや、右の競売や物上代位が、賃借人らに不安・動揺を与え、賃料の回収率に影響を与えるなど、別除権者の個別的権利行使により収益を十分には確保できない場合が生じうることがあるなどの問題点がある。
(九) 被申立人につき、グループ会社株式会社ワールド・エステートとともに会社更生手続をとると、右のような問題点が緩和ないし解消されるばかりか、事業収益を最大限に確保できることから、仮に、被申立人を平成一四年三月末までに清算するとした場合であっても、更生手続による一般更生債権者に対する弁済率は、一二%を越えると予想されること、一般更生債権者に対する第一回弁済は、右(七)の豊富な預金を原資として早期に七%程度が可能であり、その際、物件換価未了の担保権者も一般更生債権部分について弁済が受けられること、更生担保権者への弁済も担保物の換価とは直接連動せずになされうるといった利点がある。
2(一) 以上の事実によると、本件申立てについては、次の諸点を指摘することができる。
(1) 被申立人が破産宣告を受けた原因としては、主として不動産下落に基づく大幅な債務超過と旧経営陣の不適切な経営姿勢があったといえるが、そのうち、本決定時点では、旧経営陣の影響力は排除されており、他方で、被申立人の不動産賃貸業はある程度の営業利益が確保でき、かつ、営業用物件には無担保物件が少なからず存する状態となっていること
(2) 右の収益力と無担保物件の存在からみて、会社更生手続によると、その収益力を最大限に発揮しながら、営業譲渡や新会社設立を含めた多彩な方法を用いて事業を高額に換価し、債権者に対し破産手続よりも早期に高率の弁済を実現する可能性があること
(3) 仮に、営業譲渡等が実現できないため会社を清算せざるを得なくなる場合であっても、破産手続を継続した場合に比べ債権者らにとって有利となる可能性が高いこと
(4) 本件申立てが被申立人の最大の債権者からなされており、また、前記(五)のとおり本件申立てをすることを前提とする和解案に大部分の債権者が賛成した点に照らし、更生計画が可決される可能性は十分あるとみられること
(二) 右(一)の諸点に照らすと、本件においては、破産手続を継続することが債権者の一般の利益に適合するとは認められず、また、会社更生手続によった場合に更生の見込がないとは認められない。また、右の外、本件の全証拠によっても、本件申立てを棄却するべき事由は認められない。
三 よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 戸田 久 裁判官 小林邦夫)