大阪地方裁判所 平成10年(ワ)1045号 判決 1998年10月19日
原告
東口竜也
被告
鮎京満康
主文
一 被告は、原告に対し、金三一〇一万一八九三円及びこれに対する平成八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告に対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金八五三七万九〇二六円及びこれに対する平成八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告に対し、原告の母である亡東口恭子が交通事故により死亡し、損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実及び証拠(弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成八年一〇月一七日午前五時ころ
(二) 場所 奈良市大宮町二丁目八番一八号先路上
(三) 加害車両 普通貨物自動車(尾張小牧一一う五三九〇)
運転者 被告
(四) 被害者 亡東口恭子(以下「亡東口」という。)
(五) 事故態様 加害車両が東から西に向かって進行中、北から南に横断歩行中の亡東口と衝突した。
2 責任
被告は、前方を注視する義務があるにもかかわらず、これを怠り、前方一〇・四メートル地点に、はじめて横断歩行中の亡東口を発見したが、そのまま、ブレーキをかけず、ハンドルも切らず、亡東口に衝突した過失がある。
したがって、被告は、民法七〇九条に基づく損害賠償義務を負う。
3 死亡
亡東口(昭和四三年二月一二日生まれ、当時二八歳)は、本件事故により、脳挫傷の障害を負い、即死した。
4 相続
原告(昭和六三年二月一五日生まれ、当時八歳)は、亡東口の子であり、ほかに相続人はいない。
三 原告の主張の要旨
1 責任
被告は、自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償義務を負う。
2 損害
(一) 治療費 二五万三二九三円
(二) 慰謝料 一五〇〇万円
(三) 逸失利益 一億二八九二万三一三二円
亡東口は、平成八年五月一七日から、奈良市内の株式会社ジェイ・エルにホステスとして勤務し、一日あたり二万三六八〇円の給与を得ていたから、年間の収入は八六四万三一〇四円である。
したがって、八六四万三一〇四円から、三〇パーセントの生活費を控除し、中間利息を控除したうえ就労可能年数三九年(ホフマン係数二一・三〇九)を乗じると、一億二八九二万三一三二円となる。
(四) 原告固有の慰謝料 七〇〇万円
原告固有の慰謝料は、七〇〇万円を下らない。
(五) 葬儀費用 一〇〇万円
(六) 弁護士費用 二〇〇万円
(七) 合計 一億五四一七万六四二五円
3 過失相殺
仮に、亡東口に二五パーセントの過失があるとすると、過失相殺後の損害額は、一億一五六三万二三一九円となる。
4 既払
原告は、自賠責保険から、三〇二五万三二九三円の支払を受けており、残金は、八五三七万九〇二六円となる。
四 被告の主張の要旨
1 責任
加害車両の所有者は、泰平運送株式会社(愛知県犬山市大字羽黒字河北東二五番地の一)であり、被告は、同会社の従業員にすぎない。したがって、被告は、自賠法三条の責任を負わない。
2 過失相殺
亡東口が横断していた地点から東に約二四メートル離れたところには横断歩道があること、加害車両の対面信号は黄色点滅であったこと、夜間であること、幹線道路であることなどを考慮すると、亡東口と被告の過失割合は、六〇対四〇とすることが相当である。
3 逸失利益
亡東口の年収が約八六四万円であることは否認する。女性二八歳の平均賃金を基礎収入とすべきである。
仮に、亡東口がホステスで、平均賃金以上の高収入があるのであれば、当然経費を控除すべきである。
また、ホステスであれば、就労可能期間は、せいぜい三〇歳までに限られるべきである。
五 中心的な争点
1 過失相殺
2 逸失利益
第三判断
一 過失相殺
1 証拠(甲四の一と二、乙一、二、弁論の全趣旨)によれば次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場は、国道三六九号線であり、路面は、アスファルト舗装され、平たんで、乾燥していた。
最高速度は、時速五〇キロメートルに規制されていた。
市街地であるが、本件事故当時は交通が閑散としており、暗いが、加害車両からの見通しはよい。
道路には、街灯が設置されているが、本件事故現湯付近の街灯は球切れのためか点灯しておらず、路上付近は暗く、前照灯によるほかは横断歩行者の発見は困難であった。
(二) 本件事故現場は、ほぼ東西に伸びる直線の道路であり、西行き車線が二車線あり、東行き車線が三車線ある。西行き車線と東行き車線の境界には、高さ〇・四五メートルのガードパイプ、高さ〇・二五メートルの中央分離帯コンクリート部がある。
西行き車線の幅員は、第一車線が三・二メートル、第二車線が三メートルである。
加害車両と亡東口が衝突した地点から約二五メートル東側には横断歩道がある。
本件事故当時、加害車両の対面信号は黄色点滅であり、東側の横断歩道の歩行者用信号機は滅灯であった。
(三) 被告は、時速約七〇キロメートルで加害車両を進行させ、本件事故現場の手前の交差点にさしかかったとき、対面信号が黄色点滅であるのを見て、さらに横断歩道があるのを見て、国道三六九号線の西行き車線の第二車線を進行した。
横断歩道をすぎたあたりで、前方一〇・四メートルの地点に、中央分離帯付近を、北から南に横断歩行中の亡東口を発見し、危険を感じたが、さらに一〇・三メートル進んで、第一車線と第二車線の境界付近を横断歩行中の亡東口と衝突した。
亡東口は、三八・三メートル飛ばされて倒れた。
2 これらの事実によれば、横断歩道付近の歩行者用信号機が滅灯であったとはいえ、横断歩道があったのであるから、横断歩道の付近で生じた事故と考えられる。
ほかに、本件では、事故が早朝でありまだ暗かったこと、幹線道路であること、亡東口は加害車両の直前を横断していることから、亡東口の過失割合を加算すべきであり、また、住宅、商店街であること、被告は亡東口を直前で発見していること、加害車両は制限速度を時速二〇キロメートル越えていたことから、被告の過失割合を加算すべきである。
そうすると、結局、亡東口と被告の過失割合を二五対七五と解することが相当である。
二 損害
1 治療費 二五万三二九三円
治療費二五万三二九三円の支出を要したことは、当事者間に争いがない。
2 慰謝料 二二〇〇万円
慰謝料は、原告固有の慰謝料を含め、合計二二〇〇万円が相当である。
3 逸失利益 五五七六万六九五五円
(一) 証拠(甲二、三、七、八、九の一と二、一〇の一ないし五、弁論の全趣旨)によれば、亡東口は、ホステスとして勤務する以前は、職種は明らかではないが、パートなどの仕事をし、平成六年(同年九月三〇日からの収入)には三九万二〇四二円の、平成七年には一五八万二六八六円の、平成八年(同年四月二五日までの収入。ホステスとして得た収入を除く。)には一八万六八六二円のそれぞれの収入を得ていたこと、平成八年四月三〇日に協議離婚し、原告の親権者を亡東口と定めたこと、同年五月一七日から、株式会社ジェイ・エルのポニーテール店に、ホステスとして勤務し、本件事故が発生するまで約五か月間勤務し、その間、三六二万三〇〇〇円(一日当たり二万三六七九円)の収入を得ていたことなどが認められる。
(二) これらの事実によれば、亡東口の逸失利益は、次の(1)と(2)の合計額五五七六万六九五五円と認めることが相当である。
(1) ホステスとして得ていた一日あたりの収入二万三六七九円の年収八六四万二八三五円から、経費として二〇パーセントを控除し(控除後六九一万四二六八円)、また生活費として四〇パーセントを控除し(控除後四一四万八五六〇円)、中間利息を控除したうえ、ホステスとしての就労可能年数五年(ホフマン係数四・三六四三)を乗じた一八一〇万五五六〇円
(2) 賃金センサスによる年収三七〇万四三〇〇円(平成八年、産業計、、企業規模計、女子労働者、学歴計、三〇歳ないし三四歳)から、生活費として四〇パーセントを控除し、中間利息を控除したうえ就労可能年数三四年(三九年のホフマン係数二一・三〇九二から五年のホフマン係数四・三六四三を控除した係数一六・九四四九)を乗じた三七六六万一三九五円
(三) これに対し、原告は、亡東口は、六七歳までホステスとして勤務し、本件事故当時に得ていた収入を得ることができる旨の主張をする。
しかし、一般的に、六七歳までホステスとして勤務し、高額の収入を得るとは考えにくいし、本件でも、亡東口はホステスとして本件事故が発生するまでわずか五か月の間勤務しただけであるし、それまではより低額の収入を得ていたにすぎないから、原告の主張をそのまま認めることはできず、今後五年くらいは勤務する蓋然性があるというほかない。
(四) また、被告は、亡東口はホステスとしてせいぜい三〇歳までしか勤務することができない旨の主張をする。
しかし、一般的にはともかく、本件では、亡東口は、本件事故当時二八歳であったが、離婚後、おそらく生活費などを得るためにホステスとして勤務を始めたと思われ、そうであれば、一定の期間ホステスとして勤務を続けるはずであり、期間を三〇歳までに限定することは相当ではない。
なお、被告は、亡東口の収入が違法な収入である旨の主張をし、乙三号証を提出するが、これだけでは、亡東口の収入が違法な収入であるとまでは認めるに足りない。
4 原告固有の慰謝料 〇円
原告固有の慰謝料は、前記認定のとおりである。
5 葬儀費用 一〇〇万円
葬儀費用は、一〇〇万円が相当である。
6 総損害 七九〇二万〇二四八円
したがって、総損害は、七九〇二万〇二四八円となる。
三 過失相殺
総損害七九〇二万〇二四八円を過失相殺(被告七五パーセント)すると、過失相殺後の損害額は五九二六万五一八六円となる。
四 既払
前記損害額五九二六万五一八六円から既払分三〇二五万三二九三円を差し引くと、残金は二九〇一万一八九三円となる。
五 弁護士費用
弁護士費用は、二〇〇万円が相当である。
六 結論
したがって、被告は、原告に対し、三一〇一万一八九三円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一〇月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
(裁判官 齋藤清文)