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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)10566号 判決 1999年12月15日

兵庫県<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

山﨑敏彦

東京都<以下省略>

被告

国際証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

川戸淳一郎

滝田裕

大阪市<以下省略>

破産者B破産管財人

被告

Y1

主文

一  被告国際証券株式会社は、原告に対し、金八四〇万円及びこれに対する平成七年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告と被告破産者B破産管財人Y1との間において、原告が、破産者Bに対し、大阪地方裁判所平成一〇年(フ)第三〇六号破産事件につき、別紙債権目録一記載の破産債権を有することを確定する。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告国際証券株式会社は、原告に対し、金八五〇万円及びこれに対する平成七年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告と被告破産者B破産管財人Y1との間において、原告が、破産者Bに対し、大阪地方裁判所平成一〇年(フ)第三〇六号破産事件につき、別紙債権目録二記載の破産債権を有することを確定する。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が、被告国際証券株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員であったB(以下「B」という。)の違法な勧誘行為等によって証券取引を行い、その結果損害を被った旨主張し、被告会社に対し、不法行為による損害賠償請求権(民法七一五条)に基づき、その被った損害の賠償を求め(附帯請求は原告の最後の出捐日からの遅延損害金の請求である。)、かつ、破産宣告を受けたBの破産管財人である被告Y1(以下「被告管財人」という。)に対し、破産債権(原告のBに対する不法行為に基づく損害賠償請求債権等)の確定を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1(一)  被告会社は、内閣総理大臣の登録を受けて証券業を営む株式会社である(争いがない。)。

(二)(1)  Bは、平成元年以前から、被告会社との間で歩合外務員契約を締結し、被告会社北浜支店(現在の大阪支店)の歩合外務員として勤務していた(乙三、証人B)。

(2) 大阪地方裁判所は、平成一〇年四月八日午前一〇時三〇分、Bを破産者とする旨の決定をし(大阪地方裁判所平成一〇年(フ)第三〇六号)、かつ、被告管財人をその破産管財人に選任した(争いがない。)。

(三)  原告(昭和二四年○月○日生)は、いわゆる専業主婦である(甲三、原告本人)。原告の夫とBとは、平成元年以前から友人関係にあった(争いがない。)。

2(一)  原告は、Bから勧誘されて、平成元年二月一七日、被告会社に取引口座を開設し、そのころ、二〇〇万円の中期国債ファンドを購入したが、約半年後にこれを売却した。その後、原告は、被告会社において証券取引をしていなかったが、平成七年二月二七日、被告会社に委託して、五〇〇万円の中期国債ファンドを購入した。

(二)  原告は、平成七年九月ころから、Bに勧誘され、被告会社に委託して、証券取引を行った(この原告の取引を全体として以下「本件取引」という。)。

(三)  原告は、被告会社の原告の取引口座に、平成七年九月一二日に五〇〇万円を、同年一〇月六日に五〇〇万円を入金した。

(四)  右(一)の中期国債ファンドは、同年九月と一〇月に換金され、被告会社の原告の口座に入金された。

(五)  右(三)及び(四)の資金は、本件取引のために使用された。

(六)  原告は、被告会社の原告の取引口座から、平成七年一〇月二〇日に四〇〇万円を、平成八年七月一六日に二五〇万円を引き出した。

(七)  原告は、平成七年一〇月一九日、Bの指示により、損益折半の合意に基づく益金折半分の支払として、Bの預金口座へ二〇〇万円を振り込んだ。

(八)  Bは、原告に対し、平成八年一〇月二八日に一五〇万円を、同年一一月八日に五二万円を送金した。

(九)  原告は、本件取引の結果、現在アスキー株式二〇〇〇株を保有している。口頭弁論終結の日の前日である平成一一年九月二七日現在、アスキー株式の価格は、一株一四五〇円である。したがって、口頭弁論終結時点でのアスキー株式二〇〇〇株の価格は、二九〇万円である。

((三)につき乙二、その余は争いがない。)

3(一)  原告は、平成一〇年七月三一日、大阪地方裁判所に対し、別紙債権目録二記載の債権を破産債権として届け出た。

(二)  被告管財人は、平成一〇年九月四日の債権調査期日において、原告届出の右破産債権に異議を述べた。

(原告と被告管財人との間には争いがない。被告会社との関係で弁論の全趣旨。)

三  争点

1  Bの原告に対する本件取引の勧誘行為等が違法であるといえるか。

(一) 原告の主張

(1) 詐欺

① Bは、平成七年九月ころ、原告に対し、「被告会社には仕手戦をする軍団がある。この軍団は強力なので絶対儲かる。万が一下がったら損の半分は軍団が持つ。ただし利益が出たら軍団へのお礼などで半分こちらにいただきたい。」旨虚偽の事実を告げて、証券取引をすることを勧誘し、その旨原告を誤信させた。原告は、右事実が真実であると信じたため、本件取引を行った。

② 右のとおり、Bの勧誘行為は詐欺行為であって、違法である。

(2) 断定的判断の提供

Bは、右(1)①のとおり、原告に対し、「絶対儲かる」旨の断定的判断を提供したものであり、右勧誘行為は、証券取引法五〇条一項一号(改正前)に違反する。

証券取引法が断定的判断の提供を禁止するのは、投資家の側でも相場取引なので絶対ではないことは十分認識しつつも、担当者がそこまで断定するのだから、よほど確からしいと思って、自ら検討、研究することなく、安易に投資を行ってしまうことを慮ったためであることに鑑みると、損益折半を申し出ていても、断定的判断の提供にあたると解される。

(3) 損失保証の禁止違反

Bは、右(1)①のとおり、損益の半分を負担するとの不当な約束を行って勧誘したものであり、右勧誘行為は、証券取引法五〇条の三第一項一号(改正前)に違反する。

原告は、本件取引当時、損益折半を前提とする株式取引が違法であることを知らず、また、Bからその旨聞いたことはなかった。

(4) 一任勘定取引の禁止違反

原告は、本件取引について、銘柄の選定や金額の決定をBに任せていたものであり、これは証券取引法五〇条一項三号(改正前)に違反する。

(二) 被告らの主張

(1) Bは、平成七年九月当時、仕手筋と言われている投資集団に近い関係にある友人(被告会社以外の証券会社に勤務している。)から、仕手株に関する情報(その情報はかなり確度の高いものであった。)を入手していた。そこで、Bは、原告に対し、右事情を説明し、仕手株と言われる株式は当該発行会社の業績等とは無関係に買い方または売り方の特定の思惑によって激しく上下動する株式であること、損益が生じたときには右投資集団と折半すること、損益折半をする取引は違法であることを伝えて、証券取引を行うことを勧誘した。Bは、原告に対し、右投資集団が被告会社内に存在する旨の説明はしていない。なお、Bは、実際には、右投資集団との間で、損益折半の合意をしておらず、損益が生じたときには、Bの責任において折半するつもりであった。

(2) Bは、本件取引を勧誘するに際し、右(1)のとおり説明したものであって、原告に対し、断定的判断の提供をしていない。損益折半の約束は損害の発生を前提としており、必ず儲かるという断定的判断とは両立しない。

(3) Bは、本件取引を勧誘するに際し、右(1)のとおり説明したものであって、原告に対し、損益折半をする取引は違法であることを伝えている。原告は、仮に法律を知らなかったとしても、証券取引による損益の発生は投資家に当然に帰属するという常識から推察して、他人が取引損失の半分を負担してくれることが極めて不公平かつ違法であることを当然認識できたはずである。

(4) 原告が、本件取引について、銘柄の選定や金額の決定をBに任せていたことはない。原告は、自己の取り引きする銘柄や価格を知っていた。

2  原告の被った損害額はいくらか。

(一) 原告の主張

(1) 前記二2(一)ないし(七)のとおり、原告が本件取引の資金として支出した合計一五〇〇万円から、原告が実質的に受け取った四五〇万円(原告が被告会社の原告の取引口座から受け取った合計六五〇万円からBに支払った二〇〇万円を差し引いた金額)を控除した金額は一〇五〇万円である。

(2) Bは、前記二2(八)のとおり、原告に対し、平成八年一〇月二八日に一五〇万円を、同年一一月八日に五二万円を送金しているが、右送金は、原告のBに対する二五二万円の貸金返還債権の弁済の一部として行われたものである。すなわち、原告は、平成八年七月一六日ころ、Bから、「会社の金を使い込んでしまった。このままではくびになる。自分がくびになったら、仕手筋との関係も途絶えるから情報は入らなくなるし、これまでの約束も実行できない。」旨言われ、三〇〇万円の借金を申し込まれたため、Bが被告会社を解雇されると仕手筋との関係も途絶えると危惧し、同年七月一七日ころ、Bに対し二五二万円を貸し付けた。Bは、右貸付金のうち合計二〇二万円を、前記のとおり原告に送金して弁済し、残金五〇万円については同年一二月中ころに弁済した。

(3)① 破産債権届出の日である平成一〇年七月三〇日当時、アスキー株式の価格は、一株七二六円であった。したがって、破産債権届出時点でのアスキー株式二〇〇〇株の価格は、一四五万二〇〇〇円である。

② 本件口頭弁論終結時におけるアスキー株式二〇〇〇株の価格は、前記二2(九)のとおり、二九〇万円である。

(4) Bの不法行為(違法な勧誘行為)と相当因果関係のある弁護士費用は九〇万円とするのが相当である。

(5) 以上によると、原告の損害額は次のとおりである。

① 破産債権届出時 九九四万八〇〇〇円

② 本訴口頭弁論終結時 八五〇万円

(二) 被告らの主張

(1) 被告Bは、原告から支払を受けた益金折半分としての二〇〇万円の返還として、原告に対し、前記二2(八)のとおり合計二〇二万円を送金した。

(2) 右(一)(3)①の事実は否認する。平成一〇年七月三〇日当時、アスキー株式の価格は、一株七五〇円であった。

(3) 右(一)(4)、(5)の事実は争う。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(甲三、原告本人)に弁論の全趣旨を総合すると、争点1(一)(1)①の事実を認めることができる。

Bは、その証人尋問において、「原告は、平成七年二月二七日、被告会社北浜支店(現在の大阪支店)において五〇〇万円の中期国債ファンドを購入した際、Bに対し、『株式取引を始めたい。資金は一億円用意している。』旨話した。Bは、その当時、大がかりな仕手戦を行っている仕手集団に近い関係にある他の証券会社の歩合外務員から、右仕手集団の取り扱う銘柄に関する情報(かなり確度の高いものであった。)を入手することができた。Bは、同年三月か四月ころ、右仕手集団が住友精密工業株を手がけるとの情報を入手し、原告に対し、『住友精密工業の株価が上がる可能性が高いから、様子を見て上がるようであれば乗ってみて下さい。これはある仕手集団に近い友人からの情報である。その友人の情報は、これまでも一〇〇パーセント的中したから、今度も大丈夫だと思う。』旨説明して勧誘した。Bは、同年九月上旬ころ、住友精密工業の株価が上がってきたため、原告に対し、再度住友精密工業株の取引を勧誘し、損失を被ることを恐れて躊躇している原告に対し、仕手集団との間で損益は折半することになっている旨の虚偽の説明をした。Bは、実際には、自分の責任で損益を折半するつもりであった。Bは、仕手集団が損失の半分を負担してくれる保証はないことを危惧している原告に対し、その場合にはBにおいて負担する旨約束して、住友精密工業株の取引を勧誘した。その際、Bは、原告に対し、損益折半の約束で株式取引を行うことは禁止されている違法行為であり、これが発覚すると被告会社を辞めざるを得なくなる旨話した。原告は、Bの右各説明に納得して、本件取引を行った。」旨の右認定に反する証言をし、その陳述書である乙三号証にも同旨の記載がある。しかしながら、右証言及び記載は、次の各点及び反対趣旨の原告本人尋問の結果及び甲三号証の記載に照らして信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 証拠(甲三、乙二、三、証人B、原告本人)によると、原告は、Bから再三被告会社において証券取引をすることを勧誘されたため、平成七年二月二七日に五〇〇万円の中期国債ファンドを購入したこと、原告は、その後、Bから、何度も株式取引をするように勧誘されたものの、同年九月一二日に住友精密工業株を購入するまでは株式取引をしなかったことを認めることができ、この事実に鑑みると、原告が、中期国債ファンドを購入した際、Bに対し、「株式取引を始めたい。資金は一億円用意している。」旨話したとは考え難い。

(二) 証拠(甲三、乙三、証人B、原告本人)によると、原告は、株式取引によって損失を被ることを恐れて、Bから再三勧誘されても、株式取引を行うことを断っていたことを認めることができ、この事実に鑑みると、原告が、Bが証言するような説明によって株式取引を行ったとは考え難い。むしろ、原告は、その本人尋問における供述のとおり、Bから、争点1(一)(1)①記載の説明を受けたからこそ、株式取引を行う決断をしたと考えるのが自然である。

(三) 「Bは、大がかりな仕手戦を行っている仕手集団に近い関係にある他の証券会社の歩合外務員から、右仕手集団の取り扱う銘柄に関する情報(かなり確度の高いものであった。)を入手することができた。」旨のBの証言を裏付ける客観的な証拠は見当たらない。また、Bが、「住友精密工業の株価が上がる可能性が高いから、様子を見て上がるようであれば乗ってみて下さい。これはある仕手集団に近い友人からの情報である。その友人の情報は、これまでも一〇〇パーセント的中したから、今度も大丈夫だと思う。」旨説明して勧誘してきた原告に対し、仕手集団との間で損益は折半することになっている旨説明したとは考え難い(前者の説明では、仕手集団に近い友人からその仕手集団の情報を入手しているにすぎないとされていたBが、仕手集団との間で損益は折半することになっている旨説明しても、この説明に説得力がないことは明らかである。)。

(四) 前記のとおり、Bから再三勧誘されても、株式取引を行うことを断っていた原告に対し、Bが、わざわざ損益折半の約束で株式取引を行うことが違法行為であることを説明した上(このような説明は、原告に株式取引を行うことを思い止まらせる効果を持つだけである。)、株式取引を勧誘したなどとは到底考えられない。

2  争点1(一)(1)①の事実及び前記第二の二2(一)ないし(五)の事実によると、Bは、原告を欺罔して、原告に本件取引をさせ、本件取引のための資金として合計一五〇〇万円を支出させたといえるので、原告は、不法行為による損害賠償請求権に基づき〔被告会社に対しては使用者責任(民法七一五条)に基づき〕、被告会社及びBに対し、その被った損害の賠償請求をすることができるといえる(Bは破産宣告を受けたので、被告管財人に対して破産債権確定請求をすることができる。)。

二  争点二について

1  Bは、前記第二の二2(八)のとおり、原告に対し、平成八年一〇月二八日に一五〇万円を、同年一一月八日に五二万円を送金しているところ、Bは、その証人尋問において、右送金は原告から支払を受けた益金折半分としての二〇〇万円の返還(二万円は利息分)としてなしたものである旨証言し、その陳述書である乙三号証にも同旨の記載がある。しかしながら、証拠(証人B)によると、Bは、平成八年当時、多額の負債を抱え、その返済に窮し、自転車操業状態にあったことを認めることができるのであって、この事実に鑑みると、Bが、一旦原告から益金折半分として受領した二〇〇万円を返還するなどということはおよそ考えられないことであるから、Bの前記証言及び甲三号証の前記記載は信用できない。かえって、右指摘した点に証拠(甲三、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、争点2(一)(2)の原告主張事実を認めることができる。

2  そうすると、原告は、Bの違法な勧誘行為によって、その支出した合計一五〇〇万円から、原告が実質的に受け取った四五〇万円(原告が被告会社の原告の取引口座から受け取った合計六五〇万円からBに支払った二〇〇万円を差し引いた金額)を控除し、かつ、本件口頭弁論終結時におけるアスキー株式二〇〇〇株の価格二九〇万円を控除した七六〇万円の損害を被ったといえる。また、Bの違法な勧誘行為と相当因果関係にある弁護士費用は、本件訴訟の難易度、認容額等を勘案すると、八〇万円とするのが相当である。

三  結論

以上によると、原告の被告会社に対する請求は、八四〇万円及びこれに対する平成七年一〇月六日(原告が支出した合計一五〇〇万円のうちの最後の五〇〇万円が支出された日。なお、原告は、この日が同月五日である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、被告管財人に対する請求は、別紙債権目録一記載の破産債権を有することを確定することを求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口幸博 裁判官 吉田尚弘 裁判官 光吉恵子)

<以下省略>

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